海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTEC R 23 (19、90 Mar.) 沖合浮 体式 波力 装 置 FOWAD の 実海域中諸特性の予測について 堀田 平 鷲尾 幸久 宮崎 武晃 沖合に浮遊して波エネルギーを効率良く吸収,変換する沖合浮体式波力装置(FO WAD)の実海域における波エネルギー吸収特性,消波特性,係留力特性および運動 特性などについて縮尺模型を用いた水槽実験結果をもとに推測することができた。 FOWAD は振動水柱型空気タービン方式の波力装置であり,装置内に有する複数の 空気室の開口部を波上側に向け,それぞれの空気室前方にプロジェクティングウォー ルを,後方に浮力部を張り出させることによって波エネルギー吸収効率を向上させ ると同時に,装置の安定性も向上させた装置であるOこの方式の装置は,波浪中とり わけ斜め方向から入射する波に対して動揺が小さく,これにより波エネルギー吸収 効率が向上し,実海域で平均的に30 % を得ることができることが明らかになった。 また係留力についても十分安全側にあることが,しかし消波性について は改良 の必 要があることが判った。 キーワード:海洋エネルギー,波力発電 Estimation of the Performance of the Floating Offshore Wave Power Device (FOWAD) in the Sea Hitoshi HOTTA*! Yukihisa WASHIO*2 Takeaki MIYAZAKI*2 The performance of wave power ahsorption, wave dissipation, mooring line ten- sion and oscillation in reqular and irreqular (long-crested and short crested) waves of the Floating Offshore Wave Power Device (FOWAD) were mesured and ana- lyzed by the scale model test in the wave tank, and avthors could estimate their peormances in the sea. FOWAD is an osclillating water column type device equiped with some units of air turbine generators, which turns its air chambers to the weather side of waves. *1 海洋開発研究部 *2 Marine Research and Development Department 141
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Estimation of the Performance of the Floating …...The performance of wave power ahsorption, wave dissipation, mooring line ten-sion and oscillation in reqular and irreqular (long-crested
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海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTEC R 23 (19、90 Mar.)
沖合浮体式波力装置FOWAD の
実海域中諸特性の予測について
堀田 平 鷲尾 幸久 宮崎 武晃
沖合に浮遊して波エネルギーを効率良く吸収,変換する沖合浮体式波力装置(FO
WAD)の実海域における波エネルギー吸収特性,消波特性,係留力特性および運動
特性などについて縮尺模型を用いた水槽実験結果をもとに推測することができた。
FOWAD は振動水柱型空気タービン方式の波力装置であり,装置内に有する複数の
空気室の開口部を波上側に向け,それぞれの空気室前方にプロジェクティングウォー
ルを,後方に浮力部を張り出させることによって波エネルギー吸収効率を向上させ
ると同時に,装置の安定性も向上させた装置であるOこの方式の装置は,波浪中とり
わけ斜め方向から入射する波に対して動揺が小さく,これにより波エネルギー吸収
効率が向上し,実海域で平均的に30 % を得ることができることが明らかになった。
また係留力についても十分安全側にあることが,しかし消波性については改良 の必
要があることが判った。
キーワード:海洋エネルギー,波力発電
Estimation of the Performance of
the Floating Offshore Wave Power Device
(FOWAD) in the Sea
Hitoshi HOTTA*! Yukihisa WASHIO*2
Takeaki MIYAZAKI*2
The performance of wave power ahsorption, wave dissipation, mooring line ten-
sion and oscillation in reqular and irreqular (long-crested and short crested) waves
of the Floating Offshore Wave Power Device (FOWAD) were mesured and ana-
lyzed by the scale model test in the wave tank, and avthors could estimate their
peormances in the sea.
FOWAD is an osclillating water column type device equiped with some units of
air turbine generators, which turns its air chambers to the weather side of waves.
*1 海洋開発研究部
*2 Marine Research and Development Department
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So, we can say it is one of the terminotor type wave power devices. But, it has
several projecting walls in front of each air chamber, and several buoyancy parts
behind each of them and a stabilizer at the bottom.
Due to these structures, the perfolmance and stability were improved over the
former terminator type device so, consequently we could find out that FOWAD
will perform with about 30% efficiency of wave power absorption average in the
ocean and moring line tension is within the limits of safety even in a rough sea
state, but the performance for the dissipation of waves should be improved. This
paper describes the results of the investigations.
