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-4- 熱型マイクロセンサの技術動向 1.はじめに するセンサに ,に する ,したがって, センサ われていた。確かに キャリア より一 さく, あるが, マイクロマシーンニング により,そ センシング めて さく るように り, めて さく,かつ した マイクロセンサが きるように ってきた。また,異 った センサ ワンチップ いニーズに対 するセンサ が活 してきている。 マイクロセンサ シミュレーション してきており,各 する められ,より に,より に,より ,これら センサがシステム キーデバイス して 位を めるように りつつある。  ,まず, マイクロセンサ し, から マイクロセンサ 委員 マイクロ センサ 委員 」 委員 して マイクロセンサ ってきたが, これを まえた され, ある マイクロセンサ うち,マイクロ ヒータ するフローセンサ, センサお よび センサ, する ンサ, イメージセンサを し,さらに, これら センサ して される 待されるトラ ンジスタサーミスタについて する。 木村 光照 Mitsuteru Kimura 東北学院大学工学部 電気工学科 教授
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Jun 06, 2020

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Page 1: 熱型マイクロセンサの技術動向 › ... › recommend › mf › pdf › review1.pdf-5- 熱型マイクロセンサの技術動向 度差の流速依存性を利用した温度差検知型質量流量計型の

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Savemation Review 「マイクロフローセンサ」特集号

熱型マイクロセンサの技術動向

1.はじめに

 電子や正孔の運動を利用するセンサに比べ,熱に関する

現象は緩慢で,したがって,熱型センサの応答速度も遅い

ものと思われていた。確かに熱の拡散速度は,電子などの

キャリアの移動速度より一般に小さく,高速動作は困難で

あるが,近年,半導体のマイクロマシーンニング技術の発

達により,そのセンシング部の熱容量を極めて小さくでき

るようになり,高速応答で消費電力が極めて小さく,かつ

空間分解能も格段に向上した熱型マイクロセンサが実現で

きるようになってきた。また,異なった機能を持つ複数の

センサや集積回路とのワンチップ化など幅広いニーズに対

応するセンサの開発が活発化してきている。超小型の熱型

マイクロセンサの熱的問題のシミュレーションも飛躍的に

進歩してきており,各方面の熱に関する理論的,実験的検

討が進められ,より高速に,より高感度に,より高精度に

と,これらのセンサがシステム全体のキーデバイスとして

の地位を占めるようになりつつある。 

 本稿では,まず,熱型マイクロセンサの基礎を解説し,

著者が1996年1月から1999年12月までの4年間,電気学

会の「熱型マイクロセンサ調査専門委員会」と「三次元構

造マイクロ機能化センサ調査専門委員会」の委員長として

最近の熱型マイクロセンサの動向の調査を行ってきたが,

これを踏まえた最近の動向の中で,特に最近開発され,著

者の研究対象である熱型マイクロセンサのうち,マイクロ

ヒータの自己発熱を利用するフローセンサ,湿度センサお

よび熱分析用センサ,外部の熱源を検出する熱型赤外線セ

ンサ,非冷却赤外線イメージセンサを紹介し,さらに,今

後これらの温度センサとして利用されると期待されるトラ

ンジスタサーミスタについても紹介する。

木村 光照Mitsuteru Kimura

東北学院大学工学部

電気工学科 教授

Page 2: 熱型マイクロセンサの技術動向 › ... › recommend › mf › pdf › review1.pdf-5- 熱型マイクロセンサの技術動向 度差の流速依存性を利用した温度差検知型質量流量計型の

