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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義ousar.lib.okayama-u.ac.jp/.../97_833.pdf精神疾患におけるDSTの 臨床的意義 岡山大学医学部神経精神医学教室(主

Jan 18, 2021

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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義

岡 山大 学 医学 部 神 経精 神 医学 教 室(主 任:大 月三 郎 教授)

西 紋 孝 一

(昭和60年7月4日 受稿)

Key words:デ キサ メサ ゾ ン抑制 試験(DST)

内 因性 うつ 病(メ ラ ン コ リー)

精神 分 裂性 障害,精 神病 像

状 態依 存性

は じ め に

デ キサ メサ ゾ ン抑 制 試 験(DST)は, 1960年

にLiddle26)に よ っ てCushing症 候 群 の 鑑 別 診

断の ため に導 入 され た もの で あ る.一 方,正 常

者 の血 清 コル チ ゾール 値 は通 常早 朝 に高 く,夜

半 に最低 値 を示 す とい う一定 の 日内 リズ ムが あ

る.し か し,神 経 内分 泌 的研 究 に お いて,一 般

に内 因性 うつ病 の 病相 期 に は,血 清 コル チ ゾー

ルの高値 お よび 日内 リズム の 異常 を示 し,「視 床

下 部-下 垂 体-副 腎皮 質 系 」 の抑制 障 害 が知 ら

れて い る5),34). DSTの 精 神科 領 域(内 因性 うつ

病)へ の応 用 は, Carroll(1968)4)ら に よ って は じ

め られた. 1981年 に, Carrollら は368症 例 を対

象 と し てDSTに つ い て 検 討 し方 法 を 標 準 化

(DST陽 性:血 清 コル チ ゾー ル5μg/dl以 上)

し,内 因性 うっ病 にお いて,感 受性(Sensitivity)

43%,特 異性(Specificity)96%,診 断確 実性

(Diagnostic Confidence)92%の 有 用 な検査 で

あ る と報告7)し て い る.そ の後,内 因性 うつ病 の

診断(鑑 別 診 断),治 療,予 後推 測 に有 用で あ る

とい う多 くの 報告1),6),9)).35)があ る反面,そ の他 の

精 神疾 患 に対 して もDSTが 陽性 を示 した とい

う報告2),8),12),42)も散 見 され る.本 研 究 では, Car

rollら が 標 準化 した方 法 に準 じてDSTを 行 な

い,精 神 疾 患 に お け るDSTの 疾 患 特 異性 の 有

無お よび性 別,治 療 形 式,年 齢,体 重,ス トレ

ス,重 症 度,薬 物 の影 響 な どを調べDSTの 臨

床 的意 義 につ い て検 討 した.

対 象 と 方 法

対 象は,岡 山大学 医 学部 附 属病 院 神経 精神 科

医 師21名(男 性: 20名,女 性: 1名)の 正 常対

照群(年 齢: 24~45歳,平 均 年齢 ±標準 偏 差:

28.71±4.75歳)と 岡 山大学 医 学部 附属 病 院神 経

精神 科 お よび関 連病 院 に昭 和57年10月 か ら昭和

59年4月 まで の 問 に 入 院 あ る い は通 院 治 療 中

で,本 研 究の 主 旨 に同 意 を得 た238名(男 性96名,

女 性142名)の 精 神 障害 群(年 齢: 15~88歳,平

均 年 齢 ±標準 偏 差: 46.71±18.39歳)で あ る.

精 神疾 患 の診 断 は米 国精 神 医 学 会 のDSM-IIIに

よ った39).精 神 障害群 の うち大 感情 障 害 群 は84

名(平 均年 齢 ±標 準 偏差: 49.68±15.57歳),精

神 分 裂性 障害 群 は77名(平 均 年齢 ±標準 偏 差:

36.38±12.71歳)で あ った.ま た神 経性 無 食 欲

症,重 症 あ るいは 未治 療 の糖 尿病,そ の ほか 重

篤 な身体 疾 患合 併 者 お よびバ ル ビツー ル酸 製 剤

な ど の 抗 て ん か ん 薬 服 用 者 な どCarrollの

DST除 外 基 準 に あて は ま る症 例 は 含 まれ て い

な い. DSTは,原 則 的 には 第1日 目の 午 後4時

にデ キサ メサ ゾ ン負荷 前 の コルチ ゾー ル 値 用 の

採血(DST前 値)を 行 な い,午 後10時 にデ キサ

メサ ゾ ン1mgを 内服 し,第2日 目の 午 後4時

に デ キサ メサ ゾ ン 負荷後 の コルチ ゾー ル値 用 の

採 血(DST後 値)を 行 な っ た.血 液 は,速 や か

に遠 心分 離(3000rpm, 10分 間)し,得 られ た

血 清 は-20℃ で凍 結 保 存 した.血 清 コル チ ゾー

ル の測 定 に は,ガ ンマ コー ト コル チ ゾー ル,ラ

833

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834 西 紋 孝 一

表1:正 常対 照群,精 神 障害群 とDST

Cf.正 常 対 照群: 24~45歳,平 均 年 齢 ± 標 準 偏差=28.71±4.75歳

精 神 障 害 群: 15~88歳,平 均 年 齢 ± 標 準偏 差=46.71±18.39歳

年 齢 調 整 群: 24~34歳,平 均 年 齢 ± 標 準 偏差=29.49±3.26歳

DST前 値 お よ びDST後 値:平 均DST値 ±標 準 誤差 μg/dl,陽 性 率: %

T test: ** p<0.01, * p<0.05

ジ オ イム ノア ッセ イ キ ッ ト(日本 トラべ ノー ル

社)を 用 い,判 定 基準 は5μg/dl以 上 をDST陽

性 とした.な お,入 院 患者 に関 して は 大 多数 例

で入 院後7日 以 内 にDSTを 施行 した.

