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63 2008.7 金属資源レポート M&A はじめに 鉱業分野におけるM&Aは、件数、規模、スピード等において目を見張るものがある。以前は石油等エネル ギー・メジャーに比べ資源メジャーと呼ばれる企業は話題性もあまりなく、市場における影響も大きくなかったが、 昨今の資源需要の急拡大、価格高騰を背景に一気に資源の寡占化が進み、我が国の原料調達にも大きな影響を及ぼ しつつある。 ここでは、1990 年央から現在までの鉄、アルミを含む M&A の流れを数字で追いつつ、M&A を行っている企業 の戦略と効果について、いくつかの企業に焦点を当て、簡単に分析してみることとする。 また、カナダで鉱業 M&A を行うには、その手順のみならず、法令、税制の適用について十分に知っておく必要 がある。係る観点から JOGMEC バンクーバー事務所は、Deloitte Touche Tohmatsu(以下“Deloitte”)に依頼し、 鉱業 M&A に関し調査報告書を作成したのでその概要を紹介する。 鉱業 M&A の検討事項と法令、税制への 考慮について 武富 義和 前バンクーバー事務所長 [email protected] 175
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鉱業M&Aの検討事項と法令、税制へのmric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/...2007 Sherritt International カナダ 100 Dynatec カナダ 1,491 2005 Xstrata Canada

Jul 13, 2020

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632008.7 金属資源レポート

レポート

鉱業M

&A

の検討事項と法令、税制への考慮について

はじめに鉱業分野における M&A は、件数、規模、スピード等において目を見張るものがある。以前は石油等エネル

ギー・メジャーに比べ資源メジャーと呼ばれる企業は話題性もあまりなく、市場における影響も大きくなかったが、昨今の資源需要の急拡大、価格高騰を背景に一気に資源の寡占化が進み、我が国の原料調達にも大きな影響を及ぼしつつある。

ここでは、1990 年央から現在までの鉄、アルミを含む M&A の流れを数字で追いつつ、M&A を行っている企業の戦略と効果について、いくつかの企業に焦点を当て、簡単に分析してみることとする。

また、カナダで鉱業 M&A を行うには、その手順のみならず、法令、税制の適用について十分に知っておく必要がある。係る観点から JOGMEC バンクーバー事務所は、Deloitte Touche Tohmatsu(以下“Deloitte”)に依頼し、鉱業 M&A に関し調査報告書を作成したのでその概要を紹介する。

鉱業M&Aの検討事項と法令、税制への考慮について

武富 義和前バンクーバー事務所長[email protected]

(175)

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2008.7 金属資源レポート6464

レポート

鉱業M

&A

の検討事項と法令、税制への考慮について

1.M&A の実態1-1. 世界の M&A の流れ

1994 年から 2008 年 3 月までの世界における M&Aは 1,965 件に上るが、その中でも金に係るものが圧倒的に多く、累計数は 760 件を超え全体の 4 割程度を占めている。銅は第 2 位で 186 件で 9%、次がニッケル、フェロアロイとなっている。その他ダイヤモンド、アルミ、プラチナの M&A が多い。全体としては 1994年以降、2003 年まではほぼ増加傾向にはあるといえるが、それ以降は、金、銅を中心に増減しながら継続的に M&A が行われている。

一方、金額ベースで見てみると、2006 年が 1,963 億US $、2007 年が 3,051 億 US $と突出しており、2 か年のみで 1994 ~ 2008 年までの累計の 6 割を占めていることが判る。

ま た 100 億 US $ 以 上 の 大 型 案 件 に つ い て 限 定してみると、多角化では 2007 年 BHP Billiton ⇒ Rio Tinto(1,500 億 US $、※進行中(買収提案ベース))、2006 年 Xstrata ⇒ Falconbridge(149 億 US $)、2001年 BHP ⇒ Billiton(140 億 US $)、 ア ル ミ で は 2007年 Rio Tinto ⇒ Alcan(381 億 US $)、2006 年 Rusal-Russky Alumini ⇒ Siberian-Urals Aluminium Co.(300億 US $)、 鉄 鋼 で は 2006 年 Mittal ⇒ Arcelor(405億 US $)、2007 年 Tata Iron ⇒ Corus Group(124 億US $)銅では 2006 年 FCX(Freeport McMoRan)⇒Phelps Dodge(259 億 US $)、ニッケルでは 2006 年CVRD ⇒ Inco(175 億 US $)、金では 2005 年 Barrick

Gold ⇒ Placer Dome(104 億 US $)となっている。この 累 計 額 は 9 件 で 3,397 億 US $ に 上 り、 期 間 中 のM&A の実に 4 割に相当し、そのほとんどが 2006、2007 両年に集中していることが分かる。

1994 年から 2008 年までの M&A 件数は金が 4 割、銅が 1 割の順であったが、金額の累計で見てみると、進行中の BHP Billiton による Rio Tinto 買収案件、Xstrata-Falconbridge 案件が含まれる多角化のジャンルが最も大きく 32%、次いでアルミ 17%であり、鉄

(7%)、合金鋼の原料であるニッケル(6%)、フェロアロイ(3%)の合計が 16%となっている。多角化の主たる会社は鉄関連会社であることから勘案すると、素材として産業で最も利用される鉄及び合金鋼原料、アルミを中心とした争奪戦が行われているといえる。それ以外では金(16%)の存在感が大きく、次いで銅

(7%)となっている。

(出典:RMG)

図 1.1.鉱種別M&A件数の推移(※多角化:�対象鉱種を単一から多鉱種へ、また、コア事業を単一から多分

野に展開することをいう。)

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250

1994

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1996

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2003

2004

2005

2006

2007

2008

その他

多角化※

PGM

アルミ

ダイヤモンド

フェロアロイ

ニッケル

(件数)

(発表年)

(出典:RMG)

図 1.2.鉱種別M&A金額の推移

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

その他

亜鉛

ダイアモンド

フェロアロイ

ニッケル

アルミ

多角化

(百万US$)

(発表年)

(出典:RMG)

図 1.3.鉱種別累計買収金額

(※注:1994~2008年の累計額8158億US$(進行中案件も含む))

フェロアロイ3%

ダイヤモンド2%

亜鉛2%

その他8%

銅7%

金16%

アルミ17%

鉄7%

多角化32%

ニッケル6%

(176)

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2008.7 金属資源レポート 6565

レポート

鉱業M

&A

の検討事項と法令、税制への考慮について

10 億 US $を超える案件を見てみると、1990 年代半ばからかなりの件数の M&A が行われてきている。つまり、事業の選択、集中、拡大を目指す鉱業会社にとって M&A は、主要な手段として定着しているというこ

とが読みとれる。特に金については、他の鉱種の 2 ~4 倍に上っており、鉱業 M&A の中でも大きいウェイトを占めている。

表 1.1.多角化のM&A(1994 ~ 2008 年、10 億 US $以上の案件を抜粋、買収金額順)

発表年 買 手 拠点国 権益(%) 被買収者 拠点国 買収金額

(百万 US $)

2007 BHP Billiton ※ 豪州 100 Rio Tinto 英国 150,000

2006 Xstrata スイス 80 Falconbridge カナダ 14,899

2001 BHP Billiton 英国 合併 Billiton 豪州 14,000

2008 Chinalco 中国 12 Rio Tinto 英国 9,400

2005 BHP Billiton 豪州 100 WMC Resources 豪州 7,300

1995 RTZ Corporation 英国 100 Rio Tinto 豪州 4,000

1998 Anglo American 南ア 100 Minorco ルクセンブルグ 3,700

1997 Valepar AS ブラジル 42 CVRD ブラジル 3,150

2003 Xstrata スイス 100 MIM Holdings 豪州 2,960

2000 Rio Tinto 英国 100 North 豪州 2,027

2005 Xstrata スイス 20 Falconbridge カナダ 1,692

1997 Institutional investors - 100 Billiton 英国 1,554

2006 Anadarko Petroleum 米国 100 Kerr McGee 米国 1,000

※:進行中の案件                                                (出典:RMG)

表 1.2.銅のM&A(1994 ~ 2008 年、10 億 US $以上の案件を抜粋、買収金額順)

発表年 買 手 拠点国 権益(%) 被買収者 拠点国 買収金額

(百万 US $)

2006 Freeport McMoRan 米国 100 Phelps Dodge 米国 25,900

2007 Teck Cominco カナダ 100 Aur Resources カナダ 4,100

1995 BHP 豪州 100 Magma Copper 米国 2,400

1999 Phelps Dodge 米国 100 Cyprus Amax 米国 1,800

2007 Lundin Mining カナダ 100 Tenke Mining カナダ 1,435

2002 Anglo American 英国 100 Disputada de Las Condes チリ 1,300

2007 Central African Mining & Exploration 英国 88 Katanga Mining 英国 1,171

(出典:RMG)

表 1.3.ニッケルのM&A(1994 ~ 2008 年、10 億 US $以上の案件を抜粋、買収金額順)

発表年 買 手 拠点国 権益(%) 被買収者 拠点国 買収金額

(百万 US $)

