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【賀来】(司会) しい まりいた だきありが うございます。これより「感 におけるカルバペネム じた け」 いうテーマ めさせてい ただきます。 カルバペネム スペクトルを し,1987 イミペネム/ シラスタチン (IPM/CS) して,1993 パニペネム/ベタミプロン (PAPM/BP)1995 ロペネム (MEPM) ,そして 2002 アペネム (BIPM) 4 されております。 1 ,それぞれ をま めた す。IPM/CS からす 16 しました が,こ カルバペネム して づけ 々に変わってきました。さら 4 されたこ ,こ カル バペネム について 確にしておく がある いか いうこ りました。そ ,こ 第一 まして, からカルバペネム に, について えてい きたい います。 抗菌作用 【賀来】 について井 にお います。た セフェム されており,第一 スペクトル 大きく異 るわけ すが,カル バペネム それほ いますがいかが しょうか。 【井上】 スペクトル 4 えられますが, によって っています。グラム に対する PAPM く,以 IPM, 2 きます( 2)。 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1 1( 1 ) Feb. 2004 座談会感染症治療におけるカルバペネム系抗菌薬の 特性に応じた使い分け 大学大学院医学 大学医学 大学医学 大学医学 運営・安 院 院
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感染症治療におけるカルバペネム系抗菌薬の 特性に応じた ... 57...【賀来】(司会)本日はお忙しい中お集まりいた...

