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研究ノート 香川県におけるインバウンド観光客の動向 ―― 高松空港から帰国するインバウンド客を事例として ―― 1.問題の所在 本研究は,高松空港でインバウンド観光客を対象にしたアンケート調査により,観 光動向や観光情報の入手等についての実態の解明を通して,観光振興のための施策実 施に寄与することを目的とする。 政府は『観光先進国』に向けて,2016年3月に新たな観光ビジョン『明日の日本 を支える観光ビジョン』(以下,「観光ビジョン」)を策定した。この「観光ビジョン」 に盛り込まれた受入体制に関する施策について,訪日外国人旅行者がストレスなく, 快適に観光を満喫できる環境整備に向け,対応を加速化すると述べている 。「観光ビ ジョン」には訪日外国人旅行者数,訪日外国人旅行消費額,地方部での外国人延べ宿 泊者数について,2015年の1,974万人,3兆4,771億円,2,753万人泊を踏まえて, 2020年にはそれぞれ4,000万人(2015年の2倍),8兆円(2015年の2倍),7,000万 人泊(2015年の3倍),2030年には6,000万人(2015年の3倍),15兆円(2015年の 4倍),1億3,000万人泊(2015年の5倍)を目標に据えている。中でも地方部での 外国人延べ宿泊者数の目標設定は非常に高く,それだけ地方部での観光振興のための 施策が求められている。 香川県でも観光振興に関する取組は非常に熱心に行われている。高松空港もその例 外ではない。2010年の浜田知事就任以来,県を挙げた高松空港への国際線誘致が功を (1) 観光庁 HP http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics 01 _ 000205 .html を参照。 香川大学経済論叢 第92巻第1号2019年6月 125-141
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香川県におけるインバウンド観光客の動向shark.lib.kagawa-u.ac.jp/kuir/file/28727/20191205094543/7...研究ノート 香川県におけるインバウンド観光客の動向

Jan 31, 2021

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  • 研究ノート

    香川県におけるインバウンド観光客の動向――高松空港から帰国するインバウンド客を事例として――

    原 直 行

    1.問題の所在

    本研究は,高松空港でインバウンド観光客を対象にしたアンケート調査により,観

    光動向や観光情報の入手等についての実態の解明を通して,観光振興のための施策実

    施に寄与することを目的とする。

    政府は『観光先進国』に向けて,2016年3月に新たな観光ビジョン『明日の日本

    を支える観光ビジョン』(以下,「観光ビジョン」)を策定した。この「観光ビジョン」

    に盛り込まれた受入体制に関する施策について,訪日外国人旅行者がストレスなく,

    快適に観光を満喫できる環境整備に向け,対応を加速化すると述べている⑴。「観光ビ

    ジョン」には訪日外国人旅行者数,訪日外国人旅行消費額,地方部での外国人延べ宿

    泊者数について,2015年の1,974万人,3兆4,771億円,2,753万人泊を踏まえて,

    2020年にはそれぞれ4,000万人(2015年の2倍),8兆円(2015年の2倍),7,000万

    人泊(2015年の3倍),2030年には6,000万人(2015年の3倍),15兆円(2015年の

    4倍),1億3,000万人泊(2015年の5倍)を目標に据えている。中でも地方部での

    外国人延べ宿泊者数の目標設定は非常に高く,それだけ地方部での観光振興のための

    施策が求められている。

    香川県でも観光振興に関する取組は非常に熱心に行われている。高松空港もその例

    外ではない。2010年の浜田知事就任以来,県を挙げた高松空港への国際線誘致が功を

    (1) 観光庁 HP http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics01_000205.html を参照。

    香 川 大 学 経 済 論 叢第92巻 第1号2019年6月 125-141

  • 全国 香川

    140

    120

    100

    80

    60

    40

    20

    02011 2012 2013 2014 2015 2016 2017(年)

