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2018 Spring [ エガオ ] 詳しくはこちらから 検索 商店街支援 http://www.syoutengai-shien.com/ 地域に愛される、商店街。 2018 Spring [ エガオ ] 小山薫堂さんが 商店街に提言! 商店街の 魅力の つたえかた。 特集 HOW TO TELL YOUR TOWN Tourism Product Inbound Concept Place
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商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34...

Oct 08, 2020

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Page 1: 商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市

地域に愛される、商店街。

株式会社全国商店街支援センター

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[ エガオ ]

詳しくはこちらから

検索商店街支援

http://www.syoutengai-shien.com/

地域に愛される、商店街。

2018 Spring [ エガオ ]

小山薫堂さんが商店街に提言!

商店街の魅力の

つたえかた。

特集

H O W T O T E L L Y O U R T O W N

Tourism

ProductInbound

ConceptPlace

Page 2: 商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市

01

多くの人を集める商店街には、理由があります。

まず、街の価値に気付いていること。

そして、それを固有の魅力として発信していること。

街の価値を高め発信することが、商店街ににぎわいを生む秘訣です。

そこで今号では、自分たちの魅力を多くの人に届けている商店街を取材。

「まち歩き」や「コンセプトづくり」など、彼らはどのように発信しているのか――

“魅力のつたえかた”を紹介します。

Contents

HOW TO TELL

YOUR TOWN

商店街の

魅力のつたえかた。

Concept

Inbound

Place

Tourism

Product

Tourism

ProductInbound

ConceptPlace

特集

02 特別対談

小山薫堂さん × 桑島俊彦 (放送作家・脚本家) (全国商店街支援センター)

「商店街ならではの魅力発信ってなんだろう?」

Case 01 「まち歩き」で体感。08 水道筋商店街/兵庫県神戸市12 公益社団法人 商連かながわ/神奈川県15 南三陸さんさん商店街/宮城県南三陸町

Case 02 「モノ」を「コト」へ。18 児島ジーンズストリート協同組合/岡山県倉敷市22 カバンストリート(宵田商店街振興組合)/兵庫県豊岡市25 豊洲商友会/東京都江東区

Case 03 コンセプトをつくる。26 西和賀町+協同組合湯本商店会/岩手県和賀郡30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市

Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市37 ゲストハウス in 商店街

Case 05 「インバウンド」の最前線。38 中町商店街振興組合/長野県松本市41 宇治商工会議所/京都府宇治市

42 商店街に溢れる“EGAO” SMILE SNAP

支援事業最新レポート44 【繁盛店づくり支援事業】 富岡商店街協同組合/徳島県阿南市

46 【商人塾支援事業】 延岡商工会議所・延岡市商店会連合会/宮崎県延岡市

48 EGAO INFO

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InterviewSpecial

03 02

人が発信したくなるような

〝物語〞を商店街につくる

桑島 まず、小山さんは商店街

にどんな印象をお持ちですか?

小山 僕は熊本県の天草出身で、

家からすぐのところに商店街が

ありました。まるでもうひとつ

の学校のグラウンドのようにそ

こで遊んでいて、スケートボー

ドをしては、怒られていました

(笑)。当時、商店街のおじさん

おばさんは子どもを怒ってくれ

るもうひとりの先生だったんで

す。そんな思い出もあるので、

愛着があって大好きな場所です。

天草も今はシャッター商店街な

のですが……。

桑島 近年、都心と地方とでは

益々格差が出てきて、特に地方

ではシャッター商店街が増え続

けています。しかし、少子高齢

化の時代に、多世代が交わるコ

ミュニティの場となる商店街は

重要な存在です。そこでそれを

起点としてなんとか地方を活性

化できないかと、我々は模索し

てきました。ただ、多くの商店

街は魅力があっても自分たちの

活動を外に伝える発信力がなく、

商店街ならではの

魅力発信って

なんだろう?

商店街の魅力を、どのように伝えるべきか

||。

くまモンの生みの親で、放送作家や脚本家として

多くの人に感動を伝えている小山薫堂さんに、

全国商店街支援センターの桑島俊彦が、

商店街だからこそできる発信について伺った。

小山薫堂さん

桑島俊彦

放送作家・脚本家

全国商店街支援センター )

小山さんが店主だったら

何を大切にしますか?

まずは語りたくなる

〝ストーリー〞ですね!

特別

対談

人が来ない。これが活性化のネ

ックだと私は感じています。商

店街は、どうしたら発信力を持

てるとお考えですか?

小山 〝発信したいと躍起にな

っている人の情報を人は欲しい

とは思わない〞のではないでし

ょうか。たとえば、好きな女性

に対して自分がいかに魅力的な

SNSなどで全国に広がります。

「広く浅く」ではなく、「小さく

深く」届けること。そのために、

僕が一番大切だと思うのは 〝物

語づくり〞です。

 たとえば

、以前墨田区のキ

ラキラ橘商店街にあった『ハト

屋パン店』という人気のコッペ

パン屋さん。コッペパン一個を

百円ちょっとで販売していたお

店で、お母さんに注文すると、

お父さんがパンを切ってジャム

を塗り、娘さんが会計をする。

たった一個を売るのに3人で働

くのは、今の時代、非効率的と

言えるかもしれません。でも、

そこが面白くて、「こういう店

があるんだ」と人に語りたくな

るんです。そういう、人に語り

たくなる物語を商店街の中に見

出すことが大切です。

桑島 そうして、口コミで広が

っていくわけですね。

小山 そうです。物語づくりは

お金のかかることではなくて、

店主の方たちが、「自分たちは

物語をつくりながら商いをして

いるんだ」と意識することで始

まります。昔はよく、会計の時

に「はい、200万円」とおつ

りを渡す八百屋さんとかありま

したよね(笑)。いま、それを

あえてやるのも物語づくりです。

いまどきこんなことするお店が

あるんだと誰かが見つけて、街

の名物になるかもしれない。も

しかしたら無駄打ちに終わるか

もしれないけれど、商店街みん

なでそのような意識改革をやる

ことで、まず活気が出てくると

思うんです。

すでにある価値に気付き

幸福度を上げる

桑島 最近、街なか観光という

取組みが広がっています。商店

街の日常を観光として楽しんで

もらおうという、これも発信の

試みです。この点についてはい

かがお考えですか?

小山 十分な意義があると思い

ます。その街の観光が輝くのは、

本来観光に携わっていない人た

ちが自分の街の観光に興味を持

ちだした時なのではないでしょ

うか。

 僕は、旅先で髪の毛を切って

もらうのが好きなんですが、美

容師だったら髪を切る小一時間

を、街のいいところをお客さん

人間かということ

をせっせとアピー

ルする……そんな

人は果たして彼女

に魅力的に映るの

でしょうか。自ら

は発信せずに、自

分の魅力に他人が

気付く仕掛けをつ

くること。つまり、

「発信」するので

はなく、「発見」

してもらうことが重要なのでは

ないかと思います。

桑島 そうはいっても、まずは

最初に興味をもってもらうため

の発信も必要なのではないです

か?

小山 ひと昔前はそうだったか

もしれません。でも今は誰かひ

とりに見つけてもらえれば、

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InterviewSpecial

05 04

思うことを見つけるキャンペー

ンをやるほうがいいと思ったん

です。そこで、手始めに「熊本

サプライズアワード」を実施し

ました。びっくりするほど水が

おいしいとか、そういう他県か

ら来た人たちが驚く熊本のいい

ところと、発想の転換ですぐ取

り組める、観光客を楽しませる

アイデアを募集したんです。そ

ういう取組みの応援団長として

に伝える時間にすることもでき

ますよね。たとえば、観光客が

入りやすいように看板を立てて、

美容師さん自身が意識を転換し

て観光客と話すようにするだけ

で、その街のことを発信できる

んです。そうすると、まず美容

師さん自身が話すネタを仕込も

うと商店街を改めて意識しだす

のではないでしょうか。

桑島 意識改革ですね。自分の

街の面白い部分を発見しよう、

という姿勢になる。

小山 そうすると、自分はこん

な面白い街に住んでいたんだと

幸せな発見ができる。これはど

の業種でも応用可能な発想です。

観光を盛り上げるために新メニ

ューをつくるとかではなくて、

もっと日常にある面白さを拾い

あげれば、きっとそれを誰かが

見つけてくれると思います。

 くまモンをつくった時も同様

の考えでした。通常、観光予算

を観光産業のために使うとなる

と、ウェブやパンフレットに考

えが向きがちです。でも本当に

それでいいのかな、と。まずは

観光そのものではなく、地域の

人がここに暮らして良かったと

くまモンをつくりました。

桑島 どういうアイデアが集ま

りましたか?

小山 「うちの小学校は、街で

すれちがった人全員に挨拶をし

ます!」というのもありました。

もし自分が旅先で小学生に次々

挨拶されたら、いまどき珍しい

街だとびっくりしますよね

(笑)。また、県民がくまモンに

今日あった幸せなことを報告す

るアプリもつくりました。報告

内容は、「今日は洗濯をしたら

快晴で気持ち良かったよ」とか、

「市電に乗ったらちょうど席が

空いていたよ」とか、本当に身

近なことでいいんです。自分た

ちの身の回りの幸せを自覚する

ことで県の幸福度が上がります。

商店街もこれに近い方法で盛り

上げることができるのではない

でしょうか。いままでの常識を

リセットして商店街を見直せば、

熊本の人が改めて熊本の水のお

いしさに気が付いたように、す

でに自分たちが無意識に持って

いる価値に気が付くことができ

ます。

桑島 確かに、商店街活性化と

なると、新しい価値の創造に力

株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。放送作家、脚本家、作詞家、地域・企業のアドバイザーなど幅広い活動を行っている。大人気のキャラクター「くまモン」の生みの親。

小山薫堂さん株式会社 全国商店街支援センター 代表取締役社長。全国商店街振興組合連合会 理事・最高顧問、東京都商店街振興組合連合会 理事長などを歴任。世田谷で化粧品店を営む店主でもある。

桑島俊彦

を注ぎがちですね。それもいい

ことではあるけれども、まずは

すでにある価値に目を向けてそ

れをどう磨けば輝くようになる

のか、と考えることもとても大

切ということですね。

「目利きのプロ」が人気

商店主はいまこそ原点に

桑島 ところで、パン屋さんや

お菓子屋さんのように、いわゆ

る自分たちでつくって売る「シ

ョップ型」の個店は、商品にお

店独自のアイデアを載せやすく、

小山さんの言う「物語」をつく

りやすいかと思うのですが、商

品を仕入れて売っている「スト

ア型」についてはどうでしょう

か? 「ストア型」は、価格競

争でチェーン店に押されている

現状にあります。

小山 大切なのは、店主の〝目

利き〞なのではないでしょうか。

街の個店は、要はセレクトショ

ップなんです。多くのストア型

店舗はその使命を忘れていると

思います。

 京都の古川町商店街にある

『阪本商店』というお店は、ま

さに目利きによるセレクトショ

桑島 目利きこそがプロの技で

すね。

小山 お店に行った時、「今日

まだ何を食べるか決めていない

んですけど、ここでまず何を買

うべきですか」と聞いてみたこ

とがあります。すると店主がす

かさず、「このゴマ豆腐はすっ

ごく美味しいんですよ!」と即

答してくれた(笑)。そうなる

とじゃあ今日はそのゴマ豆腐を

軸にして献立をたてようとなり

ますよね。ひとつずつをちゃん

と自分で愛をもって選んで販売

している。置いている商品をす

べて自分で把握し、使い方まで

考え、自信を持っておすすめす

る。無駄なものは一切置いてい

ない。そういう店だからこそお

客はもう一度行こうと思えるの

ではないでしょうか。

桑島 自分の目に自信をもって

扱う商品を選ぶ、おすすめする

というのは、本来の商店の姿で

すね。ただ漫然と棚を埋めるの

ではなく、商品一つひとつに「こ

れがいい」という理由を持って

いるから、強気におすすめもで

きる。そこからコミュニケーシ

ョンも生まれる。

ップです。一見どこの商店街に

もあるよろずや風の商店ですが、

ここが素晴しい。阪本商店は、

一品ずつ命をかけて棚に並べる

商品を選んでいるんですよ。七

味ひとつとっても、何種類か置

いていて、どこでも売っている

ような大手メーカーの商品も含

めて、いろいろ試して「やっぱ

りこれ!」というモノを置いて

いるんです。

「日常の中に、

気付いていない

ストーリーがある」(小山)

「商店街の価値を

再発見して意識を

変えていく」(桑島)

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InterviewSpecial

column

07 06

のポイントを示し、そのノウハ

ウを商店街全体で共有してもら

うという「繁盛店づくり支援事

業」と、店主がプロの知識・ノ

ウハウをお客さんに伝えること

で、お客さんの暮らしを豊かに

するイベント「まちゼミ」を後

押しする「まちゼミ研修事業」

を行っているのですが、これら

が目指しているのが、阪本商店

のようなお店を増やすことです。

 多くの店主の方に、気の持ち

ようでこういうお店になれるん

だということを知ってもらいた

い。プロとしての気概を思い出

し、商店の原点に立ち返っても

らいたいと思います。

商店街をつくったという

責任を忘れない

小山 最近寂れてしまった商店

街が多いのですが、僕が商店街

に対して思う一番のことは、そ

こに商店街をつくったという責

任を忘れないでほしい、という

ことです。以前、とある商店街

の再生プロジェクトの手伝いを

してほしいと言われた時、かつ

てその商店街で商いをしていた

店主の多くが、自分たちは

小山 そうですね。たとえば、

「ポン酢ありますか?」とお客

さんに聞かれた時、「そっちの

棚にあるよ」と答えるだけでは

なにも生まれません。でも、そ

ういう時、阪本商店だったら「実

は、今日とびきり良い豚肉が入

っていて、それには、このゴマ

ダレがぴったりなんですよ」と

他の提案をします。そうすると、

その時はポン酢を買うかもしれ

ないけれど、またお店に来て、

豚肉とゴマダレを買おうとなる

わけです。

桑島 ただモノを売るだけでは

なく、お客さんの暮らしの質を

高められるような話ができる店

主や店員がいる。そういう専門

性をもつとお店はキラリと光り

輝くんですよね。

 私は、商店街が活性化するた

めには、キラリと光る個店づく

りが非常に大切だと考えていま

す。個々のお店の魅力がアップ

すれば、多くのお客様の心をつ

かむことができ、商店街が元気

になります。私ども全国商店街

支援センターは、アドバイザー

を商店街に派遣して、お金をか

けずにできるお店の魅力アップ

丸い鯛焼きの価値創出小山さんが取り組む

熊本県天草にある鯛焼き屋「まるきん」は若者も集まる場に成長した

ロゴもTシャツもオリジナルで作成

生地を改良し中身も趣向を凝らした

齢になったので静かに暮らした

い、もう人は来ないでほしいと

言うのです。自分たちは店の2

階に住んでいるし、お金はある

ので下は空いたままでいい。再

生してくれるな、と。

桑島 そういう方は確かに結構

いらして、実際、それが空き店

舗対策のネックになっていま

。小山 商店街でにぎわいをつく

って、それで生計をたてた方々

は、商店街をつくった責任があ

ると思います。店舗は若い人に

貸すか、自分たちで起業しても

らうか、どちらかだと思います。

自分たちが年をとったからここ

はもうだめ、貸しもしないとい

う考えは改めたほうがいいので

はないかと思います。僕が子ど

ものころ恩恵にあずかっていた、

地域の一員、みんなの生活の場

としての商店街の姿を思い出し

てほしいなと思います。

桑島 それも、自分たちがすで

にもっている価値を見直すこと

の先にある意識の改革ですね。

 本日はありがとうございまし

た。

よげ!たいやきくん』の歌が大流行している時、地元商店街にある

た時、若かりし頃の自分も含め、地元の子どもたちのオアシスのような存在だったこの店をなくしたくない、と強く思った小山さんは「自分にまかせてもらえませんか」という言葉が思わず口を突いて出たという。彼の想いに、地元の友人が職を投げうってまで協力体制を整える。こうして「まるきん製菓」の再生プロジェクトが始動した。 もともとある「丸い鯛焼き」という価値を保ちながら、生地とクリームは神戸の人気パティシエから、あんこは老舗和菓子屋からレシピを提供してもらい、味をさらに向上。また、地元の高校生との