Key word: Ocean Energy Utilization Plant, Wave Power Device
1 はじめに
近年,経済の成長率が緩和され社会が成熟する
につれて環境に対する人々の関心が高まりつつあ
る。勿論,これまでにも高度経済成長期には産業
廃棄物による公害が重大な社会問題となったこと
があったが,これは生産技術の進歩により多くは
解決された。しかし,安全に対する追求はいわば
限りなく,昨今では,より本質的な対策,つまり
生産装置 。施設自体の根本的な見直しもしくは存
在の是非についての検討を求める声が聞かれるよ
うになってきた。
その話題のうちの一つが化石燃料によって生じ
るC02の増大に起因するといわれている地球の
温暖化であり,海面の上昇である。これはエネル
ギーの根幹をなすものであり,それらの対策には
十分かつ極めて慎重な検討を要するが,いずれに
しても代替策について検討を進めておくことは必
要である。そして,そのうちの一つとして自然エ
ネルギーの利用がある。しかし,自然エネルギー
には無公害で永久に利用できるという特徴がある
反面,量,質および利用コストに少なからず問題
を含んでいる。そのため,いわゆる石油ショック
によってブームとなった。これに関する研究開発
も,その後の石油価格の低落によって急激に下火
になってしまった経験を持っている。
たとえば,将来の日本の電力供給系統に自然エ
ネルギー(水力を含まない)によるものが,高い
割合を占めるということは,総供給量が減少しな
い限り容易ではないことは予測できる。 しかし,
14 2
ローカルな,つまり僻地や遠隔地において限定さ
れた需要に対する自然エネルギー利用の可能哇は,
現状においてさえ十分残されている。それに加え
て前述したように,将来に向けてあらゆる機会に
クリーンなエネルギー源の研究開発を進めておく
ことは,次世代に対する我々の義務でもある。し
かも,これは我が国のみを対象として考えるので
はなく,海外においても十分活用されるように考
慮することも今後は不可欠である。このような状
況に適合するのが,波浪エネルギーを利用する波
力装置の研究開発である。
ところで,波力装置については,これまで数多
くの方式が提案され,そのうちの幾種類かのもの
について実海域実験までが行われた。海洋科学技
術センターでも,これらのうちの一つである浮体
式の振動水柱型空気タービン方式の波力装置につ
いて昭40 年代より研究開発を実施してきた。 そ
して,最近,波エネルギー変換効率,変換量,安
全性,経済性に加えて装置後方海域の静穏化にも
寄与する「沖合浮体式波力装置(Floating Offs-
hore Wave P ower D evice ; F O W AD )」 が 実 用
-一 一化 へ の 可 能 性 を 持 つ も の で あ る こ と が 明 ら か に な
りつつある。 FOWAD は,装置の長手方向を波
峰方向に合わせて波浪中に係留される波力装置で
あり,浮体式ターミネーター型波力装置とも呼ば
れる。著者らはこれまでに本方式装置の基本的な
特性について研究開発を進めてきたが1)` 2), こ
れにより波エネルギー吸収効率,消波特性ともに
「海明」7) 型装置に比べて優れ,係留力特性にっ
JAMSTEC R 23 (1990)
いても実用上問題がないことが明らかにされた。
また,実海域の波浪条件下でも十分にそれらの機
能を発揮することが,前報1)で明らかにされた。
しかし,いずれも波浪,水槽もしくは模型などが
限定され,実海域での実機稼働時に対して多くの
拘束条件下での結果とならざるを得ず,定性的に
も定量的にも汎用性のある特性を見出すには到っ
ていなし、。また,そのため FOWADに関する設
計法についても指針を示すことができていなかっ
た。そこで,著者らは,まずこれまでの経験と実
績をもとに想定設置海域における最適な FOWA
Dを求め,これの縮尺モデルを 3ユニット設計 ・
製作した。そして, これを用いて実海域波浪を再
現できる大型水槽において各種の計測を行い,各
特性について解析を行った。本実験においては,
縮尺 1/40に想定し, 3ユニットの模型を並列
に水槽中に配置し,正面規則波,斜め規則波,一
方向(長波峰)不規則波(; long crested wa ves)
および多方向(短波峰)不規則波(; short crest-
