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Energy Technology Perspectives 2014 (エネルギー技術展望) Harnessing Electricity’s Potential (電力の潜在的可能性を活用する) エグゼクティブサマリー Japanese translation
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Energy Technology Perspectives 2014 - International … Technology Perspectives 2014 (エネルギー技術展望) Harnessing Electricity’s Potential (電力の潜在的可能性を活用する)

May 13, 2018

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Energy TechnologyPerspectives 2014 (エネルギー技術展望)

Harnessing Electricity’s Potential (電力の潜在的可能性を活用する)

エグゼクティブサマリー

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国際エネルギー機関

その主な使命はこれまでも、そして今日も次の二つである。石油供給の物理的途絶に対して加盟国が集団的に対処することで、エネルギー安全保障を促進すること。加盟29か国、および

その他の国々に対し、信頼できる、手頃な価格の、かつクリーンなエネルギーを確保するための方策について、権威ある調査分析を行うこと。IEAは、加盟国間のエネルギー協力に関する包括的

プログラムを実施している。各加盟国は、石油純輸入量90日分に相当する備蓄を義務づけられている。IEAの目的は次の通りである:

n あらゆる種類のエネルギーにつき、特に石油供給が途絶された場合に効果的な緊急対応を行う能力を維持することによって、加盟国に確実かつ十分な供給へのアクセスを確保すること。

n 特に気候変動の要因となる温室効果ガスの削減を通じ、グローバルな経済成長および環境保護を向上させる持続可能なエネルギーを促進すること。

n エネルギーデータの収集および分析を通じ国際市場の透明性を向上させること。

n エネルギー効率の改善や低炭素技術の開発及び活用等を通じ、 将来のエネルギー供給を確保し、環境への影響を軽減するエネルギー技術に関するグローバルな協力を支持す

ること。

n 非加盟国、産業界、国際機関、その他の関係者との取り組みや対話を通じ、グローバルなエネルギーの課題への解決策を見出すこと。

IEA加盟国: オーストラリア

オーストリア ベルギー

カナダチェコ

デンマークエストニア

フィンランドフランス

ドイツギリシャ

ハンガリーアイルランド

イタリア日本韓国

ルクセンブルクオランダニュージーランド ノルウェーポーランドポルトガルスロバキアスペインスウェーデン

スイストルコ

英国米国

欧州委員会もIEAの活動に参加している。

本出版物の使用および配布は 制限されている。利用条件はオ

ンライン上に公開されている。 http://www.iea.org/

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© OECD/IEA, 2014International Energy Agency

9 rue de la Fédération 75739 Paris Cedex 15, France

Secure Sustainable Together

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© OECD/IEA, 2014.

IEA加盟国: オーストラリア

オーストリア ベルギー

カナダチェコ

デンマークエストニア

フィンランドフランス

ドイツギリシャ

ハンガリーアイルランド

イタリア日本韓国

ルクセンブルクオランダニュージーランド ノルウェーポーランドポルトガルスロバキアスペインスウェーデン

スイストルコ

英国米国

欧州委員会もIEAの活動に参加している。

エグゼクティブサマリー

2014年版の Energy Technology Perspectives (ETP: エネルギー技術展望)は、政策と技術が一丸となって今後40年にわたりエネルギー部門を変革していく原動力-反動的なツールではなく-となる道筋を描いている。近年の技術動向や市場、エネルギーにかかわる事象は、それらが世界全体のエネルギーシステムに影響力を及ぼし得ることを示している。また、エネルギー安全保障、コスト、エネルギーが原因の環境への影響といった懸念に対処しつつ、増加するエネルギー需要を満たす必要性がいよいよ急務となっている中で、政策が果たす中心的役割についても明らかにしている。エネルギー供給と最終用途の積極的な変革には抜本的な行動が必要である。

