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ペンタフルオロフェニルホウ素 (II I):1) フッ素等を含む電子求引性アリール基とホウ素原子が共有結合したアリールホウ素化合物Ar nB(OH) 3-nは,そのアリール基の数と電子求引性によって,ホウ素のルイス酸性とその近傍の嵩高さを制御することができる。特に,アリールホウ素 (III)(Ar3B)は古典的ルイス酸であるハロゲン化ホウ素 (III)(BX3)と比較しても遥かに安定であり,また,その立体的嵩高さもルイス酸触媒として魅力的である。 ペンタフルオロフェニルホウ素( I I I )(B( C 6F5) 3)はフッ化ホウ素( I I I )・エーテル錯体(BF3•Et2O)と塩化ホウ素(III)(BCl3)の中間に位置するルイス酸性にも関わらず,酸素との反応性も低く,熱的にも(2 7 0 ℃まで加熱しても)安定な結晶性白色固体である(現在市販されている)。また,有機溶媒に対する溶解性に優れヘキサンにも溶解する。これまで,B ( C 6 F 5 ) 3 は主にメタロセン触媒によるポリマー合成における助触媒,即ち,メタロセンカチオン錯体の生成に用いられ,通常の有機反応にはほとんど用いられることはなかった。筆者等は,いちはやく B ( C 6 F 5 ) 3 が湿気等で分解しやすい古典的ルイス酸に代わる次世代のスーパールイス酸触媒となることを見出した。1 )
古典的ルイス酸を用いるシリルエノールエーテル類とアルデヒドとの向山アルドール反応は,一般に,化学量論量のルイス酸を必要とし,厳密な無水条件下で行わなくてはならない。しかし,1 - 2 m o l%の B(C 6F5) 3を用いれば,途中で失活することなく反応は円滑に進行する。特筆すべきは,市販のホルマリン水溶液をそのまま反応に用いて,カルボニルの α 位をヒドロキシメチル化できることである。このことは反応系に水が混在しても,B ( C 6 F 5 ) 3 はなお十分な触媒活性を維持することを示す。親電子剤としては,アルデヒドのみならず,クロロメトキシメタン,ジメチルアセタール,オルトエステル等も使用できる(スキーム1)。2 a , c )
Scheme 1.
ルイス酸触媒としての B ( C 6 F 5 ) 3 の特徴は,特にイミンとケテンシリルアセタールのマンニッヒ反応において遺憾なく発揮される。この反応に用いられる古典的ルイス酸は塩化チタン( I V ) が代表的であるが,反応は触媒的に進行しない。これはイミンの強力な配位能や生成物の塩基性によってすぐに触媒が失活してしまうためであり,一般に,酸触媒による含窒素化合物の縮合反応は非常に困難である。一方,B ( C 6 F 5 ) 3 の求核攻撃に対する耐久性と熱安定性,含窒素化合物との速い配位-解離平衡を考えれば,B(C 6F5) 3がマンニッヒ反応の優れた触媒になることが理解できる。大抵の場合,反応は円滑に進行し,特に,エナミン経由の副反応が起こりやすい脂肪族イミンに対しても適用できることは注目に値する(スキーム2)。2 b , c )
筆者ら以外にも,最近,Piersらは,1-4 mol%の B(C6F5)3と1 当量のトリフェニルシランを用いた芳香族カルボニル化合物のヒドロシリル化5 a ) 及びアルコールのシリルエーテル化5 b )
を報告している(スキーム3)。前者の反応ではエステルの反応性が最も高く,B(C6F5)3はカルボニル基ではなくシランのヒドリドを活性化する。また,山本(嘉)らは,同反応条件下,過剰量のヒドロシランを使うことにより,アルコール及びエーテルをアルカンに還元できることを報告している。5 c , d ) その際,切断される炭素-酸素結合の反応性は1級,2級,3級アルキル基の順に低下し,カルボカチオンの安定性とは逆になる(スキーム3 )。山本(嘉)らは,20 mol%の B(C6F5)3存在下トリブチルスズヒドリドを用いたアレンのヒドロスタニル化についても報告している。6 ) この反応によって重要な合成中間体であるビニルスズが高い位置選択性で得られる。反応は B ( C 6 F 5 ) 3 がアレンの内部オレフィンに配位し,ジッターイオン中間体を経て進行する(スキーム3)。
向山らはカルボン酸を基質に用い,等モル量の電子求引性芳香族カルボン酸無水物を反応系に加え,チタン( I V ) 触媒存在下,反応系中で活性な混合酸無水物を発生させ,アルコールと反応させることに成功している(スキーム5の(a))。14) 筆者らも,同様の反応をスカンジウム(III) 触媒を用いて成功している(スキーム5の(b))。11) 後者の場合,溶媒としてジクロロメタンの代わりに毒性の低いニトロメタンを使用出来る利点がある。しかし,これらの反応では生成するエステルに対し等モル量のカルボン酸が生成する。その後,向山らは0.1 mol%のチタン触媒と過剰量のオクタメチルシクロテトラシロキサンを用いてエステル縮合に成功している(スキーム5の(c))。15)
Scheme 5.
