1. Introduction 日本に自生するおよそ 300 種のラン科植物のうち 3 分の2 にあたるおよ そ200種は,絶滅の危機に瀕している。ラン科植物は,共生菌との共生に 強く依存して生活している植物群であり,保全措置のための移植が難し いとされている。しかし近年,種子の発芽の有無により共生菌の有無を 確認する野外播種試験法が考案され,これを応用することにより種子か らの増殖による保全の可能性が高まっている。 本研究は,環境省のレッドリストに指定されている キンラン と,クゲヌマ ランについて野外播種試験法を試したものである。株式会社東芝横浜事 業所の生物多様性保全活動の一環として行われ,株式会社緑生研究所 と発表者が支援している。今年度までの途中経過を報告する。 3. Result キンランは1年目で,約1%の発芽率が確認された。2年目では,さらに発 芽率が増え,約20%の発芽率が確認された。地表からの深さ別の発芽率 は,1年目ではっきりとした傾向は見られなかったが,2年目で0~5cmの浅 い場所で高くなる傾向があった。 一方,クゲヌマランは1年目で,約30%の発芽率が確認された。深さ別の 発芽率は,1年目で15~20cmの深い場所で高くなる傾向があった。 4. Discussion&Future Works 発芽率や発芽に適した深さは,種によって異なることが予想される。 発芽率についてみると,今回の対象地では,キンランは1年目で約1%と 低く,クゲヌマランは1年目で約30%と高かった。このことから,クゲヌマラ ンはキンランに比べて,発芽しやすい種であると予想される。 発芽に適した深さ は,今回の対象地では,キンランは0~5cmと浅い場 所で,クゲヌマラン は15~20 cmと深い場所であった。初期発芽に関わる 共生菌の分布は,キンランは浅く,クゲヌマランは深い可能性が考えられ る。 発芽に適した深さに効率よく種子をまく ことが,ラン科植物の保全 のためには重要である。今後も継続して調査を行い,地下での発 芽・成長を追う予定である。同時に,スティック状の基盤に粘着した 種子を埋設しており,地上部についても確認する予定である。 ▴キンラン開花個体 2. Method 対象地は,横浜市磯子区新杉田に位置する,株式会社東芝横浜事業 所の敷地内である。敷地内は埋立地であり,マテバシイ,タブノキなどの 常緑樹と,コナラ等の落葉樹が混植されており,樹林帯の幅は狭く,階層 構造はほとんどみられず,林床植生は少ない。敷地内のキンランとクゲ ヌマランの生育地で,春に人工授粉を行い,秋に種子を採取した。 5×5cm のナイロンメッシュの袋に入れ, 4 連結させた埋設用マウントを 作成した。作成した埋設用マウントは,その年の冬に土中に埋め,一定 期間経過後に掘り出して,発芽・成長を確認した。 キンランの発芽・成長 は2年間,クゲヌマランの発芽・成長は1年間追うことができた。 ▴クゲヌマランで観察された発芽ステージ ▴クゲヌマラン開花個体(左)と果実(右) 0 10 20 30 発芽率(%) 播種後12か月(1年) S2 S3 S4 S5 S6-7 a ab ab b 0 2 4 6 0~5 5~10 10~15 15~20 発芽率(%) 深さ(cm) 播種後6か月 a a a a 0 2 4 6 8 10 発芽率(%) 播種後9か月 a a a a ▴クゲヌマランの地表からの深さ別の発芽率 異なるアルファベットは深さ間で有意差があることを示す(Steel-Dwass test, p<0.05) 絶滅危惧種キンラン属の野外播種試験法を用いた保全 ▴作業手順 ▾発芽ステージの特徴 林 縁 林 内 ステージ 特徴 S0 反応なし S1 胚が立体的に膨らむ S2 内種皮が割れる (発芽) S3 外種皮が割れプロトコームが露出 S4 仮根が確認 S5 プロトコームから出芽 S6 根の分化 S7 根の伸長 ▴対象地 袋掛け 伊藤彩乃(ミュージアムパーク茨城県自然博物館)・ 庄司顕則(株式会社緑生研究所)・ 赤﨑洋哉・松前満宏(株式会社東芝横浜事業所) * e-mail : [email protected] P-10 500m N スライドマウントに封入 0cm 10cm 15cm 20cm 5cm 花弁の除去 授粉 人工授粉 種子を不織布に包む 縦に4枚連結 地中に垂直に埋設 ◀キンランの地表 からの深さ別の 発芽率 キンラン生育地12か月 後(A1),24か月後 (A2),キンラン非生育 地(ブナ科樹種あり)12 か月後(B1),24か月 後(B2)。異なるアル ファベット(a,b)は深さ 間で有意差があること を示す(Steel-Dwass test,p < 0.05)。 1mm S1 S2 S3 1mm 1mm S4 1mm S4 1mm S5 1mm S6 5mm S7 5mm S7 外種皮 内種皮 プロト コーム 仮根 仮根 出芽 根 根 根 5mm S5 S6 S7 S7 S4 S3 S2~3 S0~2 1mm 1mm 1mm 1mm 1mm 1mm 1mm 1mm ▴キンランで観察された発芽ステージ 袋がけ 根 出芽 根 仮根 プロト コーム 根 外種皮 内種皮