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アニメを教える教員とアニメを学ぶ学生のためのアニメ人材養成セミナー 「日本のアニメを学び尽くす」~歴史からビジネスまで 講演記録テキストシリーズ ビジネス編② アニメの産業と海外進出戦略 ~アニメ作品の海外契約状況〜 森 祐治(株式会社電通コンサルティング常務取締役) 平成 25 年 3 月 文部科学省 平成24年度「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業」 アニメ・マンガ人材養成産官学連携事業/アニメ・マンガ人材養成産官学連携コンソーシアム アニメ分野職域学習システム実証プロジェクト/カリキュラム検討委員会産業論部会
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B-2 講演 入稿用 - amecon.jpamecon.jp/h24/common/img/pdf/anime_curriculum02.pdf · 5 目次 b-②-1 国内外の放送市場 b-②-2 日本コンテンツの海外市場展開の分析

Sep 04, 2018

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アニメを教える教員とアニメを学ぶ学生のためのアニメ人材養成セミナー

「日本のアニメを学び尽くす」~歴史からビジネスまで

講演記録テキストシリーズ ビジネス編②

アニメの産業と海外進出戦略

~アニメ作品の海外契約状況〜

森 祐治(株式会社電通コンサルティング常務取締役)

平成 25 年 3 月

文部科学省 平成24年度「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業」

アニメ・マンガ人材養成産官学連携事業/アニメ・マンガ人材養成産官学連携コンソーシアム

アニメ分野職域学習システム実証プロジェクト/カリキュラム検討委員会産業論部会

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はじめに:この講演記録テキストシリーズについて

平成24年度、日本の産業・文化として成長を期待されるアニメ・マンガを担う人材の養成事業が、

文部科学省の「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業」の一つとして実施

されることになりました。この事業は、日本工学院専門学校・日本工学院八王子専門学校・東京工

科大学が代表校となり、産・学の参加協力を得て、「アニメ・マンガ人材養成産官学連携事業」とし

て、「アニメ・マンガ人材養成産官学連携コンソーシアム」により進められました。アニメ分野では、

コンソーシアムにアニメを担う人材の養成推進策の検討のためのアニメ分科会を置き、この分科会

での検討と連動して、アニメ分野職域学習システム実証プロジェクト事業では、カリキュラム検討委

員会で学習すべき要素の抽出・検討やセミナーの試行などを進めました。この中でカリキュラム検

討委員会産業論部会歴史ビジネス・ワーキングでは、アニメの歴史からビジネスまで、アニメ産業

を理解し、アニメ産業で働くために最低限知っておいてほしい知識を学べるセミナーを企画・実施

しました。この講演記録テキストシリーズは、このセミナーをもとに講演内容をテキストとして編集し

たものです。アニメを教える教員や、アニメを学ぶ学生のために活用いただければ幸いです。

シリーズ テーマ 講演者(筆者)

歴史編① 『なぜアニメ産業は今の形になったのか

~アニメ産業史における東映動画の位置付け~』 山口 康男

歴史編② 『アニメの3大源流とその系譜~東映・虫プロ・タツノコ~』 原口 正宏

歴史編③ 『アニメはなぜ面白いのか~アニメリテラシーを考える~』 氷川 竜介

歴史編④ 『コンピュータグラフィック史の把握~CGの過去と未来~』 上原 弘子

歴史編⑤ 『アニメーションの心理分析

~深層意識に潜む作り手の意図~』 横田 正夫

ビジネス編① 『アニメと産業とメディア戦略 アニメとメディアの共進化』 森 祐治

ビジネス編②(本書) 『アニメと産業とメディア戦略

~アニメ作品の海外契約状況~』 森 祐治

ビジネス編③ 『アニメにおけるキャラクタービジネス戦略

~キャラクター志向の時代~』 陸川 和男

ビジネス編④ 『アニメと著作権~アニメビジネスの核心構造を探る~』 宮下 令文

ビジネス編⑤ 『数字から読み解く日本のアニメ産業』 増田 弘道

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目次

B-②-1 国内外の放送市場

B-②-2 日本コンテンツの海外市場展開の分析

B-②-2-ア 70 年代以降ハードウェアと共に輸出 B-②-2-イ 知らないうちに日本のアニメが浸透 B-②-2-ウ インターネットを通じて認識された 90 年代以降 B-②-2-エ 「クールジャパン」の発見 B-②-2-オ アニメの海外進出のこれまで B-②-2-カ アニメの海外売上げは徐々に回復してきている

