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12005.5.24「安全・環境と社会
火曜日3限 経済111教室
環境汚染のリスク評価
横浜国立大学 大学院環境情報研究院
益 永 茂 樹
http://risk.kan.ynu.ac.jp/
本講義に関する参考図書
・「環境リスク論」 中西準子著, 岩波書店 (1999年)
・「演習 環境リスクを計算する」
中西準子、益永茂樹、松田裕之編, 岩波書店 (2004)
「リスク」とは?Risk はイタリア語の risicare に由来
risicare = 勇気を持って試みる → 選択の意味を持つ。
risk 危険 (danger), 冒険, 危険性[度], 損傷[損害]のおそれ, リスク;
危険要素.(保険上の)危険, 損害.
take risks 危険を冒す
at all risks=at any [whatever] risk どんな危険を冒しても, ぜひとも.
at risk 危険にさらされて; 《法的・経済的に》リスクを負って; 妊娠のおそれのある.
at one's own risk 自分の責任において, 危険は自己負担で.at the risk of… …の危険を冒して, …を犠牲にして.
put…at risk …を危険にさらす, あぶないめにあわせる.
run [take] risks [a risk, the risk] (of…) (…の)危険を冒す.
(研究社 リーダーズ+プラス 英和辞典)
リスク学における定義:避けたい事象の起こる確率
あるいは、避けたい事象の起こる確率×避けたい事象の重大性
2
2
人の健康リスク評価に基づいた化学物質規制へ: 米 国
米国(食品医薬品化粧品法 ドレーニー条項[1958])
・その量や程度にかかわらず、ガンを誘発する証拠を示したすべての添加物にその使用限度をゼロとする。
-> いかなるリスクも認めない
ところが、
・発がん物質には閾値(しきい値)がない→ 少量でもそれなりの危険性がある。
・発がん物質がたくさんある → すべてを禁止できない
○発がん物質を摂取しても必ずガンになるわけでない
→ がんになる確率があるだけ
→ リスク(避けたいことが起こる確率)で扱おう
○発がんの程度が問題→ この危険性を確率的に扱おう (リスク概念の導入)
化学物質のリスク評価への道程 3
問題が重層的1つの問題の解決は他の問題を悪化
個々の問題で対応できた複雑さ
不明確証明不可能確率でしか表現できない
比較的明確因果関係
特定の人・場所が受ける影響は小さい影響が出る前に対処したい影響は将来
比較的明確被 害
不特定多数一般市民
特定者 (工場/開発者)汚染者負担原則
原因者
広域地球全体
特定地域広がり
環境問題公害問題
公害から環境へ4化学物質のリスク評価への道程
3
安全-危険の2分論からリスク評価へ (1)
① 閾値(しきいち,いきち)がない
悪影響のない許容量以下で使う場合、
安全←→危険 の二分法でよかった。
放射能/発がん物質 → 閾値がない
→ どんなに少なくてもそれなりの危険がある
→ すべてを禁止できない → リスクの許容
リスクの大きさを定量的に評価して管理する必要。
② 公害問題から環境問題へ
小さい危険性を扱う必要
不確実な事象を扱う必要(予測に基づく確率的扱い)
いくつもの要素の間で調和をとる必要
化学物質のリスク評価への道程 5
化学物質の曝露濃度/摂取量
毒性影響
発がん物質=閾値なし
非がん物質=閾値あり
発がん確率
発症率
発がん物質と非がん物質の用量-反応関係
6化学物質のリスク評価への道程
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安全-危険の2分論からリスク評価へ (2)③ リスク概念を使うことの利点(比較評価が可能に)
リスクは定量的 → 大きさの比較が可能
広域/不特定多数 → リスクの加算
→ ポピュレーションリスク (リスク総量)
被害が小さい → 確率的(リスク概念に合致)
影響が将来 → 確率的(リスク概念に合致)
因果関係が不明確 → 確率事象 (リスク概念に合致)問題の複雑さ → エンドポイントの重層化
④ リスク・マネージメントへ
対策の有効性評価 → 費用と効果が問題
→ リスク/ベネフィット(便益)解析 → コスト/ベネフィット解析
化学物質のリスク評価への道程 7
ハザードとリスクは違う
●ハザード = 化学物質の危険性を表す
ハザード評価に必要な情報:毒性データ
●リスク = 避けたい事象の起こる確率
人や生物にどのくらいの危険性があるか表す
リスク評価に必要な情報:
①どういう危険性を問題にするのか影響判定点
(エンドポイント)を決める
②毒性データ
③その化学物質の曝露量(摂取量)
リスクの大きさ=[毒性]×[曝露量]
化学物質のハザードとリスク
化学物質のリスク評価への道程 8
5
安全[危険]管理とリスク管理の違い
●安全管理 → 絶対安全を目標
安全と危険の両端があるのみ
(安全[危険]の程度が示されない)
●リスク管理 → 危険の大きさと起こる確率を明確化し
あるリスクレベル以下に管理する
(程度[数値]による管理)
絶対安全は実際には達成できないにも係わらず、社会
では、しばしば絶対安全が求められたり、あるいは、安全
であるという主張がなされる。
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安全管理とリスク管理
化学物質のリスク評価のプロセス
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ハザードの同定 (毒性データ)
↓
エンドポイント(影響判定点=避けたいこと)の決定
↓
曝露評価 (取り込み量を推定)
↓
用量-応答関係 (取り込み量と影響の関係)
↓
リスクの算出
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エンドポイント (Endpoint)11
エンドポイント(影響判定点)が備えるべき条件
1.多くの人が避けたいと思う事象であること
2.エンドポイントの回避が、人の健康保持、または、
生態系の保全の中で重要な役割を果たすこと
3.測定、予測可能であること
4.対策に対して敏感であること
生物学的エンドポイントの階層性
景 観
生態系
群 集
個体群
個 体
器 官
組 織
細 胞