ETP 2014は、2050年までの世界的な見通しを500以上の技術選択肢により、エネルギーシステムの全体にわたる様々なシナリオの下で分析しているほか、政策支援と技術の選択が経済性、エネルギー安全保障、環境要因によって牽引される持続可能なエネルギーの未来へと至る道筋を模索している。将来のエネルギーシステムでは電力の重要性が高まるという前提から出発し、ETP 2014は電力の発電、送配電、最終消費のための持続可能な選択肢の展開を支えるために必要な行動を掘り下げている。

ETP 2014は、2050年までのエネルギーの未来について以下の3つの可能性を分析している。

■ 6℃シナリオ(6DS):世界が現在進んでいる、破滅的な結果をもたらしかねないシナリオ。

■ 4℃シナリオ(4DS):排出量の削減とエネルギー効率の改善に向けた各国の公約を反映したシナリオ。

■ 2℃シナリオ(2DS):温室効果ガスと二酸化炭素(CO2)の排出量を削減した持続可能なエネルギーシステムの展望を提示するシナリオ。

現状と最近の動向は、Tracking Clean Energy Progressで取り上げ、低炭素エネルギー技術の進歩と停滞について寸評している。全体として、ETP 2014は、エネルギー部門の関係者、政策当局、産業界の役割を明らかにしつつ、長期的なエネルギー政策目標のための環境整備をするために短中期的に講じることができる必要かつ実現可能な措置について広範に解説している。

エグゼクティブサマリー 3

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世界のエネルギー動向はエネルギー需要と経済成長の分離が進展していることを示しているが、ボトルネックと不確実性も明らかにしているETP 2014の2DSは、世界の人口増加と経済成長を、エネルギー需要から、石油からさえも、切り離し得ると裏付けている。 6DSの場合、近年の動向を2050年まで延長すると、世界のエネルギー需要は2011年の水準から70%増加し、排出量は60%以上増加することになる。人口と国内総生産(GDP)伸びを同じだとすると、2DSの場合の抜本的行動を採用すれば、エネルギー効率は劇的に改善し、需要の伸びは25%強に抑制され、排出量は50%以上削減される。この2つのシナリオの最も著しい違いのひとつは、6DSでは石油が最も重要な一次エネルギー担体であることに変わりはなく、需要が45%増加するのに対し、2DSでは政策と技術選択により石油需要は30%削減される、ということである。

太陽エネルギー、水力、陸上風力は、開発が他のクリーンエネルギー供給のために混合されているものの、現在順調に増えている。 クリーンエネルギー技術への前向きな投資見通しに関しては、政策の確実性が依然として極めて重要である。陸上風力と太陽光発電(PV)から発生するエネルギーの単位コストは、これまでよりペースが鈍化したとはいえ、2013年も引き続き減少した。革新的な市場デザインなどにより、陸上風力と太陽光発電のコスト競争力は改善している国もある。適応性に優れているにもかかわらず、集光型太陽熱発電所の整備には非常に時間がかかり、コスト低下の速度も鈍い。世界の原子力発電容量は現時点では停滞している。これは、新原子炉の稼働により容量は小幅増加しているものの、経済協力開発機構(OECD)加盟国における老朽化した発電所や採算が合わなくなった発電所の閉鎖によって相殺されているためである。2050年の2DS目標達成までの中間地点を展望すると、2025年の世界の原子力発電容量は必要とされる水準を5~24%下回る可能性が高く、先行き不透明感が強いことを示している。

新興諸国は、低炭素エネルギー技術整備への意欲が高く、その先頭に立とうとしている。 新興市場諸国は、欧米における再生可能エネルギー発電の伸びが鈍化ないし変動性を強めている分を十二分に埋め合わせたが、2013年における世界の太陽光発電の伸びの半分以上はアジアによるものである。中国では、都市部の大気の質を改善する手段としてクリーン輸送を支援する大胆な措置により、電動二輪車数が約1億5,000万台になるとともに電動バスの導入も増えた。世界のハイブリッド車および電気自動車販売台数は2013年に過去最高を記録したが、それでも2DSに沿った数字には及ばなかった。

