第12回 水産資源の経済II: 水産資源管理政策 1月16日 若松宏樹
第12回 水産資源の経済II:水産資源管理政策
1月16日 若松宏樹
今回の内容
•水産資源管理の施策を資源経済学で理解する① 経済学から見た漁業② 漁業管理施策③ 日本と欧米の管理の違い
講義で扱う項目
① 経済学から見た漁業• 水産資源の現状
• 利益消失構造
② 漁業管理施策• トップダウン型管理
• ボトムアップ型管理
③ 世界と日本の漁業と漁業管理• 欧米の漁業
• 日本の漁業
• 途上国の漁業
水産資源の現状
余裕がある魚種
漁獲がボーダーライン
乱獲されている魚種
出典: FAO 2016 ”The State of World Fisheries and Aquaculture”
なぜ漁業管理が必要なのか?
経済学から見た漁業
漁業の利益消失(乱獲)構造
共有地の悲劇(Hardin 1968)
• 誰でも使っていい牧草地(コモンズ)があると皆が家畜を放牧しすぎて牧草が食べつくされてしまう。
• 囚人のジレンマゲーム(ゲーム理論)
漁業者A漁業者B 協調 非協調
協調A利益3万
B利益3万
A利益7万
B利益1万
非協調A利益1万
B利益7万
A利益2万
B利益2万
経済学から見た漁業
漁業資源における経済外部性
外部性=市場取引されない非効率性(公害等)
1. 資源の外部性:取れば取るほど取れなくなる
2. 価格の外部性:一度に流通させると値崩れ
3. 混雑の外部性:漁船が多すぎたら網が絡まる
4. 技術的外部性:対象外魚種の混獲
5. 生態系の外部性:漁獲が食物連鎖に影響
6. 距離の外部性:サケ漁業の場所取りで不公平
経済学から見た漁業
外部性の内部化
所有権の設定による内部化
コースの定理(Coase 1960)• 所有権を設定し、取引する場(市場)を作ることで全ての社会的環境問題は解決する。
漁業権を設定することで存在しなかった市場を作り、利害関係者を明確にすることで最適な資源管理を実現する。
所有権の設定がないと漁業管理は理論的に失敗する。
経済学から見た漁業
漁業管理:トップダウン型
• インプット・コントロール(入口規制)
労働の投入を規制することで漁獲量を制御する• 漁具、漁船、努力規制(船、エンジン、網目のサイズ規制や出漁日数を減らす)
• アウトプット・コントロール(出口規制)• 総量規制(TACなど)
• テクニカル・コントロール(技術的規制)• 産卵地、産卵期間などに合わせた海洋保護区(MPA)、禁漁期間の設定など
漁業管理施策
トップダウン型管理の問題点
全ての規制において政府主導で行うため費用負担が大
• インプット・コントロール(入口規制)• キャピタルスタッフィング
• 抜け穴に過剰投資(機関・漁船・漁具・魚群探知機等)
• アウトプット・コントロール(出口規制)• Race to Fish(オリンピック方式・早い者勝ち)
• 規制量に達した時点で漁期が締め切られるため、それまでにできるだけ多く早くとる→資源、混雑の外部性
• 値崩れ(価格の外部性)• 漁期のはじめに大量の魚が漁獲される可能性が高く、値崩れが起こる
• テクニカル・コントロール(MPA)• 混雑の外部性
漁業管理施策
トップダウン型管理の問題点
• IUU漁業(Illegal, Unreported and Unregulated)違法、無報告、無規制漁業• ルールを守らない
• 報告しない(虚偽報告する)
• 規制されていない
• 漁業へのコスト増• 燃油
• 漁具
• 投資コスト(機関、船体、最新機器等)
漁業管理施策
外部性を内部化した漁業管理
• 権利ベースの漁業管理• 個別漁獲割当制度 Individual Quota(IQ)
• 総量規制で定めた1年間の漁獲を利用者に配分して、所有権を保証し、価格と資源の外部性を内部化
• 同じ生産性の人なら良いが、違う場合、市場の効率性が損なわれる
• 個別割当取引制度Individual Tradable Quota(ITQ)• IQでは割当を必要ではないのに持っている人、必要なのに持っていない人が生じる。取引できるようにして、より効率の良い市場(漁業管理)にする。
