1 Maine - Portland Head Light 「少しでも灯台的役割ができれば」 ~どこかで聞いた食の道理~ 1.食の「選択の科学」: “エスカオロジー”という一般教養 ~食の選択にはこういう Science もある~ 松尾雄志 www.escaology.com
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Maine-Portland Head Light
「少しでも灯台的役割ができれば」
~どこかで聞いた食の道理~
1.食の「選択の科学」:“エスカオロジー”という一般教養
~食の選択にはこういうScienceもある~
松尾雄志
www.escaology.com
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偽、食、嘘、疑、謝
続いて、2位「食」、3位「嘘」、4位「疑」、5位「謝」と、食品の嘘が疑われ、食品企業の謝罪会見が繰り返し行われた07年を象徴する結果に、来年こそは食に安心できる偽りのない世の中になることを願わずにはいられません。---中野栄子FoodScience/Newsメール2007.12.26より引用
年末の風物詩、清水寺(右下の写真)での揮毫の漢字は「偽」。日本漢字能力検定協会が世相を表す漢字として募集、1位となったもの。07年の食品偽装事件がこれほどまでに、人々の憤りと不安をかき立てていたことを実感。
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信や疑がメディアを賑わすくらい食に関する
見えない部分が多くなり、消費者は益々
「選択眼とそれを支えるモノの道理」、そして
感性を養わなければならない状況にある
選択眼に必要な感性の基となる要素とは
Times SQ (facing to North)
・文化(伝統):食経験と文化的要素・実利の程度:経済的基盤と費用対効果
・これに感情の均衡が加わって「選択」行為がなされる傾向が強いが、「モノの道理(科学)」を入れ込む必要があるのではないでしょうか?
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と言う経緯で「エ・ス・カ・オロジー」“Escaology”が生まれた
エスカオロジーの定義:「食の持つ色々な事柄を、モノの道理(科学としてのことわり)から明らかにして行く概念」=これは選択の科学(Science)であり、食の道理である
語源:ラテン語で「食」を意味するエスカ(Esca)と、「学」を意味する-ologyを合体させた造語。 NY市マンハッタンにESCA(下の写真)という南イタリア・シーフード料理レストランがある。
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「食の道理」での問いかけ:その1
トランス脂肪酸 vs. コレステロール
コレステロール含量の高いバターにしますか?
コレステロールは少ないけど、トランス脂肪酸含量の高いマーガリンにしますか?
どちらかが100%体に良いということはなく、どちらも量が多いと心臓血管系に悪影響を
及ぼすことが知られている!
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脂肪酸:シスとトランス脂肪酸:CnHmCOOH 長鎖炭化水素の1価のカルボン酸
■トランス脂肪酸:トランス型不飽和脂肪酸とも呼称される(trans fat/trans-unsaturated fatty acids)。構造中にトランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸。
■トランスとシスの意味:有機化学で、原子(下図ではR)が二重結合のC原子の反対側にある幾何異性体をトランスという。シスはトランスの対語で(Rが)同じ側にあることを意味する。下図を90度右に回転し、二重結合を中心にしてR-C=C-Rの形に着目すると、左側のトランスは椅子のような形となり、右側のシスは鍋様構造となる。これを理由に「椅子型と鍋型」とも表記される。
■生理作用:トランス脂肪酸は天然植物油にはほとんど含まれないが、水素を添加して硬化したマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなど(硬化油)を製造する過程で発生する。多量に摂取するとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ心臓疾患のリスクを高めるという研究結果がある。これを基に2003年以降、トランス脂肪酸を含む製品の使用を規制する国が増えた。
H―C―R R―C―H
R-C-H R-C-H
トランス(trans-) シス(cis-)【反対側】 【同じ側】
①精神状態のトランス:スペルは“trance”(人事不省)。
②米国FDA:「心臓発作が多い原因探し」作戦と、HawaiianJapaneseの前立腺癌発症率(朝から晩まで牛製品)
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脂肪酸:シスとトランス脂肪酸:CnHmCOOH 長鎖炭化水素の1価のカルボン酸
トランス脂肪酸の分析には、GC(ガスクロマト法)やLC(液体クロマト法)などが用いられる。
GCやLCではサンプルの前処理に煩雑な処理が必要。
最近ではサンプルの前処理を必要とせず、わずか数分で測定が可能な赤外分光法(ATR法)が知られている。
シス(cis-) トランス(trans-)【同じ側】 【反対側】
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賞味期限という日本語に要注意:英語では Best Before & Better After
Best Before & Better After(賞味期限と言う日本語)
英語では表記の日までベスト(最も良い)で、その後はベター(より良い)で、まだ食べられる。
➡2013年10月31日と表記
一方、日本語の賞味期限では表記の日を過ぎると「味わえなくなる」という印象が強く、捨てるという行動につながる➡もったいないです。
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「食の道理」での問いかけ:その2
サーロイン肉 vs. ヒレ肉
コレステロールが気になるサーロイン 100gにしますか、ヒレ 200gにしますか?