B-②-3 海外マーケットについて

B-②-3-ア 海外展開に関する FAQ に答える B-②-3-イ 海外マーケットの現状 B-②-3-ウ 海外マーケットの分類

B-②-4 「完成品を売る」から「一緒に作る」へ

B-②-4-ア 国際共同制作の広がり B-②-4-イ ローカルピッキングとプロデューサーズポット

B-②-5 新しい可能性:商習慣や生態系をまるごと輸出

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B-②-1 国内外の放送市場 放送市場は、世界的にいうと非常に伸びています。統計はありませんが、出荷台

数をさかのぼって減衰率を考慮すると、おそらく今全世界で 20~30 億台のテレビ

が稼働していると思います。ただ日本の場合、テレビ市場は小さくなってきており、

次頁上の図を見ると2兆円だった広告費が、ここ5年ぐらいで 1.8 兆円に下がって

きています。 それに反して、(グラフには入っていない)インターネット広告料とそのクリエ

イティブ費、データベースなどの運用料を全部足して1兆円を超えました。ちょっ

と前まで広告費というのは全体で6兆円ぐらいだといわれていました。そのうち4

兆円がマス、さらにその半分がテレビだったんですね。今は統計の採り方が変わっ

ており分母も違いますが、20 年前にはなかったインターネットが、その 20%近く

を占めるような状態になりました。 一方で、世界のテレビの視聴市場は 2013 年までの5年間の予測で、9%も伸び

ています(次頁下)。世界の人口が増えているのと、平均世帯所得が増えているた

めです。それから、コンセントが付いている家が増えている。何にも増して、放送

局も、衛星も増えています。ケーブルや IPTV の率も高い。実は日本でも、6割ぐ

らいの世帯がアンテナではなくケーブル経由でテレビを見ていたりします。これら

は今後日本でも伸びていくパワーがあると思います。とにかく、テレビ産業は伸び

ています。したがってコンテンツも求められています。 人口が増えているのはアジア圏です。ほかにもアフリカ、南米、インドなどが増

えていますが、人が増えるということは子供が多いということです。これらの地域

ではキッズ向けの需要が増えており、アニメの産業としては悪くないマーケットだ

ということができます。

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B-②-2 日本コンテンツの海外市場展開の分析 B-②-2-ア 70 年代以降ハードウェアと共に輸出

「アニメは日本が強い」という話がありますが、海外の人はなぜ日本のアニメを

知っていたのでしょうか。日本でアニメが放映され始めたのは 60 年代。それが 70

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年代ぐらいから海外に出て行ったことが、様々な証言をまとめることでわかってき

ました。日本は高度成長期にテレビなどをたくさん作り、それを海外に売りました。

当然向こうのメーカーもありますから経済摩擦がおこり、大きな問題になりました。

その後に発売されるビデオカセットレコーダーも同様です。その頃に、日本のドラ

マやアニメがテレビと一緒に輸出されています。アジア圏には政府の支援として輸

出されていました。 B-②-2-イ 知らないうちに日本のアニメが浸透 このようにゆっくりと、アニメスタジオがあまり意識しないうちに、自分たちの

作品が海外に渡ってしまっていました。なぜ意識しなかったかというと、アニメの

権利が必ずしもスタジオになく、放送局が権利を持っていたケースが多いからです。

アニメ産業レポートを見ると、日本の楽曲の海外販売は 1982 年の1位が『スキヤ

キソング』、82 年は『UFO ロボグレンダイザー』です。これは東映アニメーショ

ンの作品で、日本よりもフランスなど海外で非常に売れました。しかし当時海外で

は吹き替えをされており、日本のアニメだと思っていない人もたくさんいました。

つまり、知らないうちに日本のアニメが浸透していった時期が 80 年代でした。ま

た、『キャプテン・ハーロック』や『グレンダイザ—』などが人気が出過ぎてしま

ったため、フランスなどでは日本アニメの排斥運動がおこるようなこともありまし

た。 その頃に、パッケージメディアとしての VTR が普及し始めます。すると、映像

をコピーし交換して見る人が増えて、日本のアニメがアンダーグラウンドで人気が

出てくるようになります。文化的に子供のものだと思っていたアニメで、人が殴ら

れる、女の子のパンツが見える。そういった破天荒な日本のアニメに魅了された人

(彼らの多くが映像作家になっていく)が増えたのが 70〜80 年代でした。 B-②-2-ウ インターネットを通じて認識された 90 年代以降 90 年代になると、VTR の普及と共に、パソコン文化が生まれました。より簡単