連携も復活のアイデアとして盛り込んだ。「廃業寸前の鯛焼き屋が多くの熱い想いとともに復活」というこの“物語”は、地元メディアに注目され、取材が殺到。「まるきん」としてリニューアルオープンした当日は、多くの人が足を運び、商店街には何十年ぶりの行列ができた。 開店から1カ月たっても、1個150円の鯛焼きは1日1000個も売れているという「まるきん」。価値を保ちつつ、よりおいしく、さらには地元の中高生が学校帰りに立ち寄りやすい場所を意識的に目指したことで、新しいコミュニティの場としても機能している。

「まるきん製菓」へ鯛焼きを買いに行ったという少年時代の小山さん。しかし、その鯛焼きは尻尾がなく、今川焼のように丸い形をしていて、流行っている鯛焼きとはまるで別物。「天草は田舎だから形が違うんだ……」とショックを受けたという。「はじめて感じた田舎コンプレックス(笑)」だったが、東京で暮らし始めて、その形が他にはないオンリーワンの価値だったと気が付いた。 そして’17年、高齢になり経営が難しくなったと店主から知らせが。それを聞い

『お

「生活の場としての

商店街の重要性を

再認識してほしい」(小山)

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09 08

 

神戸市灘区の水道筋商店街は、

複数の商店街と市場からなり、

生活に密着した店舗を500余

り抱える大規模商店街。時代の

変化や災害の影響を受けつつも、

独自の手法でにぎわいを創出し

てきた。近年は、「まち歩き」

でレトロ感漂う商店街の魅力を

存分にアピール。確かな成果を

上げている。

〝食〞のまち歩き企画で

商店街の魅力を発信

 大正時代に発祥し、神戸の海

の手と山の手の中間に位置する

水道筋商店街。450mのアー

ケードをもつエルナード水道筋

(=水道筋商店街協同組合)を

はじめとする8商店街4市場か

らなり、神戸市有数の商業地と

して発展してきた。しかし平成

の時代になると、大型商業施設

の進出や阪神・淡路大震災での

被災、加えて新型インフルエン

ザの風評被害により、商店街の

人通りは激減する。

 そこで若手店主たちは地域の

人々と連携し、さまざまな企画

を立案。’12年には商店街の見ど

「美味しい」で街を元気に!

「まち歩き」で体感。

地元名物の食べ歩きで満喫する

01

「まち歩き」||それは、地域に根差した歴史や文化を体感できる方法だ。「まち歩き」を手段にして、街の魅力を伝えてファンを増やし、

にぎわいにつなげようとする試みが広がっている。そのノウハウにはいったいどんな工夫があるのか。

そして、その効果とは。

TourismCase

水道筋商店街/兵庫県神戸市

「つまみ食いツアー」では店主の話を聞きながら店の名物を食べる。その場で買い物をする参加者も少なくない

取 材班は’17年11月14日開催のつまみ食いツアーに同行。10時に商店街の守り神「汗かきえびす」に老若男女13

人が集合。店主によるボランティアガイドが、街の歴史やお店の紹介をしつつ商店街と市場を案内する。パン屋さん、精肉店、練り物店、豆腐屋さん、青果店で足を止め、各店主の話に耳を傾けながら、店の名物を1品ずついただく。最後は協同組合の事務所でお惣菜とご飯を食し、12時過ぎに解散。参加者は水道筋の食の力を体感。みな笑顔を浮かべていた。

水道筋つまみ食いツアー

開催頻度:毎月1回(第3日曜日)

参加者数:最大25名

参加費:1,000円

告知:ポスター、ホームページ、SNS

メリット:一つひとつのお店を丁寧に紹介できる

ころをテーマ別に紹介するユニ

ークな地図やまち歩きガイドマ

ップを制作。さらには複数の店

主たちがリレー形式でガイドを

しながら歳末のにぎやかな商店

街を案内する「商店主リレーツ

アー」を実施するなど、観光の

要素を取り入れた活動で商店街

をPRしてきた。

 これらの取組みがきっかけと

なり、’15年1月、商店街観光を

テーマにした本誌「EGAO」

春号の特別座談会に、エルナー

ド水道筋の運営企画部長・西井

利行さんが登壇する。その際他

の地域(長崎県と神奈川県)の

事例に触発された西井さんは、

水道筋でも独自の魅力を最大限

に引き出せるまち歩きツアーを、

と発奮。こうして、座談会から

わずか2カ月後の’15年3月に、

〝食〞にスポットライトを当て

た「水道筋つまみ食いツアー」

が誕生した。このツアーではガ

イドが商店街と市場の中から8

〜9店を案内、参加者は各店に

ついての話を聞きながら店主自

慢の一品を食べ歩く。第1回目

の開催から大好評で、以降、月

1回の恒例行事となっている。

とっておきのお店をガイド!

来るたびに街が好きになる!

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11 10

 水道筋の〝食〞のイベントは

これだけにとどまらない。’15年

4月には、「紙皿食堂」も開催。

市場の空き店舗にテーブルを並

べて、場内の精肉店、鮮魚店、

惣菜店などから買ったものをカ

フェテリア方式で食べるこのイ

ベントは、一般人にハードルが

高いと思われている市場の専門

店での買い物を、気軽に楽しん

でもらう内容だ。翌’16年6月に

は、つまみ食いツアー参加者か

らのリクエストに応える形で、

ちょい飲みツアー「水道筋的裏

ミシュラン」も始まった。

「これらのイベントは、商店街

から足が遠のいてしまったかつ

てのお客様に、再びいらしてい

ただいて、水道筋で買い物をす

る楽しさを再発見していただき

たいと企画しました。でも実際

にフタを開けてみたら、参加者

の半数は水道筋をまったく知ら

なかった、もしくは名前は知っ

ていたけれど今まで一度も来た

ことがなかったという人たちで

した。イベントが新しい顧客の

開拓につながったのはうれしい

誤算でしたね」と西井さん。

 ツアー参加者からは「美味し

いものばかりで感動した。イン

スタにアップし続けました」(初

参加者)、「来れば来るほどに街

の魅力にハマります。もう引越

したいくらい」(リピーター)

と好意的な声が次々に上がって

いる。店主たちの実感値では参

加者の1割はツアー後に買い物

に再訪しているという。

 近傍のJR摩ま

耶や

駅は’16年3月

にオープンしたばかり。新駅開

業に伴うマンションの建設ラッ

シュで、水道筋界隈に急増して

いる新生活者に対しても、これ

らの取組みは有効な商店街のP

Rツールとなっている。

確かな集客の手応えが

商店街と市場をつなぐ

 実行メンバーは、主にエルナ

ード水道筋に店を構える店主た

ち。しかし、つまみ食いツアー

や紙皿食堂は、参加者を市場の

奥へと誘う。

「水道筋は市場に魅力が詰まっ

ているんですよ。迷路のような

細い通路を歩けば、海から上が

ったばかりの活きのいい魚、カ

ゴに盛られた色とりどりの野菜、

量り売りされているおふくろの

味(惣菜)が、目に飛び込んで

きます。そんな、商いの原風景

のようなところにお客さんを連

れていきたいんです。市場の魅

力を知って、水道筋のファンに

なっていただければ、それは

我々エルナードの商売にもプラ

スになります」

 集客が見込めることがわかり、

当初は取組みに興味を示さなか

った市場の昔気質の店主たちも、

徐々に協力的になってきた。

「工夫次第で効果を得られる。

そんな体験をみんなで共有する

ことで、街のモチベーションが

高まる。これからも地域一帯で

盛り上げていきたいですね」

 市場の魅力に光を当てれば水

道筋全体の益になる。そう信じ

て進めてきた取組みが、市場と

街ではレトロな遊具が出迎えてくれる

01Case 「まち歩き」で体感。

まとめ。

食を取り入れる

一人で入りにくい店が目玉に

参加者の要望に柔軟に応える

ほかにも、こんなイベントやってます。

大人の食べ歩きツアーや市場グルメを自由に満喫する食堂、さらに企業とのコラボまで、多種多様なイベントで街の魅力を発信!

取組みを推進する西井さん。「支援センターの事業も使って全体の協力体制を強めています」

column

滞在拠点もできました!ゲストハウス萬家(MAYA)「人情味ある個性的な店が多くて活気がある。ひと目で気に入りました」と水道筋の魅力を語るオーナーの朴さん。物件を探すため、1年間商店街の喫茶店でアルバイトをした。「コーヒーを売りながら顔を売りました」と笑う朴さんは、つまみ食いツアーのアシスタントとしても活躍した。’17年7月オープンの「ゲストハウスMAYA」は古い診療所をDIYで改装したもの。その作業には近隣住民含め300人以上が参加。「水道筋の魅力を世界中に伝えたい!」という熱い想いの発信拠点となっている。

「お客さんが暇そうな時は、ガイド役になって商店街を隅から隅まで案内しています」水道筋の強力なサポーターだ

オーナー

朴パク

徹チョルン

雄さん

水道筋商店街

8商店街4市場からなる 商店街。’15年からは支援センターの事業も活用し「商人塾」「繁盛店づくり」などの取組みも進めている。’16年には経済産業省「はばたく商店街30選」に認定された。

DATA 商店街の心の距離を縮め、意識

の共有が生まれている。今後は

さらに連携を強めつつ、よりダ

イナミックな活動を求めてまち

づくり会社の設立も視野に入れ

ていくそうだ。

’17 年、読売グループが行う神戸の春と秋のツアーの立ち寄りスポットとして選ばれた水道筋商店街。屋台や縁日、地ビール販売、日本酒の振る舞いや、紙皿食堂、抽選会、近隣の王子スタジアムにちなんだアメフトチアリーダーのパフォーマンスなど商店街始まって以来の大規模なイベントとなった。桜の見頃の春のツアーには2,000人もの参加者が。新聞、インターネット、駅のポスターなど複数の媒体で商店街の名とともにツアーがPRされた。

旅行会社との連携ツアー

開催頻度:年に数回(’17年は2回)

参加者数:約2,000人

参加費:回により異なる

告知:ツアー会社が担当

メリット:広範囲にわたり無料でPRできる

開催頻度:年3~ 4回

参加者数:制限なし。多い時で600人ほど

参加費:ゼロ(飲食代は参加者各自が負担)

告知:ポスター、ホームページ、SNS

メリット:一般の人が市場で気軽に買い物ができるようになる

市 場をカフェテリア方式の食堂と見なすイベント。参加者は予め配布された紙皿プレートと割り箸を持ち、市場の

各店で好きな食べ物を購入し紙皿に載せ、空店舗内に設えられたテーブル席で食す。参加店舗数は、’15年の開始以降徐々に増え、現在は市場の7割の33店舗。たとえば通常はセットで出している寿司や刺身を、イベント当日は小分け販売するなど、店主のちょっとした工夫のもと、小さい子どもから高齢者までの幅広い世代が、気軽に市場の食を楽しめるようになっている。

紙皿食堂

開催頻度:毎月1回

参加者数:最大11名

参加費:3,500円

告知:ホームページ、SNS

メリット:一つひとつのお店を丁寧に紹介できる

地 元の知る人ぞ知る名店を3店舗巡り、1店舗につき30分で1フード1ドリンクを食べ歩く(追加注文は任意)。店

のチョイスはガイド(ボランティア店主)任せ。土曜の夜の営業が始まる前の時間(16~18時)を活用して実施されている。つまみ食いツアーと同様、参加者にとってはひとりでは入り難いお店を知る機会となり、参加店にとっては新規見込み客の開拓につながる。商店街側も参加者と参加店をつなげることで自らをアピール。三者 WIN-WIN-WINのメリットがある。

水道筋的裏ミシュラン

王子公園駅

摩耶駅

東海道線

阪急神戸線

大通り

「まち歩き」に使える

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13 12

 

商店街観光ツアーが活発な自

治体といえば神奈川県が挙げら

れる。

’14年に開始して以来、県

内各地で行われ、現在では参加

者が殺到しているほど。旗振り

役となっている公益社団法人商

連かながわに、商店街観光ツア

ーの効果と実践的なノウハウに

ついて聞いた。

地元の人たちとの対話が

商店街観光の大きな魅力

 商店街を観光資源として有効

活用できないか

そんな発想

から生み出された神奈川県内の

商店街観光ツアーは’14年のスタ

ート以降50回以上を重ね、現在

では毎回多くの参加応募が寄せ

られている。横浜や箱根といっ

た有名観光地のみならず、目立

った観光資源のない商店街ツア

ーにおいても定員を上回る人気

で抽選となり、リピーターも急

増中だ。

「行き場所の想像がつく団体旅

行に慣れた世代にとって、個店

の店主と直接話したり、ちょっ

とした街のうんちくを聞くこと

が新鮮に感じるようです」と、

魅力を高めてもらえるよ

う商店街観光ツアーを実

施していく」という発言

からだった。これを機に、

観光資源の発掘と商店街

の活性化の両立を図る目

的で「かながわ商店街観

光ツアー委員会」が発

足。’14年5月には平塚に

て第1回の商店街観光ツ

アーが催された。今でこそ「着

地型観光」が普及しているが、

当時は先行事例が少なく、旅行

事業者と連携しながら手探りで

地域の観光地と組み合わせたツ

アーを行っていた。集客数が上

がったのは県の広報紙「かなが

わ県のたより」への掲載開始から。

「参加者の年齢層を考えると活字

媒体が効果的だった」と古性さ

ツアーの魅力について、開始当

初から運営やツアーのサポート

に携わる商連かながわの古ふ

性しょう

清乃さんは話す。しかしなぜ、

神奈川県では商店街観光ツアー

がこれほど活発に行われている

のだろうか。

 そもそものきっかけは、黒岩

祐治・神奈川県知事の「多くの

商店街が、さらに個性を発揮し

ん。いざ参加するとその人情味

あふれた内容に魅了され、遠方

からの応募や、リピーターも増

えていったという。また、ツア

ー参加者がプライベートで再訪

することも多くなった。’17年1

月に行われた横浜中央市場通り

商店会でのツアーには、過去最

多の291名もの応募があった

ほど、気運は高まっている。

マニュアルを作成し

商店街の主体性を促す

 こうして築き上げたツアーの

ノウハウをどの商店街でも活用

ファンを生むツアーのつくりかたいま、商店街観光といえば神奈川!

公益社団法人 商連かながわ/神奈川県

01Case 「まち歩き」で体感。

かながわ商店街観光ツアー委員会が’17年10月に作成したマニュアル。商店街向けと旅行事業者向けがある。商連かながわHPからダウンロード可

県内各地で商店街ツアーが開催!