ed waves)中において, FOWADの空気出力,
波浪中運動,係留カおよび FOWADに対する入
射波・透過波などを計測し,波エネルギー吸収特
性,運動特性,係留力特性および消波特性などに
ついて解析を行った。
その結果,実海域において FOWADが十分機
能を発揮しまたその定性的・定量的傾向につい
ても把握することができ,一方そのための FOW
ADの設計法についても明確にすることができた。
本報では,これらについて述べる。
2 沖合浮体式波カ装置
沖合浮体式波力装置 (FOWAD)は, これまで
浮体式ターミネーター型波力装置として基本的な
波エネルギー吸収特性,係留力特性および基本構
造などが著者らによって検討されてきた1)-6)。
また,振動水柱型空気タービン方式の波力発電装
置について,アテニュエーター型浮体装置である
「海明J7)や波打ち際に固定された「沿岸固定式
波力発電システムJ8) の実海域実験の成果があり,
さらに防波堤に組み込むための 「波力発電ケーソ
ン」についての高橋ら 9)および合田らゆの報告が
ある。また,振動水柱型の装置の波エネルギー吸
収効率を向上させる手段とし“ハーパー効果"が
JAMSTEC A 23 (1990)
あるが, これについても Malmoω や著著者
らゆゆ によって既に報告されている。 ここでは,
それらの知見をもとに従来の浮体式ターミネーター
型波力装置の復原性能を高めつつ波エネルギ、ー吸
収性能を向上させ, しかし建造コストは増大させ
ないような,いわゆる最適型の沖合浮体式波カ
装置;(FOWAD)の縮尺模型を設計,製作した。
2. 1 装置の基本構成
波力装置は,①存在する平均波エネルギー量,
②空気タービンの最適規模,③建造・設置及びメ
ンテナ ンスの容易さ等を考慮すると,装置一基あ
たりの規模はコンパクトなものとして, これを需
要規模に合わせて適宜複数基を配列する方式が適
している。
2. 1. 1 空気室
FOWADは波進行方向に直角に配置されるの
であるから,その波エネルギー吸収メカニズムは
前報にも示したように振動水柱の非対称運動ωlこ
依るものである。したがって,空気室の設計にあ
たっては,高橋らの行った波力発電ケーソンにつ
いての検討結果9)を適用することができる。それ
によれば,空気室奥行き(波進行方向寸法)は卓
越波浪の波長の 10---14%程度であり,実機スケー
ルにおける卓越周期(これを利用対象周期とする)
を7秒とすれば,最適奥行きは約8m程度とな
る。
一方,空気室幅は,入射波の空気室当りの波エ
ネルギー量とそれを吸収するための負荷装置(振
動水柱型装置の場合は空気タービンもしくはノズ
Jレ〉とのマッチングならびに全体構造強度上の観
点から決定される。後者については,詳細な構造
設計を必要とするのでここでは言及しない乏して,
前者についての検討を行う。
まず, i沿岸固定式波力発電システム」に使用
された同型タービンが,直径1.3m, ロータ一一
枚当り環状流路断面積 O.6185 niでありゅ, これ
を“ノズル負荷"としたときのノズル面積に換算
するには環状流路断面積にローターの枚数 (2枚〉
とタービンノズル換算係数(約 1/16)を乗ずれば
良いので約 0.2niとなる。このノズルにマッチ
する空気室は最適ノズル比(ノズル面積/空気室
面積)が 1/100---1 /150程度であることか
らm,空気室面積として少なくとも約 30niを必
143
要とすることが判る。
一方,最大かっ低コストのウェルズタ ービンと
して,著者らの 1人が検討した結果によれば附直
径2.3m程度のタンデム型のウェルズタービンが
得られる。したがって, このタービンを用いた場
合の最適な空気室は,前述と同じ面積比が適用さ
れるのであるから,約3.13倍つまり約 94rrfとな
る。前述したように奥行きは 8mとしているの
であるから,空気室の最適幅は約 12mとなる。
ところで,実海域における波パワ ーPWは次式
で推定できるとされている則。
P w • . O. 49 H s2 • T s ……ー(1)
乙乙で,Hs ;有義波高 (m)
H s ;有義波周期〔秒〕
乙れに, r海明J第二期実験時の山形県由良沖
の平均的な波浪条件として,
H s = 1. 6 Ih, T s = 7秒を代入する と,
Pw均 9.3kW/m20)を得る。
