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第1回 シンガポール・マレーシアの石油、石油精製 …JPEC レポート 1 図1 シンガポールの地図 出所:EIA1) 平成31 年2 月18 日...

Jul 07, 2020

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JPEC レポート

1

図 1 シンガポールの地図

出所:EIA1)

平成 31 年 2 月 18 日

シンガポール・マレーシアの石油、石油精製動向

1. シンガポールの石油精製動向 1)

1-1. 概要

インド洋と太平洋の間、そしてマラッカ海峡

の近くのシンガポールの戦略的地点は、アジア

の主要な石油化学精製センターや石油取引の中

心地になっている(図 1)。

シンガポールには世界クラスの精製・貯蔵・

流通インフラがあり、南端のジュロン島はシン

ガポールの石油化学産業の中心地である。いく

つかの主要な国際エネルギー会社がこの地域の

小売ネットワークを運営している。シンガポー

ル政府は精製能力と石油貯蔵能力の長期的な成

長を促進し、石油精製・石油取引のリーダーと

しての市場地位を維持することを計画している。

シンガポールには原産の炭化水素資源がなく、

原油と天然ガスをすべて輸入している。2018 年

の BP 統計レビューによると、2017 年のシンガ

ポールの総エネルギー消費量は、石油が約 87%、

天然ガスが約 12%、石炭及び再生可能エネルギ

ーが約 1%となっている 2)。

1-1. 石油精製

シンガポールは 3 つの製油所で 1 日当たり約

140万バレル(BPD)の総原油精製能力を有してい

る(表 1 参照)。シンガポール政府によると、シン

ガポールは 2015 年に約 100 万 BPD の原油を輸

入し、大半が中東および東南アジアから輸出さ

れている。輸入原油は、主に石油精製および石

油化学部門で使用されている。

シンガポールの石油製品の輸出は、2015 年世

2018年度 第1回

1.シンガポールの石油精製動向

1-1. 概要

1-2. 石油精製

1-2-1. 製油所

1-2-2. 石油化学コンプレックス

1-2-3. バイオリファイナリー

1-2-4. IMO 対応

2.マレーシアの石油、石油精製動向

2-1. 概要

2-2. 石油

2-2-1. 石油開発

2-2-2. 石油取引

2-3. 石油精製

2-3-1. 製油所

2-3-2. 貯蔵、輸送ターミナル

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JPEC レポート

2

界第 3 位であり、その半分以上がマレーシア、インドネシア、中国に輸出されている。

シンガポールは世界最大のバンカーターミナルである。シンガポールは、2015 年に燃料

油をほぼ 83 万 b/d 消費し、大半が国のバンカー燃料需要に供給された。

ExxonMobil、Shell、Chevron(カルテックス)は、石油精製および石油化学資産を含

むシンガポールのエネルギー部門への投資を積極的に進めている。同国最大の国家エネル

ギー会社である Singapore Petroleum Company(SPC)は、1969 年に設立され、流通やマー

ケティングなどの川下の活動に携わっていたが、2010 年 1 月、中国石油天然気集団公司

(CNPC)の一部門である PetroChina に買収された。

表 1 シンガポールの既存製油所一覧(JPEC 調べ)

企業 製油所名 能力

(万 BPD)

装置構成

(能力(万 BPD))

ExxonMobil Singapore 59.2 減圧蒸留(16.6)、ビスブレーカー(5.5)、接触改質(8.8)、

水素化分解(5.9)、水素化脱硫(37.1)

Shell Pulau

Bukom 50.0

減圧蒸留(8.5)、熱分解(6.6)、FCC(3.7)、接触改質(4.0)、

水素化分解(3.4)、水素化脱硫(27.5)

Singapore

Refining Co.

Jurong

Island 29.0

減圧蒸留(9.2)、ビスブレーカー(3.2)、RFCC(4.6)、接触改

質(1.5)、水素化分解(>3.4)、水素化脱硫(9.6)

1-2-1. 製油所

① ExxonMobil

ExxonMobil は、シンガポールで世界初の COTC(Crude Oil To Chemical)プラントを

2014 年から稼働し原油から石油化学製品を生産している。同社は、COTC プロセスでオレ

フィンの増産と、多様な製品の生産を狙っている。これは、米国がシェール革命で、安価

に大量に入手可能になったエタンを原料にナフサクラッカーからエタンクラッカーへシフ

トしたことに対し、エタンの入手が制約された条件で石油化学製品を効率的に生産するた

めの対照的な動きと捉えることができる。

ExxonMobil では、シンガポール製油所の精製能力を拡張する計画で、自動車用の低硫黄

クリーン燃料の増産や、2020 年に発効する国際海事機関 International Maritime

Organization (IMO)の硫黄濃度基準(0.5%以下)に対応した高性能船舶燃料 ExxonMobil

Marine Fuels の生産を計画している。

【潤滑油プラント・製油所拡張プロジェクト 3)】

ExxonMobil は、2017 年に EHCTM ブランドの GroupⅡプラントのアップグレードプロ

ジェクトを発表していた。Jurong(ジュロン)のシンガポール製油所で潤滑油の新規格

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ILSAC GF-6、API SP、API CK-4/FA-4 向けに、EHCTMベースオイル基材を増産すること

になる。

建設工事は 2017 年にスタートしたが、2018 年 4 月初めには、新しい潤滑油プラントの

リアクターが搬入されたことを発表している。

ExxonMobil は、GroupⅡベースオイルの増産プロジェクトの最終投資判断を 2019 年中

に下す予定であることを明らかにしている。投資額は数十億ドルで、2023 年の完成を想定

している。ExxonMobil は、シンガポールで GroupⅡベースオイルを増産することで、ア

ジア・太平洋地域の潤滑油ブレンダーの操業効率の向上・多品種生産時のコスト改善を図る。

② Shell

2017 年 11 月、Shell Singapore は、西部の Tuas 工業地区にある潤滑油・グリース製造

プラント(10ha)を開所したと発表した。Shell の潤滑油製造プラントとしてアジア太平洋地

域で 2 番目、世界で 3 番目の規模となる。潤滑油・グリース製造能力は 43 万 KL/年。アジ

ア太平洋地域を中心に、約 40 ヶ国への製造・出荷拠点となる 4)。

③ Singapore Refining Company (SRC)