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熱型マイクロセンサの技術動向

度差の流速依存性を利用した温度差検知型質量流量計型の

二つに大別される。燃料ガス,プロセスガス等の種々の流

量(流速)を自動検出するための多種多様な高性能流量計

測システムが最近特に必要視されてきている。これらを満

たすためのセンサ性能や条件は,1)大きな流量の検出範

囲,2)高速応答性,3)高精度,4)経時変化が無視で

きる,5)小型化,6)低圧力損失,7)制御性,8)出

力信号の変換性,9)低消費電力,10)安価などを挙げる

ことができる。半導体マイクロマシーニング技術を用いた

熱型フローセンサは,超小型になり,その分,応答時間が

短く,高精度,低消費電力で大量生産が容易で,電気的制

御が容易であり,周辺回路との一体化製作が容易であると

いう特長を有しており,上記の条件の大部分の要件を満た

しており,最近,この半導体マイクロマシーニング技術に

よる熱型フローセンサの開発が活発化してきた。

 米イノバス社は,シリコンのマイクロマシーンニング技

術を駆使し,図.1に示すように半導体基板に検出流量ガス

の流れのチャンネルとそこに横断するようにマイクロヒー

タを形成させてマスフローセンサを作成し,半導体プロセ

スガスなどを高速,高精度で検出,制御するシステムを開

発して,この分野の研究者を驚かせた(1)。

2.熱型マイクロセンサの基礎

 熱型センサでは,できるだけ微小の入力パワーで,大き

な温度変化が得られることが望ましい。

 集中定数的に考えた温度Tの素子に熱パワーWが発生し

たとき,ΔTだけ温度上昇したとすると,熱方程式は,

 C(dΔT/dt) + GΔT = W  (1)

で表される。ここで,Cは発熱部の熱容量,Gは熱が発熱

部から外部に逃げるときの熱コンダクタンスである。

 W=W0exp(jωt)の形で変化するときは,

 ΔT=2W0/G(1+τ2ω2)1/2 (2)

  ただし,熱時定数τ=C/G (3)

で与えられる。Wは,ジュール熱のように内部に発生する

熱でも,マイクロ波や赤外線吸収のように外部からのパ

ワー供給によるものでも良い。またWとして加熱だけでは

なく,たとえば熱電素子による冷却も考えてよく,このと

きは,Wは負として扱い一般化することができる。

 熱型デバイスで重要なことは,高速応答のために如何に

熱時定数τを小さくするかと言うことと,同一のパワーW

の供給に対して如何に温度上昇ΔTを大きくするかと言う

ことである。τを小さくさせるには,Cを小さくさせ,G

を大きくさせればよい。しかし,Gを大きくさせるとΔT

が小さくなるので,τを小さく,かつ,ΔTを大きくさせ

るには,Gを小さくさせ,Cを一層小さくさせるしか手が

ないことが(2)式と(3)式から解かる。Cを小さくさせ

るには,同じ材料ならば素子を小さくさせなければならな

い。したがって,ガスセンサ,フローセンサや赤外線セン

サなどのように表面積が重要なデバイスでは,宙に浮く薄

膜形状が最適となる。この形状はGのうち,支持部への熱

の逃げを小さくさせることにもつながる。ここで注目する

ことは,低周波では(τω≪1),(2)式より温度上昇Δ

Tは熱コンダクタンスGのみに依存し,如何にGを小さく

させるかが問題になることである。

 熱型マイクロセンサは,上記の熱方程式に従うので,如

何に微細で宙に浮く薄膜形状を形成しセンサとして用いる

かが課題となる。熱型マイクロセンサを熱の授受の観点か

ら分類すると,マイクロヒータなどを用いたジュール熱に

より自己加熱させて,フローセンサなどに応用する方法

と,外部熱源からの赤外線などを受光し,受動的に加熱し

て,熱型赤外線センサなどに応用する方法とがある。

3.フローセンサ

 熱型フローセンサは,ヒータの冷却の流速依存性を利用

した熱線風速計型と,ヒータを挟んだ上流側と下流側の温

図 .1 イノバス社の熱式フローセンサの写真

 東京ガス(株)の根田氏らは,流速範囲,応答時間,長

期安定性に優れた特性を持つことを目標に熱型フローセン

サを開発した(2)。熱線風速計型の方が検出流速範囲が広

くなることを流体シミュレーションによって確かめ,基板

との間の熱絶縁性を高めるため,絶縁薄膜のダイヤフラム

に多結晶シリコンマイクロヒータを有する熱型フローセン

サを作成している。マイクロヒータ部分の写真を図.2に示

す。この構造では,表面に開口部をもたないので,エッチ

ング孔のエッジ部分が作る渦が計測を不安定にすることは

なくなり,熱絶縁用の空洞へ流体中の塵埃が堆積する可能

性もなくなった。また,内部応力を相殺するように二重絶

縁薄膜構造のダイヤフラムを製作したので,長時間の風圧

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Savemation Review 「マイクロフローセンサ」特集号

