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生化学Ⅲ 第5回
遺伝子の複製・変異・修復-1
今回のSBOs
DNAの複製の過程について説明できる
生化学Ⅲ SBO-8
DNAの複製の過程について説明できる
DNA Replication
SBO-8 課題(予習&復習)
DNAの複製に関連する基本的な用語の意味について確認し、ノートにまとめること。
複製起点、複製フォーク、DNAヘリカーゼ、DNAトポイソメラーゼ、DNAポリメラーゼ、プライマー、DNAプライマーゼ、リーディング鎖とラギング鎖、岡崎フラグメント、不連続複製、ヌクレアーゼ、DNAリガーゼ、テロメラーゼ、染色体の分配、細胞周期、サイクリン、サイクリン依存性プロテインキナーゼ
SBO-8 課題(予習&復習)-2
メセルソンとスタール(M.Meselson & F.Stahl)の研究
遺伝学に関する歴史上重要な研究(研究者・実験方法・研究結果・定説など)について確認し、ノートにまとめること。
SBO-8 小テスト-1
2本鎖DNAが解離して、1本鎖のDNAを鋳型に新たなDNAが合成される過程を半保存的複製という。
Yes No
DNAの複製(合成)は、適切な場所で、適切な時期に、正確に行われるよ!
DNAの複製
DNAの複製が始まる場所を、複製開始点と呼びます。
複製開始点
複製開始点
特定の塩基配列
複製開始点に特定のDNA結合タンパク質が結合してDNA合成が始まります。
複製開始点
複製開始点
特定の塩基配列
結合タンパク質
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複製開始点でDNAが解裂して、1本鎖DNAになるよ。
DNAの解裂
複製ホーク
DNAポリメラーゼが鋳型DNA鎖に対して相補的なDNA鎖を合成するよ。
DNAの合成
DNAの複製
DNA replication
大腸菌のDNA複製に必要な因子
1,複製開始因子2,DNAヘリカーゼ3,DNAトポイソメラーゼ4,DNAプライマーゼ5,DNAポリメラーゼⅠ&Ⅲ6,DNAリガーゼ7,ヌクレオチド(4種類)
環状DNAの複製
環状DNAでは1カ所の複製起点からDNAの分離が始まり、複製フォークの両側にDNA合成が進行する。最終的に複製終結点で終了する。
複製された2つの環状DNAは、Ⅱ型トポイソメラーゼにより分離される(大腸菌の場合)。
細菌DNA、ミトコンドリアDNA、葉緑体DNA、プラスミドDNA。
環状DNAの複製モデル
複製起点
複製終結点
複製フォーク
原核生物のDNA複製
大腸菌の場合、複製開始点から複製が両方向に進行する。
複製開始点( oriC )
複製終結点( ter )
複製開始因子
最初に複製を制御するタンパク質(複合体)が複製起点(oriC)に結合する。
複製開始タンパク質
DNA
複製起点(複製開始点)
5'
3'
3'
5'
大腸菌ではDnaAなどが知られている。
DNAヘリカーゼ
DNAヘリカーゼは、複製起点に結合して2本鎖DNAを分離させ1本鎖にする。
DNA
複製起点
H H
5'
3'
3'
5'
大腸菌の場合、ヘリカーゼ活性を有するDnaBとDnaCが2本鎖DNAを両方向にほどく。
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複製フォーク
ヘリカーゼの働きにより、複製フォークが形成される。
複製フォーク(replication fork)
H H
5'
3'
3'
5'
一本鎖DNA結合タンパク質
一本鎖DNAに結合して、ヘアピン構造の形成をふせぐ
一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand DNA binding protein)
H H
5'
3'
3'
5'
DNAトポイソメラーゼ
DNAトポイソメラーゼは、2本鎖DNAの分離に伴い形成される超らせんを解消する。
←複製フォーク(replication fork)
複製フォーク→
H HT5'
3'
3'
5'
T
外部からのエネルギーを必要としない(ATP不要)
プライマーゼ
