Top Banner
45 アメリカ合衆国憲法修正第 1 条とアメリカ・インディアンの聖地保護 アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの聖地保護 藤田 尚則 (創価大学) はじめに アメリカ合衆国の連邦裁判所は、アメリカ・インディアンAmerican Indian)(以下、インディアンという。)が連邦政府所有の又はその管理下にあ る土地乃至地域は彼又は彼女にとって聖地sacred sites, shrineであるとし て、当該土地乃至同地域の開発等は合衆国憲法修正第1条(以下、修正第1条と いう。)にいう宗教の自由な活動条項Free Exercise Clauseを侵害するとし て争った諸事件で、終局的には開発によってもたらされる政府利益が宗教上の 聖地としての重要性をもつ土地の保護に対してインディアンが有する利益に優 越するとする判決を下してきた 1) 。ユタ州南部に位置する国立公園局管理のレ インボーブリッジ国定史蹟名勝記念物に隣接するコロラド川流域のグレンキャ ニオンダム(通称、パウエル湖)の建設に伴う当該記念物の浸水は、記念物の ある地域に居住するナヴァホ族の神々及びその附近の神聖なる地域の破壊と冒 を結果として生ぜしめ、修正第1条で保障された宗教的信念と宗教の自由 な活動を侵害するとして争われた Badoni v. Higginson (以下、Badoni 事件判 決という。) 2) で、合衆国第十巡回区控訴裁判所は、パウエル湖の減水はコロラ ド州、ニューメキシコ州、ユタ州及びワイオミング州の高地地方流域に有益な 水量をコロラド川から著しく減水する結果となるとして、パウエル湖の水量を 維持することによってもたらされる政府利益は、ナヴァホ族の宗教的利益より 重要であると判示した。また、カルフォルニア州シックスリバーズ国有林内の
38

アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの...

Jan 03, 2021

Download

Documents

dariahiddleston
Welcome message from author
This document is posted to help you gain knowledge. Please leave a comment to let me know what you think about it! Share it to your friends and learn new things together.
Transcript
Page 1: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

45アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

アメリカ合衆国憲法修正第1条と

アメリカ・インディアンの聖地保護

藤田 尚則(創価大学)

はじめに

 アメリカ合衆国の連邦裁判所は、アメリカ・インディアン(American

Indian)(以下、インディアンという。)が連邦政府所有の又はその管理下にあ

る土地乃至地域は彼又は彼女にとって聖地(sacred sites, shrine)であるとし

て、当該土地乃至同地域の開発等は合衆国憲法修正第1条(以下、修正第1条と

いう。)にいう宗教の自由な活動条項(Free Exercise Clause)を侵害するとし

て争った諸事件で、終局的には開発によってもたらされる政府利益が宗教上の

聖地としての重要性をもつ土地の保護に対してインディアンが有する利益に優

越するとする判決を下してきた1)。ユタ州南部に位置する国立公園局管理のレ

インボーブリッジ国定史蹟名勝記念物に隣接するコロラド川流域のグレンキャ

ニオンダム(通称、パウエル湖)の建設に伴う当該記念物の浸水は、記念物の

ある地域に居住するナヴァホ族の神々及びその附近の神聖なる地域の破壊と冒

瀆を結果として生ぜしめ、修正第1条で保障された宗教的信念と宗教の自由

な活動を侵害するとして争われた Badoni v. Higginson (以下、Badoni 事件判

決という。)2)で、合衆国第十巡回区控訴裁判所は、パウエル湖の減水はコロラ

ド州、ニューメキシコ州、ユタ州及びワイオミング州の高地地方流域に有益な

水量をコロラド川から著しく減水する結果となるとして、パウエル湖の水量を

維持することによってもたらされる政府利益は、ナヴァホ族の宗教的利益より

重要であると判示した。また、カルフォルニア州シックスリバーズ国有林内の

Page 2: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

46

チムニロック地区内を通過する舗装道路の建設とその管理計画は、北西部カル

フォルニア・インディアンの人びとの信仰体系及び生活様式にとって必要であ

る神聖な場所に著しく、且つ回復不可能な損害を与えるものであるとして争わ

れた Lyng v. Northwest Indian Cemetery Protective Ass’n.(以下、Lyng

事件判決という。)3)で、合衆国最高裁判所は、政府行為は影響を受ける個人を

強制してその宗教的信念を侵させてはいない。また、他の国民が享有する権

利、利益及び特権の平等の分配を否定することによって宗教的活動に不利益を

与えるのでもないと判示し、インディアン協会、自然保護団体等の主張を退け

ている。

 他方、連邦裁判所は、インディアンが歴史的、文化的又は宗教的に重要視し

てきた土地乃至地域に対する合衆国の保護政策や保護計画が、修正第1条にい

う国教樹立禁止条項(Establishment Clause)を侵害するとして争われた事件

においては、反対に、当該計画乃至政策は、土地又は地域の価値を保護すると

いう世俗的目的をもち、インディアンの宗教的信念を助長するものではないと

して、又は宗教を是認するという目的をもつものではないとして合憲判決を下

してきている4)。また、国立公園局が、1993年6月、ナヴァホ族、ホピ族、サ

ンファンパイユート族等が彼らの信仰及び部族としてのアイデンティティーに

とって重要だと見做してきたユタ州南部に位置するレインボーブリッジの「総

合管理計画」を発表したところ、当該計画は国教禁止条項に違反するとして

争われた Natural Arch & Bridge Society v. Alston(以下、Alston 事件判決

という。)5)で合衆国ユタ州地区地方裁判所は、第一に管理計画の目的は宗教を

樹立し、促進し、又は助長するものではなく、第二に管理計画は宗教を是認

し、又は否認する効果をもつものではなく、第三に政府との過度のかかわり合

いも見出されないとして国教樹立禁止条項に抵触するものではないとする合憲

判決を下した。更に1999年、ホピ族、ズーニ-族、ナヴァホ族が宗教的、文化

的及び歴史的に重要であるとしてきたアリゾナ州中東部に位置するウードラフ

ビュートから採掘される鉱石を同州の高速道路建設に使用することを制限し

た州運輸局の政策が、国教禁止条項に違反するとして争われた Cholla Ready

Mix, Inc. v. Civish(以下、Civish 事件判決という。)6)で、合衆国第九巡回区控

Page 3: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

47アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

訴裁判所は、レモン・テスト(Lemon test)及びエンドースメント・テスト

(Endorsement test)を用い、国教禁止条項違反に抵触しないとする判決を下

した。

 このように、歴史的、文化的又は宗教的に重要な意味をもつ土地乃至地域を

めぐる訴訟で、国教禁止条項又は宗教の自由な活動条項のいずれか一方に依拠

して訴訟を提起する原告にとって、勝訴の見込みは遮断される結果に終わって

いる。

 本稿は、第一に歴史的、文化的又は宗教的に有意味な聖地(公有地)保護と

国教禁止条項の軋轢、第二に公有地(聖地)開発と宗教の自由な活動条項の相

克について論ずる。そして第三に「1978年アメリカ・インディアン信教自由

法」(the American Indian Religious Freedom Act of 1978)(以下、AIRFA と

いう。)7)制定後の連邦政府の手による聖地保護計画について考察し、第四に政

府が新たに採用した聖地保護政策と宗教の自由な活動条項をめぐる訴訟ついて

論述することを目的とする。

Ⅰ.聖地保護と国教禁止条項

1.国教禁止条項に関する合憲性審査基準

 合衆国最高裁判所の各裁判官は、国教禁止条項が何を意味し 、 又は意味すべ

きかについてそれぞれ独自の意味内実を当該条項に充填させていると考えられ

る。このことが、当該条項のさまざまな合憲性審査基準を展開させ、最高裁判

所の各裁判官の間で解釈の対立を招き、その結果として研究者、法律家及び下

級裁判所にとっての大きな課題となってきているのである8)。以下、文化的、

歴史的及び宗教的重要性を有するインディアンの聖地をめぐる国教禁止条項訴

訟において、下級裁判所が適用してきた合憲性審査基準について本稿との関係

で必要な範囲内で概観する9)。

(1)レモン・テスト

 数々の国教禁止条項訴訟を審理してきた合衆国最高裁判所は、1971年、

Lemon v. Kurtzman(以下、Lemon 事件判決という。)10)でレモン・テストを採

用した。当該テストは、三分肢からなり、「第一に法律は、世俗的立法目的を

Page 4: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

48

もたなければならず 、 第二にその主要な又は本来の効果は、宗教を促進し、又

は禁止するそれであってはならない。そして 、 第三に法律は、政府と宗教との

過度のかかわり合い(entanglement)を推し進めるものであってはならない」

とするテストであり、法律又は政府行為がこれら三分肢のいずれか1 つでも充

足しない場合、国教禁止条項を侵害するとするテストである11)。レモン・テ

ストの適用は、論理的には分離主義(separationism)のイデオロギーのアプ

ローチを強調していると言えるが12)、その後の20年間に提訴されたほとんどの

事件に適用され、今だ覆されてはおらず、また、多数意見の中で好意的に言及

されているが13)、激しい集中砲撃を受けてきたのも事実である14)。

(2)エンドースメント・テスト

 レモン・テストに取って替わる1つの重要な新たなテストが、オコナ裁

判官が1984年の Lynch v. Donnelly(以下、Lynch 事件判決という。)15)の同

意意見の中でレモン・テストを再定式化するものとして提唱し、County of

Allegheny v. ACLU(以下、Allegheny 事件判決という。)16)の法廷意見の中で採

用されたエンドースメント・テストである。オコナ裁判官は、「国教禁止条項

は、政府が政治的共同体内の個人の立場に何等かの方法で密接に関連する一宗

教を支持することを禁止している。」とし、次のように述べている。政府は、

国教禁止条項に2つの主要な点で抵触する。第一に宗教団体との過度のかかわ

り合いであり、第二にそしてより直接的な侵害となるのは、政府による宗教の

是認又は否認(disapproval)である。是認は、非信奉者に彼らは部外者であ

り、政治的共同体内の完全な構成員ではないというメッセージを伝達し、そし

て信奉者に彼らは部内者であり政治的共同体の好意を持たれている構成員であ

るという付随的メッセージ伝達するのである。否認は、それとは反対のメッ

セージを伝達する。最高裁判所は、上記の2つの憲法に抵触する政府行為を審

査する基準としてレモン・テストを採用してきたのであるが、当該テストの三

部分テストがどのように国教禁止条項に規定されている諸原理に関係するかに

ついて完全に明確であるとは言い得ないのである。宗教への制度的かかわり合

い(institutional entanglement)及び宗教への是認又は否認に焦点を当てるこ

とが、レモン・テストを分析用具として有用なものにするのである17)。

Page 5: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

49アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

 オコナ裁判官に従えば、政府行為が宗教又は特定の宗教的信念を優先的に

扱っているとういメッセージを伝達する目的又は効果を有しているならば、政

府は宗教を是認することになるのであって、認められないことになる18)。そし

て、政府活動が宗教への是認のメッセージを伝達するか否かは、法律の条文、

立法史及びその施行に精通している客観的観察者(objective observer)の判

断に依拠しなければならない19)。

(3)強制テスト(Coercion test)

 Allegheny 事件判決でエンドースメント・テストを完全に拒否し、Lee v.

