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- 65 - 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する好奇心を高める工夫 瀬戸内市立国府小学校 教諭 尾 崎 正 美 研究の概要 本研究では,小学校英語活動において,英語表現に触れながら児童の日本や外国の文化に対する好奇心を高め ることのできる支援の工夫を探った。その結果,諸国の文化に触れることができる授業構成や,日本と外国の文 化とを比較することができる題材・学習活動の工夫によって,諸国の文化の多様性・類似性を認め尊重し,日本 や外国の文化について自発的に探求しようという好奇心の高まった児童が多く見られるようになった。 キーワード 総合的な学習の時間,国際理解教育,小学校高学年,小学校英語活動,好奇心,外国の文化 Ⅰ 主題設定の理由 文部科学省の「小学校英語教育実施状況調査」によ ると,平成16年度に何らかの形で英語活動を行った小 学校は全体の92.1%に上る。その小学校英語活動にお いて触れる外国の文化は英語圏のものが多く,本校も 同様であった。しかし,小学校英語活動は国際理解教 育の一環と位置付けられていることから考えれば,国 際的共通語である英語の表現とともに,日本や英語圏 以外の国を含めた諸国の文化に触れながら,それぞれ の文化に対する好奇心を高めることが大切であり,そ のために教材・指導法の一層の工夫が必要になる。 そこで,高学年の児童を対象に,小学校英語活動を 通して,英語表現とともに日本を含めた諸国の文化に 触れながら,それらの多様性・類似性を認め尊重しつ つ,日本や外国の文化に対する好奇心を高めることの できる工夫を探りたいと考え,本主題を設定した。 Ⅱ 研究の目的 小学校英語活動の授業実践を通して,児童が英語表 現に触れながら,日本や外国の文化に対する好奇心を 高めることのできる支援の工夫を探る。 Ⅲ 研究の基本的な考え方 1 目指す児童の姿の明確化 本研究では,諸国の文化の多様性・類似性を認め 尊重していくことを通して,児童の思いが「授業で の体験が自分の知らなかったことや珍しかったこと なので面白い」という単純な好奇心から,「授業で 知ったことについてもっと知りたい」「他の国の文 化について知りたい」「日本の文化について詳しく 知りたい」などという自発的に探求しようという好 奇心に高まることを目指した(図1)。このように 好奇心が高まった児童 は今後,日本や外国の 文化,英語表現につい ての自発的な探求活動 に取り組むようになる ことが期待できる。 2 授業構成の工夫 小学校英語活動において,日本や外国の文化につ いての単純な好奇心を自発的に探求しようという好 奇心へと高めるために必要なのは,まず英語表現に 十分触れることである。その上で,それらの英語表 現を用いて諸国の文化に触れる学習活動を行うこと で,児童の好奇心が日本や外国の文化に対しても高 まると考えた。そこで本研究では,学習活動を主に 英語表現に触れるものと主に日本や外国の文化に触 れるものとに分け,授業を構成した。 授業構成の工夫にあたり,全人教育においてペス タロッチが唱えた3Hの考えを参考にした。3Hと はHead,Hand,Heartの頭文字のHを合わせたもの で,知識・技能・感性を調和的に発達させることを 目指す教育の理念である。 本研究では,これまでも行っていた,主に英語表 現に触れる学習活動を,「英語表現を聞く学習活動 (以下「Head」という。)」と「英語表現を使う学 習活動(以下「Hand」という。)」の2段階に分け て位置付け,主に英語表現に触れるようにした。そ して「英語表現とともに日本や外国の文化に触れる 学習活動(以下「Heart」という。)」で主に諸国 の文化に触れることをねらった。1単位時間の中で 調和的に3Hの学習活動を組み合わせることで,英 語表現とともに日本や外国の文化に触れることがで き,単純な好奇心を,日本や外国の文化について自 図1 目指す児童の高まり F1-07 総合的な学習の時間
6

小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する …...- 65 - 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する好奇心を高める工夫

