Top Banner
本章では、クラウドサービスの種類とクラウド ビジネスの特徴について説明する。  第1章 クラウドビジネス とは何か
6

クラウドビジネス とは何か - Nikkan...第1章 クラウドビジネスと は何か 003 うな機能を提供するサービスなのだろうか。図1-2(ASP・SaaSの業務と

Jan 15, 2020

Download

Documents

dariahiddleston
Welcome message from author
This document is posted to help you gain knowledge. Please leave a comment to let me know what you think about it! Share it to your friends and learn new things together.
Transcript
Page 1: クラウドビジネス とは何か - Nikkan...第1章 クラウドビジネスと は何か 003 うな機能を提供するサービスなのだろうか。図1-2(ASP・SaaSの業務と

本章では、クラウドサービスの種類とクラウドビジネスの特徴について説明する。 

第1章

クラウドビジネスとは何か

Page 2: クラウドビジネス とは何か - Nikkan...第1章 クラウドビジネスと は何か 003 うな機能を提供するサービスなのだろうか。図1-2(ASP・SaaSの業務と

■ 002

1 クラウドサービスの種類

クラウドビジネスとは、クラウドコンピューティング技術を活用したサービス(クラウドサービス)を提供対象としたビジネスを意味している。また一般にクラウドコンピューティングとは、「従来は手元のコンピュータで管理・利用していたようなソフトウェア、データ、ハードウェアなどのコンピュータ資源をインターネットなどのネットワークを通じてサービスの形で必要に応じて利用する方式」と捉えられている。一方、この分野では、これまでASP(アプリケーションサービス・プロバイダー)、SaaS(サース)、PaaS(パース)、IaaS(イアース)、DC(データセンター)等の用語も使われている。これらの用語間にはどのような関係があるのだろうか。ASPIC(ASP・SaaS・クラウドコンソーシアム、アスピックと呼称)では、これらの関係を図 1-1(クラウドコンピューティングの体系)のように整理している。以下に、この図を基にこれらの関係を説明する。なおASPICの詳細はサイト(http://www.aspicjapan.org/)を参照して頂きたい(巻末の付属資料でASPICの15年間の活動を紹介している)。図中で、ASP・SaaSのように表現しているのは、ASPとSaaSが現在ほとんど同じ意味で使われていることによる。本図の表現する内容で最も重要なことは、クラウドサービスがASP・SaaS、PaaS、IaaS、DCの4機能に階層化されていることである。従って、ASP・SaaSは、PaaS上にアプリケーションサービス機能を追加(搭載)すれば実現できる。同様に、PaaSは、IaaS上にシステム基盤サービス、ネットワーク基盤サービス、開発・実行基盤サービス等を追加(搭載)すれば実現できる。このような関係があるので、PaaS、IaaS、DCを総称してクラウドプラットフォームと呼ぶことがある。上述のアプリケーションサービスやシステム基盤サービス、ネットワーク基盤サービス、開発・実行基盤サービス、ハード基盤サービスはどのよ

クラウドサービスの種類1

Page 3: クラウドビジネス とは何か - Nikkan...第1章 クラウドビジネスと は何か 003 うな機能を提供するサービスなのだろうか。図1-2(ASP・SaaSの業務と

第1章   クラウドビジネス とは何か

003 ■

うな機能を提供するサービスなのだろうか。図 1-2(ASP・SaaSの業務とサービス体系)にこれを示す。図に示すように、アプリケーションサービスは、社会・業界特化系、基幹業務系、支援業務系の3種のサービスに分類される。社会・業界特化系は「企業活動や社会活動を支える業種・業界及び社会横断的なアプリケーション」であり、基幹業務系は「企業等のコア・バリュー(中核的価値)に直接関わる業務を遂行するアプリケーション」、支援業務系は「企業等のコア・バリュー創出を円滑化するためのアプリケーション」である。