プライマーゼは分離したそれぞれのDNA鎖の一部分に相補的なRNAプライマー(10塩基程度)を合成する。
P
P
5'
3'
3'
5'
RNA primer
プライマーゼはRNA合成酵素(DNA依存RNAポリメラーゼ)
プライマーゼの詳細
RNA鎖の3‘末端水酸基とNTPの5’位のリン酸基をエステル結合させ、鋳型DNAに相補的なRNA鎖を合成する。
5'-ACUCUAGU-3'llllllll
3'-ATCTGAGATCTCGAGTTAGTAG-5'
NTPRNA
DNA
エステル結合 ↓
←水素結合
DNAポリメラーゼ
DNAポリメラーゼⅢがRNAプライマーに続いて鋳型DNAに相補的な新しいDNA鎖を合成する。
5' 3'
Pol-III
Pol-III
5'
3'
3'
5'
5'3'
DNAポリメラーゼⅢの詳細
DNA鎖の3'末端水酸基とdNTPのリン酸基をエステル結合させる。
5'-ACUCUAGUGCTCA-3'lllllllllllll
3'-CTGAGATCTCGAGTTAGTAGAT-5'
RNA
DNA
DNA
エステル結合 ↓
dNTP
DNA合成の方向性
DNAポリメラーゼは、鋳型DNA鎖を3‘→5’方向に読み取りながら、新しいDNA鎖を5‘→3’方向に伸長させる。
一方通行だよ
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リーディング鎖とラギング鎖
リーディング鎖は、複製フォークの移動に伴って連続的に合成される。
5’
3’
3’
5’
複製開始点
H H
リーディング鎖
リーディング鎖とラギング鎖
5’
3’
3’
5’
複製開始点
H H
リーディング鎖
リーディング鎖の反対側はどうやって合成するでしょうか?
リーディング鎖とラギング鎖
ラギング鎖DNAは非連続的に合成される
5’
3’
3’
5’
複製開始点
H H
リーディング鎖
ラギング鎖真核生物:100~150ヌクレオチドずつ合成原核生物:1000~2000ヌクレオチドずつ合成
リーディング鎖とラギング鎖
ラギング鎖には岡崎フラグメントが形成される。
岡崎フラグメント
複製フォークの進行方向とは逆にDNAが伸長するラギング鎖では、岡崎フラグメントと呼ばれるDNA断片が合成される。
岡崎フラグメントの長さは、大腸菌で1~2千塩基対、真核細胞では100~200塩基対と言われている。
(Okazaki fragment)
DNAポリメラーゼⅠ
DNAポリメラーゼⅠは、RNAプライマーの除去機能とDNA合成機能を持つ
DNA5'
3'
3'
5'
Pol I
Pol I
DNAポリメラーゼⅠ
DNAポリメラーゼⅠはエキソヌクレアーゼ活性を持ち、RNAプライマーを分解除去する。
5'-CTAG AGAGCTCAATCAT-3'llll lllllllllllll
3'-GATCTGAGATCTCGAGTTAGTA-5'
RNA
DNA
DNA
5‘→3’エキソヌクレアーゼ活性:ヌクレオチドを末端から除去する働き
DNA
-3' 5'-
DNAポリメラーゼⅠ
DNAポリメラーゼⅠは、RNAプライマーを除去した後、相補的DNA鎖を合成する。
5'-CTAGACTCT TCAATCAT-3'lllllllll llllllll
3'-GATCTGAGATCTCGAGTTAGTA-5'DNA
DNA
5‘→3’DNAポリメラーゼ活性を有する
DNA dATP-3' 5'-
大腸菌のDNAポリメラーゼ
役割の異なる複数のDNAポリメラーゼが存在する。大腸菌のPolIはDNAの修復とRNAプライマーの除去。PolⅢはDNA複製と複製時のエラー校正。
ポリメラーゼ Ⅰ ポリメラーゼ Ⅱ ポリメラーゼⅢ
5’→3’DNA合成活性 + + +3’→5’DNA分解活性 + + +5’→3’RNA分解活性 + - -
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DNAリガーゼ
DNAリガーゼは新たに合成されたDNA鎖の末端同士を結合させる。
DNA5'
3'
3'
5'
L
L
岡崎フラグメントの3’末端が隣接するDNAの5’末端と結合
DNAリガーゼの詳細