変動に耐えられるとしている。直径20 mm,長さ1mの塩

化ビニル製管の中央に熱型フローセンサを挿入固定して,

流速検出特性を測定した。無風状態でのマイクロヒータの

温度が室温(25℃)より80 K高い温度になるように,3.1

mAの一定電流を流し(消費電力:9.6 mW),流れを当て

たときの出力電圧の減少を記録している。最低検知流速

は,5mm/sであり,最高検出流速は,90 m/s 程度であっ

た。0~44 m/sの範囲での都市ガスに対する流速検出性能

の測定の結果(図.3),空気の熱伝導率が26 mW/m/K であ

るのに対して,都市ガスの熱伝導率は32 mW/m/Kであっ

た。また,熱型フローセンサを複数個搭載した(10個のセ

ンサを等間隔に一列に並べた)多点計測型熱式流量計を開

発し,計測している。その構造を図.4に示し,図.5には,

各熱式フローセンサの出力から求めた流速値を示す。管内

の一直径上に沿って見た場合の流速分布を示しており,流

速分布のプロファイルが流量によって異なっていることが

わかる。

 熱型フローセンサの消費電力が流速の1/2乗に比例す

ることが 1914 年にKing によって報告されているが(3),

(株)リコーの岡野氏らは,熱型フローセンサの熱伝導メカニ

ズムのシミュレーションと実験結果により論じている(4)。実

験は図.6に示すような構造で,3 mm角のSi(110)基板

上にスパッタリング法によるTa2O5薄膜を絶縁層とし,こ

の上にPt 薄膜の櫛歯状マイクロヒータ(幅:5μm,厚み:

0.2 μm)を持つ橋(長さ:1000μm,幅:200μm,厚み:

1.2 μm)を形成して行った。乾燥空気またはプロパンガ

スを流体としている。シミュレーションは支配的な現象を

抽出し,流量域0~300 L/H の伝熱現象を推測している。

その結果,高流量では King 則に従うことが確認できたが,

低流量では従わず,橋から空気中へ熱が移動する要因は空

気中の熱伝導であることが判明し,低流量と高流量の中間

領域では,熱伝導と強制対流熱伝達の2つの寄与が重なる

ことがわかったとしている。

 米ハネウエル社や(株)山武では,マイクロマシーン技

術によるPt薄膜マイクロヒータをやはりPt薄膜の温度セ

ンサで上流側と下流側で挟み,これらの温度差の流速依存

性を利用したタイプの「マイクロフローセンサ」(ハネウ

エル社はブリッジ型,山武はダイヤフラム型),所謂,温

 図.2 熱式フローセンサの流速検知部分の写真

図.3 熱型フローセンサの流速検出特性

図 .4 多点計測型熱式流量計

図.5 多点計測用熱型流量計挿入位置での流速分布

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熱型マイクロセンサの技術動向

度差検出型質量流量計を開発し,その検出流量のダイナ

ミックレンジが非常に大きく高性能であることを実証して

いるが,ここでは省略する。

4.湿度センサ

 主な湿度センサには,セラミックスまたは高分子材料等

の感湿材料を用い,水蒸気の表面吸着に伴う電気抵抗の変

化,静電容量の変化を応用した電気抵抗式,静電容量式お

よび自己発熱させた感温抵抗素子が水蒸気により熱を奪わ

れることによる抵抗変化を応用した熱伝導式等がある。電

気抵抗式や静電容量式は相対湿度を検出し,熱伝導式は絶

対湿度を検出する。また,電気抵抗式や静電容量式は小型

化が可能であるという特長を有するが,感湿材料の表面の

汚れ等による特性変化を起こしやすいという欠点を有して

いる。一方,熱伝導式はヒステリシスが無く,200 ℃程度

までの高温で低湿度から高湿度の広い範囲での湿度検出が

可能という特長を持つ。さらに,高温に熱せられているた

め,原理的に水蒸気の感温抵抗素子表面での水分吸着が無

く,表面が汚れ難いので信頼性が高いという利点も持って

いる。

 木村らは,マイクロマシーン技術を利用したマイクロエ

アブリッジにPt薄膜を感温抵抗素子として利用した熱伝導

式絶対湿度センサを開発した(5)。この絶対湿度センサは,

小型で湿度応答性が極めて敏速な1素子駆動方式が可能

で,検出部の温度が約450℃になるので,一層表面が汚れ

難く信頼性が高い。図.7にマイクロヒータ部のSEM写真

を示し,図 .8には絶対湿度と出力との関係を示す。

5. 熱分析用マイクロセンサ

 熱分析は,物質および基準物質の温度を調整されたプロ

グラムに従って変化させながら,その物質と基準物質の間

の温度差を温度の関数として測定する技法であり,食品,

生体,医薬品,工業材料など多くの物質の分析に利用され

ている。物質の相変化や化学反応のような物理・化学変化

には ,一般に発熱・吸熱が伴う。試料を加熱して行くとき

の温度Tと時間tとの関係(T-t曲線)を 加熱曲線と呼

び,そこには,これらの熱現象に対応する停滞領域,ピー

クやデイップが観測される。

 現在,DTA, TG等の多くの熱分析装置は,そのセンシン

グ部の3つの構成要素である試料昇温用のヒータ,試料ホ

図 .6 フローセンサチップのSEM写真

図 .7 マイクロヒータのSEM写真

図 .8 出力電圧の絶対湿度,相対湿度依存性(25℃,1気圧,電流8mA)

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Savemation Review 「マイクロフローセンサ」特集号