Chevron と Singapore Petroleum Company(SPC)の製油所 JV である Singapore

Refining Company (SRC)は、2014 年に、Jurong 島にある Jurong Island 製油所のアップ

グレードプロジェクトの最終投資判断(FID)を下している。プロジェクトは、常圧蒸留装置

と減圧蒸留装置の加熱炉の効率改善とバーナー・プレヒーター・煙突を更新しエネルギー

効率の向上と排気物の削減を図るもので、Amec Foster Wheeler が、基本設計業務(FEED)

と詳細設計業務を担当している(表 2 参照)。Jurong Island 製油所はシンガポールの 3 製

油所の中では一番小規模であるとはいえ、精製能力 29 万 BPD の大型製油所で、2 次処理

系に各種水素化脱硫装置・水素化分解装置・ビスブレーカー・残油 FCC・CCR・アルキレ

ーション・プロピレン 2 量化装置・MTBE プラントを備えたフル装備の製油所である。

2018 年 2 月、Jurong Island 製油所でガソリン脱硫装置・アミン処理装置・重質ナフサ

分留装置・コジェネ発電装置(72MW)を設置する近代化プロジェクトが、完了したと報じら

れた。Euro-5 ガソリン製造、CO2排出量削減に対応する 5)。

表 2 シンガポールの製油所改造計画(JPEC 調べ)

企業 製油所名 内容

ExxonMobil Singapore ・グループⅡ潤滑油ベースオイル増産(2017 着工、2023 稼働)

Singapore

Refining Co.

Jurong

Island

・2.6 万 BPD ガソリン脱硫、アミン処理装置、ヘビーナフサスプリッター、72MW コジェネ

・Euro IV,V ガソリン製造

・エネルギー効率向上

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1-2-2. 石油化学コンプレックス

① ExxonMobil Chemical Singapore

ExxonMobil は、同社最大の石油精製・石油化学拠点であるシンガポールの事業の拡張を

発表している。Singapore 製油所の精製能力は、59.2 万 BPD で、燃料製品・潤滑油・アロ

マ製品をアジア・太平洋地域に輸出し、隣接する石油化学コンプレックスに、原材料を供給

している。石油化学コンプレックス(Singapore Chemical Plant:SCP)のエチレン生産能力

は、190 万 t/y で、多様な原料を処理することが可能な設備仕様にアップグレードされてい

る(表 3 参照)。下流側には汎用・スペシャルティーポリマー、アロマ製品、イソノニルアル

コールプラントが設置されている。

【水添炭化水素樹脂・ハロゲン化ブチルゴムの生産開始 3)】

ExxonMobil は潤滑油増産プロジェクト発表の直前に、水添炭化水素樹脂(hydrogenated

hydrocarbon resin) EscorezTM とハロゲン化ブチルゴム(halo butyl rubber)の生産を開始し

たと発表した。

EscorezTMの生産能力は、包装材や紙おむつ用のホットメルト接着剤の需要が伸びること

を見込んで 9 万 t/y となっている。ハロゲン化ブチルゴムの主な用途は環境対応型の省エネ

ルギータイヤで、生産能力は 14 万 t/y に設定されている。

【アロマ製造能力の増強 6)】

2017 年 8 月 ExxonMobil は、シンガポール Jurong Aromatics Corporation Pte Ltd(JAC)

を買収した。この買収で、現地子会社 ExxonMobil Singapore のアロマの製造能力は、合計

で約 350 万 t/y(内パラキシレン 180 万 t/y)となり、燃料製品の製造能力も約 6.5 万 BPD 増

加した。

② Shell Eastern Petrochemical Complex (SEPC)

2010 年 5 月、Shell は、これまでで最大の石油化学投資である SEPC プロジェクトを完

成し、Bukom 島と Jurong 島に Shell 最大の統合製油所・石油化学コンプレックスを完成

した。SEPC プロジェクトは、石油化学サイトと Bukom 製油所を統合することで、原料の

柔軟性や操業と物流の相乗効果など、経済的および効率的利益を最大限に達成するために

戦略的に配置されている。SEPC プロジェクトには、新しいエチレンクラッカー施設、Pulau

Bukom 製油所の改造、ジュロン島にある世界規模のエチレングリコール(EG)プラント

が含まれる 7)。

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5

企業

オレ

フィ

ン(万

t/y

)B

TX

(万t/

y)

石化

製品

(万t/

y)

樹脂

製品

(万t/

y)

エチレン

(2系列

):1

90

ベンゼン

:13

0イソノニルアルコール

:34

.5L

LD

PE

/HD

PE

(3系列

):1

90

プロピレン

(2系列

):9

7オルトキシレン

:40

.6エチレンオキサイド

:24

PP

(2系列

):9

3

ブテン

-1:1

0パラキシレン

:18

0フェノール

:31

α-オ

レフィン共重合体

(3系列

):2

0.8

ブテン

:45

アセトン

:18

.6水添炭化水素樹脂

:9

MT

BE

:8.5

ビスフェノール

A(2系列

):1

6ハロゲン化ブチルゴム

:14

エチレン

(2系列

):9

6エチレングリコール

:78

LL

DP

E:3

0

プロピレン

(2系列

):5

4酢酸ビニル

(VA

M):