Jun 20, 2020

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小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する好奇心を高める工夫

瀬戸内市立国府小学校 教諭

尾 崎 正 美

研究の概要

本研究では,小学校英語活動において,英語表現に触れながら児童の日本や外国の文化に対する好奇心を高め

ることのできる支援の工夫を探った。その結果,諸国の文化に触れることができる授業構成や,日本と外国の文

化とを比較することができる題材・学習活動の工夫によって,諸国の文化の多様性・類似性を認め尊重し,日本

や外国の文化について自発的に探求しようという好奇心の高まった児童が多く見られるようになった。

キーワード 総合的な学習の時間,国際理解教育,小学校高学年,小学校英語活動,好奇心,外国の文化

Ⅰ 主題設定の理由

文部科学省の「小学校英語教育実施状況調査」によ

ると,平成16年度に何らかの形で英語活動を行った小

学校は全体の92.1%に上る。その小学校英語活動にお

いて触れる外国の文化は英語圏のものが多く,本校も

同様であった。しかし,小学校英語活動は国際理解教

育の一環と位置付けられていることから考えれば,国

際的共通語である英語の表現とともに,日本や英語圏

以外の国を含めた諸国の文化に触れながら,それぞれ

の文化に対する好奇心を高めることが大切であり,そ

のために教材・指導法の一層の工夫が必要になる。

そこで,高学年の児童を対象に,小学校英語活動を

通して,英語表現とともに日本を含めた諸国の文化に

触れながら,それらの多様性・類似性を認め尊重しつ

つ,日本や外国の文化に対する好奇心を高めることの

できる工夫を探りたいと考え,本主題を設定した。

Ⅱ 研究の目的

小学校英語活動の授業実践を通して,児童が英語表

現に触れながら,日本や外国の文化に対する好奇心を

高めることのできる支援の工夫を探る。

Ⅲ 研究の基本的な考え方

1 目指す児童の姿の明確化

本研究では,諸国の文化の多様性・類似性を認め

尊重していくことを通して,児童の思いが「授業で

の体験が自分の知らなかったことや珍しかったこと

なので面白い」という単純な好奇心から,「授業で

知ったことについてもっと知りたい」「他の国の文

化について知りたい」「日本の文化について詳しく

知りたい」などという自発的に探求しようという好

奇心に高まることを目指した(図1)。このように

好奇心が高まった児童

は今後,日本や外国の

文化,英語表現につい

ての自発的な探求活動

に取り組むようになる

ことが期待できる。

2 授業構成の工夫

小学校英語活動において,日本や外国の文化につ

いての単純な好奇心を自発的に探求しようという好

奇心へと高めるために必要なのは,まず英語表現に

十分触れることである。その上で,それらの英語表

現を用いて諸国の文化に触れる学習活動を行うこと

で,児童の好奇心が日本や外国の文化に対しても高

まると考えた。そこで本研究では,学習活動を主に

英語表現に触れるものと主に日本や外国の文化に触

れるものとに分け,授業を構成した。

授業構成の工夫にあたり,全人教育においてペス

タロッチが唱えた3Hの考えを参考にした。3Hと

はHead,Hand,Heartの頭文字のHを合わせたもの

で,知識・技能・感性を調和的に発達させることを

目指す教育の理念である。

本研究では,これまでも行っていた,主に英語表

現に触れる学習活動を,「英語表現を聞く学習活動

(以下「Head」という。)」と「英語表現を使う学

習活動(以下「Hand」という。)」の2段階に分け

て位置付け,主に英語表現に触れるようにした。そ

して「英語表現とともに日本や外国の文化に触れる

学習活動(以下「Heart」という。)」で主に諸国

の文化に触れることをねらった。1単位時間の中で

調和的に3Hの学習活動を組み合わせることで,英

語表現とともに日本や外国の文化に触れることがで

き,単純な好奇心を,日本や外国の文化について自

図1 目指す児童の高まり

F1-07 総合的な学習の時間

Page 2: 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する …...- 65 - 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する好奇心を高める工夫