石炭使用量の継続的な増加は、近年再生可能エネルギーの利用が増えたことから排出量が削減されてもその分は帳消しにされており、石炭発電所の効率改善と炭素回収貯留(CCS)を強化する必要性が改めて浮き彫りになっている。 2010年以降の石炭火力発電の伸びは全ての非化石燃料源を合わせた発電の伸びを上回っており、20年来の傾向は継続している。この10年間に建設された新規の石炭発電容量の60%は、商用化されている石炭発電技術のうち最も効率の悪い亜臨界圧型だった。CCSの先行きは不透明である。現時点では、コストの高さや政治的および財政的関与の欠如などにより、CCS技術の進歩は遅々としている。気候変動目標の達成に向けた長期的かつコスト競争力のある整備を確保するためには、CCSの研究、開発、実証の短期的な進展が必要である。

2DSの場合、化石燃料使用量は2050年までに減少するが、産業、運輸、発電用の使用が特に重要な役割を果たしていることを反映し、化石燃料が一次エネルギー供給に占めるシェアは引き続き40%を超える。 各業界がどの程度再生可能エネルギー源を自らのプロセスに導入できるかは、最終製品の性質や様々な運用上の制約によって、かなりの幅がある。CCSは、エネルギー利用による炭素と製造工程から生じる炭素のいずれの排出分を回収するためにも必要である。運輸部門では、エネルギー密度の高さが燃料の重要な特徴となっている。在来型化石燃料を別にすれば、陸運、航空、海運といった非グリッド連結型の長距離交通

4 エグゼクティブサマリー

© OECD/IEA, 2014

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エグゼクティブサマリー 5

手段を支えられそうなのは、バイオ燃料と水素エネルギーのみである(都市部では様々なバッテリーや充電といったオプションを用いることで、もっと容易に電気自動車が可能になる)。2DSの場合でも、2050年までに電力構成は炭素排出量の少ないものに大幅に移行し、発電の大半でCCSを導入するが、依然として発電の20%は化石燃料に依存する(2011年の70%からは低下)。

2DSの場合、世界の排出量削減に最も大きく寄与するのはエネルギー効率の改善であるが、長期的な目標を達成するには他の技術と組み合わせる必要がある。 2050年までに6DSから2DSへ累積的な排出量を削減するには、38%はエネルギー効率の改善、30%は再生可能エネルギー、14%はCCS、残りは燃料の切り替えと原子力によるものとなる。2DSの場合、全ての最終利用部門でエネルギー効率は大幅に改善する。運輸部門では、自動車全体の燃料経済性が予測期間末までに2倍に改善することで、旅行はほぼ倍増しても、この部門のエネルギー使用量は横ばいを維持する。産業は、利用可能な最良技術の採用や、場合によってはリサイクル原料の使用と関連してよりエネルギー集約度の低いプロセス経路の普及により、エネルギー使用量を25%削減する。建物におけるエネルギー需要は、世界の床面積が70%以上拡大するにもかかわらず、建物の快適さを低下させたり、家庭や企業に家電や電子機器の購入削減を義務付けたりしなくても、増加は11%にとどまる。

電化の拡大が世界のエネルギーシステム全体の原動力となる世界全体で見て、電力需要の伸びは他の全ての最終エネルギー担体の需要の伸びを上回っている。この結果、エネルギーの供給と最終利用のいずれをも一変させる可能性が生じている。 1970年代以降、電力がエネルギー需要全体に占める割合は9%から17%へと上昇している。全てのシナリオを通じて、世界全体で電力のシェアは25%へと上昇するが、電力需要は2050年までに2DSの場合で80%、6DSの場合で130%増加する。しかし、実際の需要の伸び率は地域により大幅に異なる。OECD諸国はほぼ横ばいで推移し、平均で16%の需要増となる。非OECD諸国の需要は300%もの急増となる。ETP 2014は、再生可能エネルギー発電の普及や運輸および建物の電化の拡大などの変数を分析し、供給面と最終利用面において電化の限界を押し広げる可能性を探っている。