2006 CVRD ブラジル 100 Inco カナダ 17,544

2007 Norilsk Nickel ロシア 100 Lionore Mining International カナダ 5,400

1995 CVRD ブラジル 93 Voisey’s Bay Nickel Co カナダ 3,278

2007 Xstrata スイス 100 Jubilee Mines 豪州 2,900

2007 Sherritt International カナダ 100 Dynatec カナダ 1,491

2005 Xstrata Canada カナダ 41 Falconbridge カナダ 1,250

1995 Institutional investors - 28 Falconbridge カナダ 1,047

(出典:RMG)

表 1.4.鉄のM&A(1994 ~ 2008 年、10 億 US $以上の案件を抜粋、買収金額順)

発表年 買 手 拠点国 権益(%) 被買収者 拠点国 買収金額

(百万 US $)

2006 Arcelor Mittal 英国 100 Arcelor ルクセンブルグ 40,532

2007 Tata Iron & Steel インド 100 Corus Group 英国 12,410

2007 Essar Steel Holdings インド 100 Algoma Steel カナダ 1,724

2008 Mechel OJSC ロシア 100 Oriel Resources 英国 1,498

2008 Sinosteel 中国 19 Midwest Corp 豪州 1,100

2003 US Steel 米国 100 National Steel 米国 1,050

(出典:RMG)

(177)

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2008.7 金属資源レポート6666

レポート

鉱業M

&A

の検討事項と法令、税制への考慮について

1-2. カナダ企業における企業戦略事例と成長の軌跡企業にとってどのような目的で M&A を行うかは最

も重要な命題である。ここでは、カナダの金生産会社に焦点を当て、企業価値を高めるためにどのような戦

略を展開しているのか、また M&A がどのような位置付けとなっているかについて簡単に分析してみることとする。

発表年 買 手 拠点国 権益(%) 被買収者 拠点国 買収金額

(百万 US $)

2007 Rio Tinto 英国 100 Alcan カナダ 38,100

2006 Rusal-Russky Aluminii ロシア 合併 Siber ian-Ura ls A lumin ium Company ロシア 30,000

1999 Aluminum Company of America 米国 100 Reynolds Metals 米国 4,600

2000 Alcan カナダ 100 Alusuisse Group スイス 4,400

2003 Alcan カナダ 100 Pechiney 仏 3,841

1998 Aluminum Company ofAmerica 米国 100 Alumax 米国 3,800

2006 Texas Pac i f i c G roup Ventures 米国 100 Aleris International 米国 3,300

2002 Norsk Hydro ASA ノルウエー 100 Hydro AluminiumDeutschland GmbH 独 2,923

2004 Basic Element OOO ロシア 25 Rusal - Russky Aluminii ロシア 2,000

2000 Billiton 英国 56 Worsley Alumina Pty 豪州 1,490

2007 Apollo Management LP 米国 100 Norandal USA 米国 1,150

(出典:RMG)

表 1.5.アルミのM&A(1994 ~ 2008 年、10 億 US $以上の案件を抜粋、買収金額順)

発表年 買 手 拠点国 権益(%) 被買収者 拠点国 買収金額

(百万 US $)

2005 Barrick Gold カナダ 100 Placer Dome カナダ 10,400

2006 Goldcorp カナダ 100 Glamis Gold 米国 8,600

2007 Yamana Gold カナダ 100 Meridian Gold 米国 3,307

2006 Iamgold カナダ 100 IAMGOLD-QuCec Management カナダ 3,000

2006 Kinross Gold カナダ 100 Bema Gold カナダ 2,821

1997 Newmont Mining 米国 100 Santa Fe Pacific Gold 米国 2,510

2002 Newmont Mining 米国 100 Franco-Nevada Mining Corp カナダ 2,300

2001 Barrick Gold カナダ 100 Homestake Mining 米国 2,282

1996 Battle Mountain Gold 米国 100 Hemlo Gold Mines カナダ 2,100

2002 Newmont Mining 米国 100 Normandy Mining 豪州 2,000

2004 Goldcorp カナダ 100 Wheaton River Minerals カナダ 1,883

2002 Kinross Gold カナダ 100 TVX Gold カナダ 1,700

2008 Barrick Gold カナダ 40 Cortez Gold Mine 米国 1,695

1994 A m e r i c a n B a r r i c k Resources カナダ 100 Lac Minerals カナダ 1,611

2003 Anglogold 南ア 100 Ashanti Goldfields Co ガーナ 1,600

2006 Gold Fields 南ア 50 South Deep Gold Mine 南ア 1,525

2007 Newmont Mining 米国 100 Miramar Mining カナダ 1,500

2008 Silver Lake Resources 豪州 100 Comet Gold Deposit 豪州 1,383

2004 Norilsk Nickel ロシア 20 Gold Fields 南ア 1,184

1999 Franco-Nevada Mining Corp 米国 100 Euro-Nevada Mining Corp カナダ 1,144

1999 Driefontein Consolidated 南ア 100 Gold Fields 南ア 1,112

1998 Placer Dome カナダ 100 Getchell Gold 米国 1,100

2007 Yamana Gold Inc カナダ 100 Northern Orion カナダ 1,045

2006 Public - 9 Anglogold Ashanti 南ア 1,010

(出典:RMG)

表 1.6.金のM&A(1994 ~ 2008 年、10 億 US $以上の案件を抜粋、買収金額順)

(178)

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2008.7 金属資源レポート 6767

レポート

鉱業M

&A

の検討事項と法令、税制への考慮について

(1)GoldcorpGoldcorp が掲げる戦略は以下の 4 点に集約され、

極めて明確となっている。・今後 5 年で金生産量を 5 割増し・今後 5 年のキャッシュコストは 250US $/oz 以下・金のヘッジなし・金資産の 70%は低リスクの NAFTA(北米自由

貿易協定)内同社は、この戦略の下、効果的な買収により企業価

値を高めている。2004 年にカナダ Wheaton River Minerals Inc.(Alu-

mbrera 37.5%、Los Filos100%)、2005 年にも同じくカ ナ ダ Virginia Gold Mines Inc. の Elenore 金 鉱 床、Barrick Gold か ら Campbell、Porcupine JV、Mussel- white JV、Pueblo Viejo JV 資 産、2006 年 に は 米 国Glamis Gold Ltd.(Marigold、El Sauzal、Marline、Peñasquito)を買収しており、そのほとんどが北米資産となっている。

同社がもともと保有していた鉱山は Red Lake、Wharf、Cerro Blanco 程度であったことから勘案すると、今後、生産拡大予定のプロジェクトのほとんどが買収で獲得したものである。更に同社は、2009 年 9月、JV の相手方である Kinross Gold との間で、鉱山資産交換により、カナダの Porcupine、Musselwhiteを取得し鉱山管理を強化し、チリ La Coipa を手放している。その他、2008 年 2 月には保有する Silver Wheaton Corp.株式を 16 億 US $で売却し金への特化を加速している。

このように、M&A 後も多段階に資産の売買を行い、自社の戦略にあった優良プロジェクトの獲得、集約化を図り、金生産量を 2007 年実績 2.3 百万 oz(72t)から、 今後、Red Lake の拡張、Los Filos のフル稼働、Peñasquito、Eleonore、Pueblo Viejo 開発を通じ、2012 年には年産 4.0 百万 oz(124t)まで増産するとしている。

Goldcorp の時価総額は 2004 年以降の M&A を契機

として急拡大しており、2008 年 5 月現在 251 億 US $となっている。

(2)Kinross Gold生産性を上げ、コストを下げ、キャッシュフロー

とマージンを増やすという極めてシンプルな戦略となっている。これに沿って、金埋蔵量では南米チリに40%、ブラジルに 40%、米国 13%、ロシア 7%の 4カ国に特化している。

(出典:MEG)

図 1.6.Goldcorp 時価総額の推移

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

1996年06月

1997年06月

1998年06月

1999年06月

2000年06月

2001年06月

2002年06月

2003年06月

2004年06月

2005年06月

2006年06月

2007年06月

(百万US$)

時価総額

買収年 買収企業 買収金額百万US$

主要資産

稼行中 開発中

2004年 Wheaton River 1,883 Alumbrera

(37.5%、アルゼンチン)Los Filos

(メキシコ)

2005年 Virginia※1 420 - Eleonore(カナダ)

2005年 Barrick Gold※1 1,350Campbell(カナダ)Porcupine(カナダ)※2

Musselwhite(カナダ)※2

La Coipa(チリ)※2

Peblo Viejo※3

(ドミニカ)

2006年 Glamis 8,600Marigold(米国)El Sauzal(メキシコ)Marin(メキシコ)

Peñasquito(メキシコ)

※ 1 Virginia、Barrick Gold については、プロジェクトの買収※ 2 Kinross との間で鉱山スワップし、Porcupine、Musselwhite を 100%

自山化、La Coipa は Kinross に売却※ 3 Barrick 60%、Goldcorp 40%のジョイントベンチャー

(出典: Goldcorp、MEG、RMG)

