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プレス発表資料3 令和元年7月3日 「福島県に生息する海水魚および淡水魚における放射性セシウム濃 度と汚染メカニズムの明確な違い」に関する論文を公表しました 福島大学環境放射能研究所 和田敏裕 准教授を代表とする研究グループは、 2 015 ~2 016 年に採集された魚類(計 13 種5 13 個体)を詳細に分析し、福島県に 生息する海水魚および淡水魚における放射性セシウム(134 Cs と137 Cs 、以下Cs 濃度と汚染メカニズムが明確に異なることを国際誌に公表しました。 ◆海水魚の Cs 濃度は明確に低下する一方、帰還困難区域内に生息する淡水魚の Cs 濃度は高い傾向を明らかに 本研究では、福島県の海域(福島第一原発から 6 .3 ~54 .5 km )および淡水域(渓 流域とため池:同 1.4 ~7 1.6 km )の複数の調査地点(図 1)において、2 015 2 016 年に採集された海水魚(7 種5 0 個体)および淡水魚(6 種463 個体)を測 定・比較分析し、各水域に応じた Cs 濃度を明らかにしました。 その結果、海水魚(すべて底魚類)では魚種や調査地点に関わらず Cs 濃度が一 様に低いのに対し(0.234 ~3 .4 1 Bq /kg )、淡水魚では調査地点ごとのCs 濃度の 違いが非常に大きく(4 .09 ~256 00 Bq /kg )、特に帰還困難区域内に生息する魚 種のうちサイズの大きな個体で Cs 濃度が高いことを明らかにしました(特に、 渓流域のヤマメやイワナ、ため池のオオクチバス)(図2 )。 ◆海水魚と淡水魚の Cs 汚染メカニズムの違いを明らかに さらに、各水域における水質や餌生物、魚種ごとの生理生態特性を加味し、海 水魚と淡水魚の Cs 汚染メカニズムの違いを明らかにしました。 海水魚では、餌生物の Cs 濃度の低下と Cs を排出しやすい生理的メカニズムが Cs 濃度の低下の主な要因と考えられました。一方、淡水魚のうち、ため池に生 息する魚種(コイ、フナ類、オオクチバス)では水域内での食物連鎖を通じた Cs の取込みと環境水中のカリウムイオン濃度が、渓流域に生息する魚種(ヤマ メ、イワナ)では餌生物(主に昆虫類)を通じた森林生態系とのつながりが、 各魚種の Cs 濃度に影響を及ぼす可能性を示しました。 国際誌のオープンアクセスとした本論文は、福島県に生息する海水魚と淡水魚 の Cs 汚染状況を、国内だけでなく海外に正しく伝える役割を担うことが期待さ れます 注釈 1) 。また、公表された結果は、原発周辺地域の将来的な漁業再開 注釈 2
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プレス発表資料3 - fukushima-u.ac.jp · プレス発表資料3 や地域復興に向けた基礎データとなることが期待されます。...

Sep 23, 2019

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プレス発表資料3

令和元年7月3日

「福島県に生息する海水魚および淡水魚における放射性セシウム濃度と汚染メカニズムの明確な違い」に関する論文を公表しました

福島大学環境放射能研究所 和田敏裕 准教授を代表とする研究グループは、

2015~2016 年に採集された魚類(計 13 種 513 個体)を詳細に分析し、福島県に

生息する海水魚および淡水魚における放射性セシウム(134Cs と 137Cs、以下 Cs)