電化への移行は中立的ではない。実際、脱炭素化には、発電を化石燃料に依存し続けてきた近年の動向を大きく反転させる必要がある。 2DSの目標を達成するには、電力の単位当たりCO2排出量を2050年までに90%削減しなければならない。電力需要は増加しているがCO2排出原単位にはほとんど変化がなく、電力からのCO2総排出量は1990~2011年で75%増加しているという現在の動向が続けば、電力関連の排出量は危険なまでに増加する。一部の国がこのまま発電用に輸入化石燃料を使用し続ければ、エネルギー安全保障上のリスクが高まるとともに、燃料供給の不安定さが明らかになり、競争力の問題が生じる。これに対し、2DSは、CO2排出原単位を大幅に引き下げ、燃料輸入を削減し、最終利用の効率性を高めれば、電力需要の伸びを抑制できることを示している。

© OECD/IEA, 2014.

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© OECD/IEA, 2014

図 1 OECD加盟国と非加盟国の電力需要と電力の割合、4DSと2DSの比較

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注:TWh=テラワット時。特に注記がない限り、本章の全ての図表はIEAのデータおよび分析による。

キーポイント 電力需要の伸びはOECD加盟国と非加盟国では異なるが、主な傾向は、エネルギー構成全体に占める電力の割合が高まっているということである。

電化を拡大させるには、利害関係者の調整を強化し、需給を劇的に変える必要がある再生可能エネルギー技術の目覚ましい進歩は、供給の未来像を一変させつつある。 2011年時点でまだ化石エネルギー担体が世界の電力構成において一次燃料の3分の2を占め、近年の需要増の大半を満たしていたとしても、これは確かなことである。この数年間、風力発電と太陽光発電が2桁の成長を記録したことなどにより、2011年には再生可能エネルギーの割合が世界全体で20%まで押し上げられた。2DSでは、その割合が2050年までに65%に達する可能性がある。2DSの再生可能エネルギー拡大シナリオ(2DS hi-Ren)では、太陽エネルギーは2040年までに主流の電源となり、2050年までに世界発電総量の26%を供給するようになる。

2DSの場合、中期的に見ると、再生可能エネルギーの変動性と、ベースロード発電および調整発電の両方を供給する天然ガスの柔軟性が、強力な相互作用を働かせるようになる。 ガス火力発電がよりクリーンなエネルギーシステムの2つの要素を下支えする。再生可能エネルギーの系統連系強化と石炭火力発電の代替である。エネルギーシステムにおいてガス火力発電の役割がどのくらい増えるかは、その地域にどれくらいの資源があるかということと発電構成によって異なる。ガス火力発電が柔軟な稼働体制を整えていけば、発電技術の間で競争が働くようになる。内燃エンジン、オープンサイクルガスタービン、コンバインドサイクルガスタービン(CCGT)、さらには燃料電池まで魅力的なものとなる可能性がある。再生可能エネルギー電力の大胆な整備計画を策定している地域では、ガス火力発電所の全負荷効率よりも、部分負荷効率や傾斜率(ランプ速度)、ターンダウン比、起動時間の方がより重要である。石炭とガスのいずれが競争で勝つかということは、技術の改善より、CO2排出の経済性や燃料価格によって決まる。石炭とCO2の価格が低ければ、相変わらず使われている石炭発電所は十分に適応性があり、今後も採算ベースに乗ることになる。

6 エグゼクティブサマリー

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© OECD/IEA, 2014.