スカンジウム( I I I ) トリフリルメチド:7 ) ベンジル基はアルコールやカルボン酸の保護基として広く使用されており,その脱保護はP d / C 等の不均一触媒存在下,水素化分解によって行われる。しかし,コンビナトリアル合成のように基質を固体に担持する場合は,均一触媒による脱保護が必要となる。筆者らはトリフリルイミドよりも強酸性を示すトリス(トリフリル)メタンやそのスカンジウム( I I I )塩がアニソールを溶媒に用いた脱ベンジル化反応(フリーデル・クラフツ反応)の高活性均一触媒になることを見出した。一般にベンジルアミドの水素化分解は非常に困難であることが知られているが,この酸触媒反応を使えば,高収率で脱保護できる(スキーム6)。16)
Scheme 6.
トリメチルシリルトリフリルイミド:7 ) トリメチルシリルトリフリルイミド(Me 3S i NT f 2)はトリメチルシリルトリフラート(M e 3 S i O T f)よりも強いルイス酸である。しかし,ルイス酸性が強すぎ,有機反応の酸触媒としての利用が困難とされてきた。筆者らは種々の反応条件を検討したところ,M e 3 S i N T f 2 がトリメチルシリル求核剤とカルボニル化合物との炭素-炭素結合生成反応の触媒として非常に有効であることを見出した。HNTf2(0. 5 m o l%)とアリルトリ
メチルシランをジエチルエーテル中,室温で3 0 分間撹拌した系中でM e 3 S i N T f 2 を調製し,その混合溶液にベンズアルデヒドを2時間かけてゆっくり加えたところ,ホモアリルアルコールが98%収率で得られた(スキーム7)。17) これまではルイス酸触媒の活性を維持するために大抵ジクロロメタンのようなハロゲン系溶媒が用いられてきたが,触媒の著しい酸性度の向上により毒性の低いエーテル系溶媒の使用が可能になった。
アルコールの1:1 混合物からの触媒的脱水縮合反応に成功した。田辺らはジフェニルアンモニウムトリフラート(1~10 m o l%)を用いて,一方,筆者らは市販の塩化ハフニウム(I V )・テトラヒドロフラン(0.1~1.0 mol%)を用いて,カルボン酸とアルコールの1:1 混合物をトルエン溶媒中で加熱還流して脱水し,目的のエステルをほぼ1 0 0 %の収率で合成した(スキーム8 )。これらの方法は高い触媒回転数と水のみを副生成物とする点で画期的である。特に後者は3級アルコールを除く殆どすべての脂肪族及び芳香族のアルコールと脂肪族及び芳香族のカルボン酸に適用できる。注目すべきは,ハフニウム( I V ) 塩を用いて4 万~6 万を越える数平均分子量を持つポリエステルが極めて簡便に合成できることであり,工業的プロセスとしても大きな期待が持たれる。
Scheme 8.