各 障 害群 にお け るDST前 値, DST後 値 お よ

びDST陽 性 率 と① 性 差 お よ び入 院 ・外来, ② 発

病 時 年齢 お よびDST施 行 時 年 齢, ③ 体 重, ④ 発

病 時 お よび入 院前 ス トレス, ⑤ 重 症 度, ⑥ 薬 物

の影 響 との 関係 を調べ た.薬 物 につ いて抗 精 神

病 薬 は クロル プ ロマ ジ ン量 に換 算 し29),抗 うつ

薬 はア ミ トリプ チ リンな どの 三環 系 抗 うつ 薬 量

を100と した場 合,マ プ ロチ リンは100,ロ フ ェ

プ ラ ミンは140お よび ミア ンセ リン は40な ど三

環 系 抗 うつ 薬 量 に換 算 して検討 した.ま た,大

感 情 障 害群 にお い ては,精 神 病像 あ るい は メ ラ

ン コ リー を伴 う大 うつ病 エ ピ ソー ド群(い わゆ

る 内因性 うつ病,以 後 メラ ン コ リー 群 と略 す)

お よ び精 神 病像 を伴 う大 うつ 病 エ ピ ソー ド群

(い わ ゆ るdelusional depression,以 後 精 神病

像 群 と略 す)に つ いて上 記 の 関係 を調 べ,特 に

精 神 病像 群 に お け るDST後 値 の 経 時 的 変 化 に

つ いて検 討 した.

統 計 処 理 はStatistical Package for Social

Science(SPSS)第9版30)を 用 い,統 計解 析 は

分散 分 析(ANOVA one-way layout), T test,

X2 testお よ びPearsonの 相 関 を用 いて行 な っ

た.ま た,平 均DST値 は平 均 値 ±標 準 誤差 μg/

dlで 表 わ した.

結 果

1.各 障 害群 とDST

正 常 対 照 群 の 平 均DST前 値 は9.31±0.98

μg/dl(N=7),平 均DST後 値 は1.80±0.32

μg/dl(N=21), DST陽 性 率 は4.8%で あ り,精

神 障 害 群 の 平 均DST前 値 は8.18±0.59μg/dl

(N=73),平 均DST後 値 は3.62±0.26μg/dl

(N=238), DST陽 性 率 は25.6%で あ った.正 常

対 照 群 と年 齢 をmatchさ せ るた め に 精神 障害

群 の 中か ら24~34歳 の症 例(年 齢 調整 群)49名

(平均 年齢 ±標 準偏 差: 29.49±3.26歳)を 選 ん

だ.年 齢 調 整 群 の平 均DST前 値 は9.19±2.57

μg/dl(N=7),平 均DST後 値 は3.36±0.54

μg/dl(N=49), DST陽 性率 は24.5%で あ り,

正 常 対 照 群 と比較 した場合,平 均DST前 値 で

は差 が なか っ た が平 均DST後 値 にお いて 有意

に高値 を示 した(T test: p<0.05)(表1).

各 障 害 群 の 平 均DST後 値 お よびDST陽 性

率 は表2の よ うな結 果 で あ った.平 均DST後

値 は正 常 対 照群,妄 想性 障 害群,神 経 症性 障害

群 に対 して精神 分 裂性 障害 群,大 感情 障害 群,

痴 呆群,分 裂 病様 障 害群 にお い て有意 に高値 を

示 した(T test). DST陽 性率 に関 しては正常

対 照群 に対 して精 神分 裂 性 障害 群,大 感情 障害

群,分 裂 病 様 障害 群 で 有意 に高率 を示 し,神 経

症 性 障 害群 に対 して分 裂病 様 障害 群 で有 意 に高

率 を示 した(X2 test).各 障害 群 の亜 型 別で は,

平 均DST前 値,平 均DST後 値, DST陽 性率 の

いず れ に も有 意 な差 を認め なか っ た.ま た,同

一 症 例 でDST前 値 とDST後 値 を測 定 した も

の につ い てCortisol Index(DST前 値/DST後

値)を 算 出 し各 群 につ いて検 討 した.精 神 障害

群 が正 常対 照 群 に対 して低 値 を示 す傾 向 に あっ

た が有 意 な差 は 認 め なか った.精 神 障 害群 の う

ち に お い て も大 感 情 障 害 群(お よ び大 うつ病

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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義 835

表2  各精神障害群 とDST

Cf.妄 想性 障害:パ ラ ノ イア,急 性 妄 想性 障害,非 定 型妄 想 性 障 害

人格 障害:分 裂 病 質,分 裂 病 型,境 界性  心 身症:身 体 的 病 態 に 対 す る心 理 的諸 因子

ANOVA one-way layout: ※ p<0.01, T test: ** p<0.01, * p<0.05

X2 test: ## p<0.01, # p<0.05

群),精 神 分 裂性 障 害群 お よび痴 呆群 の 間で 有意

な差 は認め なか った(表3).

① 性差 お よび入 院 ・外 来別

精 神 障害 群(N=238)お よび メラ ン コ リー群

(N=64,平 均 年 齢 ±標 準 偏 差: 50.42±15.05

歳)に お いて 男女 間,入 院.外 来 間 と もに平均

DST後 値 お よ びDST陽 性 率 に関 して 有 意 な

差 を認 め なか っ た.精 神分 裂 性 障害 群(N=77)

で は 男 女 間 で 平 均DST後 値 に 関 して,男 性

(N=34)に 対 し女性(N=43)で 有意 に高 値 を

表3:正 常 対 照群,精 神 障 害 群 とCortisol Index

Cf. Cortisol Index=DST前 値/DST後 値

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表4:精 神 障害群,メ ラン コリー群,精 神分裂性 障害群 における性差 および入院/外 来 とDST

Cf. T test: * p<0.05

示 したが(T test: p<0.05), DST陽 性率 では

男 女 間 で差 は なか った.入 院 ・外 来 間で は外 来

患 者 数 が僅 か な た め に 比 較 で き な か っ た(表

4).

