冠動脈疾患と治療
冠動脈疾患と治療
心臓の構造
三尖弁
右心房
上大静脈
下大静脈
右心室
上行大動脈弓
肺動脈幹
左心房
左心室
僧帽弁
肺静脈
肺動脈弁
乳頭筋
腱索
心室中隔
卵円窩
冠状静脈洞口
位置:胸郭内のほぼ中央、やや左寄りにあり、左右は肺に接し、前方は胸骨後方は食道および大動脈に接しています。
大きさ:握りこぶしよりやや大きく、成人で約200-300gです。
心臓の構造(冠動脈)
心臓をとりまく動脈は「冠動脈」といい、酸素や栄養素を含んだ血液を心筋に供給しています。心臓が送り出す血液の5%(1分間に約240ml
~260ml)が流れます。
冠動脈は、右冠動脈(RCA)と左冠動脈(LCA)があります。さらに、左冠動脈(LCA)は、左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)に分かれます。
上記のように、血管にはそれぞれ名前がついていますが、広く「AHAの分類」が使用され、日本では一般的に1~15までの番号で呼ばれています。
右冠動脈
左冠動脈主幹部
左回旋枝
左前下行枝
狭心症
狭心症:
冠状動脈が何らかの原因で狭くなると、心臓の筋肉へ血液の流れが悪くなり一時的に酸素不足になる病気です。
主な原因として、コレステロールや脂質が血管壁に沈着する冠状動脈硬化があります。
また、何らかの刺激によって冠状動脈がけいれんして細くなり(れん縮)、血液の流れが悪くなることがあります。
心筋梗塞
心筋梗塞:
狭心症などで狭くなった冠状動脈が、さらに狭くなり詰まってしまい、その先の血液の流れが止まって心筋の細胞が死んでしまう(壊死)病気です。
狭心症から心筋梗塞に進行する場合と、いきなり心筋梗塞が起こる場合があり、いずれも生命の危険が伴うため、早期発見・早期治療が重要になります。
狭心症と心筋梗塞の違い
狭心症は、狭窄・Spasm・血栓などによって心筋に必要な血液が供給されないとき(一時的な酸素不足の状態)、生体防御反応として心臓の異常を痛みという信号で脳に送っている状態であり、通常は一過性で長時間続くことはありません。
心筋梗塞は冠状動脈に必要な血液が完全に途絶して、その流域の心筋が壊死に陥る状態です。
心臓写真
高範囲に前壁から側壁にかけて梗塞を起こした例で、心筋は凝固壊死を起こして出血が見られます。
正常成人男性の心臓。
冠動脈疾患の治療
冠動脈疾患の治療管理は生活習慣、つまり食事と運動による改善と同時に、医療措置などを組み合わせて行います。医師は症状や疾患の重症度により最適な治療法を選択します。冠動脈狭窄・閉塞に対して医学的な治療法には薬剤の服用のほかに、冠動脈バイパス術や経皮的冠動脈形成術などがあげられます。
生活習慣の改善
・食事療法
・運動療法
薬物療法
手術療法
・冠動脈バイパス術
・経皮的冠動脈形成術
経皮的冠動脈形成術(PCI)
大腿動脈、橈骨(トウコツ)動脈、上腕動脈から、カテーテルを挿入し、大動脈を通過し、冠動脈の狭窄部まで進めて治療を行います。 手術で大きく胸を開くことなく、わずか数ミリの穴(傷)で治療ができます。
ただし、全ての虚血性心疾患の患者さんにPCIでの治療ができるわけではなく、開胸による治療のほうが適切な場合もあります。また、PCIの治療は通常バルーンにて拡張し
ますが、石灰化(硬い)した動脈硬化組織の場合、バルーン拡張術では治療が不十分である場合があります。
この場合は近隣の病院やハートセンター(名古屋、豊橋)、大学病院などを紹介させていただきます。
PCIとは
Percutaneous 経皮的
Coronary 経管的
Intervention インターベンション
インターベンション=低侵襲治療
従来行われていた外科手術のように体にメスを入れることなく、
皮膚にあけた数ミリの小さな穴からカテーテルを挿入する治療法
冠動脈バイバス術(CABG)
経皮的冠動脈形成術(PCI)のおおまかな流れ
<患者さん入室後、手技を始めるまでの準備>術前説明、各モニタリング機器装着、静脈ラインの確保、一般状態把握(症状・バイタルサインなど)、消毒、使用ディバイスの準備
<手技開始>① 局所麻酔後、シースの挿入② ヘパリンナトリウムの投与③ ガイディングの挿入④ 冠動脈造影(CAG)
⑤ 冠動脈用ガイディングワイヤー挿入⑥ 病変部の観察(IVUS)⑦ バルーンカテーテルによる病変部の拡張⑧ ステント留置⑨ バルーンカテーテルによる病変部・ステント留置部の拡張⑩ 病変部・ステント留置状況の確認(IVUS)⑪ 冠動脈造影⑫ シース抜去⑬ 止血処置
穿刺部位
上腕動脈
橈骨動脈
大腿動脈
イントロデューサー: シース
シースは、検査や治療に必要な道具を体内(血管内)に出し入れする為の、出入り口としての役割を果たすものです。止血弁がついており、出し入れの際にも出血を防止します。
シース挿入の手技は、局所麻酔→動脈穿刺(注射針、外套針)→ガイドワイヤー挿入→シース挿入 という流れになっています。
長さ・太さなど様々なサイズバリエーションがあり、穿刺部位や患者さんに応じて使い分けられています。
ヘパリンナトリウムの投与
