原子炉の炉心溶融 平成23年6月6日 日中科学技術交流協会 講演会「東電福島事故と中国の原子力安全」 日本原子力研究開発機構 安全研究センター 工藤 保
原子炉の炉心溶融
平成23年6月6日日中科学技術交流協会
講演会「東電福島事故と中国の原子力安全」
日本原子力研究開発機構安全研究センター
工藤 保
炉心溶融
原子力発電では、燃料棒内のウランの核分裂反応により発生する熱で水を蒸気に変え、その蒸気によりタービンを回して発電している。
火 力
原子力
蒸気
水
蒸気
水
給水ポンプウランの核分裂
原 子 炉
石油・石炭・ガス等の燃焼変圧器
発電機タービン
復水器
循環水ポンプ
放水路へ
冷却水(海水)
ボイラ
燃料棒は、運転中に発生した熱や核分裂生成物の崩壊熱によりすぐには冷えない。
冷却水を循環させて冷却し続ける必要がある。
冷却に失敗
・冷却水配管の破断・全交流電源喪失等
燃料棒は運転を停止しても発熱し続ける。
電気出力1,100MWe級原子力
発電所の停止後熱出力1時間後 約1% 約35MW1日後 約0.5% 約18MW100日後 約0.1% 約 4MW
炉心溶融に至るまで
炉心溶融について ①
シビアアクシデント時に想定される主な現象
停める 冷やす
炉心損傷・溶融炉心挙動• 主な熱源(崩壊熱)• 冷却材、構造材との相互作用で
機械的負荷(衝撃力)や格納容
器加圧(ガス発生)
• 冷却の可否と防護壁への影響が
重要
FPの移行挙動• ガス、エアロゾル等として移行
• 冷却系 格納容器内 環境への
放出時期・量・化学形が重要
(ソースターム)
防護壁の耐性• とくに格納容器は最後の障壁
• 破損モード、時期が重要
燃料からのFP放出
原子炉冷却系内移行格納容器内挙動
溶融炉心/コンクリート相互作用(MCCI)
溶融炉心/冷却材相互作用(FCI)(水蒸気爆発含む)
炉容器内炉心溶融進展溶融炉心冷却
原子炉冷却系配管高温破損
格納容器破損
炉容器
格納容器
高圧融体放出格納容器直接加熱
(DCH)
水素燃焼/爆燃/爆轟
環境へのFP放出
炉容器外溶融炉心冷却
炉容器破損
閉じ込める
②
3120K2960K
2245K2170K2030K
1888K1720K
1600~1650K
1447K1400K
560-620K550-600K
温度
1200~1250K
UO2の融点ZrO2の融点
α-Zr(O)の融点
α-Zr(O)/ UO2共晶温度
ジルカロイの融点溶融ジルカロイによるUO2の溶解
Zr/BC系の共晶温度
ステンレス鋼の融点インコネルの融点
Fe/B系の共晶温度
UO2/ジルカロイ反応による液相Uの形成
Ni/Zr系やFe/Zr系の共晶温度
Ag-In-Cd合金の融点1100K
燃料被覆材温度
冷却材温度
炉心構成材料に生じる高温での現象
UO2やジルカロイの融点より
ずっと低い温度で、炉心構成材料であるAg-In-Cd合金(制御棒)や鉄
などが溶ける。
シビアアクシデント時:
被覆管が酸化していない場合、UO2の融点より約1000K低い温度で、溶融ジルカロイによりUO2が溶ける。
被覆管が酸化した場合、約2800Kに到達するとZrO2とUO2は共晶により溶ける。
「軽水炉燃料のふるまい」より
炉心における高温での現象③
2800K: ZrO2 /UO2の
共晶温度
原子力発電所は、安全に「止める」「冷やす」ことにより、「閉じ込める」機能が失われないように作られている。
しかし、機器の故障、運転員の誤操作などが重なり、大事故に至り、炉心溶融を引き起こした例がある。
「止める」の重大な失敗チェルノブイリ原子力発電所の事故
「冷やす」の重大な失敗スリーマイルアイランド原子力発電所の事故