とにかく商店街観光ツアーが盛んな県内の商店街。ここではほんの一例を紹介する。

1七夕祭りの飾りづくり体験と平塚駅周辺の商店街を巡るツアー。平塚八幡宮の参拝や相模湾で捕れる新鮮な魚介類の昼食も。

湘南スターモール商店街(平塚市)

4箱根宮ノ下温泉街の、ガイドブックに載っていない穴場や個店を巡る。富士屋ホテルでは昼食と館内見学ツアーも。

箱根宮ノ下商店会(箱根町) 3

異国情緒溢れるどぶ板通り商店街のアメリカンバーをはしごする夜の商店街ツアー。特製の海軍カレー缶詰「ミリメシ」のプレゼントも。

どぶ板通り商店街(横須賀市) 2

パワースポットとして有名な大山阿夫利神社・能楽殿の特別見学と伊勢原駅周辺商店街の個店を巡った。

伊勢原駅前中央商店会(伊勢原市)

7近隣の観光資源でもあるJAXAの見学を行ったほか、大学生ガイドが周辺の商店街や大学施設を案内。

にこにこ星ふちのべ商店会(相模原市) 6

川崎大師の歴史を学びつつ、付近の商店会で飴切りなどを体験、江戸時代の酒合戦を模した「水鳥の祭」も見学した。

川崎大師仲見世通会(川崎市) 5

フリーマーケットでにぎわう天王町商店街を訪問。近隣の神社で行われる「保土ヶ谷こども歌舞伎」を鑑賞した。

天王町商店街(横浜市)

’18年1月時点で、かながわ商店街観光ツアー委員会が企画したツアーの数は50を超える。県内の商店街を個々にヒアリングし、それぞれの個性に合ったツアー内容を提案する。商店街の規模にもよるが、商店街がメインになる場合だけでなく、観光資源にも同等に重きを置く場合もあり、それ

がツアーにバリエーションをもたらしている。有名な観光地でなくても、街の歴史や特徴を感じさせるちょっとした周辺スポットを合わせることで、通常の観光旅行とは異なる楽しみ方を提供している。「着地型観光」のひとつの完成形が、この神奈川県の商店街ツアーと言えるだろう。

Data

期間:’14年~’18年1月回数:全53回開催商店街数:45商店街延べ参加人数:1447人 5

67

2

1

43

KANAGAWAMAP

神奈川県内の商店街に支援を行う商連かながわ。商店街ツアーの企画やサポートを始め、優れた商店街を表彰する「かながわ商店街大賞」の実施やコンサルタントの派遣など幅広い支援を行っている。

DATA

茨城県

千葉県

埼玉県

東京都

神奈川県

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15

 

’11年3月11日、東日本大震災

の大津波によって甚大な被害を

受けた、宮城県南三陸町。苦難

を乗り越え、壊滅状態だった複

数の商店街から店主たちが集い、

新しい商店街をスタートすると、

観光客が急増した。そのきっか

けのひとつが、被災した町を歩

く「復興ツアー」だ。

商店街は復興ツアーの

目玉であり終着点

「あそこにかかっている時計、

わかりますか? 2時49分。実

は、ここに津波が押し寄せた時

刻で止まっているんです」

 宮城県南三陸町の旧・戸倉中

学校、現・戸倉公民館の前で、

復興ツアーに参加した人たちは、

語り部である芳賀長恒さんの言

葉に耳を傾けていた。

 南三陸町観光協会の主催する

この復興ツアーは、震災の年の

夏にスタートし、今年で7年目。

その主な内容は、語り部がバス

に同乗したり一緒に町を歩いた

りしながら、津波による浸水エ

リアを案内し、自らの体験を語

るというもの。ツアーの最後に

立ち寄るのが、南三陸町の復興

の象徴とも言われる「南三陸さ

んさん商店街」だ。

 志津川地区に5つあった商店

街は、震災による大津波の影響

で壊滅状態に陥った。ところが

わずか1カ月半後の4月末には、

全国の商店街の支援のもと「福

興市」を開催。これを原点とし

て、翌年2月にはプレハブを利

用した仮設商店街をオープンし、

年間20万人以上が訪れるほどの

人気に。’17年3月には南三陸杉

を使った現在の本設商店街が開

業、8月末までの半年間の来場

者は約51万人にも上る。

商店街が継続しないと

町は生き残れない

 急ごしらえの仮設商店街に多

くの人が集まり、震災から7年

が経った今でもにぎわいが衰え

ないのは、一体なぜだろうか。

 理由は3つある。一つ目は、

地域や個店の結束の強さだ。地

震の直後、南三陸町の防災対策

庁舎には大勢の町職員が駆けつ

けていたが、その後の大津波に

よって多くが還らぬ人となった。

町の指揮命令系統が壊滅したた

商店街が復興のシンボルに観光協会とのタッグでツアーを推進

南三陸さんさん商店街/宮城県南三陸町できるよう、古性さんは「商店

街観光ツアー実践マニュアル」

としてまとめあげた。そこには、

「商店街関係者や店主による街ガ

イド」「試食など体験型コンテン

ツの重要性」「イベントなど特別

感の醸成」「観光地とのコラボレ

ーション」など、ツアーを成功

に導く重要な要素がわかりやす

く記されている。各商店街の事

情に添えるよう、チャート式で

企画の流れも示されており、汎

用性は極めて高い。

 また、これとは別に旅行事業

者向けのマニュアルも作成。「企

画の出しやすさや参加費の抑制、

また告知力の観点から、旅行事

業者さんとの連携は大切」と古

性さん。現在は旅行事業者の企

画に商店街散策を組み込む形式

主体的にツアーを行い、意識を

自ら変えていくことが重要。マ

ニュアルがその一助になれば」

 商店街観光ツアーは、外の人

に商店街の魅力を気付いてもら

うだけでなく、店主たちが自分

たちの街の良さを再発見すると

いう効果もある。

 マニュアル作成を経て観光ツ

アーは次のステージを見据える。

「観光資源の発掘という課題は

解決しつつあるので、次は商業

的な成功を目指して、ツアー自

体で収益を上げたり、ヒット商

品が出るという段階まで持ち込

みたい」と古性さん。旅行事業

者と連携した商店街ツアーの充

実や、外国人旅行者をターゲッ

トにしたものも検討中とのこと。

今後もさまざまな企画で商店街

の魅力を県内外に伝えていく。

01Case 「まち歩き」で体感。

まとめ。ツアーを通し地域資源を再発見参加者と地元の人の対話を重視旅行事業者との連携も一手

が広がっている。

 マニュアルには、

古性さんの〝願い〞

も込められている。

「現在の商店街観光

ツアーは、私たち商

連かながわが実質的

に運営しているケー

スが少なくない。た

だ、本当は商店街が

商連かながわの古性さんは商店街観光ツアー開始当初から参画。それぞれの商店街の個性を引き出すスペシャリストだ

‘18年1月15日、地元神社に少女たちが舞を奉納する旧正月の伝統行事「チャッキラコ」の開催に合わせ、三崎下町商店街ツアーが実施された。ツアー参加者(20名)の中には、この行事を楽しみにしているという人が多かった。その後老舗菓子店店主の話を聞きながら菓子作りを体験し、ガイドに導かれて大正~昭和初期の時代を彷彿させる看板建築の残る商店街を歩いた。終了時には「また来たい」と満足げな声があがった。

三浦商工会議所にて、「和菓子の老舗 嶋清」の6代目ご主人秋本さんが軽快なトークで和菓子作りをレクチャー

和菓子作り体験

12:50

市役所の職員、店主たちからなるボランティアガイドと商店街を散策。映画のロケ地にもなった趣ある風景を楽しんだ

商店街散策

13:50

三崎港からほど近い海南神社にて、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている三崎の伝統芸能「チャッキラコ」を鑑賞

神事鑑賞

10:20

マグロ料理の名店「庄和丸」で昼食。絶品のマグロ料理を食べながら参加者同士で楽しく交流。こうした食の楽しみも重要

名店で食事

11:40

三崎下町商店街ツアーにおじゃましました!

Start!

「まち歩き」に使える

14

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17 16

め、避難所は自治会を組織して

自主運営することになり、地元

で信頼の厚い店主たちが要職を

担った。その経験が、店主たち

に「自分たちが何とかしなけれ

ば」という思いを抱かせる結果

になった。

「ひとりでは制度の支援は受け

られないし、避難所での経験か

ら、団結することで1を10にも

20にもできることがわかった。

結束するしか生き残る術はない

と感じた人たちが、この商店街

に集まっていると思います」と

南三陸さんさん商店街会長の阿

部忠彦さんは話す。

 二つ目に、全国の商店街と連

携して復興を進めてきたこと。

震災から1カ月半、店舗も商品

もない時期にいち早く福興市を

開催できたのは、災害時に全国

の商店街で助け合う仕組みであ

る「ぼうさい朝市ネットワーク」

の支援があったためだ。加えて、

本設の商店街のあり方を模索し

て全国へと視察に出かけ、被災

経験のある商店街に助言を求め

たりと、個々の商店街とのつな

がりも強い。

 三つ目に、地元の観光協会と

密に連携し、協力し合って観光

客を呼び込んでいること。震災

直後に再開の見込みが立たなか

った協会は、まずは福興市を運

営する事務局を担った経緯があ

り、店主たちとの信頼関係は厚

い。さらに、震災前に旅行業の

登録をしていた協会は、ノウハ

ウを活かし、震災の教訓を伝え

る学びのプログラムを展開した。

その際、その終着地点を商店街

とすることで、プラスのサイク

ルを生んできたのだ。

 もともとは地元住民の買い物

の役に立ちたいと始めた福興市

対応したことも、商店街に活気

が絶えない理由のひとつだろう。

「人口減少や高齢化が著しい中

で、ただ復旧するだけでなく、

方向性を変えていかないと、と

は考えていました。商店街って、

建物でも施設でもなくて、個店

や地域住民の方と紡ぎ上げる文

化みたいなもの。状況に合わせ

て常に変化し続けないと、集客

力を維持することは難しい」

 観光客が増える一方で、地元

のことも忘れていない。毎朝、

仮設住宅から散歩がてら商店街

に訪れる人たちがいると聞き、

朝市を開催して朝食の場を提供

するなど、交流の場作りの取組

みも行っている。

 本設商店街がオープンして1

年。今後は敷地内に交流施設を

つくって全体を道の駅として登

録し、向かいには震災復興祈念

公園ができるなど、この一帯が

南三陸町のハブ的存在になる予

定だ。

「私たちの目的は商店街の持続

・継続なので、成功か否かを語

るのはまだ先の話です。しかし、

もし復興のシンボルであるこの

商店街がコケたら、町全体が終

わってしまう。何がなんでも継

続させないと」

 町を歩いて目にする震災の大

きな爪跡と、商店街で奮闘する

店主たちの姿。「町を復興した

い」という町民や店主の強い思

いこそが、訪れる人々の心を動

かす。そしてそれが、「頑張っ

てる姿をまた見に来たよ」とい

うリピーターを生んでいる。

01Case 「まち歩き」で体感。

観光協会と連携

町のガイドを育成

ありのままを伝える

東日本大震災で被災した南三陸町の商業者が集まってできた、新しい商店街。’17年3月開業の本設には、地元の新鮮な海産物を扱う飲食店や鮮魚店、土産物店、理容室など計28店舗が軒を連ねている。

DATA

や仮設商店街だった

が、周遊を意識した

平屋の店舗配置や、

ご当地グルメ丼「キ

ラキラ丼」の復活、

大型の駐車スペース

などもあって、仮設

オープン後2カ月ほ

どから観光客が急増。

それに合わせて急き

ょ来街客用のサービ

スを増やし、柔軟に

取材当日も「宮城県産黒毛和牛の無料試食会」や「鮮魚を袋に詰め放題」などの楽しい催しが開催され、行列ができていた

復興

商店街

「自分のできることをしたい」という地元ガイドたちを観光協会が取りまとめ、’11年5月末に行われた第2回の福興市で、震災を語り伝える場がスタート。’16年度は8,914人、282団体を受け入れた。「復興を売りにするのかという声もなくはなかったですが、私たちには実際に起きたことを伝える使命があるとお話しし、地域の方々にもご理解いただいてきました」と南三陸町観光協会の交流促進部門チーフ、菅原きえさん

’11年4月に始まった福興市を土台に、’12年2月に仮設、’17年3月に本設がオープンした、南三陸さんさん商店街。周遊を意識した平屋の店舗配置や、季節によって目玉食材が替わるご当地グルメ丼「キラキラ丼」、商店街の中心で人が集える屋根付きフードコート、地元の人たちによる持ち込みイベント、観光バスが複数停まれる大型駐車場などによって人気を博し、町の復興を牽引する。写真中央上は阿部会長

志津川駅

志津川魚市場

志津川湾

南三陸さんさん商店街

「まち歩き」に使える

まとめ。

Page 11: 商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市

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め、避難所は自治会を組織して

自主運営することになり、地元

で信頼の厚い店主たちが要職を

担った。その経験が、店主たち

に「自分たちが何とかしなけれ

ば」という思いを抱かせる結果

になった。

「ひとりでは制度の支援は受け

られないし、避難所での経験か

ら、団結することで1を10にも

20にもできることがわかった。

結束するしか生き残る術はない

と感じた人たちが、この商店街

に集まっていると思います」と

南三陸さんさん商店街会長の阿

部忠彦さんは話す。

 二つ目に、全国の商店街と連

携して復興を進めてきたこと。

震災から1カ月半、店舗も商品

もない時期にいち早く福興市を

開催できたのは、災害時に全国

の商店街で助け合う仕組みであ

る「ぼうさい朝市ネットワーク」

の支援があったためだ。加えて、

本設の商店街のあり方を模索し

て全国へと視察に出かけ、被災

経験のある商店街に助言を求め

たりと、個々の商店街とのつな

がりも強い。

 三つ目に、地元の観光協会と

密に連携し、協力し合って観光

客を呼び込んでいること。震災

直後に再開の見込みが立たなか

った協会は、まずは福興市を運

営する事務局を担った経緯があ

り、店主たちとの信頼関係は厚

い。さらに、震災前に旅行業の

登録をしていた協会は、ノウハ

ウを活かし、震災の教訓を伝え

る学びのプログラムを展開した。

その際、その終着地点を商店街

とすることで、プラスのサイク

ルを生んできたのだ。

 もともとは地元住民の買い物

の役に立ちたいと始めた福興市

対応したことも、商店街に活気

が絶えない理由のひとつだろう。

「人口減少や高齢化が著しい中

で、ただ復旧するだけでなく、

方向性を変えていかないと、と

は考えていました。商店街って、

建物でも施設でもなくて、個店

や地域住民の方と紡ぎ上げる文

化みたいなもの。状況に合わせ

て常に変化し続けないと、集客

力を維持することは難しい」

 観光客が増える一方で、地元

のことも忘れていない。毎朝、

仮設住宅から散歩がてら商店街

に訪れる人たちがいると聞き、

朝市を開催して朝食の場を提供

するなど、交流の場作りの取組

みも行っている。

 本設商店街がオープンして1

年。今後は敷地内に交流施設を

つくって全体を道の駅として登

録し、向かいには震災復興祈念

公園ができるなど、この一帯が

南三陸町のハブ的存在になる予

定だ。

「私たちの目的は商店街の持続

・継続なので、成功か否かを語

るのはまだ先の話です。しかし、

もし復興のシンボルであるこの

商店街がコケたら、町全体が終

わってしまう。何がなんでも継

続させないと」

 町を歩いて目にする震災の大

きな爪跡と、商店街で奮闘する

店主たちの姿。「町を復興した

い」という町民や店主の強い思

いこそが、訪れる人々の心を動

かす。そしてそれが、「頑張っ

てる姿をまた見に来たよ」とい

うリピーターを生んでいる。

01Case 「まち歩き」で体感。

観光協会と連携

町のガイドを育成

ありのままを伝える

東日本大震災で被災した南三陸町の商業者が集まってできた、新しい商店街。’17年3月開業の本設には、地元の新鮮な海産物を扱う飲食店や鮮魚店、土産物店、理容室など計28店舗が軒を連ねている。