Feb 08, 2021

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  • 【賀来】(司会)本日はお忙しい中お集まりいた

    だきありがとうございます。これより「感染症治

    療におけるカルバペネム系抗菌薬の特性に応じた

    使い分け」というテーマで座談会を始めさせてい

    ただきます。

    カルバペネム系抗菌薬は,強い抗菌力と広域抗

    菌スペクトルを特徴とし,1987年のイミペネム/

    シラスタチン (IPM/CS) を出発点として,1993年

    パニペネム/ベタミプロン (PAPM/BP),1995年メ

    ロペネム (MEPM),そして 2002年ビアペネム

    (BIPM) と,現在 4薬剤が発売されております。

    表1は,それぞれの薬剤の特徴をまとめたもので

    す。IPM/CS発売からすでに16年が経過しました

    が,この間カルバペネム系薬の治療薬としての位

    置づけや使い方は徐々に変わってきました。さら

    に4薬剤が発売されたことで,この辺で一度カル

    バペネム系薬の現状について明確にしておく必要

    があるのではないかということになりました。そ

    こで,この領域で第一人者の先生方のお力を借り

    まして,様々な角度からカルバペネム系薬の評価

    を行うとともに,今後の方向性について考えてい

    きたいと思います。

    抗菌作用

    【賀来】最初に抗菌作用について井上先生にお

    話を伺います。たとえばセフェム系薬の場合には,

    世代で分類されており,第一世代と第三世代では

    抗菌スペクトルも大きく異なるわけですが,カル

    バペネム系薬の場合には薬剤間でそれほど差がな

    いと思いますがいかがでしょうか。

    【井上】基本的な抗菌スペクトルは 4剤ともほ

    ぼ同じと考えられますが,薬剤によって得意とす

    る菌種は異なっています。グラム陽性菌に対する

    抗菌力は,PAPMが最も強く,以下 IPM, 残りの2

    剤が続きます(表 2)。近年耐性菌の増加が問題

    THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1 1( 1 )Feb.2004

    ≪座談会≫

    感染症治療におけるカルバペネム系抗菌薬の

    特性に応じた使い分け

    賀来満夫 (司会)  東北大学大学院医学系研究科病態制御学講座 教授

    井上松久  北里大学医学部微生物学教室 教授

    砂川慶介  北里大学医学部感染症学講座 教授 那須 勝  大分大学医学部感染分子病態制御講座 教授

    横山 隆  広島市医師会運営・安芸市民病院 院長

  • になっている肺炎球菌に対する抗菌力もPAPMが

    最も優れており,PRSPにも対しても強い抗菌力

    を示します(図 1)。グラム陰性菌については,

    腸内細菌では4薬剤間にそれほど差はありません

    が,緑膿菌に対してはMEPMが最も強く,以下

    BIPM, IPM, PAPMの順番です。ただPAPMは,培

    地中の塩基性アミノ酸濃度によってMICが変動

    するため,in vitroの抗菌力では弱く見える場合も

    あります。

    【賀来】それは緑膿菌の場合ですか。

    ─2( 2 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1Feb.2004

    表1.カルバペネム系抗菌薬4薬剤の特徴

    表2.カルバペネム系抗菌薬4薬剤の臨床分離株に対する抗菌力

  • 【井上】そうです。MEPMは,緑膿菌に対する

    MICは4薬剤の中で最も良いわけですが,臨床効

    果の印象はいかがですか。

    【那須】臨床的にはいい感触を持っています。

    【横山】私も同じです。

    【井上】なぜそういうことを聞いたかといいま

    すと,緑膿菌の場合MEPMの感受性ディスクに

    よる阻止像を見たときに,菌量が多い場合には5

    割から6割位が二重のリングを作ります。このと

    きに内側と外側の阻止帯の間には薄く菌が残って

    おり,それをグラム染色しますと,菌が形態変化

    を起こし生育しています。MICを見る場合には,

    少ない菌量,即ち阻止帯の外側をみることになる

    ことから,MEPMが最も良いという成績がでる

    わけです。菌量が多い場合には内側の阻止帯の大

    きさはMEPMも PAPMもほとんど違いはありま

    せん。

    【横山】緑膿菌感染は術後に見られる場合が多

    く,感受性試験の結果からMEPMを使うことが

    多いわけですが,MICの割に効果が少ないという

    場合でも,現在ではニューキノロンや新セフェム

    の注射薬などに切り替えられます。現在は緑膿菌

    感染治療の選択肢が増えており,治療に困ること

    が少なくなっていることも臨床効果の低さをあま

    り感じない理由だと思います。

    【賀来】In vitroと in vivoの成績には乖離がある

    かもしれないけれども,臨床的には判断しにくい

    ということですね。

    【井上】緑膿菌に対する抗菌力を考える場合に

    は,もう一つ重要な点があります。PBP(ペニシ

    リン結合蛋白)に対する作用が薬剤によって違う

    ということです。MEPMはPBP3やPBP1Aとの親

    和性が強く,PBP2は弱い傾向があります。逆に

    PAPM, IPMではPBP2との親和性が強く,BIPM

    はその中間と考えられます。それが形態変化にも

    影響しており,PAPM, IPMと接触した菌は球形に

    なりますが,BIPMでは少し伸びた球形,MEPM

    では少し伸びて膨れた形になります。

    【賀来】薬剤によってPBPとの親和性およびそ

    れに伴う形態変化が異なるということですが,こ

    の差は有効性にどのように影響しているのでしょ

    うか。

    【井上】PBPに対する作用の違いは,殺菌力の

    強さに反映されていると考えられます。2�4 MIC濃度で菌と接触したときの1時間後の菌量をみる

    と,PAPM, IPMは1/100のレベルまで減少します

    が,MEPMでは 1/10のレベルです。ただし,

    MEPMでも3�4時間後にはPAPMや IPMと同程度まで菌量が減少しますから殺菌力はあるわけです

    が,短時間殺菌能ということではPAPM, IPMの

    方が優れていると思います(図2)。

    ─THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1 3( 3 )Feb.2004

    図1.ペニシリン耐性肺炎球菌 (PRSP) に対するb-ラクタム系薬の抗菌力 (n�352)

