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834 鋳造工学 73 (200 1)第 12 ニッケル基超合金鋳物の特徴とその適用例 吉成 明* Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings Akira Y oshinari キーワード:超合金,ニッケ J レ,精密鋳造 1 . 緒言 耐熱合金鋳物には,鉄基,コバルト基,ニッケル基があ るが,特にニッケルを主成分とし,アルミニウム(以下ア ルミ),チタンを数 % 以上含み,タングステン,モリブデ ン,タンタル,クロム等で固溶強化された合金は,ニッケ ル基超合金とよばれ,高温強度,耐食性,耐酸化特性等に 著しく優れている.そのため,航空機用ジェットエンジン や発電用ガスタービンの動静翼として,あるいは高温機器 の最重要部材として,過酷な条件で使用されている.ここ では,これらニッケル基超合金鋳物の特徴と適用先につい て概説する. 2. 鋳造用ニッケル基超合金の特徴 1に主なニッケ J レ基超合金の仕草組成を,図 1にクリー プ破断強度示す.ニッケル基超合金 は,普通鋳造 (CC: ConventionalCasting) 合金,一方向凝固 (DS: Directio nalSolidification) 合金,単結品 (SC: SingleCrystal) 合金の 3 種類に分類 できる. 3 種類の中で CC 合金は, ロム量がやや高 く,アル ミ,チタンがやや低いのが特徴で ある. DS 合金は,クリーフ。強度を高めるため, cc 合金よ りクロム量を少なくし, その分強度に寄与するアルミ,チ タン,タングステン,モリブデン等を高めている.いずれ の合金も結晶粒界があるため,結晶粒界強化元素である炭 素,ほう素を含んでいる. SC 合金は更にクリープ強度を 高めるため,クロム量を少なくし,その分強度に寄与する アルミ,チタン,タングステン,モリブデン等をより高め ている.また最近では強度及び耐食性向上のため, レニウ ムを 3-5 重量%添加した合金も開発されている1) -3) SC 合金は結晶粒界が存在 しないため,結晶粒界強化元素 を含まないのが特徴であ ったが4} ,最近では大型単結晶翼 の鋳造歩留り向上の観点から,ある程度の異結晶を許容し, 完全な単結晶にならなくても使用することを狙って,結晶 粒界強化元素を添加した合金も開発されているの. 1 鋳造用ニッケ l レ基超合金の化学組成 (mass%) 合金名 Ni Co Cr Mo w Ta Al Ti Nb Re Hf C B Zr 特徴 U700 Ba l . 17.0 15.0 5.0 4 .4 3.5 0.07 0.025 IN939 Ba l . 19.0 22 .4 2.0 1. 4 1. 9 3.7 1. 0 0.15 0.010 0.100 IN738LC Ba l . 8.5 16.0 1. 8 2.6 1. 8 3 .4 3 .4 0.9 0.10 0.010 0.060 CC 合金 GMR235 Ba l . 15.5 5.2 3.0 2.0 0.15 0.060 Rene80 Ba l. 9.5 14.0 4.0 4.0 3.0 5.0 0.17 0.015 0.030 MarM247 Ba l . 10.0 8.5 0.610.0 3.0 5.5 1. 0 1. 40 0.16 0.015 0.040 Rene80H Ba l. 9.5 14.0 4.0 4.0 3.0 5.0 0.75 0.17 0.015 0.030 1 世代DS 合金 CM247LC Ba l. 9.2 8.1 0.5 9.5 3.2 5.6 0.7 1. 40 0.07 0.015 0.010 Rene142 Ba l. 12.0 6.8 1. 5 4.9 6 .4 6.2 2.8 1. 50 0.12 0.015 0.020 CM186LC Ba l. 9.2 6.6 0.5 8.5 3.2 5.7 0.7 3.0 1. 40 0.07 0.015 0.006 2 世代DS 合金 PWA1426 Ba l . 10.0 6.5 1. 7 6.5 4.0 6.0 3.0 1. 50 0.10 0.015 0.100 PWA1480 Ba l . 5.0 10.0 4.0 12.0 5.0 1. 5 CMSX2 Ba l. 5.0 8.0 0.6 8.0 6.0 5.6 1. 0 TMS12 Ba l. 6.6 12.8 7.7 5.2 1 世代SC 合金 NASAIR100 Ba l. 8.5 1. 0 10.0 3.3 5 .4 1. 2 SC83K Ba l. 1. 0 6 .4 4.3 7.3 7.3 5.1 0.10 CMSX4 Ba l. 9.0 6.5 0.6 6.0 6.5 5.6 1. 0 3.0 0.10 YH61 Ba l. 1. 0 7.1 0.8 8.8 8.9 5.1 0.8 1. 4 0.25 0.07 0.020 2 世代SC 合金 PWA1484 Ba l. 10.0 5.0 2.0 6.0 9.0 5.6 3.0 0.10 CMSX10 Ba l . 3.0 2.0 0 .4 5.0 8.0 5.7 0.2 0.1 6.0 0.03 ReneN6 Ba l. 12.5 4.2 1. 4 6.0 7.2 5.8 5 .4 0.15 3 世代SC 合金 TMS75 Ba l . 12.0 3.0 2.0 6.0 6.0 6.0 5.0 0.10 依頼原稿平成 13 9 21日原稿受理 (株)日立製作所目 立研究所 Hitachi Research Lab.. Hitachi. Ltd
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Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