Weisman(以下、Weisman 事件判決という。)20)で法廷意見を書いたケネディ裁

判官は、政府行為が国教禁止条項に抵触すると判断するには何らかの強制の立

証が必要であると主張する。強制テストは、政府は「何人かをして宗教又はそ

の実践を支持させ 、 又は参加させること」を強制し得ないとする(物理的強制)

ものであって、最小限度の禁止を設定する。当該審査基準は、個人が容易に実

践を拒否し得ない状況下に置かれるといった微妙な心理的圧迫(例えば、生徒

仲間による心理的圧迫)を生起する政府活動をも無効とするものであり21)、同様

に、営造物の屋上にラテン十字を永続的に架設するといった宗教的信念への象

徴的承認又は便宜供与を含む間接的強制で足りるとする22)。

 マッコーネル(Michael W. McConnell)教授は、強制テストが適切に適用

された場合、信教の自由を促進し、政府権限にチェックを入れ、多くの価値あ

る社会計画を推し進めることが可能になると主張する23)。しかし、第一に合衆

国最高裁判所は、長い間にわたって強制の立証は国教禁止条項の下でいかなる

主張にとっても必要な要件ではないと判示してきている24)。第二に合衆国最高

裁判所における宗教の自由な活動条項の解釈が、既に強制原理に依拠してきて

おり、国教禁止条項の法理を強制テストに基づかせることは、両条項を重複さ

せることになる。伝統的な強制テストを採用した場合、国教禁止条項に抵触す

る政府活動は、自ら信奉しない宗教的信念を支持するよう強制し、又は自らの

宗教の命令又は活動に従うことを禁止することによって自由な活動条項をも侵

害することになる25)。第三にケネディ裁判官のいう間接的強制の立証を要求す

ることは、オコナ裁判官が反論するように 宗教の自由な活動条項を余分なも

Page 6: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

50

のにしてしまう26)。蓋し、国教禁止条項の広義の強制テストは、宗教の自由な

活動条項が禁止するより限られた宗教的強制をもカバーするからである。

(4)便宜供与(Accommodation)

 レンクィスト主席裁判官は、Wallace v. Jaffree(以下 Wallace 事件判決とい

う。)27)の反対意見の中で、Lemon 事件判決で展開された法理に取って代わるそ

れとして便宜供与主義 (accommodationism) を提唱しているが、便宜供与そ

れ自体は、「個人宗教又は団体宗教への負担を免除し、又はそれら宗教の活動

を助長する効果と目的をもつ政府の法律又は諸政策」を認めようとするもので

ある28)。レンクィスト裁判官は、国教禁止条項の歩んできた歴史的過程を詳ら

かに論じた後29)、当該条項は宗教への非差別的援助を禁止するものではなく、

政府が「国家」教会を指定し、一宗派を他宗派より優先することを禁止するの

みであると結論づけている。従って、便宜供与テストの下では、非差別的な宗

派的手段を通して世俗的目的を追求することによって政府は宗教と非宗教間の

中立性(neutrality)を回避し得るのである30)。 

(5)小括

 国教禁止条項に関する支配的法理は、レモン・テストとエンドースメント・

テストである。2つの審査基準は同一のものではないが、相互に本質的に重な

り合った要素を含み、それどころか一体的な審査基準として結合し得るもので

ある。かかる審査基準に従えば、政府行為は以下の3つの禁止のいずれかに抵

触すれば、国教禁止条項違反となるであろう。すなわち、①政府は、特定の宗

教であれ宗教一般であれ、宗教を促進乃至是認する目的をもって行動してはな

らない。②当該政府行為は、①にいう効果を有するものであってはならないの

であって、ここに言う禁止は、促進ではなく是認という文言で表現される場

合、質的・象徴的意味合いを帯びる。③当該政府行為は、政府と宗教との過度

のかかわり合いを構成するものであってはならず、ここに言う禁止は、②に言

う禁止の一部と見做されている。そして、強制テストは、補助的に機能してい

るに過ぎない31)。

Page 7: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

51アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

2.国教禁止条項法理のインディアン訴訟への適用の特殊要因

 下級裁判所は、論理的には他の国教禁止条項訴訟に適用すると同一の国教

禁止条項の法理をインディアンの聖地をめぐる訴訟に適用しているが(後述)、

いくつかの理由によって当該法理のインディアンの聖地保護問題への適用に関

し、他の事案と若干の相違点があると考えられる。

(1)部族宗教の宗教的統一体性

 インディアン部族は、純粋に宗教的統一体(religious entity)ではない。そ

してそれ故に、政府行為が部族宗教を「樹立する」(establish)可能性は少

ないと言える。そこで、例えば、合衆国ワイオミング州地区地方裁判所は、

Bear Lodge Multiple Use Ass’n. v. Babbitt(以下、Babbitt 事件判決とい

う。)32)で所与の政府行為がレモン・テストにいう過度のかかわり合いを構成

するか否かを決定する場合、合衆国最高裁判所は、「利益を受ける団体の特質

と目的、州が提供する援助の性格そしてその結果生ずる政府と宗教団体との

間に生ずる関係」を精査しなければならないとしている(Lemon 事件判決(403

U.S. at 615))。かかる分析を行う場合、合衆国最高裁判所は、レモン・テスト

にいう「かかわり合いは、質と程度の問題である(Lynch 事件判決(465 U.S. at

668))。」としている点に留意する必要がある。インディアン部族は、単に宗教

的組織であるのみならず、共通の伝統と文化を象徴している。その結果、政府

行為が過度に宗教活動を促進する危険性は少ないのであると判示している33)。

 従って、聖地に関連する宗教的活動と文化的又は歴史的意味をもつ活動の両

者の間に明確な線引きをすることは、事実上不可能であって、少なくともレモ

ン・テストを具体的事例に適用した場合、インディアンの宗教にとって有利な

政府行為が国教禁止条項に抵触する可能性は減少するであろう。

(2)聖地の歴史的・文化的重要性

 インディアンの聖地の重要性は、宗教上の理由に限定されないということで

ある。つまり、インディアン社会がアメリカ史の中で果たしてきた独特の役割

とそれらの社会で宗教が果たした中心的役割の故に、ほとんどすべてのイン

ディアンの宗教的場所乃至地域が、文化的並びに歴史的重要性をも有している

のである。

Page 8: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

52

 合衆国第九巡回区控訴裁判所は、Civish 事件判決34)で、北アメリカの歴史に

おけるインディアン社会の特殊な地位の故に、インディアンの聖地及びその他

の文化的に価値ある場所を保護することは、ギリシャのパルテノン神殿や古代

ギリシャの礼拝寺院の保護と同様に、国家全体にとって歴史的に価値あること

である。国教禁止条項は、政府に宗教的場所の歴史的価値を無視することまで

をも要求するものではない。歴史的価値を有するインディアンの聖地は、ワシ

ントン D.C. にある国立大聖堂、1763年に除幕式が挙行されたアメリカ国内の

最古のユダヤ教会堂であるツーロシナゴーグ並びにバーミンガムの第17番街バ

プティスト教会を含む公民権運動の中枢の役割を演じた数々の教会を含めて、

史蹟国家登録表によって保護される数多くのユダヤ教とキリスト教の宗教的場

所と同様な保護を与えられると判示している35)。

 従って、政府当局が国教禁止条項に抵触することなくインディアンの聖地を

保護しようとする場合、当局が文化的又は歴史的理由に基づいて遺跡が保護に

値すると思料するとして当該遺跡の保護を宣言することで足ることになり得る

と考えられ得る。

(3)信託責任

 合衆国議会並びに州議会は、インディアン及び彼らの宗教的場所を保護しよ

うと試み、積極的に立法を行ってきたが(後述)、インディアン対する信託責

任 (trust responsibility)を履行することは、政府に義務として負わされてい

る。信任義務は、インディアンの宗教を樹立するものであると主張される政府

行為の合憲性を審査・決定する場合に1つの要因として働く。前記 Alston 事

件判決の中で過度のかかわり合い分肢を審理した合衆国ユタ州地区地方裁判所

は、「国立公園局は、レインボーブリッジの社会的、文化的並びに宗教的重要

性に関しインディアン部族と協議を行ったが、インディアンに対する信任義務

を履行するために協議を行うことは公園局の義務として負わされている。例え

ば、1978年、合衆国議会は、『個々のアメリカ・インディアンのために、アメ

リカ・インディアン、エスキモー、アレウト族、ハワイ原住民の伝統的宗教を

自由に信仰し、表現し、且つ実践する固有の権利を保護し、存続させることは

合衆国の政策(policy)である。但し、遺跡を利用する権利、神聖なる物の使

Page 9: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

53アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

用及び所有並びに儀式的、伝統的慣習に基づく礼拝を含むものとし、またこれ

に制限されるものではない』と規定する AIRFA を制定した。……公園局とイ

ンディアン部族との間に結果として生じた相互関係は、レモン・テストのいう

過度のかかわり合い分肢を侵害する型のそれではない(See Widmar v. Vincent

(454 U.S. 263, 272(1981)(かかわり合い分肢の問題は、政府が自ら宗教への出過

ぎた監督を行った場合に生ずる。). See also Board of Educ. of the Westside

Community Sch. v. Mergens, 496 U.S. 226, 253 (1990) (平等利用法は、教会

と国家の過度のかかわり合いの問題は生じない。蓋し、秩序と善良な態度を確保する

だけの目的で生徒主導の宗教グループを保護的に監督する行為は、政府をして毎日の

宗教活動の監視又は管理にかかわらしめるものではない。).)と判示している36)。

3.インディアンの聖地保護と国教禁止条項違反訴訟

(1) Babbitt 事件判決37)

 〈事実の概要〉デヴィルタワー国定記念物は、ワイオミング州北東部に位置

し、塔は伝統的な文化的活動を行うために訪れる北部平原に居住するインディ

アンの聖地であり、伝統的文化財として歴史的場所に登録される要件を満たし

ていた。1995年2月、合衆国内務省国立公園局(以下、NPSという。)は、デヴィ

ルタワーの自然資源と文化的資源を保護し、この独特な地勢の享有と鑑賞を訪

問者に提供するために最終登山管理計画(以下、FCMP という。)を発出した。

FCMP は、デヴィルタワーを聖地と見做している多くのインディアンに敬意

を表して、ロッククライマーに文化的に重要な季節にあたる6月の月間中、デ

ヴィルタワーに登攀することを自発的に自制するよう質問されるとし、自発的

自制が不成功に終わる場合、あくまで自発的規制が実行される範囲内でさまざ

まな対抗手段が採られる旨規定していた。また、同計画には、NPS は6月の

登山ガイド活動のために商業用目的の使用許可を発行しない旨が定められてい

た。また、自発的禁止で目的が達成できない場合、NPS は、登山を命令的に

禁止し得ることができる選択肢を含む8つの選択肢の中から代替策をとること

ができるとしていた。

 原告であるワイオミング州フレットに本拠を置く地域の自然資源の管理を

Page 10: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

54

目的とする非営利法人・ベア・ロッジ・マルティプル・ユーズ会社(BLMUA)

