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―  ― 159 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第63集・第1号(2014年) 本研究の目的は日本と韓国に在住する既婚女性を対象に葛藤解決方略,結婚満足度,生きがいの 関連を探索的に検討することであった。日本人114名,韓国人113名の既婚女性を対象に質問紙調 査を行った。分析の結果,国を問わず,「他者指向性」と「自己指向性」の両方の高い「妥協」と「協調」 が結婚満足度に肯定的な影響を及ぼしていることが示された。また,国によって,生きがいの選択 には差があり,生きがいが「子ども」である韓国人は葛藤解決方略の「他者指向性」の高い葛藤解決 方略を選ぶことが示された。さらに,生きがいと夫婦満足度の関連を検討したところ,国を問わず, 生きがいへの集中度が高い人が低い人より,結婚満足度が高いことが示された。 生きがいが「子ども」である韓国人は,個人より家族を重要し,「他者指向性」の高い方略を選択し ており,人が属している社会の文化によって夫婦の葛藤解決方略の選択には差があることが示唆さ れた。 キーワード:葛藤解決方略,結婚満足度,生きがい,日韓比較 【問題・目的】 人間は他者との関係のなかで葛藤を抱えながら生きていく。この対人葛藤は,これまで様々な定 義がなされてきた。Peterson(1983)は「ある個人の行為が他者の行為を妨害するときに生ずるプ ロセス」と,Kelly(1987)は「ある人の行動,感情,思考の過程が,他の人の行動によって妨害され る状態」と,また,藤森(1989)は「個人の要求や期待が他者によって阻止されていると個人が認知す ることによって生ずる」と対人葛藤を定義した。対人葛藤に関する研究のなかで重要な課題は,人 がこうした葛藤状況でいかなる方略をとっていくかという葛藤解決方略の解明である。本論文では, 葛藤解決方略を結婚満足度との関連から検討する。 1. 葛藤解決方略 葛藤解決方略のモデル化においては様々な議論があった。葛藤解決方略を初めて分類した Blake & Mouton(1964)は,解決方略を「回避」「競争」「なだめる」「問題解決」に類型した。また,Falbo 夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究 兪   幜 蘭 教育学研究科 博士課程後期
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Nov 15, 2018

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第63集・第1号(2014年)

 本研究の目的は日本と韓国に在住する既婚女性を対象に葛藤解決方略,結婚満足度,生きがいの

関連を探索的に検討することであった。日本人114名,韓国人113名の既婚女性を対象に質問紙調

査を行った。分析の結果,国を問わず,「他者指向性」と「自己指向性」の両方の高い「妥協」と「協調」

が結婚満足度に肯定的な影響を及ぼしていることが示された。また,国によって,生きがいの選択

には差があり,生きがいが「子ども」である韓国人は葛藤解決方略の「他者指向性」の高い葛藤解決

方略を選ぶことが示された。さらに,生きがいと夫婦満足度の関連を検討したところ,国を問わず,

生きがいへの集中度が高い人が低い人より,結婚満足度が高いことが示された。

 生きがいが「子ども」である韓国人は,個人より家族を重要し,「他者指向性」の高い方略を選択し

ており,人が属している社会の文化によって夫婦の葛藤解決方略の選択には差があることが示唆さ

れた。

キーワード:葛藤解決方略,結婚満足度,生きがい,日韓比較

【問題・目的】 人間は他者との関係のなかで葛藤を抱えながら生きていく。この対人葛藤は,これまで様々な定

義がなされてきた。Peterson(1983)は「ある個人の行為が他者の行為を妨害するときに生ずるプ

ロセス」と,Kelly(1987)は「ある人の行動,感情,思考の過程が,他の人の行動によって妨害され

る状態」と,また,藤森(1989)は「個人の要求や期待が他者によって阻止されていると個人が認知す

ることによって生ずる」と対人葛藤を定義した。対人葛藤に関する研究のなかで重要な課題は,人

がこうした葛藤状況でいかなる方略をとっていくかという葛藤解決方略の解明である。本論文では,

葛藤解決方略を結婚満足度との関連から検討する。

1. 葛藤解決方略

 葛藤解決方略のモデル化においては様々な議論があった。葛藤解決方略を初めて分類した Blake

& Mouton(1964)は,解決方略を「回避」「競争」「なだめる」「問題解決」に類型した。また,Falbo

夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

兪   幜 蘭

教育学研究科 博士課程後期

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夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

