昭和50年4月24日 第三種郵便物認可 「健康かながわ」の購読料については、 健康診断の料金に含まれています。 毎月1回15日発行(1部90円) 平成26年12月15日 第561号 公益財団法人 神奈川県予防医学協会 予防医学事業中央会神奈川県支部 全国労働衛生団体連合会会員 編集・発行人=土屋尚 発行所=〒231−0021横浜市中区日本大通58 日本大通ビル 045(641)8501(代表) http://www.yobouigaku - kanagawa.or.jp 世界保健機関(WHO)の専門組織「国際がん研究機関」は、今年9 月、全世界の胃がんの約8 割がヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染が原因であると報告した。日本のがんの特徴は、胃がんが多いことといわれ、年間約12 万人超がり患し、亡くなる人は年間約5 万人と推定。死亡原因の第2 位である。今月号では、当協会消化器検診部部長の高木精一医師に、ピロリ菌をめぐって、その検査から診断・治療そして胃がんとの関係について解説してもらった。胃がんの8割が関係(WHO報告)除菌とあわせて検診を行うことが大切胃がんとピロリ菌2014年9 月に、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、胃がんの約80 %はピロリ菌感染が原因で、除菌によって胃がん発症を30 ~40 %減らせるとの報告書をまとめました。また日本でも、ピロリ菌未感染胃がん(ピロリ菌の感染歴がまったくない胃に発生した胃がん)は全胃がんの約1%程度と考えられています。したがって、ピロリ菌に感染していない人は、胃がんになる確率が低く、感染している人は、除菌により胃がんのリスクを低下させることができると考えられます。しかしピロリ菌検査で陰性だからと油断はできません。ピロリ菌既感染(ピロリ菌に感染していたが、他の疾患で服用した抗生剤などにより、偶然除菌されていたり、自然に消退したため、陰性結果となった)の場合は、ピロリ菌に感染した期間があり胃がんのリスクは残っています。また実際にはピロリ菌に感染していても、検査上は陰性となる偽陰性の可能性もあります。確実に診断するためには、複数の検査を行うと良いでしょう。高齢者の場合は、ピロリ菌を除菌しても、それまでの感染期間が長く、胃に炎症や萎縮が進んでいるため、胃がんの発生を完全には抑制できません。一方、若年者ではピロリ菌検査を行い、陰性であれば、胃がんにかかる確率は少ないことになり、陽性であっても除ピロリ菌とは2012年の日本人の死亡原因の第1 位はがん。その数は約36 万人で、総死亡数の約30 %を占めています。また生涯のうちがんにかかる確率は2 人に1 人に達しています。その中で、胃がんは、死亡数で2 位、り患数では1 位を占めています。胃がんのリスク要因としては、食塩・ 高塩分食品・喫煙が以前より報告されています。近年、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori :以下ピロリ菌)の感染が、胃がんの発生と密接に関係があることがわかり、リスク要因の1つとして確立されました。1900年初頭より、胃内に細菌の存在の報告がありました。しかし胃内には胃液があり、強酸の環境の中では細菌は生息できないと考えられ、最近まで胃内の細菌の存在は否定的に思われていました。ところが、1 983年にオーストラリアのロビン・ウォーレン博士とバリー・マーシャル博士が、胃生検材料から細菌の分離培養に成功し、初めて胃内における細菌の存在を証明しました。両博士はその功績によって、2005年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。その細菌は幽門前庭部に炎症を起こすらせん形の細菌の意味で、「Helicobacter pylori 」と命名されました。ピロリ菌が胃内で生存できる理由は、胃内に存在する尿素を、ピロリ菌から分泌されるウレアーゼによって二酸化炭素とアンモニアに分解し、そのアンモニアにより、胃酸からピロリ菌自身を守っているからです。ピロリ菌の感染により、胃粘膜は炎症が生じ、胃粘膜萎縮も進展していきます。胃粘膜の炎症や萎縮の進展により、胃・十二指腸潰瘍や胃がんが発生すると考えられています。ピロリ菌感染はほとんどが幼少期ピロリ菌の感染は、私の親友2人ががんになり、もう1人が心筋梗塞となった。ほぼ同時期の出来事だった。