DATA

や仮設商店街だった

が、周遊を意識した

平屋の店舗配置や、

ご当地グルメ丼「キ

ラキラ丼」の復活、

大型の駐車スペース

などもあって、仮設

オープン後2カ月ほ

どから観光客が急増。

それに合わせて急き

ょ来街客用のサービ

スを増やし、柔軟に

取材当日も「宮城県産黒毛和牛の無料試食会」や「鮮魚を袋に詰め放題」などの楽しい催しが開催され、行列ができていた

復興

商店街

「自分のできることをしたい」という地元ガイドたちを観光協会が取りまとめ、’11年5月末に行われた第2回の福興市で、震災を語り伝える場がスタート。’16年度は8,914人、282団体を受け入れた。「復興を売りにするのかという声もなくはなかったですが、私たちには実際に起きたことを伝える使命があるとお話しし、地域の方々にもご理解いただいてきました」と南三陸町観光協会の交流促進部門チーフ、菅原きえさん

’11年4月に始まった福興市を土台に、’12年2月に仮設、’17年3月に本設がオープンした、南三陸さんさん商店街。周遊を意識した平屋の店舗配置や、季節によって目玉食材が替わるご当地グルメ丼「キラキラ丼」、商店街の中心で人が集える屋根付きフードコート、地元の人たちによる持ち込みイベント、観光バスが複数停まれる大型駐車場などによって人気を博し、町の復興を牽引する。写真中央上は阿部会長

志津川駅

志津川魚市場

志津川湾

南三陸さんさん商店街

「まち歩き」に使える

まとめ。

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19 18

 

地域活性化のモデルとして名

高い児島ジーンズストリート。

地場産業と商店街の発信力をよ

り向上せしめたものは、強力な

リーダーシップと壮大なビジョ

ン、それを現実に落とし込む関

係者たちの活動だった。ストリ

ートがつくり上げられる、その

取組みの核に迫った。

やるならば日本一

世界が注目する商店街を

 瀬戸大橋の岡山側の玄関口、

倉敷市児島地域。’65年、初の国

産ジーンズはこの地で誕生した。

マルオ被服、現在のビッグジョ

ンによるものだ。もともと繊維

の街として知られていた児島は、

以来、ジーンズの一大産地とし

て名を上げていく。しかし、地

場メーカーのほとんどは、ブラ

ンドから委託されてジーンズを

つくって納める、いわゆる

OEMメーカー。それゆえ、「児

島産のジーンズを児島で買えな

い」という状況だった。この点

を、新たな観光資源として着目

したのが、児島ジーンズストリ

ート協同組合代表理事の眞鍋寿

トリートがここまで世に広まっ

た要因は、活性化にとどまらな

い動機と高い目的を備えていた

点にある。

「危機感よりも、面白いことを

したいという思い。どうせやる

なら日本一の商店街を、世界中

から注目を浴びるような商店街

を目指さないと」

 かくして、壮大な夢に向かい

げたり。メーカーに対しても出

店誘致を続けました。最初は全

部ノーでしたけど、それでも粘

り強く交渉を続けました」

 その結果、最初は後ろ向きだ

った地元商業者も協力的になり、

ようやく、一軒、二軒とジーン

ズの小売店が誕生。この姿勢の

変化には、メディア活用による

イメージ付け、という仕掛けも

男さんだ。自身、「桃太郎ジー

ンズ」などを手がける国内屈指

のジーンズメーカー・ジャパン

ブルーの代表でもある。

「もともと、日本らしいジーン

ズをつくれないかと考えていた。

児島は、生地から加工、縫製か

らプリントまで、ジーンズにま

つわることはすべてできる。だ

ったらここで最高のジャパンジ

動き出した眞鍋さん。その強い

リーダーシップのもと、’09年に

「児島ジーンズストリート構想」

を策定、’13年に協同組合を立ち

上げた。まずはストリートにジ

ーンズショップを集積すること

が喫緊の課題。そこで眞鍋さん

と文字通り汗をかいたのが、児

島商工会議所専務理事の太宰信

一さんだ。

働いていた。眞鍋さんはメディ

アにさかんに登場し、構想につ

いて発信を続けたのだ。

「ローカルテレビや地方の新聞

で、商店街活性化案を話して。

メディアが取材に来たら、どん

どん店主たちに出てもらった。

今までそんなことなかったから、

彼らもすごくやる気になってい

くんですね。全国ネットのビジ

ネス番組にも出演しました」

 眞鍋さん流の大きな仕掛けと、

太宰さん流の地道な交渉。その

両輪がリンクし「街が変わる」

1

2

34

ジーンズストリートが拓く未来

「モノ」を「コト」へ。

大きなビジョンと細やかなサポートを両輪に

02

地場産業はその街の歴史そのものであり、何よりの魅力だ。ことに、ものづくりは多くの人を惹きつけるテーマである。

だが、それを外へ伝えることは難しい。ここでは、「モノ」を消費者が楽しめる「コト」へ昇華し、

世に発信している事例を紹介しよう。

Case

児島ジーンズストリート協同組合/岡山県倉敷市

美しく並ぶ児島産ジーンズ(JAPAN BLUE JEANS店内)。繊維の街ゆえの、卓越した加工技術により、豊かな表情が生まれている

1~3)ジーンズの看板、フラッグ、そしてアイコンとなるつながれたジーンズ……街にはひと目で ジーンズの街とわかる仕掛けがたくさんある。休日には多くの観光客が県内外から訪れる。4)ス トリート最古参のダニアジャパンの店内。上質な国産ジーンズは、この場所でしか手に入らない

イベント「稲妻デニムフェス」には全国各地のデニムブランドが集結

JR児島駅より約1㎞、味野商店街を貫く約400mのストリートが児島ジーンズストリート。ジーンズ関連で約30、その他の飲食店を含めると約40店舗が並ぶ。近隣には文化財「旧野﨑家住宅」なども。

DATA

「当時は毎日、

土日も商店街に

足を運んでいま

した。そこで、

一軒一軒、構想

について説明し

て理解を呼びか

けたり、空き店

舗を貸してもら

えるよう頭を下

ーンズをつくり、

それが買える街

にしようじゃな

いか、と」

 もちろん、衰

退する地元の味

野商店街の復活、

という点はテー

マのひとつ。だ

が、ジーンズス

瀬戸内海児島駅

ジーンズストリート

瀬戸大橋線

Product

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21 20

というイメージを内外に植え付

けていったのだ。ただ、まだま

だ実際の店舗数は少なく、中身

が伴っていないという課題もあ

った。そこで、眞鍋さんや商店

街の有志、商工会議所は、地元

の不動産屋に家賃を抑えてもら

えるよう交渉し、空き店舗所有

者との家賃交渉を担当。出店希

望者と空き店舗とのマッチング

もサポートするなど、出店しや

すい環境づくりに一体となって

取り組み、店舗は年々増加した。

「今話題の児島に店を出せば売

れる」という口コミ効果も働く。

 ’14年には支援センターの「繁

盛店づくり支援事業」で個店の

魅力向上を、翌’15年には「トー

タルプラン作成支援事業」でジ

ーンズストリートのビジョンづ

くりに取り組み、ジーンズスト

リートの名に恥じぬクオリティ

を整えていった。

同志とともに街を変え

ものづくりの一大拠点へ

 ’18年2月現在、ジーンズスト

リートでは、ジーンズ関連の店

が約30を数えるまでになった。

店には風合い豊かな〝プレミア

であることが重要だから」

と眞鍋さん。個店に加え、景観

面でもブランディングが功を奏

している。商店街のストリート

をデニム色に塗装し、看板など

もジーンズをモチーフに。また、

ムジーンズ〞が並び、ジーンズ

愛好家のみならず全国のファッ

ショニスタが日々訪れる。年間

来街者は、構想前は1万人を切

っていたが、いまでは約15万人

にものぼる。

「どんな店でもいいわけじゃな

い。児島、岡山への想いを持ち、

メイド・イン・ジャパンである

ことがルール。小売店が並ぶだ

けなら都心でいい。ここでは、

ものづくりの街のジーンズの店

ジーンズが描かれたJR児島駅

の階段や、デニムをあしらった

ジーンズタクシーなど、民間企

業の幅広い協力も、街のイメー

ジを変えた。さらに、「稲妻デ

ニムフェス」など、デニム・ジ

ーンズにまつわるイベントも多

数開催し、商店街の魅力創出と

発信に余念がない。これらは、

各所に眞鍋さんの信念に共感す

る〝同志〞がいたからこそ、成

し遂げられた。

 こうした右肩上がりの状況は、

既存の商店街店主たちにもポジ

ティブな影響を与えた。他業種

でもデニムにちなんだ商品開発

がなされ、店主たちは訪れる観

光客を案内したり、街の歴史を

伝えたり、良きガイド役として

一役買っている。また、新規出

店者の意欲も非常に高い。

「同じ業種が集積しているため、

切磋琢磨してサービスや品質の

向上につながっている。また、

まちづくりに対しても、そもそ

もここで出店したい、と思って

来た人たちだから、とても積極

的でアイデアも多い。彼らはセ

ンスも良いから、街に来る人も

どんどんオシャレになって、カ

ップルや女性も増えてきた」

 こうした取組みが評価さ

れ、’17年には経済産業省の「は

ばたく商店街30選」に選ばれた。

一定の到達点を迎えたかに見え

るジーンズストリートだが、眞

鍋さんは先を見据えている。

「街に人が来るようになったの

で、次は滞留できるカフェや飲

食店を呼びたい。また、海をは

じめ自然資源も多いので、回遊

性も高められる。そして、海外

から観光客だけでなく、起業家

を集められれば、いずれ世界の

ものづくりの一大拠点になる」

 繊維の街ならではの、ものづ

くり環境。さらに、商店街なら

ではの、共助の力。先述したよ

うに、商工会議所や地域の人々

も多方面にわたってサポートし

てくれる。これらを融合すれば、

世界規模の創業の街実現も夢で

はない。そのために、眞鍋さん

はジーンズストリートを特区に

しようとすでに動き出している。

まだまだ、「面白いこと」は続

きそうだ。

その行動力と人望でジーンズストリート構想を推進してきた眞鍋さん。「そろそろ若手に任せたい」と笑うが、まちづくりにエネルギッシュに動き続けている

02Case 「モノ」を「コト」へ。

まとめ。「モノの発信」に使える

地場産業を前面に!

メディアも積極活用

同業種で切磋琢磨

こんなものまでジーンズになりました!商店街で売られる商品や駅、タクシーまで、デニムやジーンズをモチーフにしたものがたくさん。地域一帯となってジーンズストリートに参画していることがわかる。

ジーンズストリートを支える関係者の声

この取組みに多大な貢献をしている。具体的には出店希望者に対するマッチングやフォローだ。タクシー会社や飲食店を営む池本さん(児島味野商店街連盟会長)は希望者の窓口を担い、空き店舗の家主との交渉にも赴く。衣料のリフォーム店を営んでいる高祖さんは、商店街の「おかみさん会」の一員として、新規出店者の生活の不安を解消する、良い意味での「世話焼き係」。また、老舗のジーンズショップ・ダニアジャパンの兼光さんは、眞鍋さんと並ぶ重鎮として同業者からも信頼を集めている。こうした地元の店主の温かな

児 島ジーンズストリートを語る上では、児島商工会議所児 島ジーンズストリートで店

を構える店主たちもまた、の存在は外せない。味野商店街とジーンズストリート、あるいは行政との間をつなぐ役割を担っており、なかでも太宰さんは、文中に記したように眞鍋さんと二人三脚で奔走、その創立に大きく貢献した。「当時は繊維産業も衰退してきており、瀬戸大橋開通からの観光客も減っていた。ジーンズストリートに賭けました」。ひたすらに商店街やメーカーに想いを伝え、その一方で補助金の活用にも力を注ぎ、現在の基礎を築いたのだ。「味野商店街の全盛期は、それはもう盛況でした。いま、ジーンズストリートによって活気が戻っている

サポートこそが、地区外出身者も安心して商いをできる理由だ。もちろん、ジーンズストリートについては、全員が好意的。「ストリートができて、街ににぎわいが生まれ、他業種にも良い効果が出てきたので、店主たちもやる気になっています」(高祖さん)。 ただ、課題もある。「やはり外から来た人と我々地元の人間の間には意識のズレもある。今後はどうこの地域に巻き込んでいくかがポイント」(池本さん)。「まだまだ人は少ない。平日にどう人を呼ぶか考えていかねば」(兼光さん)。 ジーンズストリートに対して主体的にかかわっていく姿勢を、若い世代にも伝えていく考えだ。

のが率直に嬉しいです」と、この街をずっと見守ってきたからこその喜びを話してくれた。 そんな太宰さんからバトンを受け継いだ末佐さんも、日々事業者や商店街に的確なフォローアップを行っている。また、増大する観光客を受け、商店街内にジーンズデザインの公衆トイレを新設する予定だという。「児島は古事記にも登場するほど古い歴史を有し、食に自然にとさまざまな魅力を持っています。また、帆布など、他の繊維産業も強い。ジーンズストリートをさらに成長させながら、そんな観光資源とリンクさせ、周遊環境を整えていきたい」と街の将来像を語る。

column和菓子をデニム包装動くジーンズに乗って

デニム色のアイスも

駅の階段にジーンズ

児島商工会議所太宰信一さん末佐俊治さん

左から

左から

ジーンズストリート池本純夫さん高祖朱美さん兼光治さん

証言:1証言:2 児島商工会議所のキーパーソンジーンズストリートの店主たち

Page 14: 商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市

23 22

 

