高用量ビタミンD 2014年12月16日 慈恵医大ICU勉強会 レジデント 金子 貴久 JAMA. 2014;15;312(15):152030
高用量ビタミンD
2014年12月16日 慈恵医大ICU勉強会
レジデント 金子 貴久
JAMA. 2014;15;312(15):1520-‐30
Vitamin D概要
• 脂溶性ビタミンの一種 • 食物からの摂取の他、紫外線(UV-‐B)刺激を
トリガーとして皮膚で産生される • Vitamin Dとしての活性を持つものとしてvitamin D2(ergocalciferol)と vitamin D3(cholecalciferol)が存在する
Vitamin Dの代謝
食物から摂取もしくは皮膚で 産生されたvitamin Dは肝臓で 25-‐hydroxyvitamin Dに変換され さらに腎臓で活性型の 1,25-‐dihydroxyvitamin Dに変換 される
N Engl J Med. 2009;360(18):1912-‐1914.
25-‐hydroxyvitamin D = 25(OH)D 1,25-‐dihydroxyvitamin D = 1,25(OH)2D
Vitamin Dの役割及び作用
• カルシウム、リン代謝の調節 • 骨格筋の機能維持 • カテリシジン合成を介した免疫細胞(単球、
マクロファージ)の活性化 • 腎におけるレニン産生の抑制 • 心筋収縮力の増大 • 細胞増殖、分化、アポトーシスの制御
N Engl J Med. 2009;360(18):1912-‐1914.
Vitamin D deficiency and mortality risk in the general populaFon: a meta-‐analysis of prospecFve cohort studies.
Am J Clin Nutr. 2012;95(1):91-‐100
General populaJonにおける血清25-‐hydroxyvitamin D濃度の差による 死亡の相対危険度を検討した11の前向き観察研究のmeta-‐analysis
25-‐hydroxyvitamin Dと死亡率には Nonlinearな相関が認められた
25-‐hydroxyvitamin D濃度が 12.5nmol/l上がるとRR 0.86 25nmol/l上がるとRR 0.77 50nmol/l上がるとRR 0.69 2.5nmol/l ≒1.0ng/ml
AssociaFon of low serum 25-‐hydroxyvitamin D levels and acute kidney injury in the criFcally ill.
Crit Care Med. 2012;40(12):3170-‐3179.
【デザイン】前向きコホート研究 【セッティング】2施設研究 【対象】medicalおよびsurgical ICUに入室 した18歳以上の患者のうち、 入院前に25-‐hydroxyvitamin D 濃度が測定された患者2075人 【方法】25-‐hydroxyvitamin D濃度によって 充足群、不足群、欠乏群の3群に 分け、腎機能予後をRIFLE分類に 基づいて検討
Vitamin D deficiency and mortality risk in the general populaFon: a meta-‐analysis of prospecFve cohort studies.
Am J Clin Nutr. 2012;95(1):91-‐100
欠乏群、不足群いずれにおいてもRIFLE分類で有意に重症と 判定される割合が高かった 腎代替療法の導入については記載なし
AssociaFon of Low Serum 25-‐Hydroxyvitamin D levels and sepsis in the criFcally ill.
Crit Care Med. 2014;42(1):97-‐107.
【デザイン】前向きコホート研究 【セッティング】2施設研究 【対象】medicalおよびsurgical ICUに入室した18歳以上の患者のうち、 入院前に25-‐hydroxyvitamin D濃度が測定された3386人 【方法】25-‐hydroxyvitamin D濃度によって充足群、不足群、欠乏群の3群に分け、 ICD-‐9-‐CMで定義されるsepsisの罹患との関連を検討する
AssociaFon of Low Serum 25-‐Hydroxyvitamin D levels and sepsis in the criFcally ill.
Crit Care Med. 2014;42(1):97-‐107.
Vitamin D欠乏群においては sepsis発生率、sepsis患者の30日 90日、院内死亡率がいずれも 有意に高かった
25(OH)D濃度とsepsis罹患の関連 25(OH)D濃度と死亡の関連
Low serum 25-‐hydroxyvitamin D at criFcal care intenFon is associated with increased mortality
Crit Care Med. 2012;40(1):63-‐72.