Jan 06, 2022

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Page 1: Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

834 鋳造工学 第 73巻 (2001)第 12号

解 説ニッケル基超合金鋳物の特徴とその適用例

吉成 明*

Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

Akira Y oshinari

キーワード:超合金,ニッケJレ,精密鋳造

1 .緒言

耐熱合金鋳物には,鉄基,コバルト基,ニッケル基があ

るが,特にニッケルを主成分とし,アルミニウム(以下ア

ルミ),チタンを数%以上含み,タングステン,モリブデ

ン,タンタル,クロム等で固溶強化された合金は,ニッケ

ル基超合金とよばれ,高温強度,耐食性,耐酸化特性等に

著しく優れている.そのため,航空機用ジェットエンジン

や発電用ガスタービンの動静翼として,あるいは高温機器

の最重要部材として,過酷な条件で使用されている.ここ

では,これらニッケル基超合金鋳物の特徴と適用先につい

て概説する.

2. 鋳造用ニッケル基超合金の特徴

表 1に主なニッケJレ基超合金の仕草組成を,図1にクリー

プ破断強度示す.ニッケル基超合金は,普通鋳造 (CC:

Conventional Casting)合金,一方向凝固 (DS: Directio・

nal Solidification)合金,単結品 (SC: Single Crystal)

合金の 3種類に分類できる. 3種類の中で CC合金は, ク

ロム量がやや高 く,アル ミ,チタンがやや低いのが特徴で

ある. DS合金は,クリーフ。強度を高めるため, cc合金よ

りクロム量を少な くし, その分強度に寄与するアルミ,チ

タン,タングステン,モリブデン等を高めている.いずれ

の合金も結晶粒界があるため,結晶粒界強化元素である炭

素,ほう素を含んでいる. SC合金は更にクリープ強度を

高めるため,クロム量を少なくし,その分強度に寄与する

アルミ,チタン,タングステン,モリブデン等をより高め

ている.また最近では強度及び耐食性向上のため, レニウ

ムを 3-5重量%添加した合金も開発されている1)-3)

SC合金は結晶粒界が存在 しないため,結晶粒界強化元素

を含まないのが特徴であ ったが4},最近では大型単結晶翼

の鋳造歩留り向上の観点から,ある程度の異結晶を許容し,

完全な単結晶にならなくても使用することを狙って,結晶

粒界強化元素を添加した合金も開発されているの.