濃度と汚染メカニズムが明確に異なることを国際誌に公表しました。

◆海水魚の Cs 濃度は明確に低下する一方、帰還困難区域内に生息する淡水魚の

Cs 濃度は高い傾向を明らかに

本研究では、福島県の海域(福島第一原発から 6.3~54.5 km)および淡水域(渓

流域とため池:同 1.4~71.6 km)の複数の調査地点(図 1)において、2015~

2016 年に採集された海水魚(7種 50 個体)および淡水魚(6種 463 個体)を測

定・比較分析し、各水域に応じた Cs 濃度を明らかにしました。

その結果、海水魚(すべて底魚類)では魚種や調査地点に関わらず Cs 濃度が一

様に低いのに対し(0.234~3.41 Bq/kg)、淡水魚では調査地点ごとの Cs 濃度の

違いが非常に大きく(4.09~25600 Bq/kg)、特に帰還困難区域内に生息する魚

種のうちサイズの大きな個体で Cs 濃度が高いことを明らかにしました(特に、

渓流域のヤマメやイワナ、ため池のオオクチバス)(図 2)。

◆海水魚と淡水魚の Cs 汚染メカニズムの違いを明らかに

さらに、各水域における水質や餌生物、魚種ごとの生理生態特性を加味し、海

水魚と淡水魚の Cs 汚染メカニズムの違いを明らかにしました。

海水魚では、餌生物の Cs 濃度の低下と Cs を排出しやすい生理的メカニズムが

Cs 濃度の低下の主な要因と考えられました。一方、淡水魚のうち、ため池に生

息する魚種(コイ、フナ類、オオクチバス)では水域内での食物連鎖を通じた

Cs の取込みと環境水中のカリウムイオン濃度が、渓流域に生息する魚種(ヤマ

メ、イワナ)では餌生物(主に昆虫類)を通じた森林生態系とのつながりが、

各魚種の Cs 濃度に影響を及ぼす可能性を示しました。

国際誌のオープンアクセスとした本論文は、福島県に生息する海水魚と淡水魚

の Cs 汚染状況を、国内だけでなく海外に正しく伝える役割を担うことが期待さ

れます注釈 1)。また、公表された結果は、原発周辺地域の将来的な漁業再開注釈 2)

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プレス発表資料3

や地域復興に向けた基礎データとなることが期待されます。

注釈 1)4 月 25 日にオンラインに掲載されてから間もないが、当該論文は、現在、

雑誌のダウンロードランキング 3位に位置している(25 位までが掲載)。 注釈 2)現在、福島県の海面漁業は活動が制限された「試験操業」を行っており、

原発から半径 10 キロ圏内は操業禁止エリアとなっている。なお、市場に流通し

ている海産物は県漁連の基準をクリアしたものであり、安全性が確認されてい

る。福島県の内水面漁業は、阿武隈川水系や請戸川水系など複数の水域で淡水

魚の Cs 汚染の影響により活動の休止を余儀なくされている。ただし、遊漁券が

販売されている会津地方や県南の河川・湖沼に生息する淡水魚の安全性は確認

されている。また、コイをはじめとする養殖魚の安全性は確認されている。

【誌名、巻号頁】

Journal of Environmental Radioactivity, 204 (2019): 132-142

【論文名】

Strong contrast of cesium radioactivity between marine and freshwater fish

in Fukushima

【著者及び所属】

和田敏裕 1、アレクセイ・コノプレフ 1、脇山義史 1、渡邉憲司 1、古田悠真 2、森

下大悟 3、川田暁 4、難波謙二 1,2 1福島大学環境放射能研究所 2福島大学共生システム理工学類 3福島県水産海洋研究センター 4福島県水産資源研究所

(お問い合わせ先) 福島大学 環境放射能研究所 事務室

電話:024-504-2114 mail:[email protected]

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プレス発表資料3

KM

SU FSIZ

40˚

35˚N

135˚E

日本

20 km

福島県

阿武隈川水系

請戸川水系

AKOG

TS

AD

3 km大熊町

OP

140˚

太平洋

200 m 水深10050

NP1

TSOGAK

IZSUFSKM

AD

渓流域のヤマメ ため池のコイ、フナ類 海域のヒラメ等

図1.福島県における魚類調査定点(上図黒点)。地図中の赤、橙、緑はそれぞ

れ、2019 年 2 月における帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域

を示す。採集された魚類(青枠)、および各調査定点の様子(下写真:上から海

域、渓流域、ため池)。定点 NP1 からは福島第一原子力発電所が確認できる。

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プレス発表資料3

0 10 20 30 40 50 60 70 80

10

8

6

4

2

0

沿岸海域

0 10 20 30 40 50 60 70 80

1000

800

600

400

200

0

KM ため池

0 10 20 30 40 50 60 70 80

8000

4000

0

IZ ため池16000

12000

137 C

s濃度

(Bq/

kg)

0 10 20 30 40

25000

20000

15000

10000

5000

0

OG 川

0 10 20 30 40

30002500

200015001000

5000

AK 川

0 10 20 30 40 50 60 70 80

8000

6000

4000

2000

0

SU ため池

0 10 20 30 40 50 60 70 80

10000

8000

6000

4000

2000

0

FS ため池

全長 (cm) 全長 (cm)

0 10 20 30 40

2000

1500

1000

500

0

TS 川

0 10 20 30 40

50

40

30

20

10

0

AD 川

ヒラメ

アイナメ

シロメバル

マガレイ

ヤナギムシガレイマコガレイ

ババガレイ

沿岸海域ヤマメイワナ

オオクチバスギンブナゲンゴロウブナコイ

渓流域

ため池

図 2.各調査地点で採集された各魚種の全長と 137Cs 濃度の関係(縦軸と横軸は

グラフ間で異なることに注意)。破線は、全長と 137Cs 濃度の指数関数式に統計的

に有意な関係が認められた魚種を示す。黒太線で囲まれたデータは、震災前に

生まれた個体(5歳以上)を示す。