幅12mの装置に入力する波パワーは約 112kW
であり,空気出力効率を 40%,タービン効率を 40
%,発電機効率を 90%とすると,平均的な発電
出力は約 16kW, したがって定格は荒天の安全を
考慮して約 150kWとする。「沿岸固定式波力発電
システム」が定格40kWであり,これが波エネル
ギーがかなり減衰する波打ち際に設置されていた
ことを考慮すると, FOWADめ幅 12mの一つの
空気室に搭載する発電機の定格を 150kWとする
こと,およびタービン径も 2.3mとすることは妥
当であることが確かめられる。 カーテンウオー
ル没水深さ d(図 1参照)は,固定式および浮体
式それぞれの装置について次のような値が採用さ
れる。
( 1 )固定式 ;d = O. 25 Hmax9) (ただし,
L. W. L.を基準水面とする。)一一一1)
乙乙で, Hmax;設計最大波高
( 2)浮体式・ f
'T均 2π"j1 owc / f[ 12)一 一 一 一2)
乙乙で, T;利用対象波浪周期
g;重力加速度
10ωc;振動水柱長さ
144
(=-?+{d+す一})
a; 空気室奥行き
b;ff関口高さ (".aが最適)
ただし, これは空気室にハーパーなどが取付け
られていない場合である。
本ケースでは 2)を用い,T= 7秒, α=8mと
して最適な dを求めると約4mとなる。しか し,
これにハーパーを取付けるとdはこれより小さな
値で最適となる。よって,ここではd=2mとす
る。
H一一一一 a一一ー一一→
:・..昼 '.,JL.
立 一一d 十一一
b
図 1 空気室概略断面図
Fig.1 Scheme of sectional plan of the air
':'chamber
2. 1. 2 全体構造
前項で、述べた空気室を波峰方向つま り波の進行
方向に直角に複数個並べ, これを 1ユニットとす
る。これより 1ユニットあたりの総計の出力を増
大させ,出力あたりのコストを低減することがで
きる。ただし, 1ユニットの全長には建造,設置
およびメンテナンスに加え,出力特性などを考慮
すると最適値が存在するO
(1) 建造
本装置は,浮体式であるため,装置の長手方
向を波峰方向に合わせるとしても,波浪中で生
じる hogging,saggingによる曲げモーメン ト
は小さくない。したがって,現在までの実績か
ら鋼構造とすることがまず考えられる。その場
JAMSTEC R 23 (1990)
合, これを建造する船舶建造用ドックの規模か
ら装置寸法の最大値が設定される。しかし, コ
ンクリート構造もしくは複数の鋼構造物を洋上
で接合する技術が適用できるような場合にはこ
の限りではない。
(2) 設置
建造地から設置地点、までの装置の運搬および
設置作業つまり係留作業などの難易度,安全性
および経済性,さらに係留装置の規模などの要
因に依ってもユニットの規模は定められる。ま
た,他の船舶等の航行や漁船の操業等に障害と
ならないよう配慮することは不可欠であり,周
囲の景観とマッチするよう考慮することも必要
になってきた。
(3)メンテナンス
20--30年間にわたって稼働させようとする
と,その期間中に幾度かの点検,補修作業を必
要とするO その作業内容および装置規模により,
装置を係留システムから外し建造用ドックまで
運搬して実施するケース,および現場で管便な
作業で十分なケースなどがあり,これらも十分
考慮したうえで装置の規模を決めなければなら
ない。
以上の諸条件を考慮すると波力装置の適正な規
模はほぼ一般的な船船と同程度となることが推定
される。したがって, ここでは装置の規模を波力
発電装置「海明J(長さ 80m)と同程度とする。
なお,本装置はターミネーター型であるため,
波エネルギー吸収効率特性は装置の奥行きと波長
の比の関数となり,装置の全長には概ね影響され
ない。しかし,前報にも述べたように,長手方向
に並べた複数の空気室の波エネルギー吸収効率つ
まり出力は均一ではなく,両端のそれが他と比べ
僅かで、はあるが低くなっている。しかし,総合出
力に与える影響はさほど大きくないため,装置長
さの決定にあたりこれを考慮することは重要では
ない。また,当然のことではあるが,浮力部分も
不可欠であり,これを含んだ構造としなければな
らない。以上の諸点を鑑み,図 2に示すような,