分 子
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バイオマーカー
生態系との関連性
・総合性
(出典) R. A. Pastorok: in Ecological modeling in risk assessment, Pastorok et al. ed., Lewis Publishers (2002) p. 4に基づく中西準子: リスク解析がめざすもの, 科学 72[10] 982 (2002)
______________________________________________________________________________________________M. Gamo, T. Oka, J. Nakanishi (1995) Method evaluating population risk from chemical exposure: a case study concerning prohibition of chlordane use in Japan, Regulatory Toxicology and Pharmacology 21[1] 151-157.M. Gamo, T. Oka, J. Nakanishi (2003) Ranking the risks of 12 major environmental pollutants that occur in Japan, Chemosphere 53[ ] 277-284.
延命施策の効率比較Center for Risk Analysis, Harvard Universityリスク削減政策の効率評価の研究を続けてきた
リスク削減に必要な費用を、「1人の余命1年の損失を防ぐための費用」 言い換えると、「1人年の寿命を獲得のための費用」「CPLYS: Cost per life-year saved」
として計算し、比較可能にした。
Tengs et al.の論文では 587 の政策を評価した。費用が負のものから100億ドル以上まで、広い範囲に分布
費用効率の悪い施策を止め、費用効率の良いものに移すことで多くの命が救えると主張。
__________________________________________________________________________T. O. Tengs, M. E. Adams, J. S. Pliskin, D. G. Safran, J. E. Siegel, M. C. Weinstein, J. D. Graham (1995) Five-hundred life-saving interventions and their cost-effectiveness, Risk Analysis 15[3] 369-390.
リスク削減対策の費用効果(Tengs et al. 1995)
34,000,000飲料水中TCE濃度を2.7 μg/Lに規制(現状11 μg/L )環境
49,000,000絶縁テープのアスベスト禁止環境
240,000ベンゼンの揮発の制御(既存)環境
140,0004 pCi/L以上の住宅のラドン対策住居
29,000ブレーキブロックのアスベストの禁止有害物質
21,000~1,300,000定期的な車検交通
10,00035~49歳女性を対象にマンモグラフィーと検診(毎年)医療
6,700エアバックの義務づけ交通
4,200水道水の塩素処理とろ過衛生
1,500ランダムな車検交通
69シートベルトの義務づけ交通
<0子供の免疫処置医療
<0昼間の点灯交通
リスク削減費用(CPLYS, $)
対策分野
CPLYS: 1993年のドル、 TCE=トリクロロエチレン
34
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米国における延命1年当たりの対策費用の分布(n=587)
出典:Tammy O. Tengs, M.E. Adams, J.S. Pliskin, D.G. Safran, J.E. Siegel, M.C. Weinstein, J.D. Graham: Five-hundred Life-Saving Interventions and Their Cost-Effectiveness, Risk Analysis 15[3] (1995)
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%
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介入の段階と種類により分類した延命費用の中央値(USA)
第一段階:完全に病気や傷害を予防する。
第二段階:早期発見と介入で、病気や傷害の進行を遅くする、止める、改善する。
第三段階:傷害が起こってから治療、手術により機能を回復させる。
出典:Tammy O. Tengs, M.E. Adams, J.S. Pliskin, D.G. Safran, J.E. Siegel, M.C. Weinstein, J.D. Graham: Five-hundred Life-Saving Interventions and Their Cost-Effectiveness, Risk Analysis 15[3] (1995)
Paul Milvy, "De Minimis Risk and the Integration of Actual and Percieved Risk from Chemical Carcinogens"in Chris Whipple ed., "De Minimis Risk", Plenum Press, New York, 1987
人口の対数
がんの生涯死亡率の対数
40
21
米国での生涯発ガン死亡リスクと規制との関係の凡例
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Paul Milvy, "De Minimis Risk and the Integration of Actual and Percieved Risk from Chemical Carcinogens"in Chris Whipple ed., "De Minimis Risk", Plenum Press, New York, 1987