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表1 実践Ⅰの授業構成

表2 第2時に触れた英語表現

けんけん,お手玉,

玉とりホップスコッチ

羽根つき,お手玉,

けん玉,まりつきパドルボール

お手玉,カルタジャックス

児童が似ていると思った日本の遊びアメリカの遊び

けんけん,お手玉,

玉とりホップスコッチ

羽根つき,お手玉,

けん玉,まりつきパドルボール

お手玉,カルタジャックス

児童が似ていると思った日本の遊びアメリカの遊び

表3 児童がアメリカの遊びに似てい

ると思った日本の遊び

遊び体験ALTの話

絵本5

世界のこまこま作りこまの説明

絵本4

ジェスチャーゲーム

人間コピー機

絵本3

国旗伝言ゲーム

アクション

色カルタ絵本2

ぬりえ

(世界の色)

Open the Window

色カルタ1

HeartHandHead時

遊び体験ALTの話

絵本5

世界のこまこま作りこまの説明

絵本4

ジェスチャーゲーム

人間コピー機

絵本3

国旗伝言ゲーム

アクション

色カルタ絵本2

ぬりえ

(世界の色)

Open the Window

色カルタ1

HeartHandHead時

9色

What do you see?

I see ___.

Draw.Put a color.

9色

What do you see?

I see ___.会話

Draw.Put a color.動作

9色色

国旗伝言

ゲーム

アクション

色カルタ絵本

HeartHandHead学習

活動

9色

What do you see?

I see ___.

Draw.Put a color.

9色

What do you see?