②発 病 時 年齢 お よびDST施 行 時年 齢

各 患 者 の発 病 時年 齢 お よびDST施 行 時年 齢

を10代, 20代, 30代, 40代, 50代, 60代, 70代,

80代 の 各年 齢群 に分 けた(表5).

発 病 時 年 齢 に お い て,精 神 障 害 群 で は 平 均

DST後 値(N=202)お よ びDST陽 性 率 に関 し

て検 討 したが 各年 齢 群 間 にお い て有 意 な差 は な

く, DST後 値 と各発 病 時年 齢 との 間 に も相 関 は

なか っ た.メ ラ ン コ リー 群 で は 平 均DST後 値

(N=63)に お いて 各年 齢 群 間 で 差(ANOVA

one-way layout: p=<0.05)を 認 め, 20代 群

に対 し40代 群 お よび50代 群 で有 意 に高 値 を示 し

(T test: p<0.05, p<0.05), DST陽 性率 に お

い て も, 20代 群 に対 し40代 群 お よび50代 群, 30

代 群 に 対 し50代 群 で 有 意 に 高 率 を示 し た(X2

test: p<0.05, p<0.01, p<0.05). DST後 値

と各 発 病 時 年 齢 との 間 には 相 関 を認 め なか っ

た.精 神 分 裂性 障 害 群 で は平 均DST後 値(N=

73)に お い て各 年齢 群 間 で 差(ANOVA one-

way layout: p<0.05)を 認 め,特 に30代 群 に

対 して10代 群 で 有 意 に高 値 を示 した(T test:

p<0.05). DST陽 性 率 に関 して も10代 群 お よ び

20代 群 にお い て30代 群 よ り も有 意 に高率 を示 し

た(X2 test: p<0.001, p<0.05).ま た, DST

後 値 と各発 病 時年 齢 との 間 に有 意 な 負の 相 関 を

認 め た(R=-0.320, p=0.003).

DST施 行 時年 齢 にお い て,精 神 障 害群(N=

238)お よび精 神分 裂 性 障 害群(N=77)で は平

均DST後 値, DST陽 性 率 に関 して 各 年齢 群 間

で有 意 な差 を認 め なか った.ま た, DST後 値 と

各DST施 行 時 年 齢 と の 間 に も相 関 は な か っ

た.メ ラン コ リー群(N=64)で は平 均DST後

値 お よびDST陽 性 率 に関 して は,各 年 齢 群 間

で有 意 な差 は なか っ た.し か し, DST後 値 と各

DST施 行 時年 齢 との 間 に有 意 な 正 の 相 関 が あ

った(R=0.266, p=0.017).

③ 体 重

各 患者 の体 重 を30kg台, 40kg台, 50kg台,

60kg台, 70kg台, 80kg台 の 各体 重群 に分 けた

(表6).

精 神 障 害 群 に お い て 平 均DST後 値(N=

179)お よびDST陽 性 率 に関 して検 討 した.そ

の 結果,平 均DST後 値 に 関 しては各体 重 間 で差

(ANOVA one-way layout: p<0.05)を 認 め,

50kg台 お よび60kg台 に対 して40kg台 で有 意

に高 値(T test: p<0.05, p<0.01)を 示 し, DST

陽性率 に 関 して は60kg台 に 対 して30kg台, 50

kg台 お よび60kg台 に対 して40kg台 とそれぞれ

低 体 重 群 で 有意 に 高率(X2 test: p<0.05, p<

0.01, p<0.01)を 示 した.ま た, DST後 値 と

各 体 重 と の 間 に 有 意 な 負 の 相 関 を 認 め た

(R=-0.205, p=0.0029).メ ラン コ リー群 で は

平 均DST後 値(N=54)に 関 して は, 50kg台

お よ び60kg台 に対 して40kg台 で 有 意 に 高 値

を示 し(ANOVA one-way layout: p<0.05,

T test: p<0.05, p<0.01), DST陽 性 率 に関

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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義 837

表5:精 神障害群,メ ランコリー群,精 神分裂性 障害群 におけ る発病時年齢お よびDST施 行時年 齢 とDST

cf. R: Pearson相 関 係 数

ANOVA one-way layout: ※ p<0.05, T test: * p<0.05, X2 test: $ p<0.001

## p<0.01, # p<0.05

表6:精 神障害群,メ ランコ リー群,精 神分裂性障害群 における体重 とDST

cf.平 均 体 重=平 均 値 ±標 準 偏 差kg, R: Person相 関係 数

ANOVA one-way layout: ※ p<0.05, T test: **p<0.01, * p<0 .05, X2 test: ## p<0.01,

# p<0.05

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838 西 紋 孝 一

表7:精 神障害群,メ ラ ンコリー群,精 神分裂性 障害群 におけるス トレス とDST

表8:精 神障害群,メ ラ ンコリー群,精 神 分裂性 障害群 における重症 度 とDST

cf. ANOVA one-way layout: •¦•¦ p<0.01, •¦ p<0.05, T test: *** p<0.001, **p<0.01, *p<0.05,

X2 test: @ p<0.0001, •”•” p<0.01, •” p<0.05

して も60kg台 に対 して40kg台 で 有 意 に 高 率

を示 した(X2 test: p<0.01).ま た, DST後

値 と各 体 重 と の 間 に も 負 の 相 関 を 認 め た

(R=-0.316, p=0.010).精 神 分 裂性 障 害群 で

は平均DST後 値(N=61)お よびDST陽 性 率

に関 して各体 重 群 間 で有 意 な差 は な く, DST後

値 と各体 重 との 間 に も相 関 は なか った.