    奏し,順調にインバウンド観光客数は増加を続けている。また,多言語コールセンター

    の開設,無料公衆無線 LANサービス「かがわWi-Fi」の提供,インバウンド誘致に

    向けたファムトリップなどの活動を行っている⑵。施策の結果も良い方向に出ている。

    図1と図2は延べ宿泊者数をみたものである。図1は日本人,外国人を合わせた全体

    で2011年を100としたときの経年変化をみている。これによると,全国と香川県では

    ほぼ同様の動きを示している。一方,図2は外国人のみをみている。図2では全国も

    4倍以上伸びているものの,香川県は12倍以上と極めて高いことがわかる。香川県

    ではこの間,全国でも最も伸び率が高かった。また,直近の2017年では,外国人延べ

    宿泊者数は45万3,000人であり,国別では台湾32.7%,中国18.9%,香港15.0%,

    韓国13.2%の順で占める割合が高く,このアジア4ヶ国で全体の8割を占める。

    このように,年々香川県を旅行するインバウンド観光客は増加しているが,インバ

    ウンド観光客について,その観光動向や観光情報の入手等の実態はほとんどわかって

    いないのが現状である。今までは施策が良い結果をもたらしていたが,今後,国内で

    の競争が激しさを増し,益々効果的な施策の実行を求められていく中で,今のままで

    は効果的な施策の実行はより一層難しくなってくると言わざるをえない。インバウン

    ド観光客の実態の解明が喫緊の課題である。

    (2) 香川県の観光施策については,日本政策投資銀行(2018),pp.17-23を参照。

    図1 延べ宿泊者数:全体(2011年=100)

    出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」各年版より作成

    -126- 香川大学経済論叢 126

  • 全国 香川

    1,400

    1,200

    1,000

    800

    600

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    02011 2012 2013 2014 2015 2016 2017(年)

    そこで,本研究は,高松空港から帰国するアジアからのインバウンド観光客を対象

    にアンケート調査を実施し,観光動向や観光情報の入手等についての実態を明らかに

    し,それによって効果的な観光振興のための施策実施に寄与することを目的とする。

    2.アンケート調査の概要

    ⑴ 高松空港の概要

    先ず,アンケート調査を実施した高松空港について紹介する。高松空港は2018年

    4月1日から民営化が実施された空港であり,国土交通省により全国97の空港のう

    ち「訪日誘客支援空港」に認定された27空港の1つである。さらに,国交省はこの

    27空港を「拡大支援型」(19空港),「継続支援型」(6空港),「育成支援型」(2空港)

    の3つのカテゴリーに区分しており,高松空港はそのうちの「訪日誘客に一定の実績

    をあげているうえ,拡大に向けた着実な計画・体制を有しており,国の支援(運航コ

    スト低減やボトルネック解消等)を拡大することにより,訪日旅客数のさらなる増加

    が期待される空港」である「拡大支援型」に入る⑶。

    高松空港では,県による国際線誘致の効果もあって,現在(2019年3月1日現在),

    (3) 国土交通省 HP http://www.mlit.go.jp/common/001191389.pdfを参照。

    図2 延べ宿泊者数:外国人(2011年=100)