I see ___.会話

Draw.Put a color.動作

9色色

国旗伝言

ゲーム

アクション

色カルタ絵本

HeartHandHead学習

活動

発的に探求しようという好奇心に高めることができ

ると考えた。

3 題材・学習活動の工夫

(1) 多様性・類似性に気付くよう促す工夫

児童が文化の多様性・類似性に気付くために必要

なのは,外国の文化と日本の文化とを比較すること

である。事前調査において児童の興味の高かった外

国の文化が,「遊び」「食べ物」であった。そこで,

実践Ⅰでは「遊び」,実践Ⅱでは「食べ物」から,

日本の文化との相違点・類似点を併せ持ち,比較す

る視点が分かりやすい外国の文化を題材に選んだ。

工夫の具体は,実践Ⅰで詳しく述べる。

(2) 多様性・類似性を尊重するよう促す工夫

文化を比較することにより気付いた多様性・類似

性を尊重するために必要なのは,日本や外国の文化

の特色を肯定的に受け入れることである。そのため,

日本の文化にはない特色を持つ外国の文化,外国の

人に注目されている特色を持つ日本の文化を題材に

選び,児童がそれぞれの文化の特色に気付きやすい

ようにした。工夫の具体は,実践Ⅱで詳しく述べる。

(3) 自己の変容を自覚するよう促す工夫

日本や外国の文化に対する好奇心を高めるために

必要なのは,その知識の広がりに気付かせることや,

興味・関心を一時的なものに終わらせないようにす

ることである。そのため,自己の変容を自覚できる

よう,書くことによる自己評価を工夫した。

選択肢又は簡単な設問と自由記述の二つを併用し,

児童が自己評価の観点を明確にとらえ,自由記述に

自己の知識の広がりや興味・関心を具体的に表現し

やすいようにした。

Ⅳ 授業の実際と考察

1 授業実践Ⅰ

小学校英語活動を初めて経験する,瀬戸内市立国

府小学校の第5学年児童62名を対象に「遊び」を題

材とした授業を,平成17年6月に全5単位時間で行

った。単元のねらいは,進んで英語表現や日本と外

国の文化に触れようとする態度を育成することと,

日本と外国の遊びの多様性・類似性に気付くように

することである。

(1) 授業構成の工夫の具体化

Head,Hand,Heartを調和的に組み合わせて授業

を構成した(表1)。例えば第2時では,九つの色,

二つの動作と会話の英語表現を取り上げた(表2)。

Head, Handで主に英

語表現に触れたため,

Heartの国旗伝言ゲ

ームでは,英語表現

を活発に使って,友

達にアフリカ諸国の

国旗の色を伝えたり,

「日本の国旗は二色

だけど,アフリカは

三色ばかりだ」とつ

ぶやいたり,英語表

現に触れながら諸国

の文化に興味・関心

を持っている様子が見られた。

このように,Head,Handで主に英語表現に触れた

ことで,Heartでは児童の意識が諸国の文化に向い

た様子が見られた。しかし,第1時のHeartでは,

時間が不足し,日本と外国の色の使われ方について

児童に主体的に考えさせることができなかった。そ

れぞれの文化の特色を肯定的に受け入れるには,文

化に深く触れる必要がある。そのため,3Hの組合

せを工夫する必要を感じた。

(2) 題材・学習活動の工夫の具体化

① 多様性・類似性に気付くよう促す工夫

児童が自ら日本と外国の文化を比較することがで

きるようになることを目指し,題材を選んだ。例え

ば第4時では,日本のびゅんびゅんごまと,イギリ

スとトルコのこまを取り上げた。同じこまでも,回

し方や形が違う外国のこまに触れた児童は,自己評

価カードに,「トルコのこまはひもが付いたままだ

った」「イギリスのこまは,なぜ蛍光灯の下で回す

と黄色になるのだろう」と日本のこまと比較して気

付いたことや疑問を書いていた。

第5時では,3種類のアメリカの遊びを体験して,

日本の遊びに似たものがあるか自分で考えるように

した。取り上げ

た遊びは,一見

日本には似た遊

びがないと思え

るものであった

が,児童は実際

に触れることで,

似ている日本の

遊びに気付いた(表3)。

Page 3: 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する …...- 65 - 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する好奇心を高める工夫

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写真1 自己評価カード(一部)