H f ( I V ) の触媒機構については明らかではないが,H f ( I V ) がエステルとアルコール間の交換反応を促進しない点は興味深い。一方,Ti(IV)はこの交換反応の触媒となる(スキーム9)。
また,H f C l 4 • ( T H F ) 2 はヒドロキシエナールやヒドロキシエノンの脱水触媒としても有効であることが当研究室によって明らかとなった(スキーム1 0 )。興味深いことに,エステル化同様,Hf(IV)は Ti(IV)や Zr(IV)よりも高活性な触媒であった。20)
Scheme 10.
2.2. 分子認識能をもつルイス酸
酵素の触媒する生体内反応では,基質に対して巧みに配置されたプロトンの水素結合が,反応の選択性や特異性を支配する重要な役割を担っている。しかし,同じ反応をフラスコの中で適切な反応場のない状況で方向性のない比較的低分子のプロトン酸をそのまま使ってはこうした高い選択性は期待できない。ルイス酸触媒もプロトンと同じように基質の官能基に配位することができるが,その結合エネルギーは遙かに強い。そのため,ルイス酸触媒の構造を少しぐらい嵩高くして,立体障害のあるルイス酸をデザインしても基質に十分に配位してくれる。酵素反応でのプロトンに近い働きも期待できることになる。 このような考えに基づき,当研究室では既にアルミニウムフェノキシドM A D やA T P H を開発している。これらは中心金属近傍の立体的嵩高さや芳香環で囲まれた空洞のため,従来のルイス酸ではまねできない高度な立体選択性や分子認識が可能である(スキーム1 1)。2 1 )
Scheme 11.
Table 2.
C8H17OH +
1.1 mmol 1.1 mmol
+
R2
Ph(CH2)3Ph(CH2)3
1-adamantyl
Yield (%)
(octyl ester:cyclohexyl ester)
>99 (66:34)
99 (89:11)
>99 (>99:1)
catalyst (mmol)
TiCl4 (0.02)
HfCl4•(THF)2 (0.01)
HfCl4•(THF)2 (0.02)
time (h)
10
5.5
11
OH C8H17O R2
O
O R2
Ocatalyst
tolueneazeotropic reflux
(–H2O)
+ R2CO2H
1.0 mmol
HfCl4•(THF)2 (10 mol%)
MeCN or EtNO2, refluxR1 R2
OH O
n R1 R2
O
n
Products (yield)
CHO
99%
O
99%
t-BuCHO
42%
OAl
O
O
PhPh
Ph
Ph
Ph
Ph
ATPH
OAl
O
Me
t-Bu
t-Bu
t-Bu
t-Bu
MAD
例えば,α , β- 不飽和アルデヒドとAT P H との複合体に外部から求核剤を作用させると,カルボニル基近傍が配位子に覆われ保護されるので,求核剤は β 位を攻撃し,いわゆる1 , 4 -付加反応が進行する(スキーム12)。22) α,β- 不飽和カルボニルへの1,4-付加は遷移金属触媒でも達成できるが,その反応機構は全く異なるので,それぞれの適用範囲も異なる。
Scheme 12.
また,AT P H を芳香族アルデヒドや芳香族ケトンに配位させることにより,有機リチウム反応剤を選択的にベンゼン環上に付加させることができる。また,芳香族酸塩化物を用いて反応を行うと,他の芳香族カルボニル化合物ではほとんど進行しなかったメチルリチウム,リチウム酢酸エステルエノラート,有機グリニャール反応剤でさえも,効果的に脱芳香族化を伴う共役付加が円滑に進行する(スキーム1 3 )。AT P H -安息香酸塩化物錯体の単結晶X線構造解析から,安息香酸塩化物に対し3つのフェニル基が互いに向かい合うサンドイッチ構造をとることにより,より反応性の高いカルボニル基を安定化していることが明らかとなった(スキーム14)。23)
Scheme 14. Schematic Depiction of the Induced Conformational Changes of ATPH as 'MolecularTweezer' for Effective Inclusion of PhCOCl (The three benzene rings correspond to the darkenedphenyls.)