    出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」各年版より作成

    香川県におけるインバウンド観光客の動向127 -127-

  • 国内線の東京(羽田)13往復(毎日),東京(成田)4往復(毎日),沖縄1往復(毎

    日)に加えて,国際線ではソウル(インチョン)1往復(毎日),台北(桃園)6往復

    (毎週),上海(浦東)5往復(毎週),香港4往復(毎週)となっている。

    旅客数は2015年では国内線165万人,国際線15万人の実績であったが,今後は

    2022年で国内線209万人,国際線51万人,2032年で国内線225万人,国際線82万

    人を目標としている。

    ⑵ アンケート調査の概要

    アンケート調査の実施概要について説明する。調査は2018年8月12日,8月17

    日,8月19日,8月24日,11月11日,11月25日の計6日行われた。実施場所は

    高松空港株式会社の協力と許可を得て,高松空港国際線搭乗待合室で行われた。対象

    者は香港(香港エクスプレス),中国(春秋航空),台湾(チャイナ・エアライン),

    韓国(エア・ソウル)行きの国際線を利用する訪日外国人旅客であり,中国語(繁体

    字),中国語(簡体字),韓国語で作成された同じ内容のアンケート個票を,待合室で

    搭乗を待つ訪日外国人旅客に自記式で記入してもらい,その後回収した。なお,アン

    ケート調査は当初8月の4日間だけの予定であったが,そのうちの2日間は国土交通

    省のアンケート調査と重なってしまったため,その日は途中で調査を中断することと

    したため,サンプル数を確保するため補足的に11月に2日間実施した⑷。

    3.分 析 結 果

    ⑴ 回答者の属性

    第1表は今回の調査の回答者数をあらわしたものである。全体で376人の回答があ

    り,香港,中国,台湾,韓国とそれぞれ25%前後になっている。また,回答者はい

    ずれもほとんどすべてがその国籍の人である。例えば中国なら中国人,台湾なら台湾

    人が回答している。表示していないが,回答者の性別では全体で男性が39%,女性

    48%,不明13%となっており,女性が多い。

    (4)11月も1日は国土交通省のアンケート調査と重なってしまったため,サンプル数400には届かなかった。

    -128- 香川大学経済論叢 128

  • 第1表 回答者数

    人 %

    香 港 92 24.5中 国 84 22.3

    台 湾 105 27.9韓 国 95 25.3

    全 体 376 100.0

    第2表は年齢別回答者をみたものである。全体では20代から50代までがそれぞれ

    20%前後の比率であり,万遍なく来ていることがわかる。国別でみると,香港,中国

    は30代が,台湾では40代が,韓国では20代が最も多い。韓国では60代も多いのが

    特徴である。

    第2表 年齢別回答者数 単位:%

    香 港 中 国 台 湾 韓 国 全 体10代 2.2 3.6 2.9 2.1 2.7

    20代 20.7 20.2 8.6 30.5 19.730代 23.9 31.0 21.0 13.7 22.1

    40代 21.7 23.8 25.7 10.5 20.550代 21.7 10.7 24.8 24.2 20.760代 3.3 6.0 10.5 17.9 9.6

    70代- 1.1 2.4 2.9 1.1 1.9不 明 5.4 2.4 3.8 0.0 2.9

    全 体 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

    ⑵ 観光動向

    第3表は日本への訪問回数をみたものである。全体では平均で4.2回,最頻値では

    5回であり,日本には複数回来ていることがわかる。中国では平均3.4回,最頻値で

    は1回となっている。中国は入国空港が関西国際空港と回答した人が8人と比較的多

    く(関空と回答した人は全体で19人),日本に初めて来て関空イン高松空港アウトの

    便で関西を中心に周った人が多いことが予想される。実際,高松空港イン高松空港ア

    香川県におけるインバウンド観光客の動向129 -129-

  • ウトの場合は上海便利用者でも来日5-6回目の人が多い。

    第3表 日本への訪問回数

    平均回数 最頻値

    香 港 4.7 5中 国 3.4 1

    台 湾 4.7 5韓 国 4.0 6

    全 体 4.2 5

    また,表示していないが,今回のアンケート調査は日本を旅行後の帰国前に行って

    おり,入国時の利用空港がどこかも尋ねている。最も多かったのは高松空港で153人,

    40.7%を占めている。関西国際空港(19人,5.1%)や広島空港(12人,3.2%)が

    これに続く。ただし,設問の内容を勘違いして,居住国からの出国時の空港名を回答

    している人が多いため,日本国内の空港中で高松空港と回答した人の割合を出したと

    ころ,その割合が86.4%となり,大部分の人が高松空港から入国し,出国している

    ことがわかる。

    第4表は旅行のタイプをみたものである。全体では64%が個人旅行であり,国別

    では香港(89.0%),中国(80.0%)は個人旅行が多く,台湾は逆に団体旅行(61.0%)