このように日本の遊びとの相違点・類似点を持つ

外国の遊びを題材として取り上げたことで,日本や

外国の文化の多様性・類似性に気付き,興味・関心

を持った児童が見られるようになった。

② 自己の変容を自覚するよう促す工夫

自己の知識の広がりや意識の向上を自覚すること

ができるよう自己評価カードを工夫した(写真1)。

3段階の選択肢

による自己評価と

自由記述を併用し,

自己の知識と意識

を表現しやすいよ

うにした。その結

果,好奇心の高ま

りについての3段階の自己評価で,最上位を選んだ

児童のうち,自由記述欄に日本や外国の文化につい

てもっと知りたいことや取り組んでみたいことを記

述できた児童は,第1時ではいなかったが,第5時

では15名であった。

①②の工夫の結果,自発的に探求しようという好

奇心は高まりつつあるが,まだ漠然としている様子

が見られた。諸国の文化に深く触れる経験を更に重

ねて,知識を広げることを繰り返し,自分の知りた

いことや取り組んでみたいことを焦点化できるよう

な支援が必要であることを感じた。

2 授業実践Ⅱ

瀬戸内市立国府小学校の第5学年児童62名を対象

に「食べ物・飲物」を題材とし,平成17年9~12月

に全8単位時間の授業を行った。単元のねらいは,

英語表現に触れながら日本や外国の文化を尊重しよ

うとする態度を育成することと,自分の知りたいこ

とや取り組んでみたいことを具体的に自覚するよう

促すことによって,日本や外国の文化に対する好奇

心をより高めることである。

(1) 授業構成の工夫の具体化

実践Ⅰでの課題を受けて,日本や外国の文化によ

り深く触れることができるよう,図2の本単元の授

業構成に示すとおり,各授業のねらいに沿って3H

の学習活動を弾力的に組み合わせ,重点化を図った。

その結果, Heartでの体験活動における児童の姿

が,より主体的に対象にかかわろうとするものに変

容していった。例えば,第2時のHeart「マテ茶を

探せ!」で5種類の茶の中からアルゼンチンのマテ

茶を探す学習活動では,ALTにヒントを尋ねたり,

茶のにおいを確かめたり,飲んだりするなど,主体

的に活動する児童の様子が見られた。

またワークシートに,「茶葉を入れて手でシャバ

シャバ(手で容器にふたをして振る)して,苦いと

ころを捨てるのがすごい」という記述があり,工夫

した飲み方に感心している様子も見られた。

各授業のねらいに沿って3Hの学習活動を弾力的

に扱うことにより,児童が日本や外国の文化を尊重

しながら,それぞれの文化に主体的に触れることが

できるような支援を十分に行うことができた。

(2) 題材・学習活動の工夫の具体化

① 多様性・類似性を尊重するよう促す工夫

外国の文化の特色に気付きやすくするため,

Heartで取り上げる国を1単位時間で一つにした。

日本にはない特色を持つ外国の食文化としてアル

ゼンチンのマテ茶(写真2)とロシアのボルシチを

取り上げた。どちらも,日本の食文化との相違点・

類似点の両方を持っているということで,児童が興

味を持ちやすいと考えた(表4)。

授業では,マテ茶の飲み方やボルシチの色に驚き,

飲んだり食べたりすることに否定的な発言をする児

童もいた。しかし,マテ茶をみんなで回し飲む理由

や,マテ茶とボルシチ

の栄養価の高さを知る

と,「マテ茶のほかに

も『飲む○○』という

飲物があるのか知りた

い」とか「ビーツをみ

そ汁に入れたらどんな

味がするだろう」とい

う発言が聞かれ,外国の食べ物・飲物について好奇

心の高まった様子が見られた。ある児童の自己評価

カードには,「マテ茶は『飲むサラダ』だというこ

<諸国の文化に対する知識を広げるため探求したいという好奇心に関する児童の記述>

・外国の遊びをほかにも調べてみたい。 ・いろいろな国のこまを見たい。 ・日本(の遊び)に似た遊びを見付けたい。 ・いろいろな発音が知りたい。 ・アフリカの国旗の色を調べたい。 ・アメリカの遊びをもっと知りたい。 ・トルコのこまがすごかった。もっと調べたい。 ・「アフリカの色」があると聞いて調べたいと思った。

<3段階の自己評価>

3→もっと知りたいことがあり,自分で調べたいと思った。

2→もっと知りたいことがあった。

1→もっと知りたいことはなかった。

写真2 マテ茶の体験の様子

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単元名「世界の食べ物・飲物」(全8時間,平成 17 年9月~12月) <単元の目標> ○自分の知りたいこと,やってみたいことを具体的に自覚する。 ○外国の食文化を進んで体験し,そのよさを見付けることができる。 主 な 学 習 活 動 (Head,Hand,Heart の弾力的な構成を示す。) A児の好奇心の変容

