覚醒時に閉塞型無呼吸症候群を 簡易診断する方法 『首都大学東京・新技術説明会』 日時:平成25年9月24日(火) 場所:JST東京別館ホール 東京都立産業技術高等専門学校 ものづくり工学科医療福祉工学コース 教授 吉澤 昌純
覚醒時に閉塞型無呼吸症候群を 簡易診断する方法
『首都大学東京・新技術説明会』 日時:平成25年9月24日(火) 場所:JST東京別館ホール
東京都立産業技術高等専門学校 ものづくり工学科医療福祉工学コース
教授 吉澤 昌純
本研究課題の背景 (検査の重要性)
閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSA)は眠気による事故だけでなく、原因不明の体調不良の原因となり、心臓疾患等の主要因となる。
しかし、OSAは自覚症状が少なく発見が遅れやすい。 加齢、筋力の低下や体重の増加により、徐々に気道が閉塞 ⇒知らないうちに羅患し、症状が悪化。
日本 2~4%の罹患率。
昼間は通常血圧でも睡眠時のみ高血圧状態が継続し、放置すると動脈硬化が進行。後年、不整脈、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの病気の主要因となる。
重症のSAS患者が治療せず、放置すると18年後には死亡リスクが健常人の約4倍との報告例も見られる。
OSAの早期発見のための検査が重要。
2
本研究課題の背景 (従来技術とその問題点)
既存技術(体に各種センサを取り付け一晩の睡眠状態を記録) 確定診断装置:終夜睡眠ポリグラフィ検査
脳波、眼球運動、心電図、パルスオキシメーター、おとがい筋電図(あご)、下肢筋電図、気流センサー、呼吸センサー、体位センサー、イビキセンサー
簡易検査装置:例)睡眠時無呼吸スクリーナ「ソムニー」 鼻の真下に鼻と口からの呼気を感知するフローセンサを粘着テープで貼り付け
問題点 昼間の通院時や健康診断等の集団検診に使えない。 入院や一晩の検査のため、受診に消極的。 センサーを身につけるため寝にくい。
他機関(徳島大学)による開発中技術 覚醒時の経鼻ファイバースコープを用いて中咽頭の動的狭窄を定量的に評価
問題点 健康診断等の集団検診には向かない。
3
研究経過
4
検査の動機付けのための簡易装置開発 通常の睡眠が可能で安価な装置⇒いびき音の利用
いびき音の第一フォルマント周波数の違い OSA患者と健常者のいびき音解析 第一フォルマント周波数 330Hzを境に識別できる可能性
第一フォルマント周波数の変化要因の検討 個人差の検討(いびき音収集は困難)⇒擬似いびき音 擬似いびき音による解析 ⇒ BMIが大きいほど第一フォルマント周波数が高くなる 姿勢により擬似いびき音の第一フォルマント周波数変化
擬似いびき音による検診の可能性
声道と音声
5
声道
舌
鼻
声帯
共鳴
図1 音声の発声メカニズム
音声は、声帯の振動によって生成された音波が声道つまり咽頭喉頭および口腔、さらに鼻腔、副鼻腔で共鳴することによって特定帯域ごとに倍音が増幅される。
声帯振動は会話の時は100~200Hz付近。
姿勢フォルマント周波数とその解析
6
共鳴することによって特定帯域ごとに増幅された倍音成分の塊もしくはピークをフォルマントと言う。この音は、さらに口から外部への放射、伝播を経て、我々が普段耳にしている音声へと変わる。
そこで、線形予測法により“擬似いびき音”の包絡線スペクトルを求めた。
図2 フォルマント周波数の例
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
0 200 400 600 800 1000
振幅
スペクトル
周波数[Hz]
第一フォルマント 第二フォルマント
第三フォルマント
姿勢変化時の擬似いびき音の解析結果 健常者
7
図3 姿勢変化と経過時間による第一フォルマント周波数
100
120
140
160
180
200
220
240
-10 -5 0 5 10 15 20
第一
フォル
マント周
波数
[Hz
]
姿勢変化後の経過時間[分]
仰向け 仰向け 仰向け 横向き 横向き 横向き
座った状態
時間経過後
第一フォルマント周波数
横向き
仰向け
変化が小さい
上昇している
フォルマント周波数が共に近づく
姿勢変化時の擬似いびき音の特徴
8
疑似いびき音の第一フォルマント周波数は、 寝た直後、座っている状態より低くなった。この時、横向きよ
り仰向けのほうが低くなる傾向が見られた。 時間経過により上昇し、仰向け横向き共に近づくような傾向
が見られた。 つまり、声道の形状、その時間変化に影響を受ける
睡眠時に気道が閉塞しやすい人(OSA患者あるいはOSA予備軍)に特有の変化傾向があるのでは!