DNAリガーゼはATP依存的にDNA鎖の3'末端水酸基と5'末端リン酸基をエステル結合させる。
5'-CTAGACTCTAGAG CAATCAT-3'lllllllllllll lllllll
3'-GATCTGAGATCTCGAGTTAGTA-5'DNA
DNADNA
ATP3'末端水酸基
5'末端リン酸基
CT
原核生物の複製されたDNAの分離
DNAジャイレース(DNAトポイソメラーゼⅡ)は複製が完了したDNAを分離する。
参考:キノロン系の抗生物質は細菌のジャイレースを阻害する。
真核生物の細胞周期
分裂開始から次の分裂開始までを細胞周期という。細胞周期はG1、S、G2、Mの4段階に分かれている。
細胞周期とDNA合成
細胞分裂の前にDNAが合成(複製)される(例外:減数分裂の第2分裂前)
DNA合成 細胞分裂
細胞周期とDNA合成
DNA合成はS期に行われる。
DNA合成 細胞分裂
G1期
G2期
S期 M期
真核生物の染色体の複製と分離
間期
中心体核
核小体
間期
間期には遺伝子が発現しタンパク質が合成される
S期
S期にDNAが合成される。G2期のDNA量はG1期の2倍
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真核生物の染色体の複製と分離
前期
星状体
染色体
真核生物の染色体の複製と分離
前期
紡錘糸
相同染色体
コルヒチンの作用
チューブリンの重合方向
コルヒチン
αチューブリンβチューブリン
コルヒチンはチューブリンの重合を阻害し、M期の進行を阻害する(微小管や中心体の形成阻害)。
真核生物の染色体の複製と分離
中期
赤道面
動原体
真核生物の染色体の複製と分離
後期
真核生物の染色体の複製と分離
終期
くびれ
真核生物の染色体の複製と分離
終期
娘核
細胞分裂
真核生物の染色体の複製と分離
間期
娘細胞細胞分裂
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細胞周期のチェックポイント
環境は望ましいか?
すべてのDNAが複製したか?環境は望ましいか?
すべての染色体が紡錘体に付着しているか?
DNAが損傷していないか?
DNAが損傷していないか?
DNAが損傷していないか?
細胞周期のチェックポイント
サイクリンとサイクリン依存プロテインキナーゼ(CDK)
による制御
細胞周期の制御系
真核細胞では細胞周期にあわせてサイクリンの濃度が
変化し、サイクリン依存プロテインキナーゼ(CDK)の活
性が変化する。
細胞周期の制御系
サイクリンによって活性化したCDKは、細胞周期の進行
に必要なタンパク質をリン酸化する。
真核細胞の細胞周期はサイクリンとサイクリン依存プ
ロテインキナーゼ(CDK)によって制御される。
直鎖状DNAの複製モデル
テロメア テロメア複製起点
複製単位=レプリコン
直鎖状DNAの複製モデル
直鎖状DNAでは、複数箇所の複製起点からDNAの
分離が始り、DNAの複製が行われる。
真核細胞の染色体DNAの複製単位をレプリコンという
テロメア
復習:真核生物のDNAの両末端にはテロメアが存
在する。
5'
3'
3'
5'
テロメア テロメアセントロメア
(動原体)
テロメア
直鎖状DNAの末端は複製の度に少しずつ短くなる。
鋳型DNA鎖
新生DNA鎖 RNAプライマー
3’末端
欠失新生DNA鎖
鋳型DNA鎖
テロメア
テロメアがある程度短くなると細胞分裂できなくなる。
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テロメア
3’末端
5’末端
5’末端側に続く
3’末端側に続く
短い
テロメア部分は、一方の3’末端が長く他方の5’末端が短い
t-ループ
D-ループ5’末端
3’末端
細胞内ではループ構造になる
テロメア
テロメアはタンパク質と結合してループ構造(D-loopと
t-loop)を形成する。
テロメラーゼ
RNAを鋳型にDNAを合成する(逆転写)活性を持つ。
テロメラーゼ
再生
直鎖状DNAの両末端に存在するテロメアは、DNA複製のたびに短くなる。テロメラーゼは必要に応じてテロメアを合成(再生)する。