「授業での体験が自分の知らなかったことや珍しかったことなので面白い」という好奇心

英語表現以外の日本や外国の文化について「もっと知りたい」「調べたい」「取り組んでみたい」という好奇心

第5時 「日本の主食」

第6時 「オリジナル米料理」

第7時 「グループの米料理」

第8時 「スタンリー先生におすすめの米料理」

Head:チャンツ 食べ物の英語表現に触れる。

Heart:オリジナル米料理 米料理の多様性を知り,自分なりの米料理を考える。

Hand:質問リレー みそ汁の具の好みをリレーで質問していく。

Hand:オリジナル米料理発表 自分なりの米料理を友達に伝える。

Head:ビデオレター ALTのビデオレターを見る。

Hand, Heart:グループの米料理 グループで,自分たちの考えを生かし,ALTが食べたくなる米料理としてまとめる。

Head:発表の見本 教師の発表のデモンストレーションを見る。

Hand, Heart:おすすめ米料理 班ごとに米料理を発表し,ALTの質問に答える。

第3時 「日本のみそ汁」

第4時 「ロシアのボルシチ」 Head:チャンツ 食べ物の英語表 現 に 触 れる。

Hand:質問リレー みそ汁の具の好みをリレーで質問していく。

Heart:ロシアのボルシチ ボルシチに入っているビーツの栄養価の高さに気付く。

Hand,Heart:栄養満点!みそ汁 栄養を考慮した,健康的なみそ汁の具を考える。

Head:チャンツ 食べ物の英語表現に触れる。

第1時 「好きな飲物」

第2時 「アルゼンチンの飲物」 Head:どこの国の人? ゲストティーチャーの話を聞いて出身国を推測する。

Heart:マテ茶を探せ! ヒントを基に様々な茶の中からマテ茶を探す。

Head:チャンツ 飲物の英語表現に触れる。

Hand:フレンズ・データ 友達の好きな飲物を推測し,答えを英語で確かめる。

Heart:世界の「はい」「いいえ」 外国の「はい」「いいえ」の言い方を知り,言語の多様性に気付く。

Head Hand Heart

飲物

汁物

主食

世界の「はい」「いいえ」

がちがうことが分かった。

国ごとに,飲み方がちがう

ことが分かってびっくりし

た。初めて飲めたお茶だった

ので,飲めてよかった。

もっといろいろな食べ物の

英語の名前が知りたい。

ほかの国のスープについて

知りたい。 日本のほかに,みそしるを

飲んでいる国があるのか知り

たい。

世界で2番目に多く食べら

れている主食を知りたい。

外国の人は,ライスプディ

ングのように,くだものとご

はんがいっしょになったもの

が好きなのかなあ。

外国の人に,自分たちの料

理を本当に食べてもらいた

い。

外国でも日本料理,特に米

料理だけのレストランがある

のかが知りたい。

図2 本単元の授業構成とA児の好奇心の変容

Page 5: 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する …...- 65 - 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する好奇心を高める工夫

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表5 自由記述の評価基準

1 赤い野菜と言えば,何を思いつきますか?( )

2 赤い野菜と言えば,何を思いつきますか?( )

1 赤い野菜と言えば,何を思いつきますか?( )

2 赤い野菜と言えば,何を思いつきますか?( )

図3 Before & After カード(一部)

Grow

Grow

Grow

Grow

Grow

Grow分かったことから考えたこと

を具体的に書いている。これからやりたいことを具体

的に書いている。×3

分かったことを具体的に書いている。日本の文化と比較して書いて

いる。×2

具体的ではないが,分かったことや感じたことを書いている。

評 価 基 準評価マーク

分かったことから考えたことを具体的に書いている。これからやりたいことを具体

的に書いている。×3

分かったことを具体的に書いている。日本の文化と比較して書いて

いる。×2

具体的ではないが,分かったことや感じたことを書いている。

評 価 基 準評価マーク

写真3 ALTに紹介した米料理

の絵

みそ汁

・大豆たんぱく質

・多数の組合せ

緑茶

・カテキン

・湯飲み

日本の食文化と特色

ボルシチ(ロシア)

・「食べる血液」(ビーツ)

・鮮やかな赤色

マテ茶(アルゼンチン)

・「飲むサラダ」

・木のつぼ

・金属製のストロー

外国の食文化と特色

汁物茶題材

食べ物飲物

みそ汁

・大豆たんぱく質

・多数の組合せ

緑茶

・カテキン

・湯飲み

日本の食文化と特色

ボルシチ(ロシア)

・「食べる血液」(ビーツ)

・鮮やかな赤色

マテ茶(アルゼンチン)