にコピーができるようになり、そしてインターネットが始まります。「そうか。自

分が見ていたあの作品は、実は日本作品だったんだ」ということを発見した人が非

常に増えたのがこの時代です。それで海外からの問い合わせが急増しますが、日本

のアニメスタジオでは英語を話せる人がいないために対応できず、困ったという話

をよく聞きました。実際に販売しているテレビ局ですら、そういったものに対応す

るスキームが非常に弱い。それは未だにあまり変わりありません。しかしながら、

「ちゃんと海外に出そう」とする作品も増えてきます。90 年代前半には『AKIRA』

などアメリカでもビデオパッケージとして成功するなど、話題になった作品もあり

ます。加えて、ゲーム文化の普及がシンクロしていきます。インターネットが普及

するプロセスにおいても、そういった話題が強くなっていき、このあたりからコス

プレなども出てきて、海外でも同人誌文化が普及していきます。 B-②-2-エ 「クールジャパン」の発見 80〜90 年代にビデオパッケージで普及した日本の作品は、ときとしてエロ作品と

して認識されるものも多くありましたが、90 年代半ばの『ポケットモンスター(以

下『ポケモン』)』以降、本家本元のキッズ向けの作品が放映されるようになりま

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す。日本でブームとなった『機動戦士ガンダム』や『宇宙戦艦ヤマト』などはホビ

ー向けだったため、海外では知られていませんでした。後でお話しますが、海外で

はターゲットのエージグループごとに作品が厳密に区分されるため、戦争する、人

が死ぬ、といった作品は子供向けとして放映されないのです。 カードゲームと電子ゲームと雑誌とのコラボを図った『ポケモン』が、海外に意

図的な進出をして大きな成功を収めます。この成功により、「日本がハードの次は

ソフトで侵略してくるぞ」と話題になったのが 90 年代後半。そのときに言われた

のが「クールジャパン」という言葉です。実はこの言葉は後付けで、本来はトラデ

ィショナルでミステリアスな日本というところから始まっているのですが、その中

で注目されたのがアニメ・マンガ系だった訳です。 このような流れの中で、どんどん海外で日本のコンテンツが「発見」されていき

ます。インターネットがまだ今程普及していなかった頃から、日本で放映されてい

るアニメ作品をリアルタイムで翻訳する人が出てきました。そういったこともあっ

てアンダーグラウンドの流れが強かったのですが、それに対して遅まきながらもち

ゃんと作品を出しましょう、ということになりました。2000 年代前半から中盤にか

けては、インターネットはまだブロードバンドではなかったことも幸いし、DVD が

大量に売れました。 B-②-2-オ アニメの海外進出のこれまで 今までお話していたのは、日本で作られた完成品を海外に売るということについ

てです。これが今までのアニメ海外進出の議論でした。

完成品の契約種類には、放送、上映、パッケージ、配信などがあります。00 年代

まではどうしても先進国が中心にならざるを得ないビジネスでした。そして先進国

では比較的日本に近いインフラとハードウェア環境が期待されるため、日本市場と

近いという錯覚を起こしていきました。しかし日本と欧米では、放送局ビジネスの

構造が異なります。タイムスポンサー「○○の提供でした」という概念は、欧米に

はありません。だから人気がなくなると平気で打ち切られてしまいます。さらに、

特に欧米では週に1回1話ずつ放送するという習慣もありません。月月火水木金金、

などといった形で放映するんです。そうなると 13 話では少ないし、30 分で1話と

いうのは長過ぎます。

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財力のある先進国であれば完成品を買うこともできますが、発展途上国などはほ