は、6月の期間を通じての商業目的の登山禁止の解除を求める暫定的差止命令

(preliminary injunction)申立てを提起した。同社の社員である原告の一人、

A.・ぺテフィッシュは、ワイオミング州の住民であり、デヴィルタワーの登

山家を専門的に指導するサービス業に従事している。同社の社員である原告の

一人、G・ブルムーアは、同州の市民であり、6月の月間も含めて12年間、塔

に登山してきた(その他の原告、略)。本件において原告は、NPS の計画は、修

正第1条にいう国教禁止条項に違反して不法に宗教を助長するものであると主

張した38)。合衆国ワイオミング州地区地方裁判所は以下のように判示し、原告

の主張を棄却している。

 〈判旨〉国教禁止条項分析をめぐる現在の混乱に注目して、合衆国第十巡

回区控訴裁判所は、適切に同条項を分析するにあたっては、オコナ裁判官が

提唱するエンドースメント・テストと Lemon 事件判決で展開された過度のか

かわり合い分肢の両者を満たさなければならないとする分析方法を採用した

(Bauchman 事件判決(132 F.3d 542, 552 (10th Cir. 1997).))。

 合衆国最高裁判所は、長い間にわたって政府は国教禁止条項に抵触すること

なく宗教的活動に便宜供与し得る(時によっては便宜供与をしなければならない)

と判示してきた(Lynch 事件判決(465 U.S. 668, 673 (1984).))。本件被告は、自

発的な登山の禁止はインディアンの礼拝に利益を付与するために企図されたも

のであることは認めているが、国教禁止条項の制限内にとどまる適切な便宜供

与であると主張する。

 宗教的活動に便宜供与し得る権限が、レモン・テストとエンドースメント・

テストの下で何が適切な目的を構成するのかを決定するに際して重要な考慮す

べき要件となる。登山禁止の基礎にある目的は、事実上、塔の公有によって引

き起こされる宗教礼拝に対する障壁を除去することにあり、これは便宜供与の

性格をもち、宗教の助長ではなく、従って正当な世俗的目的であると判断され

る。便宜供与は、また政策の主要な効果が宗教を助長するものか否かを決定す

る際に役割を演ずる。適切な便宜供与は、宗教を助長するという主要な効果

をもたず、それは程度の問題である(Corporation of the Presiding Bishop of

Page 11: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

55アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

the Church of Jesus Christ of Latter Day Saints v. Amos, 483 U.S. 327, 334-35

(1987).)(以下、Amos 事件判決という。)。政府行為は、人びとをして所与の宗

教を支持するよう強制したならば、便宜供与の限度を越える。政府は、宗教

の自由な活動に便宜を与え得るという原理は、国教禁止条項によって課され

る基本的限界に取って替るものではない(Weisman 事件判決(505 U.S. 577, 587

(1992).))。自由な活動条項に関連して、合衆国第十巡回区控訴裁判所は、修正

第1条で保障される自由の行使は、国民から公有地の地域の通常の使用を奪う

ために主張され得ないと判決し、公有地の地域での認められない便宜供与に境

界線を画した(Badoni 事件判決(638 F.2d 172, 179 (1980).))。訴訟記録は、明確

にデヴィルタワー国定記念物への登山は公園局所有地の「正当なリクリエー

ション上の及び歴史的な」使用であることを示している。公園局が、実質的に

部族の礼拝の権利を強制する目的で個人から記念物の正当な使用を奪ったなら

ば、公園局は便宜供与の範囲を越え、宗教を促進する領域に入っていく。訴訟

の最重要点は、登山者が記念物の有意味な利用を許されるか否かに係る。

 原告は、「自発的」禁止は、言葉の意味通り「自発的」であって、NPS は

全登山者が自発的に6月の月間中塔に登山しないと個人的に選択する目標を

定めたものであり、さらには NPS が自発的禁止が不成功だと思料した場合、

FCMP に変更修正があることを主張している。特に、原告は、裁判所の注目

を計画が毎6月のデヴィルタワーへの登山者の著しい減少に至らない場合、

NPS は閉鎖を命令的閉鎖に変え得るという事実に引き入れる。これら要因は、

いずれも自発的禁止を強制的禁止に転換するのに充分とは言えない。NPS は、

自発的禁止が不成功に終わった場合、命令的禁止になると述べるが、それは少

しも不可避の結果ではなくして、反対に NPS は自発的禁止が不成功に終わっ

た場合に考慮し得る8つの選択肢の1つに過ぎない。政府は、インディアンが

より平穏な環境の下で礼拝が可能であるように試みているに過ぎない。公園局

は、執り行われる礼拝の方法にかかわり合いをもつものではなく、単に礼拝が

行い易い環境を提供しているに過ぎない。かかるかたちの公園局の管理機能

は、レモン・テストの過度のかかわり合い分肢に抵触する国家と宗教の密接な

関係を意味するものではない(Westside Community Bd. of Educ. v. Mergens,

Page 12: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

56

496 U.S. 226, 253)39)。

(2) Alston 事件判決40)

 〈事実の概要〉国定記念物であるレインボーブリッジは、ユタ州南部の起伏

の多い大峡谷地域に位置する世界第一位の全長272フィートの自然の石橋であ

り、ナブァホ族、ホピ族、サンファンパイユート族その他のインディアンに

とっての聖なる場所である。1980年代後半からの訪問者の急増は、汚物の腐食、

植物の踏み躙り、多数の足跡、岩の落書き、ごみ捨てといった事態、群衆と騒

音による記念物の静穏な環境破壊、接触、登攀、価値を損なう落書きによる岩

面陰刻、考古学的場所といった文化的に有価値な場所の破壊をもたらし、周辺

インディアンにとっての橋の神聖を汚し、その全体にわたる文化的重要性を減

少せしめた。地方国立公園局は、1993年6月、多様な公的予測、訪問者の体験、

天然資源と文化資源の保護、利用、通訳業務及び施設に関する問題点に取り組

んだ1993年最終総合管理計画(以下、GMP1993という。)を発行した。同計画は、

訪問者によるレインボーブリッジへの損傷を減ずるための行楽の最盛期と閑散

期の収容力を企画し、自生種の回復、再緑化を企図することを内容とし、ま

た、当該記念物の文化的資源としての重要性を認め、レインボーブリッジが隣

接地に居住するインディアンにとって聖地であることを国民に周知すること等

を企図していた。2000年3月3日、コロラド州の非営利法人ナチュラル・アン

ド・ブッリッジ協会(NABS)は、GMP1993 は自由意思でのレインボーブリッ

ジの下の歩行を禁止することによって文化的相違を重んずるよう国民に要求

する国立公園局の政策に関連するものであるとして訴訟を提起した。原告は、

GMP1993 は修正第1条にいう国教禁止条項並びに修正第5条にいう平等保護

条項に違反すると主張し、宣言的救済(declaratory relief)及び差止命令によ

る救済(injunctive relief)を求めて訴訟を提起した41)。

 合衆国ユタ州地区地方裁判所は、オコナ裁判官の提唱するエンドースメンが

国教禁止条項を綿密に検討するに際して優越的なテストであると考えられると

するが、合衆国第十巡回区控訴裁判所は、エンドースメント・テストと Lemon

事件判決の過度のかかわり合い分肢を適用しなければならないと判示している

旨を指摘している。更に裁判所は、公園局の行為の合憲性を審査するには便宜

Page 13: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

57アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

供与の要素も重要な要因になるとした上で、修正されたレモン・テストを適用

して判断している42)。

 〈判旨〉棄却。最近の諸判例は、エンドースメント・テストの目的分肢は政

府行為の実際の目的が宗教を是認するにあるのか、又は否認するにあるのかを

綿密に検討すべきことを示唆している(Bauchman 事件判決(132 F.3d at 551))。

「目的」の要求は、政府の意思決定者が―本件においては国立公園局―中

立性を放棄し、宗教的事項についての特定の見解を促進する意図をもって行

動することを回避することに向けられている(Amos 事件判決(483 U.S. 327, 335

(1987).)。公園局が訪問者に対して橋に登り降りすることや近づくことを禁止

したならば、公園局が中立性を放棄し、意図的に他文化の宗教的信念をイン

ディアンのそれに優先して助長する可能性があり得るが、GMP1993 は国民が

自由意思で公園局の策定した政策に従うよう企図しているに過ぎないのであっ

て、その目的は国民に異文化について情報提供し、他者の宗教的信念への感性

を養うにある。隣接文化への理解を深めることは、世俗的目的であり、本件計

画はインディアンの歴史的、社会的及び文化的活動を育成する世俗的目的に仕

える。

 効果分肢は、計画が実施される共同体の歴史と状況に精通している客観的観

察者が、活動が政府の是認又は否認のメッセージを伝達するものと見做すか

否かを精密に検討しなければならない(Capital Square Review and Advisory

Bd. v. Pinette, 515 U.S. 753, 763 (1995).)。本件において、客観的観察者は、

GMP1993 を是認又は否認のメッセージを伝達するものとは見做していないの

であって、その目的と同様、公園局の政策の効果は情報提供にある。訪問者

は、他者の信仰に見聞を広めるよう促されるが、これらの信仰が全ての他の信

仰に優先し、公園局が伝統的宗教を独自に採用してきたとは告知されていな

い。原告は、GMP1993 は政策に従うよう社会的プレッシャーをかけるもので

あって、訪問者をして特定のインディアンの宗教活動に従うよう強制するもの

であると主張するが、公園局の政策は単に訪問者にレインボーブリッジに歩い

て近いたり、橋の下を歩かないよう配慮することを要請しているに過ぎないの

であって、原告が主張するように橋の下を歩いてはならないとする信仰に結び

Page 14: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

58

ついているインディアンの宗教を実践するよう強制するものではない。

 所与の政策が過度のかかわり合いを構成するか否かを決定するには、裁判所

は利益を享受する団体の特質とその目的、州が提供する援助の性格及びその結

果生じる政府と宗教団体との関係を精査しなければならない(Lemon 事件判決

(403 U.S. at 615))。この決定を行う一方、当法廷は、「かかわり合いは性質と

程度の問題である(Lynch 事件判決(465 U.S. at 668))。」という点に注目するも

のである。本件において、GMP1993 によって利益を受ける団体はインディア

ンの各部族である。インディアン部族は、その性格において宗教的であるが、

他方また社会的、文化的団体でもある。訪問者は橋に歩いて近づいたり、又は

その下を歩かないようにとの公園局の要請に結び付けられる可能性のある唯一

効力を有する政策は、新しい標識の配置、ウェブサイト、パンフレット及び増

員された警備隊員の駐在であるが、これら諸活動は、公園局が提供する援助の

性質からして、何らそれ自体、公園局が過度に宗教とかかわり合いをもつこと

を示唆するものではない。公園局は、レインボーブリッジで執り行われるイン

ディアンの宗教活動に何らかかわってはいないのである43)。

(3) 小括

 これまでの議論で原告が、政府機関がインディアンにとって有意味な土地保

護のために執った行為を国教禁止条項違反に当たるとして訴訟提起した場合、

極めて困難な壁に遭遇することが理解される。原告適格(standing)の問題の

ハードルを克服し得たとしても 、 次に被告となる政府機関は、紛争の原因と

なった土地の宗教的重要性が意思決定過程の大きな要因になったかにも拘わら

ず、自ら執った行為を歴史的、文化的又は保護主義者の立場に立って説明する

ことによって勝訴し得ているのである44)。

Ⅱ.聖地開発と宗教の自由な活動条項

1.宗教の自由な活動条項に関する合憲性審査基準

 合衆国最高裁判所判所は、1940年代のエホバの証人をめぐる Cantwell v.