全国的なカバン産地にもかか

わらず、観光資源にできない。

そんな課題を抱えた宵田商店街

は、商店街ならではの信頼と発

想を武器に、「カバンを買える

街」という付加価値を身に付け

ていった。地域資源はいかにし

て観光資源へと変わるのか。そ

こには地道な取組みがあった。

職人たちの想いをのせ

カバンでまちづくり

 カバンストリートという看板

を目印に、約200mの道々に

はカバンに関連する店が軒を連

ねている。公道にはカバンをあ

しらった郵便ポストやベンチが、

歩く人々の目を楽しませてくれ

る。豊岡市宵田商店街、通称「カ

バンストリート」の日常風景だ。

その他の業種の店でさえ、カバ

ンに関連するモノやデザインを

施しており、豪勢な仕掛けこそ

ないが、街には温かみがあふれ

ている。それは、これが商店街

の人々が手づくりで生み出した

光景だからかもしれない。

「家業のクリーニング店を継ぐ

ため、外で修業をして35歳で戻

イターの店舗も。来街者も着実

に増えていった。’14年には豊岡

カバンの魅力発信を担うランド

マーク的な総合施設「トヨオカ

カバンアルチザンアベニュー」

きた。マルシェは現在、延

べ60回以上を重ねている。

 こうした地道な取組みが

花開き、いまではカバン関

連店舗は13を数えるほどに

なり、なかには世界的なデ

ザイン賞を受賞するクリエ

んだ関係性があるからこそ、店

主のみなさんは協力してくれま

した。また、我々は商店街とい

う、カバン業界とは異なる組織。

業界の理解と協力を得るために、

『カバンの街にしたい!』とい

う強い想いを伝えました。結果、

卸組合や工業組合はじめ各種団

体も快く協力してくれました」

 ’11年からはそれまで定期的に

行っていた種々のイベントを集

約した「カバストマルシェ」を

開催し、地産の農水産物や民芸

品の販売と合わせてカバン職人

によるワークショップや出店を

実現。「イベントは街に〝動い

ている感〞をもたらす」と衣川

さん。マルシェで手応えを感じ

た職人が、カバンストリートで

本格的に出店したケースもあっ

た。PRは、地元の新聞にマメ

に取材してもらうなど、極力費

用がかからないかたちで行って

 ただ、多くの商店街がそうで

あるように、志はあれど活性化

にかける予算がなかった。だが、

ここからの創意工夫が、カバン

ストリートの真骨頂だった。

固い信頼で協力を得て

自由な発想で発信力向上

 まず、伝説的な職人と言われ

る植村美千男さんに呼びか

け、’04年に「植村美千男のかば

ん工房」がオープン。これを嚆

矢として、地道に新規店舗の出

店誘致を続ける。その一方で、

カバン以外の商店主に協力して

もらい、店のコーナーで豊岡の

カバンや関連商品を販売した。

これらの商品は、卸の組合から

提供してもらったものだ。こう

した〝協力〞について

「やっぱり、信頼感が大事です

よね。毎日顔を合わせて挨拶す

るような、長い時間をかけて育

ってきたら、シャッター街にな

っていて。危機感を持った人た

ちの間で、この街をどうすべき

か、さかんに議論されていまし

た」

 宵田商店街振興組合理事長の

カバンストリート内の「Alter Ego(オルターエゴ)」の店内に並ぶ、美しきカバンの数々。ストリートでは逸品にさまざまな場所で出会える。ただ、こうした光景が見られるようになったのは、ここ10年来のこと

カバンストリートの看板から広がる宵田商店街は適度なコンパクトさ

手づくりで生んだカバンストリート職人の卓越した技×商店街の自由な発想

カバンストリート(宵田商店街振興組合)/兵庫県豊岡市

02Case 「モノ」を「コト」へ。

豊岡駅

戸牧川

カバンストリート 宵田商店街

もともと商人の街として栄えた宵田。昭和20年代までは大変なにぎわいを見せていた。カバンストリートは南北に直線200m。観光地である城崎温泉が近隣にあり、その観光客が主たるターゲットだ。

DATA

衣きぬ

川がわ

克典さんは、15年

前をこう述懐する。議

論から生まれたのが、

世界でも有数の豊岡の

カバン産業を生かした

「カバンストリート事

業」構想だ。

「カバンの関係企業の

ほとんどはOEMメー

カーや卸業者など。消

費者とは直接的な関係

を持たない産業だった。

だから、我々の商店街

で、我々のカバンを売

っていこう、と」

街にはカバンにちなんだ仕掛けがたくさん!市の補助金を活用しハード面でも「カバンストリート」らしい景観を実現。特にトートバッグが買える「カバンの自販機」はメディアからも注目され話題を集めた。さらに、ベンチやポストなども個性的。

column

ポストもカバン型カバンに座れる!

人気の自販機! check!

宵田商店街振興組合理事長衣川克典さん

山陰本線

豊岡市立豊岡小

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25 24

顔型ポーチはワークショップで制作可能

02Case 「モノ」を「コト」へ。

が商店街にオープン。併設の専

門校「アルチザンスクール」で

は次世代のカバン職人たちが育

ちはじめている。

「私たちはまちづくりについて

素人です。だから、あまりルー

ルは設けずに、面白いアイデア

があればまずやってみる。その

積み重ねです。ただひとつの願

いは、カバンの街として多くの

人に満足してもらうこと」

 本物のプロの技に付加価値を

与え、実際に出会える場所をつ

くり、着実に発信していくこと

で、想像以上の効果を生み出し

ているカバンストリート。この

取組みは、生活者や観光客と

日々接し、最もニーズを把握し

ている商店街の人々だからこそ

なしえたことかもしれない。

まとめ。

商店街ならではの自由な発想を

「モノ」関連の仕掛けづくり

次代の担い手も育成

~多士済々のカバン職人が活躍~カバンストリートがカタチをなしていくにつれて

地域の内外から多くの職人たちがこの街に集まってきた。

Toyooka Craftsman’s File

’64 年の東京五輪で聖火トーチ用のカバンを手がけるなど、業界では伝説的な職人として知られる植村さん。あらゆるカバンを知り尽くしたその手腕を頼りに、店には全国から修理依頼が届く。「この店がカバンストリートのはじまり」(衣川さん)と、地域からの信頼は極めて厚く、技も惜しみなく伝える。

植村美千男のかばん工房

植村美千男さん

カバンツクリエーション

中野ヨシタカさん

オルターエゴ

土生田(はぶた)直樹さん

Toyooka KABANArtisan School

カバンの神様

田 舎暮らしがしたくて豊岡にやって来たという中野さん。こちらに来てからカバン

づくりを始め’16年3月に店をオープン。カジュアルな商品群が人気を集めている。「もっとカバンの店が増えて街が盛り上がってほしい」

Iターン

革 カバン有名店で修業後、「カバストマルシェ」への出店をきっかけに開業。手がけるカバンはどれも一点もののオーダ

ー品で、革の美しさが引き立つ。熱意ある人柄でカバンストリートの次のリーダー候補だ。「自分の店にお客さんの好みの品がなければ他店も紹介できるのがカバンストリートの良さ」

若手

本 文中でも触れた「トヨオカカバンアルチザンアベニュー」は1Fがショップ。その3Fでは、日夜職人を目指す若者た

ちが厳しいカリキュラムをこなして腕を磨いている。「ここから巣立った人たちが、将来は豊岡で店を開いてくれたら」(衣川さん)と、人材育成の面でも期待は大きい。

職人の卵

「モノの発信」に使える

商店街・地域が一丸に

絶品はちみつを開発

地域資源がなければつくっちゃおう!

豊洲商友会/東京都江東区

はちみつから広がる

新名物と街の価値

 これまで紹介してきたような、

発信しうる地場産業や地域資源

がないという商店街も多いだろ

う。その場合は「新たに名産品

を開発する」という選択肢がある。

 豊洲商友会は、豊洲市場開場

と東京五輪開催を来街者増のチ

ャンスと見込んで豊洲ブランド

として展開できるような新名物

の開発を決意。「銀座ミツバチプ

ロジェクト」からヒントを得て、

「豊洲みつばちプロジェクト」を

立ち上げ、養蜂に取り組んだ。

 まず’12年に、商店街の花壇に

色とりどりの花々を植え、蜜の

環境を整えたところで、’14年春

から商店街内にあるビル屋上で

養蜂をスタートした。専門家の

助言を受け、商店街のメンバー

は仕事の合間に養蜂を続け、同

年中に「豊洲はちみつ」が誕生。

上品な甘さが好評を得て商品化

を果たし、メディアにもたびた

び取り上げられた。

 その後は「豊洲はちみつ」を

使ったビールやケーキなどさら

なる商品展開を進め、「第13回東

京商店街グランプリ」では本プ

ロジェクトが優秀賞を受賞。

 今後は〝はちみつの街〞とし

て打ち出し、各店舗でも新たな

応用商品を考案していくとのこ

と。無から有を生み出した取組

みは、商店街自体の価値も高め

ているようだ。

1

プロジェクトのはじまりは、「花いっぱい運動」。ミツバチのためのはちみつを用意するため、地域の小学生たちと一緒に色とりどりの花を植えた。

まず花植えをして……

2

「花いっぱい運動」により道路沿いのフラワーポットに花々を美しく咲かせ、清掃活動も。はちみつだけでなく、街の景観美化にも寄与した。

美観を整えました。

3

蜂に刺されながらも、メンバーたちは春から秋まで養蜂に取り組んだ。’17 年には約100㎏の収穫があり、年々質 量ともに向上している。

花を生かして養蜂へ

45

商店街内の各店舗で購入可能。今では売り切れることも多い定番品に。風味が季節の花々によって微妙に異なるのも人気の理由。

豊洲はちみつができあがり

そして人気商品誕生!

「豊洲ハチミツレモンケーキ」は、人気スイーツ店が開発。豊洲土産にもおすすめの一品に。今後もスイーツの新製品開発が企図されている

「豊洲はちみつ」を使用し、’16年に誕生した「豊洲蜂蜜エール」。 ライトな味わいが売りのご当地ビールは商店街内の各飲食店で楽しめる

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27 26

 

年間累積降雪量が10mを超え

る西和賀町。その「雪」を生か

したプロジェクトが、今注目を

集めている。地元食材でつくっ

た商品を「雪」の物語として

PRする手法で、商品と町の知

名度は一気に上がる。そんなな

か、商店街も豊かな地域資源を

背景に活動を本格始動させた。

厄介者を味方に変えた

町のプロジェクト

 秋田県との県境に位置する岩

手県随一の豪雪地帯の西和賀町

は、四方を山に囲まれた自然豊

かな土地だ。泉質多彩な温泉郷

でもあり、町の玄関口JR北上

線の「ほっとゆだ」駅は、日本

ユキノチカラを

個店のチカラへ

 ’17年度、プロジェクトには町

内の12の事業者が参加。町の商

店街、湯本商店会に店を構える

「お菓子処たかはし」は、すで

に定評のあったフィナンシェに

地元で採れるそば粉と蜂蜜を加

えて商品名とパッケージをリニ

ューアル。パッケージは、雪の

結晶がモチーフの洒落たデザイ

ンとした。「今までのパッケー

ジ制作は、すべて包材店に印刷

代込みで、無料同然で丸投げし

ていました。デザインに手をか

けるという意識がまったくなか

ったんです。でもこのプロジェ

クトに参加して、デザイナーと

話を詰めながらパッケージデザ

インを決めたところ、売上が劇

的に伸びました。既存の商品を

リニューアルしただけで、新商

品を開発したわけでもないのに

こんなに売れるようになるとは

驚きです。コンセプトをきちん

と決めて、それに合わせてデザ

インすることの大切さを学びま

した」と店主の高橋忍さん。

 同商店街からプロジェクトに

参加しているもうひとつの店

「工藤菓子店」も、雪玉を彷彿

させる菓子で、飛躍的に売上を

伸ばしている。

「プロジェクトが知られるよう

になって全国の百貨店などの物

産展に出展する機会も増え、販

路がぐんと拡大しました。プロ

ジェクトが将来終了しても、こ

の販路は自分たちの財産として

残ります」(工藤美代子さん)

 ’18年度も12事業者は継続して

参加し、商品のラインナップな

どより充実させる予定。プロジ

ェクトは益々注目を浴びること

だろう。

豊かな地域資源は

商店街活性化策にも

「ユキノチカラプロジェクト」

に並行して、西和賀町にはもう

ひとつ大きな可能性を秘めた動

きがある。商店街活性化の動き

だ。

 正岡子規が句作にも訪れた開

湯400年の温泉地にある湯本

商店会は、前述の菓子店2店舗

の他、時計・めがね店、電器店、

理髪店など計14の店舗を有する

商店街。もともと商圏人口が少

コンセプトをつくる。03

「コンセプト」とは、すなわち物語だ。風土や歴史を背負い、物語が紡がれる。

私たちが身の周りの価値に気付けば、それは形になる。そして、それは深く、人々の心に刻まれていく。

コンセプトをつくり伝えることで、活性化を促す。そのリアルとは。

Case

西和賀町が主導する「ユキノチカラプロジェクト」から生まれた商品の一部。すべて雪の恩恵を受けた素材を使用。 地元の事業者が、得意分野の商品を展開する

を初めて聞いた時は、目からう

ろこの心境でした」と、西和賀

町ふるさと振興課の畠山幸雄さ

んは語る。

 たとえば特産の西わらびは、

1)協同組合湯本商店会の理事長を務める栁沢安雄さん(左)と、岩手県中小企業団体中央会の菅原宏太郎さん。2)「ユキノチカラプロジェクト」を推進する、西和賀町ふるさと振興課長の畠山幸雄さん

柔軟な発想で魅力を再発見!厳しい自然も最大の武器に

西和賀町+協同組合湯本商店会/岩手県和賀郡

12

で初めて温泉施設を併設した駅

としても知られている。しかし、

さまざまな地域資源をもつこの

町の人口は減少の一途をたどり、

現在は5800人ほど。商店街

もひとつしかない。

 そんな小さな町の創生事業が

最近注目を集めている。「ユキ

ノチカラプロジェクト」(西和

賀デザインプロジェクト)は、

地元の事業者、デザイナー、信

用金庫と町が協働して’15年から

進めているプロジェクトだ。西

和賀に降る「雪」をイメージし

たパッケージ展開で地元商品の

注目度を上げ、町の認知向上へ

とつなげている。この試みで最

も目を引く点は、発想の転換だ。

今まで町の経済活動にとって厄

介なものとみなされていた「雪」

を自らのブランドとして磨き上

げ、プラスの存在へと昇華させ

た。

「降雪量の多い地域に住む私た

ちにとって雪はあたりまえのも

の、しかもどちらかというと、

冬の生活を脅かす迷惑なもので

す。しかしこのプロジェクトで

は、雪を自分たちの大きな財産

として捉えます。そのアイデア

冬の間雪の重みに耐

え抜くことで、春に

たくましく芽吹くが、

その時のエネルギー

が、粘り気の強いと

ろりとした独特の風

味になると言われて

いる。また、豊富な

雪どけ水によって野

に草が茂り、それを

食べる牛から良質の

ミルクが採れること

で、美味しい乳製品

ができ上がるのだ。

こうした地元の食材

からつくったオリジ

ナル商品。その一つ

ひとつに雪のイメー

ジをのせ、商品の魅

力、ひいては地域そ

のものの魅力として発信するこ

のプロジェクトは、西和賀の豊

かな恵みが実はこの地に降り注

ぐ雪のおかげだったのだ、と町

民が気付く機会にもなった。

Concept

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29 28

ないうえに地域は高齢化・過疎

化が急速に進行、温泉旅館の廃

業も著しく、地元客、観光客が

ともに激減しているという厳し

い商環境下に置かれている。そ

の商店街が、起死回生の手立て

として、地域のもつ豊かな資源

に目を向けた。

「店にいてものを売るだけでは、

私たちは生き残れません。周り

の人たちがこの場所に来てくれ

るような仕掛けをつくり、それ

を商売につなげていかなければ。

そこで改めて私たちの周りを見

てみると、そこには温泉があり、

きれいな山と川がある。そんな

魅力溢れる地域資源を使い、商

店街として何かできないかと考

えたんです」(湯本商店会理事

長・栁沢安雄さん)

商店会の通り。「ユキノチカラプロジェクト」とのリンクの仕方も今後のカギだ

03Case コンセプトをつくる。

ユキノチカラプロジェクト

1)西和賀町ふるさと振興課では、若い女性メンバーも活躍。2)建設中の交流施設で、プロジェクトの新しい展開の可能性も。3)「ユキノチカラ」はPR紙の製作にも力を注ぐ123

まとめ。「コンセプトづくり」に使える

しっかりとした物語をつくる発想の転換で印象を残す仲間を増やして展開する

湯本商店会

奥羽山脈の山岳地帯に広がる西和賀町に唯一残る商店街。最寄駅のJRほっとゆだ駅から約5kmの場所にあり、湯本温泉は観光スポット。500mほどの商店街に14店舗が並ぶ。どれも数世代続く老舗ばかり。