表 1.7.Goldcorp 主要買収プロジェクト一覧�

(出典:Goldcorp)

図1.4.Goldcorp主要操業鉱山、開発プロジェクト位置図

(出典:Goldcorp)

図 1.5.Goldcorp 今後の大型開発案件

(179)

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2008.7 金属資源レポート6868

レポート

鉱業M

&A

の検討事項と法令、税制への考慮について

プロジェクトの運営に当たっては、効率を上げるため 100%自山化を目指しており、Maricunga に見られるように、1998 年に Amax Gold 買収に伴いまず権益50%を取得し、その後 2006 年の Bema Gold 買収時に残りの権益 50%を取得するといった計画的 M&A により、優良プロジェクトの段階的取得を行っている。Paracatu についても 2 段階買収により 100%自山化している。その他のJV プロジェクトについては、特に鉱山スワップを積極的に行い、管理を徹底することによる低コスト化を目指している。具体的には、2007年 9 月、Goldcorp との間の JV 関係を解消し、カナダ資産である Porcupine、Musselwhite をGoldcorp に売却、その代わりにチリ La Coipaの権益を 100%取得している。更に、今後、ロシアへの足掛りを築くために Bema Gold を買収している。

このように、Kinross Gold は、中長期的な地域・プロジェクト戦略の下、リスクを取りつつ優良資産を増やしているようである。

Kinross Gold の時価総額は、金価格の動向に大きく

依存してはいるが、資産の最適化に向けた努力に対応し、2002 年以降上昇傾向にあり、2008年 4 月末時点では 115 億 US $となっている。

2.M&A の実態手順M&A を行うに当たっては、まずその手順を

事前確認することが重要である。このサイクルは、ⅰ)M&A 戦略策定、ⅱ)対象企業スクリーニング、ⅲ)デュー・ディリジェンス、ⅳ)契約の締結、ⅴ)統合のサイクルで構成されている。

買収は複雑であるため、これを成功裡に導くためには、重点的取り組み、専門知識、M&A への集中、迅速な行動が必須である。Inco、Falconbridge 等の事例で実証されてい

るように、企業は M&A により埋蔵量の増加、スケールメリットに貢献するプロジェクト確保が可能となる。

2-1.�M&A 戦略企業戦略と一致した M&A 戦略の策定は、M&A を

行うに当たっての既存の戦略、事業環境、企業文化の適合、機会、リスクおよび収益等を検討する一助となるとともに、時間の節約にも資することになる。企業

表 1.8.Kinross�Gold 主要買収プロジェクト一覧

買収年 買収企業 買収金額(百万US$)

主要資産

稼行中 開発・拡張中

1998年 Amax Gold 1,000 Maricunga※2

(50%JV、チリ)Fort Knox※4

(米国)

2002年 TVX Gold 1,700La Coipa※3

(50%JV、チリ)Crixas(ブラジル)

Paracatu※2、※4

(50%JV、ブラジル)

2004年 Rio Tinto※1 520 - Paracatu※2、※4

(50%JV、ブラジル)

2006年 Bema Gold 2,821Julietta(ロシア)Maricunga※2

(50%JV、チリ)Kupol

(75%、ロシア)

2006年 Crown Resources 95 - Kettle River

(米国)

※1:Rio Tinto はプロジェクト買収※2:Maricunga、Paracatu は 2 段階買収により 100%自山化 ※3:La Coipa は、Goldcorp との鉱山スワップを行い 100%自山化※4:拡張案件

(出典:Kinross Gold、MEG、RMG)

0

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4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

1996年12月

1997年12月

1998年12月

1999年12月

2000年12月

2001年12月

2002年12月

2003年12月

2004年12月

2005年12月

2006年12月

2007年12月

(百万US$)

時価総額

(出典:MEG)

図 1.9.Kinross�Gold 時価総額の推移

(出典:Kinross Gold)

図 1.7.Kinross�Gold 主要操業鉱山、開発案件位置図

(出典:Kinross Gold)

図 1.8.Kinross�Gold 鉱山支配力の強化

(180)

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2008.7 金属資源レポート 6969

レポート

鉱業M

&A

の検討事項と法令、税制への考慮について

はまず自らの企業戦略を検証し、成長目標を定め、成長媒体の比較を行う必要がある。現存路線の延長による成長は、さまざまな制約によって限られるので、成長に向けた M&A は重要な戦術となる。

効果的な M&A 戦略はかなりの作業量を伴うが、それらが成功をもたらす鍵となる。また、適切なパラメータの決定は、作業の調整につながるとともに、企業文化、

従業員の個性、機運、信頼といった「ソフト」の部分の多くを管理する助けとなる。その他、買収失敗例を調べた多くの研究や調査によって、M&A 戦略を持つことの重要性が確認されている。これは、あらかじめ十分に検討された戦略を持つことが買収の成功率を高めるとともに、戦略的に合わない案件のスクリーニングに要する時間と資金の節約につながるからである。

M&A 戦略 概  要

資産の統合鉱山企業は、シナジー効果及びスケールメリットを達成するために、特定資産の権益統合を以前にもまして検討している。多くの場合、いくつかの資産にマイナーシェアを持つ企業が権益を交換することで、特定資産のメジャーシェアを取得する方法が取られている。

ジュニア企業の統合 多くのジュニア企業にとって、M&A はプロジェクトの推進、さらなる専門領域及び資源確保を目指すにあたり、必須要件となってきている。

操業鉱山の獲得 中国等経済成長著しい新興国の資源企業の参入により、生産性のよい操業鉱山の不足が深刻化している。

価格決定力 金属の市場占有率の向上は、価格決定力の増加につながる。鉄鉱石がこの一例であり、現在では 3つのグループで世界の海上貿易の 70%を占めている。

枯渇鉱山の代替鉱山会社が旺盛な金属需要に対応していくためには、常に新しい埋蔵資源を探すことが不可欠である。しかしながら、探鉱は高リスクの事業であることから、多くの場合、特に事情がわからない国の場合など、探鉱を専門とする企業を買収し任せるのが得策である。

成長の加速 探鉱開発はリードタイムが長いため、自社のみによる成長は本質的に時間を要する。開発生産段階のプロジェクト買収は、企業の成長を著しく加速することができる。

コスト削減 買収によるシナジー効果を通して鉱山企業のコストを削減することが可能。これにはコスト要因を減少させる経営統合、輸送面の合理化、顧客の再分配が含まれる。

成長の機会 新しい市場の機会を得ることも、M&A 戦略の重要点の一つとなる。

(出典:Deloitte)

表 2.1.鉱業M&A戦略の一例

表 2.2.段階的スクリーニングの実施段階毎のスクリーニング 概  要

初  期 比較的一般的な基準に基づいて行われる。これには産出する鉱産物、確定および推定埋蔵量、進行中の探鉱活動、鉱山の地理的位置、カントリーリスク、企業規模、および経営状態が含まれる。

実現可能性 初期スクリーニングで有望な結果が出た企業に対して行われる。これには市場、マネージメント、および組織に関する分析が含まれる。

詳  細 企業を綿密に調査する。これには通常、株主保有状況の調査や予備的財務・ビジネスデュー・ディリジェンスのような組織や競争力に関する情報が含まれる。

(出典:Deloitte)

2-2.�買収対象の特定とスクリーニングM&A は常にスピードが要求される。したがって、

有力な買収対象企業の情報を実際に買収が可能となるよりかなり前段階で特定し、十分な調査を行っておく必要がある。買収対象企業が出現した時点では、買収者は事前の調査からこの案件を進めるべきか否か、ど

れほどの価値があるのかを迅速に判断し、結果として買収提案するか否かを決めるスクリーニングを行う必要がある。このプロセスは、スクリーニング基準に基づき、初期スクリーニングから始まり、実現可能性スクリーニング、詳細スクリーニングと徐々に対象企業を絞り込んでいくことになる。

スクリーニングにおいて、しばしば大きな障壁となるのは非公開企業または上場大企業の鉱業資産に関する財務および経営情報を得ることである。情報収集の有効な手立てとしてはその企業のウェブサイト、Capital IQ(キャピタル IQ)社、Onesource(ワンソース)社等データベース会社の活用がある。しかしながら、多くの場合、入手可能な情報は限定されているため、より豊富な情報が得られる可能性がある場合には買収調査着手時点よりも早い段階でのアプローチが重要となる。

この買収対象企業の特定化とスクリーニングが行われている間に、買収対象へのアプローチ戦略を決

定しなければならない。特に買収対象企業が上場されている場合、法的および規制事項が非常に重要になる。

図 2.1. に買収対象企業の特定化とスクリーニングを行うに当たっての最適な作業計画を示す。これが適切に実施されれば、その成果は、次の段階であるデュー・ディリジェンスへの貴重な材料を提供することとなる。

2-3. デュー・ディリジェンスM&A サイクルの重要な要素の一つに、買収者に

よる買収対象企業およびその資産と負債への系統的

(181)