  • 体内動態

    【賀来】細菌の外膜透過性については薬剤間で

    違いがありますか。

    【井上】緑膿菌では違いがあるようです。一般

    にカルバペネム系薬はD2ポーリンを通過します

    が,MEPMではD2ポーリン以外からも通過でき

    るようです。ただD2ポーリン以外の何を介して

    菌体内に取り込まれているのかを証明できる明確

    なデータはまだありません。

    【賀来】蛋白結合については薬剤間で違いはあ

    りますか。

    【井上】どの薬剤も蛋白結合率は低いですね。

    ほとんど差はありません。

    【賀来】血中濃度も同じ位と考えてよろしいで

    すか。

    【井上】投与量も加味して考えれば,大体同じ

    と考えてよいと思います。

    臨床におけるカルバペネム系薬の使い分け

    【賀来】基礎的な話はここまでにいたしまして,

    次に臨床の話に移らせていただきます。長い間カ

    ルバペネム系薬を臨床の場で使用されてきた3人

    の先生方に,内科,外科,小児科のそれどれの立

    場から,治療におけるカルバペネム系薬の位置づ

    けおよびカルバペネム4薬剤の使い分けについて

    お話いただきたいと思います。はじめに那須先生,

    内科領域についてお願いいたします。

    【那須】呼吸器感染症につきましては,まず入

    院治療が必要な市中肺炎の重症例が適応と考えら

    れます。原因菌は肺炎球菌とインフルエンザ菌が

    多くなりますので,この両菌を主なターゲットに

    して,肺炎球菌であればPAPM/BP,IPM/CSとい

    ったグラム陽性菌に強い薬剤,インフルエンザ菌

    であればグラム陰性菌に強いMEPMを使用して

    います。

    【賀来】市中肺炎に使用する場合には,原因菌

    である頻度が高い肺炎球菌とインフルエンザ菌に

    合わせて薬剤を使いわけるということですね。一

    番新しいBIPMはどうでしょうか。

    【那須】BIPMはほぼ中間に位置する薬剤です

    が,どちらかといえばMEPMに近いと思います。

    したがって,インフルエンザ菌が原因菌である場

    合に使用する薬剤だと思います。

    【賀来】薬剤選択にあたっては,抗菌力を重視

    するということですか。

    【那須】そうですね。市中肺炎に対してカルバ

    ペネム 4薬剤のどれを使うかということであれ

    ば,抗菌力を重視した順番になると思います。

    【賀来】院内肺炎の場合はいかがですか。

    【那須】この場合には,いくつかのケースが考

    えられます。入院初期に発症する肺炎は比較的市

    中肺炎に類似しており,肺炎球菌やインフルエン

    ザ菌が原因菌となることが多くなります。こうし

    た初期の院内肺炎にはPAPM/BPが適しています。

    一方時間が経過してから発症する後期の肺炎で

    は,緑膿菌などが原因菌になる確率が高くなり,

    この場合にはMEPMが適しています。また嚥下

    性肺炎も比較的多いのですが,この場合にはどの

    薬剤を使用してもあまり差はないと思います。

    【賀来】敗血症についてはいかがですか。

    【那須】敗血症に使用する場合には患者背景が

    重要と考えられます。好中球が減少していたり,

    原因菌が不明の場合には,緑膿菌を意識して薬剤

    選択を行います。

    【井上】緑膿菌感染を起こした重症の患者さん

    は,免疫力が低下していますが,その場合には溶

    ─4( 4 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1Feb.2004

    図2.臨床濃度における緑膿菌PA01株に対する初期殺菌能

  • 菌したときのエンドトキシンの遊離が問題になる

    と思うのですが,薬剤による遊離量の差が臨床に

    どの程度影響していると考えられますか。

    【那須】In vitroの試験では,菌の形態がフィラ

    メント型になるとエンドトキシンが大量に遊離す

    るとされており,球形になるPAPMや IPMではエ

    ンドトキシンの遊離が少ないことが報告されてい

    ます(図3)。

    【賀来】次に横山先生,外科領域についてお願