・「飲むサラダ」

・木のつぼ

・金属製のストロー

外国の食文化と特色

汁物茶題材

食べ物飲物

とが分かった。

体にいいので

おばあちゃん

に教えたい」

という栄養面

の特色に着目

した記述が見

られた。また

第5時以降,ALTに米料理を紹介するとき,マテ

茶も一緒にメニューに入れたり,ビーツを料理に使

ったりした児童もいた。

第5~7時では,外国の人に注目されている特色

を持つ日本の食文化として米を取り上げた。米は,

様々な食材と組み合わせることができ,最近では栄

養価の高さから,世界的にも注目されている食材で

ある。そこで,外国に米料理のレストランを開くと

したら,どんな料理を出してみたいかを考えること

を通して,外国の人にも注目されている日本の米料

理のよさに気付くことをねらった。

授業では,自分で考えたオリジナルの米料理の絵

を描き,それを外国の人が食べたくなるよう「味」

「見た目」「値段」「栄養バランス」の4点で友達

と相互評価した。相互評価を取り入れたことで,そ

れまでは味や見た目を気にしていなかった児童の料

理が工夫されていった。ただし「栄養バランス」に

は意識が向きにくかったので,バランスを考慮して

考えている児童の料理を紹介したり,第3時の「日

本のみそ汁」で知った赤・緑・黄色の栄養表を想起

させたりした。その結果,児童なりのアイデアの詰

まった米料理が完成した(写真3)。ALTに自分

たちの米料理の絵を紹介した

後,「実際に作って外国の人

に食べてもらいたい」と自分

たちの米料理に自信を持って

いる様子や,「外国に米料理

レストランを本当に作りた

い」と世界に日本の米料理を

広めたいという思いを持った

様子が見られた。

このことから,日本の文化

にはない特色を持つ外国の文

化や,外国の人に注目されている特色を持つ日本の

文化を取り上げることによって,それぞれの国の文

化の特色を肯定的に受け入れる態度が育ちつつある

ことが分かった。

② 探求したいという好奇心を自覚するよう促す工夫

自己評価カードの自由記述を増やすことで,知り

たいことを具体的に自覚させ,諸国の文化に対する

好奇心を一層高めることをねらった。

まず授業の始まりと終わりに,同じ質問(図3)

に答えることのできる「Before & Afterカード」を

用いた。質問の内容は,その授業の目当てを踏まえ,

児童が自己の変容を自覚しやすいものにした。

授業の終わりに,Afterの部分の自己評価を行った

後,「分かったこ

と・感じたこと」

「もっと知りたい

こと・やってみた

いこと」の二つの

自由記述により,

探求したいという

好奇心をより具体的に自覚しやすいようにした。

また,具体的に記述できるよう,記述内容の段階

的な評価基準(表5)と評価モデルを児童に示した。

自己の変容を自覚できるようにするため,「新しい

ことを知ったり感じたりして自分の知識が広がった

り,意識が向上したりすることが成長の第一歩であ

る」と話し,表5に示した評価マークを用いながら

助言や支援を行い,児童の成長することへの意欲が

高まるようにした。

抽出児童Aの自由記述は,実践Ⅰでは「『見る』

を英語で『スゥシー』と言うことが分かった」のよ

うに英語表現についての知識の広がりが中心であっ

た。しかし,実

践Ⅱ(図2)で

は,日本や外国

の文化に対する

好奇心が高まっ

ている様子が見

られた。このよ

うに,探求しよ

うという好奇心

を自己評価カードに具体的に記述できるようにした

ことで,ほぼ全員の児童が知りたいことや取り組ん

でみたいこと(表6)を,実践Ⅰより具体的に記述

するようになった。また,知りたいことを焦点化す

ることができたことで,自発的に調べる児童も見ら

れるようになった。

表4 Heart で取り上げた食文化

Page 6: 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する …...- 65 - 小学校英語活動を通して日本や外国の文化に対する好奇心を高める工夫