ぼ不可能です。ですから、映画上映権などをまとめて売るケースが実際には多いと

思われます。しかしお話したように放送局の事情のため、先進国でも売りづらい。

高いタイム枠のような広告枠がなく、ランダムに入れるスポット広告の対価で作品

の放映権を買うことになります。さらに、子供向けの作品だと字幕はダメだから吹

き替えの必要もある。パンツが見えたらいけないとか、宗教的・文化的なタブーの

問題もあります。欧州の多くでは、エンターテイメントのコンテンツの前後に、そ

こから発生するようなプロダクトのコマーシャルをすることが禁止されています。

そのためキャラクターグッズのプロモーションはテレビではできず、人気が出ては

じめて店頭に並ぶことになります。そうなると、ライセンス販売の申し込みは後か

らしかきません。日本の製作委員会のように一斉のタイミングで商品の同時販売を

仕掛けることができないということです。このように放送の商習慣や文化的な差異

があるため、多くの課題がありました。海外にアニメを売ろうとしたら、意外と面

倒くさいということがわかってきたのです。 B-②-2-カ アニメの海外売上げは徐々に回復してきている

子供向けではないアニメががあまりなかったため、日本のホビー系の作品が売れ

たのが 2000 年代前半です。2006 年ぐらいからインターネットがブロードバンド化

してオンラインでアニメを見られるようになったため、DVD が売れなくなります。

その後リーマンショックがおこりました。アニメの売上げは、2005〜06 年には海

外で 300 億円ぐらいあったと推計されています。グリーンのグラフが動画協会への

回答で、それ以外のスタジオが海外に出した作品数から推計していくと、このよう

な数値になります。2002 年〜06 年の売上げのほとんどがパッケージだと推計され

ます。当時、アメリカなどでアニメのパッケージを販売する会社は多く大きな利益

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を得ていましたが、その後弱体化して今では大手はほぼ1社にまでなりました。代

わりに、東映アニメーションや角川書店など、制作サイドが自分たちで会社を作っ

て販売する形式が増えてきています。

このグレーのグラフが、日本の円ドル換算です。リーマンショックと同時に日本

の円がどんどん強くなっていきました。2002 年は1ドル 125 円だったものが、2011年には 79 円にまでなりました。現在は 2009 年頃の状態にまで戻って1ドル 93〜94 円です。売上げをドルで計算しているケースが多かったので、それをちゃんと円

ドル換算で金額を補正すると、このような形になります。2009 年は前の年の欧米市

場のダウンやそもそも DVD が売れなくなったということもあり、非常に売上げが

低かったのですが、2011 年になると、2003 年頃のレベルにまで戻ってきています。

これはビデオ・オン・デマンドの影響などもあるでしょうが、多くの国への販売が

放送権の販売で成立するようになってきたためだと考えられます。

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この表からもわかるように、売上げのほとんどが先進国+アジアです。これは動

画協会で調査したものの全体数なのですが、10 位までの 13 か国で契約数全体の

60%を占めています。ただし、アンダーグラウンドでは明らかにこれ以上流通して

いると思います。正規のものだと2年契約が前提のものが多いですが、そういった

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先は先進国、アジアが中心であるということです。 「圏域」というのがありますが、これは「アジア圏」「フランス語圏」といった

契約の仕方があるためです。それで2割近くを占めています。海外の市場では、テ

レビの普及だけでなく有料放送も増えてきています。バイイングパワーを持った人

たちが増えている。個人だけでなく、そういう人を対象とした放送局が増えてきた

ということですね。 B-②-3 海外マーケットについて B-②-3-ア 海外展開に関する FAQ に答える アニメ業界と周辺の人を結ぶ「アニメビジネスパートナーズフォーラム」という

勉強会的な組織があり、私はその海外展開のワーキンググループを担当させていた

だいています。アニメスタジオさんは自分たちでビジネスをやっているところが少

ないため、そういった方々向けに「海外にいくための ABC」についてお話しした時

の資料のひとつがこれです。

企画ピッチというのは、企画をみんなで持ち寄ってほしい人に買ってもらう公開

の入札みたいなもののことです。映画の場合はよくありますが、海外ではアニメで

もあるのですか、という話。また、日本の大人向けアニメは海外のエージグループ

ランクの中でどこに入るか、どこに売ったらいいのか、などの基礎的な質問が想定

されました。実際に売れているものについても、どうして売れているのか、どう見

られているのかが把握しきれていないのが現状です。日本のコンテンツとしてアニ

メはゲームの次に外貨を稼いでいるわけですが、ちゃんと意図的にやっているわけ

ではないということが、おわかりいただけると思います。

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B-②-3-イ 海外マーケットの現状 海外でビジネスをしてみたいという方に、僕がお勧めしたのがマーケットに参加

