材料組織学 混合のエントロピー 2009年7月13日
材料組織学混合のエントロピー
2009年7月13日
自由エネルギー
G = H-TS
が低いほど安定
Hは小さいほど安定
自由エネルギー
G = H-TSが低いほど安定
Sは大きいほど安定
なぜなら-TSと引き算になっている
混合のエントロピー
ものが混ざればエントロピーは上昇する
自由エネルギーG = H-TSが系の安定性(stability)をはかる指標
-Tを乗じているので、Sは大きいほどGは小さい
ごま塩の例→ 混合エントロピーが支配する例
ごまと塩が分離した状態から出発する
ごま
塩
容器を右まわりに20回回転してみよう
ごまと塩は混じりあう
右まわりに20回回転させた後左まわりに20回逆に回転させてみよう
ごまと塩はどうなるだろうか?
逆の経路をたどったので、ごまと塩はもとの分離した状態に戻る?
結果
ごまと塩はもっと混じりあう
ごま塩の例
1 ごまと塩を分離した状態でビンに入れる2 このビンを右に20回、回転する。すると、ごまと塩は混じる。3 次に、このビンを左に20回、逆回転する。ごまと塩が分離したもとの状態には戻らない。さらに、混じった状態になる。
→ 不可逆性
塩-塩 ごま-ごま 塩-ごま
ごまと塩がとなりどうしになっても、ポテンシャルエネルギーはほとんど変わらない
→ エンタルピーは変化しない
結論 ごま塩の場合
混合してもエンタルピー(H)は変化しないので
混合のエントロピー(S)が自由エネルギー(G)を支配する
よって
回転すればするほど
エントロピーの効果によって
ごまと塩は混じり合っていく
自由エネルギー
G = H-TS
Hが小さいほどGは小さい
水と油の例
→ エンタルピーが支配する例
1 水と油をビンに入れる→ 分離している
2 このビンを右に20回、回転する。すると、一瞬、水と油は混じるがすぐにもとの分離した状態に戻る。
水
油
水と油を容器に入れると分離する
3 次に、このビンを左に20回、逆回転する。すると水と油は一瞬混じるが再びもとの分離した状態に戻る。
なぜだろうか?
水-水 油-油 水-油
水分子と油分子がとなりどうしになるとポテンシャルエネルギーは非常に大きくなる
→ エンタルピーが増大する
水と油が混じりあった方がエントロピー的には安定であるつまり自由エネルギーを低下させる効果がある
ただし水と油が混じりあうとエントロピーの効果以上にエンタルピーが上昇しトータルでは自由エネルギーが下がらない
G = H - TS
水と油が混じるとSは増大
水と油が混じるとHはもっと増大
自由エネルギー
G = H-TS
HとSの大小関係でGが決定される
水と油を混ぜるにはどうしたらよいか
水と油が混じるとエンタルピー(H)が大きくなるがエントロピー(S)も大きくなる
温度が高くなるとSの項が利いてくるよって、高温では水と油も混じる
二元合金(binary alloy)
熱力学 (thermodynamics) と状態図 (phase diagram)
自由エネルギー(free energy)
G = H - TS
を基本にした考え方
自由エネルギー(G)はいろいろな変数の関数である。
温度(T)、圧力(P)、体積(V)成分など
実際に自由エネルギーを利用する場合は変化する変数だけに着目する
金属Aと金属Bの合金
ふたつの金属を混ぜたときにGがどう変化するか
金属を混合したときH(エンタルピー: enthalpy)S(エントロピー: entropy)がどう変化するか?
混合のエントロピー(entropy of mixing)
S = k lnW
W:場合の数number of events
k: ボルツマン定数Boltzmann constant
)lnln( BBAA xxxxRS +−=
混合のエントロピー:S
xA: A成分の組成比xB: B成分の組成比
xA + xB = 1
演習1 1から5までの数を並べる場合の数を求めよ。
最初の数字の選び方は5通りつぎの数字の選び方は残りは4個であるから 4通りつぎの数字の選び方は3通り
結局5×4×3×2×1=120通り
1×2×3×4×5=5!