    が多い。韓国も比較的団体旅行(39.6%)が多い。チャイナ・エアライン(台湾)と

    エア・ソウル(韓国)は一部で団体客向けの営業を行っており,そのことが両国で団

    体旅行が多い理由だと考えられる。

    第4表 旅行のタイプ 単位:%

    個 人 団 体 その他

    香 港 89.0 9.9 1.1中 国 80.0 11.3 8.8

    台 湾 35.2 61.0 3.8韓 国 58.2 39.6 2.2

    全 体 64.0 32.2 3.8

    -130- 香川大学経済論叢 130

  • 第5表は誰と日本に来たかをみたものである。全体では友人(39.1%),家族

    (32.2%)の順で多くなっている。中国だけは友人(33.3%)よりも家族(47.6%)が

    多い。

    第5表 誰と日本に来たか(複数回答可) 単位:%

    一 人 友 人 家 族 夫 婦 その他

    香 港 7.6 41.3 35.9 19.6 0.0中 国 7.1 33.3 47.6 17.9 3.6

    台 湾 4.8 39.0 28.6 17.1 15.2韓 国 14.7 42.1 18.9 13.7 13.7

    全 体 8.5 39.1 32.2 17.0 8.5

    第6表は平均滞在日数をみたものである。全体では5.0日であり,興味深いことに

    日本から地理的に遠い国ほど滞在日数が長く,香港6.8日に対して,韓国は半分弱の

    3.0日となっている。

    第6表 平均滞在日数

    香 港 6.8中 国 5.4

    台 湾 5.0韓 国 3.0

    全 体 5.0

    第7表は香川県内での訪問地をみたものである。全体では小豆島,栗林公園,こん

    ぴらの順番であり,他には直島,高松市があげられている。県内でも代表的な観光地

    を訪問していることがわかる。

    第7表 香川県内での訪問地

    香 港 中 国 台 湾 韓 国 全 体

    1位 小豆島 小豆島 こんぴら 栗林公園 小豆島2位 栗林公園 高松市 小豆島 直 島 栗林公園

    3位 こんぴら 直 島 栗林公園 高松市 こんぴら

    香川県におけるインバウンド観光客の動向131 -131-

  • 第8表は香川県内の訪問地で印象の残ったところをみたものである。全体では小豆

    島,栗林公園という第7表の訪問地と同じ順位であるが,直島がこんぴらを抑えて上

    位になっていることが注目される。

    第8表 香川県内で印象に残ったところ

    香 港 中 国 台 湾 韓 国 全 体

    1位 小豆島 小豆島 こんぴら 栗林公園 小豆島2位 直 島 直 島 小豆島 直 島 栗林公園

    3位 栗林公園 栗林公園 栗林公園 小豆島 直 島※韓国は栗林公園と直島が同数であった。

    第9表は香川県外での訪問地をみたものである。全体では愛媛,大阪,徳島が多

    く,四国内と四国外の大都市が多い。国別では,香港,台湾では四国内が多いのに対

    して,中国,韓国では大阪,東京,京都,福岡などの四国外の大都市が多い。詳細に

    みると,香港ではほぼ四国内にとどまるのに対して,台湾では大阪,東京,京都も四

    国内に次いで多い。また,中国では愛媛,徳島が四国外の大都市に次いで多いのに対

    して,韓国では四国内は非常に少ないのが特徴である。

    第9表 香川県外での訪問地

    香 港 中 国 台 湾 韓 国 全 体

    1位 徳 島 大 阪 愛 媛 大 阪 愛 媛2位 愛 媛 東 京 徳 島 東 京 大 阪

    3位 高 知 京 都 高 知 福 岡 徳 島※台湾は徳島と高知が同数であった。全体は大阪と徳島が同数であった。

    ⑶ 観光情報

    第10表は訪れた観光地をどのように知ったかについて尋ねたものである(複数回

    答可)。全体ではツーリストインフォメーション(42.3%)が最も利用されていて,

    インバウンド観光において重要な位置を占めていることがわかる。次いでガイドブッ

    ク(22.6%)が利用されている。従来からの重要な観光情報源であるツーリストイン

    フォメーションとガイドブックは現在でも依然として重要である。また,19.4%を占

    -132- 香川大学経済論叢 132

  • める「その他」の大部分は友人・知人の紹介(口コミ)である。国別では韓国だけが

    特異であり,SNS(32.6%)が最も利用が多い。韓国は他国に比べて20代が多く,

    インスタグラムなどの流行も影響していることが想像される。

    第10表 訪れた観光地をどのように知ったか(複数回答可) 単位:%ツーリストインフォメーション パンフレット SNS ガイドブック

    観光情報サイト ツアー その他

    香 港 66.3 9.8 3.3 33.7 25.0 1.1 12.0中 国 38.1 8.3 4.8 13.1 17.9 0.0 33.3台 湾 57.1 7.6 1.0 26.7 14.3 1.0 31.4韓 国 6.3 10.5 32.6 15.8 6.3 17.9 21.1全 体 42.3 9.0 10.4 22.6 15.7 13.6 19.4

