認知症ケア 本7看護室 認知症看護認定看護師 長嶋真祐美 1
14 図 認知症を取り巻く医療と介護のスキーム
厚労省は認知症を地域で診る方針を打ち出してきた。13年度から始まった「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」では、早期診断や早期対応、
介護との連携などが図れるよう、「かかりつけ医認知症対応力向上研修」や「認知症サポート医養成講座」の受講者を増やしたり、診断や急性症状への対応を手掛ける「認知症疾患医療センター」の更なる整備を進めている。
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認知症患者は推計約462万人 「予備軍」400万人含め、65歳以上の4人に1人に
(厚労省調査2013/6/1)
「診療所型」の認知症疾患医療センターを新たに設けるほか、認知症や高血圧、糖尿病といった複数の慢性疾患を持つ患者の主治医機能を評価する加算などを新設する方向。
認知症の診断や深刻な急性症状への対応などは別として、あらゆる診療科の医師に認知症の患者や家族と向き合うことが求められる。
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14年4月の診療報酬改定
英国の心理学者Tom Kidwoodが提唱した
「パーソン・センタード・ケア」
認知症になっても「いつでも、どこでも、その人らしく」暮らせるように
支援することがパーソン・センタード・ケアの基本
とはいっても、なんでも本人のいいなりにケアしようと曲解してはいけない。本人の言動を本人の立場で考えてみようという対応法のスタンスの転換を説いている。
たとえば、BPSDを医療従事者の立場から「問題行動」と捉える従来の視点ではなく、BPSDはその人の心の表現であり、その意味を認知症の人の立場で理解してBPSDに対応しようとする視点を提唱⇒結果的にBPSDの軽減につながる
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認知症ケアの基本
従来の医学的対応に基盤をおくケアに対して、 personfood(その人らしさ)を維持することを大切にするケアを提唱
1人の人間として認められること、尊重され、信頼されることを意味する
例えば、ものとられ妄想
症状の出現が多い時間帯やタイミングを分析して、そこに合わせてケアを増やしたり、話し相手になることで不安や焦りを軽減できることもある
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●自分で金銭管理ができなくなっている ●孤独で誰かに頼りたい
身近な介護者が標的になりやすい
図 アルツハイマー型認知症の自然経過
BPSDは負担が非常に高い症状ではあるが、一方で対応次第でBPSDそのものを軽減させることが期待できる症状でもある。
残念ながら、現状では認知機能障害に関しての治療は難しく、それゆえ我々医療従事者はBPSD対応を重視しなければならない。
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認知症ケアではBPSD対応が重要
1.BPSDの内容を評価し、治療対象となるBPSD を明確にする
2.BPSD発現に関連する要因を検討する
3.要因に応じた非薬物療法(ケアの工夫,環境の調整,治療薬の整理)
4.非薬物療法の効果がなければ薬物療法
評価⇒分析⇒非薬物療法⇒薬物療法
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BPSD対応の手順
1.認知機能障害により、患者本人の思考,感覚と周囲環境との間にずれが生じ引き起こされる
・物忘れを周囲から繰り返し指摘される
⇒反発して声を荒げる(易怒性),情けなくて落ち込む(うつ)
・病院であることがわからない(見当識障害)
⇒徘徊
2.脳病変に直接起因する(疾患そのものによって引き起こされる症状であり、背景疾患に特異的なので中核症状として捉えることもできる)
・レビー小体型認知症(DLB)⇒幻視
・前頭側頭型認知症(FTD)⇒脱抑制,常同行動
・血管性認知症(VaD)⇒アパシー
認知症のBPSDには、二つの要因が互いに比重を変えながら関わっている 11
BPSDの成因
• 環境調整
-物理的環境調整:混乱をもたらす物を取り除く,その人の生活になじみの物を置く,認識しやすい表示
-時間的環境調整:生活リズムを整え昼夜逆転予防
・ 心理療法的アプローチ
-レクリエーション療法
-音楽療法
-回想法など
・ 加齢による感覚低下に対する配慮:難聴→補聴器,視力低下→老眼鏡など
・ 身体症状に対する配慮:便秘や栄養障害の治療,治療薬の整理など
・ ケア者への教育
-疾患についての教育
-具体的な対応方法の指導
急性期病院であるが少しでも介入できればとの考えから、
看護部主催で院内デイケアを立ち上げることに 12
非薬物療法
1.非薬物的介入の効果が乏しい場合に試みる
(症状が切迫している時は早期からの使用も検討)
2.治療対象となる症状を明確にする
(薬物療法の効果が乏しい症状には実施しない)
3.患者の苦痛やケア者の負担感,生活背景などを総合 的に判断し実施する
4.可能な限り少量での使用を心がける
5.錐体外路症状などの副作用がみられた際には、減量もしくは中止する
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BPSDの薬物治療の原則
1.抑肝散⇒興奮を抑える
2.非定型抗精神薬⇒興奮を抑えたり、幻覚などの精神症状を 抑える
3.抗うつ剤⇒うつ状態や、意欲・食欲の低下に対する
4.抗てんかん薬⇒興奮を抑える
5.短時間作用型睡眠導入剤⇒寝つきをよくする
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BPSDに対し使用される主な薬
夜眠れなければ睡眠薬、暴力を振るうから向精神薬など、ケア者側の訴えだけを聞いて薬剤だけ処方されるケースは多い。その結果、薬剤の影響で一日中ぼーっとしてしまう人もいる。
本人が生活していく上で医療は欠かせないが、安易に薬剤に頼るのは危険!