④ 発 病 時 お よび 入 院前 ス トレス

各 患 者 の 発 病 時 お よ び 入 院 前 ス トレ ス を

DSM-IIIのAxis IV(心 理 的 社 会 的 ス トレス の

強 さ)を 参 考 に して,軽 度(1, 2, 3),中 等 度

(4),強 度(5)お よ び極 度(6, 7)の 四段 階

に分 け た(表7).

精 神 障 害群,メ ラ ン コ リー群 お よび精 神 分 裂

性 障害 群 に お い て平均DST後 値, DST陽 性 率

と各 ス トレス との 関係 につ い て検 討 した が,い

ず れ の群 も各 ス トレス 間で 有 意差 はな か っ た.

⑤ 重 症 度

各 患者 のDST施 行 時 の 重症 度 を軽 症(例 え

ば,家 庭 内適 応 あ るい は通 院 治療 可 能 な状 態),

中等 症(入 院治 療 を要 す るが 開放 病 棟 で適 応 す

なわ ち院 内 寛解 の 状 態),重 症(急 性 増 悪 期 に あ

り閉鎖 病 棟 で の治 療 を要 す る状 態)お よび極 重

症(閉 鎖 病棟 で濃 厚 な 治療 お よび看護 す なわ ち

保 護 室 での 治療 を要 す る よ うな状 態)の 四段 階

に分 けた(表8).

精 神 障害 群 に お い て,平 均DST後 値(N=

206)お よびDST陽 性 率 と各 重 症度 との関 係 に

つ いて 検討 した.そ の 結 果,平 均DST後 値 にお

い て各 重症 度 間 で差 を認 め(ANOVA one-way

layout: p<0.01),重 症 お よ び極 重症 で 有意 に

高値 を示 した(T test).ま た, DST陽 性 率 に

関 して も同様 に重症 お よび 極重 症 に お いて有 意

に高率 を示 した(X2 test).メ ラ ン コ リー群 で

は平均DST後 値(N=64)に お いて は各 重症 度

間 で差 を認 め(ANOVA one-way layout: p<

0.05),特 に軽症 お よび 中等 症 に対 して 重症 で有

意 に 高値 を示 した(T test: p<0.01, p<0.05).

また, DST陽 性 率 に関 して も同様 に軽 症 お よび

中等 症 に対 して 重症 で 有 意 に高率 を示 した(X2

test: p<0.05).精 神 分 裂 性 障 害 群 で は 平 均

DST後 値(N=77)に お い て は各 重症 度 間 で差

を認 め(ANOVA one-way layout: p<0.01),

特 に 中等症 に対 して重 症 お よび極 重 症 で有 意 に

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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義 839

表9:精 神障害群,メ ランコリー群,精 神分裂性障害群におけ るクロルプロマ ジン換算量 とDST

cf. R: Pearson相 関 係 数

表10:精 神障害群,メ ランコリー群,.精 神分裂性障害群におけ る三環 系抗 うつ薬換算量 とDST

高値 を示 した(T test: p<0.01, p<0.001).

また, DST陽 性率 にお い て も同様 に 中等 症 に対

して重 症 お よ び極 重 症 で有 意 に 高 率 を示 した

(X2 test: p<0.01, p<0.0001).

⑥ 薬物 の影 響

ほ とん どの症例 が 多剤(抗 精 神 病薬,抗 不 安

薬,抗 うつ薬,抗 パ ー キ ン ソン薬 な ど)を 併 用

してい た,そ の うち,抗 精 神病 薬 は クロル プ ロ

マ ジ ンに換 算 し,抗 うつ薬 は三 環 系抗 うつ 薬 に

換算 して, DST後 値 お よびDST陽 性 率 に対 す

る薬物 の影 響 につ いて検 討 した.

a.ク ロル プ ロマ ジン(=100)換 算 量

各 患 者 の ク ロ ル プ ロマ ジ ン換 算 量 を0~5

mg未 満, 5~50mg未 満, 50~100mg未 満,

100~250mg末 満, 250~500mg末 満, 500~750

mg未 満, 750~1000mg未 満, 1000~1500mg未

満, 1500~2000mg未 満 の 九群 に分 け平 均DST

後 値 お よびDST陽 性 率 に関 して検 討 した(表

9).

精 神 障 害群 で は,平 均DST後 値(N=185)お

よびDST陽 性 率 に関 して1500~2000mg未 満

群 で 各 々高値 お よび高率 を示 したが,症 例数 が

僅 か な た め に 各群 間 で 有 意 な差 は 認 め なか っ

た. DST後 値 と各 クロル プ ロマ ジ ン換算 量 との

間 に正 の 相 関 傾 向 を示 した(R=0.149, p=

0.021).メ ラ ン コ リー 群 で は,平 均DST後 値

(N=62)お よびDST陽 性 率 にお いて 各群 間 で

有 意 な差 は認め なか った.し か し, DST後 値 と

各 ク ロルプ ロマ ジ ン換 算 量 との 間 に正 の相 関 を

認め た(R=0.307, p=0.008).精 神 分 裂性 障 害

群 で も,平 均DST後 値(N=62)お よびDST

陽性 率 に 関 して 各 群 間 で 有 意 な差 は な か っ た

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840 西 紋 孝 一

が, 1500~2000mg群(N=2)で 平均DST後

値 が8.70μg/dl, DST陽 性 率 が100%を 示 した.