DATA

和賀川

湯本温泉

地りを行うため、信用金庫と西和

賀町の声がけで

’15年よりスター

トした「ユキノチカラプロジェ

クト」。酒や米、蕎麦や菓子など、

西和賀の自然が生み出す〝美味し

い食〞を商品化。斬新なコンセプ

トが注目を浴び、販路の拡大を中

心に成果を上げている。

’17年は同

町の冬の最大イベント「雪あか

り」に連動したモニターツアーを

開催。

’18年は雪の下で納豆を発酵

させる独自文化「雪納豆」の体験

ツアーも行う。

域資源を活用した魅力ある

まちづくり、ブランドづく

プロジェクトの商品はほっとゆだ駅前にある「湯夢プラザ」、道の駅錦秋湖のほか他県の百貨店でも販売されている

湯本商店会

商く老舗の「お菓子処たかはし」は、

湯本温泉が一大観光地だった頃

から、旅館のお茶うけ菓子や土産

物を製造。「ユキノチカラプロジェ

クト」が始まる前から、西和賀の

魅力を発信すべく地元菓子店(3

店街で60年以上菓子店を営

む「工藤菓子店」と、同じ

店)が合同で行っていた「西わら

び餅」の製造・販売に参加してい

た経緯もあり、プロジェクト開始

直後から参加事業者として抜擢

された。地元食材の魅力を知り尽

くした彼らの情熱、長年培ってき

た菓子づくりのノウハウがプロ

ジェクトに集約される。

個店のチカラ

西和賀の寒暖差ある気候で育った蕎麦は香りが高く、風味も豊か。その蕎麦粉に胡桃や和三盆が加わったお菓子は、まるで雪玉のようなかわいさ

湯本商店会で菓子店を開いて55年。30年前から店の定番だったフィナンシェを、地元産の蜂蜜とそば粉を加えてリニューアルした

「お菓子処たかはし」高橋忍さん金と銀のフィナンシェ

「工藤菓子店」工藤美代子さんほろりん

湯決まっている。

’17年の6月から12

月にかけての7日は、商店街のビ

ジョンづくりの日となった。支援

センターの「トータルプラン作成

支援事業」を活用した話し合いで

は、地域の強みと弱みの発見から

始まり、ホームページの立ち上げ、

本商店会では毎月7日は、

組合メンバーの会合の日と

植栽の取組み、キャンプ用品の貸

し出し、移動販売の実施等のアイ

デアの抽出へと進んでいった。中

小企業団体中央会、商工会からの

客観的なアドバイスも加わり、ビ

ジョンはより現実味を帯びてい

く。

’18年は、これらのアイデアを

実行に移すための重要な一年に

なるだろう。

商店街のチカラ

1)多くの地元住民が利用する「湯本温泉 丑の湯」。2階の共有スペースは商店会の会議所としても活用。2)「焼地台公園」のキャンプ場で交流人口増加を狙う。植栽活動や移動販売など取組みの幅が広がる

 商店街は’09年から町営

の共同浴場「丑う

の湯」の

指定管理者を務めてきた

が、’15年に「焼地台公園

キャンプ場」の管理運営

も開始。それらの施設を

軸にした交流人口の増加

と、それに伴う商店街の取扱品

の販路拡大について戦略を練っ

てきた。

 町のプロジェクトと急成長す

る個店。その個店をもつ商店街

の挑戦は、すべて西和賀の豊か

な自然を背景とするものだ。そ

れらすべてが共鳴し合う時、こ

の地域は一体どんな魅力を発す

るのだろうか。

12

Page 18: 商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市

31 30

ち始め、はてはシャッター通り

と化してしまう。

 同地で50年以上続く料亭に生

まれ育った田村寛さんは、故郷

の盛衰を見てきたひとり。大学

進学を機に上京、’93年に帰郷し

て家業を継いだ際に、あらため

て沼垂の不況に直面したという。

「かつての活気は見る影もなく、

人の流れは完全に途絶えていま

した。危機感を覚えて再建を模

索するうち、『街自体に活気が

なければ、個人商店は成り立た

ない』と痛感したんです」

 一念発起した田村さんは’10年

6月、市場協同組合のもつ長屋

の一画を借り、総菜店「ルルッ

クキッチン」をオープン。実際

に出店し、場のもつ魅力を再確

認したことから、賛同者を求め

て動き出した。

 ところが3店舗目まで新規開

業が続いたところで大きな壁が

立ちふさがる。協同組合の規約

で、それ以上の出店にストップ

がかかってしまったのだ。ここ

で田村さんは、思いもよらぬア

クションをとる。その長屋の土

地建物の一括買い上げだ。

「3店舗できた段階で、出店の

問い合わせがぐっと増えていま

した。なので、いま潮目を変え

てはいけないと。組合からの申

し出もあったので、覚悟を決め

て、丸ごと買い上げることにし

たんです」

 大ばくちに打って出た田村さ

んに心強い協力者が現われる。

実姉の高岡はつえさんだ。高岡

さんは当時勤めていた会社を辞

め、その職能を活かし実務面で

弟のサポートに回ることに。田

村さんの老舗割烹2代目として

03Case コンセプトをつくる。

かっこよく、新しく。レトロな長屋を

沼ぬったり

垂テラス商店街/新潟県新潟市

 

新潟市中央区の沼垂は近年、

感度の高い老若男女が集うスポ

ットとしてにわかに注目を集め

ている。その拠点となっている

のが、かつて市場として使用さ

れていた長屋通りを改築した

「沼垂テラス商店街」だ。プロ

ジェクトの仕掛け人である田村

さん、高岡さんに話を伺った。

街自体に活気がなければ

個人商店は成り立たない

 昭和レトロ感を生かして改築

された店が軒を連ね、カップル

や家族連れがにぎやかに行き交

う沼垂テラス商店街。’15年春に

オープンした新生商店街はいま、

新潟の顔となりつつある。この

光景を生んだのは、ある姉弟の

独創的なまちづくりの手法だ。

 同商店街の前身、旧沼垂市場

通りは’10年の時点で、わずか6

店舗が残るのみとなっていた。

高度経済成長期には大工場が集

い、そこで働く人々で活況を呈

したものの、やがて工場は次々

と撤退。’80年代以降は高齢化と

郊外化が進み、それに伴って市

場通りは衰退。空き店舗が目立

株式会社テラスオフィス代表田村寛さん

長屋通りの料亭老舗「大佐渡たむら」2代目にして、沼垂テラスの発起人

株式会社テラスオフィス専務取締役高岡はつえさん

専務取締役兼、店舗統括マネージャーとして辣腕をふるう。田村さんとは実の姉弟

魅力溢れる

店主ばかり!

ここにしかない

空間です

‘10年6月~ ルルックキッチン オープン。以降、2店舗が出店

‘14年3月 長屋を一括買い上げ

‘14年4月 「沼垂市場通り」ACTIVE再生プロジェクト始動

‘15年4月 「沼垂テラス商店街」誕生

‘15年12月~ サテライトに出店始まる

‘17年10月 グッドデザイン賞2017受賞

沼垂テラス商店街の軌跡

Page 19: 商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市

33 32

の信頼も地元銀行からの融資を

スムーズにし、’14年3月に長屋

をすべて買い上げた。

 そしてふたりは、商店街の管

理と運営を担う「株式会社テラ

スオフィス」を立ち上げ、「こ

こでしか出会えない人・モノ・

空間」をコンセプトに、自らが

所有する物件に新規の店子をど

んどん呼び込むスタイルで、商

店街再生を推し進めていく。

感性が共鳴し

コンセプトが現実に

 晴れて’15年4月に沼垂テラス

商店街がオープン。その時点で、

店舗数は24と急成長を遂げてい

た。とはいえ、拡大を急ぐあま

り誰彼かまわず出店希望者を受

け入れたわけではない。

「出店希望者には事業計画書を

提出してもらい、採算性などを

見させていただきました。夢は

あるが計画性がないという方に

は、商工会議所や県の創業支援

窓口を紹介し、厳しい指導を受

けていただきました。そこでへ

こたれなかった方が、出店され

ているんです」(田村さん)

 こうしたプロセスを踏んでい

の実績が評価され、賃貸市場に

出ていない味のある物件と借り

手とのマッチングが進んでいる。

 サテライトは、’18年2月時点

で3店舗。長屋に店は構えてな

くとも、商店街のコンセプトを

共有し、長屋の店主たちと協力

して顧客を紹介し合ったり、商

店街のイベントに積極的に参加

したりしている。新規出店につ

いての問い合わせが引きも切ら

ない現状から、サテライトは今

後拡張していくことだろう。

 その景観やコンセプトが評価

され、沼垂テラス商店街は’17年、

グッドデザイン賞を受賞した。

しかし、課題もある。現時点では、

集客は休日に集中し、平日は人

通りがまばらなことも。

「商店街の本質は普段づかい。

近隣住民がもっと気軽に使って

くれる商店街を目指したい」と

語る高岡さん。

 一方、田村さんは、さらなる

事業拡大に向けて動き続ける。

「Uターン組や移住者から沼垂

に『住みたい』との要望がある

ので、地元の大学とタッグを組

んで空き家調査を行うプロジェ

クトを立ち上げる予定です。こ

れを取っ掛かりに、街にさらな

る活気を取り戻したいですね」

 大きなビジョンを描く弟と、

実務家の姉。そんな名コンビが

手がけるまちづくりは、どんな

進化を続けるのだろうか||。

るため、出店してから3年以内

に廃業、というケースはここで

は皆無だ。

 沼垂テラスでは、店舗の改修

についての明確なルールが定め

られていない。したがって、店

舗の外装内装には各店主の個性

が存分に発揮される。しかしそ

れにもかかわらず、商店街全体

の統一感はレトロモダンで完璧

に保たれている。

「形式的には設計図面を提出し

てもらいますけど、『あるものを

上手く活かしてほしい』とだけ

伝えてあとは口を出していませ

ん。『この人はセンスがいいな、

何か面白いことをやってくれそ

う』と感じた人に出店してもら

っていたら、結果として統一感

が生まれました」(高岡さん)

 出店希望者と丁寧に向き合っ

た結果、コンセプトに沿った商

店街の運営が可能になり、唯一

無二の商店街が誕生したのだ。

 長屋の空き店舗がほぼ埋まっ

た’15年末には、沼垂テラスから

ほど近くにサテライト1号店が

オープンした。サテライトの誘

致では田村さん・高岡さんは大

家との交渉を担当。沼垂テラス

まとめ。

出店者の人となりを重視

感性を信じる

時には大胆な決断も

03Case コンセプトをつくる。

JR新潟駅から徒歩で約20分。バスやレンタサイクルも利用可能。カフェやレストラン、古道具や古本、手づくり雑貨などを扱う約30の商店が軒を連ねる。オーナーがこだわり抜いた商品が目白押しだ。

DATA

若き店主たちのチャレンジ、広がってます。

穏やかな相貌に熱いパッションを秘め、ここ沼垂で理想の店舗づくりに日々格闘する若き店主たち。その人となりをご紹介。

KADO shoe repair & beer stop

小島俊輔さん

取材時は新規出店に向け自ら店舗をリノベ中だった小島さんは、靴修理とクラフトビールを融合させた個性的なお店で勝負。「気軽に立ち寄れるスペースにしたい」

写真集を中心に小倉さんがセレクトした新刊・古書を扱う。定期的に個展を開催し、時に写真家を招くことも。「東京に行かずとも、アートにじかに触れられる場所にしたい」

BOOKS f3

小倉快子さん

築90年の町屋を自ら改築し、商店街待望の滞在拠点・ゲストハウスをオープンした大桃さんは、新潟市出身のUターン組。「新潟の魅力を海外に発信していきたい」

ゲストハウス「なり」

大桃理絵さん

無垢の床材を扱うショールーム。遠藤さんは海外で木材を調達・加工、日本に輸入する。「妻の子育て負担を軽減すべく、東京から移住しました。新潟は暮らしやすいですよ」

and wood

遠藤大樹さん

市場通りだった名残りで現在も多くの猫が暮らす沼垂。それにちなんだ新名物「沼ネコ焼」が現在、人気急上昇中。

沼垂テラス新定番!

新潟駅上越新

幹線信越本

越後線

沼垂テラス商店街

「コンセプトづくり」に使える

Page 20: 商店街の つたえかた。 - 全国商店街支援センター...30 沼垂テラス商店街/新潟県新潟市 Case 04 集客拠点から回遊へ。34 フラノマルシェ/北海道富良野市

35 34

集客拠点から回遊へ。04

民間主導でつくられた街のプラットホーム。街の内外から人を呼び込み、街の資源を発信する。

その「拠点」から、人 を々街へと向かわせるには――。新しい循環が、いま、生まれようとしている。

フラノマルシェには富良野で採れる新鮮な農産物、さらにワインが並ぶ。こうした富良野の特産品はなんと2,000を数え、ここでしか買えないものも。コミュニティの概念をより具現化したフラノマルシェ2では、子どもがのびのびと遊ぶ(写真左)

街を元気にする進化型集客拠点集客拠点と商店街のシアワセな関係

フラノマルシェ/北海道富良野市

 

富良野市の複合商業施設「フ

ラノマルシェ」。地産の食の物

販やお土産品が並び、子どもの

遊び場などもあるこの施設は、

街の行く末に危機を覚えた地元

の人々が思いをひとつにして誕

生させた。地元ならではの視点

で、街全体への波及効果は極め

て高い。その取組みを取材した。

民間主導で行う

持続可能なまちづくり

 国民的ドラマ「北の国から」

の舞台として知られる北海道富

良野市。ロケ地だけでなく、ラ

ベンダー畑に代表される豊かな

自然やスキー場といった多くの

観光資源を有しており、ピーク

からは減っているものの、いま

でも約180万人もの観光客を

集めている。だが、実はここに

大きな問題がある。前述の観光

地はいずれも郊外に位置し、観

光客は富良野駅周辺の中心市街

地を素通りしてしまうのだ。次

第に街は衰退し、店を廃業する

ケースが後を絶たなかった。

「中心市街地が寂れてしまうと、

街全体のイメージや価値が低下

し、コミュニティもなくなって

しまう。観光地頼みではない仕

組みが必要でした」

 そう話すのは、ふらのまちづ

くり株式会社代表の西本伸顕さ

ん。長年、中心市街地の再生に

取り組んできた富良野のキーパ

ーソンだ。もちろん、行政とて

手をこまねいて眺めていたわけ

ではない。’00年代には駅前の再

開発を実施。しかし、衰退は止

まらなかった。そのうち、富良

野五条商店街にあった総合病院

が移設。街の一等地が空き地に

なってしまったのだ。商店街は、

病院の利用者を主なお客さんと

していたため、危機感はさらに

募る。だが、西本さんと、その

想いをともにする仲間たちは、

このピンチに活路を見出した。

「このままではナショナルチェ

ーン店が入り、よくある地方都

市の姿になる。この機会に、こ

れからの時代に必要なモノやコ

トを中心部に再結集するまちづ

くりをしようと決心しました」

 決断後の行動は早かった。’07

年に商店街や行政、商工会議所、

まちづくり会社などからなる富

良野市中心市街地活性化協議会

フラノマルシェが位置する商店街。50店舗以上が加盟し季節ごとにイベントも多数開催

富良野五条商店会

中心市街地にある市でもっとも歴史ある振興組合。フラノマルシェとのさらなる連携を図る

新相生商店街振興組合

青い池(美瑛町) 麓郷展望台

JR富良野駅

フラノマルシェ2

フラノマルシェ

新相生商店街振興組合

彩香の里(ラベンダー畑)

フラノマルシェから各商店街へ回遊!