するとうことでした。いろいろなマーケットがありますが、例えば「アジアスクリ

ーンサミット」は、日本の人がほとんど行っていないんです。ローカルのエージェ

ントが一生懸命売っている。海外に売りたいと言っても、実際に行っている人が少

ないんです。日本のアニメの売れる場所というのは基本的にキッズ市場です。それ

以外のホビー作品は DVD がダメになったので、ビデオ・オン・デマンドで売るよ

うなやり方になります。人気の作家の作品ならプレミアム付きだと DVD が売れま

すが、そんなに大量には売れません。オタクマーケットは確実に成立しているので

すが、意識的にちゃんと売っていかないといけません。日本のユニークなホビーア

ニメのマーケットが海外で成立しかけているし、実際に人気もあるのですが、気付

くと韓国や台湾やフランスのファンが自分たちでアニメを作り始めているというの

が現実です。 B-②-3-ウ 海外マーケットの分類

これはアニメ作品の分類です。欧米が中心になっているグローバルマーケットで

は、コマーシャル(アートではないという意味)のアニメはこのように分類されま

す。要するにエージグループです。何歳向けというのを非常に細かく分類されてお

り、「この時間帯は何歳向けです」とスロットが決まってしまっている。どれだけ

人気のある作品でも、エージグループの異なる作品は入れません。小さな子供たち

が対象のエージグループ向けの作品では、心理学者や児童研究者の参加が求められ

ており、彼らがスーパーバイズしていない作品はなかなか放映できません。 キッズのマーケットにはエージグループ毎にセグメント・カテゴリーがあります。

海外では「それはどういうカテゴリー?」と聞かれます。そこで「アーリーからミ

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ドルのキッズで、ボーイズかな」というように、エージグループを細分化し、性別

のセグメントをパッと答えられないと、話が終わってしまいます。日本ではあまり

そういったことを意識していません。ある意味でクリエーターの自己満足と言われ

ても否定しきれない作品が少なからずあって、それがまた人気になったりするのが

日本の市場なんですね。 カテゴリー分けに加えて、「アドベンチャー」「アクション」といったコンテン

ツのジャンルがあり、これも流行り廃りがあります。MIP のような市場に行くと、

例えば「ディズニーチャンネル」などのバイヤーがいて「来年のうちのテーマは『マ

リン』なんだよ」などと言うと、みんな海ものの次年度企画を持ってくるんです。

そしてその中でいい作品を全世界に番組を配信しているようなメジャーな会社が買

うというのがプロセスです。それ以外では、フランス、ドイツ、スペインといった

国の比較的パワーのある地上波放送局が個別に買うというのが、完成品あるいは完

成する前の作品を海外で売る場合のマーケットですが、日本ではこのプロセスにち

ゃんと参加して売っている作品は非常に少ない。どちらかというと「日本で人気が

あるんだ」ということでみんなが納得してくれます。しかし「それは何歳向けなの

か」あるいは「欧米での倫理規定に抵触するものはないか」とかそういったところ

をクリアすることを前提に作っておかないと売れません。心理学者やそういった人

たちにアドバイスを受けるようなことを、日本のアニメを作っている人はほとんど

考えていませんが、そういったことも考えていかないと、予めそのマーケットに向

けて作っていくというのは難しいと言えるでしょう。 B-②-4 「完成品を売る」から「一緒に作る」へ B-②-4-ア 国際共同制作の広がり

完成品を売るのでなければ何をするのかというと、一緒に作るということです。

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これはここ数年政府が力を入れていることで、例えば文化庁と経済産業省がユニジ