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な分析作業である“デュー・ディリジェンス(Due diligence)”がある。このプロセスによって、買収者は買収対象企業にかかわる価値とリスクについて、より深い理解を得ることができる。また、この作業を行うことで、M&A 成功に向けた分析の基礎が固められる。

今日、ビジネス、規制および会計処理の基準が複雑化するにつれ M&A 契約のリスクが増しており、また、情報と時間の制限が問題を更に深刻化している。このような状況を反映し、M&A のデュー・ディリジェンスは、財務検査や隠れた問題点の摘出といった従来の概念から、M&A を推進する本質的な動機を評価するのに不可欠な統合的アプローチへと変貌している。

このため、デュー・ディリジェンスに当たっては、通常、ⅰ)財務見通し、税務、および財務諸表を含む財務状況、ⅱ)経営能力、基本的システム、顧客・サプライヤーとの契約を含む戦略・経営状況、ⅲ)買収対象企業の既存の事業形態およびビジネス・インテリジェンスを含む取引関連事項という三つの点から評価して行かねばならない。こうした包括的評価は、潜在的「交渉決裂要因」を探し当て、それらが買収撤回を

引き起こすほど深刻なものか否かを判断するために行われる。具体的には、買収対象企業に対する以下の質問への回答により目的が達成されるが、これらの問への明快な回答を得ることは一般的に難しく、敵対的買収の一環として実施される場合には一層困難となる。

・対象企業の資産の質?・不確定債務?・潜在的シナジー効果?・ビジネスリスクまたは機会?・対象企業の収益の持続可能性?デュー・ディリジェンスの作業に欠かせないもう 1

つの要素として、十分な管理と監視を含む厳密な計画が挙げられる。一般的には、図 2.2. に示すように、まず、初期計画および明確な手順の設定を行い、買収対象資料室(data room)へのアクセスが確保され次第、初期調査、計画したデュー・ディリジェンス活動の体系的な実行、最後に調査結果の整理要約を行う必要がある。

2-4. 契約締結効率的な契約の締結に当たっては、契約形態、買収

対象との潜在的シナジー効果の評価、条件と価格の交渉、並びに契約の締結に向けたデュー・ディリジェン

(出典:Deloitte)

図 2.1.買収対象特定化およびスクリーニング作業計画

スクリーニング作業項目

スクリ|ニング作業の手順

スクリーニング計画 買収対象企業分析 買収対象企業との交渉

M&A スクリーニング計画

対象スクリーニング アプローチの決定

対象スクリーニングプロセスの決定

対象スクリーニング基準の特定

M&A 対象スクリーニング

極秘スクリーニングレベル実施

極秘スクリーニング結果の分析

M&A 対象選択対象候補企業の概略作成

対象候補企業の承認

M&A 対象へのアプローチ

M&A 対象アプローチチームの編成

M&A 対象アプローチ戦略の策定

対象への接触開始

M&A の文書化

M&A 提案書の作成

秘密保持契約書の作成

M&A 条件概要書の作成

M&A 同意書の作成 M&A 契約書の作成

表 2.3.行動のポイントポイント 概  要

スクリーニング基準の作成 M&A 戦略に基づき、対象企業を特定する基準を作成する。

チーム編成 買収対象企業の特定化、スクリーニングプロセスを担当するチームを結成する。また、担当業務、責任およびプロセスを決定する。

調  査 綿密な調査に基づき、複数の買収対象企業の資料を作成する。これが有望な買収対象企業が現れた際の迅速な対応の基礎資料となる。

(出典:Deloitte)

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課  題 概  要

閉山への対応 閉山および鉱山跡地再生に係る企業の義務は多大であり、鉱山に適用される法律および規制を慎重に調べ、また正確な債務に基づく費用見積もりがなされていることを確認しておくこと。

在庫リスト鉱山の経営には、高耐久性タイヤ、火薬、予備部品等を含め、相当な在庫が必要となることが多いため、これらの手当を軽視しないことが重要。経年化したものの在庫リストがない場合、これが問題になることがある。

鉱山施設 重機に対する設備投資の遅れは、買収者にとって多額の更新費用につながることがある。資産の質を判断するには、固定資産台帳の詳細な見直しが必要とされる。

鉱業税と奨励策探鉱活動は大幅な税務上の繰越損失およびその他の税金控除につながることが多い。有効期限や契約形態による税制の相違を確認するため、入念に分析を行う必要がある。また、適用されるロイヤルティに関する十分な理解も重要である。

サービス 鉱山の経営は生産を維持するために、運送会社などサービスサプライヤーに依存することが多い。これら企業との事業関係や契約については、リスクの有無を調査する必要がある。

顧客 鉱山には重大な顧客集中(偏在)リスクを伴うこともあるため、事業関係や契約の評価が不可欠である。

為替リスク 顧客およびサプライヤーとの契約を調査する際に、為替リスクの可能性も評価すべきである。

ヘッジ 取得者へ引き継がれる可能性があるため、不確定要因を伴うヘッジ契約は全て特定すべきである。

環境問題 鉱山の環境に関するリスクを評価する必要がある。

埋蔵量 確定、および推定見込み埋蔵量ベースと同時にその質を確認することは、資産の価値を決定する際に重要となる。所有権や権利書を調べ、埋蔵量や品質の確認を行うべきである。

(出典:Deloitte)

表 2.4.鉱業分野のデュー・ディリジェンスにおける最重要課題

(出典:Deloitte)

図 2.2.DD(デュー・ディリジェンス)作業計画

DD 作業項目

DD手順

DD 計画 データの収集と分析 調査結果の整理

M&A DD 計画

M&A DD チームの特定

M&A DD 目的の定義

M&A DD 予算の設定

M&A DD プロトコル

M&A DD 手順の設定

M&A DD コミュニケーション要件の設定

買収対象資料室(data room)の設立

M&A DD 活動

DD 活動の評価

予備 M&ADD の実施 綿密な M&A DD の実施

M&A DD インタビューと査察の実施

M&A DD 結果M&A DD 概要の作成

M&A DD 文書庫の設立

ス段階で抽出された知識の活用が必要となる。主要課題についての考え方は以下のとおり。

(1)契約形態どのように M&A 交渉を開始するか、どのような契

約形態とするかは、非常に専門的な領域であり、金融、税務、会計、および法律の専門家との調整が必要となるが、これらを適切に行うことで、現時点から将来にわたる節税や法的責任の限定などを含む大きな利点を得ることができる。

通常、契約形態は、買手による株式取得、または資産取得のいずれかである。カナダでは、税務上のメリット・デメリットを勘案し、通常、売手は株式取引を、買手は資産売却を好む。

売手が株式取引を好む第 1 の理由として、収益はキャピタルゲイン税率で課税されており、通常、総合

課税税率または配当に対する税率よりも低いことが挙げられる。第 2 としては、キャピタルゲインの課税免除と支払繰延の双方又はどちらかが適用できる場合もあり、さらなる節税効果が期待されるからである。買手が株式取引を好む場合もあるが、これは、買収対象事業に利用可能な大きな税務上のメリットがある場合に限られる(非資本的損失、資産への高い課税標準等)。

一方、買手は資産購入を将来の税負担の軽減に使えるように、契約形態を資産取引とすることを好むことが多い。また、資産取引とすることによって、買手はどの資産を購入しどのような債務を引き継ぐのかを選択することができる。なお、資産取引の場合、付加的な税務問題として土地譲渡税、売上税、および州の鉱業税などが挙げられるが、これらは活動拠点がある州によって異なる。

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鉱業固有の問題点 留意事項

資源量、埋蔵量の確認 資源量と埋蔵量ベースでの確実性、また探鉱の可能性の評価が重要。これには、確定および推定埋蔵量の評価や、概測、予測資源量の評価を含む。

不安定な市場 長期にわたる金属市場や金属価格の予想、特に市場が不安定でアナリストの予測が一致していない場合の予想は困難。

類似性のなさ 個々の鉱業プロジェクトは非常に独自性が高く、地理的および地質学的条件、リスク、または規模が同程度の案件を探すのは困難。

リスク要因 鉱業プロジェクトは、カントリーリスク、潜在的環境賠償責任等、重大となり得る多くのリスク要因を持つため、注意深く検討し、評価に反映する必要がある。

異なる地質条件 地質とそれに関連する採掘コストを理解することは、正確な評価に当たり重要。例えば、採掘条件により生産コストが著しく変わることがある。

(出典:Deloitte)

表 2.5.契約に当たっての鉱業固有問題

(出典:Deloitte)

図 2.3.契約評価分析

本質的企業分析 上場企業分析 前例分析(Intrinsic Company Analysis) (Public Company Analysis) (Precedent Transaction Analysis)

概念的評価アプローチに基づく価値(DCF 法が最も一般的)

事業、財務構造、成長率、財務実績、および規模において「類似」の上場企業との比較に基づく価値

事業、業界、事業形態において「類似」の買収契約との比較に基づく価値

(出典:Deloitte)