    注:比率はそれぞれの回答者数に占める割合である。例えば全体では回答者総数376人に占める割合である。

    第11表は実際に役立った情報の入手先をみたものである(複数回答可)。全体では

    ツーリストインフォメーション(44.9%)が最も高く,しかも前表よりも数値も高く

    なっている。次いでガイドブックが高いのも変わらない。しかも,ガイドブックの数

    値は前表よりも10ポイント以上も高く,ガイドブックの重要性がわかる。特に国別

    では,中国の高さが前表と比べて際立っている。また,全体ではパンフレットの重要

    性も高い。

    第11表 実際に役立った情報の入手先(複数回答可) 単位:%ツーリストインフォメーション パンフレット SNS ガイドブック

    観光情報サイト その他 なし

    香 港 66.3 12.0 2.2 45.7 21.7 2.2 3.3

    中 国 33.3 19.0 7.1 36.9 27.4 11.9 2.4

    台 湾 63.8 10.5 1.0 31.4 10.5 6.7 11.4

    韓 国 13.7 26.3 18.9 20.0 5.3 9.5 13.7

    全 体 44.9 16.8 7.2 33.2 15.7 7.4 8.0

    注:比率はそれぞれの回答者数に占める割合である。例えば全体では回答者総数376人に占める割合である。

    香川県におけるインバウンド観光客の動向133 -133-

  • 第12表はインターネットの接続方法をみたものである(複数回答可)。全体では

    Wi-Fiが半分以上を占めており,韓国,台湾では大部分がWi-Fiを使っている⑸。一方

    で,香港は SIMカードの利用のほうが多い。なお,SIMカードは旅行前に自国で購

    入したという回答がほとんどである⑹。

    第12表 インターネットの接続方法(複数回答可) 単位:%

    SIMカード Wi-Fi その他

    香 港 59.8 50.0 6.5中 国 42.9 50.0 11.9

    台 湾 25.7 60.0 23.8韓 国 14.7 70.5 15.8

    全 体 35.1 58.0 14.9

    第13表は1日におけるインターネットの接続時間をみたものである。全体では5

    時間以上が多い。韓国は例外的で1-3時間が多い。韓国はWi-Fi接続が多いため,

    インターネットの接続には時間的制約があることが想像される。

    第13表 インターネットの利用時間

    時 間 %

    香 港 5時間以上 44.4中 国 5時間以上 52.4

    台 湾 5時間以上 37.5韓 国 1-3時間 35.6

    全 体 5時間以上 37.4

    (5) Wi-Fiの利用方法がわかるものでは,全体でポータブルWi-Fiの利用者が24人に対して,ホテルや飲食店等でWi-Fiを利用した人は33人であった。国別では,韓国がポータブルWi-Fi13人,ホテルや飲食店等でのWi-Fi利用8人であり,台湾ではポータブルWi-Fi5人,ホテルや飲食店等でのWi-Fi利用21人であった。台湾は団体旅行で来ている人が多く,ホテルや飲食店等でのWi-Fi利用者が多いと考えられる。