    いいたします。

    【横山】消化器外科領域でのカルバペネム系薬

    の投与適応は,以前に比較すると拡がっており,

    最近では市中感染(腹膜炎や胆道系感染など)で

    あっても,重症感染であれば最初から投与してい

    ます。市中感染でカルバペネム系薬の適応になる

    重症例とは重症感染でありながら白血球が増加し

    ていない症例やむしろ減っている症例,高齢者,

    糖尿病などの免疫機能が低下した症例で,このよ

    うな症例では殺菌力の強いカルバペネム系薬の良

    い適応と考えています。これらの原因菌としては

    大腸菌や肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌,これに

    バクテロイデス・フラジリスが加わり,緑膿菌や

    ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌は稀です。カルバ

    ペネム系薬の中でどの薬剤を選択するかというこ

    とですが,先程話題に出て

    いましたようにPBP2に結合

    親和性が高く,初期殺菌能

    が 強 い と い う 意 味 で

    PAPM/BPや IPM/CSが良い

    と思います。

    【賀来】PAPM/BP, IPM/CS

    といった短時間殺菌能の強

    い薬剤の方が使いやすいと

    いうことですね。

    【横山】PAPM/BPや IPM/CSは初期殺菌能が強

    いと言われるだけに,実際に使ってみて切れ味が

    極めてシャープであり,重症感染に非常に使いや

    すい薬剤だと思います。

    【賀来】その他の疾患ではいかがですか。

    【横山】術後感染の重症例もカルバペネム系薬

    の良い適応です。グラム陰性桿菌が検出され,感

    受性の結果,M E P Mが優れているときには

    MEPMを投与しますが,原因菌不明でエンピリ

    ックセラピーの場合にはカルバペネム系薬の中で

    どれを選択するかは特に決めておりません。

    もう一つ胆道系の重症感染症もカルバペネム系

    薬の適応になります。カルバペネム系薬は胆汁中

    移行が悪いのですが,実際に重症の胆道系感染に

    ─THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1 5( 5 )Feb.2004

    図3.抗菌薬と4時間接触後に緑膿菌から放出される血漿中エンドトキシンの濃度

    賀来満夫博士

  • 投与して優れた臨床効果が

    見られます。おそらく重症

    化例では胆汁中濃度よりも

    血中濃度と抗菌力が臨床効

    果を発揮する重要なファク

    ターと考えられ,重症の胆

    道系感染にはカルバペネム

    系薬を最初から投与しても

    良いと考えています。

    【賀来】井上先生がいわれたエンドトキシンの

    遊離に関して,薬剤による違いを感じることはあ

    りますか。

    【横山】基礎的データでは多くの論文がありま

    すが,実際の臨床例では明確に比較した論文があ

    りませんので良く解りません。特にカルバペネム

    系薬が多用される術後感染ではエンドトキシンシ

    ョックを呈する症例は稀ですので,臨床例で薬剤

    とエンドトキシン遊離の関連を証明することが難

    しいのだと思います。

    【那須】臨床報告としてエンドトキシンの遊離

    量と患者の予後を検討した報告があります。この

    報告では,血中エンドトキシンが高値の場合予後

    が悪いとの報告もありますので,注目すべきパラ

    メータになる可能性はあると思います(図4)。

    【賀来】最後に砂川先生,小児科領域について

    お願いいたします。

    【砂川】小児に対して現在使用できるカルバペ

    ネム系薬はPAPM/BPと IPM/CSしかありません。

    ただMEPMは小児への適応を申請中ですので,

    将来的には3剤の中から選択することになると思

    います。以前は注射薬といえばセフェム系薬が好

    まれる傾向がありましたが,近年ペニシリン耐性

    肺炎球菌が著しく増加したことで,肺炎や重症の