図 2.4.契約締結に向けた作業計画

契約締結に向けた作業項目

契約締結に向けた作業手順

M&A 計画 価値と契約交渉 契約終結

M&A契約形態

契約方法、資源とインプット M&A 税、法律、会計の評価

M&A 契約と資金調達

権益保有者の管理計画の構築 M&A 契約と資金調達の確認

M&Aシナジー効果

シナジー効果評価プロセスの設定 収益増大策の特定 シナジー効果正味現

在価値の計算シナジー効果コスト削減策の特定 シナジー効果実現計画の構築

シナジー効果達成コストの推定

M&A対象評価

評価プロセスの定義 単独価値分析の実施 資金調達の影響推定複数価値分析を実施 評価範囲の特定

資産評価分析の実施 評価の専門家査定実施

シャドー評価の実施 契約価格決定戦略の策定

M&A統合計画

M&A 統合枠組みの構築M&A による変化への準備と企業文化の適合への評価

M&A契約交渉

M&A交渉チームの編成M&A 交渉戦略の策定

M&A 交渉の実施M&A 交渉の最終決定

M&A契約締結

M&A 契約書類の作成M&A 契約の締結

M&A 契約締結後の活動実施

カナダでは、鉱業活動には税務上の優遇措置が与えられている。株式と資産のいずれの購入 / 売却でも、買手は一定の基準を満たせば売手の過去の鉱業資源プール(税務上のメリット)を取得することができる。その資源プールが特定の鉱山に関連する範囲内で、買手はこれらのプールを使って、将来の課税所得における税務上のメリットを享受することができる。「引継ぎルール」は非常に複雑で、確実に期待する結果とするには十分な検討が必要となる。

その他、契約形態に影響する事項として、債務や譲

渡証書作成、鉱業利益の本国への送金方法等の法的問題がある。特に国境を超えた鉱業 M&A においては高度な専門的助言が必要となる。

(2)シナジー効果M&A により、経営統合、垂直統合、重複の排除、

減資、改善された鉱山操業慣行の導入、および低コスト生産源への顧客の再配置を通じ、コスト削減などを含む多くのシナジー効果を得ることができるが、一般的に買収によって生まれたシナジー効果の評価は難し

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い。したがって、事前に効果的で包括的なデュー・ディリジェンス作業による高い精度の評価を行い、シナジー効果の目標を明確にしておくことが必要である。

(3)評価分析買収対象企業または資産の評価は、大まかに、i)

買収対象企業の所得または現金を生む能力を分析する所得アプローチ、ⅱ)市場指標を調べる市場アプローチ、ⅲ)買収対象企業の清算または簿価を分析する資産アプローチに分けられる。

これらのアプローチは、有形・無形資産のようないくつかの構成要素からなり、特定可能なものと特定不能のものがある。また、評価分析に当たってのアプローチとして、図 2.3. では DCF 法による比較、類似上場企業との比較、および前例契約との比較を含む一般的な評価方法について簡単に説明している。

なお、鉱山関連の契約に当たっては、以下のような鉱業固有の問題があるので留意する必要がある。

図 2.4. には、契約締結に向けた最も望ましい作業計画を示す。

買収者にとって、シナジー効果も含めた買収対象企業の価値を正確に判断することは、交渉時に非常に有利に働き、より有利な契約条件へとつながる。また、場合によっては、提案を撤回する時期を知る効果的な根拠にもなる。契約締結には多くの時間と人が関与し、これを成功させるためには、緊密な作業の調整が重要となる。

2-5. 統合契約の締結から最短の時間で最大の統合効果を引出

すためには、契約前の段階で統合計画を作成し、各段階においてその計画を見直すことが重要である。単に、M&A 契約の完了に満足し、統合に十分な注意を払わず、買収後の企業統合が不適切だと最終的には合併は失敗してしまい、会社全体に不安感を抱かせることになる。したがって、潜在価値を最大限に引出すためには、契約締結前に統合計画を構築し、双方の企業の緊張を持続させることが重要となる。

統合で最も重要な点は、統合初日からの準備態勢を整えることである。効率レベルを維持する計画はもちろんのこと、買収者はシナジー効果目標をいかに達成するかを検討しなければならない。これには、顧客、市場、コミュニケーション、社員、設備なども考慮した全体的な見方が必要となる。

また、統合という変化を速やかに徹底することも重要である。一般的に、統合の成否は契約後の 90 日間で決まるといわれているが、それは計画の良し悪しによって決まる。このため、合併事業体の始動日から最高の効果がえられるよう、目安としては合併の 90 日前から合併活動に係る青写真または戦略、財務目標、経営計画、およびコミュニケーション計画の策定に取りかかり、事前に設定・合意がなされているべきである。

M&A の 手 順 を 通 じ た 重 点 化 と 統 制 は、 企 業 のM&A に関する能力を大幅に向上させる。

表 2.6.アクションプランアクション 概  要

早期の計画策定 計画を早めに立てることは、より高い株主価値を生む傾向にある。

責任者の任命 少なくとも契約締結の 3 カ月前までに、M&A チームの責任者を任命すること。

コミュニケーション 「よりソフト」であるコミュニケーションについても、財務問題と同様に客観的に取り組むこと。

(出典:Deloitte)

(出典:Deloitte)

図 2.5.統合方法論(M&A:合併吸収、DD:デュー・ディリジェンス)

M&A 戦略(M&A Strategy)

対象スクリーニング(Target Screening)

デュー・ディリジェンス(Due Diligence)

契約締結(Transaction

Execution)

統合(Integration)

M&A 戦略の策定 対象スクリーニングの計画 M&A DD の計画 M&A 契約方法の決定 M&A 管理室

M&A 実行力の開発 対象候補のスクリーニング M&A DD プロトコルの構築 シナジー効果の分析 シナジー効果とコスト削減

M&A 対象の選択 M&A DD の実施 対象評価の分析 顧客、市場、製品

M&A 対象アプローチの決定 M&A DD 結果のまとめ M&A 統合の計画 360 度コミュニケーション

M&A 契約文書の作成 M&A 契約の交渉 組織と労働力

M&A 契約締結 機能の統合化

所在地と設備

3.法令・契約への考慮3-1. 連邦法による規制

(1) 競争法“Competition Act(競争法)”は、競争を助長しカ

ナダ経済の効率を高める目的で、反トラストの見地から施行されている。この法律は“Competition Bureau

(産業省競争政策局)”が所管しており、著しく競争を阻害する取引提案に対して修正命令を下すことができる。

競争法に基づき事業者は、買収対象企業自体またはその資産価値が 50 百万 C $を超える場合、合併対象企業の対価が 70 百万 C $を超える場合、ならびに関

(185)

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連事業を含めた当事者の総額が 4 億 C $を超える場合は、当局に対して事前通知しなければならない。

通知要件を満たした当事者は、事前決定認可申請をすることができ、これが認可されると契約を進めることが可能となる。通常の審査は 14 日以内に行われるが、複雑な案件は審査に時間を要する。

(2)カナダ投資法カナダにおける外国投資は、“Investment Canada

Act(カナダ投資法)”により規制される。この法律も産業省が所管しており、「経済成長と雇用機会拡大に寄与するカナダ内外からの投資の促進」を目的とし、規制は概して最低限度に限られ、外国人投資家に対して門戸を広く解放している。

具体的には、日本を含む WTO 加盟国の投資家に対する審査基準は 295 百万 C $となっている。WTO 加盟国の投資家でない場合、またはその投資が以下の項目に当てはまる場合には、審査基準は 5 百万 C $と厳しくなる。

・ウランの生産に携わり、カナダのウラン生産資産に権益を有する

・金融サービス・輸送サービス・文化的事業また、審査項目は以下の通り・カナダでの経済活動および雇用に対するその投資

の影響・カナダでの事業および関連するカナダ業界へのカ

ナダ人の関与の度合い・カナダでの生産性、効率、技術開発、および商品

多様性に対するその投資の影響・カナダ国内での競争に対するその投資の影響・特定国策への投資の適合性・世界市場でのカナダの競争力アップに対するその

投資の貢献審査は通常 45 日以内に行われるが、さらに 30 日

間延長される場合がある。2007 年には日本企業による 11 件の買収が審査、認可された。これには三井物産㈱(Mitsui & Co., Ltd.)子会社による二つの鉄鋼事業の買収、および昭栄化学工業㈱(Shoei Chemical Inc.)子会社によるニッケル電池生産者の買収が含まれる。

カナダ国内では外資系企業による資源会社の買収が 相 次 ぎ、 鉄 鋼 大 手 Dofasco、Stelco、 ニ ッ ケ ル 大手 Falconbridge、Inco、 アルミ大手 Alcan 等、 カナダを代表する資源メジャーがここ数年で外資の傘下に入っている。このような状況下、投資規制の強化を求める声が強まり、連邦政府は 2007 年 7 月、現行のカナダ投資法(Investment Canada Act)と競争法

(Competition Act)を見直すべく、専門家で構成される競争政策レビューパネルを設置している。

外資系企業による資源会社買収に関する懸念材料は

主に以下の 3 点であり、最大の問題は国営企業による買収であるといわれている。

・カナダを代表する大企業の買収は長期的な産業空洞化に繋がる。

・外資を規制する投資環境を持つ国からの投資は不公正である。

・国営企業(以下、SOE)の資源企業買収はエネルギー安全保障上懸念がある。(例:アブダビ国営エネルギー会社(TAQA)