近隣の観光地

地元の人間としてにぎわいが嬉しい!

市外から来たけど素敵な街ですね!

富良野五条商店会

PlaceCase

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37 36

合では、’17年に支援センターの

「トータルプラン作成支援事業」

を実施。その結果フラノマルシ

ェを念頭に置いた回遊性向上の

アイデアも生まれている。今後

の見通しは明るい。

「〝おじさんたちのまちづくり〞

という物語がメディアでも取り

上げられましたが、実際この取

組みはとても一人ではできませ

ん。さまざまな人々が自らの得

意分野を活かし、街のためを思

って動き続けた結果です」

 街に空白が生まれる危機をチ

ャンスと捉え、民間主導で街を

動かし、地域の魅力を再発見・

発信し街ににぎわいを創出する。

この壮大なアクションを支えた

のは、富良野を愛する人々の熱

烈な想いだった。

る人がここでショッピングや交

流を楽しみ、年間来場者数は初

年度で55万人。その勢いに乗じ

て、保育所やクリニックなど福

祉的な施設を集約した「ネーブ

ルタウン(フラノマルシェ2)」

も’15年にオープン。口コミで評

判が広まり、いまでは来場者は

120万人を数える。それだけ

ではない。フラノマルシェから

中心市街地への回遊が進み、街

ににぎわいが生まれているのだ。

「マルシェ内に飲食店はあえて

置いてません。テイクアウト食

品だけにして食事は街なかで取

っていただく。そのためにイン

フォメーションセンターを設置

し周辺も案内しています」

 フラノマルシェは街に開かれ

たコミュニティとして機能し、

周辺では売上倍増となった店舗

や約40店もの新規出店が実現。

さらに、商店街と連動してイベ

ントを実施するなど、マルシェ

と街の好循環が確立している。

「目に見える経済効果はもちろ

んですが、お店のマインドがポ

ジティブに変化したことが大き

かった」と西本さんが言うよう

に、近隣の新相生商店街振興組

ワインに至るまで、食の一大生

産地。豊富な食文化の魅力と一

緒に街の情報を発信することで

にぎわいの拠点づくりに取り組

む『フラノマルシェ構想』が生

まれました」

 加えて観光客ばかりでなく地

元に暮らす人たちも気軽に訪れ

て交流できる〝サードプレイス〞

としての役割も果たせるよう、

子どもの遊び場やイベント広場

も整備。’10年4月、ついにフラ

ノマルシェはオープンした。

商店街への好影響で

数字もマインドも上昇

 結果から言うと、フラノマル

シェは大成功を収めた。あらゆ

を立ち上げ、以降、協議会が中

心市街地再生の旗振り役に。そ

こでの議論の結果、「民間主導

のまちづくり」と「ビジネスモ

デルの構築」を本格的に目指す

ことになった。継続的なまちづ

くりを行うにはしっかりと収益

をあげ、投資し続けるサイクル

が必要。そのためまちづくり会

社をディベロッパー化し、複合

商業施設を管理運営することで

リーシング収入や売上マージン

を投資に利用できる仕組みを編

み出した。

 さらに、施設のテーマを〝食〞

に定めた。

「観光地に目が向きがちですが、

富良野は野菜や果物、肉、牛乳、

西本さんの本業は青果卸業。一商人としても「子どもたちに誇れる街を残したい」という想いが強い

04Case 集客拠点から回遊へ

あきんどサミットが富良野で開催!

’17年10月に富良野市で行われた「全国あきんどサミット(第14回 共通商品券全国大会 in 富良野)」。西本さんは「中心市街地によるまち育て」と題して、マルシェの取組みについて基調講演を行った。その後のパネルディスカッションでは世田谷区の保坂展人区長や(株)まちづくり岡崎代表・松井洋一郎氏らとともに、これからの街に必要なモノ・コト・ヒトについて活発かつ多角的な議論を交わした。西本さんはここで「まち育て」という継続的な意味合いのある言葉を提案。パネリストから賛同が相次いだ。また、少子高齢化を迎え、コミュニティの場としての商店街の重要性について、認識を共有。多くの示唆に富んだサミットとなった。

column

富良野市のまちづくりでは、「歩いて暮らせるコンパクトタウン」を志向していると西本さん。多くの聴衆が熱心に耳を傾けていた

まとめ。「拠点づくり」に使える

民間でも動く

街への回遊を重視

継続して投資できる仕組みづくりを

ゲストハウス in 商店街周遊の拠点という意味では、大切なのが宿泊施設。

最近、商店街の魅力発信源にもなっているゲストハウスが次 と々生まれている。

いま、全国に続々誕生!

「ただいま」と言いたくなる

心温まる「友だちの家」

札 幌市の豊平商店街内で「すべての人が『ただいま』と言える居場所をつくる」をコンセプトに‘14年にオープン。

友だちの家のようなアットホームな空間や親しみやすいスタッフのおもてなしで、リピーターが続出中。商店街とは夏祭りのボランティアや商店街フリーペーパーの発行などを通して緊密な関係を築いている。「商店街の人たちは、宿泊するゲストさんも温かく迎えてくれるのがありがたい」とスタッフさん。

ゲストハウスwaya北海道

日本を代表するゲストハウスは

地域との関係性をなにより重視

’09年にオープンし、ゲストハウスブームの先駆けとなったこちら。宿場町品川の再生を目指し、外国人と商店街の人々が共存する社会をつくるべく、商店街とも協働してまちづくりに参画している。キッチンを設けていないのは、「お客様には街に出て出会いを楽しんでほしい」という想いゆえ。地域との関係性を重視した運営は全国のゲストハウスのモデルだ。P11で紹介したゲストハウス萬家の朴さんもこちらで修業。

ゲストハウス品川宿東京

巨大商店街で異彩を放つ

新しいアートのサロン

京 都市最大のアーケード・三条会商店街に位置する、写真をコンセプトにした個性的なゲストハウス。来街者の多い街

と、「旅先で撮った写真を、旅先で自分で焼き大切な人に送る」というテーマがハマり、‘17年にオープンしたばかりだが各所で話題となっている。商店街の店舗合同イベントを企画するなど、新しい街の姿を担う場だ。宿内にはアート作品や、現像用の暗室もあり、関連ワークショップも多数。

トルボット京都

商店街との密接な関係で

宿泊客を楽しませる

西 奉還町商店街の端に位置する、鳥居が目印のゲストハウス。「ここに来るには岡山駅から商店街を通る必要があるため、

必ず商店街を見てもらえる」と商店街愛に溢れる同所は、イベントの手伝いなどを通して商店街との距離を縮め、いまでは商店街の人が道に迷う宿泊客を宿に案内したり、逆に宿からは地域のお店を案内するなどの好循環が自然発生。中庭で小鳥が遊ぶような穏やかな空間も街になじんでいる。

とりいくぐる岡山

街の新たな集客拠点

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商店街が贈る「日本文化体験デー」

「インバウンド」の最前線。

外国人観光客をおもてなし!

05

’20年の東京五輪に向けて注目されている、「インバウンド」。海外からの観光客に、街の魅力をいかに伝えるかが

重要なテーマになっている。あたたかい「おもてなし」の実現に向けて商店街だからこそできることは、何か。

Case

中町商店街振興組合/長野県松本市

朝10時のオープンと同時に外国人観光客が次々と入館。折り紙、書道などの初めての体験に熱中していた

 

インバウンド(訪日外国人旅

行)と商店街は無縁ではない。

しかし、増える外国人観光客を

前に、何から始めればいいのか

頭を抱えている商店街は多い。

外国語のツール作成はもちろん

大切だが、中町商店街の取組み

は、その根本にある「おもてな

し」の心を教えてくれる。

商店街初の試み

外国人観光客向けイベント

 城下町の風情が色濃く残る、

人気観光地・長野県松本市。’17

年9月、松本城からほど近い中

町商店街の一画に人だかりがで

きた。通りの中央に位置する、

蔵を改装した多目的スペース

「蔵シック館」にかけられた看

板には「Japanese Culture

Experience Days

(日本文化体

験デー)」とある。館内には茶

道や書道、折り紙などの体験ス

ペースが設けられ、表の広場で

は商店街オリジナルの日本酒試

飲や手裏剣投げを開催。また、

商店街内の10店舗でも、趣向を

凝らした文化体験のプログラム

を実施。英語の店頭案内サイン

や、和装姿の地元高校生たちの

声がけに引き寄せられ、外国人

観光客が次々と足を止める。

「松本は欧米を中心に外国人観

光客が増えていますが、商店街

への滞留・回遊に結びついてい

ない。中町商店街ならではの〝お

もてなし〞ができないかと考え、

このイベントを提案しました」

 そう話すのは、中町活性化委

員会委員長を務める花岡由梨さ

ん。30代の若さながら、’15年に

商店街理事になり、この2日間

の日本文化体験デーを中心とな

って企画。商店街の内外から協

力者を集め、実現にこぎつけた。

若手を中心に奮闘

商店街から広がる協力の輪

 次世代の育成も目的にして、

中町活性化委員会が組織された

のは’13年のこと。ワークショッ

プや各班会議で、商店街として

取り組むべきテーマについて話

し合ってきた。そして’17年、か

ねてからの課題であった外国人

観光客への対応について本腰を

入れることに。議論の結果、商

店街で日本文化を体験してもら

うという初のおもてなしイベン

1~6)「蔵シック館」でのプログラムは、どれも30分程度で気軽に体験できるものばかり(一部有料)。大人から子どもまで夢中になって楽しんだ。7)各店舗を詳細に説明したカラフルな英語版ガイドブック。トイレやWi-Fiスポットも。8)商店街内の体験プログラムの様子(芸游館)。三味線で「さくらさくら」を弾くアメリカ人男性は「ホテルのフライヤーを見て来ました。演奏は難しかったけど楽しかった」 9)英語の店頭案内サインで安心して店内に入れるよう誘導

123

456

789

Inbound

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41 40

05Case 「インバウンド」の最前線。

をもとに近隣の観光地も含めて

回遊性を高める仕掛けを考えて

いく。合わせて商店街の各店舗

の魅力も深掘りして伝え、より

中町を楽しんでもらえるおもて

なしを目指していく。

トを実行することになった(支

援センター「トライアル実行支

援事業」を活用)。

 まず手掛けたのは英語版の商

店街ガイドマップづくり。街を

安心して楽しく回遊してもらえ

るように、わかりやすさと外国

人の好みも重視した。そのため

に花岡さんたち委員会のメンバ

ーは商店街の店舗を一店ずつ取

材撮影し、セールスポイントを

リサーチ。結果、各店の魅力の

再発見にもつながった。

 メイン会場となる蔵シック館

での主な体験プログラムは9種

類を考案。なるべく多彩なもの

にしようと奔走した結果、企画

に賛同した人力車、着物体験な

ど中町商店街以外の事業者が快

く参加してくれた。

 開催に向けては、事前周知に

も注力。メンバーは外国人客が

利用する宿泊施設にも足しげく

通って協力を仰ぎ、当日は「ホ

テルの人から紹介されてきまし

た」など多くの外国人が案内・

誘導されて蔵シック館を訪れた。

 さらに花岡さんは地元のイン

バウンド関連の会への参加をき

っかけに、松本県あ

がたがおか

ヶ丘高校英語

科にも協力を依頼。当日は40名

の生徒が、得意の英語でプログ

ラムのアシスタントや道案内係

として大活躍した。

 こうして、商店街を中心に地

域一丸で取り組んだ日本文化体

験デーに訪れた来場者は629

人にのぼった。

商店街も地域も結束

永続的な〝おもてなし〞へ

「実は中町商店街は立地的に恵

まれていて、外部と協力する機

会はありませんでした。今回生

まれた近隣の団体、事業者との

連携はこれからも大事にしてい

きたいし、できることの可能性

が広がりました」と花岡さん。

 このような動きを、年長者た

ちもあたたかく見守っている。

「成功に向けて本気で取り組ん

だことで、長幼が分け隔てなく

本音を言える関係性も生まれた。

新風を吹き込んでくれた若手世

代を私たちはサポートしていき

たい」と中町商店街理事長の

佐々木一郎さん、専務理事の清

澤進さんは声をそろえる。

 個店の体験プログラムに参加

した三味線教室を営む芸游館の

秀ひで

由よし

端は

(伊東貞子)さんも、「イ

ベントにかかわり、自分も街の

役に立てることがわかった」と

興奮気味に話す。組織全体の士

気が上がり、一致団結する空気

も生まれた。

 今後は、イベントの参加者の

アンケート結果を検証し、それ

まとめ。

他主体とも協力を

「インバウンド」に使える

店頭サインで安心誘導

参加者アンケートで内容充実

松本城から徒歩圏内にある中町商店街。店舗数は約125。城だけ見て帰る観光客に、中町にも立ち寄ってもらうことが課題のひとつ。また、近隣にオープンした大型商業施設への対応も大きな課題だ。

DATA

1)花岡由梨さん自らも浴衣姿でおもてなし。「スタッフも楽しんでます」 2)専務理事清澤さん他商店街のみなさん。「時には激しい言い合いも(笑)」(清澤さん)。それが組織の絆を強化。3)通訳や道案内に活躍した松本県ヶ丘高校の先生と生徒たち1

2

3

松本駅

篠ノ井線 田川

田川

中町商店街振興組合

松本城

多言語ツールに注目!