CCSが整備されない限り、天然ガスはよりクリーンなエネルギー技術への橋渡し役としてのみ見るべきである。 2DSの場合、2025年以降、ガス火力発電所のCO2排出量は世界の電源構成の平均的なCO2排出原単位を上回り、天然ガスは低炭素燃料としての地位を失う。2DSの目標を達成するには、ベースロード発電を担うガス火力発電所はCCSを整備する必要があるということを認識しつつ、ETP 2014は石炭火力発電とガス火力発電の両者にCCSを適用した場合のコストと利益を比較した。結論を言えば、二酸化炭素トン(tCO2)当たりのコストはガスの方が石炭より高いが、低排出電力のコスト比較では、ガスの方が石炭火力発電より魅力的である。炭素価格が100米ドル/tCO2前後だとすると(また、ガスと石炭の価格についても合理的な想定をすると)、CCSを導入したCCGTはCCGTのみの場合より均等化発電コスト(LCOE=levellised cost of electricity)が低く、CCSを導入した超臨界微粉炭発電より割安である。

電力部門を脱炭素化すれば、エンドユースの投資をさらに増やさなくても、最終部門からの排出量削減による波及効果が得られる。 しかし、2DSの排出量目標の達成を含め、脱炭素化電力のシェア増大による恩恵を十分に活用するには、電化と最終利用の取り組みを組み合わせた包括的アプローチが必要となる。発電容量を拡大する必要を抑制し、電力網全体にわたって投資コストを削減するためには、消費効率の改善と需要管理の適用が極めて重要である。

Box 1 ETP 2014の国別事例研究:インドの電化

インドの電力需要は今後10年で2倍以上増加する見込みであり、電力部門は見込まれる経済成長に十分な電力を供給することと、現在電気を利用できない3億人の市民に電力を供給することという、2つの大きな課題に直面している。

インドが最も豊富に抱えている一次エネルギー資源は石炭で、現在、電力の68%は石炭によって賄っている。インドの石炭火力発電所の平均効率は33.1%と低く、CO2排出量(キロワット時当たりCO2排出量:gCO2/kWhは1,100グラム超)は、世界の先進水準(750gCO2/kWh)を大幅に超えている。亜臨界圧発電所の建設を停止し、より効率的な技術を奨励する政策だけでは、必要とされるCO2排出量の削減を達成するには不十分である。さらに、化石燃料への依存を続けると、インドは石炭とガスの国内供給分を輸入で大幅に補わなければならなくなる。

インドが、地熱やバイオマス、小水力発電などの利用も拡大しつつ、風力発電や太陽光発電の豊かな潜在的能力をより一層活用しようとする大胆な計画を打ち出していることは称賛に値する。原子力発電所や大型水力発電所の増設は、グリッドの渋滞の管理や、変動性再生可能エネルギーの発電容量を統合する一助となる。

需要の伸びが見込まれることで、インドはエネルギー部門の投資家にとって魅力的な投資先となるはずである。新プロジェクトの高い資金調達コストを引き下げるには、複雑な行政手続きや投資リスクの問題に対処することが極めて重要である。

建物のエネルギー効率を高める包括的アプローチの一環としてヒートポンプを整備した建物の電化を進めれば、天然ガス需要を大幅に削減することができる。 冷暖房や冷温水用のヒートポンプを使用すれば、天然ガスの代わりに電力を使うことができる。2DSの建物電化(2DS-EB)シナリオでは、欧州連合(EU)と中国を中心に、暖房用と温水用の両方についてヒートポンプの整備が2DSの水準を超えた場合を検討している。EUにおけるガスのシェアは2011年の34%から2050年には2DSの場合には32%、2DS-EBの場合にはさらに25%まで低下する。中国では2011年の建物における天然ガスのシェアは約6%だった。2DSでは、大幅な経済成長と都市化が見込まれることで、2050年の中国の建物のエネルギー消費量は24%増加する。(ヒートポンプによる)暖房および温水の需要増により、この2つの目的に使われる天然ガスの割合は約20%に増える。2DS-EBでは、ヒートポンプ技術の整備強化により、こうした天然ガス需要の伸びの大半は回避され、建物向け

