Case 1 その他の一次性頭痛 〜問診でわかる興味深い頭痛〜 岩手医科大学内科学講座神経内科・老年科 工藤雅子 2014.7.20 HMSJ-Osaka
Case 1 その他の一次性頭痛〜問診でわかる興味深い頭痛〜
岩手医科大学内科学講座神経内科・老年科
工藤雅子
2014.7.20 HMSJ-Osaka
症例160歳女性
主訴:頭痛
既往歴:脂質異常症で近医通院中
40歳代まで時々頭痛があったが受診歴はない。
家族歴:母が脳卒中
生活歴:職業 主婦,喫煙歴 なし 飲酒歴 なし
現病歴:約1週間前から頭頂部の“ズキズキする“痛みがあり、近医を受診した。鎮痛薬を処方されたが内服しなかった。症状が改善しないために当院救急外来を受診し、翌日神経内科受診を勧められ当科受診した。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
症例1一般身体所見:
血圧132/76、体温36.2℃
皮疹無し その他異常所見なし
神経学的所見:
意識清明、軽度のイライラ感あり
髄膜刺激症状なし、その他異常所見なし
検査所見:
血液一般・血液化学検査で異常なし
画像所見:
救急外来の頭部CTおよび前医の頭部MRIで異常
所見なし2014.7.20 HMSJ-Osaka
症例1
ポイント1:20−40歳代まで時々頭痛があった60歳女性2:約1週間前から毎日頭痛がある3:特記すべき薬剤歴や外傷歴は無い
患者の行動1頭痛が始まって5日目に近医を受診。頭部MRI,MRAで異常がなく、“片頭痛”と診断された。NSAIDsが処方され、2週間後の再来を指示された。
患者の行動2
処方されたNSAIDsは一度も服用せず、2日後に大学病院の
救急外来を受診。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
Question1: 確認すべき5つの“謎”
1. なぜ、患者は処方されたNSAIDsを飲まなかったのか。
2. なぜ、患者は2日後に救急外来に受診したのか。
3. 随伴症状は何か。
4. 誘発因子は何か。
5. “頭痛の既往”は関連があるのか。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
【患者が救急外来で訴えた頭痛の性状】“左頭頂部のずきずきする痛み”が一日中続いている。この1週間で増悪している。痛くて家事ができない。
→前医で“片頭痛”の診断
【詳細な問診により聞き得た情報】頭頂部のずきずきと刺されるような数秒間の痛みが一日中何度かある状態が続いている。この1週間で回数が増悪している。(最初は一日に一度だったのに今は一日に何度も起こる)
痛みは一瞬だが、いつ起きるのかわからないので、また起こるのではないかと気になり、家事ができない。随伴症状はなし。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
Question1: 確認すべき5つの“謎”解説編
1. なぜ、患者は処方されたNSAIDsを飲まなかったのか。
2. なぜ、患者は2日後に救急外来に受診したのか。
3. 随伴症状は何か。
4. 誘発因子は何か。
5. “頭痛の既往”は関連があるのか。
→頭痛の持続時間がごく短時間だったので、いつ服用すればわからなかった。そのことを医師には伝えることができなかった。
→頭痛の頻度が増えるため、不安が強くなった。2週間待つことができなかった。
→特になし
→特になし。いつ起こるかわからないため不安であった。
→穿刺様疼痛は、片頭痛(約40%)または群発頭痛(約30%)患者に見られることが報告されている。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
診断:一次性穿刺様頭痛(ICHD-3β 4.1)以前に使用された用語:アイスピック頭痛(Ice-pick pains)、
ジャブ・ジョルト(jabs and jolts) など
診断基準(ICHD-3β)A. B〜Dを満たす自発的な単回または連続して起こる穿刺様の頭部の痛み
B. それぞれの穿刺は数秒まで持続するC. 穿刺は不規則な頻度で, 1日に1回から多数再発するD. 頭部自律神経症状がないE. 他に最適なICHD-3の診断がない
日本頭痛学会国際頭痛分類委員会暫定訳2014年6月
*ICHD-IIには、「専らまたは主として、三叉神経の第1枝領域(眼窩、側頭部および頭頂部)に生ずる」という項目があったが、ICHD-3βでは削除された。70%が三叉神経領域外に起こり、1つの領域から他に移動する場合もある。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
治 療
インドメタシン製剤400mg/日(1日2回投与)を
開始したところ数日で症状が消失し、以後出現していない。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