と言うことは
検査条件
9
OSA兆候あり、OSA予備軍 被験者A: OSAの兆候自覚あり 被験者B: 体型が身長低く小太り、首周り太い
健常者 被験者C: 体格普通、OSAの兆候無し 被験者D: 体格大きいが、いびきをほとんどかかない
姿勢変化させてからの経過時間により
擬似いびき音の第一フォルマント周波数が どのように変化するかを検討した。
擬似いびき音の姿勢による解析結果
10
図4 擬似いびき音の第一フォルマント周波数の時間変化
0
50
100
150
200
250
300
350
400
-5 0 5 10 15 20 25 30
仰向けで寝ているとき
はOSAの兆候あり
身長低く小太り首周り
も太い
体格普通無呼吸の兆
候無し
体格は大きいがいびき
をかかない 座位
仰向けに寝てからの経過時間[分]
第一フォルマント周波数[Hz] 気道の形状が変化する
気道の形が安定している
擬似いびき音の姿勢による解析結果
11
擬似いびき音の第一フォルマント周波数は、
OSA有兆候者の場合、上昇傾向、あるいは、上下に変動
健常者の場合、比較的安定
擬似いびき音の第一フォルマント周波数を解析することにより、睡眠時の気道の状態を推定
擬似いびき音の飲食状態による変化
12
昨年、座位から仰臥位への姿勢変化によって周波数に変化が 見られることが確認された
疑似いびきを用いる場合体調や状態によって、 周波数が異なる可能性がある。
食前食後などの状態を比べ、姿勢変化させてからの時間経過で疑似いびき音がどのように変化するかを検討した。
・・・検査をするに当たって、適切な条件を知る必要がある。
そこで
飲食状態による変化測定結果
13
図5 状態変化による第一フォルマント周波数の時間推移
・食後、水分摂取後は周波数変化が激しく、規則性が見受けられない。 ・就寝前、起床後は周波数が低めに集まり、変化も小さい。
150
170
190
210
230
250
270
290
310
330
座時 姿勢変化 1分後 2分後
第一
フォル
マント周波
数[H
z]
食後1
食後2
食後3
水分摂取後
空腹時1
空腹時2
就寝前1
就寝前2
就寝前3
起床時1
起床時2
擬似いびき音の飲食状態による変化
14
空腹時に比べて、食後と水分摂取後はデータに大きなばらつきがあり、座位から仰臥位に姿勢変化した時有意水準5%で有意差が認められた。
睡眠前と起床後では大きな変化は見受けられなかった
他研究機関の結果との比較
15
「睡眠ポリグラフ検査から測定したapnea index(AI) と最大中咽頭面積,中咽頭狭窄率を比較した。AIは静的狭窄の指標である最大中咽頭面積と有意の負の相関を認め,
安静呼気時の中咽頭面積が小さいほど無呼吸が起こりやすいことを意味している。」http://www.toku-oto.umin.jp/group06.html(徳島大学医学部)より引用 (2013.8.30掲載確認)
擬似いびき音の第一フォルマント周波数の値が静的狭窄の度合いに対応 「一方、AIは動的狭窄の指標である中咽頭狭窄率と有意の正の相関を認め,中咽頭
の可動性が大きいほど無呼吸が起こりやすいことを意味している。以上の結果から、OSASの発症には中咽頭の解剖学的な静的狭窄だけでなく,軟部組織の可動性による中咽頭の動的狭窄も関与していると考えられた。」 http://www.toku-oto.umin.jp/group06.html(徳島大学医学部)より引用 (2013.8.30掲載確認)
姿勢変化による擬似いびき音の第一フォルマント周波数の変化が軟部組織の可動性の度合いに対応
総括
16
姿勢変化の影響 擬似いびき音の第一フォルマント周波数の値により静
的狭窄の度合を評価し、姿勢変化による周波数の変化により軟部組織の可動性の度合を評価すれば、BMI値と合わせてOSAのスクリーニング検査が可能。
状態(飲食・飲水)変化の影響 計測は食後と飲水後を避ける必要がある。
新技術によるスクリーニング手順例
17
