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── 実 施 例 ──
ヒートポンプとその応用 2012.3.No.83─ 52 ─
■キーワード/空気熱源ヒートポンプ・CO2削減
㈱中電工 技術センター 多羅尾 直
ハウス栽培用空気熱源ヒートポンプ空調機の導入事例
2-2 設備概要(暖房熱源) ハウス栽培用空気熱源ヒートポンプ空調機×4基 加熱能力:18.0kW 冷却能力:16.0kW 施設園芸用温風暖房機(LPG焚) ×2基 加熱能力:105.0kW 送 風 量:11,400㎥/h
(温水熱源) ハウス向け鋼製簡易ボイラ(LPG焚) ×1基 加 熱 能 力:93.0kW 温水循環流量:133ℓ/min
(栽培補助設備) 光合成促進用二酸化炭素発生機(LPG焚) ×2基 発生量:6.89kg/h 発熱量:31.9kW 送風量:1,980㎥/h 園芸用プロペラファン ×12台 送風量:3,960㎥/h ハウス用顕熱交換機 ×4台 交換風量:500㎥/h 交換効率:80%
(その他) LPGバルクタンク ×1基 容量:900kg
1.はじめに きんた農園ベリーネは,島根県浜田市金城町に位置するいちご・ぶどうを栽培する観光農園である。平成22年にハウス2棟を増設し,平成23年1月のいちご狩りシーズンから4棟で営業を開始している。いちごは『さちのか』『紅(べに)ほっぺ』『章姫(あきひめ)』の3品種を,ぶどうは『ピオーネ』の1品種を栽培している。 きんた農園ベリーネでは,栽培ハウス内設備について各種方式を比較検討した結果,空気熱源ヒートポンプ空調機+温風暖房機(LPG焚)+鋼製簡易ボイラ(LPG焚)を組み合わせたハイブリッド方式を採用した。 本稿では,今回増設した野菜(いちご)ハウスの栽培設備を中心に,システムの1シーズン運用の結果とあわせて事例として紹介する。
2.工事概要2-1 建物概要農園名称 きんた農園ベリーネ建物用途 野菜・果物栽培所 在 地 島根県浜田市金城町構 造 ビニールハウス棟 数 栽培ハウス2棟増設(全9棟)栽培面積 野菜(いちご) 約50a(5,000㎡)4棟 果物(ぶどう) 約64a(6,400㎡)5棟工 期 平成22年7月〜9月設 計 合同会社あぐりこるWEST施 工 ㈱中電工 浜田支社
写真-1 野菜(いちご)栽培ハウス外観 写真-2 栽培ハウス内機械置き場
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3.栽培ハウス設備3-1 暖房熱源 ハウス暖房熱源はハウス栽培用空気熱源ヒートポンプ空調機と施設園芸用LPG焚温風暖房機のハイブリッド方式を採用している。ハウス内の加温は気温が10℃を下回る時期から実施する。 ハウス内温度は7℃以上(品種や時期により若干相違)を維持するが,ヒートポンプ空調機の運転を優先し能力が不足する冬季の夜間などにLPG焚温風暖房機を追いかけ運転する。図-1に栽培ハウス内設備の概略図を示す。 栽培ハウス1棟あたり,空気熱源ヒートポンプ空調機を2基,LPG焚温風暖房機を1基設置している。また,表-1に暖房熱源の比較表を示す。 ハイブリッド方式は,イニシャルコストが基準の3倍程度かかるが,ランニングコストが基準の半減となり,単純回収年数が5.5年となった。 全電化方式も比較検討したが,イニシャルコストが基準の5倍となるのに対して,ランニングコストはハイブリッド方式と同等であり,単純回収年数が10年となり採用には至らなかった。 ハイブリッド方式のLPG焚温風暖房機の能力とヒートポンプ空調機の能力・台数をシミュレーションした結果,ヒートポンプ空調機が4〜5台が最適となったため,ヒートポンプ空調機を2台×2棟の4基とした。
OAEA
SARA
ハウス用顕熱交換機×2 SA
SA
SA
SA
SA
SA
園芸用温風暖房機
OAEA RA
SA
ハウス栽培用空気熱源ヒートポンプ空調機 ×2
園芸用プロペラファン×6
給気ガラリ
図-1 野菜(いちご)栽培ハウス内設備概略図
写真-3 ハウス栽培用空気熱源ヒートポンプ屋内機
方 式
145×2 105×2 ―
― 18(25)×4 18(25)×10※ ※
6 24 50
1,206 705 638
65.2 29.9 25.2
基準
※ ( )値は最大能力を示す一次エネルギー換算値(省エネ法換算値による) LPG : 50.2MJ/kg 電力 : 9.76MJ/kWh
5.5 10.0
140×2最 大 加 熱 負 荷(kW)
温 風 暖 房 機(kW)
ヒートポンプ空調機(kW)
熱源分契約電力(kW)
イニシャルコスト比
ランニングコスト比
一次エネルギー消費量(GJ)
CO2 排 出 量(t-CO2)
単 純 回 収 年 数
100 310 500
100 51.0 48.5