    中耳炎で入院してくる場合には,PAPM/BPを最

    初に使用することが多くなっています。

    【賀来】髄膜炎についてはいかがですか。

    【砂川】小児の髄膜炎もカルバペネム系薬の

    重要な適応です。肺炎球菌とインフルエンザ菌が

    主な原因菌になりますので,肺炎球菌には

    PAPM/BP, MEPMで小児への適応がとれればイン

    フルエンザ菌にはMEPMという使い方になると

    思います。ただ現時点では,インフルエンザ菌に

    はセフォタキシム,セフトリアキソンを使用して

    おり,髄膜炎の初期治療もPAPM/BP+セフェム

    系薬という方法が多くなっています。

    【賀来】エンドトキシンの遊離に関してはどう

    ですか。

    【砂川】髄膜炎の場合には,ステロイドを先に

    使ってから抗菌薬を使うという方法を取っていま

    すので,エンドトキシンショックが起きる危険性

    は少ないと思います。

    【賀来】今までの先生方の話をお聞きしますと,

    カルバペネム系薬は以前の切り札的な使い方か

    ら,最近では比較的初期の段階から使う方向に変

    わってきていると思います。こうした最初からカ

    ルバペネム系薬を投与することについて横山先生

    のお考えはいかがですか。

    【横山】私は問題ないと思います。以前はどち

    らかといえば院内感染の症例(術後感染など)に

    偏った使い方でしたが,最近では市中感染にも重

    症であれば積極的に使用しており,投与対象をき

    ちんと決めておけば乱用されることもなく,初期

    治療薬として非常に有用な薬剤であると思いま

    す。

    ─6( 6 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1Feb.2004

    井上松久博士

    図4.グラム陰性菌血症の予後と血中エンドトキシン濃度

  • 安全性

    【賀来】カルバペネム系薬の安全性についても

    触れておきたいと思います。砂川先生,安全性の

    面からみてカルバペネム系薬の位置づけあるいは

    使い分けをどのように考えられますか。

    【砂川】カルバペネム系薬で問題となる副作用

    に痙攣があります。小児でカルバペネム系薬が使

    用されることの多い疾患に髄膜炎がありますが,

    痙攣を併発する危険性があるため,痙攣の副作用

    が多い IPM/CSは使えません。IPM/CSは適応もあ

    りませんから,現時点ではPAPM/BPが髄膜炎に

    使用できる唯一のカルバペネム系薬ということに

    なります。

    【賀来】相互作用についてはいかがですか。

    【砂川】4薬剤に共通する相互作用ですが,抗

    てんかん薬のバルプロ酸ナトリウムとの併用は禁

    忌です。併用した場合にはバルプロ酸ナトリウム

    の血中濃度が低下し,てんかん発作が起きやすく

    なりますので,併用禁忌となっています。これ以

    外に IPM/CSではガンシクロビル,ファロペネム

    が併用注意になっています。

    カルバペネム耐性菌

    【賀来】カルバペネム系薬は重症感染症の治療

    には必須の薬剤であり,特に日本では繁用されて

    おりますが,今後注意しなければいけない問題が

    耐性菌の出現だと思います。井上先生,カルバペ

    ネム耐性菌の現状はどうなっているのでしょう

    か。

    【井上】カルバペネム系薬で最も耐性が問題に

    なるのは緑膿菌です。その特徴ですが,一つは病

    院によって耐性率に大きな差があること,もう一

    つは同じ耐性菌株が非常に少ないということで

    す。このことから,緑膿菌の耐性菌は特定の耐性

    菌株が拡散したものではなく,先生方が薬を使っ

    ている間にそれぞれの菌が耐性化したものである

    と推察されます。耐性菌の多くはD2ポーリンの

    減少に伴う透過性の低下によるものですが,カル

    バペネム系薬の使用頻度や

    使い方の違いが結果として

    病院間の耐性率の違いとし

    て現れているのではないか

    と思います。

    【賀来】メタロb -ラクタマーゼ(カルバペネマーゼ)