35

S-S

BR

(2系列

):8

ブタジエン抽出

:15

.5クメン

:54

第1期

エチレン

:46

.5ベンゼン

:10

.5エチレンオキサイド

(EO

)(2系列

):2

0.5

LD

PE

:16

プロピレン

:27

トルエン

:5.5

エチレングリコール

(EG

):1

2.2

HD

PE

:19

ブタジエン

:6混合キシレン

:2.6

エチレンオキサイド

(EO

)誘導体

:3.9

PP

:23

MT

BE

:5.5

エトキシレート

(3系列

):1

9.8

MB

S樹脂

:1.7

6

アセチレン

:0.5

5

アセチレンブラック

:0.5

5

第2期

エチレン

:63

.5ベンゼン

:16

.5酢酸

:50

LD

PE

:9.5

プロピレン

(2系列

):5

7.5

トルエン

:9酢酸ビニル

(VA

M):

25

LL

DP

E/H

DP

E:2

0

ブタジエン

:10

混合キシレン

:5.9

酢酸エステル

:10

PP

(2系列

):5

1

ブテン

-1:6

.3スチレンモノマー

(SM

)(2系列

):9

4P

S(2系列

):2

0

MT

BE

:8.5

プロピレンオキサイド

(PO

):4

2.5

PV

A:4

プロピレングリコール

(PG

):4

SBコポリマー

:4

アクリル酸

(粗製

):7

.3M

S樹脂

:6

アクリル酸

(精製

):4

.5M

BS樹脂

:1.3

アクリル酸エステル

:8.2

PM

MA

(2系列

):1

5

メタクリル酸メチル

(MM

A)(

3系列

):2

2.3

高吸水性樹脂

:7

アセチレン

:7.3

ブチラール樹脂

:1.5

アセチレンブラック

:0.6

5

表3 シ

ンガ

ポー

ルの

石油

化学

コン

プレ

ック

ス(

JPEC調

べ)

Exxon

Mob

il

Sh

ell

ベンゼン

:23

Petr

och

em

ica

l

Corp

ora

tion

of

Sin

ga

pore

Pte

.Ltd

.

(PC

S)

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6

③ Petrochemical Corporation of Singapore Pte. Ltd. (PCS)

PCS は、1977 年に、シンガポールおよび日本政府と住友化学、Shell、Chevron Phillips、

Celanese などの大手国際企業の協力により設立された。現在の株主は、日本シンガポール

石油化学 (JSPC) (50%)および QPI and Shell Petrochemicals (Singapore) Pte. Ltd. (50%)

となっている。シンガポール石油化学コンプレックスは、1980 年、Ayer Merbau に 20 億

シンガポールドルで建設され、1984 年 2 月に商業生産を開始した。

2006 年には、Lummus の Metathesis(OCT) を導入、プロピレン 20 万 t/y を増設した。

さらに、2014 年に 10 万 t/y の BD 抽出装置が完成した。また、2018 年 3 月に Jurong 島

に 8,000 万ドルのナフサ輸入施設を正式に開設した。この施設には、合計 24 万 m3の容量

の 8 基の貯蔵タンク、ナフサを運搬する大型船を取り扱うことができる 12 万トン(DWT)

の液体バースおよび関連施設が含まれている 8)。

1-2-3. バイオリファイナリー

① Neste

フィンランド Neste は、独自のバイオ燃料事業を戦略的に展開し、再生可能ディーゼル

の世界市場で確固たる地位を築いている。バイオディーゼルの GHG 排出量削減効果に疑問

が投げかけられてきた中で、Neste は、炭素強度の低い原料の選択と精製プロセスの開発に

注力し、GHG 排出削減効果が高く、石油系ディーゼルに代替可能な高品質再生可能ディー

ゼルを供給している。さらに、Neste は自動車・トラック向けディーゼル以外に、船舶燃料

や航空燃料分野向けの製品開発を進めている。また、近年は米国への市場拡大を図り、既

にカリフォルニア州で MY Renewable Diesel の供給体制を確立しつつある。

Neste は 2007 年 11 月、再生可能燃料を生産するバイオリファイナリーをシンガポール

に建設することを決定した。プラントの生産能力は 110 万 t/y で、3 年後の 2010 年に稼動

した。現在、GHG 排出量削減効果が 90%の高品質再生可能ディーゼル Neste MY

Renewable Diesel を生産している。これまで生産した再生可能ディーゼルは、累計 600 万

トンで、世界に供給された。その CO2排出削減効果は 300 万 t/y で、自動車 90 万台分に相

当している。2017 年 11 月には、Neste 最大の再生可能ディーゼルの生産拠点であるシン

ガポールの事業が 10 周年を迎えた 20 日に記念式典を挙行している。10 周年記念式典に出

席したNesteのLievonen社長兼CEOは、シンガポール経済開発庁(Economic Development

Board:EDB)との協力関係を評価し、EDB の Kai Fong 長官も Neste のバイオ事業が、シ

ンガポールの CO2排出量削減に貢献した意義を称えている。

Neste は、シンガポールの他に、オランダのロッテルダムに生産能力 100 万 t/y のバイオ

燃料プラント、フィンランドの Porvoo 製油所に再生可能ディーゼルプラントを保有し、

Neste 全体の再生可能ディーゼル生産能力は 270 万 t/y に達している。Neste は、ボトルネ

ック解消により生産能力を拡大する方針で、再生可能ディーゼル生産能力を 2020 年までに

300 万 t/y に引き上げる目標を明らかにしている。

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7

2018 年 12 月、Neste は、シンガポールのバイオ燃料生産プラントの拡張プロジェクト

を最終投資決定(FID)した。低炭素燃料やケミカルの需要が旺盛であることから、再生可

能燃料・化学品の生産能力を、2022 年までに 130 万 t/y 拡張し、450 万 t/y に引き上げる。

投資額は 14 億ユーロ(16 億ドル)と発表されている 9)。

② BHP Billiton と Goodfuels Marine

BHP Billiton と Goodfuels Marine は 2017 年 9 月、シンガポール海事港湾庁(Maritime

and Port Authority of Singapore:MPA)の支援を受けて、シンガポールでバイオ燃料プ

ロジェクトに取り組むことに合意した。GoodFuels Marine が開発したドロップインバイオ

燃料は、CO2排出量を石油系燃料に比べ 90%削減できる 10)。

1-2-4. IMO 対応

① シンガポール海事港湾庁(Maritime and Port Authority of Singapore:MPA)