M A D やAT P H 等のアルミニウム反応剤のもつ卓越した分子認識能を,不斉合成に直接適用することはできない。また,ビナフトールとトリアルキルアルミニウムから調製した反応剤では複雑な分子会合が起こってしまい,不斉合成には少し不都合である。そこで,ビナフトールの3 , 3 ' 位に嵩高いシリル基を導入することによって,活性部位である金属アルミニウム近傍の空間サイズを調整すると同時に反応剤の会合を抑えた。その結果,幾つかの反応で非常に高いエナンチオ選択性を観測した(スキーム17)。27)
キラルアシロキシホウ素触媒: ビナフトールのキラル配位子としての有効性は明らかであるが,さらにルイス酸触媒の活性を高めるためにはフェノールよりも強い電子求引性配位子の設計が必要である。そこで,筆者らは入手容易な光学活性ヒドロキシカルボン酸やアミノ酸に含まれるカルボキシル基に注目し,世界に先駆けて酒石酸モノエステルあるいはアミノ酸のスルホンアミドとホウ素反応剤より調製した2つのタイプのキラルアシロキシホウ素触媒(CAB)を開発した(スキーム20)。前者のタイプの CABは α,β-不飽和カルボン酸30a) や α,β-不飽和アルデヒド3 0 b , c ) とジエンのディールス・アルダー反応,アルデヒドとダニシェフスキー・ジエンとのヘテロ・ディールス・アルダー反応,30d) 向山アルドール反応,30e) 櫻井・細見アリル化反応30 f ) のキラル触媒として有効であり,単独の触媒でこれらの反応の不斉誘導を可能にした唯一の例として注目に値する。30g) 後者のタイプの CABについては筆者ら30h)
とHelmchenら30i) の発表後,内外の多くの研究グループによっても研究された。30i-m) 特に,電子求引性アリール基をホウ素置換基にもつトリプトファン型 C A B はアルデヒドとシリルエノールエーテルの向山アルドール反応に対してこれまでの C A B 触媒のなかで最も高いエナンチオ選択性と触媒活性を発現した(スキーム20)。30n) CAB触媒の有効性は伊津野らによって不斉重合反応においても確かめられている。3 0 o )
Scheme 20.
キラルジホスフィン・銀錯体: 当研究室では新規キラル触媒として,共に市販品であるBINAPと銀塩から簡単に調製できる BINAP・銀錯体の開発に初めて成功した。31) このキラル銀触媒は,櫻井・細見アリル化反応や向山アルドール反応において優れた触媒活性を示し,従来のキラル触媒では実現困難であった立体異性体の選択的合成を可能にした。例えば,( R ) -
B I N A P • A g F の存在下,クロチルトリメトキシシランとベンズアルデヒドとの反応を行ったところ,γ 付加体のみが,クロチルシランの二重結合の E / Z 比にかかわらず高いアンチ選択性とエナンチオ選択性で得られた。3 1 a ) また,本触媒をトリメトキシシリルエノールエーテルに適用することにより,シン選択的不斉アルドール反応が実現した。3 1 b , c ) 更に最近,BINAP•AgOTf錯体にKFと18- クラウン-6 を加えた触媒が,THF中で,アリル化反応,アルドール反応に対し良好な化学収率と高いエナンチオ選択性を与えることがわかった。3 1 d ) 注目すべきは BINAP•AgOTf錯体による不斉アルドール反応が BINAP¥AgF錯体とは逆にアンチ選択的であることである(スキーム21)。
キラルヒドロキサム酸配位子を用いるバナジウム (V) 触媒: 当研究室ではビナフトールやカルボン酸に代わる新たな配位子としてヒドロキサム酸に注目し,これを用いてキラルバナジウム( V ) 触媒を開発した。3 2 ) まず,ビナフチル骨格をもつヒドロキサム酸を設計し,このものとV O ( O i - P r ) 3 より調製される錯体を合成したところ,アリルアルコールの不斉エポキシ化反応の触媒に有効であることがわかった。32 a , b ) 更に最近,コンビナトリアル手法を応用してアミノ酸から2段階で容易に合成可能なヒドロキサム酸を設計した。このヒドロキサム酸は酸無水物,アミノ酸,そしてヒドロキシルアミンの3成分からなり,その組み合わせを変えることにより様々な誘導体の合成が可能である。この特徴を生かし,それぞれの部分を段階的に最適化することにより,高収率かつ良好なエナンチオ選択性で目的のエポキシアルコールを与えるキラル配位子を得ることに成功した(スキーム22)。32c)
Scheme 22.