& Peplau(1980)は,相手に欲望をどう表すかによって「直接」と「間接」に大別し,さらに,相手の

立場を配慮するかどうかによって「双方的」と「一方的」と再分類し,4類型の方略を示した。今日広

く使われているモデルは Pruitt & Rubin(1986)の提案であり,問題解決のゴールを「他者指向性」

と「自己指向性」という2つの軸に分け,解決方略を「主張」「協調」「妥協」「回避」「譲歩」に分けた(Fig

1)。本研究においても,Pruitt & Rubin(1986)のモデルに沿って議論を行う。

 葛藤解決方略の研究において,1980年代までが葛藤解決方略のモデル構築がなされてきた時代と

するなら,1990年代になってからは葛藤時にどのような対処が関係の満足感などに寄与するのか,

という葛藤解決方略の効果や意味が注目されるようになった。さらに,近年では,葛藤解決方略は

文化に強く左右される(Ohbuchi, Fukushima, & Tedeschi, 1999)と指摘されており,国や地域ある

いはエスニシティの比較研究も進められている。

 Trubisky, Ting-Toomey, & Lin(1991)によれば,個人主義的文化では「主張」が,集合主義的文

化では「回避」が選択される傾向がある。日本においても,集合主義的文化の影響で西洋とは異なる

葛藤解決方略,つまり,回避を選択する傾向があることが指摘されてきた (飛田・大渕,1991; 河内,

2001; 善積,2004)。日本とスウェーデンの夫婦比較研究を行った善積(2004)は,日本の妻はスウェー

デンの妻より家庭円満のために対立を「回避」することを指摘した。すなわち,文化によって葛藤概

念には違いがあり,葛藤が「争い」と考えられている東洋文化においては,葛藤をおさえるための譲

歩的な対処が関係の維持に有効であると考えられる(Ting-Toomey, 1994)。これらの知見は,葛藤

解決方略がもつ意味は文化的文脈に基づいて解釈していかなければいけないことを意味している。

 しかしながら,先行研究では葛藤解決方略の文化差を西洋と東洋という二項に大別し,個人主義

あるいは集合主義という文化の型から考察している。実際には,同じ東洋でも,各国には文化や社

会的背景による差が存在するため一括りにはできない。

 東洋の国の中でも,日本と韓国は様々な面から比較の対象となっているため注目に値する比較対

象である。日本と韓国の共通性として,日本と韓国の伝統的家族観は儒教的価値観や伝統的性別役

割観に基づくものである (Kim, 1996) 。また,産業構造の変化の点でも,第一次産業中心の社会か

ら,第二次産業,第三次産業中心の社会へと変化してきたところでは共通している。この他にも,

Fig.1 葛藤解決方略(Pruitt & Rubin (1986)を和訳して転載)

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人口の都市集中,核家族の増加,脱伝統的家族形態の変化,女子の大学進学率および就業率の上昇