2017 年 12 月、シンガポール港の LNG 船舶燃料供給能力の増強に 1,200 万 SGD(890 万

ドル)を追加投資すると発表した。追加投資は、LNG 燃料供給船や LNG 燃料船建造の補助

に充てられる予定である。MPA の Tan CEO は、IMO による 2020 年 1 月 1 日からの船舶

燃料規制(硫黄分 0.5%以下)に向けた対応と述べた 11)。さらに MPA は、シンガポールにお

ける LNG バンカリング推進に 2,600 万 SGD(1,900 万ドル)を投資した。内訳は、LNG 燃

料船舶の建造・LNG 供給施設の建設に 1,800 万 SGD、LNG 供給船の建造に 600 万 SGD、

LNG 輸送施設の建設に 200 万 SGD となっている 12)。

② Total

フランスの Total は 2018 年 6 月、シンガポールの Pavilion Energy との間で、シンガポ

ール港の LNG 船舶燃料供給事業で、JV 設立に合意したと発表した。また、2020 年に就航

する Pavilion Energy の新造の LNG 燃料供給船(LNGBV)の長期的な共同用船などでも合

意した。IMO による、2020 年からの船舶燃料の硫黄分規制に対応する。Pavilion Energy

の子会社 Pavilion Gas は、LNG 船舶燃料供給のライセンスを取得した 13)。

③ Marine Construction & Development(MCD)

中国 MCD は 2018 年 9 月、シンガポールのトレーダーZenrock Group と船舶用燃料供給

で合意したと、Reuters が報じた。MCD は、世界各地で事業を展開し、多数の船舶を保有

し、船舶燃料を約 50 万 t/y 使用している。一方の Zenrock は、アジア市場以外への事業拡

大を目指している 14)。

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JPEC レポート

8

④ Maersk Oil Trading

デンマークの海運企業 A.P. Moller-Maersk の、燃料事業子会社 Maersk Oil Trading は

2018 年 10 月、シンガポール Tankstore の石油ターミナルの貯蔵施設 12 万 m3分を確保し

たと報じられた。2020 年施行の IMO 船舶用燃料の硫黄濃度規制(硫黄分 0.5%以下)に対応

した船舶燃料(VLSFO)の貯蔵が目的である。Maersk は、オランダ Vopak と、ロッテルダ

ム港の低硫黄 VLSFO 向け貯蔵施設 50 万 m3分の確保でも合意していた 15)。

2. マレーシアの石油、石油精製動向 16)

2-1. 概要

マレーシアは海上エネルギー取引の重要ルートに位置している。2017 年、マレーシアは

カタール、オーストラリアに次ぐ世界第 3 位の液化天然ガス(LNG)輸出国である 2)。

マレーシアのエネルギー産業は、経済全体にとって重要な成長分野であり、近年の国内

総生産(GDP)の約 20%を占めている。2017 年のマレーシアの総エネルギー消費量は、石油

が約 37%、天然ガスが約 37%、石炭が約 20%、水力が約 6%、再生可能エネルギーが 1%

以下となっている 2)。2010 年に開始した新税制と投資の奨励は、限界油田と深海の石油・

天然ガスの探鉱・開発、エネルギー効率化対策、および代替エネルギー源の利用を促進し

ている。これらの財政的奨励は、2020 年までにアジアのトップエネルギープレイヤーにな

るために、その資源や地理的位置を活用する、国の経済変革プログラムの一部である。マ

レーシアのエネルギー戦略のもう一つの重要な柱は、アジア内で競争できる技術的専門知

識と下流サービスを引き付ける、石油・天然ガスの貯蔵、貿易、開発の地域拠点になるこ

とである。

東南アジアに位置するマレーシアには、2 つの異なる地域からなる。西半分には半島マレ

ーシアが含まれ、東半分にはインドネシアとブルネイと共有するボルネオ島にサラワク州

とサバ州が含まる。同国の西海岸はインド洋と太平洋を結ぶ海上貿易の重要なルートであ

るマラッカ海峡に沿っている。マレーシアは南シナ海で、海洋の石油・天然ガス資源をめ

ぐって、近隣諸国間と様々な紛争を起こしている。ベトナム、ブルネイ、タイとの紛争は

双方で解決しているが、セレべス海盆の一部はインドネシアと紛争している。中国、ベト

ナム、フィリピンとの領土紛争は、南シナ海の深層水域に探鉱が移るにつれて生じる可能

性がある(図 2)。

既存の石油や天然ガスの生産量を増強する戦略として、過去数年間に上流および下流の

石油・天然ガスプロジェクトがマレーシアで実施された。2014 年後半以降の大幅な石油・

天然ガス価格の下落は、輸出収入と炭化水素投資にマイナスの影響を及ぼした。しかし、

財政赤字を減らすために、過去 2、3年間でエンドユーザーへのエネルギー補助金を削減し、

消費税を引き上げた。マレーシアは、燃料を多様化し、さらに下流で石油・天然ガス取引

のハブになることを目指している。

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JPEC レポート

9

図 2 マレーシアの地図

出所:EIA16)