Connecticut45)、Murdock v. Pennsylvania46)、United States v. Ballard47)

を先駆けとし、修正第1条にいう宗教の自由な活動の保障領域を拡大し、

Page 15: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

59アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

Sherbert v. Verner(以下、Sherbert事件判決という。)48)、Wisconsin v. Yoder(以

下、Yoder 事件判決という。)49)の各判決で宗教の自由な活動を規制する法律又は

政府行為を審理するために厳格審査(strict scrutiny)基準を展開するに至る。

すなわち、合衆国最高裁判所は、第一に政府行為により負担(burden)を課

されていると主張される活動が実際に宗教的であるか否かを決定しなければな

らない。第二に権利主張者は、政府行為が宗教に負担を課す結果になることを

立証しなければならない。そして第三に政府は、当該政府行為がやむにやまれ

ぬ政府利益に役立つことを立証することによって宗教に課される負担を正当化

しなければならず、そして当該政府行為は政府利益を満たすために有効な最小

限度の制約的手段でなければならないとする。

 合衆国最高裁判所判所は、Bowen v. Roy(以下、Roy 事件判決という。)50)で

宗教の自由な活動に対する負担が認定された場合、負担の性格、問題とされる

政府利益の重要性及び宗教的活動への便宜供与によって減損される政府利益の

程度が審査されなければならず、特定の宗教的信念又は宗教一般に対する差別

的意図の証拠が存在しない場合、政府は、その適用において中立且つ一律であ

る政府利益のための要求が正当な公益を促進するための合理的手段であること

を立証すれば足りるとしている。また、合衆国最高裁判所は、同判決の中でわ

れわれの多元社会における信仰の多様性と政府に十分な活動の許容範囲を与え

る必要性とを考慮した場合、宗教の自由な活動に対する何らかの付随的で中立

的な負担は、避けて通ることができない。立法政策の問題として、立法機関

は、一般的且つ中立的制度に宗教的便宜供与を決定し得るであろうが、裁判所

の関心は、立法の知恵へのそれではなく、憲法上の制約へのそれであると判示

している51)。

2.聖地をめぐる宗教の自由な活動条項訴訟

 既に序論で述べてきたように、1980年代を通じてインディアン部族は、連邦

政府の所有地に位置する聖地開発の合憲性をめぐって宗教の自由な活動条項を

根拠に数々の訴訟を提起してきたが、聖地保護のための修正第1条への依拠は

不成功に終わっている52)。

Page 16: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

60

(1)Sequoyah v. Tennessee Valley Authority 53)

 〈事実の概要〉1966年、合衆国議会は、テリコダム及び貯水池事業計画のた

めの第1回建設資金を計上し、翌67年、テネシー川流域開発(以下、TVA とい

う。)は、貯水池事業計画の第一段階としてテネシー州モンロー郡に位置する

リトルテネシー川流域沿いの私有地の取得に乗り出した。1979年9月24日、大

統領は、「エネルギー・水資源開発歳出予算案」に署名した。法案は、関連箇

所で TVA は建設工事を終了し、航行、治水、電力発電及び海抜813フィート

の通常の夏期の貯水池の水量の維持を含めむその他の目的のためにテリコダム

及び貯水池事業計画を稼働し、維持する権限を付与され、指図されると規定し

ていた。本件の原告は、チェロキー族の2つの団体と3人のチェロキー・イン

ディアンである。原告は、テリコ貯水池によって水没するリトルテネシー川沿

いの土地は、チェロキー族の宗教にとって神聖視される場所であり、彼らの宗

教活動にとって極めて重要な地域であると主張する。当該土地には、宗教的重

要性をもつ埋葬地がある。

 原告は、貯水池に貯水することは自らの宗教の自由な活動を保障する憲法上

の権利を侵害するとして、テリコダム建設及び水没の差止命令による救済を求

めて合衆国地方裁判所に出訴したが、同地裁は訴えを棄却した。そこで原告

は、暫定的差止命令を求めて上訴した54)。合衆国第六巡回区控訴裁判所は、上

訴を棄却している。

 〈判旨〉最近の2つの合衆国最高裁判所判決は、宗教の自由な活動の権利が

主張される訴訟を審理するに際して裁判所が判断すべき二段階分析を確立して

いる。すなわち、まず第一に、政府行為が事実上上訴人の宗教活動に負担を課

すものであるか否かを決定しなければならない。負担が認定されたならば、政

府利益との利益衡量がなされなければならず、政府は自らの行為のために最優

先の、又はやむにやまれぬ理由が存在することを立証する責任を負う(Serbert

事件判決(374 U.S. 398, 402-03); Yoder 事件判決(406 U.S. 214-15))。

 上訴人の宣誓供述書からは、リトルテネシー渓谷がチェロキー族の宗教儀式

にとって中心的役割を演じていること、又は必要不可欠であるとの主張を見出

すことは出来ない。先祖を崇め、その精神的強靭さを自然との繋がりの感覚

Page 17: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

61アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

から引き出す宗教を個々の上訴人が誠実に信奉していることを認めるとして

も、上訴人は特定の地理上の場所での礼拝が生活様式にとって不可分のもの

であり、彼らの宗教上の基礎であり(Frank v. Alaska, 604 P. 2d 1068 (Alaska

1979).)、又は彼らの宗教儀式又は活動において中心的役割を演ずる(People v.

Woody, 397 P. 2d 813 (1964).)ものであることを立証するまでには及んでいな

い。宣誓供述人の圧倒的関心は、チェロキー族の歴史的起源や彼らの文化的発

展に関連していると考えられるが、それは、特定の宗教上の儀式以上に部族や

家族の民間伝承や伝統にとっての損害であって、文化的伝統及び歴史は国民の

いかなる集団にとっても極めて重要ではあるが、これは修正第1条のいう自由

な活動条項によって保障される利益ではないのである55)。

 〈批評〉判決は、合衆国最高裁判所によって確立された宗教の自由な活動条

項の審査基準、すなわち厳格審査基準を適用し、原告の主張を退けているが、

判決文を読む限り裁判所はインディアンの宗教に対して単なるリップサービス

を提供しているに過ぎないと思われる56)。

(2) Lnyg 事件判決

 〈事実の概要〉合衆国森林局は、カルフォルニア州の町ガスケットとオルレ

アンズを結ぶ75マイルの舗装道路建設計画の一部として既に舗装された道路49

マイルを完備してきたが、当該計画を完成させるためにシックスリバーズ国有

林のチムニロック地区を通過する6マイルの舗装部分を建設しなければならな

かった。1982年、森林局は道路建設に関して最終環境評価を準備した。地方森

林監督官は、考古学上の遺跡のある土地を回避し、且つインディアンによって

宗教活動に使用されている場所から可能な限り移行したガスケットからオルレ

アンズに至る6・02マイルの G―O 道路ルートを選択した。チムニロック地区

を回避する代替的諸ルートは、私有地の取得、土地の安定度等の問題を含んで

いたために拒否された。同時に、森林局は今後80年間に7,330万ボードフィー

トの木材の伐採を、全ての宗教的場所の周囲に1・5マイルの保護ゾーンを設け

ることを条件に許可する管理計画を採択した。

 行政救済が尽された後、インディアン協会、自然保護団体等が森林局の決

定は宗教の自由な活動条項、「合衆国水質汚濁統制法」(FWPCA)、「国家環境

Page 18: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

62

政策法」(NEPA)、AIRFA 等を侵害すると主張し、訴訟を提起した。合衆国

カリフォルニア州北部地区地方裁判所は、Yoder 事件判決、Sherbert 事件判決

に依拠して G―O 道路の建設と管理計画の執行の両者を禁止する永久差止命令

(permanent injunction)を命じた(Northwest Indian Cemetery Protective

Ass’n v. Peterson, 565 F. Supp. 586 (1983).)。合衆国第九巡回区控訴裁判所は、

政府は「やむにやまれぬ政府利益」を有することを立証していないとして第一

審判決を支持した(Northwest Indian Cemetery Protective Ass’n v. Peterson,

795 F.2d 688 (1986).)。合衆国最高裁判所は、実質的に先例を変更し、破棄、差

戻しの判決を下した57)。

 〈判旨〉宗教の自由な活動条項は、一定形式の政府の強制から個人を保護し

ているが、政府の内部手続の行為を指図する権利までをも付与するものではな

い。本件において政府行為は、影響を受ける個人を強制してその宗教的信念を

侵させてはいないし、また他の国民が享有する権利、利益及び特権の平等分配

を否定することによって宗教活動を罰しているのでもない。宗教の自由な活動

へのまさに明白な禁止ではなくして間接的な強制又は罰則も、修正第1条の下

で精査に服すと当法廷が再三再四判決を下してきたことは確かである。しか

し 、 このことは一定の宗教実践をより困難にはするが、個人をしてその宗教的

信念に反して行動するよう強制する傾向性をもたない政府計画の付随的効果

が、政府に対してその他の点では合法的な行為についてやむにやまれぬ正当化

事由を提示するよう要請することを意味するものではないし、また意味し得な

いと言わざるを得ない。憲法典に規定されている決定的な文言は、「禁止する」

(prohibit)である。すなわち、自由な活動条項は、政府が個人に対して行い

得ないことに関して規定されたのであって、個人が政府に対して強制し得るこ

とに関して規定されたのではない。

 G―O 道路が、事実上インディアンの宗教活動の能力を破壊するであろうと

認定した控訴審の予言を採用したとしても、憲法は絶対に被上告人の主張を支

持する正当化事由を規定してはいない。もし政府が、全国民の宗教上の要求や

欲求を満たすよう要請されたならば、政府はその機能を全く果たし得なくな

る。広範にわたる政府活動は社会福祉計画から自然保護計画への援助に至るま

Page 19: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

63アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

で、しばしば誠実に抱かれた宗教的信念に基づく相当数の国民の精神的安寧に

とって常に必要なものと見做される。他の人は、同じ行為が自らの宗教教義と

矛盾すると見做すであろうが、修正第1条は全国民に一様に適用されなければ

ならず、彼らの誰人にも宗教の自由な活動を禁止するものではない公共計画に

対する拒否権を付与しているのではない。憲法は、政府への種々の競合する要

求を―それらの多くは誠実な宗教的信念に根ざしているのであるが―調停

させようとしてはおらず、裁判所もそれをすることができないのであって、か

かる仕事は、それが実行可能な範囲で立法機関及びその他の機関のそれであ

る58)。

(3) U.S. v. Means 59) 

 〈事実の概要〉1988年4月19日の合衆国最高裁判所の Lyng 事件判決を受けて、

同年9月28 日に合衆国第八巡回区控訴裁判所で判決が下されたのが本件 U.S.