による PrimeWest Energy Trust 社の買収)カナダ連邦政府の見解として、Prentice 産業相は、

国営企業は市場に馴染まないとの考えを示すとともに、今後、SOE 投資の指針作りや外資系企業買収を対象とする国家安全保障テストの策定を行うことを示唆している。

外国資本への規制強化は既に諸外国でも行われており、米国をはじめ、英国、ドイツ、日本でも同様の動きが出ている。現在、競争政策レビューパネルは、諮問結果をまとめ、それに対する幅広い意見公募を行っている段階で、2008 年 6 月 30 日までには具体的な最終勧告案を政府に提出することになっている。カナダが外資政策を軌道修正して規制強化へと向かうのか、それとも従来の水準を維持するのか、世界的な企業買収や資源獲得競争が強まる中、世界有数の資源国であるカナダ政府が下す決定が与える影響は大きいと考えられるだけに今後の動きが注目される。

2006 年に行われた Xstrata による Falconbridge 買収は、敵対的 TOB、かつ競合していたが最終的には承認された。

3-2. 州法による規制カナダでは、契約、証券、不動産及び雇用など M

&A 契約に最も適用される法律は、州の管轄下にある。証券規則は証券委員会を通して州で管理されてい

る。全ての TSX(トロント証券取引所(Tronto Stock Exchange))有価証券発行者は ON(オンタリオ)州の証券法の対象である。また全ての TSX-V 有価証券発行者は BC(ブリティッシュ ・ コロンビア)州と AB

(アルバータ)州の証券法の対象である。各州は独自の証券法や規則、慣行を有するものの、州の証券委員会はかなりの程度まで法令と手続きを統一している。

審査期間 政府は所定の 45 日間を延長した後、買収提案を承認

純便益(net benefit)

・トロント拠点のニッケル単独型事業を新設・Sudbury(サドベリー)に研究開発センターを新設・トロントに銅および亜鉛の地域統括オフィスを新設・3年間にわたり一時解雇なし・カナダにおける投資、研究開発、および探鉱支出の

増加・Xstrata plc の非執行役員の職位にカナダ人候補を

選任・先住民社会に焦点を当てたカナダにおける社会と地

域活動への資金提供

(出典:Deloitte)

表 3.1.�Xstrata による Falconbridge 買収に見るカナダ投資法適用の実態

(186)

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3-3. 資産または株式非公開企業取得に当たっての考慮事項

カナダの事業体を買収するに当っては、まず、資産または株式のどちらの形態で買収を行うべきかを決定しなければならない。

株式取得は、買収者が上場企業の株式非公開子会社の鉱業資産を購入する際に選択される。

なお一般的に、買収者には株式取得よりも資産取得の方が好まれる。これは、資産取引には買収資産の選択権があり、買収者にとって、上場企業の所有する多くの鉱業資産のうち特定の資産のみを取得したい場合に便利であり、株式取引の長所である税控除よりも優位性を持つことがあるからである。

表 3.2.株式取引・資産取引時の考慮すべき法的事項法的事項 概  要

株主の承認・法人の全てまたはほとんどの資産売却を行う場合には、カナダ事業法人法(Canada Business Corporations Act)上、株主の承認が必要。「全てまたはほとんど」の判断基準は、量および質の面から決定される。株主の承認には、一般的に可決に圧倒的多数が必要となる特別決議の形が取られる。

譲渡証書の作成・資産取引での譲渡は複雑になる場合がある。一例として、大規模な鉱業資産取引では、不動産、設備リース、車両およびサービス契約、ならびに鉱業権等個々の資産に関する数々の譲渡証書作成、譲渡証書、および譲渡文書が必要となる。・株式取引で必要となるのは株券の譲渡程度で簡単。

雇用の問題・資産取引では雇用問題が発生する可能性がある。理由として、資産の運営に当たり、団体協約によって保護された労働組合に加入した被雇用者を伴う場合、その被雇用者は資産とともに譲渡されることになる。また、団体契約により保護されていない場合であっても、雇用、手当の問題が発生する。

第三者の同意・資産取引では、リースや契約の譲渡に対する第三者の同意が必要であり、この同意取得には多大な時間を要する。・株式取引では「支配権の変更」条項で第三者同意が必要となるが、資産取引と比べると遙かに軽微である。

書類の作成 ・資産取引、株式取引共に共通しており、通常、秘密保持契約書※1、同意書※2、売買契約書※3が必要。これらの書類は、私的交渉または管理競売の結果生じるものである。

(出典:Deloitte)

<※注:必要な書類>秘密保持契約書(Confidentiality Agreement)※1

買収希望者は秘密保持契約を結ぶのが常である。これにより、契約の交渉とデュー・ディリジェンス段階中に買収者へ提供された秘密情報の機密性を維持し、他のいかなる目的にも使用しないことが保証される。同意書(Letter of Intent)※2

同意書は以下のような契約の基本的条件を記す。契約が第三者および規制当局に関連して進められるという基盤を形成するものである。

・買収対象が特定の買収者のみと契約交渉を行うという独占期間

・契約締結最終期限日・デュー・ディリジェンスを実行するための資料

へのアクセス許可・公表のガイドライン・費用負担割合

売買契約書(Purchase Agreement)※3

売買契約書には、一般的に以下の項目が含まれる。・全ての契約保護策・売手事業の包括的表明および保証・ファイナンス条件がある場合や、対価として株

式が提供された場合の、購入者事業の表明・第 2 段階契約が確実に行われるための最低入札

条件・購入価格と支払形式・締結前誓約(契約締結まで通常業務を行うこと

に対する売手の同意等)・誓約や表明の不履行に対する補償条項

・締結条件(全ての規制認可と重大な弊害なしとする条項の引き渡し等)

・締結後制約(非競争条項等)

3-4. 上場企業を株式買収する際の考慮事項(Acquisition�of�a�Public�Company’s�Share)

(1)株式公開買付(TOB:Takeover Bid)による買収(Takeover Bid Basics)

TOB は各州の法人法および証券法によって規制されている。買収対象の株主分配によっては複数の管轄区域の法令が適用される場合があるが、ルールはほとんど統一されている。買収者とその関連当事者が対象企業所有権の 20%以上を取得すると、テイクオーバー規定が始動する。一度始動すると、買収者は TOB 回状によって全ての株主に連絡を行い、同じオファーをしなければならない。

カナダの企業に対しては、カナダのテイクオーバー規定及び米国のテンダーオファー規定での TOB が可能となっている。これは、多数の米国人株主を持つカナダ企業の買収などがありうることから制度化されている。

友好的買収は、両当事者が積極的にその契約成立に向け取り組むものであり、その利点として、デュー・ディリジェンスのための秘密情報へのアクセスの容易さ、取引保護交渉の可能性、取引形態の柔軟さが挙げられる。友好的買収が起こる一般的な理由は支配株主の存在である。

一方、敵対的買収の利点としては、オファーのタイミングと初期の価格提示権が買収者にあること、株式価格の上昇に結び付く可能性のあるニュースが、初期

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M & A に 向 け て の ス ケ ジ ュ ー ル

発 表 回 状 買収企業の回答 失 効

(Announcement) (Circular) (Target Response) (Expiration)

友好的買収の場合は、交渉期間中、もしくは合併契約または付属契約が署名された時点で発表が行われる。

広告の掲載、または株主への回状の送付によって買収提案が開始される。広告を通じて買収提案が開始された場合は、その後に回状が送付されなければならない。

買収対象企業の役員は、買収提案の開始から15日以内に、回状にてその提案に回答しなくてはならない。回状には株主に対する提言を含み、その根拠を示さなければならない。

買収提案は最低35日間有効でなければならない。その提案に変更があった場合、変更以降10日間は引き続き有効でなければならない。

(出典:Deloitte)

図 3.1.M&Aに向けてのスケジュール(Transaction�Timeline)

段階では流れにくいことが挙げられる。これらの利点は、数社の買収者が予測され、買収対象企業が弱い立場にある場合に特に有効になる。また、友好的取引での試みが失敗した場合、敵対的買収が不可欠となることもある。

なお、TOB を行うに当たって、入札に関連する意見広告は厳重に規制されており、証券規制当局と投資コミュニティ両方への法的責任の対象となることに留意する必要がある。したがって、規制関連の提出書類および公に対する情報伝達の正確を期すため、多大なデュー・ディリジェンスが必要となる。

(2)契約による合併(Merger Basics)TOB 以外の方法として、計画契約(plan of arran-

gement)と合併契約(amalgamation)があるが、どちらも基本的には合併である。

計画契約は、合併を希望するが、合併規則では期待する結果を達成できない企業が利用可能な裁判所監督下の手順であり、買収対象を取得する上で最も柔軟な方法である。これは、他の方法ではいくつものステップを要する複雑な合併契約の場合に有用である。契約の主たる条件は契約上の約定の中で合意され、裁判所により承認されなければならない。