2-2. 石油

マレーシアは、インドネシアに続き、東南アジアでは第 2 位の石油生産国である。マレ

ーシアのほとんどすべての石油は海洋油田から供給されている。

マレーシアは、2017 年 1 月現在、中国、インド、ベトナムに次いでアジア太平洋地区で

は 4 番目に多い 36 億バレルの石油埋蔵量を保有している(図 3)。大陸棚は、西部のマレ

ー海盆、東部のサラワク海盆とサバ海盆の 3 つの海盆に分かれている。同国の石油埋蔵量

の約 40%はマレー海盆に位置しており、浅瀬から軽質および中質の低硫黄原油が産出する

が、過去 10 年間、マレーシア東部の深層水域でより多くの探鉱と発見が行われた。マレー

シアで上位に位置する油田は、Tapis(マレー海盆に位置する)と Miri、Kikeh、Kimanis

(東部のボルネオ島近くに位置する)が含まれる。

図 3 アジア-太平洋地区の原油確認埋蔵量(2017 年1月1日現在)

出所:EIA16)

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JPEC レポート

10

2-2-1. 石油開発

2016 年の石油類(原油、リースコンデンセート、天然ガス液、バイオ燃料、および製油

所処理液を含む)の生産量は、1 日あたり 744,000 バレルと推定され、2013 年の最低水準

から 15%増加したが、2003 年のピーク生産量 842,000BPD よりも低下した(図 4)。マレ

ーシアの原油生産の 4 分の 1 以上は、現在海洋のマレー海盆における Tapis 油田に由来す

る。国の石油生産は、成熟した油田、特に半島マレーシアの浅い海域の大油田の成熟によ

り、全体的に減少した。2014 年以降、Lundin Petroleum のペンユ海盆の新しい Bertam

油田と深海の大きな Gumusut-Kakap 油田から生産が開始された。この生産は、成熟した

油田からの一部の生産減少を相殺し、過去 10 年間の減少を一部逆転させた。新しい油田の

生産と、成熟した油田からの石油回収(EOR)の組み合わせにより、石油生産は比較的安

定した状態に保たれた。

マレーシアの国内石油消費量は増加しているが、2003 年以降、生産量はほとんどの年で

減少しており、輸出可能な石油の量は少なくなっている。Petronas は、既存の分野からの

高度な EOR 技術による生産量の向上と、リスクサービス契約(RSC)による小規模で限界

的な分野の開発によって、新規投資を誘致し、生産の減少を逆転させるよう取り組んでい

る。企業はこれらの契約でリスクを共有している。Petronas はプロジェクトの所有者であ

り、投資家はプロジェクトの全期間を通して生産された石油の収入を受け取っている。

国際石油会社(IOC)も、サラワク海盆とサバ海盆の深海で新たな石油・天然ガスの発見

を行っている。これらの深海の石油・天然ガス田は、より技術的な課題を抱え、マレーシ

アおよび海外のエネルギー会社によるより大きな投資を必要とする。Petronas は、2013 年

にマレーシアの石油・天然ガス部門における石油・天然ガス生産の増強と老朽化した油田

からの生産量の減少を相殺するために、探鉱と生産活動のためにより多くの支出を発表し

た。しかし、2014 年以降の原油価格の下落に伴い、Petronas は 2016 年から 2020 年まで

に設備投資支出を 112 億ドル削減すると発表した。石油価格環境の悪化により、マレーシ

アの上流石油開発への投資が減速し、IOC はいくつかの契約を破棄した。

図 4 マレーシアの石油類の生産量と消費量の推移(2002-16)

出所:EIA16)