【デザイン】前向きコホート研究 【セッティング】2施設研究 【対象】medicalおよびsurgical ICUに入室した18歳以上の患者のうち、 ICU入室前後7日以内に25-‐hydroxyvitamin D濃度が測定された1325人 【方法】25-‐hydroxyvitamin D濃度によって充足群、不足群、欠乏群の3群に分け、 死亡率との関連を検討する
Low serum 25-‐hydroxyvitamin D at criFcal care intenFon is associated with increased mortality
Crit Care Med. 2012;40(1):63-‐72.
Vitamin D欠乏群においては 30日、90日、365日および 院内死亡率がいずれも有意に 高かった
まとめ
• Vitamin Dはカルシウム、リン代謝の他にも種々の作用を持つ
• General populaJonのvitamin D不足および 欠乏は死亡率と関連する
• 重症患者のvitamin D欠乏は重症患者のAKIやsepsisの罹患、死亡率と関連する
JAMA. 2014;15;312(15):1520-‐30
背景
• 複数のsystemaJc reviewおよびmeta-‐analysesでvitamin D補充療法の有用性について 異なる結論付けがされている
• 元となった文献の多くでvitamin Dの基準値が決められていない、もしくは欠乏のない患者を含むなどの問題点がある
• 重症患者に対する高用量vitamin D補充療法に関する知見はほとんど得られていない
目的
高用量vitamin D補充療法が 重症患者にとって有益であり なおかつ安全であるかを検討する
研究デザイン
u 前向き 無作為割り付け 二重盲検比較試験
u オーストリア Medical University of Graz 単一施設
u 期間:2010年5月~2012年3月 u Vitamin D投与群とplacebo群に1:1で割り付け
対象
• 18歳以上で48時間以上のICU滞在が 見込まれ、25-‐hydroxyvitamin Dの欠乏(≤20ng/ml)が認められる患者
• ICUはcardiosurgical, neurological, medical 2つのmixed surgicalの計5つ
• 患者のICU入室事由は問わない
除外基準
• 重篤な消化管障害 • 他の研究の対象者 • Pilot trialの対象者 • 妊娠中、もしくは授乳中の女性 • 結核、サルコイドーシス、尿管結石の既往 • 高カルシウム血症(total Ca >10.6mg/dL or ionized Ca >5.4mg/dL)
介入内容
Loading doseとして Vitamin D3 540000 IUを経口 もしくは経管投与 その28日後より90000 IU/月 のvitamin D3の経口投与を 5か月継続
介入群と同様のプロトコルで Vitamin D3製剤の溶媒である 落花生油を投与
介入群 Placebo群
入院中の血液、尿のサンプル採取はday 0,3,7,28 退院後は1回/月の電話での聞き取り調査を6か月間継続 6か月後に外来で種々の検査を行う
Outcome 及びendpoint Ø Primary endpoint
Ø Secondary endpoint
• 投薬開始からの在院日数(退院もしくは死亡まで)
• ICU滞在日数 • 28日後および6か月後の死亡率 • 7日目の血中25(OH) vitamin D濃度(≤30ng/mlの割合) • 人工呼吸を要する期間 • ICU滞在中の気管切開率 • 心機能の指標(血管作動薬必要量、NT-‐proBNP濃度) • 0,3,7,28日目、6か月後のPTH濃度 • 血中CRP, procalcitonin濃度 • 血清カテリシジン濃度 • 6か月後の運動器関連合併症 • 6か月間の再入院、気道感染症
統計解析
• サンプルサイズ
• IntenJon-‐to-‐treat解析 • 入院期間についてはMann-‐Whitney検定 • Secondary endpointについてはt検定、 Mann-‐Whitney検定
・ 各群 234人+6人(脱落見込み) ・ 検出力 80% α=0.05 ・ Vit D投与群でPilot trialの平均入院期間 14日を 2日(14%)短縮すると仮定