クラウドコンピューティングの体系

出典:ASPIC 資料を一部変更

図 1-1

〈クラウドコンピューティングのサービス体系〉 〈用語の定義と意味〉

ASP・SaaSの定義

PaaSの定義

IaaSの定義

アプリケーションサービス

システム基盤サービス

ネットワーク基盤サービス

開発・実行基盤サービス

ハード基盤サービス

建物(電力、ラックなどを含む)

通信ネットワーク機器

DC

IaaS

PaaSクラウドプラットフォーム

ASP・SaaS

特定および不特定ユーザーが必要とするシステム機能を、ネットワークを通じて提供するサービス、あるいは、そうしたサービスを提供するビジネスモデル

システム基盤機能、ネットワーク基盤機能、開発・実行基盤機能、ハード基盤機能とDCの複合機能をネット経由で提供するサービス

ハード基盤機能とDCの複合機能をネット経由で提供するサービス

クラウドプラットフォームの定義

PaaS、IaaS、DCの総称。これらによって提供されるサービスを基盤(プラットフォーム)サービスと呼ぶ

Page 4: クラウドビジネス とは何か - Nikkan...第1章 クラウドビジネスと は何か 003 うな機能を提供するサービスなのだろうか。図1-2(ASP・SaaSの業務と

■ 004

また、PaaSはIaaS上にシステム基盤サービス、ネットワーク基盤サービス、開発・実行基盤サービスを搭載することにより実現される。システム基盤サービスは「アプリケーションのASP・SaaS化に必要な課金・認証等の付加機能を提供するサービス」、ネットワーク基盤サービスは「ネットワークの状態を監視・最適化し、安全な利用を実現可能にするサービス」、開発・実行基盤サービスは「アプリケーション、システム等の開発・実行環境を提供するサービス」である。IaaSはDC上にハード基盤サービスを搭載することにより実現される。

ASP・SaaSの業務とサービス体系

出典:ASPIC 資料

図 1-2

ASP・SaaS

PaaS

IaaS

アプリケーションのASP・SaaS化に必要な課金・認証等の付加機能を提供するサービス検索、認証、決済・課金、セキュリティ、位置情報、タイムスタンプ、メディア、言語変換、統合連携、その他

システム基盤サービス

ネットワークの状態を監視・最適化し、安全な利用を実現可能にするサービスネットワーク監視・侵入検知、ネットワーク制御、配信管理、暗号化、その他

ネットワーク基盤サービス

アプリケーション、システム等の開発・実行環境を提供するサービスOS、ミドルウェア、開発キット、その他

開発・実行基盤サービス

ASP・SaaSの提供に必要なハードウェア資源をネットワーク経由で提供するサービスCPU、メモリ、仮想化サーバー、ストレージ、ハードディスク、その他

ハード基盤サービス

企業活動や社会活動を支える業種・業界及び社会横断的なアプリケーション農林・水産・鉱業、建設、製造(注)、ライフライン、交通・物流、卸・小売・飲食店、金融・保険・リース、不動産、情報通信・メディア、教育・学習、観光・娯楽・宿泊、医療・福祉・保健、環境、防災・治安、行政・公務等の分野(注)食料品、衣服・繊維、化学、鉄鋼・非鉄金属、一般・電気・精密機器、情報通信機器、輸送用機器、その他

社会・業界特化系

企業等のコア・バリュー(中核的価値)に直接関わる業務を遂行するアプリケーションR&D、調達、製造、営業、マーケティング、販売・流通、在庫、アフターサービス、財務、会計、人事・研修、資産管理、その他

基幹業務系

企業等のコア・バリュー創出を円滑化するためのアプリケーション文書管理、ワークフロー管理、メール配信やアドレス帳管理、ファイル転送、電話会議・TV会議・Web会議、ブログ・SNS、情報共有支援(ナレッジマネジメント等を含む)、アフィリエイトプログラム、その他

支援業務系

アプリケーションサービス

建物 (電力、ラックを含む)