PCIの手技に当たっては、下記の要因等により、血液凝固が起こりやすい状況です。
・外界 との接触
・組織の損傷(ディバイスの通過の際など)
・血流の変化
この血液凝固を予防するために、ヘパリンナトリウムが投与されます。
治療の際は一般的に、5,000単位の投与が多いですが、患者さまの体重や状態に
より投与量が変わります。
またPCIの手技時間が長くなるようであれば、ヘパリンの追加投与が必要です。
ガイディングカテーテル
右大腿動脈からのアプローチ例
目的
ガイディングカテーテルは治療機器を冠動脈まで導くためのカテーテルです。
右冠動脈用ジャトキンス 左冠動脈用ジャトキンス
先端カーブ形状・太さなど、ガイディングカテーテルには様々な種類があります。
冠動脈造影(CAG:Coronary angiography)
ガイディングカテーテルのエンゲージ後、そのカテーテルに造影剤を注入して放射線装置で画像を見ると、冠動脈が映し出されます。狭窄病変があればその部分は細く見え、また完全閉塞では血管が途中から映し出されなくなります。
右冠動脈 左冠動脈
同じ病変でも、見る方向によって狭窄度が違って見えることがあります。そのため、様々な
方向から撮影が行われます。また、冠動脈造影だけでは狭窄の状況が把握しにくい場合も多いため、後に紹介する血管内超音波検査(IVUS)と併せて、狭窄度や病変の状況が判断されます。
冠動脈造影(CAG:Coronary angiography)
病変 造影画像
ガイドワイヤー
ガイドワイヤーの外径
外径は0.010インチから0.018インチまであるが、一般的に0.014インチが主流です。
ガイドワイヤーの長さ
通常用いるのは180cm前後のものです。
他にも、300cmのロングワイヤーや180cmのワイヤーにつなぐことができる延長用ワイヤーがあります。
ガイドワイヤーの性状には複数あります。
軟らかいガイドワイヤー
中間のガイドワイヤー
硬めのガイドワイヤー
目的治療機器用ガイドワイヤーとはPCIの際にガイディングカテーテルの中を通って冠動脈の病変部を最初に通過する物であり、このガイドワイヤーにそって、治療機器を病変部まで運びます。ガイドワイヤーが病変部を通過しなければ、治療機器も挿入できないため、まずは、ガイドワイヤーを挿入することが重要です。
血管内超音波検査:IVUS
カテーテルの先端で超音波を発信し、血管の断面像を画面にできます。血管内腔の直径や、断面積を測定することが
できます。
バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って冠動脈に挿入し、先端にあるバルーンを拡張して狭くなった冠動脈を広げます。
バルーン血管拡張術
南都伸介・藤井謙司, メディアルファ, PCIの基礎知識、2007
冠動脈ステント留置術
冠動脈形成術後の再閉塞や再狭窄のリスクを低減させるための治療法です。小さいメッシュ上の金属の筒(ステント)を冠動脈に留置して血管を保持し、再閉塞を予防します。留置後、ステントは冠動脈内に留まり血管を支え続けます。
南都伸介・藤井謙司, メディアルファ, PCIの基礎知識、2007
冠動脈ステント留置術ステント内再狭窄
ステント留置直後 ステント内再狭窄
新生内膜の過剰増殖
金属のみで作られたステント(ベアメタルステント:BMSといいます)での治療を受けた患者さんの約3~4割程が、ステント治療の後に再び冠動脈の狭窄が起きていました。
かつては金属のステントのみがありましたが、現在は、ステントからこの再狭窄を予防する薬剤を放出する、「薬剤溶出型ステント(Drug-Eluting
stent :DES)」があり主流となっております。
血管内腔
薬剤溶出型ステントは従来型金属ステント(金属のみでできたステント)に薬剤とポリマーなどが塗布されています。ポリマーとは術前と術中に薬剤を保護する役割を果たし、ステント留置後にステントから溶出する薬剤の量と速度を一定に保つ働きがあります。
塗布された薬剤はステント内の再狭窄の原因となる、新生内膜の増殖を抑制する働きがあります。
この構造により、再狭窄を十分に抑制しながら治癒が促されることになります。
薬剤溶出型ステント(DES : Drug Eluting Stent)
ステント断面
薬剤
ポリマー
従来型金属ステントの断面 薬剤溶出型ステント断面
薬剤溶出型ステントを留置した場合、薬剤を塗布していないステントを留置した場合より長期に抗血小板薬を服用していただく必要があります。
止血処置
手技が終わったら、シースを抜去します。
シースの外径は2mm以上あり、それが動脈に入っていたため、しっかりとした止血が
必要です。しかも、PCI中のヘパリンの投与や抗血小板療法により、患者さんは出血
しやすい状況なので、angio室での止血処置の後も継続して観察が必要です。
止血は、圧迫綿やテープ固定の他、最近では各社から止血用のディバイスが数多く
出ています。
あいちハートクリニックでは、心臓カテーテル検査は原則日帰り、PCI治療に関しましては1泊2日の入院で行っております。