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表6 探求したいことを具体的に記述できた児童の記述例

・日本に外国の料理があるのか知りたい。

・ビーツが日本料理にも使われているのか知りたい。

・他の国の人は,お米以外の食べ物をごはんの中心に

しているのか知りたい。

・外国人はビーツを「食べる血液」だと知っているの

か。

・ロシア人はどうしてビーツを好きなのか知りたい。

・ロシアの記念日の料理を知りたい。

・ビーツを食べているなら,ロシア人の血はサラサラ

なのか。

また,ある児童はボルシチを知ったとき,「ビー

ツのスープ(ボルシチ)は,初めはびっくりしたけ

ど,体によくておいしかった。ビーツのスープは,

アメリカでも飲まれているのか知りたい」と自由記

述に書いていた。この記述の「体によくておいし

い」という部分から,児童がボルシチというロシア

の食文化のよさを認め尊重していることが分かる。

「アメリカでも飲まれているのか知りたい」という

記述から,ロシア以外の国の食文化を知りたいとい

う好奇心が高まっている様子が見られる。このよう

に日本や外国の文化の多様性・類似性を認め尊重し,

諸国の文化に対する好奇心を高めていることが分か

る記述は,ほかの児童の自己評価カードにも見られ

た。

一方で,「ビーツを食べているなら,ロシア人の

血はサラサラなのか知りたい」など,授業で知った

文化をより深く知りたいという好奇心は高まったが,

調べる手段が思いつかず,自発的な探求活動につな

がらなかった児童もいた。児童の探求しようという

好奇心を,自発的な探求活動につなげるための適切

な支援の必要を感じた。

Ⅴ 研究の成果と課題

1 研究の成果

(1) 授業構成の工夫

実践Ⅰでは英語表現に触れる学習活動と,日本や

外国の文化に触れる学習活動を結び付けることを目

指して,3Hの学習活動をほぼ均等に組み合わせた

結果,Head,Handで十分に英語表現に触れることが

でき,Heartでは諸国の文化に目を向けようとする

児童の様子が見られた。実践Ⅱでは,諸国の文化に

ついて探求したいという好奇心をより高めるため,

各授業のねらいを明確にした上で,3Hの学習活動

を弾力的に組み合わせた。その結果,主体的に諸国

の文化に触れようとする児童が多く見られるように

なった。

これらのことから,小学校英語活動における授

業構成の工夫の手掛かりをつかむことができた。そ

れは,小学校英語活動を初めて体験する児童が,主

に英語表現に触れることを目指す場合は,3Hの学

習活動をほぼ均等に組み合わせた実践Ⅰのような授

業構成が適しており,主に諸国の文化に触れること

を目指す場合は,実践Ⅱのように3Hの学習活動を

弾力的に組み合わせた授業構成が適しているという

ことである。

(2) 題材・学習活動の工夫

まず実践Ⅰでは,諸国の文化の多様性・類似性に

気付くことができるようにするため,比較しやすい

特色を持つ文化を題材として取り上げた結果,児童

は文化の多様性・類似性に興味・関心を持った。実

践Ⅱでは,日本の文化にはない特色を持つ外国の文

化や,外国の人に注目されている特色を持つ日本の

文化を取り上げた結果,児童はそれぞれの文化のよ

さを自分なりに認め尊重していくようになった。ま

た,実践Ⅰ,Ⅱを通して,児童の気付きを具体的な

ものにするために自己評価を工夫した結果,児童は

自分の知りたいことを焦点化することができ,日本

や外国の文化について探求しようという好奇心を高

めた様子が見られた。

これらの児童の変容から,日本と外国の文化を比

較できるよう題材を選定することや自己の変容を自

覚できるよう自己評価を工夫することで,児童が諸

国の文化の多様性・類似性を認め尊重し,それらの

文化に対する好奇心を高めることのできた姿が見ら

れるようになった。

2 今後の課題

今後は,総合的な学習の時間における他の学習活

動との関連を図りながら,児童が探求活動に取り組

みやすい環境をつくり,調べる方法を身に付けるこ

とができるような支援を行うことによって,小学校

英語活動で高めた日本や外国の文化を尊重する態度

や好奇心を,自発的な探求活動につなげる工夫を考

えたい。