通信ネットワーク機器データセンター

Page 5: クラウドビジネス とは何か - Nikkan...第1章 クラウドビジネスと は何か 003 うな機能を提供するサービスなのだろうか。図1-2(ASP・SaaSの業務と

第1章   クラウドビジネス とは何か

005 ■

ハード基盤サービスは「ASP・SaaSの提供に必要なハードウェア資源をネットワーク経由で提供するサービス」である。これにより、クラウド分野で使われているクラウドサービス、ASP、SaaS、PaaS、IaaS、DCという用語の相互関係が理解できる。

ここまでは、クラウドサービスを機能階層の視点から分類して説明したが、サービスの利用形態(クラウド事業者からみれば提供形態)の視点からも分類することができる。それがパブリックサービスとプライベートサービスである。パブリックサービスとは、「不特定多数のクラウド利用者によって共用されるサービス」である。一方プライベートサービスは、「特定のクラウド利用者(複数も可)によって専有されるサービス」を意味する。後者は何らかの理由(例:機能、性能、セキュリティ)によって、利用者がパブリックサービスでは自らの利用要件が満たされないときに活用される。機能階層の視点と利用形態の視点は基本的には独立であり、両者の組み合わせによってクラウドサービスの形態が決まることになる。例えば、パブリッククラウド、プライベートクラウド等である。クラウドサービス情報開示の認定機関であるマルチメディア振興センターのサイト(http://www.fmmc.or.jp/cloud-nintei/)を参照すると、ASP・SaaS、IaaS・PaaS、データセンターで情報開示を行っているサービスを知ることができる。なお、ASPICでは情報開示認定の推進業務を実施している。以降の章ではクラウドサービスの最上位サービスであるASP・SaaSを主対象にして説明を進める。

Page 6: クラウドビジネス とは何か - Nikkan...第1章 クラウドビジネスと は何か 003 うな機能を提供するサービスなのだろうか。図1-2(ASP・SaaSの業務と

■ 006

2 クラウドビジネスの特徴

クラウドビジネスを成功させるためには、クラウドビジネスの特徴を理解しておく必要がある。クラウドビジネスはソフトウェア販売や個別企業対応のシステムインテグレーション(システム構築)等のビジネスと比較して、どんな特徴があるのだろうか。本節ではこれをクラウド事業者の視点から考えてみよう。以下に考えられる特徴を列挙する。

1. クラウドビジネスはサービス提供のストックビジネスクラウドビジネスはサービス利用料を基軸とするストックビジネスであり、製品販売を中心とするフロービジネスとは、その特性が異なることを理解する必要がある。クラウドビジネスは典型的な座布団モデルと言われる。座布団モデルとは、座布団を積み上げるように、利用者数が増えていくと売上高も増えていくというビジネスモデルである。このモデルのメリットは、いったん利用企業の数を積み上げれば売上高が落ちにくいことである。従って、長期的な時間軸をにらんだビジネスとなり、コツコツと何年もかけて利用者を積み上げる必要がある。このため、一企業内でストックビジネスとフロービジネスを両立させようとすると両者を分離するための工夫が必要となる。クラウドビジネスはサービス利用料に立脚しているため、根気強く損益分岐点を超えるまで頑張らなければならないが、損益分岐点を超えた後は経営効率も飛躍的に高まる。この結果連続的な先進ソフトへの更新、機能の充実、料金への還元などが可能となる。クラウドビジネスは新しいビジネスだから、新しい使われ方、新しい課金モデル(例:従量制/定額制)、レベニューシェアモデル(安価でサービスを提供する代わりに、顧客がそのサービスで得た利益から一定の割合の金額を都度事業者側に支払う仕組み)等があるが、これらに対し、既存の制度・ルールにこだわらず、柔軟に対応することが大切である。クラウドビジネス成功の第一歩は既存ビジネスの柵(しがらみ)を打破する環境

クラウドビジネスの特徴2