ルダ,および温度センサ(熱電対)が個々に組み立てられ

ているため,装置間のばらつきが大きく,標準物質を用い

た温度校正が不可欠である。また,正確な測定において

は,試料温度の均一性が重要であり,準定常状態での昇温

走査が必要となるため,長時間の測定を要する。通常の熱

分析装置は,等速昇温(または降温)を0.5~100 ℃/min

の範囲で変化させていることが多い。

 木村らは,上記の3つの構成要素を半導体マイクロマ

シーン技術を用いて集積化し,超小型の熱分析用マイクロ

センサを開発した。このデバイスを用いると基準試料なし

に,極微量の試料の分析を極めて短時間に測定できること

を液体試料を用いて実証した(6)。図.9に,マイクロ熱分

析センサのセンシングチップの構造を示し,図 .10には,

4個のセンシング部を持つチップの写真を示している。な

お,ここには後で述べるトランジスタサーミスタを基板の

絶対温度を測定するために搭載している。図.11には,水

試料の熱分析結果で,熱分析用マイクロセンサの加熱開始

後,32~37秒間における加熱曲線(T-t曲線)と加熱

速度曲線(dT/dt-t曲線)を示している。ここでは,水

の沸点における気化熱による停滞がはっきりと観測され,

さらに加熱速度曲線では,ピークとして観測されている。

6. 熱型赤外線センサ

 テルモ(株)の工藤氏らは,鼓膜温計用赤外線サーミス

タ・ボロメータを開発し,その基本特性を示した(7)。鼓

膜温計に用いられる赤外線センサと鼓膜の温度差は高々,

数度~十数度であるため,センサが鼓膜から受け取る赤外

線は極めて微弱であり,極めて高感度の熱型赤外線センサ

が求められる。図.12に示すように,センサの赤外線を受

光する部分は円形に面積を拡大し,それを4本の細い梁で

支持するマイクロブリッジ構造とした。赤外線受光部上に

薄膜サーミスタを設けて感温部とし,一対の支持梁上に形

成した電気配線を介して感温部の温度変化を電気信号とし

て取り出すようにしてある。センサ全体の大きさの制約か

らマイクロブリッジの全長L=1380μmとし,受光部は

直径600μm,厚さ6μm,支持梁は厚さ2μm,幅10μm

および20μmとし,サーミスタ材料として,Ge薄膜を用

いている。これらの条件下で,赤外線受光部の温度分布を

シミュレーションし,評価している。また,感温部周囲の

空気へ散逸する熱量を知るため作製したセンサを真空容器

内に設置し,一定量の赤外線を照射しながらセンサ出力の

圧力依存性を測定した。図.13にその一例を示す。圧力が

100Paより低くなるとセンサ出力は急激に増加し始め,3

×10-2Pa より低圧にすると大気圧のときに比べて約30倍

の出力が得られた。この結果は,マイクロブリッジ構造の

感温部では,支持梁を経由する熱の散逸よりも空気への熱

図.9 熱分析計のセンシング部分の構造図

図 .10 熱分析計の顕微鏡写真(4個搭載)

図.11 加熱曲線と加熱速度曲線(水試料)

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熱型マイクロセンサの技術動向

図 .12 鼓膜温計用赤外線受光部の模式図

図.13 センサ出力の周囲気圧依存性

 日産自動車(株)の廣田氏らは,シリコン基板上にSi3N4の薄膜(ダイアフラム)を形成し,この膜上にp+とn+

のポリシリコンの熱電対を34対直列に(一筆書きで)接

続されたものから構成される図 .15に示すような構造の

サーモパイル型赤外線センサを開発した(8)。また,SPICE

によるシミュレーションも行っている。熱時定数が約270

μsecの高速であるが,トレードオフ関係にある感度は約

60V/Wに留まっている。

 (株)フジクラの佐藤氏らは,マイクロ赤外線センサを

真空封止水ガラスで行う技術を確立した。また,Si基板に

結晶異方性エッチングで貫通孔を設け,出来たV溝の壁面

を熱酸化膜で絶縁し,その上にスパッタリング法で金属

(Au/Pt/Ti)を成膜して配線する表裏貫通配線技術も確立し

ている(9)。温度センサとしてクロムシリサイドのショッ

トキーバリアダイオード使用している。熱時定数が約

4msecで,NEP(等価雑音パワー)5.90×-10W/Hz1/2,NETD

(物体温度200-205℃)0.02K,感度1.69×105 V/W,D*

6.10× 107cm・Hz1/2/Wと優れた特性を示している。

7. 非冷却赤外線イメージセンサ

 非冷却赤外線イメージセンサは,非冷却 FPA (Focal

Plane Array)と呼ばれ,欧米では1970年代から防衛技術と

して研究開発が進められている(10)。1979年にはTIが強誘

電体材料であるBSTを用いて100×100画素の非冷却 FPA

図 .14 赤外線受光部の顕微鏡写真

図 .15 サーモパイル素子の概念図

の散逸が主流であることを示している。図.14(SEM写真)

に示すように,一つのチップに同一形状の感温部を二つ設

けて,一方の感温部,他方を遮蔽し,両者の差動出力を検

出するようにしている。赤外線センサのサーミスタ定数

(B定数)は4200K,センサの感度Rvは5000 V/Wで,熱

時定数τは 0 . 9 1 s であった。雑音等価温度差(no i s e

equivalent temperature difference:NETD)はセンサが識別

できる熱源の最小温度変化を表し,測定に用いる電子回路

も含めた系全体のSN比が1になるときの温度差に相当す

る。NETDは0.062Kと求められ,本センサで温度分解能

が0.1℃の鼓膜温計に十分な性能が得られている。

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Savemation Review 「マイクロフローセンサ」特集号