ハーパー付き空気室を 5室有する全長 72mの装
置を最適型のーっとする。なお,図中に本装置の
運動モードについても示しておく。
Yaw
Surge UROII
Pitch
-し、EEJm
m
・-t
t
n
u
rEL
むWave
図 2
Fig.2
供試模型と 6成分の運動
FOW AD model and 6 components of motion
JAMSTEC R 23 (1990) 14ラ
こでは目的としていないので,係留ラ イン本数,
アンカー ・中間シ ンカ ーなどの有無および仕様な
どについては厳密に考慮していない。
2.3 複数配列
総計としてより多くの波エネルギーを吸収し,
かっ,より広い静穏海域を造成するために,前述
した装置(FOWAD)を複数基配列する必要があ
る。 しかし,この配列方法については,浮消波堤
について幾例かが報告されているだけであり,定
量的な検討および最適配列のための指針は,明確
になされていなし、。 したがって, 本報においてこ
れについて詳細について検討する ことは避け,単
純な配列状態における FOWADの各種特性につ
いて述べるこ ととする。
ここで採用 した配列状態は,三基の FOWAD
を装置長手方向の一直線上に各基の間隔を L/ 2
2. 1. 3 空気タービン・発電機
各空気室に搭載する空気タービン・発電機につ
いては,その製造コストを考慮しつつ,振動水柱
の運動に対し“最適負荷"とするべく,その規模
を決定する必要がある。2.1. 1にも述べたように,
“最適負荷"のための条件は,ノズ、ル比で 1/100
,..._, 1 /150程度であり,これに合うように空気ター
ビンを設計する。また,発電機についてはこれも
前述したように,入力エネルギー量とその変動お
よび極値予測のための統計的な諸量な らびにター
ビン規模を考慮しなければならない。
2. 2 係留システム
設置海域の想定水深を「海明」実験と同程度と
し 40mと設定した。 したがって, 経済的な観点
から,係留は索鎖による弛緩係留を採用するこ と
とした。ただし,係留システムの詳細な設置をこ
大波高造波装置(ダブルフラ ッフ。型)
50m
E
OCN
恥乾ゾ
-kぽ僚制
Ocean l Basin ;
分割型j2i皮装置(144ユニット)
50∞
llA
昇降床
! :1L=-J= ====J~[==,n j ili
A-A'
L一
JAMSTEC A 23 (1990)
実験水槽 (OceanBasin)
Scheme of the wave tank (Ocean Basin )
図 3
Fig.3
146
作した。模型の寸法図を図4に,外観を写真1に,
主要諸元を表 1に示す。なお,負荷は“ノ ズ、ル負
荷"とし,模型天端の各空気室の中心にノズル比
1/120の開孔を設けた。材質は空気室部が厚
さO.2mm,底板が厚さ 2mmの鋼板であり,
FOWADモデル諸元
Principal particulars of FOWAD
model
表 l
Table 1
1,800mm
400mm
350mm
50mm
5室
25mm
250α1m
400mm
200mm
全長〈波峰方向長さ〉
奥行〈波進行方向長さ〉
カーテンワオール没水深さ
空気室数
ノズル直径
空気室部
t事力部
底板部
高さ
喫水
(L;装置全長)だけ離して係留したものである。
3 実験
実験はノルウェー ・トロンハイムにある MAR
INTEK社所有の OceanBasinにおいて 1989年 3
月に実施した。実験には,当社で製作された 3ユ
ニットの FOWAD模型を用い,規則波中から実
海域を再現した多方向不規則波中まで,波エネル
ギー吸収特性などの基本特性が調べられた。
3. 1 実験水槽
実験に使用した OceanBasinは図 3に示すよ
うに長さ 80m,幅 50m,水深o"" 10m (可変)
の大型平面水槽であり,側方二面に造波装置,ま
た海流発生装置および風発生用ファンも備え,海
象を忠実に再現できる水槽として世界的に名高
い幼。 とりわけ,水槽の長手方向の側壁に設けら
れた造波装置は分割型(スネーク型もしくはMu-
lti-Flap型とも呼ばれる)の装置であり, これ
で,多方向不規則波 (Short-CrestedWave)を
発生することができるm。
なお,本実験においては水深は 1.0mに設定し
7こ。 30.0Kg