などの女性のライフコースの変化などが共通点として挙げることができる。このように日本と韓国

は高度成長期と大きな社会変動を経験しており,それに伴って家族観が大きく急激に変化している。

そのような中で,日本と韓国の家族観を比較した研究ではその差が報告されている。日本と韓国の

家族イメージに関する調査によると,日本では「愛情で結ばれた集まり」という答えが43.5%で最も

多く,韓国では「血縁で結ばれた集まり」という答えが48.4%で最も多かった(工藤,1991)。また,

Kim(1996)は,「家族の情緒的結束」と「家族一体的生活」の点数が,日本人夫婦より韓国人夫婦で

高く,日本は「血縁」より「愛情」を重視しており,韓国より「個人化」が進んできたと報告している。

このような相違により,日本と韓国の葛藤解決方略にも違いがあることが推察されることからその

比較を行うことは意義があると言うことができる。

2. 結婚満足度

 夫婦関係に関する変数は,「結婚適応」,「結婚安定性」,「結婚の質」,「結婚満足」のように様々な

概念が想定されてきた(Acitelli, Douvan, & Veroff, 1993)。その中でも「結婚満足」は一番広く使わ

れている(Kwon, Choi, 1999)。Hawkins(1986)は結婚満足度(marital satisfaction)を,結婚生活全

般に対する主観的幸福感,満足感として定義しており,Lewis と Spanier(1979)は個人がもつ結婚

に対する期待と実際に受ける補償(reward)が一致する程度であるとしている。Rice(1979)は結婚

満足度とは夫と妻の個人的願望がお互いの相互作用を通して満たされる程度であると定義した。本

研究では,諸井(1996)を参考に,結婚満足度を「夫婦の関係全体の良さ」と定義する。なお,Marital

Satisfaction の日本語表現は,夫婦関係満足度または結婚満足度などのように異なる表記があるた

め,本研究では結婚満足度に統一して述べる。

 日本の結婚満足度に関する研究を概観すると,結婚満足度と関連する要因は役割分担(諸井,

1996),情緒的サポート(末盛,1999),夫婦のコミュニケーション・パターン(門野,1995)などが挙

げられている。また,経時的な変化や性差も重要な観点である。全般的に夫の満足度が妻より高く,

結婚年数を重ねるにつれて夫は結婚に満足していくのに対して,妻の満足度は低下していく(菅原・

詫摩,1997;稲葉,2002)。池田・伊藤・相良(2005)の研究では,夫の満足度は妻より有意に高く,夫

が妻より満足度が高い夫婦の数は,妻が夫より満足度が高い夫婦を大きく上回っており,満足度に

性差があることが明らかになっている。菅原・詫摩(1997)では,結婚の当初は夫婦の結婚満足度の

得点に差はないが,結婚年数が重なるにつれて夫と妻の得点には差が生じ,15年後には無視できな

い差になる。韓国においても,日本の研究とほぼ一致している見解が示されている。Kim(2007)は,

夫婦のコミュニケーション・パターン,自尊感情,および結婚満足度の関連を検討し,夫の結婚満足

度は妻より高いことを明らかにしている。また,年齢が低いほど結婚満足度が高いこと(Lee, 2006;

Shin, 2007)が報告されている。

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夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

3. 葛藤解決方略と結婚満足度

 結婚満足度を規定する要因のなかでも葛藤解決方略は重要な変数である。結婚満足度が高く,安

定的な夫婦関係を維持している夫婦の特性を分析した Gottman & Levenson(2000)によると,夫

婦葛藤の69%は解決できない問題(例えば,パーソナリティーの根本的違い,個人の基本的欲求など)

に関することで,31%だけが解決できる問題であり,解決できない葛藤に対して夫婦が効果的な対

処の仕方,コミュニケーションの取り方を習得すれば,関係の悪化を防ぐことができるとされてい

る。Yelsma(1984)によると,結婚満足度の高い夫婦と低い夫婦を比較した結果,葛藤の有無と結

婚満足度には関連なく葛藤解決方略によって結婚満足度に有意差があることを明らかにしている。

 Kurdek(1995)は,葛藤解決方略と結婚満足度の関連に関する研究を検討し,同意,妥協,ユーモ

アのような建設的(constructive)な葛藤解決方略の頻度は結婚満足度と正の相関があり,対決,後

退,防衛のような破壊的(destructive)な葛藤解決方略の頻度は負の相関があることを報告してい

る。このように,欧米の研究では,夫婦で問題に積極的に取り組むことが夫婦満足度を高め,問題

を回避すると満足度が低くなることが示されてきた(Noller, Feeney, & Peterson, 2001)。

 このように,葛藤解決方略は結婚満足度を左右するものであり,西洋と東洋によって葛藤解決方

略の選択に差があることは研究されているものの,日本と韓国において葛藤解決方略の選択にどの

ような差があるかを検討した研究は行われていない。したがって,本研究では日本と韓国における

葛藤解決方略と結婚満足度の関連を検討する。

 加えて,大渕(1997)の文化的価値説によると,葛藤解決においては指向される目標によって選好

される方略が変わるということを述べている。生きがいとは生活の中で何らかの目標や目的をもつ

ことであり(Recker, Peacock, & Wong, 1987; Ryff, 1989; Baumeister, 1991),生きがいの形成はそ

の人が属している社会の文化に大きく影響される(Wong, 1998; Kalkman, 2003)。以上のことから

生きがいは葛藤解決方略や結婚満足度と関連があると想定することができる。

4. 本研究の目的

 以上より,本研究の目的は,日本と韓国に在住する既婚女性(妻)を対象として,葛藤解決方略,

結婚満足度,生きがいの関連を探索的に検討することである。次の3点の関連を日本と韓国の国別

に比較する。

 ⑴ 葛藤解決方略と結婚満足度の関連

 ⑵ 葛藤解決方略と生きがいの関連

 ⑶ 生きがいと結婚満足度の関連

【方法】 2013年9月~ 2014年1月の間,日本人(114名)と韓国人(113名)の既婚女性を対象に質問紙調査

を行った。日本人に関しては,東北地方に居住している既婚女性220名に質問紙を配布し,163名か

ら回収し(回収率74.1%),そのうち,回答の半分以上に欠損のある者を除いた114名を分析の対象

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とした。韓国人に関しては,大田市に居住している既婚女性200名に質問紙を配布し,158名から回