    (6) SIMカードの購入先がわかるものでは,旅行前に自国で購入したとの回答が54人に対して,日本での購入は3人であった。

    -134- 香川大学経済論叢 134

  • 第14表はインターネットをどこで利用したかをみたものである(複数回答可)。全

    体では常時利用(57.4%)であり,次いでホテル(30.3%),飲食店(19.1%)の順

    で高い。SIMカードやポータブルWi-Fiならば常時接続が可能であるし,ホテルにあ

    る無料Wi-Fiならばホテルでの接続が可能である。それにしても常時利用している人

    が半分以上を占めることは注目されてよい。とくに中国(75.0%)は高い。また,台

    湾では飲食店(44.8%)での利用も高いのが特徴である。韓国は常時利用とホテルで

    の利用がともに44.2%であり,ホテルでの利用が高い。

    第14表 インターネットをどこで利用したか(複数回答可) 単位:%常時利用 ホテル 駅 空港 港 飲食店 観光施設 その他

    香 港 59.8 33.7 5.4 16.3 2.2 12.0 9.8 4.3中 国 75.0 21.4 4.8 10.7 2.4 9.5 7.1 4.8

    台 湾 53.3 21.9 5.7 24.8 6.7 44.8 16.2 7.6韓 国 44.2 44.2 4.2 7.4 4.2 6.3 6.3 4.2

    全 体 57.4 30.3 5.1 15.2 4.0 19.1 10.1 5.3

    第15表はインターネットを主に何のために利用したかをみたものである(複数回

    答可)。全体ではマップ(54.5%)と交通情報(51.9%)のために使われている。次

    いで連絡(37.0%),観光施設情報(33.0%)の順となっている。マップと交通情報

    については,とくに香港,中国の利用率が高い。また,表示は省略するが,観光地情

    報について何を調べたのか(複数回答可)については,ほとんどが施設へのアクセス

    方法を調べており,全体の半分以上が営業時間を調べている。

    第15表 インターネットは主に何のために利用したか(複数回答可) 単位:%

    マップ SNS 交通情報 宿泊施設情報体験施設情報

    観光施設情報 連絡 その他

    香 港 67.4 5.4 60.9 30.4 22.8 32.6 23.9 6.5中 国 70.2 11.9 64.3 38.1 29.8 34.5 51.2 8.3

    台 湾 47.6 10.5 42.9 25.7 21.0 36.2 51.4 10.5韓 国 35.8 26.3 42.1 10.5 4.2 28.4 21.1 6.3