もう一つの形態である合併契約は、柔軟性に乏しい2 社以上の合併を認めるものである。

計画契約、合併契約はどちらも、買収対象の株主総会で圧倒的多数の承認(66.6%)を得る必要がある。

(3)最適な買収形態の決定(Purchase Agreement)カナダでの買収形態を決定するに当たり、特にタイ

ミング、資金調達、複雑性等、留意すべき重要なポイントがある。例えば、TOB は一番手っ取り早い選択肢ではあっても、ほかの選択肢と比べてファイナンスが難しく、非常に複雑な取引の場合には採用することが困難である。

買収に要する期間は、必要とされる交渉の長さや第2 段階の株主総会が必要か否かによってほぼ決定される。TOB は通常、カナダでの買収においては最速の方法であるが、入札者が十分な株式を取得できない場合、また第 2 段階の株主総会が必要とされる場合には、

この利点が減少または喪失してしまう。買収形態は資金調達にも影響する。通常、合併契約

と計画契約は TOB よりも資金調達しやすいと考えられている。これは、支払が必要となる際に買収対象の資産の引き継ぎ所有権が発生するため、これを抵当として買収者は資金確保が可能となるからである。一方、TOB は所有権が引き継がれる前に第 2 段階が必要となる。さらに、合併契約と計画契約では買収者による資金確保は条件付きとなる場合があり、TOB は条件付きになることはない。

(4)買収交渉前の問題(Pre-transaction Issues)有望な買収対象企業が特定されたら、交渉が開始さ

れる前に以下の問題を検討する必要がある。インサイダー取引(Insider Trading)

カナダの証券法の下、M&A 契約にかかわる取締役及び役員はインサイダーとしての責任を自覚すべきである。入札前 6 か月間にこれらの個人がかかわる取引は、全て開示される必要がある。買収提案者にはインサイダー取引および非公開情報の選択的開示を防止するための内部規定を整備することを勧める。足掛りの取得(Aquiring a Toehold)

買収提案を計画する企業は、戦略の足掛りとして買収対象企業の株式取得を選択する場合がある。市場からの株式取得には、全体的な買収価格を減少させる、あるいは、より高値をつける買収者に転売した場合に一定の利益を得られるといった利点がある。一方、市場を介さない相対契約は、買収前の統合規制の観点から市場での取得ほど魅力的ではない。早期警告開示(Early Warning Disclosure)

カナダでは、買収前の買収対象企業の株式取得には早期警告開示が必要になる場合がある。これは、取得者が 10%の基準点を超えたときに必要となり、この時点で、プレスリリースを通じてその投資の意図を明らかにし、規制当局に報告書を提出しなければならない。それ以上の買い増しにはさらに追加の開示要件が必要になる場合がある。ルックアップ契約(Look-up Agreements)

ルックアップ契約は、特定の株主を契約に参加で

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きるようにするための契約である。この契約の一部として、株主は自身の持株を買収者側に預託し買収者側に賛成票を投じる。これはカナダにおいて一般的であり、足掛り取得の代替策として利用されている。この契約が買収対象企業株の 10%以上の場合は、その旨を速やかに開示することが必要となる。

(5)第 2 段階(Second Steps)カナダでは、通常 2 段階の買収交渉が必要になる。

この手順により、買収者は初期の買収提案の際に入手できなかった残りの株を取得することが可能になる。取得株の割合が 90%を超える場合には、残り株を株主承認なしで強制取得が可能となるため、迅速に買収が進められることになる。取得株が 66.67%以上、90%未満の場合には、買収者は株式公開買付回状において締出し買収(Squeeze-Out Transaction)を行う

意向を提示し買収を行うことになる。

(6)役員の義務(Duties of Target Directors)買収対象企業取締役会は、受託者規定を設定するそ

の法人設立地域の会社法、およびカナダ証券規制当局の防衛方策に関する方針に準じ、取締役会による買収提案の詳細な分析、独立した役員による過半数の維持または特別委員会の設立、株主に提供された検討材料に関する金融専門家の助言の獲得、およびプロセスの完全な記録の保持等を行う必要がある。

(7)防衛策(Defensive Tactics)カナダでは、株主価値最大化の観点から正当化され

る場合に TOB に対する防衛策が認められており、証券規制当局が防衛策を審査する。

表 3.3.カナダにおけるM&A防衛策防衛策 内容

拒否の回答(Just Say No)

買収はその企業を過小評価しているとの情報を回状で提供し、株主に対して買収に応じないよう求める。

ポイズンピル(Poison Pills)

通常、敵対的買収以前に、買収提案を阻止する株主権計画の適用で構成されている。カナダでは競売が開始された時点で証券規制局がポイズンピル条項を解消する。

訴 訟(Court Proceedings)

最も一般的なのは、反トラストまたは買収者の法規制の順守に関わる問題を根拠とした訴訟である。

代替的取引(Greenmail)

カナダでは、資産の売却または購入権を与えるといった敵対的買収の妨害のみを狙った代替的取引は許可されていない。しかしながら、特別配当を伴う再資本化は許可されている。このタイプの取引の成功は、多くの場合、その税効果に依存する。

ホワイト ・ ナイト(White Knight)

高値で入札することをいとわない友好的買収者を見つけることである。これは、買収対象企業が友好的買収者を探すための時間を稼ぐ他の防衛策とともに使用される。

設立許可書又は定款による対策(Charter or Bylaw Measures)

設立許可書または定款に防衛策を盛り込こむこと。米国では多く見られるがカナダの法律では無効のため、この防衛策の利用はまれ。しかしながら、差別的支配権は認められており、カナダの同族会社の間では一般的。

(出典:Deloitte)

(8)取引の保護 (Deal Protections)第三者による介入を避け、取引を成功裏に行うため

に以下のような対策等を講じることがある。ノーショップ条項(No-Shop Clauses)“ノーショップ条項”とは、買収対象が競争オ

ファーを求めることを阻止すること。しかしながら、この条項では任意の買収オファーを検討することまでを防止することはできない。買収オファーを受けた場合には、買収対象は最初の入札者に対してそのオファーへの対抗の機会を与える。ゴーショップ条項(Go-Shop Clauses)“ゴーショップ条項”とは、買収対象が高値の入

札を求めることができるように通常 30 ~ 60 日間の猶予を与えること。この条項は、競売が行われてお

らず、買収対象の取締役会が市場動向を確認する必要があると判断する場合に多く見られる。違約金条項(Break Fees)

友好的取引を放棄した際にかかる違約金または契約解除手数料のこと。違約金が契約額の 2%~ 3%に上ることもある。過度に他の入札を妨げるほど違約金が高すぎる場合は、買収対象の取締役会の受託者責任に反することになる。資産ルックアップ(Asset Lockups)

資産ルックアップ条項は、入札者に対し買収対象の資産に対するある種の権利を与えるもの。この方法は、資産ルックアップなしでは契約が進まない、または競売を促進する場合を除き一般的ではない。

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4.税制への考慮4-1. 事業税(Business�Tax)

(1)連邦税(Federal Tax)連邦は事業所得に課税しており、この税率は現在

22.12%であるが、現在計画的に削減しており、2012年には 15%まで引下げられる(図 4.1.)。なお、損失金については 20 年間にわたり繰越処理することが可能となっている。

事業所得税以外には、物品とサービスに課される消費税(GST)を徴収しており、過去 2 年間で 2%引下げ現在 5%となっている。なお、払込済の資本金へのl 課税、鉱産物へのロイヤルティは賦課していない。

(2)州税(Provincial Tax)州も事業所得に課税している。税率は州により

異なっており、最低税率は AB(アルバータ)州の10%、最高税率は NS(ノバ・スコシア)州の 16%となっており、各州での売上高、給与、賃金をベースに決定された事業所得に対して課税される。複数の州で操業する鉱山会社は、恒久的施設を持つ州において納税の義務がある。

その他、州は鉱業税またはロイヤルティを徴収している。鉱業税は、売上ではなく、純利益への課税となっており、ほとんどの州では、鉱業税が所得税に対する控除対象となっており相互に関係している。また、払込済の資本金に課税する州もある。

アクション(タイミング) Xstrata Falconbridge

足掛りの取得(2005 年 8 月 15 日)

資産運用会社である Brascan Corp. を通じ Falconbridgeの 19.9%を 20 億 C $で取得。基準値 20%を超えていないため、TOB 規則は適用されず。友好的取引交渉を試みたが失敗。

防衛策(2005 年 9 月~ 10 月)

株主権プランを適用し、Inco との友好的契約を締結。この契約は違約金を含む 4 億 5,000 万 US $で、株主権プランのもと「許可された」買収提案とみなされている。その後、2 社間の契約は Phelps Dodge を含めた 3 社契約に修正。

初期オファー(2006 年 5 月 17 日)

一株当り現金 52.5 $を提示し、Falconbridge への敵対的 TOB を発表。これは、完全カナダ子会社である Xstrata Canada Incを通じて買収が締結されることを示唆。買収の主要戦略は、多様化と成長オプションの強化。