v. Means である。スー族のバンド(band)は、1981年4月4日、ブラック・

ヒルズ国有林内に永続的キャンプを建設するためにパインリッジ指定居住地を

立ち去り、森林局に通告することなくイエローサンダーキャンプ(以下、YTC

という。)と呼称される共同体を設立した。YTC は、同年4月22日、「宗教、

文化及び教育の共同体」設立のために国有林の800エーカーの土地に対する特

別使用許可を申請したが、同年8月24日、森林局は、当該申請を不受理とし、

YTC の土地を占有している個々人に同年9月8日までに同地を退去すること

を内容とする処分を行なった。

 同年9月9日、合衆国は、YTC を相手に800エーカーの土地から退去させる

ための訴訟を提起した。合衆国ノースダコタ州地区地方裁判所は、1985年12月

9日、森林局は団体の宗教の自由な活動の権利に負担を課すものであり、特別

使用許可の否認は恣意的且つ気まぐれであると判示した。政府は、合衆国地方

裁判所判決は修正第1条に誤った解釈を加えたものであって、特別使用許可の

否認は被上訴人の宗教の自由な活動の権利に負担を課すものではないと主張

し、上訴した60)。合衆国第八巡回区控訴裁判所は、以下のように判示し、第一

審判決を破棄した。

 〈判旨〉自由な活動条項は、一定の形式の政府強制から個人を保護している

Page 20: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

64

(Roy 事件判決(476 U.S. 693, 700 (1986).)。本件において、森林局は、被上訴人

の儀式又は活動に介入するために何らかの強制を伴う行為をも履行してきてい

ないのみならず、被上訴人が宗教的目的のために YTC の場所に接近すること

を否定してきてはいないのである。

 政府は、被上訴人をして自らの宗教的信念を侵害せしめるよう強制してはい

ない。すなわち、政府は、被上訴人に制裁の脅威を用いて宗教上の動機に基づ

く行為を回避するよう、又は上訴人が宗教上の理由の故に異義あるものとす

る行為に従事するように強制はしてきていないのである(Lyng 事件判決(108 S.

Ct. 1319, 1325))。森林局が YTC の特別使用許可を否定することによって被上

訴人の自由な活動の権利を「禁止した」のではないことは明らかである。「憲

法典の決定的な文言は、『禁止する』である。『蓋し、〔宗教の〕自由な活動条

項は政府が個人にやってはならないことに関して規定されているのであって、

個人が政府に強制し得ることに関連して規定されているのではない。』(Lyng 事

件判決(108 S. Ct. at 1326))。」

 被上訴人は、特別使用許可の否認が彼らの宗教の活動に負担を課すものであ

ることを立証してはおらず、当法廷の審理は、これをもって終結するのであ

る。従って、当法廷は、被上訴人の信教の自由に課される負担が、公有地維持

における公益より重要であるか否かの問題に到達する必要はないと判断する

61)。

(4) 分析 

 Lyng 事件判決は、インディアンの宗教的信念及びその活動への合衆国最高

裁判所の文化的感受性の鈍感さの故に学者によって厳しく批判されたが62)、こ

れら学者の批判は、Lyng 事件判決が聖地管理に関する政府機関の決定を争う

場合に修正第1条に依拠する可能性を事実上排除することになることを予測す

るものであった。ボンハム(Charlton H. Bonham)教授は、「Lyng 事件判決

は、インディアンが公有地に位置する自分たちの宗教的場所を守るために自由

な活動条項を用いようとする試みに終止符を打つものとなった。と言うのも、

同判決が『強制される、又は罰せられる』という判断基準を要求することを確

立したからである。従って、宗教的活動への政府の介入を禁止する自由な活

Page 21: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

65アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

動条項の文言にも拘わらず、部族は、自分たちの聖地を害し 、 その結果部族の

宗教的活動に介入する政府行為を争うことを不成功の内に終らせてきたのであ

る。」と論述している63)。

 1990年6月、合衆国最高裁判所は、アメリカ・インディアン教会の信徒が

オレゴン州法によりその所持が禁止されているぺヨーテ(peyote)を宗教目

的で使用し、雇用者から解雇され、州当局に失業補償給付金を申請したが拒

否された Employment Division, Department of Human Resources v.

Smith64)(以下、Smith 事件判決という。)で、宗教活動を付随的に規制し、又は

妨げる中立的な法律はいかなる合憲性審査にも服せしめられることなしにお

よそ合憲とされると判示することによって、従来合衆国最高裁判所が採って

きた厳格審査基準を放棄した。すなわち、合衆国最高裁判所は、本判決におい

て厳格審査は特定の宗教的行為を標的にする法律(laws that target particular

religious practices)にのみ適用されるべきであり、宗教に対して中立且つ一

般的に適用可能な法律(a law that is neutral toward religion and generally

applicable)には厳格審査を適用するまでもなく、およそ合憲であるとする新

判断を示したのである。Smith 事件判決に対しては、法学者のみならず65)、市

民的自由及び宗教的自由の擁護を目的とする諸団体からも激しい批判にさら

され66)、合衆国議会は、1993年11月16日、「宗教的自由回復法」(the Religious

Freedom Restoration Act of 1993)(以下、RFRA という。)67)を制定し、Sherbert

事件判決以来確立されてきた厳格審査基準を立法をもって復活させようとの途

にでている68)。

Ⅲ.インディアンの聖地保護政策の推進と判決例

1.インディアンの聖地保護政策

(1) 合衆国議会のインディアン保護のための対応

 Lyng 事件判決以後、裁判所がインディアンの聖地保護を命ずることはない

であろうということが明らかとなり、かかる聖地の保護は当該土地を管理する

政府機関が保護を要すると意思決定した場合にのみ保護され得るということに

なったと考えられる。多くの研究者は、政府機関による聖地保護に対して懐疑

Page 22: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

66

的立場を採っている。例えば、ボイルス(Kristen L. Boyles)は、AIRFA の

1989年に提議された改正案を論じたノートの中で、「政府機関は、しばしば合

衆国の土地に位置するインディアンの聖地に影響を与える公有地管理に関し、

インディアンの宗教を考慮することなく意思決定を行っている。かかる文化的

感受性の欠如が、絶えずインディアンの宗教的実践を脅かしている。今日、イ

ンディアンの宗教に対する脅威は、……ほとんどの場合、無視に基づく合衆

国の政策にその原因を見出すことができる」と評している69)。また、ヴォーゲ

ル(Howard J. Vogel)教授は、Lyng 判決を評釈した論文の中で「合衆国最高

裁判所は、伝統的に合衆国憲法によって財産権及び信教の自由に認められた高

度の価値を肯認してきたが、政府のその財産権行使に介入することを……拒否

した。このことは、公有地に位置する聖地でのインディアンの宗教的活動を含

む文化的衝突を含む諸事件において、最悪の場合は、合衆国最高裁判所が、土

地を占有(possession)と権原(title)に服する財産と見做す英米法系概念の

アメリカの支配的歴史的解釈の擁護者として仕えるであろうことを明確に特徴

づけるものである。このようなことは、Lyng 事件判決のみならず、当該事件

と同様の論争点を含む諸事件において悲しむべき歴史となってきた。このこと

は、合衆国第十巡回区控訴裁判所が審理したデヴィルタワーの事件が示唆する

ように、なんらかの任意の便宜供与が政府によって執られ得ないことを示唆す

るものではない。しかし、かかる便宜供与は、支配的文化のお情けでもっての

み持ち得るのであって、それはインディアンの文化に見出される多様性を尊敬

し、且つ考慮を払うことで成功するものではない。」と批評している70)。

 Lyng 事件判決並びにそれに類似する諸事件が、合衆国議会や土地を管理す

る政府機関にどのよう影響を与えたのかは立法政策学の問題として興味ある

ところであるが、Lyng 事件判決や Smith 事件判決等の合衆国最高裁判決はイン

ディアンの宗教的実践や聖地に付与される司法的保護の欠如を示すものであ

り、合衆国議会に対してより大きな立法上の保護政策を採る必要性を意識させ

る結果を招来したことは事実である。すなわち、種々の法律がインディアンの

宗教及び文化の保護乃至保存を目的として制定、改正されたのである。主な法

改正乃至法制定を挙げる。合衆国議会は、1992年10月30日に1966年10月15日制

Page 23: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

67アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

定の「国定史蹟保存法」(the National Historic Preservation Act of 1966)(以

下、NHPA という。)71)を改正、1988年11月3日には1979年10月30日制定の「考

古学的資源保護法」(the Archeological Resources Protection Act of 1979)(以

下、ARPAという。)72)を改正し、「協力条項」乃至「協議条項」を追加規定した。

更に、既に述べたように、Smith 事件判決に答えて1993年11月6日に RFRA73)