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11

① 石油回収(EOR)プロジェクトの強化

Petronas はマレーシアの古い油田の生産寿命を延ばすために約 10 のEOR プロジェクト

を実施している。2014 年後半、ExxonMobil は Petronas と Tapis EOR プロジェクトを開

始した。これは半島マレーシアのテレンガヌから 118 マイル離れたところにある。生産共

有契約の一環として、EOR の導入に関する規定が含まれている。ExxonMobil と Petronas

は、Tapis の原油配合の一部である Seligi、Guntong、Tapis、Semangkok、Irong Barat、

Tebu、Palas の 7 つの油田の寿命を延ばすために代替天然ガスと水を注入するプロセスを

導入している。このプロジェクトは、現存する生産量に最大 35,000 BPD を追加すること

で、油田の寿命を 25 年延長することが期待されている。

2012 年、Shell と Petronas はサラワク(バラムデルタ沖合の 9 つの油田)とサバ(サバ

州の 3 つの油田をカバーする開発地域)の 2 つの EOR プロジェクトで、30 年間薬品注入

技術に投資することに合意した。2014 年に Petronas は Baram Delta EOR PSC を拡張し

て、天然ガスの生産を行い、石油の採掘を支援するための再注入や国内外の市場への直接

ガス販売に使用することにした。2016 年、Shell は North Sabah EOR PSC の株式をマレ

ーシアの Hibiscus Petroleum に売却することに合意した。

② 深海プロジェクト

サバ州の深海域は、マレーシアの石油生産量を今後 10 年間増強できるいくつかの主要プ

ロジェクトが開発中である。Murphy Oil が Petronas と提携して運営する Kikeh 油田は、

マレーシア初の深海油田である。2007 年に Kikeh 油田での採掘がはじまり、ピーク生産能

力は 120,000 BPD となったが、2015 年の推定生産量はわずか 15,000 BPD であった。

Siakap North-Petai 油田は、14 年に Kakap 油田につがった衛星油田である。ピーク生産

率は 35,000 BPD であり、Kakap 油田からの生産量の減少を相殺した。

サバ沖のもう一つの深海地域、Gumusut-Kakap プロジェクトは、この地域の最初の深海

浮遊生産システムが使用されている。Kakap 油田は 2012 年に 25,000 BPD の生産量で開

始された。2014 年後半に開始された Gumusut 油田の生産は、10 年以上にわたる全体的な

減少のあと、マレーシアの原油生産の成長の原動力となっている。現在、両方の油田から

の生産は平均して 100,000 BPD から 120,000 BPD に達し、135,000 BPD 付近でピークに

なる可能性がある。プロジェクトの株主は、Shell(33%)、ConocoPhillips(33%)、Petronas

(20%)、および Murphy Oil(14%)である。この生産システムは、マレーシアのキマニ

スで陸上に位置する新しいサバオイル・ガスターミナルにパイプラインで接続されている。

Malikai 石油・ガス田は、サバ州北西部の沖合に位置するもう 1 つの深海油田で、最大生

産能力は 60,000 BPD である。Shell がオペレーターかつ 35%の株主で、2016 年末に開発

した。他のプロジェクトパートナーは、ConocoPhillips(35%)と Petronas(30%)であ

る。Malikai プロジェクトは、テンションレッグプラットフォームなどの高度な沖合掘削技

術を使用している。

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12

2-2-2. 石油取引

マレーシアは、過去数年間、生産と消費の格差が縮小しているにもかかわらず、2016 年

は原油と石油製品の純輸出国であった。原油の品質(軽質低硫黄原油)はアジア市場にと

って魅力的であり、他の原油ブレンドに比べて高いプレミアムで取引されることから、原

油生産量の約半分を輸出している。マレーシアは、製油所や国内需要のために、中東から

約半分、残りはいくつかの地域から安価な重質原油を輸入している。2016 年に、マレーシ

アは製油所で処理するために約 200,000 BPD の原油を輸入した。

マレーシアの原油輸出のほとんどは、アジア太平洋地域に出荷されており、その大部分

はオーストラリア、インド、タイ、シンガポール、インドネシアに輸出されている。日本

は、2011 年の福島原発事故以降、原子力発電所を喪失した後、マレーシアから原油を購入

し、発電量を増やしたが、日本への輸出量は福島原発事故以前の水準に戻っている。

石油製品の輸入は、過去数年間で輸出よりも急速に伸びている。マレーシアの石油貿易

の多くはアジア、特に近隣のシンガポールで発生している。ガソリンは主要輸入品であり、

石油製品輸入の約 46%、石油製品需要の約 20%を占めている。マレーシアはディーゼル生

産の約半分を輸出している。マレーシアの石油需要は、経済成長の鈍化や天然ガスや石炭

などの他の燃料との競争の結果、2015 年と 2016 年に減少した(図 4 参照)。

2-3. 石油精製

2-3-1. 製油所

マレーシアは過去 20 年間に石油精製に多額の投資を行い、現在は石油製品の国内需要の

大部分を満たしている。マレーシアの製油所配置を図 5 に示す。マレーシアの既存製油所

は 6 施設で 1 日当たり約 60 万バレル(BPD)の精製能力を有している(表 4)。

図 5 マレーシアの製油所配置(JPEC 調べ)

*Bintulu は天然ガスを原料に石油留分を合成する製油所

Melaka 1,2

Port Dickson

Kemaman

Bintulu

RAPID

Kertih

サワラク州

サバ州

マレーシア

タイ

インドネシア

シンガポール

インドネシア

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表 4 マレーシアの既存および新設製油所一覧

分類 企業 製油所名 能力(万 BPD)

内容

現状 拡張後

既存 Petronas Melaka 1

(PSR-1) 8.84

・低硫黄原油とコンデンセートの蒸留

既存

JV of Petronas

and

ConocoPhillips

Melaka 2

(PSR-2) 15.81

・高硫黄原油のプロセス

既存

Malaysia

Hengyuan

International Ltd.

(中国)

Port

Dickson 13.5

・国内市場のみ供給

・重質原油の受け入れ

既存 San Migue/Petron

(フィリピン)

Port

Dickson 7.91

既存 Petronas Kertih 11.28 ・ナフサコンデンセートをスプリッターで処理

既存 Kemaman

Bitumen Company Kemaman 2.33

・重質原油からビチューメンを製造

新設 Petronas RAPID

30

・新設製油所、石化複合プロジェクト

・RFCC、LPG 処理 (LTU)プロピレン回収(PRU)、

ソーダ中和(CNU) :CTCI Corporation 等

・常圧蒸留(CDU)、重油脱硫装置(ARDS)、

水素回収 (HCDU) :Sinopec Eng.等

・灯油脱硫(KHT)、ディーゼル脱硫(DHT)

ナフサ脱硫(NHT)、分解ナフサ脱硫(CNHT)、

CCR:Técnicas Reunidas 等

・アミン回収(ARU)、硫黄回収(SRU):

Petrofac International (UAE) 等

・スチームクラッカーコンプレックス:東洋エンジニアリング等

・石油化学プラント:製造能力 770 万 t/y

・合成ゴム、ポリマーなどのスペシャリティーケミカル

・関連設備:ガス化ターミナル、

・HDPE プラントに LyondellBasell のプロセス

・Saudi Aramco の出資決定(2017.2)

(金融投資決定:2014 年 4 月、稼働:2019 年)

新設

Konsortium

Petrohub

(IMC

London,VR4U

Technologies)

ケダ州 Yan 40

・主コントラクター:Hainan Zhenrong Energy

Co Ltd

・投資額:200 億ドル

EIA の資料を基に JPEC 作成

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① RAPID プロジェクト

マレーシアの新設大型石油プロジェクト RAPID(Refinery and Petrochemical

Integrated Development)は、東南アジア地域でも大きな製油所・石油化学プロジェクト

と位置付けられ、2014 年 4 月に最終投資判断が下された。RAPID プロジェクトは、

製油所の精製能力:30 万 BPD

ガソリン・ディーゼルの品質は、Euro-5 規格(硫黄分:10ppm 以下)

石油化学原料の設計生産能力:330 万 t/y、原油の 20%を石油化学製品に転換

PIC として、コジェネプラント、LNG 再ガス化プラント、大水深バース・ターミ

ナル、空気分離プラント、共用ユーティリティーの建設

等となっている。

Pengerang Integrated Complex (PIC)の開発プロジェクトは、RAPID コンプレックスを

中心に、その関連施設であるコジェネ発電プラント(Pengerang Co-generation Plant:PCP)、

LNG 再ガス化ターミナル(Re-gasification Terminal 2:RGT2)、エア・セパレーション・

ユニット (ASU)、給水プロジェクト(Raw Water Supply Project:PAMER)、原油・製品タ

ンク (SPV2)を包括するプロジェクトと位置付けられている。製油所・石油化学コンプレッ

クス装置の設計・資機材調達・建設・試運転(EPCC)業務契約は表 5 の通りである 17)。

表 5 RAPID プロジェクトの EPCC 業務契約(JPEC 調べ)

装 置 契約先(コンソーシアム)

1 残渣油流動接触分解(RFCC)、LPG 処理

(LTU)、プロピレン回収(PRU)、ソーダ中

和(CNU)

CTCI Corporation、千代田化工株式会社、Synerlitz

(Malaysia) Sdn. Bhd.、IE Industrial Sdn. Bhd.