3.スーパーブレンステッド酸触媒
最近,トリフルオロメタンスルホン酸(T f O H )よりも強酸性を示す酸として,(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(H N T f 2)
上記の超強酸(濃硫酸よりも強酸)は何れもそれ自身化学修飾が困難であり,ブレンステッド酸としてあるいはそのカウンターアニオンを配位子としたルイス酸触媒の設計に不都合である。そこで,筆者らは T f O H に近い酸性度を示すペンタフルオロフェニルビス(トリフリル)メタン(C 6F 5CHTf 2)に注目し,そのアリール基の化学修飾により,デザイン型ブレンステッド超強酸の設計を試みた。3 4 )
まず,様々なアリール基を有するアリールビス(トリフリル)メタン(Ar CH Tf 2)を合成可能にするため,入手容易なベンジルハライドを出発原料に用いてそのベンジル位にトリフリル基(Tf)を段階的に導入する合成法を開発した。即ち,ベンジルハライドとトリフルオロメタンスルフィン酸ナトリウム塩の求核置換反応で得られるベンジルトリフルオロメタンスルホンに,t -B uLi を加えてベンジルアニオンを発生させ,トリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることによりArCHTf2を収率よく合成した。この方法により,嵩高いものから電子求引性の強いものまで様々なアリール基をもつA r C H T f 2 の合成が可能になった。特に,ペンタフルオロフェニルビス(トリフリル)メタン(C 6F 5CHTf 2)はアルキルリチウムとパラ位特異的に求核置換反応を起こすことがわかっており,更なるデザインが可能である(スキーム2 4)。3 4 )
フッ素置換型アリールホウ酸: 電子求引性アリール基を1つ備えるA r B ( O H ) 2 は相当するA r 3B やA r 2B O H に比べルイス酸性は弱いものの,ホウ素近傍の立体障害は最も緩和されており,酸,塩基,水,熱にかなり安定であることから,選ぶ反応によっては高い触媒活性を発現する。その代表例として,筆者らのカルボン酸とアミンからの脱水によるアミド縮合反応がある。触媒量のArB(OH)2存在下,トルエンやキシレン等の非極性芳香族溶媒に1 : 1 のモル比でカルボン酸とアミンを溶かし,加熱環流によって共沸脱水し,アミドを合成する。触媒としては電子求引基をパラとメタ位に有するArB(OH)2がよく,中でも市販の3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルホウ酸や3,4,5-トリフルオロフェニルホウ酸が優れており,1 mol%の触媒量で,反応は円滑に進行する。一方,オルト位の置換基は触媒活性を著しく低下させる。また,大抵のルイス酸触媒(例えば Sc(OTf)3)はアミンによって中和あるいは分解して失活する。本反応は,アリールホウ酸とカルボン酸の脱水縮合によるモノアシロキシホウ素の生成から始まる。続いて,この活性中間体に対しアミンが求核攻撃し,アミドが生成すると同時にアリールホウ酸が再生する。つまり,ArB(OH)2は単なるルイス酸触媒としてではなく,その水酸基を巧みに活かすことによって,カルボン酸の水酸基を活性化する(スキーム2 7)。3 5 )
Scheme 27.