    産生菌は多くないのですか。

    【井上】メタロb -ラクタマーゼは,主に緑膿菌,セラチアで問題になってお

    り,我々も調査しておりますが,分離頻度はそれ

    ほど高くありません。一部セラチアで多い施設も

    ありましたが,非常に限られた例であって,一般

    的にはまだ少ないと思います。

    【賀来】カルバペネム系薬 4薬剤を,メタロ b -ラクタマーゼによる分解されやすさから分類する

    ことは可能ですか。

    【井上】分解されやすい薬剤が IPMと PAPM,

    分解されにくい薬剤がMEPMとBIPMという分類

    ができると思います。ただ注意してほしいのは,

    分解されにくい薬剤だけを使っていると,メタロ

    b -ラクタマーゼのESBL型ともいえる遺伝子変異を起こした耐性菌が出現するということです。こ

    の耐性菌が産生する酵素はMEPMをよく分解し

    ますが,逆に IPM,PAPMはあまり分解しません。

    確かにカルバペネム系薬はセフェム系薬に比べて

    耐性菌を出現させにくい薬剤ですが,それでも偏

    った使い方をすれば,こうした新しい耐性菌が出

    現する危険性が高まるわけですから,十分に注意

    する必要があります。

    【賀来】各病院あるいは各先生方のカルバペネ

    ム系薬の使い方が,耐性菌の出現を左右する可能

    性が指摘されていますし,これ以上耐性菌を増や

    さないためにも,現状での使い方が正しいどうか

    を見直すことも必要ですし,特定の薬剤に偏らな

    いよう4薬剤をスイッチしたりサイクルさせたり

    といった使い分けも考慮すべきであろうと思いま

    す。

    ─THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1 7( 7 )Feb.2004

    砂川慶介博士

  • カルバペネム系薬の中で

    の選択

    【賀来】現在カルバペネム

    系薬は 4薬剤ありますが,

    医療機関によってはこれら

    から2剤あるいは1剤を選択

    しなければいけないケース

    もでてきております。選択を行う場合には,その

    根拠となる基準が必要であり,この点に関して先

    生方のご意見をいただきたいと思います。砂川先

    生いかがですか。

    【砂川】当初は4薬剤で6包装入っていたのです

    が,見直しを行った結果 4薬剤,4包装が残りま

    した。実際に絞り込みのために集まって話合いを

    したのですが,科によって組織移行のデータがあ

    るのはこの薬剤しかないとか,小児の適応をもっ

    ているのはこれしかないといった形で,それぞれ

    の診療科からどうしてもこの薬剤だけは残してほ

    しいという希望が出てきました。一方病院側は何

    とか減らしたいということで,結局 1薬剤で 2包

    装入っているものは1包装削るということになり

    ました。

    【賀来】那須先生のところではいかがですか。

    【那須】当院では 4薬剤入っています。その使

    い方は様々で,各科で最も使いやすいものを使っ

    ていますので,絞り込みは難しいと思います。

    【賀来】横山先生のところはいかがですか。

    【横山】前任の大学病院では 4薬剤入っていま

    す。薬剤毎の抗菌力の特性も違いますし,耐性機

    序も全てが同一ではないということで絞り込みは

    行いませんでした。

    【賀来】大学病院の場合には診療科も多いわけ

    ですし,絞り込みは難しいということですね。

    【那須】抗菌薬は個々の患者に合った最適なも

    のを自由に使うというのが理想であり,絞り込み

    はできるだけ行わない方が良いと思います。どう

    しても絞り込みが必要ということであれば,呼吸

    器感染症では耐性肺炎球菌の増加という問題があ

    りますので,肺炎球菌に対する抗菌活性が最も強

    いPAPM/BPは残したいと思います。また呼吸器

    感染症では緑膿菌やインフルエンザ菌も多いの

    で,その治療薬としてはMEPMが適していると

    思います。

    【賀来】横山先生のお考えはいかがですか。

    【横山】4剤ある中で,BIPMについてはまだ臨

    床経験が少ないということもあり,現段階では

    PAPM/BP, IPM/CS, MEPMの中の 3剤からどれを

    選ぶかということになります。各科で多い疾患や

    原因菌の頻度にも差異がありますし,本当は絞り

    込まない方が選択肢が広くて良いと思うのです

    が,どうしても絞り込むとなるとそれぞれの臨床

    科の立場を尊重しながら病院として総合的なメリ

    ットを考えて結論を出す必要があると思います。

    【賀来】抗菌薬を選択する場合,薬剤感受性の

    測定が必要ですが,最も使用されているMIC自

    動分析器に IPM,MEPMしか組み込まれてなく特

    に IPMが基準薬となっていることが多く,他の薬

    剤を使用したくてもMICのデータがないという

    問題があります。砂川先生その点はいかがです

    か。

    【砂川】病院で IPM/CSが使われる理由として,

    薬剤感受性試験で IPMが基準薬となっていること

    が大きな理由だと思います。実際に IPMに感受性

    があれば,グラム陽性菌ならPAPM/BP,グラム

    陰性菌ならMEPMを選択してもよいと話してい

    るのですが,やはり感受性の結果が出ている薬剤

    の方が確実だという意見が多いようです。全ての

    薬剤で検査ができないのであれば,感受性試験結

    果の読み方を教育する必要があると思います。

    【賀来】これからは薬剤感受性の読み方を理解

    させることが重要になってくるわけですね。では

    次に,メタロ b -ラクタマーゼによる分解能からみた薬剤選択ということではいかがですか。

    【井上】先程述べたように,カルバペネム系薬