2 常圧蒸留(CDU)、重油脱硫装置(ARDS)、

水素回収 (HCDU)

Sinopec Engineering (Group) Co. Ltd. and Sinopec

Engineering Group (Malaysia) Sdn. Bhd.

3 灯油脱硫(KHT)、ディーゼル脱硫

(DHT)、ナフサ脱硫(NHT)、分解ナフサ

脱硫(CNHT)、連続触媒再生改質(CCR)

Técnicas Reunidas S.A. 、Técnicas Reunidas

Malaysia Sdn. Bhd.

4 アミン回収(ARU)、硫黄回収(SRU) Petrofac International (UAE) LLC and Petrofac

E&C Sdn. Bhd

5 スチームクラッカーコンプレックス 東洋エンジニアリング株式会社、Toyo Engineering

& Construction Sdn. Bhd

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マレーシア国営 Petronas の RAPID プロジェクトで、サウジアラビア国営 Saudi Aramco

からの出資が決定した。2017 年 2 月末に、Saudi Aramco による RAPID プロジェクトへ

の出資に向けた株式譲渡契約 (Share Purchase Agreement:SPA)が、サウジアラビアの

Salman Bin Abdulaziz Al Saud国王とマレーシアのNajib Tun Abdul Razak首相の臨席の

下で、Saudi Aramco と Petronas の CEO により調印された。Petronas と Saudi Aramco

は、Pengerang Integrated Complex (PIC)に含まれる RAPID プロジェクトの中から選択

された事業および資産を 50:50 の出資比率で保有することになる。今回の合意によると、

Saudi Aramco は RAPID に必要な原油を最大 70%分供給することになり、Petronas は天

然ガス、電力、その他のユーティリティーを RAPID に提供することになっている 18)。

2018 年 3 月に、Petronas と Saudi Aramco は、RAPID プロジェクト関連で JV を 2 社

設立したことを発表した。JV は、製油所、クラッカーと石油化学プラントの一部を均等権

益で所有し操業することになる。JV の合意によると、Saudi Aramco が製油所の処理原油

の 50%を供給することになり、この比率を 70%まで引き上げるオプションが付与されてい

る。一方、Petronas と関連企業は、天然ガス・電力その他のユーティリティーを提供する。

また、製品の引き取り量は、基本的には均等に配分される。なお、石油化学プラントには

Saudi Aramco との JV 以外のプロジェクトも含まれると見られる 19)。

2018 年 9 月に、Petronas と Saudi Aramco が手配した試運転用の原油を積載したタンカ

ーが到着し、2019 年 1 月から、常圧蒸留装置の試運転が開始されている 20)。

さらに、RAPID プロジェクトに関連した情報として以下が発表されている。

1) イソノナノールプラントの建設 21)

RAPID では、燃料や基礎石油化学製品の他にスペシャルティーケミカルの製造プラント

の建設も計画しているが、可塑剤の原料イソノナノール(isononanol、C9 アルコール)製造

に関して報道されている。2017 年 8 月上旬に Fluor は、PETRONAS Refinery and

Petrochemical Corporation Sdn. Bhd.からイソノナノールプラントの設計・調達・建設・建

設管理業務(EPCM)を受注した。イソノナノールの製造能力は 25 万 t/y で、2019 年の稼働

が予定されている。なお、Fluor は Technip(現在の TechnipFMC)と共同で、RAPID・PIPC

プロジェクトのユーティリティー・オフサイト設備の建設を請け負っている。

2) Pengerang の原油・製品ターミナルの拡張計画 22)