炉心溶融の事例④
特殊試験*):冷却水ポンプの回転数低下
減速材:黒鉛
気泡の増加 出力上昇 出力暴走
黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉
(RBMK)
実験遂行のため安全系切り
圧力管の爆発破裂
黒鉛火災
格納容器無し
放射性物質放出
チェルノブイリ原子力発電所の事故(1986年4月)⑤
*:電源喪失した際のタービンの回転慣性エネルギーによる電源供給の評価
炉心は溶融してコンクリートや他の構造材とともに溶岩状になり、原子炉下部から垂直方向並びに水平方向へ流出し固化。原子炉下部から水平に東側方向に最大50m移
動した溶融固化体の先端が「象の足」。
チェルノブイリ原子力発電所の炉心溶融⑥
事故後の写真
象の足
事故後の状態図上部遮蔽盤は爆発により持ち上がって回転・落下し、垂直に対し15°の角度で原子炉に引っかかっている。
主給水ポンプ停止
補助給水ポンプ
自動起動
二次冷却水循環せず
原子炉停止
出口弁全閉(①) 水位計
誤指示(③)
原子炉圧力上昇
加圧器逃がし弁開→固着
(②)
ECCS手動停止(③)
PWR
燃料交換用水タンク
非常用炉心冷却装置(ECCS)
廃液貯蔵タンク
大気放出
補助建屋
加圧器逃し弁
原子炉格納容器
加圧器逃しタンク
加圧器
蒸気発生器
原子炉容器 一次冷却水ポンプ
移送ポンプ圧力逃し装置
蒸気
タービン建屋
発電機
タービン
主給水ポンプ
復水器
復水タンク
補助給水ポンプ
浄化装置
③③
②
①
手動停止
吹き出し閉じず
バルブが閉っていた
水位計の誤指示
G
ECCS起動
冷却水流失炉心溶融
スリーマイルアイランド原子力発電所の事故(1979年3月)⑦
弁制御用空気系の故障
炉心の約2/3が1時間以上冷却水から
露出し炉心の半分近くが溶融した。このため、放射性ガスは放出されたが、原子炉圧力容器及び格納容器の閉じこめにより、放出量は限定的で周辺住民及び環境への影響は殆ど無かった。
スリーマイルアイランド原子力発電所の炉心溶融⑧
事故後の分析によって炉心は2800K以上
の温度になったと考えられる。
チェルノブイリ事故とTMI事故で放出されたFP量の比較
FP元素
Xe, Kr
I
Cs
Ru
Ce
100%
15~20%
10~13%
2.9%
2.3~2.8%
51%
0~70%
53%
99.5%
100%
48%
30~100%
47%
0.5%
0%
1%
3x10-5%
チェルノブイリ
環境
TMI
圧力容器内圧力容器を除く原子炉建屋内
環境
検出されず
検出されず
検出されず
⑨
質 量 数
核分
裂収
率(%
)
核分裂生成物(FP)の分類と性質
• FPの揮発性による分類の例– 希ガス: Kr, Xe– 揮発性FP: I, Cs, Rb等– 中揮発性FP: Sr, Ba, Ru等– 難揮発性FP: Rh, Zr, Nd等
U-235の熱中性子による核分裂生成物の収率(総計200%)
(放射性核種のみ)
安全上の重要度は、量、揮発性、放射線エネルギ、生物影響、半減期等による
FPの半減期<1時間 I-134,136<1日 Sr-91, Zr-97, I-133,135,
Ba-139
<10日 Mo-99, Rh-105, I-131, Te-132, Xe-133,Ce-143
<1月 Ba-140, Nd-147<1年 Sr-89, Zr-95, Ru-103,
Ce-141,144
<50年 Kr-85, Sr-90, Cs-137>50年 Rb-87, Zr-93, Cs-135,
Nd-144, Sm-147
⑩
水蒸気
H2O
Zr+2H2O→ZrO2+2H2↑