ナイロンは触媒を加えなくても熱重縮合により合成できるが,アラミドはその低い溶解性と芳香族ジアミンの低い求核性から,熱重縮合は不可能であると長い間考えられてきた。しかし,最近,柿本らは原料にA B 2 芳香族モノマーを用いる場合に限り,熱重縮合が起こることを報告している。3 6 ) これは生成するアラミドがデンドリマーとなり,アミド末端が常にポリマー表面に存在するためと考えられる。ごく最近,筆者らは先のホウ酸触媒を用いてm-ターフェニルと N- ブチルピロリジノン(NBP)の10:1(w/w)混合溶媒中200~300 ℃に加熱することによりナイロン,アラミド,ポリイミド樹脂の合成に成功した。3 7 ) 本手法を用いれば,A A
モノマー+ BBモノマー,ABモノマーからでもアラミドを合成できる(スキーム28)。
Scheme 28.
HO
OB
O
R1
R1CO2H + R2R3NH R1CONR2R3
3,4,5-C6H2B(OH)2 or
3,5-(CF3)2C6H3B(OH)2 (1 mol%)
toluene, azeotropic removal of water1 equiv1 equiv
F
F
F
O
NHBn
92%
NPh
O
99%
i-PrNHBn
OH
O
96% (no epimerization)
PhNHPh
O
99%
active intermediate
Products (yield)
Kevlar®(98%, η inh=1.19 dl/g)
conditions : 300 °C (2 days)
Nylon 9,T(Mw=230,000)conditions: 200 °C (1 day), 250 °C (1 day), 300 °C (1 day)
我々の発表後,38) フッ素アルキル鎖のついたホスフィンの熱特性を利用した固/液二相系による触媒回収・再利用システムがG l a d y s z らによって報告された。3 9 ) 彼らはP[(CH2)2(CF2)7CF3]3(融点47 ℃)を触媒に用いてメチルプロピオラートとアルコールの1,4-付加反応を65 ℃の均一条件下で行い,反応後は溶液を-30 ℃に冷やし,析出する触媒を回収・再利用している(スキーム30)。
PhCH2NH2
+ (3 mol%)
o-xylene–toluene–perfluorodecalin (1:1:1) or o-xyleneazeotropic removal of water, 12 h
>99%recovery of catalyst: >99%
CO2H
O
NHBn
B(OH)2
C10F21
C10F21
ArB(OH)2 ArB(OH)2
R1CO2HHNR2R3
bilayer, rt
heat
homogeneous, azeotropic reflux
cool to rt
bilayer, rt
flaskorganic layer
fluorous layer
reuse of a fluorous solution of ArB(OH)2
R1CONR2R3
1. Organic/fluorous bilayer system (temperature-dependent catalyst miscibility)
2. Liquid/solid separation system (temperature-dependent catalyst miscibility)
の魔法の酸 F S O 3 H - S b F 5 はその典型的な例である。この複合超強酸の概念とは別に,筆者らは複合酸にキラリティーを導入する新しい触媒設計の概念を築いた。有機反応の立体化学,特にエナンチオ選択性の制御に大きな威力を発揮するキラルブレンステッド-ルイス複合酸触媒の誕生である。以下にその例を示す。
