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症例
摘出重量
摘出標本
①:45歳離婚:G(3) P(0)
②:54歳離婚:G(1) P(0)
③:51歳既婚:G(4) P(2)
④:49歳既婚:G(1) P(1)
⑤:49歳既婚:G(3) P(1)
⑥:44歳既婚:G(3) P(2)
⑦:40歳同棲:G(4) P(0)
初診時MRI所見
初診時Hb値CA125
GnRHa
手術日
腺筋症13.2116
点鼻: 1本注射: 2回2012.10.03.100g
腺筋症13.1254
点鼻: 4本注射: 5回2012.12.21.620g
腺筋症11.2373
点鼻: 0本注射: 4回2013.01.16.460g 396g
2013.02.20.
点鼻: 2本注射: 3回
腺筋症13.6440
腺筋症11.1672
点鼻: 7本注射: 4回
点鼻: 2本注射: 0回
点鼻: 0本注射: 1回2013.11.18.
腺筋症11.7202
腺筋症7.736
390g 400g 85g2013.06.26.2013.03.11.
緒 言閉経を前にして,大きさや疼痛や貧血などで
対処療法を必要とする子宮腺筋症に対し,引き続き薬物療法を受けるのがよいのか,手術療法で決着をつけるのがよいのか,などで悩まれている患者さんがおられる.特に,現病院ではそのような患者さんが比較的多く受診されているように思われる.患者さんの希望を優先しつつ,更年期まで薬物による対処療法を継続するか,手術療法で決着をつけるかの選択に迫られることもある.手術の場合には,基本的には子宮全摘出術(TLH:Total Laparoscopic Hysterectomy)と考えるが,全摘に対して抵抗のある場合には,腹腔鏡下腟上部切断術(LSH:Laparoscopic
Supra Hysterectomy)を選択肢の1つに挙げている.本稿においては,第35回本学会で発表した内
容から,実際に施行している LSHの手術方法,回収方法,患者さんの反応,医療者側の課題点
などについて報告する.対象症例
手術を施行した子宮腺筋症の症例は,長期間の薬物療法の既往がありながら十分な治療効果がないと判断したなかで,背景にはいろいろな事情があり,子宮全摘出術に抵抗のあった図1に示す7症例である.
手術方法LSHは,図2の模式図に示すように,子宮
頸部の処理までの工程は TLHに準じた方法で,子宮上部靭帯の切離処理,広間膜の膀胱腹膜までの展開,子宮頸管部の子宮動静脈上行枝の処置(縫合・結紮,バイポーラーでの凝固,超音波凝固装置ハサミでの凝固・切断など)までを行う.その後,子宮頸管の内子宮口部で切断し(通常は超音波凝固装置のハサミ尖端かフック型メス),切断面の縫合・修復となる.手術の手順については,図1-⑥の手術症例
のビデオ画像でもって図3~8に示す.
〔一般演題/手術手技2〕
閉経を前にした子宮腺筋症の腹腔鏡下子宮腟上部切断術(LSH)―手術方法と回収法と反応から―
篤靜会谷川記念病院婦人科
伊熊健一郎
日エンドメトリオーシス会誌2014;35:260-263
図1 LSHを施行した7症例の背景と検査データーと摘出標本
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LSH
まず,子宮のマニピュレーター操作の下,図3(左下)に示すトロカー部位から,パイポーラー凝固のうえ超音波凝固ハサミで子宮上部靭帯の切断処理を行い,広間膜の処理は子宮腟部から膀胱腹膜まで展開する.この後,子宮頸管の内子宮口下部の子宮動静脈の処理(縫合・結紮またはバイポーラー凝固)を行い,内子宮口上部の子宮動静脈も処理(縫合・結紮またはバイポーラー凝固)する.これらの操作は左右と
もに行う(図4,5).この後,子宮頸管の内子宮口部での頸管切断となる.切断は図6のように,超音波凝固ハサミで左右の子宮上行動静脈を切断した後,超音波凝固ハサミの尖端(またはフック)で頸管の切断を行い,切断した子宮上部は上腹部に置いておく.次の工程は,切断した子宮頸管断面の縫合となる.頸管は硬く針通しは若干困難なため,図2の模式図に示すように,頸管前壁から断端面中央手前で針を抜き,断面中央先から頸管後壁に針を通して締めることで2つ折りの要領で断端面が寄り合うよう縫合した(図7上段).子宮体部の回収は,通常は子宮筋腫摘出術の場合に準じた方法で,主には電動モルセレーターで回収(図7下段)した.手術の最終操作は,後腹膜の縫合は必須ではないが,頸管切断部の縫合面をカバーする目的で膀胱腹膜部と左右の仙骨子宮靭帯間を縫合修復している.最後に生理的食塩水の洗浄で,創面の確認,両側付属器の確認,両側の尿管の確認などで終了となる(図8).