収し(回収率79.0%),そのうち,回答の半分以上に欠損のある者を除いた113名を分析の対象とした。

「対象者の年齢は38 ~ 60歳であり,結婚年数15 ~ 41年であった(Table 1)。日本と韓国で行われ

たそれぞれの研究によると,日本と韓国ともに全般的に妻の結婚満足度が夫より低く,結婚年数を

重ねるにつれて妻の満足度は低下する。よって,心理臨床の援助対象となりやすいという観点から

妻を対象者とした。

1. 質問紙の構成

 質問紙の構成は,①結婚満足度,②生きがいの有無・種類・程度,③葛藤解決方略である。

① 結婚満足度

 結婚満足度は,緒井(1996)による「夫婦関係満足尺度」を用いた。夫婦関係に関する6項目(「私た

ちは,申し分のない結婚生活を送っている」「私と夫との関係は,ひじょうに安定している」「私たち

の夫婦関係は,強固である」「夫との関係によって,私は幸福である」「私は,まるで自分と夫がチー

ムの一員のようであると,ほんとうに感じている」「私は,夫婦関係のあらゆるものを思い浮かべる

と,幸福だと思う」)について,それぞれ4件法(「ほとんどあてはまらない」「どちらかといえばあて

はまらない」「どちらかといえばあてはまる」「かなりあてはまる」)で回答を求めた。

② 生きがいの有無・種類・程度

 生きがいに関する質問では,まず,生きがいがあるかどうかを尋ねた。あると答えた人に限って

種類(趣味,仕事,家事,子育て,友だち,その他)・程度(「打ち込めていない」「あまり打ち込めてい

ない」「やや打ち込めている」「打ち込めている」)について回答してもらった。

③ 葛藤解決方略

 葛藤解決方略を問う質問では,各々の葛藤場面(「子育て」「家事の分担」「生活習慣」「互いの言動」

「価値観」「経済」「夫の家族」)においてどのような葛藤解決方略を選ぶかを尋ねた。例えば,「子育て」

の葛藤場面において,「あなたは夫との間で,子育てや子どもの教育について意見が対立したとき,

どのように対処しますか ?」と尋ねた。この質問に対し,「私は夫と問題があっても,互いに気まず

い状況をできるだけ,避ける」(回避),「夫と意見が異なるとき,私と夫と中間の立場を提案する方

である」(妥協),「夫と意見が異なるとき,私は夫の意見を聞いて,自分の考えや意見は伏せる」(譲

歩),「私は夫と意見が対立するとき,自分の意見が正しいと強く主張する方である」(主張),「私は

夫と意見が対立すると,自分の考えを先に言い,夫の意見を聞く」(協調)という5選択肢から一つを

選んでもらった。

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夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

【結果】 得られたデータを用い,葛藤解決方略と結婚満足度の関連,葛藤解決方略と生きがいの関連,また,

生きがいと葛藤解決方略の関連を調べるために分析を行った。データの分析ソフトウェアとして,

SPSS ver.19が用いられた。

1. 葛藤解決方略と結婚満足度の関連

 まず,国によって,葛藤解決方略の選択に差があるかどうかを調べるために,χ2検定を行った。

また,国と葛藤解決方略によって結婚満足度に差があるかどうかを調べるために,2要因の分散分

析を行った。

⑴ 葛藤解決方略の選択の比較

 総場面において,葛藤解決方略の選択の順位は,日本人妻は,「協調」(35.5%),「回避」(24.4%),

「妥協」(16.9%),「主張」(13.2%),「譲歩」(10.0%),韓国人妻は「協調」(30.1%),「回避」(27.7%),

「妥協」(23.6%),「譲歩」(11.0%),「主張」(7.6%)の順である。各場面における葛藤解決方略の順

位は下記のようになる(Table 2)。

Table 1 調査対象者の内訳

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 5×2のχ2検定の結果,選択の偏りが有意であった結果は次のようになる。