検出器と集積化したものも報告されている(17)。この他,強

誘電体方式ではPSTとPZを使用したもの(18),サーモパイ

ル方式では,ポリシリコンのp-n接合をThermopileに用い

た128×128画素(19),32×32画素の非冷却FPA(20)や128

画素のリニア非冷却FPAが報告されている。サーモパイル

方式では,バイアス電流を流す必要がないという利点があ

る反面,感度を稼ぐために1画素内に多くの接合を作る必

要があり,熱コンダクタンスの低減は困難であり,高速の

時定数を要するリニアFPA等への適用が有利と考えられ

る。また,ポリシリコンダイオードの順方向電圧降下の温

度依存性を利用したものが報告されている(10)。

8. トランジスタサーミスタ

 CMOSプロセスに適合する温度センサとしてサーモダイ

オードやサーモトランジスタが商品化されている(21), (22)。

サーモダイオードとサーモトランジスタは,どちらもpn

接合ダイオードの順方向電圧降下の直線的な温度依存性を

利用したものである。図.18には,サーモダイオードの一

定の順方向電流における順電圧Vfの温度依存性を示して

いる。しかし,これらのpn接合ダイオードの順電圧Vfは,

せいぜい0.7 Vであり,温度変化による出力の大きな変化

は望めない。

図 .16 ボロメータ方式非冷却FPAの画素の構造

を完成している。その後,Honeywell は図 .16に示すよう

な構造のマイクロボロメータ方式を採用した。ここで注目

すべき点は,センシング部となるボロメータ膜は,サー

フェスマイクロマシニング技術を用いて,シリコン基板上

に IC読出回路に重なる状態で基板から浮かせた二重構造

で熱コンダクタンスを低減すると共に,赤外線受光部の割

合(フィルファクタ)を増加させていることである。ボロ

メータ膜としてはVOx (酸化バナジウム)膜を使用して,

約-2%/Kの抵抗温度係数(TCR)を得ており,50 μm角

の画素で熱コンダクタンス1×10-7 W/K,熱容量1×10-9J/K

という値を実現し,320 × 240 画素の非冷却FPAで平均

NETD (f/1)=0.04 Kを達成している(11)。

 ボロメータ膜の材料としてはVOx以外にPoly-Si2(12)-(14),

a-Si,a-Ge(15)を用いたものや,金属であるTi(16)を用い

たものも報告されている。日本電気(株)によるチタン(Ti)

を用いた 128 × 128 画素の非冷却 FPA の出力画像の例

(NETD:0.09K)を図.17に示す(16)。Ti薄膜のTCRは温

度300Kで 0.25%K-1であった。

 Poly-Siを用いたものでは画素出力分離用のダイオードを

図.17 撮像例

図 .18 サーモダイオードの一定順方向電流における順電圧Vfの温度依存性

 木村らは,バイポーラトランジスタのコレクタ抵抗はコ

レクタ電圧が一定の下では,サーミスタとして働くこと,

エミッタ-ベース間の障壁高さがサーミスタのB定数と等

価になること,したがって,エミッタ-ベース間電圧Ve

を調整すれば,可変B定数サーミスタが得られることな

ど,新しい考え方による CMOSに適合するサーミスタ(ト

ランジスタサーミスタ)を提案した(23)。

 npnトランジスタのコレクタ電流Icは,qVe,qVc>>nkT

ならば,

  Ic=I0 exp{-q(Vd-Ve)/nkT}+Iceo (4)

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熱型マイクロセンサの技術動向

と近似できる。Iceoはベース開放時のコレクタ電流でnは

理想係数である。

 コレクタ電圧Vcを固定したときのコレクタ抵抗Rcは,

  Rc=Vc/(Ic-Iceo)=Vc/Δ Ic=

  Rc0 exp{q(Vd-Ve)/nkT}=Rc0 exp{B/T} (5)

となる。ここで,Rc0(=Vc/I0)は温度無限大のときのコレク

タ抵抗Rcに相当し,q(Vd-Ve)/nkをB定数とおくと,式(5)