ブレンステッド酸複合型キラルルイス酸: 先に(スキーム1 8 )述べた光学活性ビナフトールから誘導した4つのフェノール性水酸基をもつ配位子と3価のホウ酸メチルより調製された 1 は分子内にルイス酸とブレンステッド酸の両方を兼ね備え,言わば,ブレンステッド酸複合型キラルルイス酸(B L A )と見なすことができる。これを触媒量用いて α - 置換型不飽和アルデヒドとジエンのディールス・アルダー反応を行うことにより,高エナンチオ選択性で目的とする付加体を得た。この反応ではほぼ完全なエキソ選択性を得た。4 3 a ) 更に,反応性の低い β - 置換型不飽和アルデヒドや非環状ジエンにも適用可能な高活性触媒 2 を開発した。2 はそれ自身強いルイス酸性を示すホウ酸と光学活性トリオールから調製した。注目すべきは,分子内ブレンステッド酸がエナンチオ選択性と触媒活性の著しい向上に寄与したことである。43b,c) また,これら BLAは親ジエンに α,β-アルキニルアルデヒドを用いても有効であった。特に,ヨードプロピオニルアルデヒドは光学活性ノルボナジエン類を合成する際の出発原料として非常に有用である。本反応は ab initio計算等により,アンチ-エキソ遷移状態を経由するものと考えられる。43d )
(C6F5)nB(OH)3-n (1 mol%)t-BuCHO (6 equiv)
toluene, 40 °C, 3 h
(C6F5)3B: 48%(C6F5)2BOH: 92%
C6F5B(OH)2: 0%
OH O
O
95%
O
>99%
O
90%
Other examples (yield)
また,光学活性ビナフトールとホウ酸メチルから調製した B L A 3 は,イミンの求核付加反応に対し高い不斉認識能を示した。例えば,ベンズヒドリドイミンとケテンシリルアセタールとの反応で高エナンチオ選択的に β - アミノエステルを与えた。ベンズヒドリル基は反応後,水素化分解により容易に除去でき,β- ラクタム等への変換が可能である(スキーム33)。43e)
Scheme 33.
キラルBLAの内外の例としては,向山ら44) と小林ら45) の不斉ディールス・アルダー触媒を挙げることができる(スキーム3 4 )。両触媒ともB L A の概念とは関係なく発表されたものであるが,触媒内のプロトンが重要な役割を果たすことからB L A の例として位置づけるのが妥当であろう。44b)
Scheme 34.
O
OOH
B
CF3
CF3OO
OOH
B
(R)-BLA 1 (R)-BLA 2 (R)-BLA 3
O
O
B
HO
O
CHOCHOBr
CHO
O
MLn
CHO
CO2Et
cat. 299% ee
cat. 290% endo95% ee (S)
cat. 1>99% exo>99% ee
cat. 195% ee
anti-exo-TS
(R)-3
CH2Cl2-toluene-78 °C
+
96% eePh H
N Ph
PhOTMS
Ot-BuPh
CO2t-Bu
HN
Ph
Ph
Diels–Alder adducts
O
B
PhPhPh
H
O
O
N
O
H
H
OO
PhO
B
CF3
CF3
H
O
R3
H
R4
Nu-
Diene
O HO
O
OB
O
R
Kobayashi (1994)45)
O
O
Sc(OTf)3
H
H
N
N
N+
OBBr2
PhPh
Me H
Br
Kobayashi, Mukaiyama (1991)44)
-
ルイス酸複合型キラルブレンステッド酸: B LA の概念を更に一歩進めることにより,ルイス酸の配位によって活性化されたキラルブレンステッド酸,即ちルイス酸複合型キラルブレンステッド酸(LBA)の概念が生まれた。例えば,塩化スズ(IV) と (R) - ビナフトールの1対1配位錯体 4 は,α 位に芳香族置換基を有するケトンやカルボン酸から調製されるシリルエノールエーテル類の不斉プロトン化剤として極めて有効であり,ほぼ完全なエナンチオ選択性で S 体のカルボニル化合物に変換することができた。この際,ビナフトールは化学量論量必要となる。46a,b,e) 更に,塩化スズ (IV) と光学活性ビナフトールのモノメチルエーテルからなるLBA 5 を用いて,2 , 6 - ジメチルフェノールをプロトン源とすることによって,触媒的に不斉誘導を行うことに成功した。46c,e) トルエン溶液中,4を用いて反応を行った場合,ビナフトールの大部分はモノシリルエーテルに変換されたが,5 を用いた場合,モノメチルエーテルはそのまま回収された。この反応様式の違いが触媒サイクル実現の鍵となった(スキーム3 5 )。 これら L B A はプロキラルアリルスズのエナンチオ選択的プロトン化反応にも有効であった。( R ) - L B A を用いた本反応では E 体からは S 体,Z 体からは R 体のオレフィンが選択的に生成した(スキーム35)。46d) また,小笠原らは1,2- エンジオールのビス(トリメチルシリル)エーテルの不斉プロトン化反応に ( S ) - L B A を使用し,光学活性アシロインの合成に成功している。4 5 f ) 興味深いことに,ビナフトールの片方の水酸基を嵩高いアルキルエーテルにすることにより,高いエナンチオ選択性を獲得している(スキーム3 5)。