1)総場面:(χ2(4)=26.21,p<.001)

2)子育て:(χ2(4)=10.99,p<.05)

3)家事の分担:(χ2(4)=10.99,p<.05)

 調整された残差を残差の有効性を示す(Table 3)。

 残差分析より,

1)総場面では,「妥協」方略を選択する韓国人は日本人より有意に多いこと,「主張」「協調」方略を

選択する日本人は韓国人よりも有意に多いことが示された。

Table 2 葛藤解決方略の選択の日韓比較

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夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

2)子育ての場面では,「妥協」方略を選択する韓国人は日本人より有意に多いこと,「主張」方略を

選択する日本人は韓国人よりも有意に多いことが示された。

3)家事の分担の場面では,「主張」方略を選択する日本人は韓国人よりも有意に多いこと,「譲歩」

方略を選択する韓国人は日本人より多い有意傾向の差が示された。

 この結果から,日本人は自己指向性の高い方略である「主張」「協調」を,韓国人は自己指向性の低

い方略である「妥協」を選択する傾向が示された。

⑵ 葛藤解決方略の得点の比較

 Fig.1に示したように葛藤解決方略の「他者指向性」を x,「自己指向性」を y とすると,各葛藤解決

方略は,「主張」(x=0,y=2)「協調」(x=2,y=2)「妥協」(x=1,y=1)「回避」(x=0,y=0)「譲歩」(x=2,

y=0)と改めて定義できる。この定義に基づき,国による葛藤解決方略の「自己指向性」と「他者指向

性」得点を比較するために,t 検定を行った(Table 4)。ここで,得点は総場面における「他者指向性」

(x)と「自己指向性」(y)の平均値である。その結果,「他者指向性」では有意差はみられなかったが

(t=.249,df=225,n.s.),「自己指向性」において,日本人妻が韓国人妻より「自己指向性」の得点が

高い有意傾向が示された(t=1.745(225),p<.1)。

⑶ 国と葛藤解決方略による結婚満足度の違い

 まず,「夫婦関係満足尺度」6項目のα係数を算出したところ,全体はα=.94,日本人はα=.93,

韓国人はα=.95であり,十分な信頼性を示した。

 国と葛藤解決方略の違いによって結婚満足度の得点に差があるかを検証するために,独立変数を

国と葛藤解決方略,従属変数を結婚満足度の得点とする2要因の分散分析を行った(Table 5)。そ

の結果,すべての場面において,統計的に有意な交互作用は認められなかった。国による主効果は

Table 3 各セルの調節された残差

Table 4 葛藤解決方略の「他者向指向性」「自己指向性」の日韓比較

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有意ではなく,葛藤解決方略における主効果のみ有意であり,「子育て」の場面において「妥協」「譲

歩」「協調」が「主張」より,「協調」が「回避」より(F(4,217)=7.85,p<.001)結婚満足度の得点が高く,

「家事の分担」の場面において「協調」が「回避」「主張」より(F(4,217)=5.18,p<.001)結婚満足度の

得点が高いことが明らかになった。また,「生活習慣」の場面において「妥協」「協調」が「主張」より,

「妥協」が「回避」より(F(4,217)=5.95,p<.001)結婚満足度の得点が高く,「互いの言動」の場面に

おいて「協調」が「主張」より(F(4,217)=3.95,p<.01)結婚満足度の得点が高いことが確かめられた。

全体的に,国を問わず,「自己指向性」と「他者指向性」の両方の高い「妥協」と「協調」が結婚満足度

に肯定的な影響を及ぼしていることが示された。

2. 葛藤解決方略と生きがいの関連

 国によって,生きがいの選択に差があるかどうかをまとめる。また,国と生きがいの選択によっ

て葛藤解決方略の選択に差があるかどうかを調べるために,2要因の分散分析を行った。

⑴生きがいの選択の比較

 日本人妻の場合,「趣味」(35.1%),「子ども」(25.4%),「仕事」(10.5%)などの順であり,韓国人

妻の場合,「子ども」(48.7%),「仕事」(22.1%),「その他」(13.3%)などの順であった(Table 6)。

Table 5 国と葛藤解決方略による結婚満足度の違い

Table 6 生きがいの選択の日韓比較

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夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