松尾の選択:サーロインにする。年寄りで今更大きな差はない、という理由ではない。
なぜか? カロリー(≒脂の含量)はほぼ同じなので、量が少なくても美味しい方を!
コレステロールは美味しい脂で、食べ過ぎてしまう。“量”のことをよく考えて食べましょう!
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コレステロールは悪者か?ヒトの体で性ステロイドホルモンを作るための
原料として必須の生体成分。
体に必要なものを美味しく感じる仕組みがあってヒトは生き残っている(ケチケチ遺伝子?)
胎児期に男性ホルモン(例:テストステロン)が作られると男性に、でないと女性になる!
女性は女性ステロイドホルモン(例:エストロジェン)が多く作られ女性らしくなる!
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女性ホルモンと男性ホルモン■女性ホルモン(下図)
エストラジオール(Estradiol):主に卵巣で産生され、卵胞の発育に伴い特徴的な分泌パターンを示す。性腺系の発育増殖を司るほか、骨代謝に関与する。妊娠時における胎盤機能の指標として、思春期、不妊症、更年期、閉経婦人における卵巣機能の評価として重要な意味をもつ。
■男性ホルモン(上図)テストステロン(Testosterone):筋肉増大、蛋白質同化作用の促進、体毛の増加作用をもつ。女性での男性ホルモン分泌量は男性の20分の1。
コレステロール(Cholesterol)
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「食の道理」での問いかけ:その3ドイツのCoca Cola Light(微糖)から学ぶ
(コカコーラ白書)
チクロは日本、米国では「発癌性があるかもしれない」とい
う研究を基に使用禁止(1969年)。米国コカ・コーラには
アスパルテームが使われている(2ページ先に資料)
製造販売元:コカコーラ ドイツ
使われている人工甘味料:・チクロ(シクラミン酸Na)(構造式:次ページ)・アセスルファムK・アスパルテーム
サイクラミン酸ナトリウム
甘さは砂糖の約40倍発がん性、催奇形性を理由に日米では1969年来使用禁止
IUPAC名 N-シクロヘキシルスルファミン酸ナトリウム
別名 チクロ
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IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry
大型サイズのソーダ禁止へNYのレストランや映画館
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NYCのBloomberg市長は12月31日(2012)、ソーダなど砂糖入り飲料の大型サイズの市内での販売を規制する方針を。肥満対策の一環で、実現すれば全米でも初めての取り組み。規制されるのはソーダやスポーツドリンク、砂糖入りの紅茶やコーヒーなどで、レストランや映画館で16オンス(約473ミリリットル)より大きいカップやペットボトルが販売できなくなる。違反者には200ドル(約1万6千円)の罰金を科す方針。ダイエットソーダやアルコール類などは対象外で、早ければ来春にも実施される見通しだ。→飲料業界の差止め裁判で敗訴(2013年8月)
B市長はこれまでも肥満対策に力を入れており、市内の飲食店から「トランス脂肪酸」をなくしたり、ファストフード店にカロリー表示を義務づけたりしてきた。今回の発表でも「砂糖入り飲料は肥満に直結している」「容器のサイズが年々大きくなっている」と主張し、規制の必要性を訴えている。
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ところで欧州で使用許可されているチクロをドイツの人達はどう思ってるか?
基本的なスタンス:危険性(リスク)を判断するとき「モノの道理」に耳を傾けて何を選択するかを決めている。
チクロを選ぶと「ひょっとすると(将来)癌になるかもしれない」というリスクがある
ドイツの友人:「なぜ、日本人は目前のリスク(砂糖)よりも、先のリスク(チクロ)を心配するの?」(1970年ごろの話)
一方、砂糖を選ぶと近い将来、高い確率で糖尿病にかかる! 特に、液状(砂糖甘味飲料)は血糖
値を急激に上昇させるので、要注意!