H2
上部では水素の多い雰囲気→Zrのまま
燃料棒下部では水蒸気の多い雰囲気→Zrの酸化
3120K2960K
2245K2170K2030K
1888K1720K
1600~1650K
1447K1400K
560-620K550-600K
温度
1200~1250K
UO2の融点ZrO2の融点
α-Zr(O)の融点
α-Zr(O)/ UO2共晶温度
ジルカロイの融点溶融ジルカロイによるUO2の溶解
Zr/BC系の共晶温度
ステンレス鋼の融点インコネルの融点
Fe/B系の共晶温度
UO2/ジルカロイ反応による液相Uの形成
Ni/Zr系やFe/Zr系の共晶温度
Ag-In-Cd合金の融点1100K
燃料被覆材温度
冷却材温度
炉心構成材料に生じる高温での現象
2800K: ZrO2 /UO2の
共晶温度
燃料の溶融に関連した事象⑪
⑫
フィルタ (ボックス内) 加熱炉
燃料測定用γ線検出器
装置の外観
放射性物質の流れ
配管
γ線検出器
キャリアガス
タングステン管
タングステンるつぼ
タンタル板
照射済燃料
カーボン断熱材
不活性雰囲気の場合
JAEAにおけるシビアアクシデント時の放射性物質放出実験
燃料が溶融した場合の放射性物質の放出
被覆管の非酸化、酸化における燃料溶融温度の違い ⑬
雰囲気:水蒸気燃料:被覆管付最高温度:2770 K
2000K 2300K 2770K
時間 [min]
セシ
ウム
の放
出割
合[%
]
燃料
温度
[K]
溶融無しの場合の放出
0 50 100 1500
20
40
60
80
100
1000
2000
3000
水素雰囲気中(被覆管非酸化):2300Kで燃料が溶融
水蒸気雰囲気中(被覆管酸化):溶融は2500Kから顕著
酸化したジルカロイとUO2の反応
ペレットの60から75% が溶融したと評価
⑭
3120K2960K
2245K2170K2030K
UO2の融点ZrO2の融点
α-Zr(O)の融点
α-Zr(O)/ UO2共晶温度ジルカロイの融点溶融ジルカロイによるUO2の溶解
2800K:ZrO2 /UO2の共晶温度
UO2 ペレット
(U,Zr)O2
水平
2mmZr リッチ (被覆管)
UO2
5mm
切断作業中に欠落
(U,Zr)O2
垂直
るつぼ
UO2
1.E-03
1.E-02
1.E-01
1.E+00
3 4 5 6温度逆数 [×10-4/K]
放出
率係
数 [
1/m
in]
温度 [K]2800 2400 2200 2000 18003200
放出速度増加・組織の軟化・液体からの放出
Cs
50µm
泡状組織(融点直下)溶融固化組織
燃料融点約3120K
雰囲気:ヘリウム燃料:ペレットのみ(被覆管なし)最高温度:3123 K
燃料ペレットの組織及びセシウム放出速度の変化 ⑮
3120K2960K
2245K2170K2030K
UO2の融点ZrO2の融点
α-Zr(O)の融点
α-Zr(O)/ UO2共晶温度ジルカロイの融点溶融ジルカロイによるUO2の溶解
2800K:ZrO2 /UO2の共晶温度
固体内拡散による放出
放出率係数:単位時間あたりに放出される量をその時点で燃料内に残存している量で除した値
・「止める」「冷やす」の失敗により炉心溶融が起こる可能性がある。
-チェルノブイリ原子力発電所-スリーマイルアイランド原子力発電所
・個別効果実験からは、以下のことが示された。-燃料の溶融は、被覆管が非酸化の場合はおよそ2300Kから、ある程度酸化している場合はおよそ2500Kから増大
-燃料ペレットのみの場合、UO2の融点より低い温度から組
織変化のためセシウムの放出速度が大きくなる
最後に
⑯