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© OECD/IEA, 2014

電力需要の全体的な伸びも緩和される。EUでは2DSの場合より需要が約4%減少し、中国の需要も約4%の増加にとどまる。

2DSの場合、運輸(輸送)の電化が進むと、燃料経済性の改善、燃料の切り替え、新たな自動車技術と合わせて、全体の電力需要を大幅に増やすことなく、運輸部門の石油使用量が大幅に削減されることになる。 2DSでは、個人輸送、公共旅客輸送とも急速に電化が進み、鉄道貨物輸送の電化も拡大する。2DSの運輸の電化(2DS-ET)シナリオでは、大型車の電化に必要なインフラの整備まで含まれ、2050年には同レベルの運輸活動向けの石油需要はさらに5%削減される。運輸は極めて石油依存度が高いため、徐々に電化を進めていくだけでもエネルギーの大幅な節減に繋がる。2DSの場合、電力は2050年の運輸部門の総エネルギー需要の11%を占めるのみであるが、運輸部門の効率改善の約50%にあたる。しかし、積極的に電化を進めても、運輸部門が電力需要に占める割合は15%以下にとどまる。

「システム思考」の枠組みが最適な部門横断的な統合を可能にする発電、送配電(T&D)、電力消費の各段階に沿った技術の選択と導入が、統合型電力システムをコスト効率よく開発していく上で極めて重要な役割を果たす。 エネルギー関係者の間では、効率的かつ適応性があって信頼性の高い安価な運用を支えるクリーンで強靭なシステムを構築するには、長期的に供給部門、T&D部門、需要の各部門の全域にわたる様々な技術や政策を統合していく必要がある、ということが広く認識されている(図2)。移行期において特に重要となるのは、電力システムへの投資を最適化し、風力発電と太陽光発電が主流となる未来のシステムの効率的な管理を確保するための「システム思考」である。このアプローチは、全ての利害関係者に、既存インフラの利用を最適化し、研究、開発、実証、整備を統合志向型にするよう促すためにも必要である。

電力貯蔵は統合型低炭素電力システムにおいて多くの役割を果たすことができる。ただし、ETP 2014の分析によれば、貯蔵そのものが変革をもたらすことはない。 電力システムにおいて電力貯蔵がどのような役割を果たすかは、システム全域にわたる開発の状況によって異なる。揚水発電(PHS)は現在、整備されている電力貯蔵全体の99%を占めており、依然として多くの貯蔵アプリケーションにとって非常に適したものである。PHSに並ぶほどの容量レベルで整備されている技術はまだ存在しないが、その他にも様々な技術も登場してきている。電力貯蔵技術がもたらす柔軟性は、電力システムにおいて変動性のある再生可能エネルギーの占める割合が高まるにつれ、その価値を増すだろう。しかし、これらのサービスにとって、貯蔵技術は、より強固な内部系統、相互接続、需要サイドの統合、柔軟な発電といった他の資源と競合するようになる。現在の市場構造の下では、コストが貯蔵技術普及の大きな障害となっている。短中期的に最も魅力的な整備機会を有しているのは、周波数調整、負荷追従性、電力貯蔵向け系統外応用技術であり、これらはコスト削減に拍車をかける可能性がある。しかし、大半の市場では、電力貯蔵が整備されるのは、より経済的な解決策が最大化されてからだろう。

8 エグゼクティブサマリー

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エグゼクティブサマリー 9

図 2 未来の統合型インテリジェント電力システム

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キーポイント 電力システムの全ての要素を高度に統合すると、複雑さは増すが、エネルギー資源と投資の最適化を実現しつつ、運用性、効率性、強靭性が高まる。

太陽光発電の収斂とE-モビリティによる需要増のスマートカップリングが実現すれば、この両方の技術の普及が助長されるだろう。太陽光発電と電力貯蔵の組み合わせが、新たな可能性を拓く。 電気自動車と家電による電力需要の増加を効果的に管理すれば、既存のインフラおよび技術の有効活用と新たなオプション利用の最適化によって、統合型システムの運用を下支えすることができる。電気自動車の充電をうまく管理しなければ、需要のピークはさらに高まる恐れがあるが、日中とオフピークの充電をうまく管理編成すれば、負荷曲線の平準化や、太陽光発電の統合が容易になる。電化の分野では、負荷管理、相互接続、柔軟な発電、貯蔵容量などはどれも太陽光発電の大部分を統合するために利用できるものであり、費用対効果を競うことができる。小規模な電力貯蔵と組み合わせた太陽光発電パネルは送電線網を利用しない場合に適しており、遠隔地における電力アクセスを提供することができる。