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食における賢い選択のための「食の道理(科学)」
国立がんセンター杉村名誉総長の名言
天然に存在するどんな食べ物も発癌物質(プロモーター)を含んでいる。問題は同じ発癌物質を繰返し摂取しないで、できるだけ色んなものを食べて危険分散することが肝要です。
その意味で日本料理は理想的な食事スタイルです。種々の食材を少しずつ調理すると言う手間暇はかかりますが、、、
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ということは
要するに、「100%ヒトの体に良い食べ物は自然界には存在しない(*)」に、気付いておれば「賢い選択」ができる。
(*)つまり、ヒトを含む動物が食しているモノはヒト(動物)に食べられるように進化した形跡はない(育種は別)
お茶の話(歴史ある健康食品)を次に
これが食の原点であり、健康食品でも重要
天然の食べ物にはヒトの体に良いものだけではなく、良くないもの(毒ともいえる)も含まれている!
お茶から学ぶ「食の道理(科学)」
液胞の少ない新葉を摘んで発酵させるか、蒸した後で乾燥させる➡処理されている
Shen Chaは年代を経るほどに風味が良くなり価値が増し、数十年のビンテージ品は大変高価
結論:古来、植物葉由来の食材を「生で食べる」のは例外的!その理由をお茶で説明すると、、、
中国プーアル茶の一種の生茶(sheng cha) :緑茶を自然の状態で発酵させた茶葉のことで、ナマではない。日本語で販売されている生茶は別の概念(ナマ好みの日本人向けキャッチと思われる)
昔の茶工場の天井は真っ白な結晶でキラキラしていた
茶畑から集められた茶葉は蒸機で蒸され、その後冷やされる。この工程で昇華される
成分がある。何でしょうか?
答えはカフェイン(Caffeine):プリンアルカロイドの一種で、茶木が摂取した窒素(N)の老廃物成分(左に示す構造式を参照)。
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葉っぱの液胞には有害成分も含まれる日経BP社FoodScience(2009-02-09)エスカオロジー
・葉の液胞には成長とともに老廃物が貯まる(ホウレン草の場合はシュウ酸)
・ヒトはそれを除くか、医薬(薬用植物学/漢方)で活用・「生野菜は体に良い」は要注意(育種されたモノは別)
日本初のサラダ:太平洋戦争後の1949年、GHQに接収の帝国ホテルで、Xmasの折のシーザーサラダ
葉を生で食べる食事スタイルは最近のこと、食文化歴史の長い中国、仏、伊、日本など温野菜(だった)。その典型例は「ほうれん草のお浸し」に見ることができる。なぜ?
老廃物の処理:動物は動き回って処理するが、植物は葉にため込んで捨てる
ホウレン草に多く含まれるシュウ酸が原因の尿路(腎)結石
尿路結石は尿路に石(右下の写真)ができる病気
石の素材は尿中のCa、シュウ酸、リン酸など
これらが何らかの原因で結晶となり、有機物質も巻き込んで石状に固まったもの
部位によって上部尿路(腎)結石と下部尿路結石に分かれる
約95%は腎臓で形成、尿管に下降
補足:シュウ酸はガリにも多く含まれる
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自然はヒトの味方ではない!
だから、人類は知恵(育種・品種改良)を使って(まだ)生き残っている
これは「自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果」(=文化の定義)!
天然素材をウリにした「健康食品」の課題?
サプリほど「食の道理」の必要な食はない
こう言ったことは何を意味しているのか?
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健康食品:市場状態
医薬品
(医薬部外品を含む)
特定保健用食品 栄養機能食品
(個別許可型) (規格基準型)
保健機能食品
世間で言う健康食品
いわゆる健康食品
一般食品
食 品
一方で、中小のレベルが落ちて安易に金儲け
→訳の分からないモノが市場に出回る?
全体で 2兆円の市場。トクホの市場は 09年に20% 減、大半は定義のない「新食品」
→チャンとしたものを世に出すチャンス!
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2015年6月頃から市場に出回る「機能性表示」食品
科学的に説明のつかない健康食品による人々の経済的/医療上被害を減らそう
食品が持つ本来の「機能」をよく認識しよう
消費者にはより賢い選択を
① 温州ミカン:β-クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ。更年期以降の女性の方に
② ホウレンソウ:ルテインを補い、目の健康維持に役立つ③ 豆乳:β-コングリシニンを含み、正常な中性脂肪の値の維持
に役立つ
製造/販売者側の要件:食材の持つ①機能性 ②安全性 & ③リスク管理
意図と意味
表示例
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「量の概念」で物事を考える:量とは総量と含量(濃度)、生体の化学反応は「量」で決まる
より賢い選択のために科学的理解を!
毒か薬か(毒物学)
中世の医師であり、錬金術であったパラケルスス(1493-1541)は、「物質にはすべて毒性がある:毒性のないものはない。量が毒か薬かを区別する」と毒性の本質を定義。
つまり、薬は適量を適正に使用することにより初めて治療薬としての効果を発揮する。
効くものには毒性があるとも表現できる。