結果【患者選択】
1140名が登録され492人が 無作為に割り付けられた
終的に475人のデータを 解析 対象となった全例で6か月間 のフォローアップが行われた Vit Dの有害事象による 除外例なし
結果【患者背景】
両群の患者の年齢、性別、人種、 ICU入室事由、入室時の状態 などの背景は同等
結果【primary endpoint】
在院日数に有意差なし 入院中の死亡率および 死因にも有意差は 認められない
結果【secondary endpoint】
介入から7日後の血清25(OH) D濃度は Vitamin D投与群で有意に高かった PTH濃度は28日後まではvitamin D投与群で 有意に低かった その他両群で各評価項目における有意差なし
結果【secondary endpoint】
PTH濃度は28日後まではvitamin D投与群で 有意に低かった
28日目のCRPおよびProcalcitonin濃度は vitamin D投与群で有意に低かった
結果【secondary endpoint】
介入から7日後の血清25(OH) D濃度は Vitamin D投与群で有意に高かった その他両群で各評価項目における有意差なし
結果【サブグループ解析】
Vitamin Dの高度欠乏 (≤12ng/ml)サブグループでは Vitamin D投与群の死亡率が 有意に低い
対象全体 25(OH)D >12ng/ml, ≤20ng/ml
25(OH)D ≤12ng/ml
Discussion
• 高用量vitamin D補充療法は在院日数を減少させなかった
• 院内および6か月間の死亡はvitamin D 投与群で少ないが、placebo群と有意な差は 認められなかった
• Vitamin D投与群で28日目までに血清中の 25-‐hydroxyvitamin D濃度が30ng/mlを超えたのは約半数に留まった
Discussion
• 十分に25-‐hydroxyvitamin D濃度が上昇 しなかった理由として消化管の吸収能力の 低下や肝臓での変換能力の低下が考えられる
• Vitamin Dによる明らかな有害事象は 認められなかったことから、本研究におけるvitamin Dの用量は安全であると考えられる
limitaJon
① Studyが計画された2010年の時点でvitamin D 欠乏と死亡率の関連についての報告が 少なかったため在院日数をendpointとしている
② 単一施設研究である ③ 小児、nonwhiteの数が少ない ④ Vitamin D投与群の死亡率の低下は
サブグループ解析に基づくものである ⑤ 高用量vitamin Dの副作用の検出に不十分な
サンプル数であった可能性がある
批判的吟味
在院日数の定義
在院日数を投薬プロトコル 開始から退院まで、もしくは 死亡までと定義している ネガティブなイベント発生に よって改善し得る数値を primary endpointとすることが 適切といえるのか?
サンプル数
• 適切な統計学的解析から必要なサンプル数を導き出しとされているが、primary endpointを死亡を除いた純粋な在院日数とした場合 さらに大きなサンプルが必要となるのでは ないか
Vitamin D欠乏の程度
• 25-‐hydroxyvitamin D濃度 ≤20ng/mlを欠乏と定義しているが、これは非重症者における 欠乏の定義に準ずるものである
• 25-‐hydroxyvitamin D濃度は測定時点での 血清中濃度を示すものであり、体内の vitamin Dの蓄積量を反映しない可能性は 否定できない
• 血清濃度 ≤12ng/mlのサブグループで有意差が認められたのは、この群ではvitamin Dが枯渇していたからではないか?
conclusion
• Vitamin D欠乏のあるICU入室患者に対するvitamin D補充療法は在院日数、院内死亡率、 介入から6か月までの死亡率のいずれも改善させなかった
• Vitamin D高度欠乏のサブグループにおいては死亡率の改善が認められたが、あくまでも副次的な解析に基づく結果であり、仮説の域を出ない
私見
• この結果を以てvitamin D補充療法が無益と判断することはできない
• 重症患者のvitamin D欠乏の定義の確立が 今後の研究の根幹となるのではないか
• 高度欠乏の患者を対象とした高用量 vitamin D補充療法の研究が期待される