政策、資金、市場で世界のエネルギーシステムの積極的変革を支援するETP 2014が提示するデータによれば、2DSに沿ってエネルギーシステムを脱炭素化するために2050年までに必要とされる追加投資額は44兆米ドル1、燃料費の節減額はこれより多い115兆米ドル以上である。したがって、燃料費は正味で71兆米ドル節減される。

1 特に注記ががない限り、全てのコストおよび価格はインフレを除いた実質ベースの2012年米ドル。

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10 エグゼクティブサマリー

10%の割引率で計算しても、正味の節減額は5兆米ドルを超える。統合型エネルギーシステムの潜在力を発揮させ、こうした燃料費の節減を達成するためには、よく調整された政策アプローチを用いてエネルギーシステムとそれを支える市場を積極的に変革しなければならない。必要な資金手当てがまだなされていないことから、FTP 2014では、投資家はどのようにリスクとリターンを評価するのかを精査している。結局この分析から、エネルギー部門はLCOEを利用しているのに対して、投資家は正味現在価値を重視しているという、食い違いがあることが明らかになっている。競争市場の枠組みの中で低炭素電力発電所(再生可能エネルギー、原子力、CCS)の建設資金を調達するには、予測不可能な将来の炭素価格、ガス価格、石炭価格を含め、変動する可能性がある発電からの収益源に関連したリスクを埋め合わせるだけのリターンが必要となる。

現在、エネルギー市場に参入しつつあるクリーン技術から得られた教訓によれば、規制と市場の変革は、その競争力を含め、個々の技術の潜在的可能性を後押しすることもあれば、障害となることもある。 これまでのところ、低炭素投資は、(再生可能エネルギー電力の)固定価格買取制度、発電量に基づく補助金、導入割当制度などの支援スキームに牽引されてきている。各国政府は、これらのメカニズムが今でも有効なのか、あるいは新たなオプションに替える必要があるのかを評価する必要がある。サポートメカニズムを伴う規制化された環境から市場に基づくアプローチへと移行すれば、投資家が晒されるリスクは大幅に高まる。この結果、技術投資家にとって先行き不透明な炭素市場と卸電力価格のリスクも高まり、別の相殺措置が必要となる可能性がある。革新的なビジネスモデルは、新技術(エマージングテクノロジー)が新たなニッチ市場を捉える効果的な手段となる場合もある。例えば、電気自動車は、世界の自動車販売台数に占める割合は1%未満しかないが、近年世界各国で導入されているカーシェアリングプログラムでは10%以上を占めている。カーシェアリングのビジネスモデルは、電気自動車の購入に踏み切れない理由となっている高額な初期費用と走行距離に対する懸念から利用者を解放してくれるからである。

炭素価格化制度という刺激策を導入しない場合、それに代わる政策措置によって低炭素投資を競争市場に呼び込むことが必要となる。 炭素価格を高く設定することは、政府が必要な低炭素投資を刺激し得る政策手段として有力な可能性を持っていることに変わりはない。炭素市場がない場合には、技術整備のイノベーション、政策行動、投資が進展を可能にする。例えば、ETP 2014によれば、炭素原単位を下げることを重視している国や運輸部門の輸入石油の割合が高い国は、E-モビリティを大規模に整備すればすぐにも大きな恩恵を受けることができる。低炭素電動輸送最大化指数(LETMIX=Low-Carbon Electric Transportation Maximisation Index)によれば、現在でもすでに世界の国々の27%以上は、電気自動車(モードを問わず)によってCO2排出量を大幅に削減することができる。LETMIXは、運輸の電化がどの国で最大の恩恵をもたらし得るか、そしてそれにかかる期間も特定している。 ただし、多くの運輸技術の解決策はモードごとに異なり、大規模なインフラ整備も必要とされる。