    全 体 54.5 13.6 51.9 25.8 19.1 33.0 37.0 8.0

    香川県におけるインバウンド観光客の動向135 -135-

  • 第16表は香川県内で交通手段は何を利用したかをみたものである(複数回答可)。

    全体では路線バス(39.1%),船・フェリー(38.6%),鉄道(38.3%)が主に使われ

    ている。島があるので,船・フェリーの利用は想像ができるし,鉄道の利用も想定さ

    れるが,路線バスが多いのは意外な結果であり,想定以上に路線バスが使われている

    ことがわかった⑺。とくに中国の路線バス(67.9%),船・フェリー(58.3%),鉄道

    (54.8%)の利用の高さが際立っている。また,香港はレンタカーの利用も40.2%と

    非常に高い。日本と同様に,香港では車が左側を走るため,運転しやすいことが考え

    られる。台湾は団体旅行が多いため,貸切バスの利用が60.0%と高い。

    第16表 交通手段は何を利用したか(複数回答可) 単位:%鉄 道 貸切バス 路線バス レンタカー 船・フェリー その他

    香 港 35.9 1.1 43.5 40.2 35.9 6.5中 国 54.8 10.7 67.9 10.7 58.3 8.3

    台 湾 21.9 60.0 22.9 18.1 31.4 10.5韓 国 44.2 34.7 27.4 2.1 31.6 6.3

    全 体 38.3 28.2 39.1 17.8 38.6 8.0

    第17表は香川県内で交通手段(鉄道)の時刻表を何で調べたかをみたものである

    (複数回答可)。全体では駅(27.4%)が最も高い。ホームページの利用よりも実際

    に駅まで来て確認していることがわかる。また,「その他」ではインターネット,

    Google,観光アプリと回答している人が多い⑻。路線バスについてみた第18表も同様

    のことが確認でき,駅の重要性がわかる。表示は省略するが,船・フェリーについて

    も同様であった。

    (7) 路線バスの利用は,高松市内なのか,小豆島や直島なのかについては,今回の調査では明らかにならなかった。次回以降の課題としたい。

    (8) 今後の調査では,インターネット,Google,観光アプリも質問項目に入れる必要がある。

    -136- 香川大学経済論叢 136

  • 第17表 交通手段(鉄道)の時刻表を何で調べたか(複数回答可) 単位:%

    使っていない 駅 ホテル ホームページ その他

    香 港 20.7 23.9 2.2 25.0 6.5中 国 14.3 45.2 17.9 17.9 11.9

    台 湾 44.8 15.2 1.0 7.6 8.6韓 国 30.5 28.4 3.2 3.2 21.1

    全 体 28.5 27.4 5.6 13.0 12.0

    第18表 交通手段(路線バス)の時刻表を何で調べたか(複数回答可) 単位:%

    使っていない 駅 ホテル ホームページ その他

    香 港 12.0 31.5 8.7 16.3 7.6中 国 10.7 50.0 14.3 20.2 7.1

    台 湾 43.8 12.4 1.9 10.5 6.7韓 国 32.6 21.1 4.2 7.4 10.5

    全 体 25.8 27.7 6.9 13.3 8.0

    第19表は情報不足で困ったことを自由記述式で尋ねたものである。内容により分

    類を行った。全体では交通不便が26件で最も多い。これはバスの路線図や時刻表が

    わからないことや本数が少なくて不便などの指摘が多く,他には父母ケ浜の行き方が

    わからない,バス停の位置がわからない,バスの乗り方がわからないというものもあ

    る。次いで「言葉が通じない」が15件と多い。これは言葉が通じない,英語表記が

    少ない,中国語表記が少ないというものである。店舗情報の不足については,位置・

    経路や営業時間がわからない,食べ物の情報がないというものである。「電波が弱い」

    はWi-Fiがつながりにくいというものである。また,「その他」には美術館の開館日・

    時間や予約の有無の情報がない,クレジットカードが使えないなどがある。交通情

    報,とくにバスの情報については,早急に改善が必要であろう。

    香川県におけるインバウンド観光客の動向137 -137-

  • 第19表 情報不足で困ったこと 単位:件数

    交通不便 言葉が通じない店舗情報の不足 電波が弱い その他

    香 港 3 2 1 5 4中 国 7 9 0 0 2

    台 湾 2 1 0 1 0韓 国 14 3 6 1 5

    全 体 26 15 7 7 11

    第20表は香川県内での観光について7段階評価での平均をみたものである。満足

    度は香川県内での旅行の満足度を尋ねたものであり,推奨意向は「香川県での観光を

    誰かに勧めたいと思いますか」について,再来訪意向は「香川県にまた来たいと思う

    か」について,それぞれ尋ねたものである。満足度,推奨意向,再来訪意向は全体の

    平均でそれぞれ5.6,5.7,5.5であり,比較的高い。国別では台湾が満足度,推奨意

    向,再来訪意向いずれも高いのに対して,韓国は低い⑼。

    第20表 各種の評価(7段階評価の平均)

    満足度 推奨意向 再来訪意向

    香 港 5.5 5.6 5.4中 国 5.6 5.7 5.5

    台 湾 5.9 6.0 5.9韓 国 5.3 5.5 5.2

    全 体 5.6 5.7 5.5

    ⑷ まとめ

    これまでの分析をまとめる。先ず,全体からみていく。20代から50代までの年齢

    層を中心に,来日回数は平均で4.2回,最頻値では5回と日本に複数回来ている。大

    部分の人が出入国の空港が高松空港であり,友人(39.1%),家族(32.2%)らと主

    に個人旅行で来ている。滞在日数は5.0日であり,日本から地理的に遠い国ほど滞在

    (9) 満足度,推奨意向,再来訪意向の分析はそれ自体極めて重要であるが,今回の調査では分析ができなかった。次回以降の課題としたい。

    -138- 香川大学経済論叢 138

  • 日数が長い。香川県内では小豆島,栗林公園,こんぴらといった県内でも代表的な観

    光地を主に訪問し,県外では愛媛,大阪,徳島が多く,四国内の各県と大阪,東京な

    ど四国外の大都市を訪れている。観光地情報については,ツーリストインフォメー

    ション(42.3%),ガイドブック(22.6%)の順で利用されている。また,インター

    ネットの接続方法はWi-Fiが半分以上を占め,一日に5時間以上利用している人が多

    い。インターネットをどこで利用したかについては,常時利用(57.4%),ホテル

    (30.3%)の順で高く,利用目的については,マップ(54.5%),交通情報(51.9%)