ま た, DST後 値 と各 ク ロルプ ロマ ジ ン換算 量 と

の間 に正 の相 関 傾 向 を認 め た(R=0.244, p=

0.028).

b.三 環 系 抗 うつ 薬(=100)換 算 量

各 患 者 の 三 環 系抗 うつ 薬換 算 量 を0~20mg

未 満, 20~50mg未 満, 50~100mg未 満,

100~150mg未 満, 150~200mg未 満, 200mg以

上 の六 群 に分 け平 均DST後 値 お よびDST陽

性 率 に関 して検 討 した(表10).

精 神 障 害群 お よび メ ラ ン コ リー群 では,そ れ

ぞれ各 群 間 で有 意 な差 は な か った.ま た, DST

後値 と各 三環 系 抗 うつ 薬換 算 量 との 間 に も相 関

は なか った.な お,精 神分 裂 性 障害 群 にお い て

は,ほ とん どの 症 例 が0~20mg未 満 の使 用 で

あ るため に 比較 で きなか った.

2.精 神 病 像 群 とDST

DST前 値 を検 査 した症 例 は僅 か2例 だ っ た

ため, DST後 値 お よ びDST陽 性率 に関 して,

精神 病 像 を伴 わ ない大 うつ病 エ ピ ソー ド群(以

後,非 精神 病 像 群 と略 す)と 対 比 し検 討 した.

平 均DST後 値 に関 して,精 神 病 像 群(N=

14)が 非精 神 病像 群(N=61)に 対 して有 意 に 高

値 を示 し(T test: p<0.01), DST陽 性 率 に お

いて も同様 に精 神 病像 群 で 有意 に高率 を示 した

(X2 test: p<0.01).精 神 病像 の 内容 が気 分 に

調 和 す る群 と気 分 に調 和 し ない群 とで は,平 均

DST後 値 お よ びDST陽 性 率 と も に差 は な か

っ た.非 精 神病 像 群 で は,メ ラ ン コ リー を伴 う

群 が メ ラ ン コ リー を伴 わ な い群 に対 し て平 均

DST後 値 お よ びDST陽 性 率 と も に高 い 値 を

示 す 傾 向 に あ っ た が 有 意 な 差 は な か った(表

11).

① 性 差 お よび入 院 ・外 来 別

男女 間お よび入 院 ・外 来間 で平 均DST後 値,

DST陽 性 率 に関 して有 意 な 差 は 認 め なか った

(表12).

② 発 病 年齢 お よびDST施 行 時 年 齢

DST後 値 と各 発病 時 年齢 との 間 には,精 神病

像 群 お よび非 精神 病 像 群 と もに相 関 を認め なか

っ た.ま た, DST後 値 とDST施 行 時年 齢 との

間 には,精 神病 像 群 に お いて相 関は なか ったが,

非 精 神 病 像 群 で は 有 意 な 正 の 相 関 を 認 め た

(R=0.285, p=0.013)(表13).

③ 体 重

DST後 値 と各体 重 との間 で は,精 神 病像 群 お

よ び非精 神 病像 群 ともに有 意 な 負の相 関 を認 め

た(R=-0.543, p=0.028; R:-0.309, p=

0.016)(表14).

表11:精 神病像群 とDST

Cf. T test: ** p<0.01, X2 test: ## p<0.01

表12:精 神病像群におけ る性差お よび 入院/外 来 とDST

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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義 841

表13:精 神病像群 における発病時年齢お よびDST施 行時年齢 とDST

cf. R: Pearson相 関係 数

表14:精 神病像群におけ る体重 とDST

cf. R: Pearson相 関 係 数

④発病時および入院前ストレス

精神病像群の各ストレスの症例数が僅かでは

あるが,平均DST後 値およびDST陽 性率 とも

に各ス トレス間で大きな差はなかった.非 精神

病像群でも,平均DST後 値およびDST陽 性率

ともに各ス トレス間で有意な差はなかった.

⑤重症度

精神病像群では,平 均DST後 値とDST陽 性

率 ともに各重症度で高値および高率を示し有意

な差は認めなかつた.し かし,非 精神病像群に

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842 西 紋 孝 一

表15:精 神病像群 における重症 度 とDST

cf. ANOVA one-way layout: ※ p<0.05, T test: * p<0.05,

X2 test: # p<0.05

表16:精 神病 像におけ るDSTの 経時的変化

Cf. ●: 5μ9/dl<, ▲: 4~5μ9/dl, 0:3.9μ9/dl>

症 例:大 うつ 病, S:単 一 エ ピ ソー ド, R:反 復 性

お い て は,平 均DST後 値 に関 して 各 重症 度 間

で差 を認 め(ANOVA one-way layout: p<

0.05),特 に軽 症 お よび 中等 症 に対 して 重症 で有

意 に高値 を示 した(T test: p<0.05, p<0.05).

また, DST陽 性 率 で は,軽 症 に対 して 重症 で有

意 に高率 を示 した(X2 test: p<0.05)(表15).

⑥ 薬物 の影 響

a.ク ロル プ ロマ ジ ン換 算 量

DST後 値 と各 クロル プ ロマ ジ ン換 算 量 との

関係 にお い て,精 神 病像 群 では相 関 が な か った

が,非 精 神 病像 群 で正 の相 関 傾 向 を示 した(R=

0.230, p=0.040).

b.三 環 系 抗 うつ 薬 換 算 量

DST後 値 と各三 環 系 抗 うつ薬 換 算 量 との 間

で は,精 神 病 像 お よ び非精 神 病像 と もに相 関 を

認 め な か った.