共通点は3人ともヘビースモーカーだったことだ。もちろんタバコだけが今回の病気の原因とは言わないが、喫煙によって転移性がんも起きやすくなるので、早く禁煙をしていれば、いまの状況にはならなかったかもしれない。心筋梗塞を起こした友人には、病気になる前から、何度も禁煙を勧めていた。実際喫煙すると不整脈が起こりやすくなり、本人はそれを自覚しているにも関わらず、禁煙できないでいる。今さら喫煙と病気の関係を説いても、それが理解され、禁煙する人が増えるとは思えない。認知症を心配して、脳ドリルをしながらタバコを吸っているし、肺がんになりやすくなるのをわかっていながら禁煙できないのが、人間の行動である。もはや禁煙キャンペーンの医学教育では、これ以上禁煙する人を増やせるとはとても思えない。中国で公共の場での喫煙を禁止しようする動きがある。日本より規制を一気に厳しくしそうである。タバコ販売の制限より、喫煙制限がもっとも有効な手段のように思う。そこまできて初めて禁煙補助薬が役に立つのだ。喫煙コーナーとか分煙という手ぬるい方法では、単に喫煙者擁護でしかない。空港構内、駅構内全体を完全禁煙にすれば、それだけでかなり吸いにくくなるはずだ。友人たちの今の状況を見ていると、早く手を打っていてくれればと思うばかりだ。◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ あなたの胃、大丈夫? ヘリコバクター・ピロリ 菌を行えば、ピロリ菌に感染している期間が短く、除菌治療が胃がん予防に有効と考えられます。ピロリ菌の検査及び除菌治療は、胃がん予防に有効です。さらに胃X線検査や胃内視鏡検査による胃がん検診も併せて行うことが勧められます。今後、ピロリ菌感染者が減少し、胃がんの罹患率や死亡率が低下することが期待されます。完全禁煙の町を ほとんど幼小児期に起こり、成人での感染は一過性であると考えられています。感染は、経口感染で、衛生状態の悪い飲み水や、親から子への感染(離乳食時期の口から口への感染等)などが考えられています。下水道が整備されてからは、汚染水から感染する可能性はほとんどなく、50 歳以下のピロリ菌感染は減少しており、今後ますます感染率は低下していくものと考えられます。ピロリ菌感染の診断には、表1 に示したものがあります。初めの3 種類は、内視鏡検査が必要なく、後の3 種類は内視鏡検査が必要となります。血中、尿中の抗体検査は、過去の感染でも陽性になり、除菌判定にはあまり適していません。尿素呼気試験と便中抗原検査は精度が高く、除菌判定にも適しています。ピロリ菌の除菌ピロリ菌の除菌には、胃酸の分泌を抑える薬と2 種類の抗生剤を1 週間服用します。この治療により、約70 ~80 %の除菌が成功します。除菌が不成功であった場合は、2 次除菌として1 種類の抗生剤を変更して同様に1 週間服用します。この治療により、約90 %の除菌が成功します。したがって、2 次治療までで約95 %の人が除菌に成功すると考えられます。運悪く2 次除菌に失敗した場合は、専門の病院にて、3 次除菌が試みられています。ピロリ菌除菌治療の保険適用は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がん内視鏡治療後でしたが、2013年2 月よりピロリ菌感染胃炎が保険適用となりました。胃潰瘍や十二指腸潰瘍がなくても、内視鏡検査にて胃炎があり、ピロリ菌感染が疑われた場合は、保険診療でピロリ菌感染の有無の検査を行い、陽性であれば除菌治療が可能となりました。米山 公啓 (医師) 当協会では、 ヘリコバクター・ピロリ抗体検査(血 液検査)をオプション検査として実施しています。 また除菌をご希望の方はお申し出ください。検査の 結果が陽性の場合は、内視鏡検査を受けていただき、 医師の診断のもと除菌治療を行うことができます。 (※除菌治療は、保険適用される場合もあります) 【申込み・問合せ】 0120-108-522(当協会検診計画部) 1.血中・尿中抗体検査 ピロリ菌の抗体の有無を血液や尿で 調べる検査 もっとも簡便な検査法の1つ 2.尿素呼気試験 診断薬を服用し、服用前後の呼気を 集めて診断する 3.便中抗原検査 糞便中のピロリ菌を調べる 4.培養法 胃の粘膜を培養してピロリ菌の有無を 判定する 5.検鏡法 胃の粘膜を顕微鏡で観察し、ピロリ菌 の有無を調べる 6.迅速ウレアーゼ検査 胃の粘膜を特殊な液と反応させ、色の 変化で判定する 内視鏡が必要ない検査 内視鏡で胃粘膜の採取が必要な検査 表1 ピロリ菌検査