⑵ 国と生きがいの選択による葛藤解決方略の比較

 国と生きがいの選択による葛藤解決方略の「他者指向性」と「自己指向性」の得点を Fig.2,Fig.3

に示す。

 日本と韓国において,共通して上位に選択された生きがいである子どもと仕事を選択した人の葛

藤解決方略の選択を比較するために,葛藤解決方略の「他者指向性」・「自己指向性」の得点に対して,

2×2(国(日本・韓国)・生きがい(子ども・仕事))の分散分析を行った(Table 7,Fig.4)。その結果,

「自己指向性」に対して,「国×生きがい」に関する有意な主効果や交互作用はみられなかったが,「他

者指向性」に対しては,「国×生きがい」に関する有意な交互作用がみられた(F(1,117)=8.31,

p<.01)。更に,生きがいを「子ども」と答えた群における比較を行った結果,韓国人妻が日本人妻よ

り「他者指向性」の平均値が高かった(t=2.05,df=82,p<.05)。生きがいを「仕事」と答えた群では

国による「他者指向性」の有意差はみられなかった(t=1.64,df=35,n.s)。つまり,「子ども」が生き

がいであると答えた韓国人妻は,「子ども」が生きがいであると答えた日本人妻より,「他者指向性」

の高い葛藤解決方略を選択する結果であった。

00.20.40.60.8

11.21.41.6

趣味 仕事 家事 子ども 友人 その他 無し

他者

指向性

の得点

生きがい

日本人妻

韓国人妻

Fig.2 国と生きがいの選択による葛藤解決方略の「他者指向性」

00.20.40.60.8

11.21.41.6

趣味 仕事 家事 子ども 友人 その他 無し

自己

指向性

の得点

生きがい

日本人妻

韓国人妻

Fig.3 国と生きがいの選択による葛藤解決方略の「自己指向性」

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第63集・第1号(2014年)

3. 生きがいと結婚満足度の関連

 国と生きがいへの集中度によって結婚満足度に差があるかどうかを検証するために2要因の分散

分析を行った。

⑴ 国と生きがいへの集中度による結婚満足度の比較

 国と生きがいへの集中度の違いによって結婚満足度の得点に差があるかを検証するために,独立

変数を国と生きがい集中度の高低群,従属変数を結婚満足度の得点とする2要因の分散分析を行っ

た。ここで,生きがいへの集中度の高群とは,生きがいへの集中度の平均(3.36)より高い群であり,

生きがいへの集中度の低群とは,生きがいへの集中度の平均(3.36)より低い群と生きがいが無い群

である。その結果,統計的に有意な交互作用は認められなかった(Table 8)。国による主効果は有

意ではなく,生きがいへの集中度における主効果のみ有意であり,生きがい集中度の「高群」のほう

が「低群」より結婚満足度の得点が高い(F(1,223)=16.32,p<.001)ことが明らかになった。

** p<.01

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

子ども 仕事 子ども 仕事

日本人妻

韓国人妻

他者指向性 自己指向性

**

**p<.01Fig 4 国と生きがいの選択による(子ども vs 仕事)による葛藤解決方略の「他者指向性」「自己指向性」

Table 7 国と生きがいの選択(子ども vs 仕事)による葛藤解決方略の「他者指向性」「自己指向性」

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夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