表 1 鋳造用ニッケlレ基超合金の化学組成 (mass%)

合金名 Ni Co Cr Mo w Ta Al Ti Nb Re Hf C B Zr 特徴

U700 Bal. 17.0 15.0 5.0 4.4 3.5 0.07 0.025 IN939 Bal. 19.0 22.4 2.0 1.4 1.9 3.7 1.0 0.15 0.010 0.100 IN738LC Bal. 8.5 16.0 1.8 2.6 1.8 3.4 3.4 0.9 0.10 0.010 0.060

CC合金GMR235 Bal. 15.5 5.2 3.0 2.0 0.15 0.060 Rene80 Bal. 9.5 14.0 4.0 4.0 3.0 5.0 0.17 0.015 0.030 MarM247 Bal. 10.0 8.5 0.6 10.0 3.0 5.5 1.0 1.40 0.16 0.015 0.040 Rene80H Bal. 9.5 14.0 4.0 4.0 3.0 5.0 0.75 0.17 0.015 0.030

第1世代DS合金CM247LC Bal. 9.2 8.1 0.5 9.5 3.2 5.6 0.7 1.40 0.07 0.015 0.010 Rene142 Bal. 12.0 6.8 1.5 4.9 6.4 6.2 2.8 1.50 0.12 0.015 0.020 CM186LC Bal. 9.2 6.6 0.5 8.5 3.2 5.7 0.7 3.0 1.40 0.07 0.015 0.006 第2世代DS合金PWA1426 Bal. 10.0 6.5 1.7 6.5 4.0 6.0 3.0 1.50 0.10 0.015 0.100 PWA1480 Bal. 5.0 10.0 4.0 12.0 5.0 1.5 CMSX2 Bal. 5.0 8.0 0.6 8.0 6.0 5.6 1.0 TMS12 Bal. 6.6 12.8 7.7 5.2 第1世代SC合金NASAIR100 Bal. 8.5 1.0 10.0 3.3 5.4 1.2 SC83K Bal. 1.0 6.4 4.3 7.3 7.3 5.1 0.10 CMSX4 Bal. 9.0 6.5 0.6 6.0 6.5 5.6 1.0 3.0 0.10 YH61 Bal. 1.0 7.1 0.8 8.8 8.9 5.1 0.8 1.4 0.25 0.07 0.020 第2世代SC合金PWA1484 Bal. 10.0 5.0 2.0 6.0 9.0 5.6 3.0 0.10 CMSX10 Bal. 3.0 2.0 0.4 5.0 8.0 5.7 0.2 0.1 6.0 0.03 ReneN6 Bal. 12.5 4.2 1.4 6.0 7.2 5.8 5.4 0.15 第3世代SC合金TMS75 Bal. 12.0 3.0 2.0 6.0 6.0 6.0 5.0 0.10

依頼原稿平成 13年 9月21日 原 稿受理

・(株)日立製作所目立研究所 Hitachi Research Lab.. Hitachi. Ltd

Page 2: Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

835

(EE)択迫

y相γ'相r'相

ニッケJレ基超合金鋳物の特徴とその適用例

y相1000

500

(的普通鋳造合金 (b)単結晶合金

図3 ニッケル基超合金のミ クロ組織(熱処理後〉

100

共品 r'相共晶 r'相炭化物

1300

CMSX-4

旬司・._/C恥1SX-4・・・・・.圃・・・岡国. -..・ 、

IN738LC ・¥¥‘‘ 1 、、.

之ー一一_..L~CF・600SUS316τ')-一一一一二二?、ーー

1(別

温度(K)

ニッケル基超合金の引張り強度

1100

10,000時間耐用温度(K)

ニッケル基超合金のクリープ破断強度

1200 ハUAU

AU

4EEA

AU

,、J

16∞

S12∞ i1J 8∞ 示 4∞

図1

(b)単結晶合金

ニッケル基超合金のミクロ組織(鋳造まま)

(吋普通鋳造合金

0 1200

警4∞

8∞ 図4

合金名 溶体化熱処理条件 時効熱処理条件IN738LC 1393K/2h 1118K/24h Rene80 1477K/2h 1366K/4h+1325K/4h+

1116K/16h TMS12 1609K/4h 1253K/5h+1144K/20h NASAIRIOO 1593K/4h 1253K/5h+1144K/20h CMSX4 1550K/2h+1561K/2h+ 1353K/4h+

1569K/3h+1577K/3h+ 1144K/20h 1586K/2h+1589K/2h+ 1591K/2h+1594K/2h

CMSXIO 1589K/lh+1602K/2h+ 1429K/6h + 1608K/2h+1613K/2h+ 1144K/24h + 1619K/2h+1625K/3h+ 1033K/30h 1630K/3h+1633K/5h+ 1636K/IOh+1638K/15