    の順で高い。県内での交通手段については,路線バス(39.1%),船・フェリー

    (38.6%),鉄道(38.3%)が主に使われている。交通手段の時刻表は,鉄道,路線バ

    ス,船・フェリーともにホームページの利用よりも駅である。さらに,情報不足で

    困ったことについては,交通不便,「言葉が通じない」,店舗情報の不足,「電波が弱

    い」の順で指摘が多い。満足度,推奨意向,再来訪意向については,平均でそれぞれ

    5.6,5.7,5.5であり,比較的高い。

    次に国別について特徴的なところを中心にみていく。香港は30代が最も多く,個

    人旅行が大部分を占め,滞在日数は6.8日と一番長い。香川県外の旅行先としてはほ

    ぼ四国内にとどまる。インターネットの接続方法は SIMカードの利用が多い。県内

    での交通手段については,路線バス(43.5%)に次いでレンタカーの利用(40.2%)

    が多い。

    中国は30代が最も多く,来日回数は平均3.4回,最頻値では1回となっており,

    個人旅行が大部分を占めるのが特徴である。県外の旅行先としては大阪,東京,京

    都,福岡などの大都市が多く,愛媛,徳島が次いで多い。県内での交通手段について

    は,路線バス(67.9%),船・フェリー(58.3%),鉄道(54.8%)の利用の高さが際

    立っている。

    台湾では40代が最も多く,団体旅行(61.0%)が多い。県外の旅行先としては四

    国内が多く,大阪,東京,京都も次いで多い。満足度,推奨意向,再来訪意向につい

    ての評価は最も高い。

    韓国では20代が最も多く,60代も多いのが特徴である。比較的団体旅行(39.6%)

    が多く,滞在日数は3.0日と一番短い。県外の旅行先としては大阪,東京,京都,福

    香川県におけるインバウンド観光客の動向139 -139-

  • 岡などの大都市が多く,逆に四国内は非常に少ない。観光地情報については SNS

    (32.6%)の利用が最も多い。また,インターネットの利用時間は1-3時間が多く,

    他国と比べて短い。満足度,推奨意向,再来訪意向についての評価は最も低い。

    4.政策的インプリケーション

    最後にこれまでの分析を踏まえて,政策的インプリケーションを述べて結びとした

    い。

    先ず,高松空港を起点に四国内を巡る5日間程度の周遊コースを作ることがあげら

    れる。高松空港イン・高松空港アウトの観光客が多く,滞在日数も5日程度であった

    ため,高松空港を起点とした周遊コースには需要がある。その際には,小豆島,栗林

    公園など県内の代表的な観光地だけでなく,複数回来日している観光客をターゲット

    に新たな観光地の提案があったほうがよいだろう。

    次に,ツーリストインフォメーション機能の充実である。ツーリストインフォメー

    ションが観光地情報として最も重要とされていたことから,この充実をはかることが

    求められる。欧米のツーリストインフォメーションのようなワンストップ機能を有し

    て,各種の着地型ツアーの手配や予約,旅行計画等のアドバイスなどができると国際

    的な競争力を持てることになるだろう。

    さらに,駅機能の充実である。交通手段の時刻表は,鉄道,路線バス,船・フェリ

    ーともにホームページよりも駅が利用されている。外国語対応のわかりやすい時刻表

    を掲示するとともに,紙ベースでも作成して配布できるようにすることが必要であ

    る。それをツーリストインフォメーションでできたら理想的である。

    最後に,外国語によるインターネットでの積極的な情報発信である。インターネッ

    トが利用されていないのは必要な情報を得られないことが主な理由だと考えられるの

    で,インターネットで交通手段の情報,時刻表や観光施設・飲食店の店舗情報等も外

    国語で発信する必要がある。情報不足で困ったことについても,インターネットでの

    情報発信が問題の多くを解決できると考えられる。

    -140- 香川大学経済論叢 140

  • 〈参考文献・サイト〉

    ・日本政策投資銀行(2018)「インバウンド客が香川県にもたらす地域経済効果の最大化に向けて」・国土交通省 HP http://www.mlit.go.jp/common/001191389.pdf・観光庁 HP http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics01_000205.html

    香川県におけるインバウンド観光客の動向141 -141-