【考察】1. 葛藤解決方略と結婚満足度の関連

 国による葛藤解決方略の選択を検討したところ,両国において,一番多く選択されている方略は

「協調」であり,次いでに「回避」であった。葛藤解決方略と結婚満足度の関連を調べるために分散分

析を行ったところ,「妥協」と「協調」が結婚満足度に肯定的な影響を与えることが示されたが,その

差は国の違いによるものではないことが明らかになった。選択された葛藤解決方略は「協調」の次

いで「回避」になっている。結婚満足度との関連から考えると「回避」は結婚満足度の低い方略であ

るが,多く選択されたことは,先行研究(飛田・大渕,1991;河内,2001; 善積,2004)の指摘とおり,

集合主義的文化の国である日本と韓国では家庭円満のため対立を避けて,「回避」を選択する傾向の

反映として考えられるだろう。

 国と葛藤解決方略の選択の関連を調べるためにχ2検定を行ったところ,すべての場面において

は,「妥協」方略を選択する韓国人は日本人より有意に多いこと,「主張」「協調」方略を選択する日

本人は韓国人よりも有意に多いことが示された。子育ての場面では,「妥協」方略を選択する韓国

人は日本人より有意に多いこと,「主張」方略を選択する日本人は韓国人よりも有意に多いことが

示された。家事の分担の場面では,「主張」方略を選択する日本人は韓国人よりも有意に多いこと,「譲

歩」方略を選択する韓国人は日本人より多い有意傾向の差が示された。これは全体的には,日本人

は自己指向性の高い方略である「主張」「協調」を,韓国人は自己指向性の低い方略である「妥協」を

選択する傾向が示された。また,夫婦二人の問題というより,家族全体にとって重要な問題である

子育てや家事の分担のような場面において,日本人は「主張」を選択しているが,韓国人は「妥協」「譲

歩」を選択しており,韓国人は日本人より,「他者指向性」の高い方略を選択する傾向が示された。

さらに,葛藤解決方略の二つの軸である「他者指向性」「自己指向性」に対して,国別に t 検証を行っ

たところ,日本人が韓国人より「自己指向性」の高い「葛藤解決方略」を選択する傾向が示された。

この二つの結果は,儒教の伝統がまだ強い韓国では妻は個人より家族を優先しており,家族のため,

妻の個人的な欲求を犠牲にすべきと考える傾向(永久・柏木・姜,2003)の現れとして考えられる。

2. 葛藤解決方略と生きがいの関連

 国によって生きがいの選択に差があるかを検討したところ,日本人妻と韓国人妻において差があ

り,日本人妻の場合,「趣味」(32.8%)が1位であり,韓国人妻は「子ども」(48.79%)が1位であった。

また,葛藤解決方略と生きがいの関連を調べるために,葛藤解決方略の二つの軸である「他者指向

性」「自己指向性」と生きがいに対して,分散分析を行った。その結果,「生きがい」が「子ども」であ

Table 8 国と生きがいへの集中度による結婚満足度の比較

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第63集・第1号(2014年)