    はメタロ b -ラクタマーゼによって分解されやすい IPM, PAPMのグループと,分解されにくい

    MEPM, BIPMのグループに分類されますが,遺伝

    子が変異するとその立場は逆転するわけです。し

    たがって各グループの中でどちらか1剤は残して

    おく必要があると思います。

    【賀来】薬剤選択を行う場合,適応領域の広さ

    も重要だと思いますが,いかがでしょうか。

    ─8( 8 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1Feb.2004

    横山 隆博士

  • 【砂川】効能・効果で見た場合にはPAPM/BPが

    一番多くなります(表 1)。効能・効果が多い方

    が当然使いやすいわけですし,小児科で髄膜炎に

    使用できるカルバペネム系薬はこれだけですか

    ら,PAPM/BPは残しておく必要があると思いま

    す。

    【賀来】今までのお話をまとめますと,カルバ

    ペネム系薬を分類する場合にはグラム陽性菌用,

    陰性菌用という分け方と,メタロ b -ラクタマーゼによる分解能を基準とするのが適当であろうと

    いうことと,その場合にはPAPM/BP, IPM/CSのグ

    ループとMEPM, BIPMのグループの2つに分類さ

    れ,薬剤を選択する場合には各グループから1剤

    づつ選ぶのが良いということになると思います。

    【砂川】しかし,大学は一つでも多い方がいい

    ですね。結局,一般の病院では薬剤を絞り込むけ

    れども,それで効かない場合には多くの薬剤をも

    っている大学で引き受けるという形になるのでは

    ないかと思います。

    カルバペネム系薬の最適な投与方法

    【賀来】最後にカルバペネム系薬の用法・用量

    についてお聞きしたいと思います。海外では

    PK/PDに基づいた投与設計が一般的になりつつあ

    りますが,まだ日本ではその考え方が十分反映さ

    れていないと感じています。ここでは,あくまで

    理論としてのカルバペネム系薬の投与設計につい

    てお伺いしたいと思います。砂川先生いかがでし

    ょうか。

    【砂川】以前は髄膜炎の治療にアンピシリン,

    セフォタキシム,セフトリアキソンの高用量を使

    っていました。一方カルバペネム系薬は,高用量

    といってもセフェム系薬ほどは多くなく,投与量

    も施設によってバラツキがあります。最近肺炎球

    菌にPAPM/BPが効かなかった例や,インフルエ

    ンザ菌にMEPMが効かなかった例も出ています

    が,十分な用量が投与されていなかった可能性も

    あり,髄膜炎についてはきちんと用量設定を行う

    必要があると思います。

    【賀来】現状の投与量では

    少ないということですか。

    【砂川】小児では体重あた

    りの投与量ということにな

    りますが,大人の投与量の

    上限が2 gですから,それを

    超えるべきではないという

    考えがあるようです。

    【賀来】那須先生,内科で

    の用量はどの位ですか。

    【那須】内科では通常1日1 gです。重症例では

    2 g使う場合もあります。

    【賀来】横山先生,外科ではいかがですか。

    【横山】外科では重症感染症が多いので,1回

    0.5 g,1日3�4回使用する場合が最も多く見られます。カルバペネム系薬の臨床効果は time above

    MICに相関しますので,1日の投与量が同じなら

    頻回に投与した方が理論的にも効果が期待できる

    と思います。

    【那須】私も理論的にはカルバペネム系薬は投

    与回数が多いほうが良く,1日2回よりも3回4回

    と増やす方が有効だと思います。特に重症の場合

    には回数を増やすことが重要だと思います。ただ

    内科の場合,1日 4回投与は手間が掛かりすぎる

    との意見も多く1日2回投与が一般的です。

    【横山】外科の場合には重症例が多く,血管カ

    テーテルが挿入されている場合が多いので投与回

    数が多いのは問題となりません。

    【賀来】そうですね。カルバペネム系薬は時間

    依存性の薬剤ですから,今後理論に基づく投与設

    計を検討していくべきだということですね。

    【井上】セフェム系薬は高用量が使えるのにカ

    ルバペネム系薬では使えないというのは,何か理

    由があるのですか。

    【砂川】やはり痙攣の問題が大きいと思います。

    最初の IPM/CSで痙攣のイメージが強かったため

    に,IPM/CS以降に開発された薬剤は痙攣を意識

    して高用量に設定できなかった可能性がありま

    す。

    ─THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1 9( 9 )Feb.2004

    那須 勝博士

  • 【賀来】どうもありがとうございました。今ま

    での先生方のお話から,各カルバペネム系薬の特

    性並びに 4薬剤の使い分けの方法というものが,

    かなり明確にできたのではないかと思います。カ

    ルバペネム系薬は以前の切り札的な存在から,今

    では重症感染症などに最初から使用できる薬剤に

    なってきました。もちろん,投与量,投与方法も

    考えて,できるだけ短期間という条件がつくわけ

    ですが,カルバペネム系薬全体の位置づけが上が

    ってきていることは確かだと思います。現在は4

    薬剤が使用できますが,抗菌力,殺菌様式,耐性

    菌に対する反応性など薬剤間で違いがあり,こう

    した基礎的な特徴を常に意識しながら,投与対象

    に合った最適な薬剤を選択していくことが,これ

    からの治療には必要だと思います。本日はどうも

    ありがとうございました。

    ─10( 10 ) THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 57—1Feb.2004