オランダのタンク事業会社 Royal Vopak が 2017 年 8 月中旬に、マレーシア南部ジョホ

ール州 Kota Tinggi 地区の南岸 Pengerang にある液体炭化水素貯蔵基地の拡張プロジェク

トを発表している。Vopak とパートナーは、マレーシア南部ジョホール州 Kota Tinggi 地

区の南岸 Pengerang に設置されている Pengerang Independent Terminals Sdn Bhd

(PITSB)の貯蔵能力を 2019 年第 1 四半期までに 43 万 m3拡張し 170 万 m3とすること及び

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16

バースの増設を計画している。計画では、容量 10,000 m3から 25,000 m3のタンク 25 基が

建設される。

PITSB は VLCC の着桟が可能で、シンガポールの原油・石油製品の貯蔵・配合・配送を手

掛け、石油ハブの一翼を担っている。さらに PITSB は、Pengerang Terminals (Two) Sdn

Bhd (PT2SB)を経由して建設中のRAPIDに接続することになる。Vopakは、PT2SBに 25%

出資している。

Vopak は、高品質ガソリンやジェット燃料の需要増への対策のほかに、 IMO

(International Maritime Organisation)の低硫黄船舶燃料(硫黄濃度 0.5%以下)基準が 2020

年に発効することで、低硫黄軽油(LSMF)の需要増を見据えて PITSB の拡張プロジェクト

を計画している。

② ケダ州 Yan コンソーシアム

マレーシア Konsortium Petrohub は、2016 年 12 月に、ケダ州 Yan に建設を計画してい

る製油所の設計・建設業務で Hainan Zhenrong Energy Co Ltd を主コントラクターとして

契約したと発表した。精製能力は、40 万 BPD、投資額は 200 億ドルを予定している。

Konsortium Petrohub は、IMC London(50%)、VR4U Technologies Sdn Bhd(30%)ともう

1 社のコンソーシアムとなっている 23)。

2-3-2. 貯蔵、輸送ターミナル

マレーシアは、隣接するシンガポールが貯蔵容量を増やす余地がなく、石油の貯蔵と取

引の拡大をアジアの中で行う必要があるため、石油ターミナルと貯蔵能力を拡大している。

マレーシアの石油製品と原油ターミナルのほとんどは、半島マレーシアの東海岸沿いにあ

り、海上の浮遊式貯蔵および生産施設として位置している。マレーシアは今後数年間に

3,400 万バレルの能力を持ついくつかのプロジェクトを推進中である。

マレーシアはシンガポールに隣接するジョホールにいくつかの貯蔵ターミナルを開発し

ている。マレーシア国際海運公社(MISC)とグローバル石油トレーダーである Vitol Group

は、2015 年中頃、新しい ATT Tanjung Bin ターミナルの貯蔵能力を 730 万バレルに拡張

した。

ジョホールにある新しい Pengerang 石油貯蔵ターミナルは、マレーシア最大の商業的石

油貯蔵施設である。この施設は Vopak(オランダ)と Dialog Group(マレーシア)のジョ

イントベンチャーによって所有されており、原油と石油製品を貯蔵するために 820 万バレ

ル以上の貯蔵能力を備えている。第 1 段階は、2014 年に操業を開始し、第 2 段階は 2019

年に向けて 1,300 万バレルの石油貯蔵能力で建設中である。このターミナルは、南マレー

シアの石油貯蔵能力を 70%、2,000 万バレル近くまで拡大する。

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JPEC レポート

17

マラッカでは2016年にT.A.G. Marineが運営するクアラリンギ国際港の石油施設が建設

を開始した。港湾複合施設の石油貯蔵能力は 900 万バレル以上である。

サバ州における上流および下流事業に投資する Petronas の計画の一環として、Petronas

は 2014 年にサバ州キマニスで Sabah Oil and Gas Terminal(SOGT)を稼働させた。SOGT

は、最近、サバ沿岸の Gumusut-Kakap、Kikeh、Malikai といった新しい油田から送られ

てくる炭化水素のハブとして機能している。ターミナルは、300,000 BPD の原油と 1 日当

たり 12.5 億立方フィート(1.25Bcf/d)の天然ガスを処理する能力を備えている。ターミナ

ルの貯蔵能力は 1,130 万バレルとなっている。

以上

<参考資料>

1) EIA, 2016/7, “Country Analysis Brief: Singapore”

2) BP, Statistical Review of World Energy 2018

3) JPEC, 世界製油所関連最新情報 2018 年 7 月号

4) Channel NewsAsia, 2017/11/1,

http://www.channelnewsasia.com/news/business/shell-s-new-10-hectare-lubricants-plan

t-in-singapore-to-serve-40-9364298

5) JPEC, 世界製油所関連最新情報 2016 年 11 月号

6) Reuters, 2017/8/30,

http://af.reuters.com/article/commoditiesNews/idAFL4N1LE1PD

7) The Shell Eastern Petrochemicals Complex (SEPC)

https://www.shell.com/about-us/major-projects/shell-eastern-petrochemicals-complex/sh

ell-eastern-petrochemicals-complex-overview.html

8) The Straits Times, 2018/3/14

https://www.straitstimes.com/business/companies-markets/pcs-opens-us80m-naphtha-i

mport-facilities-on-jurong-island

9) Neste Press Release, 2018/12/12,

https://www.neste.com/releases-and-news/neste-strengthens-its-global-leading-position-

renewable-products-major-investment-singapore

10) Green Car Congress, 2017/9/25,

http://www.greencarcongress.com/2017/09/20170925-mpa.html

11) Trends in Singapore, 2017/12/14,

http://sgdexpress.net/news/15302-mpa-injects-s12m-more-for-lng-bunkering-in-singapo

re.html

12) Ship&Bunker, 2018/10/5,

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JPEC レポート

18

https://shipandbunker.com/news/apac/405612-singapore-mpa-20-million-on-lng-bunkeri

ng

13) Seatrade Maritime News,2018/6/29,

http://www.seatrade-maritime.com/news/asia/total-pavilion-energy-seal-lng-bunkering-

deal-for-port-of-singapore.html

14) Ship&Bunker, 2018/9/25,

https://shipandbunker.com/news/apac/697262-singapore-commodity-trader-lands-marin

e-fuel-supply-deal-with-chinese-player

15) Ship & Bunker, 2018/10/10,

https://shipandbunker.com/news/apac/831661-maersk-takes-imo2020-bunker-fuel-stora

ge-in-singapore

16) EIA, 2017/4/26, “Country Analysis Brief: Malaysia”

17) JPEC, 世界製油所関連最新情報 2014 年 8 月号

18) JPEC, 世界製油所関連最新情報 2017 年 3 月号

19) JPEC, 世界製油所関連最新情報 2018 年 4 月号

20) Hydrocarbon Processing, 2019/1/7

https://www.hydrocarbonprocessing.com/news/2019/01/petronas-saudi-rapid-refinery-b

egins-trials-on-crude-oil-unit-sources

21) Fluor Press Release, 2017/8/6,

http://newsroom.fluor.com/press-release/fluor/fluor-awarded-contract-petronas-isonona

nol-chemical-plant-malaysia

22) Vopak Press Release, 2017/8/18,

https://www.vopak.com/newsroom/news/vopak-announces-expansion-pengerang-malays

ia

23) クアラルンプール, Business News, 2016/12/20,

http://www.thestar.com.my/business/business-news/2016/12/20/consortium-appoints-chi

na-company-to-build-refinery-in-kedah/

本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析

したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]

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