術前の USG所見 子宮のMRI所見
腹腔鏡のポートと位置 腹腔鏡下での子宮所見
図3 症例(図1-⑥)画像子宮は136mm×87mm長,CA125202U/ml,GnRHアゴニスト点鼻2本.
バイポーラーで卵巣子宮固有靭帯の凝固処理
超音波凝固ハサミで卵巣子宮固有靭帯の切断処理
広間膜の膀胱腹膜までの展開
子宮頸管部の下部動静脈血管を縫合・結紮処理
図4 右側の子宮上部靭帯から膀胱腹膜までの処理
図2 LSHの模式図子宮上部靭帯切断までは TLHに準じ,切断面は縫合・修復する.
閉経を前にした子宮腺筋症の腹腔鏡下子宮腟上部切断術(LSH)―手術方法と回収法と反応から― 261
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ダグラス窩には癒着なし 超音波凝固ハサミで円靭帯の切断処理
膀胱腹膜まで広間膜の展開
子宮頸管部の下部動静脈血管の縫合・結紮処理
図5 左側の子宮周囲の状態と子宮上部靭帯から膀胱腹膜までの処理
右側頸管の動静脈を超音波凝固ハサミで切断
左側への頸管切断でマニプレーター尖端が見えている
超音波凝固フックで左側頸管まで切離
子宮頸部切断面と頸管の確認
図6 子宮頸管の切断処理
頸管の前後端に針を通して切断面を閉じる方法で縫合
2層縫合が終わったところ
電動モルセレーターで子宮体部を細切回収
回収した子宮体部の細切片
図7 子宮頸管切断面の縫合修復と子宮上部の細切回収
本例では骨盤腹膜縫合で腟断端部を覆った
術後のトロカー抜去後の腹壁創所見
電動モルセレーターで回収した子宮体部400gの標本
37×28mm長の子宮頸管の USG所見
図8 手術の完了時の所見と術後の所見
262 伊熊
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なお,正常形態の卵巣は,全例に温存した.また,術後経過は全例良好で USGでの子宮頸管部の確認(図8下右)のうえパス通りに退院した.なお,子宮体部の回収に関しては詳細は省略するが,小切開孔から手動法でした症例もある(図1の摘出標本).以上の手順と内容で施行した7症例全例に術
後経過は良好であった.また,手術まで必要としてきた種々の薬剤(鎮痛剤,ホルモン剤,Gn
―RHアゴニスト剤,造血剤など)は全例に中止することができた.さらに,基礎体温測定から,排卵の復活も確認できた.
結 語閉経を前にして挙児希望のない子宮腺筋症の
ために,痛み,腫瘤,貧血などのために診察や治療を止む無く受けられておられる患者さんのなかで,治療としての子宮全摘出術に対してはそれぞれの背景から強い抵抗のある患者さんが意外と多いことに気付かされた.そのような患者さんを対象として施行した LSHの術後経過と患者意識を確認した.術後経過に関しては,全例に経過は良好であった.また,それまで要していた薬物療法は,全例に必要としなくなった.一方,それまでの頻回な診察や治療の束縛から解放され(子宮全摘出術の場合でも同じ),それまで子宮温存してきたことの正当性の裏付け,手術時の経腟操作の嫌悪感の軽減,卵巣機
能復活による体調の改善など,多くの点から満足感は大であるようである.特に,TLH後のような腟断端の治癒期間の必要や腟離断の心配などはなく,性行為での性感に変化はなく,性器脱の要因はなく,高齢化への安心感につながる内容(子宮頸癌は検診で解消)と思われた.このように,患者側からみたメリットはきわめて大きいようである.一方医療者側からは,手術に必要な技能や手
法,器具類等において,TLHに準じたものを要し,子宮体部の回収には,子宮筋腫摘出術(TLM:Total Laparoscopic Myomectomy)に準じた細切器も必要となる.一方,LSHの診療報酬面(保険点数)は14,620点で,TLHの42,050点や TLMの37,620点に比べきわめて低く,電動モルセレーターの使用は負担となり,症例によっては小切開での回収も必要となる場合もあると思われる.今後,医療報酬の適正査定が実現すれば,TLHに比べ LSHは,頸管切断と切断面縫合は硬くて若干困難な点はあるが,尿管確認により尿管損傷のリスクは低くなり,安全性の面では優位な術式になるものと考える.以上,閉経を前にした子宮腺筋症に対する腹
腔鏡下(もしくは補助下)子宮腟上部切断術は,治療法の1つになり得ると考える.
閉経を前にした子宮腺筋症の腹腔鏡下子宮腟上部切断術(LSH)―手術方法と回収法と反応から― 263