急増する外国人観光客に対応

宇治商工会議所/京都府宇治市

誰でも気軽に利用できる

無料翻訳システム

 近隣に観光地を擁する商店街

の目下の課題は、海外からの観

光客に対する各個店の接客だ。

 そんな言葉の壁の問題をフォ

ローしているのが、宇治商工会

議所である。宇治市は平等院と

宇治上神社というふたつの世界

遺産があり、一年で約560万

人もの観光客が押し寄せる国内

きっての観光地。外国人観光客

も急増中だ。そこで、宇治商工

会議所は’15年に「多言語ツール」

を開発した。これは、「多言語

のメニューやプライスカードが

簡単につくれるツール」「接客

おもてなしシート」「多言語型

の観光マップ」の3点からなり、

特に前者2つは個店が対象。こ

れらのツールはインターネット

上で公開されており、パソコン

とプリンターさえあれば誰もが

無料で利用できる。すでに市内

の観光立地商店街にある物販店

の約40%が活用しているという。

 宇治商工会議所は「あくまで

外国人観光客の接客におけるベ

ーシックなツールとしてご活用

いただき、そこにお店の個性を

プラスしていただければ」と期

待を込めている。

接客おもてなしシート

メニュー作成画面

多言語メニューは、「宇治外国人観光客接客支援ウェブサイト」でかんたんに作成できる。IDも不要で、この簡易性がパソコンに不慣れな世代にも好評だ。

多言語メニュー

該当するメニュー名を選び、商品写真を貼り付ければ、英・仏・中・台・韓の5カ国語対応メニューが完成。

飲食店、物販店、宿泊施設で応対の際に必要な最低限のフレーズを5カ国語で用意。指差しでの接客が可能に。

2大観光スポットのほど近くに位置する宇治橋通り商店街。特に台湾や中国といったアジア圏からの来街者が多い。平日は外国人観光客の方が多いことも

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商店街に溢れる“EGAO”

メイクの方法や肌のお手入れについて相談でき、実際に体験しながら化粧品を選べる。エステも好評。「生まれ育った街で、人とのつながりを大切にしながら、きれいになる喜びを伝えていきたいです」

毛利有理沙さん「スキンケアハウス るぴなす」祇園町銀天街/宮崎県延岡市

明治~昭和のレアな骨董品が人気。安原さんは移住の相談にも乗る街の兄貴分。「食だけではない三崎の魅力を楽しんでほしい」

安原芳宣さん「古道具ROJI」三崎銀座通り商店会/神奈川県三浦市

老舗の人気スポーツ用品店で3代目の兄を支える。「お客様と距離が近い商店街なので、一人ひとりに寄り添った接客が身上です」

昭和8年創業の老舗蒲鉾店は、農林水産大臣賞を受賞するほどの名店。「昔懐かしい市場の中で、さまざまな食を楽しんでください」

ジーンストリート発足後の一号店。柔らかいジーンズなど一味違うアイテムが揃う。「児島発のブランドがどんどん広まってほしい」

宇田恵子さん角谷和子さん(左)、西谷幸子さん(右)

三み

野の

高明さん

「赤玉スポーツ」水道筋商店街/兵庫県神戸市

「かね福」灘中央市場(水道筋商店街)/兵庫県神戸市

「SAIO」児島ジーンズストリート/岡山県倉敷市

3代目の成勇さんは都心での就職を経てUターン。「自然環境が厳しい西和賀町の人々の暮らしをサポートできるよう頑張ります!」

髙橋成勇さん「湯田電気」湯本商店街/岩手県西和賀町

風合い豊かな古道具・古着・雑貨等を展開するセレクトショップ。「店主同士もお客さんとも仲良く、居心地の良い商店街です」

赤塚和枝さん「ハチミツplus」沼垂テラス商店街/新潟県新潟市

島崎一さん(右)、島崎成司さん(左)「片常鋸刃物店/ラジコン広場ブランズ・ホビー」山下新天街商店街/宮崎県延岡市

鍛冶店として約90年続き、現在は3代目&4代目となる。「父親の代からラジコン屋も。息子もラジコンマニアに育ちました」

橘幸子さん(右)、橘英行さん(中)、高瀬麻由さん(左)「たちばな」旦過市場商店街/福岡県北九州市

サバやイワシを使った小倉名物「ぬかみそ炊き」の元祖・たちばな。「北九州の台所といわれる旦過にぜひお越しください!」

商 店 街 を 、          盛 り 上 げ て い ま す!

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富岡商店街協同組合 理事長兼松功さん

「商品の陳列など目に見える変化もありますが、なにより変わったのは店主たちの意欲だと感じています」

富岡商店街協同組合/徳島県阿南市

まちゼミの成果×女性の力で

店と街の魅力向上に邁進!

繁盛店づくり支援事業

P.48事業一覧は

ここで紹介している支援事業は

PROJECT

いに意見し刺激し合える関係性

の構築が、商店街全体の問題意

識の共有にもつながっていま

す」と、阿南商工会議所の野村

千寿子さん。

 かつてまちゼミが育んだ商売

への意欲は、繁盛店づくりを通

して目に見える店舗改善につな

がり、そんな参加店舗の姿はほ

かの店主の意識も変えつつある。

「お客様のための店舗づくりが

できるようになってきました。

〝個〞の魅力で人を呼べるように

なれば」と、本事業の講師を務

める志賀公治さん。そして個の

力が成長した時にこそ、同商店

街ならではの横のつながりが生

きてくる。いま、富岡商店街は、

新たな好循環に入ったようだ。

 阿南市の商業拠点として古く

から地域住民の生活インフラを

支えてきた富岡商店街。しかし、

近年バイパスの開通と大型商業

施設の出店、後継者不足などの

環境の変化を受け、商店街には

シャッターが目立つように。そ

こで、阿南商工会議所は、’13年

より店舗の魅力を伝えることで

商店街の活性化を目指すまちゼ

ミ事業に取り組んだ。

「数字だけでなく、店主の意欲

減が課題でした」と当時を振り

返る、阿南まちゼミの会会長の

岡澤孝浩さん。8回の実施を重

ねるなかで、顧客との相互理解

や店舗同士の連携が深まった結

果、店主の意欲も向上した。

 こうしたまちゼミがもたらし

た意識面の成果を、具体的に個

店の魅力向上につなげるべ

く、’17年にまちゼミ開催地域対

象の「繁盛店づくり支援事業ジ

ャンプアップコース」を受講。

次いで、本格的な実践コースへ

とステップアップした。

回)の講座では、講師

による公開臨店研修を

通じ、自店の強みと弱

みを分析、改善を図っ

ている。問題意識はあ

れど、どこから取り組

めばいいのかわからな

かった参加者たちだが、

阿南まちゼミの会 会長岡澤孝浩さん

「一緒に学ぶことで連帯感が生まれるほか、他業種同士ならではの新鮮な“気付き”が改善を加速させています」

阿南商工会議所 業務課係長野村千寿子さん

「改善に取り組んだ店舗に刺激を受けて、『自分も研修に参加したい』と手を挙げる人も出てきました」

酒井陽さん/お好みはうす樹樹(お好み焼き) 木村紀子さん/パール美容室(右は志賀公治講師)

川野千代美さん/ゆるり(リフレクソロジー)柴山郁子さん/松屋呉服店(呉服・制服・洋服)

臨店研修を終えたあとは、参加者含め商 店街全体で振り返りを行う。ここでの意見交換がさらに新たな気付きを生む

メニュー改善への取組みから、SNS映えする「新メニュー」が生まれた店舗も(お好みはうす樹樹)⦆

全国商店街支援センターの支援事業を活用し着実に成果を上げている商店街をご紹介。生きた事例をご参照あれ!

支援事業最新レポート私たちも、成果に期待!

繁盛店づくり支援事業

01REPORT

受講スタート!

女性たちの店舗改善が

刺激をもたらす

今後に向けて

〝個〞の魅力づくりで

新たな好循環へ

背景

まちゼミで高めた

意識を実践に

RE P ORT

繁盛店づくり支援事業REPORT

01

商店街はJR阿南駅から約1,500mにわたり店舗が集積する。来街者の大半は地域住民。現在の加盟店は約50店舗。

DATA

MAP

阿南駅

桑野川

阿波室戸シーサイドライン

 実践コースには、ジャンプア

ップコースで特に意欲の高かっ

た4店舗が参加。月1回(全4

「お店の意図が伝わる商品展開」

「SNS活用」といった具体的

なものから、「お客さん目線の

店づくり」などの意識面まで幅

広く気付きを得てさっそく改善

に取り組み、すでに来客数が増

えた個店も生まれている。

 また、特筆すべきは今回の参

加者がすべて女性であること。

女性同士、活発な意見が生まれ、

全員が他店の臨店研修に同行す

ることで、他店の課題を〝自分

ごと〞として捉えている。「互

富岡商店街

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商人塾支援事業

P.48事業一覧は

ここで紹介している支援事業は

PROJECT

商人塾支援事業

とっても、こんな床屋さんや魚

屋さんになりたい! と憧れら

れるかっこいい商売人になって、

次世代に街の魅力をつなげてい

きたい」と、吉田さんの言葉に

も熱が入る。

 取材当日の商人塾第3回目で

は、岡山市表町商店街の常務理

事兼事業推進部長の矢部久智さ

んによる「何のためにイベント

をするのか」というテーマの講

演が行われた。イベントの日だ

けは街に人が集まるが、各店の

売上にはつながらない。にもか

かわらず、店主の負担が多く、

疲弊していってしまう。そんな、

多くの商店街が抱え、自身も経

験してきた問題点を浮き彫りに

した。その上で、イベントの目

的を全員で共有すること、そし

て終了後には必ず成果を検証す

ることの重要性や、イベントの

日だけでは終わらない〝その店

のファンをつくる〞集客方法を

具体例とともに説明すると、参

加者たちからどよめきが上がっ

た。

 ’18年、70周年となる延岡市商

店会連合会。延岡駅もリニュー

アルし、駅ビルがオープンする。

「街は生き物ですから、時代と

ともに変化していきます」と中

野さん。たとえ店が点在するこ

とになっても、各店に魅力があ

り、店同士につながりがあれば、

それは吸引力のある新しい商店

街の形や地域の力になると期待

している。

 山下新天街商店街を中心とす

る延岡市の商店街。厳しい状況

に一石を投じたのは、’16年に初

開催したまちゼミだ。まちゼミ

を牽引する延岡市商店会連合会

会長の友井康弘さんはこう語る。

「専門店の知識と技術や人柄と

いった商店街ならではの魅力を、

市民に訴求できた。参加店の意

欲もより高まりました」

 まちゼミは’17年までに3回開

催され、参加店舗も受講者数も

着実に増加している。

 一定の効果を上げたまちゼミ

に続き、商店街と地域の新しい

可能性を切り拓くのが、商人塾

の取組みだ。

「商店街の武器は、face to face

の人間力です。商人塾で描いて

いるビジョンは、若手のリーダ

ーを育成し、組織を若返らせて

いくこと。40代や50代の方々に

は、これからの20年が商売をし

ていて良かったと思えるように、

そして、より良い形で事業を承

継できるようにと考えています」

と、商人塾コーディネーターを

務める、延岡商工会議所の中野

仁雄さん。

 塾生の一人、延岡市商店会連

合会事務局長の吉田貴章さんは、

〝商店街で一番熱い男〞と呼ばれ、

若手を牽引する存在。まちゼミ

の実行委員長でもある。

「商人塾に期待しているのは、

それぞれの店の力を伸ばして、

商店街全体が底上げされていく

ことです。店同士の交流と回遊

性が高まり、街がにぎやかにな

れば、新しいビジネスチャンス

が生まれるかもしれません」

 初年度の塾生は、友井さん、

吉田さんを含め18人でスタート。

全7回のカリキュラムの中で、

自身の商店街と地域の現状と課

題を適確に把握し、他地域の事

例を具体的に学び、全員で意見

交換しながら、今後の商店街の

役割と街の方向性を共有するこ

とをめざす。

「すぐには変わらなくても、ま

ちゼミも商人塾も、継続が大切

だと考えています。わくわくで

きる楽しいことが増えていけば、

これまで商店街に入っていなか

った若手も参加してくれるよう

になるでしょう。子どもたちに

第3回商人塾の様子。矢部さん(写真右下)は、店主の気構えから集客力向上の秘訣まで幅広く語り、参加者も積極的に発言

支援事業最新レポート

JR延岡駅周辺の9商店会、205店舗が加盟。延岡藩の城下町として栄え、大正時代以降は旭化成とともに発展した工業都市の歴史も。

DATA

MAP

REPORT

02

延岡商工会議所・延岡市商店会連合会/宮崎県延岡市

商店街の武器〝人間力〞を磨き

次世代へ引き継げる街を

商人塾支援事業

02REPORT

受講スタート!

子どもたちが憧れる

かっこいい商売人を

今後に向けて

既存の枠組に

とらわれない商店街へ

背景

新しい取組みの

第一歩はまちゼミから

延岡市商店会連合会会長友井康弘さん

「商店街は危機的な状況ですが、まちゼミを通じて意欲ある若手や女性が目立ってきました」

延岡市商店会連合会 事務局長吉田貴章さん

「商人塾には、店同士の交流が深まることで、新しいビジネスチャンスが生まれることを期待しています」

延岡商工会議所中小企業相談所経営指導員 中野仁雄さん

「商店街を運営していくためには、face to faceの人間力と経営者としてのスキルアップが大切です」

白熱の講義!

延岡市商店会連合会

延岡駅

五ヶ瀬川

大瀬川

日豊本線

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上記は平成29年度の内容です。平成30年度の事業については、全国商店街支援センターまでお気軽にお問い合わせください。

TEL:03-6228-3061

株式会社全国商店街支援センターは地域とともに活躍する商店街を応援するため、さまざまな支援メニューを提供しています!

全国商店街支援センターをご活用ください!

E G A O I N F O

発行・企画株式会社 全国商店街支援センター〒104-0043東京都中央区湊1-6-11 ACN八丁堀ビル4階URL : http://www.syoutengai-shien.com/TEL : 03-6228-3061FAX : 03-6228-3062E-mail : [email protected]発行人 桑島俊彦編集・制作 株式会社 枻出版社印刷 三共グラフィック株式会社

2018年3月9日発行

Editor 鈴木聡(東京ピストル) 濱島雄一郎、渡辺晴夏Designer 髙橋佐和子DTP 高田舞美Photo 石黒明、内田年泰、是枝右恭、 新宅泰文、田中幹人、仁田慎吾、 林成志、日高奈々子Text 池田圭、後河大貴、菅明美、高田沙織、 藤谷良介、山賀沙耶、横溝千乃

本書の一部または全部を無断複写・転載・電子媒体に加工することを禁じます。©2018 JAPAN SHOPPING DISTRICT SUPPORT CENTER, All Rights Reserved.

Special Thanks経済産業省中小企業庁経営支援部商業課各地方経済産業局独立行政法人 中小企業基盤整備機構全国商工会連合会日本商工会議所全国中小企業団体中央会全国商店街振興組合連合会 ほか取材にご協力いただいた皆様

2018 Spring[ エガオ ]

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平成21年8月に制定された「地域商店街活性化法」のもと、国と歩調を合わせ新たな商店街支援策を具現化する組織として、中小企業4団体(全国商工会連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会)が出資し設立した組織です。商店街活性化をソフト面で支援する数々の事業を展開しています。

全国商店街支援センターとは

支援メニュー一覧

問い合わせ

商店街の店主の意識と行動の改革を促し、魅力ある繁盛店をつくるための研修を行います。繁盛店づくりの実践的なノウハウ・知識などを習得するため、カリキュラムに基づき公開臨店研修(店頭での実習)や参加店会議(座学)などを商店街全体で実施します。

繁盛店づくり支援事業

キラリと光る繁盛店をつくりませんか?

活性化に対して方向性が定まっていない商店街、あるいは方向性を見直したいと考えている商店街などに対して、商店街が自ら課題解決に向けて取り組む計画づくりを、また、地域商店街活性化法の認定や計画作成・変更を支援します。

トータルプラン作成支援事業

商店街のビジョン・プランをつくりませんか?

商店街の各個店の店主等がその専門性を活かし、プロならではの知識や情報、コツを受講者(お客様)に伝える講座「まちゼミ」のノウハウを提供します。この事業は、これから「まちゼミ」の実施を目指す商店街を対象にしています。

まちゼミ研修事業

「まちゼミ」を実施しませんか?

ビジョン・計画を持った商店街が、それに基づいた商店街活性化につながる取組み(トライアル)を実行できるよう、専門家を派遣し、実施計画づくりからトライアルの実行・成果共有まで、実行性・継続性を高められるよう支援します。実施計画が採択された場合は委託契約を締結し、トライアルの実行にかかる費用を支援します。

トライアル実行支援事業

新しい取組みにチャレンジしませんか?

商店街からのアドバイザー派遣要請に応じて、商店街などに専門家を派遣し、商店街の課題解決やイベント事業などについて専門的な相談やアドバイスを行います。また、商店街を総合的に支援するため、関係機関と密接に連携しながら、各種支援策活用などに関するアドバイスを行います。

商店街よろず相談アドバイザー派遣事業

商店街のお困りごとを相談してみませんか?

商店街の次世代リーダーを発掘・育成するため、「商人塾」の運営を支援します。商工会議所、商工会等が実施機関となり、地域の複数の商店街から塾生を募り、商店街が抱える課題に即したカリキュラムに基づき、専門家や実践者による座学研修や、現地調査、意見交換などを行います。

商人塾支援事業

商店街を担う次世代の人材を育てませんか?