個々の患者にはそれぞれ“個性”があり、暴 力を振るったり徘徊をすれば、そこにはそれぞれに理由がある。
認知症患者だからと一括りにするのではなく、“個性”と捉えて個々人が生活を続けていけるよう支援するのが医療従事者の役割。
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• 入院生活の中でほんの数時間でも、ベッドを離れ、治療を忘れて穏やかな入院生活を過ごしていただく(生活の活性化を図り、QOL維持向上を目指す)
• 認知症のある人に要する時間的,人的な労力の軽減を図り、看護の質の向上を目指す
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院内デイケア導入の目的
高齢者人口の増加は認知症やせん妄を伴う入院患者数を今後益々増加させる
看護師は様々な状態の患者を受け持つ中で、認知症やせん妄を伴う患者を看護している
他患者に比較し、多くの時間を費やすが、対応も不十分となり看護師の精神的負担が大きい
*参加基準
*除外基準
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院内デイケア参加基準・除外基準
①入院中の認知機能障害やせん妄のある患者 ②車いすで座位を3時間以上保持できる患者、及びそれ以上のADLがある患者
③病状が安定しており、3時間程度のレクリエーション活動に耐えられる患者
※点滴施行中でも
①輸液ポンプなどの医療機器、酸素吸入を必要とする患者 ②病状が安定しておらず、安静制限がある患者
1)院内デイケアとは
入院生活は患者さんにとって、治療や療養のために必要なものです。しかし一方 で普段の生活とリズムが違うことによりストレスが生じやすく、夜間の不眠や情緒の不安定、一時的な認知障害を招く原因になることがあります。
入院生活の中でほんの数時間でも、ベッドを離れ、治療を忘れて穏やかな入院生活を過ごしていただくために、日中の時間を利用し、看護師などにより企画されたさまざまな行事、催しもの(体操、日光浴、ゲームなど)に患者さんが参加することを「院内デイケア」と称します。いわゆるデイサービスの院内版といえるものです。
2)予測される効果
不眠の解消、情緒の安定、身体(しんたい)抑制(よくせい)の解除、その他
3)方法
日中の定められた一定時間院内の一箇所に入院中の患者さんにお集まり頂きます。
4)その他
参加できる患者さんには条件があり認知症看護認定看護師による面談で決定します。また、定人数を超える場合は参加できない場合があります。
院内デイケア中は最善の注意を払い対応しますが、病状が変化する可能性もありますその場合は院内救急体制による緊急処置を行います。
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院内デイケア同意書
上記の内容について同意します。
同意年月日 年 月 日
ご署名 印
<ご家族様へのアンケート>
高松赤十字病院院内デイケアでは、患者さんに楽しく過ごしていただくために、本当に喜んでいただけることを見つけ出し、取り組んでいきたいと考えています。そこで、ぜひご家族の皆様のご協力を得たいと思い、アンケートを実施させていただきます。
お手数をおかけし申し訳ありませんが、分かる範囲で結構ですのでご記入よろしくお願いいたします。
●生活歴-生まれ育った場所や家族構成,職歴などの本人さんの歴史-
●以前の性格 ●以前の趣味 ●以前に得意だったことや本人さんが誇りに思っている話 ●以前に苦手だったこと
●その他、大切な思い出や好きな話題など、ケアに活かせるエピソードがあればぜひ教えて下さい。
ご回答ありがとうございました。
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同意書と一緒にご家族へのアンケートも
14:00~14:15:始まりの挨拶・体操
(患者の状態に合わせた体操)
14:15~14:45:レクリエーション
例;玉入れやボーリングなどのゲーム,歌
14:45~15:25:学習療法・クラブ活動・ケア
(患者の趣味や好きなこと,生 活歴に沿ったものを提供)
15:25~15:30:帰りの挨拶
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院内デイケアのスケジュール(案)