を制定している。

(2)制定法上の関連規定瞥見

 本稿との関連で問題となる関係法令について必要最小限度の範囲内で言及す

ることにする74)。

 ①1978年8月11日制定の AIRFA75)は、「種々のアメリカ・インディアンの

ために、アメリカ・インディアン、エスキモー、アレウト族及びハワイ原住民

の伝統的宗教を自由に信仰し、表現し、及び実践する固有の権利を保護し、並

びに存続させることは、合衆国の政策である。但し、遺跡を利用する権利、神

聖なる物の使用及び所有並びに儀式的、伝統的慣習に基づく礼拝を含むものと

し、及びこれに制限されるものではない。」(合衆国法律集第42編第1996条)と規

定している。AIRFA は、インディアンの宗教を保護することは「合衆国の政

策」であると規定するのみで、インディアンのために新たな権利を創設したも

のではないのであって、何らの効力をもつものではない76)。1991年、合衆国第

八巡回区控訴裁判所は、Lockhart v. Kenops で AIRFA はインディアンの宗

教活動を保護するための合衆国の政策の単なる声明であり、森林局がインディ

アンの精神的指導者と協議することなく土地使用の変更の手続をとったことを

理由に同法違反を理由に訴訟を提起し得るものではないと判示している77)。合

衆国最高裁判所もまた、Lyng 事件判決で「同法には訴訟原因又は司法的に強

制し得る個人の権利は、具体的に規定されていると見做すことはできない。」

と明確に判示している78)。

 ②1992年10月30日改正の NHPA は、合衆国政府は先史的及び歴史的資源の

保存、並びに史蹟保存計画及びその活動について州、地方自治体、インディア

ン部族及び私的団体並びに個人と協力することをその政策とする旨を規定して

いる(合衆国法律集第16編第470-1条)。

Page 24: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

68

 1992年の NHPA の改正は、政府機関に1976年10月22日制定の「1976年国有

林管理法」(the National Forest Management Act of 1976)(以下、NFMA とい

う。)の解釈に関しても大きな影響を与える結果となる。1976年制定の NFMA

は、森林局は国有林制度の計画及び管理に関し一般参加の機会を提供しなけれ

ばならない旨を規定している(合衆国法律集第16編第1602条第 b 項)。Lyng 事件

判決以前、合衆国行政規則は、インディアン部族は部族の所有地又は条約上の

権利が森林局の決定によって影響を受けると予測される場合告知される旨、及

び政府機関は地域及び森林計画をインディアン部族の同等且つ同類の計画努力

と調整するものとする旨を規定していた(合衆国行政規則集第36編第219.7条第 a

項)。しかしながら、かかる粗雑な事務処理方法は、2000年11月9日に変更さ

れている。すなわち、「アメリカ・インディアン部族及びアラスカ原住民との

相互の影響」と題された合衆国行政規則集第36編第219.15条第 c 項で「責任を

有する官吏は、以下に定める事項を援助することを目的とし、アメリカ・イン

ディアン部族及びアラスカ原住民を計画過程に参加させるため協議し、及び招

聘しなければならない。(1) 初期の条約上の権利確認、条約で保護された資源

及びインディアン部族の信託資源。(2) 部族代表によって提供された部族の資

料及び資源についての知識の考慮すべき事項。(3) 意思決定過程における部族

の関心事及び提案についての考慮すべき事項。」と規定されている。

 ③ Lyng 判決後、1979年制定の ARPA もまた1988年に改正されるが、1979年

法では「内務、農務及び国防各長官並びにテネシー渓谷機構委員会委員長は、

他の合衆国土地管理者 、 インディアン部族、関連州機関の代表と協議した後、

及び公聴会開催後、統一的規則及び規制を……定めるものとする。」と規定し

ていた(合衆国法律集第16編第470ii 条第 a 項)。しかし、1988年改正では、「各々

の合衆国土地管理者は、公有地及びインディアンの土地に位置する考古学的資

源の重要性並びに当該資源の保護の必要性に関する一般的認識を高める計画を

確立するものとする。」旨の規定を追加した(合衆国法律集第16編第470ii 条第 c

項)。

 ④1993年制定の RFRA 合衆国法律集第42編第2000bb-1条第 a 項は、「政府

は、第 b 項に規定する場合を除き、負担が一般的に適用可能な規則に起因す

Page 25: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

69アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

る場合においても個人の宗教活動に実質的に負担を課してはならない。」と規

定し、同条第 b 項で「政府は、個人に対して課される負担が以下の各号のい

ずれにも該当することを立証した場合に限り、個人の宗教活動に実質的に負

担を課すことができるものとする。(1) やむにやまれぬ政府利益を促進するこ

と、及び (2) やむにやまれぬ政府利益を促進する最も制限的でない手段であ

ること。」と定めている。

 ⑤ NHPA、NFMA 及び ARPA は、政府機関に政策決定に際して影響を被

るインディアン部族との協議を要請しているものであると解釈されてきた。こ

れら諸法令は、単に政策決定によって影響を被るインディアン部族との協議を

要求するのみであって、政府機関に部族が主張する立場を採用すべきであるこ

とを命じてはいないが、政府機関はその管理計画の決定に当たってインディア

ンの利益を真摯に斟酌すべきであるとする合衆国議会の意図を現していると言

えるであろう79)。

 Lyng 事件判決で立証されたように、裁判所は政府機関によるインディアン

の宗教への便宜供与を命じていないが、次節では本節で見てきた協議条項を裁

判所がいかに捉えているかを2つの判決例を通して考察する。

2.判決例

(1) Pueblo of Sandia v. United States 80)

 〈事実の概要〉本件(以下、Sandia 事件判決という。)の事実関係は以下のとお

りである。ニューメキシコ州アルバカーキの北東部のサンディアナ山脈内に位

置するラスウェルタス・キャニオンはシボラ国有林の中に在り、森林局の管理

下にある渓谷である。サンディア・プエブロ族の指定保留地が近在し、部族の

構成員は重要な私的及び公的文化儀式において使用する常緑の枝を集めるため

渓谷を訪れ、また伝統的な治療活動にとって重要な薬用植物などをラスウェル

タス・クリークに沿って採取している。渓谷は、プエブロ族にとって宗教的、

文化的意義をもつ多くの聖地や儀式用の通り道がある。1988年6月、森林局は、

ラスウェルタス・キャニオンに関する8つの代替管理計画を扱った環境影響評

価草案(以下、DEIS という。)を公表した。十分な説明期間を置いた後、森林

Page 26: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

70

局は、第九番目の代替案である代替案Ⅰを優先計画として選択した。代替案Ⅰ

は、ラスウェルタス・キャニオンン道路の再編制と再建及び、ピクニック用地

の拡張並びに他の場所への衛生施設の架設を内容とする道路地域への追加改善

事業を内容とするものであった。当該地域への交通量の増大及び訪問者の増加

によって渓谷内での伝統的文化財並びに活動が悪影響を受けるとしてサンディ

ア・プエブロ族は、決定の行政救済を求めた。代理地方森林官は、代替案Ⅰの

除雪車の稼働と道路閉鎖規定を変更した上で決定を支持した。決定は、森林局

長が決定の再審査を拒否した1990年1月に行政上は終局的解決に至った。

 プエブロ族は、DEIS は NFMA、 AIRFA、「浄水法」(Clean Water Act, 33

U.S.C. §§ 1600 et seq.)(以下、CWA という。)、「行政手続法」(Administrative

Procedures Act, 5 U.S.C. §§ 701 et seq.)(以下、APA という。)に違反すると

主張して合衆国裁判所に本件訴訟を提起したが、その後、NHPA(合衆国法

律集第16編第470条以下)の侵害を申し立てるため、訴状を変更した(プエブロ

族は、NFMA、AIRFA 及び CWA の主張を放棄し、NEPA 及び APA 違反の主張

に対する地方裁判所の被告よりの正式事実審理を経ないでなされる判決(summary

judgment)を求める訴えを争ってはいない。)。プエブロ族は、森林局が渓谷を国

家登録表に加えられる資格を有する伝統的文化財として評価しなかったのは

NHPA(第16編第470f条)に反すると主張した81)。合衆国第十巡回区控訴裁

判所は 、1995年3月14日、合衆国ニューメキシコ州地区地方裁判所判決を破棄

し、事件を地裁に差戻した。

 〈判旨〉当事者が、NHPA の規定する要件を満たしているか否かの争点をめ

ぐって正式事実審理を経ないでなされる判決を求めて反訴を提起した。地方裁

判所が訴訟を審理するまでに、州史蹟保存局員(以下、SHPO という。)は道路

に隣接する一定の土地及びピクニック用地は国家登録表の資格がなかったとす

る森林局の結論に同意してきていた。1993年4月30日に法廷で正式に記録され

た簡短な判決文及び命令(Memorandum Opinion and Order)の中では、地

方裁判所は、「行政上の記録は、認定されたいかなる土地が NHPA によって

要請される国家登録表の評価基準に反して森林局によって評価されたのか否

か、及び当該土地が評価基準を満たしていたのか否かについては沈黙を守って

Page 27: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

71アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

いる。」と判示している。地方裁判所は、SHPO の同意を「森林局が道路及び

ピクニックの地域に関して実体的要件を満たしていたとする証拠」として容認

した。

 地方裁判所は、森林局が「NHPA の要件を非常に慎重に満たすものと考え

たとは思われない。」と関心をもちながらも、渓谷内に位置する他の各土地の

潜在的な歴史的価値に関する情報を入念に追跡しているとする行政機関の主張

に依拠したのである。かかる根拠に基づいて地方裁判所は、被告のために正式

事実審理を経ないでなされる判決を容認し、これに対して原告が本件訴訟を提

起したのである。

 1993年5月13日、SHPO は、「ラスフェルタス・キャニオンにはプエブロ・

インディアンの伝統的な文化財は存在しない。」とする森林局の最終的結論に

同意している。原告は、本件訴訟を1993年6月19日に提訴している。重要なこ

とは、9ヶ月後、SHPO がラスフェルタス・キャニオンには伝統的な文化財

が存在することを示唆する証拠を受理した上で自らの同意を撤回したことであ

る。SHPO は、不知情報は渓谷が国家登録表に登録される資格を有するか否

かの審査に実体的影響を与えると結論している。その結果、SHOP は、渓谷

が伝統的文化財を含んでいる可能性をさらに評価するために渓谷の民俗誌学的

分析を推薦したのである。当法廷は、地方裁判所の正式事実審理を経ないでな

される判決をあらためて初めから審理する82)。

 合衆国法律集第16編470f 条は、行政機関は史蹟保存諮問委員会に「事業に

関して説明するための公平な機会」を提供するよう指図している。合衆国行政

規則集第36編第800.4条第 b 項は、機関は「事業により影響を被り得る史蹟財

産の認定を行うために公平且つ誠実な努力を行い、及び国家登録表に記載され

る資格を満たすものであるかを評価するため十分な情報を収集」しなければな

らないと規定している。

 公平な努力について述べる。森林局は、本件渓谷内の史蹟財産を認定するた

め公平な努力を行ったと主張する。訴訟記録は、森林局がサンディア・プエブ

ロ族及びその他の地元のインディアン部族からの情報を依頼したことを明らか

にしているが、単なる情報提供の依頼は法律にいう「公平な努力」を必ずしも

Page 28: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

72

構成するものではない。蓋し、諸部族から得られた情報は歴史的文化財の存在

を示唆し、且つ森林局は部族の慣習が特有な情報を即座に発表することを制約

するものであることを知り得たのであることからして、当法廷は、行政機関が

国家登録表に登録される資格を渓谷が有しているかを評価するに必要な情報を

公平に追求したとは言えないと判断する。

 誠実な努力について述べる。サンディア・プエブロ族は、森林局が本件渓谷

内の伝統的文化財を認定するに際して必要な誠実な努力を怠ったとする主張の

根拠を、森林局が要件とされている協議の過程で SHOP からの適切な情報を

保留したという事実に求めている。地方裁判所は、森林局の第106条への責任

について懸念し、そして SHPO が正式事実審理を経ないでなされる判決の承

認に同意したことに重きを置いている。従って、保留された情報の開示への当

該同意の撤回は、森林局が史蹟財産の認定に誠実な努力を払わなかったことを

示すものである83)。

(2) Muckleshoot Indian Tribe v. U.S. Forest Service84)

 〈事実の概要〉本件で争点となった土地ハックルベリー山は、ワシントン州

のベーカースノクウォルミー山国有林内のグリンリバー流域に位置しており、

数百年にわたってマックルスフート・インディアン部族(以下、部族という。)