ETP 2014は、技術が成熟すると、技術支援メカニズムを補完しながら、政策、規制、市場にとっての新たな革新的選択肢が利用可能となることを実証する。 スマートグリッド技術は、例えばこれまでよりはるかに分散型の発電や需要対応を可能にすることで、電力システムの技術的運用や電力市場発展のための新たなオプションを提供するだろう。広範囲にわたる都市交通の電化は、土地利用、歩行、二輪車走行、ネットワーク化されたモビリティ、低炭素電力などのための統合計画に含めることができる。エネルギーシステムの統合を強化するための様々な技術オプションを評価すれば、国や地域がそれぞれのニーズに最も適したエネルギーシステムを設計、計画、運用するために利用できるソリューションの範囲は広がる。世界のエネルギーシステムを真に変革する市場、規制、政策が適応できるように積極的に支援するために、エネルギー技術を利用することができる。

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本文書の原文は英語である。 IEAは本和訳が原文に忠実であるようあらゆる努力をしているが、

多少の相違がある可能性もある。

Page 14: Energy Technology Perspectives 2014 - International … Technology Perspectives 2014 (エネルギー技術展望) Harnessing Electricity’s Potential (電力の潜在的可能性を活用する)

将来のエネルギーシステムでは電力がますます重要な進路になるということを前提として、2014年版のEnergy Technology Perspectives(ETP:エネルギー技術展望)は、電力の発電、送配電、消費のための持続可能な選択肢の展開をサポートするために必要な行動を詳しく分析している。ETP 2014は、500以上ある技術の選択肢に対して様々なシナリオの下で2050年までの世界的な見通しをモデル化しているほか、以下の6分野で「限界を超える」可能性を探っている。

n 太陽エネルギー:おそらく2050年までに主流の電源となる

n 低炭素電力システムにおける天然ガス

n 運輸の電化: E-モビリティはどう石油に取って代わるか

n 電力貯蔵:コスト、価値、競争力

n 低炭素発電のための資金調達

n インドにおける発電事情

2006年の初刊以来、ETPは、最適な政策支援と技術選択が、経済性、エネルギー安全保障、環境要因によって牽引される持続可能なエネルギーの未来へと至る道筋を描き出す報告書となっている。

n テーマを絞った書籍と論考で、特にタイムリーな主題や分野横断的な課題を探っている。

n 『クリーンエネルギー進捗報告書(Tracking Clean Energy Progress)』は、複数の技術間の相互作用を示しつつ、多様な分野における進歩を寸評する年次刊行物である。

n ETPによる分析を背景に、IEAの『技術ロードマップ(Technology Roadmap)』は様々な技術分野にわたる変革の潜在的可能性を評価するとともに、普及に向けた行動と中間目標を概観している。

全体として、本シリーズは、エネルギー部門の関係者、政策当局、産業界の役割を明らかにしつつ、長期的なエネルギー政策目標のための環境整備をするために短中期的に講じることができる必要かつ実現可能な措置について広範に解説している。2015年版では気候変動の目標を達成するための技術イノベーションの役割、2016年版では都市のエネルギーシステムについて取り上げる予定である。

ETP 2014は誰の役に立つのか。これまでもETPは、エネルギー分野の専門家(技術アナリストや研究者など)、政策当局、政府首脳、さらにはビジネスリーダーや投資家なども含め、広範囲にわたる多様な読者の注目を集めている。これは、ETPの詳細かつ透明性の高い計量モデル分析と包括的な解説によるもので、これらが最終的にハイレベルな政策メッセージを支えるものとなっている。

双方向的ツールとより広範なデータについては、IEAのウェブサイトをご参照いただきたい。 www.iea.org/etp2014

Energy Technology Perspectives 2014Harnessing Electricity’s Potential