回状(2006 年 5 月 18 日)

オファーの全詳細を記載した TOB 回状をカナダ証券規制当局及び SEC(証券取引委員会)に提出。

Falconbridge の回答(2006 年 5 月 31 日)

Falconbridge の取締役は株主に対して、Xstrata plc の買収提案と比較して優位である Inco の買収提案に株式を応札することを提言。

反トラスト認可(2006 年 6 月 15 日)

カナダ産業省競争政策局から事前決定認可証を受領した旨を発表。

増額オファーの提示(2006 年 7 月 11 日) 買収提案を一株式あたり現金 59C $に増額。

再増額オファーの提示(2006 年 7 月 19 日) 買収提案を一株式あたり現金 63.25C $に増額。

カナダ投資法認可(2006 年 7 月 25 日) カナダ投資法認可を発表。

代替契約の失敗2006 年 7 月 27 日

Falconbridge による代替の友好的契約は、株主承認を確保できずに失効。

株主権プランの解消(2006 年 7 月 28 日)

Falconbridge の株主権プランは ON 州証券委員会による票決により解消。

再増額オファーへの回答(2006 年 8 月 8 日)

Falconbridge の取締役、株主に対し Xstrata plc の増額オファーを受け入れ表明。

67.8%株式の取得(2006 年 8 月 15 日)

株式の 67.8%取得を発表。さらに多くの株式を取得するために、オファー期限を延長。

第 2 段階(2006 年 9 月 5 日)

第 2 段階の手続きを開始。既に 90%以上の株式がXstrata plc に応札されていることから、株主総会なしで残り全ての株式の強制買収を実施。

(出典:Deloitte)

表 3.4.買収を巡るXstrata と Falconbridge の攻防経緯

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税率(%)

(年)

(出典:Deloitte)

図 4.1.カナダ連邦事業所得税率の今後の推移

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2008.7 金属資源レポート 7979

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(3)税控除等による振興策カナダでは、鉱業の特殊性を考慮した様々な税控除

制度、ジュニア企業振興に有効なフロー・スルー株式制度等を有する。

フロー・スルー株式(Flow-Through Shares):フロー・スルー株式とは、株式発行法人が株式の

対価額相当まで探鉱費用と開発費用を投じることが出来るという合意のもとに発行する株式をいい、税法上、探鉱開発費用はフロー・スルー株式を購入した投資家(納税者となる個人並びに会社)の経費(費用)とみなされる。

株式発行法人であるジュニア探鉱会社は一般的に収益が上がっていないため税控除の対象外である。このため、探鉱費用と開発費用相当額をフロー・スルー株式という形に変え、これを購入した所得のある投資家に対して税控除の権利を与えるというものである。この制度では、投資家の所得税の課税対象額から株式投資額の 100%まで控除することができる。 当該株式購入額の 5 ~ 7 割が税控除の対象になるとともに、投資家にとっては当該株式保有による利益享受も可能となる。

通常、収益の上がっていない会社は資金調達が難しいが、フロー・スルー株式発行法人であるジュニア等探鉱会社は、株式購入に当たってインセンティブのあるフロー・スルー株式を発行することにより、市場からの資金調達が可能となる。

探鉱費(CEE)と開発費(CDE)のみがこのフロー・スルー株式の対象とされており、フロー・スルー株式発行企業の主要ビジネスが鉱業であることが前提条件となっている。

また、フロー・スルー株式を購入した個人投資家には、更に 15%の探鉱開発投資税額控除(ITCE)が認められており、 俗称 「スーパー・フロー・スルー」

と呼ばれている。 この制度は、 2008 年度連邦予算において、2009 年 3 月 31 日までの延長が承認された。

加えて、 連邦のスーパーフロー・スルー Tax Credit 制度に追随する形で、BC 州、MB 州、ON州 は、 更 に、 そ れ ぞ れ、20%、10%、5% の Tax Credit を上乗せする制度を導入している。探鉱税控除(Exploration Tax Credit)

多くの州は探鉱活動を行っている企業に対する奨励策を講じている。例えば、BC 州探鉱税額控除

(BC Mining Exploration Tax Credit)は、BC 州での探鉱費用の 20%、松くい虫被害指定地域での探鉱の場合は 30%の税額控除が可能な制度である。新規鉱山奨励策(New Mine Incentives)

新規鉱山および鉱山の拡張も、税控除の対象となる場合がある。例えば、ON 州では、各規鉱山および大規模拡張を行った鉱山は、初めの 36 か月間の利益について最高 1,000 万 C $まで課税控除される。BC 州でも新規鉱山への振興策を用意している。

4-2. 国際課税(International�Taxes)カナダ国内での外国投資への課税 (Taxation of

Foreign Investment in Canada)カナダは OECD が促進する国際課税ルールに基

づき課税を行っている。外国投資家は別組織である子会社、または支社を

通してカナダで事業活動を行うことができる。支店は恒久的設備とみなされ、カナダで発生した所得に対してのみ課税される。子会社はカナダの居住企業とみなされ、特に、所得税は、子会社であっても国外で事業を行っていればその所得をも含めた全所得をもとに査定され、国外の地域で支払われた税額については適切な救済措置が認められている。非居住企業によって管理される法人も、外国投資家への支払に対する源泉税の対象となる。しかし、投下資本は源泉税が適用される前に非課税で送り返すこともある。配当に対する源泉税率は 25%であるが、日本との租税条約により、日本企業によるカナダ子会社の支配権が少なくとも 25%の場合は 5%に、それ以外のケースでは 15%に減税される。

支店や子会社のような恒久的設備を通してカナダで事業活動を行う非居住企業は、カナダで発生した所得に対して税金を納めなくてはならない。また、カナダで再投資されない税引後源泉所得に対しては支店税が課される。これは、支店が子会社として事業を行った場合に配当に課されるはずである源泉税の代わりとなる。支店税は、累積ベースで 50 万C $を超える源泉所得のみに適用される。支店からの所得は、親会社の国外地域における課税の対象となる場合がある。

このような税制体系を念頭に置き、戦略としては、支店として新事業を立ち上げることにより親会社に

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AB BC MB NL NWT NT ON QC SK YT

税率(%)

2007年

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2009年

2010年

2011年

2012年

(出典:Deloitte)

図 4.2.�カナダ主要州・準州における今後の事業所得税率の推移

※注(州略称)AB:アルバータ州、BC:ブリティッシュ・コロンビア州、MB:マニトバ州、NL:ニュー・ファンドランド・ラブラドール州、NWT:ノース・ウエスト準州、NT:ヌナブト準州、ON:オンタリオ州、QC:ケベック州、YT:ユーコン準州

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2008.7 金属資源レポート8080

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の検討事項と法令、税制への考慮について

資本損失を計上し、その後、収益性が確立した時点で子会社化するのが一般的であるが、ケース毎に専門的アドバイスが必要とされる。

4-3. 移転価格課税(Transfer�Pricing)カナダの事業体が対等ではないカナダ非居住者と物

品またはサービスの売買契約を結ぶ際に、移転価格税制への考慮が必要となる。カナダではカナダの事業体から外国親会社への支払いは控除できるが、これは事業を行う上での合理的コストでなければならない。購入価格が比較可能な独立企業間価格から乖離する場合、カナダの税務当局はその価格を査定する場合がある。したがって、配当以外の企業間取引は、記録され、数種ある移転価格設定方法のうちから一つを採用して分類されなければならない。

4-4. 経営形態による課税方法の相違(Business�Structure)

カナダ企業は連邦または州レベルのどちらかの法律で規定されている。連邦法であるカナダ事業法人 法(Canada Business Corporations Act:CBCA)は

「会社定款」モデルに基づいており、ほとんどの州法も同様であるため法令の相違は少ない。鉱山企業はほとんどが有限責任会社(Corporation with Limited Liability)として組織されているが、所得トラスト

(Income Trust)、無限責任会社(Unlimited Liability Corporation)、合名会社(General Partnership)、合資会社(Limited Partnership)、有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)、 合 弁 会 社(Joint Venture)、個人事業体(Sole Proprietorship)といった形態もあり、税務上の取り扱いも異なっているため、買収候補のスクリーニングを行う際には留意する必要がある。

5.終わりに権益を獲得する手段は多様であり、その対象、規模、

緊急性等により取組方法は異なってくる。M&A はその手段の一つであり、即効性を持つ。しかしながら、膨大な資金、周到な準備、迅速な判断を求められることから、選択肢の一つではあってもその採用には慎重にならざるをえないのが現状である。

今までの我が国の海外鉱山資産取得への取組みは、専ら個別プロジェクトに対する探鉱段階からの参入、開発段階での資本参加が主体となっているが、急展開する世界の鉱業ビジネスの中で、今後一定の権益を確保していくためには、M&A も視野に入れた展開が不可欠だと思われる。大型の M&A は収束に向かっているが、目標設定如何によりいろいろな M&A が考えられ企業成長も期待される。本報告が M&A を有効なビジネスツールと捉える一助にでもなれば幸いである。

(2008.5.19)

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