の祖先が文化的、宗教的目的及び資源確保の目的で利用してきており、現在も

なお部族によって連綿と利用し続けられている。国有林は、太平洋岸北西部

にある荒野の17㌫を占め、国有林1,983,774エーカーの土地の13㌫(259,545エー

カー)は、主としてウェイヤーヘウザー会社(以下、W 社という。)とその他の

法人が所有する私有地であるが、私有地の大部分は国有林の南部に位置し、合

衆国の所有地とチェッカー盤模様に混在している。

 森林局と W 社は、土地所有権を一体化するため、国有林内の公有地の交換

が「交換によって公益に資する」場合これを認める旨規定する合衆国法律(43

U.S.C. § 1716)に従って、交換の交渉を開始した。1980年代、森林局は、W

社とヴァーリントン北部鉄道会社(以下、B 社という。)とハックルベリー山に

隣接する土地を含む土地の交換を交渉し、「アルペインレイクス交換」(以下、

「交換Ⅰ」という。)条項のもとで、合衆国は合衆国所有の国有林地21,676エー

Page 29: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

73アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

カーを W 社及び B 社所有の地所と交換に上記2社に譲渡した。本件において

は、原告である部族と2つの環境団体(以下、協会という。)は、W 社と森林局

との間の他の土地交換である「ハックルベリー山交換」(以下、「 交換Ⅱ 」 とい

う。)を争っており、「交換Ⅱ」条項のもとで、森林局はハックルベリー山地域

内の老齢な森林の土地を再交換したが、「交換Ⅰ」で森林局が譲渡したほとん

どの土地区画は、本件訴訟において論点となっている「交換Ⅱ」の土地区画で

ある合衆国の所有地に隣接し、又は接触している。

 「交換Ⅱ」の地域内の土地は、試験的に1984年から1987年にかけての「交換

Ⅰ」の交渉の間に確認されてきていたが、交渉が1988年に再度、交換の考慮対

象となっている合衆国所有地の改訂リストをもって始まった。1991年7月、W

社と森林局は、交換に応ずる意思声明書に署名したが、その中で交換されるべ

き区画を確認していた。1992年から1994年にかけて森林局は、沼沢地、野生生

物、稀少植物、危険な荒地及び文化的資源並びにその他の事項についての調査

を行い、その後、交換すべき合衆国の土地の面積を調整した。

 森林局は、公的協議並びに解説に着手し、6つの交換代替案のリストを明ら

かにした。1996年7月、森林局は、「国家環境政策法」(以下、NEPAという)(42

U.S.C. § 4332(2)(C))に従って環境影響報告書(以下、EIS という。)案を出し、

利害関係人に300通を超える写しをメールで送った。その後、国有林の近くの

コミュニティーで3回にわたる公開集会を開催したが、EIS 案に批評を加えた

者の中に部族も含まれていた。1996年11月26日、森林局は EIS 案に対する批

評を受理した後、最終 EIS を発行したが、「現行のままとする」代替案、2つ

の「密接に関連する変更」代替案からなる3つのそれを考慮に入れていた。同

時に、森林局は、EIS で評価されたとして「代替案第3番」の修正によって

「交換Ⅱ」の履行を要求した決定議事録(以下、ROD という。)を発行した。協

会と部族は 、 それぞれ別個の EIS 及び ROD に対する抗議を地方森林監督官事

務所に提出したが、1997年3月7日に拒否された。同年3月28日、W 社と森

林局は、W 社がハックスベリー山地域内の土地4,362エーカーの見返りにベー

カー山国有林内の及び周辺の30,253エーカーの土地を合衆国に譲渡する契約書

を交換したが、同時に、森林局は、部族にとって重要であり、また森林局が史

Page 30: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

74

蹟保存のために国家登録表に登録資格が有ると認定したハックスベリー・ディ

ヴァイド・トレイルの処女地を W 社に譲渡した。

 1997年春、部族と協会は、「交換Ⅱ」を中止するよう宣言的救済と差止命令

による救済を求めて合衆国地方裁判所に別個の訴訟を提起した(併合審理とな

る)。地方裁判所は、原告の訴えを全て退けた。原告は、森林局は NHPA(合

衆国法律集第42編第4332条)、NEPA(合衆国法律集第16編第470条乃至470w条)に

違反するとして上訴した85)。合衆国第九巡回区控訴裁判所は、1999年5月19日、

合衆国ワシントン州西部地区地方裁判所判決を①森林局は史蹟財産の認定のた

めに公平且つ誠実な努力を行ったが、②森林局は部族が先祖から受け継いだ輸

送ルートを移動させた場合に生ずるマイナス効果を最小限に止める義務を履行

しなかった、③ EIS は土地交換によって生ずる累積的効果について十分に取

り組まなかった、④森林局は代替案の変動可能な範囲を十分に考慮しなかった

と判示し、原審に破棄差戻しした。事実関係については輻輳していた関係で詳

述したが、判決については本稿と密接に関係する①の部分に止める。 

 〈判旨〉森林局の執った行為は、「国家登録表会報第38号:伝統的文化財の評

価と証拠書類に関する要綱」(以下、「会報第38号」という。)の勧告と緊張関係

にある。会報第38号は、森林局による文化的重要性を備える土地の認定と評価

に関する承認された判断基準を指し示している。Sandia 事件判決において政

府機関はNHPAを侵害したとする合衆国第十巡回区控訴裁判所の事実認定は、

政府機関が会報第38号を固守しなかったとする認定に一部負っている。本件に

おける会報第38号政策からの逸脱は、Sandia 事件判決におけるそれに類似する

が、著しい逸脱とは思考されず、また森林局が NHPA にいう認定と協議に関

する規定を遵守しなかったという十分な根拠を提供するものでもない。第一に

会報第38号は、命令的手続を課すものではなく、単に指針を確立しているに過

ぎない。これら勧告に対する違反行為は、それだけで NHPA 違反となるもの

ではないであろう。第二に本件においては Sandia 事件判決と異なり(50 F.3d

at 861-62)、森林局は数度にわたって情報提供を求めており、また当面の問題

と密接に関連する伝統的文化財認定のために従前に自身からの調査を実施して

いる。

Page 31: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

75アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

 Sandia 事件判決とは異なり、森林局は史蹟場所に直接関係する SHPO から

の情報を保留したとの証拠、又は SHPO と誠実な折衝を怠ったという証拠も

存在しないのである(Sandia 事件判決と比較せよ。)(50 F.3d at 862)。文化財の公

式研究についての部族の要請を森林局が阻止したことが訴訟記録から明らかで

あるが、それは森林局が「交換Ⅱ」の最終承認を遅らせたからである。しかし

ながら、訴訟記録は、部族が森林局に対してより多くの情報を示す機会を何度

も有していたことをもまた示している。従って、当法廷は、森林局が史蹟財産

認定に際して公平且つ誠実な努力を怠ったと結論することは到底不可能である

と結論せざるを得ない86)。

(3)分析

 2つの判決例から明らかになったことは、合衆国法律及び合衆国行政規則

の法整備を通してインディアンの行政機関の意思決定に参与する機会が著し

く増大し、それによってインディアンにとっての聖地保護の目的が達成され

る道が拓かれたということである。サージー(Dean B. Suagee)教授は、この

協議規定を評して次のように述べている。すなわち、指定保留地の内外のいず

れに彼らインディアンが歴史的及び文化的に重要視する土地が位置すること

を問わず、合衆国法律集16編第470a条第 d 項第2号、470a 条第 d 項第6号、

NHPA 第106条(合衆国法律集第16編470f条)の定める手続過程に協議の当事

者として参加するインディアン部族の権利は、まさにインディアンがテーブル

に自らの椅子を持つ権利であり、インディアンの権利事項について責任ある連

邦政府行政機関を説得する機会を持ったことになる。連邦政府行政機関がかか

る手続的要求に従わない場合、問題は連邦政府行政機関の行為の場面を離れて

司法による差止命令による救済の場面に移るのである87)。

まとめ

  NHPA、ARPA、NFMA の改正及びそれに伴う合衆国行政規則の法整備

は、インディアンに対する情報提供、意思決定過程への参与の道を拓くことに

よって政府の土地管理にあたる行政機関がインディアンの宗教的関心事を聴取

Page 32: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

76

し、彼らの宗教活動に便宜を供与し得ることになり、手続的側面から見る限り

インディアンの聖地保護が一歩前進したことは明らかである。しかし、実体的

側面から見る限り、本質的には問題解決には至ってはいないのではなかろう

か。現に上記 Sandia 事件判決で原告は、控訴審では争点を NHPA に絞り、原

審での主張とは異なりAIRFA違反の主張を断念しているのである88)。ここで、

Civish 事件判決にヒントを得て1つの仮説を立ててみよう。

 【仮説的事例】 X 社は、Y 州に位置する国有林内から州運輸局の許可を得て

採掘した岩石を用いて州道路建設に従事している。しかし、採掘場の周囲には

Z 部族にとって文化的、宗教的に重要性をもつ遺跡が多数存在する。

 【主張Ⅰ(国教禁止条項違反)】 Y 州運輸局は、部族にとっての遺跡の宗教

的意味を理解し、X 社に対する岩石採掘許可を取り消した。そこで、X 社が採

掘許可の取消は Z 部族の宗教に便宜を供与するものであり、国境禁止条項に

違反すると主張し、提訴した。

 【主張Ⅱ(宗教の自由な活動条項違反)】 Z 部族は、自らが宗教儀式に使用

する遺跡周辺での岩石採掘を許可する州運輸局の処分は部族の宗教の自由な活

動条項を侵害すると主張し、Y 州を相手に提訴した(但し、州機関と Z 部族と

の適切な協議は行われたものとする。)。

 主張Ⅰの場合、原告にとってその主張は実を結ばない可能性が高いと言えよ

う。蓋し、合衆国最高裁判所は、「政府は宗教活動に便宜を供与し得る(時と

して供与しなければならない。)こと、及びそうすることを国教禁止条項に違背

することなく行い得ることを長い間にわたって認めてきた。」と判示しており

89)、いかなる司法審査基準を採用して判決を下すにしても便宜供与主義の原則

を貫くであろうからである。             

 主張Ⅱの場合はどうか。Lyng 事件判決で合衆国最高裁判所は、政府行為

がインディアン部族の宗教活動に「厳しい不利益な効果」(severe adverse

effects)をもたらすとしても自由な活動条項に違反するものではないとする判

決を下している90)。合衆国最高裁判決に従えば、宗教の自由な活動条項は、政

府機関の内部的事務が特に部族をしてその宗教活動を侵害するよう強制するも

のでない限り、インディアン部族に拒否権を付与してはいないのであって、政

Page 33: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

77アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

府機関は直接的に一宗教を標的にしない限り、又は彼らの宗教活動を侵害する

ように強制しない限り、極端な表現をすればインディアンの聖地を破壊するこ

とも可能なのである91)。とするならば、Z 部族の主張もまた、認められない結

果へと導かれるであろうと考えられる。

 ここにおいてか、Lyng 事件判決のオコナ裁判官の法廷意見が想起される。

すなわち、社会福祉計画から資源保護計画のための援助までの広範囲にわたる

政府活動は、しばしば誠実に抱かれた宗教的信念に基づいて、常に市民の精神

的安寧にとって本質的だと考えられるであろう。他の人々は、全く同一の活動

を非常に不愉快だと思うであろうし、たぶん彼ら自身の精神的充足の追求や彼

らの宗教教義とは相容れないものであろう。修正第1条は、全市民に同様に適

用されなければならず、彼らの誰人にも宗教の自由な活動を禁止するものとは

ならない公的な計画に拒否権を付与するものではない。憲法は、多くは誠実な

宗教的信念に根ざしている政府への種々の競合する要求を調停するよう語りが

けてはいないのであって、また裁判所はそれを提案できないのである。かかる

仕事は、可能な範囲内で立法府及びその他の機関のそれである92)。

1)See George Linge, Ensuring the Full Freedom of Religion on Public Lands: Devils Tower and the Protection of Indian Sacred Sites, 27 B. C. ENVTL. L. REV.

307, 309 n.15 (1999-2000); Lydia T. Grimm, Sacred Land and the Establishment Clause: Indian Religious Practices on Federal Lands, 12 NAT. RESOURCES & ENV’T

19 (1997).2)638 F.2d 172 (10th Cir. 1980).3)485 U.S. 439 (1988).4)See Samuel D. Brooks, Note, Native American Indians’ Fruitless Search for

First Amendment Protection of Their Sacred Religious Sites, 24 VAL. U. L. REV.

521 n.5 (1989-1990); Anastasia P. Winslow, Sacred Standards: Honoring the Establishment Clause in Protecting Native American Sacred Sites, 38 ARIZ L. REV.