3.精 神 病 像 群 にお け るDST後 値 の 経 時 的

変 化

精 神病 像 群 の うち, DSTを2回 以上 施 行 し,

その 経 時 的変 化 をみ る こ とが で きた9例 と経過

中 に精神 病 像 を呈 した2例 にお い て, DST後 値

と精 神 病像 の 経 時 的変 化 との 関係 につ い て検討

した.各 症例 の状 態 を上 記 の重 症 度の 分類 を参

考 に して 急性 増 悪 期,院 内寛 解 期,寛 解通 院期

の 三期 に分 け た.急 性 増 悪期 に5μg/dl以 上 の

陽性 例 が 多 く,院 内 寛解 期 に もか な りみ られた

が,寛 解通 院期 に は ほ とん どみ られ なか った(表

16).各 状 態 でDST陽 性 例 の平 均DST後 値 は,

急 性増 悪 期 で は10.51±4.26μg/dl(N=15),院

内寛解 期 では6.72±1.95μg/dl(N=5),寛 解

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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義 843

通 院期 では6.60μg/dl(N=2)で あ り,急 性増

悪期 で有 意 に高 値 を示 した(T test: p<0.05).

考 察

精神 疾 患 に対 す る神 経 内分 泌的 研 究 が,近 年

さかん に なされ るよ うに な った.特 に,デ キサ

メサ ゾ ン,プ ロラ クチ ン, ACTH, TRHな どの

ホルモ ンの 間脳下 垂体 系へ の影 響 をみ て精 神 疾

患 の診断,状 態,症 状 な ど との関 係 につ い て調

べ た諸家 の様 々な報告14),15),28),43)があ る.そ の な

か で も内因性 うつ 病 の場 合,デ キサ メサ ゾ ン抑

制試 験が 特異 的 な異 常結 果 を示 した ため,「視 床

下部-下 垂体-副 腎皮質 系 」の 抑制 障 害が よ り

密 接 に関係 して い る と考 え られ,内 因性 うつ 病

のDSTの 有用 性 を指 摘 され てい るが種 々 の 面

で未 だ問題 が 残 され一 致 した意 見 が得 られて い

な い.今 回,我 々は上 記 の結 果 を も とに して精

神 疾 患 にお け るDSTの 臨 床 的 意義 につ いて 検

討 してみ た.

DSTに お け るデ キサ メサ ゾ ンの投 与 量,投 与

前後の 採 血時 間,採 血 回数 お よび判 定 基準 の 問

題 など, DSTそ の もの につ い て も各研 究者 間 で

一致 した 意見 は な い7),18),22).我 々 は, Carrollら

の方法 を参 考 に し,患 者 の 負担 を考 慮 して,デ

キサ メサ ゾ ン1mgを 投 与 し投与 前後 とも午 後

4時 に各一 回 の採 血 を し, 5μg/dl以 上 をDST

陽性 とし検 討 した.

大 感 情 障 害 診 断 に お け るDSTの 感 受 性 は

31.0%,特 異性 は77.3%,診 断確 実 性 は42.6%

で あ り,精 神 病像 あ る いは メラ ン コ リー を伴 う

大 うつ 病エ ピ ソー ド群(い わ ゆ る内 因性 うつ病)

診断 にお け るDSTの 感 受 性 は35.9%,特 異性

は78.2%,診 断確 実性 は37.7%で あ った.精 神

分 裂性 障害(感 受性: 24.7%),痴 呆(感 受 性:

21.9%),分 裂病 様 障 害(感 受 性: 50.0%)な ど

の他 の精 神 疾 患 に お い て もDSTは 内 因性 うつ

病 と同程 度 あ る い は そ れ 以 上 の 感 受 性 を示 し

た.し たが って, DSTはCarrollら が報 告 した

ほ ど内 因性 うつ病 に特 異性 の 高 い もの で な い と

いえ る.こ れ は,最 近 の諸 家 の報 告11),21),40)と一

致 して い る.

また各精 神 疾 患,特 に大 感 情 障害 お よび精神

分裂 性障 害 の 亜 型分 類 にお け るDSTの 有 用性

につ いて検 討 してみ た.大 感情 障 害 の双 極感 情

障害(う つ 病 性)と 大 うつ病 との 間 のDSTの 反

応 の 違 い は,そ の 二 群 間 で 差 が な い とい う報

告6),29),双極 感情 障 害(う つ 病性)でDSTは 異

常 反 応 を示 す とい う報告36),大 うつ 病 でDST

が 異 常 反 応 を示 す とい う報 告32),35)など種 々 の

報 告 が あ り,一 致 した意 見が ない.今 回の わ れ

われ の結 果 は,双 極 感情 障害(う つ 病性)でDST

陽性 率 は33.3%,平 均DST後 値 が4.02±0.85

μg/dlで あ り,大 うつ病 で は各 々31.6%, 4.05±

0.53μg/dlで 二 群 間 で差 は なか っ た.

次 に,大 感情 障害 の躁 病 エ ピソー ド群 と大 う

つ 病 エ ピ ソー ド群 との 間 のDSTの 反 応 の違 い

は,以 前 の 報 告 で は躁 病 エ ピ ソー ド群 はDST

陰性 す なわ ち正 常 の抑制 パ ター ン を示 し,ま た

同一症 例 の経 時 的変 化 に おい て もうつ病 時 に は

異常 反 応 を示 す が,症 状 の 改善 あ るいは 躁病 時

には 正 常 化 す る とい う報告10),20)が大 半 で あ っ

た.し か し,最 近 で は躁 病 時 あ るい は躁 病エ ピ

ソー ド群 で もDSTが 異常 反 応 を示 す とい う報

告2),17),19)がみ られ る.わ れ われ の結 果 は,双 極 感

情 障害(躁 病 性)のDST陽 性率 が25.0%,平 均

DST後 値 が4.00±1.82μg/dlで あ り,こ れ ら最

近 の報 告 と同 じ結 果 で あ った.ま た,双 極 感 情

障害(混 合 性)もDST異 常 反応 を示 した とい う

報告13),25)があ る.