87mm
約2.1sec
重量
R 0 1 1固育周期
KG 3.2 FOWAD模型
製作した FOWAD模型は 2章において述べた
装置の 1/40の縮尺模型と して, これを 3基製
,a'e'BE
unit;mm
h
司‘.. ‘.可』司幽司個"""・"a"e・・"・-a司
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市民o 。4
' . , u 一 ... ~
1-47
FOWAD模型寸法図
Plan of the FOW AD model
図 4
Fig.-4
JA'MSTEC R 23-(1990)
写真 1 供試模型
Fhoto 1 FOW AD model
浮力部分は硬質のウレタンを用いた浮力材である。
表面は各部とも十分滑らかで、あり,さらにペイン
ト塗装を施した。
係留は各ユニ ットともに4本のチ ェーンを用い
て弛緩係留状態で図 5および図6に示すように係
留した。使用したチェーンは,水中重量 0.053k
g/mのものであ り,これを各ラインとも 4mと
しTこ。
なお,正面 G餓機方向)に向かい右側のユニッ
トを No.l,中央のユニットをNo.2,左側のユニッ
トを NO.3と称することとする。
3.3 計測
計測は波,装置の運動,空気圧力,係留力につ
Moorin[ foree raure
金
いて,サンプリングタイム O.06秒でデジタル量
に変換しかっコンビュー ターに記録しつつ下の
要領で行った。なお,計測点の配置概略図を図 7
に示す。
(1) 波 ;各ユニットの中心線上の装置前方お
よび後方に,すなわち各ユニットに
ついて入射波,透過波を,また 3基
のユニ ットの長手方向中心線上の側
方(1点)で通過する波を計測した。
とりわけ,中央ユニ ットの前 ・後方
では波の方向成分も計測するため各々
8点のサーキュラー・アレイ (直径
1. Om)を配置した幼。なお,波高
計は図7中の WHで示される 1,......,2
1までの.であり,また波検定にお
いて中央ユニットO位置でも計測を
行った(WH22)。波高計のセ ッテン
グ状況を写真 2に示す。
(2) 運動;図2中に示す Heave,Roll, Sway, P
itch, Surge, Yawの6成分の装置の
運動を中央ユニッ トについてのみ計
測した。なお,計測には非接触型運
動計測装置として MARINTEKが
開発した OptopOS24)を使用した。な
お,本装置は浮体内の任意の 1点お
よびその点のまわりの 6成分運動を
出力することができるが,本実験に
Wau
urinr line 1" ".0 m
(0.053 ~ÍlI in Water)
図 5
Fig. 5
実験配置図(係留状況)
Mooring condition of the FOW AD
148 JAMSTEC R 23 (1990)
lIuker
II
Wan
hlQDrio& Jina
WUu deptb 1.0
, ・ ーーーー
c;:・由
15J
m
Wu・IaTsorber ullit j
M削 n(line (1=4.0 m)
l 1
実験配置図(全体平面図)
Setting conditon of 3 units of the FOW AD
l4 l 5
W u e maker
l8 l 9
図 6
Fig.6
l 12
φ1.0
pressurelfUre P 1
Mf3
X
-岡
Moorinl
F伊沢
Mf 4
山山主|
よへ!ロ==ニ
宮『芸当E--u、-
N.N
-W幽
』勺F
.8
。l2
[unit;mJ l3 l6
~ L7 l10 l11
149
実験配置図(計測点詳細)
Setting condition of mesuring points 図 7
Fig.7
R 23 (1990) JAMSTEC
写真 2 波高計設置状況
Photo 2 Setting scene of wave deteclors (the
bottom ofthe wave tank was risen up)
写真 3 空気圧力計
Photo 3 Air pressure gauge
おいては浮体中央,中心線上 (0位置)の静水面高さの点に関する運動
を計測・解析した。
(3) 空気圧力;各ユニットの 5つの空気室のう
ち全て中央の空気室に付いてそれぞ
れ空気室内の圧力変動を計測した。