1219 (1996).5)209 F. Supp. 2d 1207 (D. Utah 2002).6)382 F.3d 969 (9th Cir. 2004).

Page 34: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

78

7)Pub. L. No. 95-341, 92 Stat. 469, 42 U.S.C. § 1996 (Supp. Ⅳ 1980).8)See e. g., DANIEL A. FARBER, THE FIRST AMENDMENT 289 (2d. 2003).9)拙稿「分離主義と便宜供与主義の相克―合衆国最高裁判所における国教禁止

条項の解釈をめぐって-」(高田敏・畑博行編『憲法と行政法の現在』、2000年)

177頁以下、桐ケ谷章・藤田尚則『政教分離の日米比較』(2001年)276頁以下参

照。

10)403 U.S. 602 (1971).11)Id. at 612-13.

12)See, e. g., Michael D. Lieder, Religious Pluralism and Education in Historical Perspective: A Critique of the Supreme Court’s Establishment Clause Jurisprudence, 22 WAKE FOREST L. REV. 813, 832 (1987).

13)FARBER, supra note 8, at 280.

14)Adam M. Conrad, Hanging the Ten Commandments on the Wall Separating Church and State: Toward a New Establishment Clause Jurisprudence, 38 GA. L. REV. 1329, 1339-47 (2004).

15)464 U.S. 668 (1984).16)492 U.S. 573 (1989).17)464 U.S. at 687-89 (O’Connor, J., concurring) 18)Id. at 592-93.

19)Wallace v. Jaffree, 472 U.S. 38, 76 (1985) (O’Conner, J., concurring).20)505 U.S. 577 (1992).21)Id. at 587-88.

22)See County of Allegheny v. UCLA, 492 U.S. 573, 661(1989) (Kennedy, J.,

dissenting). 23)Michael W. McConnell, The Lost Element of Establishment, 27 WM. & MARY L.

REV. 933, 940 (1986).24)See, e.g., Committee for Public Education and Religious Liberty v.

Nyquist, 413 U.S. 756, 783 (1973); School Dist. v. Schempp, 374 U.S. 203,

223 (1963).25)Douglas Laycock, “Nonpreferential” Aid to Religion: A False Claim About

Original Intent, 27 WM & MARY L. REV. 875, 922 (1986).26)County of Alleghny v. UCLA, 492 U.S. 573, 628 (1989) (O’Connor, J.,

concurring).27)472 U.S. 38 (1985).28)Michael McConnell, Accommodation of Religion: An Update and a Response to

the Critics, 60 GEO. WASH. L. REV. 685, 686 (1992).29)472 U.S. at 96-106 (Rehnquist, J., dissenting).

Page 35: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

79アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

30)Id. at 113 (Rehnquist, J., dissenting).31) DANIEL O. KONKLE, CONSTITUTIONAL LAW: THE RELIGIOUS CLAUSES, 145-46 (2003).32)2 F. Supp. 2d 1448 (D. Wyo. 1998). 33)Id. at 1456.

34)382 F.3d 969 (9th Cir. 2004).35)Id. at 976.

36)Natural Arch & Bridge Soc’y v. Alston, 209 F. Supp. 2d. 1207, 1226 (D.

Utah 2001).37)2 F. Supp. 2d 1448 (D. Wyo. 1998). 38)Id. at 1449-51.

39)Id. at 1454-56.

40)209 F. Supp. 2d 1207 (D. Utah 2002).41)Id. at 1210-15.

42)Id. at 1222.

43)Id. at 1222-26.

44)See Jeff Pinter, Note, In Cases Involving Sites of Religious Significance, Plaintiffs Will Fall in the Gap of Judicial Deference That Exists Between the Religious Clauses of the First Amendment, 29 AM. INDIAN L. REV. 289, 301 (2005).

45)310 U.S. 296 (1940).46)319 U.S. 105 (1943).47)322 U.S. 78 (1944).48)374 U.S. 398 (1963).49)406 U.S. 205 (1972).50)476 U.S. 693 (1986).51)Id. at 707-12. 尚、桐ケ谷章・藤田尚則『政教分離の日米比較』(2001)214頁

以下参照。

52)David S. Johnton, The Native American Plight: Protection and Preservation of Sacred Sites, 8 WIDENER L. SYMP. J. 443, 448 (2002).

53)620 F.2d 1159 (6th Cir. 1980), aff’d 480 F. Supp. 608 (E.D. Tenn. 1979), cert, denied, 449 U.S. 593 (1980).

54)480 F. Supp. 608, 609-10 (E.D. Tenn. 1979).55)620 F.2d at 1163-65.

56)See Marcia Yablon, Property Rights and Sacred Sites: Federal Regulatory Response to American Indian Religious Claims on Public Land, 113 YALE L.J. 1623.

1629 (2004).57)Lyng v. Northwest Indian Cemetery Protective Ass’n., 485 U.S. 439,

442-45 (1988). 本件判決の評釈について、拙稿「政府によるアメリカ・インディ

Page 36: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

80

アンの聖地開発が『宗教の自由な活動条項』を侵害するものではないとされた事

例―Lyng v. Northwest Indian Cemetery Protective Ass’n., 108 S. Ct. 1319 (1988) ―」

創価法学第20巻第3・4合併号(1991)63頁以下参照。

58)Id. at 448-54.

59)858 F.2d 404 (8th Cir. 1988 ).60)Id. at 405-06.

61)Id. at 406-08.

62)See Yablon, supra note 56, at 1632 n.55. 

63)Charlton H. Bonham, Devils Tower, Rainbow Bridge and the Uphill Battle Facing Native American Religion on Public Lands, 20 LAW & INEQ 157, 165 (2002).

64)494 U.S. 872 (1990).65)See e.g., Stephen L. Carter, The Resurrection of Religious Freedom?, 107

HARV. L. REV. 118 (1993); Douglas Laycock, The Remnant of Religious Freedom, 1990 SUP. CT. REV. 1 (1990).

66)J. E. Wood Jr., The Restoration of the Free Exercise Clause, 35 J. CHURCH &

STATE 715, 720 (1993).67)42 U.S.C. §§ 2000bb to 2000bb-4 (1994).68)1997年6月、合衆国最高裁判所判所は、City of Boerne v. Flores (521 U.S.

507 (1997).)において、特に「宗教的自由回復法」が合衆国政府のみならず、州

政府にも適用される点で合衆国憲法修正第14条第5節に規定された合衆国議会の

執行権限を踰越するものであるとして、同法は違憲であると判示している。合

衆国最高裁判所判所は、本件において RFRA は州政府に適用される限りでは明

示的に違憲無効としたが、合衆国政府に適用される場合については合憲・違憲

をめぐって解釈が二分している。See Gregory P. Magarian, How to Apply the Religious Freedom Restoration Act Federal Law Without Violating the Constitution, 99 MICH. L. REV. 1903, 1915-17 (2001). その後、合衆国議会は厳格審査基準を復

活させるべく、さまざまな行動をとるが、紆余曲折を経た後、最終的には、2000

年7月27日、ゾーニング(zoning)等の土地利用規制並びに囚人、精神障害、

身体障害、入院患者等の被収容者に対する処遇に対して厳格審査基準の適用を

保障する「宗教的土地利用及び被収容者法」(the Religious Land Use and

Institutionalized Persons Act of 2000 (RLUIPA), Pub. L. No. 106-274, § 6,114 Stat. 803 (codified as amended at U.S.C. § 2000cc-4(2000).) を上下両院にお

いて全会一致で可決している。RLUIPAは、通例、“ar-lu-pa” と発音表記される。

RLUIPA については、See e.g., Shawn P. Bailey, The Establishment Clause and The Religious Land Use and Institutionalized Persons Act of 2000, 16 REGENT U. L.

REV. 53 (2003-2004).

Page 37: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

81アメリカ合衆国憲法修正第 1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

69)Kristen L. Boyles, Note, Saving Sacred Sites: The 1989 Proposed Amendment to the American Indian Religious Freedom Act, 76 CORNELL L. REV. 1117, 1118

(1990-1991).70)Howard J. Vogel, The Clash of Stories at Chimney Rock: A Narrative Approach

to Cultural Conflict over Native American Sacred Sites on Public Land, 41 SANTA

CLARA L. REV. 757, 787-79 (2000-2001).71)Pub. L. No. 102-575, tit. XL, 106 Stat. 4600, 4753-65 (amending 16 U.S.C. §§ 470-470x-6 (1988)).

72)Pub. L. No. 100-588, § 1(d), 102 Stat. 2983, 2983 (1988) (amending 16 U.S.C.

§§ 470aa-470mm (1988)).73)Pub. L. No. 103-141, 107 Stat. 1488 (codified in scattered sections of 5

and 42 U.S.C. §§ 2000bb-2000bb-4 (1993)).74)See Dean B. Suagee, Historical Storytelling and the Growth of Tribal Historic

Preservation Programs, 17 NAT. RESOURCES & ENV’T 86 (2002); Joel Brady, “Land is Itself a Sacred, Living Being” Native American Sacred Site Protection on Federal Public Land Amidst the Shadows, 24 AM. IND. L. REV. 153 (1999-2000).

75)Pub. L. No. 95-341, 92 Stat. 469, 42 U.S.C. § 1996 (Supp. Ⅳ 1980).76)124 CONG. REC. 21,444, 21,444-45 (1978). See George Linge, Note, Ensuring

the Full Freedom of Religion on Public Lands: Devils Tower and the Protection of Indian Sacred Sites, 27 B.C. ENVTL. AFF. L. REV. 307, 320 (2000). 

77)927 F. 2d 1028, 1038 (8th Cir. 1991). 78)485 U.S. 453, 455 (1988).79)See Yablon, supra note 56, at 1642.

80)50 F.3d 856 (10th Cir. 1995).81)Id. 857-58.82)Id. at 858-59.

83)Id. at 860-62.

84)177 F.3d 800 (9th Cir. 1999).85)Id. at 802-04.

86)Id. at 807. 本稿では、紙幅の関係上2事件にのみ言及したが、インディアン

部族との「協議」をめぐって争われた事件を扱った論稿として、See Derek C.

Haskew, Federal Consultation with Indian Tribes: The Foundation of Enlightened Policy Decisions, or Another Badge of Shame?, 24 AM. INDIAN L. REV. 21, 41-53

(1999-2000).87)Suagee, supra note 74, at 88.

88)Pueburo of Sandia v. United States, 50 F.3d 856, 858 n.1 (1995).

Page 38: アメリカ合衆国憲法修正第1条と アメリカ・インディアンの …religiouslaw.org/journal/wp-content/uploads/2014/02/...アメリカ合衆国憲法修正第1条とアメリカ・インディアンの聖地保護

82

89)Hobbie v. Unemployment Appeals Comm’n., 480 U.S. 136, 144 (1987).90)Lyng v. Northwest Indian Cemetery Protective Ass’n, 485 U.S. 439, 447

(1988).91)Id. at 449.

92)Id. at 452. See Act of Oct. 24, 2000, Pub. L. No. 106-351, 114 Stat. 1362

(codified at 16 U.S.C. § 431 note); Act of Dec. 31, Pub. L. No. 100-225, 101

Stat. 1539 (as amended 16 U.S.C. § 460uu et seq.).