精 神 分 裂 性 障害 の 亜 型 間 のDSTの 反 応 の違

いに つ い て は い ま まで に報 告 は 見 当 た らな い

が,今 回 の わ れ われ の 結 果 はDST陽 性率 お よ

び平 均DST後 値 と もに各 亜 型 間 で差 はみ られ

ず,ま た,そ れ らの値 は大 感情 障害 の 各亜 型 と

も差 はな か った.次 に,そ の他 の精 神疾 患 に関

して,い ままで の報告 と対 比 して検 討 す る.ま

ず,分 裂 病 様 障 害 はDST陽 性 率 お よ び 平 均

DST後 値 は比較 的 高値 を示 し,神 経 内分 泌系 の

機能 異 常 を強 く示 唆 して い る.こ の こ とか ら,

分裂 病 様 障害 と感 情 障害 との近 縁性 を述べ て い

る文 献16),41)もあ る.妄 想性 障害(N=7,平 均 年

齢 ±標 準偏 差: 56.57±7.66歳)は 年 齢的 に内 因

性 う つ 病(N=64,平 均 年 齢 ±標 準 偏 差:

50.42±15.05歳)と 大差 な く,臨 床 的 に も非 常

に鑑 別 を困難 とす る精神 疾 患 で あ るが,妄 想性

障 害 に お け るDST陽 性 率 は14.3%で 平 均

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844 西 紋 孝 一

DST後 値 は1.79±0.55μg/dlで あ り正 常 対 照

群 お よび他 の非 内因性 精 神疾 患(人 格 障 害,神 経

症 な ど)と 有意 差 が なか った.し たが っ て, DST

は妄 想 性 障害 お よび 内因性 うつ病 との鑑 別 に有

用 で あ る と考 え られ る.痴 呆 に関 して, Mcallis

terら はDSTが せ ん 妄 状 態 あ る い は 痴 呆 と抑

うつ性 偽痴 呆(内 因性 うつ病)を 鑑 別 す るの に

有 用 で あっ た と報告27)して い るが,痴 呆 患 者 に

施 行 したDSTの 約50%が 陽性 を示 した とい う

報 告31),38)が多 い.わ れ わ れ の 今 回 の 結 果 は,

DST陽 性率 が21.9%で あ り,鑑 別 上有 用 とは言

えな い もの で あ った.わ れ われ が検 討 した痴 呆

患 者 は,血 管性 の ものか あ る い は変性 性 の もの

か を詳細 には調 べ て い な いが,か な り進 行 した

痴 呆状 態で あっ た.脳 に器 質 的変 化 が広 範 囲 に

起 これ ば,「 視 床下 部-下 垂 体-副 腎 皮 質系 」な

どの 神 経 内分 泌系 に も異 常 が起 こ る こ とは想像

され る.神 経症 性 障 害 で は,わ ず か に 強迫神 経

症 の1例 の み がDST陽 性 を示 した だ け で,平

均DST後 値 は正 常対 照群 と有 意 差 は なか った

が メ ラン コ リー群 とは有 意 な差 を認 め た,こ れ

らの 結 果 は最近 の報 告10),23)と一 致 して いた.人

格 障害 に お け るDSTに 関 して, Soloffら は19

名 の 人格 障 害 の うち3名 がDST陽 性 を示 し,

平 均DST後 値 は3.39μg/dlと 報 告37)し て い る

が,わ れ わ れの 結果 にお い て症 例数 が 少 な く,

確実 な こ とは言 えな い.

以上 の こ とよ り, DSTは 内 因性 うつ 病 に対 し

て特 異 的 に 異常 を示 す もの で はな く,精 神分 裂

性 障害 をは じめ とす る他 の精 神 疾 患 にお い て も

同程 度 のDST陽 性率 お よ びDST後 値 を示 し,

また,大 感情 障 害 お よび精 神 分 裂性 障害 の 各亜

型 間 に お い て もDSTの 反 応 に差 は な く,現 段

階 で は診 断 的有 用性 は あ ま り期 待 で きな いが,

何 らかの神 経 内分 泌系 の 異常 が想 定 され る.そ

こで,こ こで は メ ラン コ リー 群 お よび精 神分 裂

性 障害 群 とを比 較 しなが ら, DSTと 種 々の要 因

との 関係 に つ いて検 討 したい.性 差,入 院 ・外

来,体 重,発 病 時 あ るいは 入 院前 ス トレスお よ

び薬 物 の 影響 に関 して は,両 障害 群 で特 徴 的 な

もの は なか っ た.し か し,発 病 時 年 齢 お よ び

DST施 行 時年 齢 に関 して,特 に発 病 時年 齢 にお

いて精 神分 裂 性 障 害群 で は若年 齢 層 群 に,メ ラ

ン コ リー 群 で は 高 年 齢 層群 でDST後 値 お よび

DST陽 性 率 が 高 い値 を示 した.実 際 の 臨床 に お

いて,両 障 害群 の好 発 年 齢 とされ て い る年 齢層

に高値 を示 した とい うこ とは興 味 あ る結 果 で あ

る.ま た,も う一 つ は っ き りと した所 見 と して,

重 症 度 とDSTと の 関係 が あ る.両 障害 群 と も

に 軽 症 よ り重 症 に お い て, DST後 値 お よび

DST陽 性率 は高 い値 を示 した.す なわ ち,各 障

害 群 の病 状 の 重篤 さお よび 重症 度 が,「視 床下 部

-下 垂 体-副 腎皮 質系 」 の 神経 内分 泌系 の機 能

に強 く影 響 を与 えて い る もの と考 え られ る.