飲食の影響を除くため、1時間前より飲食・飲水しない状態で以下の手順で検査を行う。 1. 擬似いびき音の発声方法をレクチャー 2. 収音状態の確認 3. 座位で擬似いびき音を発声 4. 1分後、横臥位で擬似いびき音を発声 5. 2分後、横臥位のままで擬似いびき音を発声 6. 解析
新技術の特徴 (従来技術との比較)
18
覚醒時に比較的短時間に閉塞型無呼吸症候群を検査できる。
第一フォルマント周波数の解析によるため、スマートフォン等のアプリにて実装できる。
遠隔地からの診断が可能。
想定される用途
19
健康診断等の集団検診 問診時の症状に閉塞型無呼吸症候群が疑われる際の簡易検査
自宅での検査
実用化に向けた課題
現在、今回の発表に加えこれから発表を行う姿勢変化と食前・食後および水摂取前後の比較が済んでいる。しかし、使用マイクと室内ノイズに起因する第一フォルマント周波数が観測できない問題が未解決であり、また、実際のOSA患者に対する検査を行えていない。 今後、使用マイクと室内ノイズに起因する第一フォルマント周波数が観測できない場合がある問題について、検討を行い、更に、実際のOSA患者に対して検査を行い、本手法
をスクリーニング検査に適用していく際の条件設定を行っていく予定である。
20
企業に期待すること
専用スクリーニング装置としてリリースの場合 組み込み機器開発メーカー – 組み込み機器開発、ソフト開発、データ収集、事例解析に関する
共同研究 アプリとしてリリースの場合 スマートフォンソフト開発メーカー – ソフト開発、データ収集、事例解析に関する共同研究
医療計測機器とする場合 上記+医療機器開発経験のあるメーカー – 医療機器の認可に係るノウハウ
21
関連する知的財産権
22
【知的財産権】
発明の名称: 擬似いびき音による閉塞型無呼吸
症候群の診断技術
出願番号 : 特願2012-154559
出願人 : 公立大学法人 首都大学東京
発明者 : 吉澤昌純
関連する学術文献
23
【学術文献】 ・坂野大樹、吉澤昌純、“いびきの特徴抽出による無呼吸症候群の簡易検査装置の開発-擬似いびき音の状態変化に対する周波数特性の変化-”、第15回DSPS教育者会議予稿集, pp.19-20, 2013. 8. 29. ・田谷啓祐、吉澤昌純、“いびきの特徴抽出による無呼吸症候群の簡易検査装置の開発-擬似いびき音の姿勢変化に対する周波数特性の変化-”、第14回DSPS教育者会議予稿集, pp.27-28, 2012. 9. 7. ・吉澤昌純、田谷啓祐、“覚醒時の擬似いびき音による閉塞型睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング手法の開発”, 第49回日本臨床整理学会総会抄録号, 06-6, p.73, 2012. ・山崎 蓮、松本遼平、吉澤昌純、“いびきの特徴抽出による閉塞型睡眠時無呼吸症候群の簡易検査装置の開発-BMIを用いた個人差の軽減方法の検討-”、信学技報、EMD2011-132、pp.25-27、2012-3. ・松本遼平、山崎蓮、吉澤昌純“いびきの特徴抽出による閉塞型睡眠時無呼吸症候群の簡易検査装置の開発-個人差と環境雑音の検討-”, 第13回DSPS教育者会議予稿集, pp.13-14, 2011. 9. 2. ・加藤恭平、宮野拓哉、吉澤昌純“いびきの特徴抽出による無呼吸症候群の検査装置の開発”,第12回DSPS教育者会議予稿集, pp.63-64, 2010.9.10. ・覚醒時の経鼻ファイバースコープを用いて中咽頭の動的狭窄を定量的に評価する方法、 http://www.toku-oto.umin.jp/group06.html (2013.8.30掲載確認)徳島大学医学部 ・榎本崇宏他、“いびき音解析による無呼吸の兆候抽出に関する基礎的検討”, 信学技報, MBE2008-22, pp.11-14, (2008-7).
お問い合わせ先
24
首都大学東京 産学公連携センター
統括コーディネーター
中西 俊彦
TEL 042-677-2729
FAX 042-677-5640
e-mail [email protected]