一次性穿刺様頭痛:治療
インドメタシンの有効性が報告されているが、効果が不十分、または全く効果が認められなかったという報告もある。Mathewらは、5症例に対して50mgのインドメタシンを1日3回投与してアスピリンおよび偽薬と比較したところ1週間の平均頭痛回数は劇的に減少したと報告している。Parejaらは38例の臨床的特徴を検討した論文の中で,15日のインドメタシン(75mg/日)の治療を受けた17例中6例(35%)が完全寛解、5例(29%)が部分寛解を認めたが、6例(35%)が治療抵
抗性であったと報告した。インドメタシン以外の治療薬としては、ニフェジピン、メラトニン、ガバペンチン、セレコキシブなどの有効性についてケースレポートがある。(グレードC) 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013より
症例 2
52歳男性主訴:頭痛既往歴:特記事項なし家族歴:特記事項なし生活歴:職業 会社員(営業)喫煙歴 10本/日、
飲酒歴 ビール500ml/日現病歴:昨年夏(X年7月頃)から持続性の頭痛を自覚。
頭頂部のある場所が押されるようにまたはぴりぴりするように痛い。近医を受診し、鎮痛剤が開始になったが症状が改善しないため、X+1年3月当科を受診した。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
症例 2
一般身体所見:
血圧128/76、体温36.2℃
異常所見なし
神経学的所見:
意識清明、髄膜刺激症状なし、
その他異常所見なし
検査所見:
血液一般・血液化学検査で異常なし
画像所見:
前医の頭部MRIで異常所見なし
2014.7.20 HMSJ-Osaka
頭痛の性状:頭頂部右側の決まった場所に5-6cmの円形の疼痛部位がある。圧痛点などはない。常に押されるような異和感があるが、時々同部位が、ぴりぴり・ちくちくと痛む
初診までの経過:近医(内科医)で、頭の“ある部分”が痛いと訴えたところ皮膚科に紹介された。皮膚科では異常がないと診断された。脳外科開業医に紹介され頭部MRIで異常がなく最初の内科に戻った。何種類かの鎮痛薬を試したが改善がなく、繰り返し訴えたところ“心因性では”と言われ、心療内科への受診を勧められた。
診断は…
Rt 2014.7.20 HMSJ-Osaka
一次性貨幣状頭痛 (ICHD-3β 4.8)ICHD-IIではA13“頭部神経痛および中枢性顔面痛”の中の“A13.7.1貨幣状頭痛”として記載されていた。以前に使用された用語:硬貨系頭痛(coin-shaped cephalalgia)
☆まれに複数あるいは多巣性に存在し, それぞれの部位はすべての貨幣状頭痛の特徴を保っている。
☆一般に軽度から中等度の痛みであるが重度のこともある。☆持続時間はきわめて多様である:報告例の75%までが慢性の経過(3ヶ月以上存在する)であるが, 数秒, 数分, 数時間あるいは数日であるとする報告もある。
A. Bを満たす持続性あるいは間欠的な頭部の痛みB. 頭皮の領域に限定して感じ, 以下の4つのすべての特徴を持つ
1. くっきりした輪郭2. 大きさと形が一定3. 円形または楕円形4. 直径が1〜6 cm
C. 他に最適なICHD-3の診断がない。
ICHD-3β診断基準
日本頭痛学会国際頭痛分類委員会暫定訳2014年6月
一次性貨幣状頭痛Moonらの16例の報告より
年齢:21歳〜80歳(平均発症年齢 50歳)性別:男性6例、女性10例経過:“episodic(頭痛の日数が15日/月以内)” 6例、
“chronic(頭痛の日数が15日/月を越える)”10例頭痛部位の形:はっきりした円形 9例 楕円形 1例頭痛部位のサイズ:2〜10cm(平均3.9cm)頭痛の性状:“持続性の痛みがあり時々増悪”12例、
“鈍痛のみ” 2例“拍動痛” 1例、“間欠性の刺されるような痛み” 1例同部位のdysesthesiaを伴う例が4例あった
その他:自然軽快が38%にみられた。罹病期間は様々で最も長かった例は40例であった。56%に片頭痛を、25%に薬物乱用頭痛を認めた。
cephalalgia 30(12)、2010
2014.7.20 HMSJ-Osaka
治療:NSAIDs、ガバペンチンオピオイド、三環系抗うつ薬、カルバマゼピ ン、クロナセパムなどが使用されるが有効性が確立された治療法はない。ノイロトロピンの有効性も報告されている。
一次性貨幣状頭痛
2014.7.20 HMSJ-Osaka
その他注意深い問診が必要な“興味深い頭痛”
航空機搭乗による頭痛
入浴頭痛(bath-related headache)
睡眠頭痛(4.9)
一次性咳嗽頭痛(4.1)
性行為に伴う一次性頭痛(4.3)
寒冷刺激による頭痛(4.5)
グルタミン酸ナトリウム誘発頭痛(8.1.5.1)
特発性低頭蓋内圧性頭痛(7.2.3)
一過性表在頭痛(A4.11)
…etc.