階乗 (factorial)
演習2 1から5までの数から3個を選んで並べる場合の数を求めよ。
最初の数字の選び方は5通りつぎの数字の選び方は4通り最後の数字の選び方は3通り
5×4×3=60通り
演習3 1,1,1,2,3,4の6個の数を並べる場合の数を求めよ。
まず6個の数字を並べる場合の数を考える。6!=720 通りしかし、この場合の数は1, 1, 1の3個を別の数字としてカウントしているその補正をする必要がある。
演習3 1,1,1,2,3,4の6個の数を並べる場合の数を求めよ。
6!=720 通り1, 1, 1の3個をダブルカウントしている数は3!通りよって求める場合の数は6!/3!=720/6=120 通りである。
演習4 1,1,1,2,2,4の6個の数を並べる場合の数を求めよ。
6個の異なる数字を並べる場合の数は6! = 720 通り
ここで、1を3個、2を2個ダブルカウントしているから
6026
720!2!3
!6=
×= 通り
演習5 1,1,1,2,2,2の6個の数を並べる場合の数を求めよ。
6個の異なる数字を並べる場合の数は6! = 720 通り
ここで、1を3個、2を3個ダブルカウントしているから
2066
720!3!3
!6=
×= 通り
演習6 ○を4個、●を3個並べる場合の数を求めよ。
○を4個、●を3個並べる場合の数
○○●●○●○
7個の異なる数字を並べる数を考える7! 通り○が4個 ●が3個重複してカウントしている
よって、求める答えは !3!4!7
)123)(1234(1234567
!3!4!7
×××××××××××
=
35123567=
××××
= 通り
演習7 ○をm個、●をn個並べる場合の数を求めよ。
○○●●○●○…….●○
○をm個、●をn個並べる場合の数
○○●●○●○…….●○
(m + n)個の異なる数字を並べる数は
(m + n)! 通り
(m + n)個の異なる数字を並べる数は(m + n)! 通りしかし、この場合○がm個 ●がn個分だけ重複してカウントしているよって、求める答えは
!!)!(
nmnm +
○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○
●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
m個 n個
○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○
○○●○○○○○○●●○○
○○○○○○●○○○○○○
○○○○○○○○○●○○○
○○○●○○○○○○○○○
●●●●●●●●●●○●●
●●○○○○●●●●●●●
●●●●●●●○○●○○●
○○●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
m個 n個
○○○○○○○○○○○○○
○○○○○●○○○○○○○
●●●●○○○○○●○○○
○○○○○○○○○○○○○
2元合金において
A原子●をm個B原子○をn個
並べる場合の数
○○●●○●○●○○●●○○○○●●○●○
!!)!(
nmnm +
2元合金において
A原子○をm個 B原子●をn個混合した時のエントロピー
!!)!(lnln
nmnmkWkS +
==
スターリング近似(Stirling approximation)
NNNN −≅ ln!ln
演習8 スターリング近似を用いて混合のエントロピーを計算せよ。
NNNN −≅ ln!ln
!!)!(lnln
nmnmkWkS +
==
!!)!(lnln
nmnmkWkS +
==
}!ln!ln)!{ln( nmnmk −−+=
nnmmnmnm
nmnm
lnln)ln()(
!ln!ln)!ln(
−−++=−−+
スターリング近似を使うと
nknmkmnmnmkSlnln
)ln()(−−
++=
{ })ln(ln)ln(ln nmnnnnmmmmkS +−++−−=
++
+−=
nmnn
nmmmkS lnln
++
+−=
nmnn