ャパンという団体を通じて、国際共同制作で映画を作る企画に対してお金を出すと

いうことを始めています。フランスやカナダなどではアニメ作品に対して政府が支

援金を出すケースがあります。韓国などはオタクものだって支援金が出ます。政府

からお金を出してもらっている人たちと組むと、当然その国では簡単に放映ができ

ます。 このような形でお金を集めながら一緒に売りたい人を見付け、同時にいろいろな

人に企画書の時点でも売り込みます。そこで初期放映先が決定すると、その人たち

からお金がもらえることを前提に作り始めるのです。クリエーターたちには給料を

支払う必要があるため、本当の支払は放映後ですが、それに先立って放送局がお金

を貸し付けたり先払いしたりすることもあります。あるいは放送局が買い取ること

を明文化したものに対して、銀行が貸付けを行うケースなども、海外では比較的よ

くあります。 その上で、作ったあとはとにかく色々な国で売ります。資金調達・開発の段階か

らパートナーを集めて、その人たちのネットワークで放映していく。さらに、他の

国に完成した作品を売っていく。これが国際市場、共同制作のステップです。この

ようなマーケットができたのは 90 年代くらいからで、これは EU ができた影響に

よります。ヨーロッパ市場は小さな国だけでは成立しなかったので、複数の国で放

映すれば元が取れるだろうということで国際共同制作の仕組みができました。そこ

にアメリカやカナダが参画していったような形なんですね。そんな中日本はガラパ

ゴス状態で、できた作品だけを売っていました。 B-②-4-イ ローカルピッキングとプロデューサーズポット 今までアメリカは、グローバライズ作品についてもアメリカのアイデア=アメリ

カのコミックなどをとにかく売る、というやり方でした。しかし昨今アメリカもネ

タが尽きた。そこで何をやり始めたかというと、ローカル・ピッキングです。『パ

ワーレンジャー』や『デスノート』みたいに日本で人気のある作品を一度グローバ

ル市場に持っていき、映画などで成功させてから、ローカル市場ごとにテレビシリ

ーズとしてもう一度やる。アニメ以外でもそういうことが始まっていて、イギリス

の会社が、女の子が予選を勝ち抜いてアイドル・ナンバーワンを目指す番組を『ア

メリカン・アイドル』というタイトルにして、大成功をおさめました。それをさら

に他の国に持っていって『○○○・アイドル』をやっていたりするんです。このロ

ーカル・ピッキングをしてグローバル市場に流し、再びローカライズして 2 度 3 度

同じ知的財産で儲ける手法は、マルチシューティングというビジネスモデルとして

知られています。

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このように、ひとつの知的財産をいくつかのやり方で展開する方法は、アニメに

も向いています。そういうものも含めて、海外展開というのは非常に自由度が高い

のです。 国際共同制作の一つに「プロデューサーズポット」というものがあります。これ

は制作者が色々な国にまたがるわけではありません。みんながお金を出し合って、

例えばプロダクション I.G に制作を委託する。制作は日本ですが、お金的には多国

籍になります。これとは逆に、日本のスタジオを海外のお金でビジネスをさせる国

際共同制作もあります。この場合気をつけないといけないのは、権利が残らないと

いうことです。 B-②-5 新しい可能性:商習慣や生態系をまるごと輸出 以前にもお話したように、アニメというのは作品単体だけじゃなく、パッケージ

やマーチャンダイジングによる売上げが大きい。そこでアウトカム(派生)の部分

をむしろ積極的に売っていこう、ということになるわけですが、これがなかなか難

しいんですね。日本のおもちゃは、世界的に見ても高度な技術で作られています。

高度な製品を作るスキルがない国が多いため、そのあたりはまだまだ問題がありま

す。また作品を作るプロセスで必要なものとしての声優ビジネス。アメリカなどで

は有名な映画俳優がアニメ映画の声をやることが多いのですが、まず声を先に入れ

るんです。日本のように、後から作品に合わせて声を作る声優というビジネスは希

有なことで、欧米だと後から吹き替えをやるのは2流の俳優という印象が強い。そ

れに対して日本では、声優が一種アニメの作品やキャラクター自体の性格付けをし

てしまうことさえあります。さらに、アニソン。そしてカルチャーとしてのファン

コミュニティや N 次創作。『初音ミク』のようなものを含めて、パッケージとして

どう海外に売って行くか、製作委員会が一緒になってやっていかないと、うまくい

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きません。しかし、作品だけを売っていても、アニメは儲からないというのがあり

ます。

以上で海外展開に関するお話はおしまいです。作品自体はある程度売れていると

いうお話もしましたが、アンダーグラウンドでの普及がベースになっていることも

あり、きちんとお金を回収できていないことも含めて、さまざまな課題があります。

マーケットの中で日本が置かれている事情、あるいは海外との付き合い方をご理解

いただければと思います。

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文部科学省

平成24年度「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業」

アニメ・マンガ人材養成産官学連携事業

アニメ・マンガ人材養成産官学連携コンソーシアム

アニメ分野職域学習システム実証プロジェクト

カリキュラム検討委員会産業論部会

【お問い合せ先】

アニメ・マンガ人材養成産官学連携事業・推進事務局(日本工学院内)

〒144-8655 東京都大田区西蒲田 5-23-22

☎ 03-3732-1398(直)