漁業管理施策
権利ベース漁業の問題点
• ITQの政府へのコスト• 総量規制をするために資源評価でMSYを測定する
• 割当を適当に配分するための合意形成• Quotaの取引市場を立ち上げるための諸々の事務手続きおよび事務作業
• 水揚げされる漁獲量を記録し、各人が漁獲制限を守っているどうか監視
• 違法に漁獲してブラックマーケットに魚を流していないか監視
• 複数の魚種が同時に獲れる場合、ITQを複数に対応させなければいけない
漁業管理施策
権利ベース漁業の問題点
• IUU漁業(Illegal, Unreported and Unregulated)漁業• ルールを守らない
• 漁獲量を虚偽申告する
• ハイグレーディング(えり好み)
• トップダウン型全てに起こりうる
漁業管理施策
その他の漁業管理
• セクター制
地域に割当を与えて、後は地域の裁量に任せる。• 3割がITQ、7割がオリンピック方式でしたいのであれば3割が割当の3割を使ってITQをして、残りの7割の割当は競争制でリミットに達した時点で漁期を終了する。
• 政府の管理コストが少ない
• 漁業者の意思を尊重できる
漁業管理施策
地域参加(ボトムアップ)型の漁業管理
地域参加型漁業管理(Community Based Fishery Management)
• 漁業者コミュニティによる自発的管理が主体
• 区画使用権漁業(TURF)• 一つの経営体が一つの区域を排他的に使用する権利を認めることで、利潤最大化が可能となる。
• トップダウンではなく、ボトムアップ型であるため、自発的で効率的な管理になりやすい
コマネジメント(Co-management)• 地域参加型管理を政府が支援している管理• ボトムアップとトップダウンを融合させた管理
一つの利害関係団体が漁業を管理する事で地域の利益最大化を行っている(外部性の内部化)
漁業管理施策
欧米の漁業
特徴
• 北半球の北部に漁業大国がおおく、単一魚種を狙う漁業が多い
• 少魚種の割にバイオマス量は多いため、管理が比較的しやすい⇒大規模漁業が多い
• 欧米に魚食文化があまり普及していない(サケ、タラ、エビ、カニ、ホタテなど)
• 漁業よりも資源優先の環境保護的価値観
• トップダウン型(権利ベース)の管理が拡大
世界と日本の漁業管理
日本の漁業
特徴
• 欧米よりも多くの魚種を利用する漁業
• 90%以上が小規模漁業(家族経営)
• すでに江戸時代からの漁業管理の蓄積が漁業にある
• ITQは非効率になる可能性
世界と日本の漁業管理
日本の漁業管理
1. 漁業権漁業• 定置漁業:水深27m以上の場所に設置する定置漁
• 区画漁業:漁協管理と個人管理に分かれる(養殖が主)
• 共同漁業:漁協に権利を与えた区画使用権漁業(TURF)
2. 許可・承認漁業• 大臣承認漁業
• 指定漁業
• 承認漁業
• 知事許可漁業
3. 自由漁業• 資源枯渇の恐れがなく自由に漁獲可能なもの
世界と日本の漁業管理
途上国(熱帯・亜熱帯地域)の漁業と漁業管理
特徴
• 日本よりも多くの魚種が生息する漁業
• 90%以上が小規模漁業(家族経営)
• 漁獲量が急上昇(特に中国、東南アジア)• 人口増にともなうタンパク質の確保
• 輸出による外貨の獲得
漁業管理
• 未発達なところが多い
• ITQは技術的に難しい
• 伝統的な地域参加型漁業で成功している例も
世界と日本の漁業管理
漁業ゲーム(経済学実験)
ルール
• 一年間に費やす漁業努力eを1~10から選択
• 1期の一人あたり漁獲量はqi=AeiXt で決定
• 選択した努力で30年間漁業を続ける
• 資源は F(Xt)=rXt (1-Xt/k)-Σqi で増減する
• 各係数は とする
• 各期各個人の漁獲量の和が総漁獲量=ΣΣAeiXt• 漁獲量に1万円をかけたものを年収とする
本当に乱獲が起こるのか?
X0 r k A e1000 0.3 5000 0.005 変数