る韓国人妻は日本人妻より「他者指向性」の得点が高いことが示された。このことから,日本人妻は

個としての生き方に生活の意味を追求しており,韓国人妻は子どもや子育てに生活の意味を見出し

ていると考えられる。また,韓国人妻にとって,「子ども」という生きがいは葛藤解決方略の選択に

も影響を与え,「他者指向性」の高い葛藤解決方略の選択する結果になったことが推察される。

 伝統的家族観では,女性は家族のなかで夫の妻と子どもの母であることが求められる。伝統的家

族観が強く残存している韓国には,母として子どもの存在をどう思っているか,という子ども観に

おいても日本と差があると推察できる。永久・柏木(2000)は,日本人妻の個人化への態度及び子ど

もの価値との関連を検討した。子どもの価値は,老後の安心や家庭の賑やかさに価値を認める「情

緒的価値」,子育て経験による自分の成長に価値を認める「自分のため」,子育てを通して社会に貢

献することに価値を認める「社会的価値」の三つからなる積極的価値と子育てのための条件整備を

重視する「条件依存」,子育てを援助する人手の存在を重視する「子育て援助」の二つからなる消極

的態度の二次元になっている。その結果,家族の情緒的一体感を意味する「一心同体」という態度が,

老後の安心や家庭の賑やかさに価値を認める「情緒的価値」と,子育て経験による自分の成長を認め

る「自分のため」という子どもの価値と正の相関があった。また,自分の世界を指向する「私個人の

世界」という態度が,「自分のため」という子どもの価値と負の相関があった。これは,家族指向態

度は子どもの積極的価値と関連しており,個人指向態度は子どもを持つことによって自分個人の生

き方が制約されることを考慮していることを意味する。永久・柏木(2000)は後者を「家族の個人化」

と述べている。日本の「家族の個人化」は母として子どもの存在をどうみるかという子ども観にも

反映され,韓国の家族と異なる様相を現していると考えられる。

 また,子ども観が夫婦の葛藤解決方略に影響を与えているということから,韓国人妻にとって「子

とも」は大事な生きがいであり,夫婦関係の維持にも大きな意味合いをもっていると考えられる。

これは,韓国では夫婦と子どもがそれぞれ独立したシステムではなく,それぞれの構成員を家族の

次元に帰結させ,家族単位で問題を解決する傾向があることを意味していると考えられる。その結

果,「子ども」という生きがいは韓国人妻の「他者指向性」を高める。

3. 生きがいと結婚満足度の関連

 生きがいと結婚満足度の関連を調べるために分散分析を行ったところ,生きがいへの集中度の

「高群」の方が「低群」より,結婚満足度が高いことが示された。また,生きがいの選択には日本と韓

国において差があり,日本人妻の場合,「趣味」が1位であり,韓国人妻は「子ども」が1位であったが,

生きがいへの集中度によって結婚満足度が変わる結果はあっても国による差はみられなかったこと

から,個としての生き方と家族中心の生き方は良し悪しといった問題ではなく個人の属している社

会の価値を反映しているものだといえよう。

4. 総合考察及び今後の課題

 本研究では日本と韓国における葛藤解決方略,結婚満足度,生きがいの関連を検討した。日韓共

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夫婦の葛藤解決方略と結婚満足度に関する日韓比較研究

に一番多く選択された「葛藤解決方略」は「協調」,「回避」という順であり,集合主義的文化の国で

は「回避」が選択される傾向があるという先行研究(飛田・大渕,1991;河内,2001;善積,2004)の知

見と一致する結果となったといえよう。「協調」,「妥協」のような「他者指向性」と「自己指向性」の

両方とも高い方略が結婚満足度に肯定的な影響を与えていることから,問題にどう対処するかに

よって,夫婦関係の質が左右されていることが明らかになった。

 また,生きがいに集中することが結婚満足度に肯定的な影響を及ぼすことが示された。このこと

から,配偶者以外の資源が結婚満足度に関連していることが考えられる。これによって,結婚満足

度を高める要因を夫婦関係の内側だけに閉ざして考えるより,外的資源からのアプローチで結婚満

足度を高めることができるという可能性が示された。

 生きがいの選択においては,韓国人妻は,「子ども」を生きがいとしている人が48.7%で,日本人

妻の23.8%に比べると多く,また,「子ども」が生きがいになると葛藤解決方略の他者指向性が高ま

ることが示された。これは日本と韓国の社会文化的な背景によって「子ども」の意味は異なり,とり

わけ韓国においでは夫婦関係に大きな意味をもっているからであると推察されるが,それに関して

実証的研究を行っていない。

 葛藤解決において「子ども」という存在がもっている意義と働きを検討するためには,葛藤解決方

略の効果に対する個人の意味づけに注目することが必要である。東海林(2006)は,夫婦の葛藤につ

いてインタビュー調査を行い,葛藤解決方略のなかに含まれている個人の「意味づけ」に注目し,「譲

歩」が日常的な制限があるなかで用いられ,夫婦関係の維持のために選ばれると述べた。これは,従

来の研究において,「譲歩」と「回避」のような方略は問題解決に結びつかないという指摘があるな

か,「譲歩」には積極的な意味づけがあるということを明らかにしたものである。葛藤解決方略の選

択とそのプロセスに含まれる個人の意味づけを把握するためには,今後さらに詳細な検討が必要で

あろう。

<付記>

 本研究は兪(2014)「夫婦の葛藤解決方略と夫婦満足度に関する日韓比較」として日本家族心理学

会第31回大会で発表したものを論文化したものである。

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第63集・第1号(2014年)

The purpose of this research is to investigate relationships between "conflict resolution

strategies", "marital satisfaction", and "motivation for marriage life" among married women in

Japan and South Korea. The results showed that "conciliation" and "cooperation" where "pro-

selfness" and "pro-socialness" are high are related to positive "marital satisfaction", which is

irrelevant to nations. Other results suggested that "motivation for marriage life" is contingent on

nation, and that South Koreans who selected "children" as "motivation" tend to manifest high "pro-

socialness" in "conflict resolution strategies". Moreover, from the relationships between

"motivation" and "marital satisfaction", it was shown that those who concentrate on "motivation"

have high "marital satisfaction", which is also irrelevant to nations. It was assumed that South

Koreans whose "motivation" is "children" underscore family rather than an individual, and select

"conflict resolution strategies" of which "pro-socialness" is high. This means that "conflict resolution

strategies" are affected by cultural contexts in society which the individual belongs to.

Key-words: Conflict resolution strategies, marital satisfaction, motivation, Japan-South Korea

comparison

A Comparative Study on Conflict Resolution Strategies and

Marital Satisfaction for Japanese and South Korean Wives

Kyungran YU(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

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