nmmmkS lnln
演習9 つぎの式
)lnln( nnmm xxxxRS +−=
を変形して
という関係を導出せよ。ただし、xm, xnは組成比、Rは気体定数である。
ここで1モルの合金を考える
m+n : アボガドロ数(6.02 x 1023)
++
+−=
nmnn
nmmmkS lnln
nmmxm +
=nm
nxn +=
+++
+++−=
nmn
nmn
nmm
nmmnmkS lnln)(
++
+−=
nmnn
nmmmkS lnln
+++
+++−=
32132132132143421
nnmm xxxxR
nmn
nmn
nmm
nmmnmkS lnln)(
)lnln( BBAA xxxxRS +−=
混合のエントロピー
R: 気体定数(gas constant)
0 1
-S = x lnx + (1-x) ln(1-x)
)lnln(3.8 BBAA xxxxS +−=
演習10 成分Aが1.0, 0.2, 0.5, 0.8, 0 の場合の1molあたりの混合のエントロピーを計算せよ。
)KJ/mol(0)0ln00.1ln0.1(3.8 ⋅=+−=S
)molJ/K(2.4)8.0ln8.02.0ln2.0(3.8 ⋅≅+−=S
)molJ/K(8.5)5.0ln5.05.0ln5.0(3.8 ⋅≅+−=S
)molJ/K(2.4)2.0ln2.08.0ln8.0(3.8 ⋅≅+−=S
)KJ/mol(0)0.1ln0.10ln0(3.8 ⋅=+−=S
演習11 成分AとBが0.5ずつ混合した場合の1molあたりの混合のエントロピーの300Kにおける自由エネルギーへの寄与を計算せよ。
G = H –TS であるから、寄与は-TS
)molJ/K(8.5)5.0ln5.05.0ln5.0(3.8 ⋅≅+−=S
)J/K(1740)molJ/K(8.5)K(300 −=⋅×−=−TS
G = H - TS
= H + T(-S)
自由エネルギーの求め方
-TS
H
H-TS
-TS
H G = H - TS
A B
元素Aと元素Bを混合したときのエンタルピーが減少する系では、合金ができる
状態図は非常に単純になる!
0 1
H
-TS
混合エンタルピーが上に凸の系
HとSのバランスによって多種多様な状態が実現する!
G
xA xB
G
xA xB
液相
固相
高温
G
xA xB
凝固がはじまる温度
G
xA xB
固相となる温度
スターリング近似(Stirling approximation)
NNNN −≅ ln!ln
321)2)(1(! ⋅⋅⋅−−= NNNN
1ln2ln)1ln(ln!ln ++⋅⋅⋅+−+= NNN
cbaabc lnlnlnln ++=
1ln2ln)1ln(ln!ln ++⋅⋅⋅+−+= NNN
N
lnN
01
1ln12ln11ln!ln ×+⋅⋅⋅+×+×= NN
N
lnN
01
1ln12ln11ln!ln ×+⋅⋅⋅+×+×= NN
1
lnm
m
dxxNN
∫≅ 1ln!ln
結局、階乗の値は
という積分で近似できる
∫ −= xxxxdx lnln
自然対数の積分公式
[ ]NNxxxdxxN 11
lnln!ln −=≅ ∫
1ln)11ln1(ln +−=−−−= NNNNNN
NNN −≅ ln
)()( xgxf
)()()()())()(( xgxfxgxfxgxf ′+′=′
部分積分の復習
関数の積の微分
)()()()())()(( xgxfxgxfxgxf ′+′=′
dxxgxfdxxgxfxgxf )()()()()()( ′+′= ∫∫
dxxgxfxgxfdxxgxf )()()()()()( ′−=′ ∫∫
部分積分の復習
両辺を積分すると
部分積分の公式
xxxgxf ln)()( =
1ln1ln
)(lnln)()ln(
+=+=
′+′=′
xx
xx
xxxxxx
の場合を考える
∫∫ ∫∫
+=
+=+=
xxdx
dxxdxdxxxx
ln
1ln)1(lnln
∫ −= xxxxdx lnln
自然対数の積分公式