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近い将来,高い確率で発生すると考えられている東海,東南海,南海地震などの大地震では,東京・名古屋・大阪など の堆積層の厚い平野部で長周期地震動がより増幅する恐れがあることが最近の研究で指摘されています。そのため,長 周期地震動の影響を受けやすい,超高層ビルや免震建物などの固有周期の長い建物における耐震設計では,通常の地震 に加え,遠方で発生する大地震に対しても長周期地震動による影響の評価と対策が必要になっています。本研究では, 鉄骨造の超高層ビルを対象として,長周期地震動を想定した多数回の繰返し変形を受ける柱梁接合部の限界性能を把握 することを目的に実大試験体を用いた構造実験を行いました。 長周期地震動を受ける超高層ビルは,揺れが継続する時間が長く,従来の耐震設計で想定されていたよりも多くの繰返 し変形を受けます。実験では,構造上最も重要な柱梁接合部梁端溶接部を対象に,既往の実験データの少ない小振幅領 域(塑性率 3 以下)における一定変位振幅載荷実験と長周期地震動による応答を想定した 2 種類の変動変位振幅載荷実 験を行いました。実験で得られた耐力低下までの繰返し数は部材の疲労寿命として評価され,変位振幅と疲労寿命の関 係で表される疲労曲線は耐震設計の重要な指標として用いられます。 実験の結果から,超高層ビルで多用される現場溶接形式(フランジ:現場溶接,ウェブ:高力ボルト摩擦接合)と工場 溶接形式(フランジ,ウェブとも工場溶接)の 2 種の梁端接合形式について疲労曲線を得ました。また,地震応答のよ うな変動振幅履歴下の疲労寿命予測に用いられる Miner 則の妥当性を検証しました。本成果を用いることにより,長周 期地震動に対する鋼構造柱梁接合部の耐震性能を適切に評価することが可能となりました。 *1 技術センター 建築技術研究所 建築構工法研究室 *2 設計本部 構造Ⅲ群統括 *3 ( 独 ) 建築研究所 特 集 08 長周期地震動対策 REPORT OF TAISEI TECHNOLOGY CENTER 2012 NO.45 08 実験状況 梁フランジの破断 鋼構造柱梁接合部 現場溶接形式 工場溶接形式 荷重 10 1 0.1 1000 100 10 1 変位振幅(塑性率) μ 疲労寿命N u 工場溶接形式 H-600 現場溶接形式 H-600 長周期地震動に対する鋼構造柱梁接合部の耐震性能 安田 聡 *1 ・成原 弘之 *1 ・関 清豪 *2 ・長谷川 隆 *3 Seismic Performance of Welded Beam-to-column Connections against Long-period Earthquake Ground Motions Satoshi YASUDA, Hiroyuki NARIHARA, Kiyohide SEKI and Takashi HASEGAWA
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長周期地震動対策 08 長周期地震動に対する鋼構造 …...08 長周期地震動対策 REPORT OF TAISEI TECHNOLOGY CENTER 2012 NO.45 08 鋼構造柱梁接合部 実験状況

Aug 29, 2020

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Page 1: 長周期地震動対策 08 長周期地震動に対する鋼構造 …...08 長周期地震動対策 REPORT OF TAISEI TECHNOLOGY CENTER 2012 NO.45 08 鋼構造柱梁接合部 実験状況

近い将来,高い確率で発生すると考えられている東海,東南海,南海地震などの大地震では,東京・名古屋・大阪などの堆積層の厚い平野部で長周期地震動がより増幅する恐れがあることが最近の研究で指摘されています。そのため,長周期地震動の影響を受けやすい,超高層ビルや免震建物などの固有周期の長い建物における耐震設計では,通常の地震に加え,遠方で発生する大地震に対しても長周期地震動による影響の評価と対策が必要になっています。本研究では,鉄骨造の超高層ビルを対象として,長周期地震動を想定した多数回の繰返し変形を受ける柱梁接合部の限界性能を把握することを目的に実大試験体を用いた構造実験を行いました。

長周期地震動を受ける超高層ビルは,揺れが継続する時間が長く,従来の耐震設計で想定されていたよりも多くの繰返し変形を受けます。実験では,構造上最も重要な柱梁接合部梁端溶接部を対象に,既往の実験データの少ない小振幅領域(塑性率 3 以下)における一定変位振幅載荷実験と長周期地震動による応答を想定した 2 種類の変動変位振幅載荷実験を行いました。実験で得られた耐力低下までの繰返し数は部材の疲労寿命として評価され,変位振幅と疲労寿命の関係で表される疲労曲線は耐震設計の重要な指標として用いられます。

実験の結果から,超高層ビルで多用される現場溶接形式(フランジ:現場溶接,ウェブ:高力ボルト摩擦接合)と工場溶接形式(フランジ,ウェブとも工場溶接)の 2 種の梁端接合形式について疲労曲線を得ました。また,地震応答のような変動振幅履歴下の疲労寿命予測に用いられる Miner 則の妥当性を検証しました。本成果を用いることにより,長周期地震動に対する鋼構造柱梁接合部の耐震性能を適切に評価することが可能となりました。

*1 技術センター 建築技術研究所 建築構工法研究室*2 設計本部 構造Ⅲ群統括*3 (独 ) 建築研究所

特 集

08長周期地震動対策

REPORT OF TAISEI TECHNOLOGY CENTER 2012 NO.45 08

実験状況 梁フランジの破断鋼構造柱梁接合部現場溶接形式 工場溶接形式

荷重

10

1

0.1 1000100101

変位振幅(塑性率) μ

疲労寿命Nu

工場溶接形式 H-600現場溶接形式 H-600

長周期地震動に対する鋼構造柱梁接合部の耐震性能 

安田 聡*1・成原 弘之*1・関 清豪*2・長谷川 隆*3

Seismic Performance of Welded Beam-to-column Connections against Long-period Earthquake Ground Motions Satoshi YASUDA, Hiroyuki NARIHARA, Kiyohide SEKI and Takashi HASEGAWA