通常,トリメチルシリルエノールエーテルとブレンステッド酸を反応させると,前述のようにプロトデシリレーションが起こりケトンが得られる。しかし,シリル基を嵩高くし,トルエン等の非極性溶媒中でブレンステッド酸と反応を行うと,シリルエノールエーテルの速度論的異性体から熱力学的異性体への異性化が優先して起こる。筆者らは,触媒量のビフェノールのモノイソプロピルエーテルと塩化スズ( I V )の配位錯体存在下,t er t- ブチルジメチルシリルエノールエーテルの異性化反応が位置及び立体選択的に進行することを見出した。更に,( R ) -
酵素触媒によるポリプレノイド類の連続的環化反応は一挙に多環状テルペノイド類の炭素骨格を構築すると同時にすべての絶対立体化学を制御する極めて理想的かつ効率的合成法である。しかし,この種の反応を人工的に行った例はない。筆者らは塩化スズ( I V ) -光学活性ビナフトール誘導体を酵素の代わりに用いることによって世界で初めてエナンチオ選択的バイオミメティックポリエン環化反応に成功した(スキーム3 7)。48 )
複雑な炭素骨格を有する有用化学物質を数キログラムから数トン供給するためには,これまでの多段階合成に頼っていては困難である。ここに紹介したようなカスケード型の短段階合成は合成効率が高く,結局のところ環境負荷も少ない。今世紀に合成化学者が目指すべき一つの方向が,この保護基の脱着を必要としない極めて官能基選択性の高い有機合成法の開拓であろう。L B A からルイス酸複合型キラルカルボカチオン反応剤への展開: L B A のプロトンをカルボカチオンに置き換えれば,プロキラルオレフィンへのエナンチオ選択的カルボカチオン付加反応が起こるものと考え検討したところ,光学活性ビナフトールの2 - (トリメチルシリルエトキシ)メチルエーテル(S E Mエーテル)-塩化スズ( I V ) が,シリルエノールエーテルや単純オレフィンの不斉 S E M 化反応に有効であることを見出した。S E M 基はヒドロキシメチル基に容易に変換できるため,生成付加体は合成上有用なキラルシントンになる。4 9 ) 更に,キラル脱離基を利用した分子内環化反応に本手法を利用し,リモネン及びセンブレンを93% ee 及び 32% ee で合成した(スキーム38)。50)
(R)-LBA 5 (5 mol%)
toluene–78 °C, 2 min
(5 mol%)
toluene, -78 °C, 1 hR2
OSit-BuMe2
R3
R4R1
R2
OSiMe3
R3
R4R1
O
O
SnCl4
H
i-Pr
OSit-BuMe2 OSit-BuMe2
Examples
99% isomeric purity
i-Pr
OSit-BuMe2 OSit-BuMe2
99% isomeric purity
Ph
OSit-BuMe2
Ph
OSit-BuMe2
Ph
OSit-BuMe2
+
42%, 97% ee 53%
Scheme 37.
Scheme 38.
キラルアミンーブレンステッド酸触媒: 最近,L i s t らはプロリンのような光学活性アミノ酸が直接的アルドール反応の不斉触媒として有効であることを報告している。5 1 ) 当研究室では光学活性ジアミンとブレンステッド酸より調製されるアンモニウム塩が,不斉直接的アルドール反応の触媒として有効であることを見出した。ブレンステッド酸の酸性が強くなるに従い,反応速度の著しい加速がみられた。本研究はまだ始まったばかりであり,今後の展開が期待される(スキーム39)。52)
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