LPG 焚 ハイブリッド 全電化
表-1 暖房熱源比較表(2棟分)
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3-2 温水熱源 栽培ハウス温水熱源はハウス向けLPG焚鋼製簡易ボイラを採用している。温水による循環加温は培地温度が15℃を下回る時期から開始し,栽培プランターの培土を14℃以上に保温している。 栽培ハウス2棟のプランターすべてをハウス向けLPG焚鋼製簡易ボイラ1台でまかなっている。表-2に温水熱源の比較表を示す。 ハイブリッド・全電化方式は省エネ・省環境負荷には貢献できるが,今回はイニシャルコスト面から,ハウス向けLPG焚鋼製簡易ボイラが採用となった。 鋼製簡易ボイラがハウス向けに特化した製品があるのに対して,ヒートポンプ加温機は農業用に特化した製品がなく,一般汎用品で比較せざるを得なかった。 今後,農業用に条件や能力を特化したヒートポンプ加温機の開発が望まれる。
3-3 栽培補助設備 高設栽培における光合成促進用として二酸化炭素発生機を設置している。LPG焚を採用し硫化酸化物,窒素酸化物の発生を抑えている。二酸化炭素濃度は500ppmから1,000ppmで11月中旬(果実肥大初期)から施用している。 園芸用プロペラファンはハウス内の空気環境を均質化するために設置している。図-1のようにハウスの長手方向に対して平行に設置しており,平面的な空気の流れはハウスの両外側から内側中心に回るように配置している。 また,カビや病害虫の発生原因となる高湿度を防ぐため,ハウス用顕熱交換機により換気をしている。外気を導入することによりハウス内の湿度を下げる効果があるが,同時に温度も低下するため,顕熱交換機により熱交換している。これにより暖房のランニングコストが削減できる。
方 式 LPG焚 ハイブリッド 全電化
93 46.5
60 60×2
1 17 32
100 500 800
100 106 102
442 332 309
22.8 14.3 12.2
(換算条件は表-1と同じ)
80最 大 加 熱 負 荷(kW)
鋼製簡易ボイラ(kW)
ヒートポンプ加温機(kW)
熱源分契約電力(kW)
イニシャルコスト比
ランニングコスト比
一次エネルギー消費量(GJ)
CO2 排 出 量(t-CO2)
表-2 温水熱源比較表(2棟分)
写真-4 ハウス栽培用空気熱源ヒートポンプ屋外機
写真-5 施設園芸用LPG焚温風暖房機
写真-6 園芸用プロペラファン
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本例では,栽培ハウス向けの温風熱源ではヒートポンプ方式に優位性があったが,温水熱源ではコスト面でLPG燃焼方式に優位性があった。これは温水熱源ではハウス栽培の条件に適したヒートポンプチラーがなく一般汎用品を比較対象としたことに要因がある。 ヒートポンプの最大メリットである熱移動を有効に利用できれば,農業分野には電化システムの大きな需要が見込めると考えられる。今後農業分野に特化した電化・ヒートポンプシステムの製品化が望まれる。 おわりに,本稿執筆にあたり,データ提供いただいた,㈲KKN,合同会社あぐりこるWESTの関係者の皆さまに深く感謝いたします。
4.運用実績 平成22年12月〜平成23年4月までの月別の電力量,ガス使用量を表-3に示す。個別に計量・計測は行っていないため,施設全体での消費量となる。 いちごシーズンでの実績エネルギーコストは138万円となり,試算エネルギーコスト135万円にほぼ一致した。実際には,実績エネルギーコストには電照設備の電気代も含まれており,それを考慮すれば栽培ハウスのみの試算エネルギーコストをクリアしていると考えられる。
現状,果物(ぶどう)栽培ハウスには冷/温熱源機器は採用していないが,今後育成状況を見て必要な熱源機器・栽培補助設備を導入していく計画である。なお,給水は井戸水を利用しており,コストは非常に安価である。
5.おわりに 農業分野では石油・ガス焚き方式のハウス栽培専用機器が多数製品化されており,電化システムのラインナップが未だ少ない状況にある。 近年の油価格高騰により,農業の安定経営の観点から石油燃焼方式からヒートポンプ加熱方式やそのハイブリッド方式へのシステム移行が進み始めており,農業への電化システムの普及に追い風が吹いている状況である。
写真-7 ハウス用顕熱交換機
写真-8 いちご生育状況
写真-9 ピオーネ生育状況
年
月 12月 1月 2月 3月 4月
平成22年 平成23年
電 力 量(kWh)
ガス使用量(kg)
エネルギーコスト(千円)
958
645
150
6,170
2,671
443
6,213
2,179
384
3,346
1,242
228
1,454
940
174
表-3 電気・ガス使用量