また,メ ラン コ リー 群 の 中 で臨 床 診 断上,精

神 分 裂性 障 害 お よび妄 想性 障害 な どの精 神疾 患

との 鑑 別 を 困 難 と し,治 療 上 お よび 予 後 を考

え る面 で も鑑 別 を要 す る精 神 病 像 を伴 う大 う

つ 病 エ ピ ソ ー ド群(精 神 病 像 群,い わ ゆ る

delusional depression)の 診 断 にお け るDST

の感 受性 は78.6%,特 異性 は77.7%,診 断確 実

性 は18.0%で あ っ た.こ の よ うに,精 神 病像 群

のDST後 値 お よびDST陽 性 率 は他 の精 神疾

患 お よび亜 型 よ りも特 に高 い値 を示 した.こ れ

は,性 差,入 院 ・外 来,発 病 時年 齢 お よびDST

施 行 時年 齢,体 重,発 病 時 お よび入 院前 ス トレ

ス,重 症度,薬 物 の影響 な ど との関係 も認 めず

高値 を示 した.す な わ ち, DST後 値 お よびDST

陽性 率 の高 値 が単 に加 齢現 象 に よる とい うこと

で は説 明 で きず,よ り精 神 病像 との 関係 を示唆

す る もの と考 え る.そ こで 精 神 病像 とDSTと

の 関係 を よ り明確 にす るため に,精 神 病像 群の

各症 例 ご とに経 時 的変 化 をみた場 合 にお いて も

急 性 期 増 悪 期 にDST陽 性 率 が 高 く,し か も

DST後 値 も高 い値 に あ り臨床 症状 の 軽快,寛 解

と と もに陰性 化 お よび正 常化 す る傾 向,す なわ

ちDSTは 状 態依 存性 指 標 で あ る こ とがわ か っ

た.今 まで, Caroffら お よび その他 の 報告3),33)で

も精神 病像 群 に高 いDST陽 性 率 を認 め たが,

経 時的 変 化 につ いて は調べ て い ない,

ま と め

正 常 対 照 群21名 お よび 精 神 障 害 群238名 に対

してDSTを 施 行 し,次 の よ うな結 果 を得 た.

DSTす な わ ちDST施 行 後 の 血 清 コ ル チ ゾ

ー ル値 お よ びDST陽 性 率 は, 1)精 神 病像 ある

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精神疾患におけるDSTの 臨床的意義 845

いはメランコリーを伴 う大うつ病エピソー ド群

(いわゆる内因性 うつ病)に特異性の高いもので

はなく,精 神疾患におけるDSTの 診断的有用

性はあまり期待できない. 2)各 精神疾患,特 に

内因性うつ病および精神分裂性障害において,

ともに病状の重症度 と密接な関係を示 し状態依

存性指標となる. 3)精 神病像を伴う大 うつ病エ

ピソー ド群で顕著な異常反応を示し,「視床下部

-下 垂体-副 腎皮質系」の機能異常をより強 く

示唆する.ま た,精 神病像を伴う大うつ病エピ

ソー ド群は臨床的に老年期の妄想性障害と鑑別

を困難とするが,後 者ではDSTは 正常対照群

および他の非内因性精神疾患と同様な反応結果

を示し, DSTは その鑑別には十分に参考になり

得 る.

この よ うに, DSTは 精 神科 領 域 にお い て数 少

ない補 助 的 な検 査 として利 用 され得 るが,今 後

さ らに他 の生物 学 的 な指 標 と組 み合 わせ る こ と

によ り,種 々 の精神 疾 患 の病 態,診 断,治 療 お

よび予 後 な どの研 究 に大 き く寄 与 す る と考 え ら

れ る.

謝 辞

稿 を終 えるに あた り,御 指導,御 校閲いただいた

大 月三郎教授,直 接御指導 いただ いた佐藤光源助教

授 に対 して感謝の意 を表 します.な お本研 究は文部

省科学研究費の補助 によ り行 なった.

文 献

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848 西 紋 孝 一

Clinical relevance of the dexamethasone suppression test (DST)

in mental disorders

Koichi NISHIMON

Department of Neuropsychiatry, Okayama University Medical School

(Director: Prof. S. Otsuki)

The dexamethasone suppression test (DST) is considered to be a useful diagnostic test

for hypothalamic-pituitary-adrenal (HPA) dysfunction in depression, but substantial doubt remains about its specificity. In this study, 21 healthy controls and 238 patients underwent the DST. The clinical diagnosis was made according to the Diagnostic and Statistical

Manual for Mental Disorders, 3rd Edition (DSM-III).The specificity of the DST to endogenous depression was not as high as Carroll et al.

reported, and the DST did not distinguish significantly between diagnostic categories of

depression and schizophrenic disorders. The DST was a state dependent biological marker of the severity of symptoms including psychotic features in endogenous depression and

schizophrenic disorders. The DST results indicated remarkable abnormality (postdexamethasone cortisol level and DST positivity) in major depression with psychotic

features, suggesting marked HPA dysfunction.Differential diagnosis is sometimes difficult between paranoid disorders in the aged and major depressive episodes with psychotic features. Nevertheless the DST should be useful in their differentiation, since the former

disorder usually shows normal DST results.Accordingly, it was concluded that the DST could be used as a supplementary test in

the study of various mental disorders and could be a valuable guide to the psychiatrist in

combination with other biological markers.