のようにサーミスタの抵抗温度特性と同等に扱うことがで

きる。Vdは一定なので,このB定数はVeによって変化す

ることも式からわかる。

 図.19にnpnトランジスタを用いたトランジスタサーミ

スタの駆動回路を示す。npnトランジスタは1チップ上に

二つ製作している。1つはトランジスタサーミスタとして

用い,もう1つはトランジスタのエミッタ・ベース間のpn

接合ダイオードをツェナーダイオードとして用いるためで

ある。図.20にこのトランジスタサーミスタの測定結果を

示す。プロット点に最小自乗法でフィッテイングさせると

温度が無限大のところでRoの一点にほぼ収束しているこ

とがわかる。B定数はエミッタ電圧Veを0.56V~0.62Vま

で変えたとき,7408K~ 6799Kまで変化した。

図 .19 トランジスタの断面図と測定回路

 また,バイポーラトランジスタばかりでなく, 

MOSFETでも,そのサブスレショルドで駆動すれば,バイ

ポーラトランジスタと同等に扱えるので,ゲート電圧の調

整で,B定数の調整ができるトランジスタサーミスタとな

ることも実証している(24)。

 また,トランジスタサーミスタの基本原理を利用する

と,pn接合ダイオードだけを用いて,その順方向電圧を固

定できる回路を演算増幅回路と組み合わせて構成すること

により,言わば,バイポーラトランジスタのコレクタ抵抗

を演算増幅回路に組み込む形にすることにより,感温部で

コレクタ損失の発熱を伴わない非常に高感度の温度センサ

が形成できることも木村により提案されている(25)。

 これらの温度センサは,現在の高度に成熟したシリコン

の半導体 ICプロセスのみで形成でき,超小型にできるこ

と,ICの一部のトランジスタやダイオードを利用できるこ

とから,今後各種の温度センサに応用されるものと期待し

ている。

図.20 コレクタ抵抗Rcの温度T依存性

9. おわりに

 本稿では,熱型マイクロセンサのうち我が国での最近の

研究結果で,著者の特に関心のあるセンサを中心に,その

ほんの一部を紹介した。世界的な動向として,熱型マイク

ロセンサは,センサ感度の高さよりも経時変化の極めて少

ない安定したセンサ感度を持ち,CMOSプロセスに適合す

るかどうかが重要視され,成熟した半導体 ICプロセスと

マイクロマシーンニング技術の融合による集積化センサの

安価な大量生産化の開発が中心になってきている。また一

方では,シミュレーションと組み合わせて,上記条件の中

での最適化,特に感度と精度の両面からノイズ限界への徹

底的取り組みが行われている。

 ここでは取り上げなかったが,熱型マイクロセンサとし

て,高速応答,低消費電力性を生かしたハンデイなマイク

ロヒータのガスセンサや真空センサなどへの応用,赤外線

光源としてガス成分分析への応用,化学反応の助長用など

広大な分野への応用が試みられてきており,将来が楽しみ

なデバイスである。

〈参考文献〉

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特願2000-3124

〈著者略歴〉

(正員)昭和17年11月14日生(57歳)。昭和36年~昭和38年,(株)リコー勤務

(現社名)。

昭和42年3月電気通信大学電気通信学部電子工学科卒業。昭和49年3月東北

大学大学院工学研究科博士課程電子工学専攻修了。工学博士。

同年4月東北学院大学工学部電気工学科に講師として勤務。

昭和63年4月教授に昇任し,現在に至る。

昭和61年8月~昭和62年3月米国カリフォルニア大学バークレー校の化

学工学科の客員教授。半導体をベースにした各種デバイス,センサの開発研究

に従事。マイクロエアブリッジヒータ,マイクロエアブリッジ赤外線センサ,

MCCGTO,トンネルトランジスタなどを発明。応用物理学会,電子情報通信

学会,電気学会,日本応用磁気学会,IEEE,MRS会員

木村光照(4-13).PM6.5J 01.1.31, 8:39 AMPage 12 Adobe PageMaker 6.5J/PPC

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熱型マイクロセンサの技術動向