1ラO
計測した空気室は図 7中の P1 t P
2およびP3である。なお,使用し
た圧力計は ENDEVCO社のピエゾ
型圧力変換器 8510-15であり, こ
れを写真3に示すように天端を越波
して来る波によって濡れないよう取
り付けた。
(4) 係留力;中央ユニットにつながれた4本の
係留ライン全てについて係留ライン
張力変動を計測した。計測点は図 7
中のMF1 ---MF 4である。計測は
リングゲージによって行い,これを
各ラインの装置への取付部につない
だ。ただし, MF 1については実験
中に計測不能となったため,ここで
はMF2およびMF3によって取得
されたデータをもとに解析を行った。
3.4 解析方法
3.4. 1 入射波カエネルギー
(1) 規則波
規則波の持つ波エネルギーの計算には,著者
らがこれまでに用いてきた手法を用いた。すなわ
ち,単位長さ当りの波エネルギ-E;ωは次式で、得
られるとした。
Ew = HJi . T w [kW/m]………………(3 )
乙乙で, Hw;波高 [mJ
Tw ;波周期 [sec]
したがって,空気室一つあたりに入射する波エ
ネルギー ω は,空気室幅 bを乗じ,
eω= Ew . b [kW] ………………(4)
とする。
(2) 不規則波
不規則波中波エネルギーは合国防の記述に従っ
て,次式で求めた。
Ew '. O.49Hs2
• THS [kW/m] …・・・(5)
乙乙で,Hs ;有義波高
T HS ; 有義波周期(均Tpll.05)
T p ; スペクトルピーク周期
JAMSTEC . R 23 (1990)
空気室あたりの入射波エネルギーは,規則波
と向様に,これに空気室幅bを乗じる。
なお, これは一方向不規則波中および多方向不
規則波中ともにこの計算法を用いた。
3.4.2 空気室出力
(1) 規則波空中気出力
規則波中空気出力 P。は,空気圧力のピーク
値 Pa[kg/m2Jを用いて以下の計算ででた25)。
ん =Ccon . Cave
.♂万air . S n
. Cn . 1ん1%
[W] ...・H ・..(6)
乙乙で,Ccon ;単位換算係数(".(9. 807
[W Ikg . m/sec])
Cave ;平均定数(.. 0.4244)
ρ。ir; 空気密度(員0..1229[kg.se<flm4]
。t15) S n ; ノズル面積 [m~]
C n ;ノズル縮流係数(=O. 65)
P a ; 空気室内圧力変動ピーク値[kg/m2]
空気室出力効率九=んleωx100 [労]
… ( 7)
(2) 不規則波中空気出力
不規則波中での空気出力を求めるには,データ
収録の時刻刻み毎に空気出力を計算し,それらを
集計して平均値を求める方法が最も精度が高いが,
本実験においては,データの O値のドリフト(オ
フセッ トの変動)が大きいため次の方法を採用し
た。
まず,不規則変動する空気圧力の値がゼロクロ
スする毎に各々その振幅値(最大値)p,αmpとゼ
ロクロス聞の時間(半周期)T'劃を求める。そして,
それらを規則波中空気出力の解析法と同様の以下
の計算法に代入し,空気出力の平均値Pαveを求
める。
Pave = [ Ccon・CaveJ2iρair . S n . Cn・
i{|PaU% ル 0,i} ] I Ttotal
[W] ……・ (8)
乙乙で, i ; t番目の空気出力変動振幅(およ
び半周期)
n;空気出カ変動振幅(および半周期)
の総数
Ttotal; n個の空気出力変動振幅に要する
総時間
空気出力効率はむは規則波中空気出力と
同様に,次式で得られる。
マ。 =Pave x ew x 100 [%]……… (9 )
3.4.3 消波特性
消波特性は,規則波中および不規則波中ともに
表 2に示す各ユニットの前方および後方における
波高比(入射波高/透過波高)より求めた。なお,
不規則波においては,波高として有義波高を用い,
この有義波高はパワースペクトラムの標準偏差に
4.004を乗じて求めた値とした紛。
3.4.4 係留力特性
係留力は,計測時間内の最大値Fmαxおよび
入射波に応答する変動値の両振幅Fαmpが計測
され,いずれも次式で無次元化した。
表 2 消波特性計測点 (WH;図7参照)
Table 2 Wave detector number for measurment of the transitted