2014.7.20 HMSJ-Osaka
ICHD-3β4.1一次性咳嗽性頭痛4.2 一次性運動時頭痛4.3 性行為に伴う一次性頭痛4.4 一次性雷鳴頭痛4.5 寒冷刺激による頭痛4.6 頭蓋外からの圧力による頭痛4.7 一次性穿刺様頭痛4.8 貨幣状頭痛4.9 睡眠時頭痛4.10 新規発症持続性連日性頭痛
ICHD-II4.1一次性穿刺用頭痛4.2 一次性咳嗽性頭痛4.3 一次性労作性頭痛4.4 性行為に伴う一次性頭痛4.5 睡眠時頭痛4.6 一次性雷鳴頭痛4.7持続性片側頭痛 →3.4
4.8 新規発症持続性連日性頭痛
ICHD-IIとICHD−3βにおける“4.その他の一次性頭痛性疾患“分類の相違点
日本頭痛学会国際頭痛分類委員会暫定訳2014年6月
←13.11
←13.10
←A13.7.1
2014.7.20 HMSJ-Osaka
Question 2:国際頭痛分類の診断基準に基づいた診断を行うために重要なのはどれか(複数解答可)。
1. 問診票を利用する。2. 患者さんに直接病歴を聴取する。3. スクリーナーを利用する。4.頭痛ダイアリーは必須である。5. 診察の前に画像検査を行なう。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
1.どこが痛みますか。2.どのように痛みますか。3.この頭痛はどのように始まりましたか。4. この頭痛はいつごろから始まりましたか。5. 頭痛の起こる頻度は、どれくらいですか。6. 1回の頭痛はどれくらい続きますか。7. 頭痛の強さはどの程度ですか。8. 1日のうちでは、いつが一番痛みますか。9. 頭痛に伴う症状はどのようなものですか。10.思いあたる頭痛の原因はありますか。11. いつも飲んでいる頭痛のお薬があれば教えてください。12. その薬の効果はどうですか。13. 頭痛のために病院を受診したことはありますか。14.その他この頭痛に関して思いついたことを教えてください
問診内容の例
綿密な質問を繰り返さなければ知りたい情報が得られないこともある…
問診票には記載してもらえず、直接問診を行なって初めてわかることもある…
患者さんの“話すこと”と医者が“知りたいこと”には差異があることもある…
2014.7.20 HMSJ-Osaka
頭痛診療における問診の重要性=問診でわかる“興味深い頭痛”
→不安
自分の頭痛をどう表現していいか、何を医師に伝えるべきなのかがわからない
「原因がわからない」「 頭痛が良くならない」
患者
医師
迅速な診断、治療方針の決定
国際頭痛分類、診療ガイドラインの活用画像検査などによる二次性頭痛の除外
症例個々に対して、鑑別診断を念頭に置いて、診断にむすびつく情報を的確に聞き出すことが重要。
日常生活への支障慢性化
2014.7.20 HMSJ-Osaka
結 語
頭痛専門医の重要な役割に“稀な頭痛の診断”がある。
通常の問診では得られないが、知識を持った頭痛診療医が的確に問診を行なえば比較的容易に診断できる頭痛がある。
国際頭痛分類を有効に利用し、常に様々な頭痛性疾患を念頭において的確な問診を行なうことが患者の不安を軽減し、日常生活支障度の改善に結びつくと考えられる。
2014.7.20 HMSJ-Osaka
ご清聴ありがとうございました
2014.7.20 HMSJ-Osaka