TMS75 1573K/lh+ 1593K/5h 1423K/4h+1144K/20h

ニッケル基超合金の熱処理条件表2

1500 5∞ 。。

には共晶 y'相があり,析出 y'相も粗大化している. cc 合金及び DS合金では,共晶組織の他に炭化物も見られる.

cc合金及び DS合金では表2の溶体化熱処理を行っても,

共晶 y'相は消失しないで残るが, SC合金では共晶 y'相

は拡散消失し 7単相となる.その後の時効熱処理で立方体

形状の整った y'相を析出させている. また表 2に示した

ような熱処理により,立方体形状の y'相を析出させるた

めには,溶体化熱処理後の冷却速度が重要である.図5に

溶体化熱処理後の冷却速度を変えた場合のミクロ組織とク

リープ破断時間を示す.溶体化熱処理後の冷却速度が小さ

図2に代表的なニッケル基超合金の 0.2%耐力及び引張

り強さを示す.一般の材料は,温度の上昇とともに強度が

低下するが, ニッケノレ基超合金の大きな特徴として約

1100 Kまで強度がほとんど低下せず,むしろ 1100K付

近で最大強度を示すことである.この逆温度依存性が耐熱

合金としての優れた特性を示している. これは合金中に析

出する y'相 (Ni3(Al + Ti)を基本組成とする金属間化合

物)の効果である6)

図3にCC合金及びSC合金の熱処理後のミクロ組織を

示す. y相が合金の母相, y'相が析出相であり,母相で

ある 7相より析出相である y'相の方が体積的に多いのが

特徴である.一般的には y'相が立方体形状で規則正しく

析出し7L大きさが 0.4Jlm程度ペ析出量で 60""':'65体積

%の時ベクリープ強度が最大になる.

y'相の形態はニッケル基超合金のクリープ強度に大き

く影響するが,それらは鋳造後に行う溶体化熱処理及び時

効熱処理によって析出させている.図4に鋳造後のミクロ

組織を,表2に代表的な合金の熱処理条件を示す.鋳造後

図2

Page 3: Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

836 鋳造工学 第 73巻 (2001)第 12号

(ぷ

)E宜塩揮hlph叩

2

冷却速度(Klmin)

図5 溶体化熱処理後の冷却速度とミクロ組織, クリープ

破断時聞の関係

いと, r'相が粗大化しクリープ強度が低下する. したがっ

て溶体化熱処理後の冷却速度は,できるだけ大きくするこ

とが重要であり,一般にはアルゴンガスフローによる強制

冷却が行われている.

さらに SC材特有の問題として,溶体化熱処理時に生じ

る再結品がある.再結晶を生じると合金の強度は著しく低

下し10),再結晶粒が試験片の直径を横断している場合には,

クリープ試験の昇温時に,自重で破断する程度まで強度が

低下する.再結晶は鋳造時の残留応力により生じるもので

あり,鋳造条件,鋳型と中子の強度,翼形状及び溶体化熱

処理条件等に起因している.

3. 鋳造法

ニッケル基超合金の鋳物は,ほとんどがロストワックス

注で鋳造されているが,合金中にアルミ,チタン等の活性

金属を多く含んでいるため,真空溶解・真空鋳造で製造さ

れるのが一般的である.特にアルミ,チタンは,合金中の

r'相を形成する主元素であり,その含有量によって合金

特性,特にクリープ強度が大きく変化することから,アル

しチタンの含有量が制御できない大気中での溶解は不可

能である.また溶解材料は,マスターインゴットとして l

回溶製された材料を用い,再溶解して鋳造する.マスター

インゴットの組成のばらつきは,最大でも::t0.5 %程度,

通常は土0.2%程度の範囲にする必要がある.これ以上組

成のばらつきが大きくなると,合金としての強度がスペッ

クを満足しなくなってくる.また航空機用ジェットエンジ

ンや発電ガスタービンの動静翼の鋳造では,組成が規格内

にあるのは当然として,マスターインゴット各ヒートごと

に引張り試験,クリープ破断試験等の確証試験を行い,そ

れらが規格に合格することが必要である.

黒鉛サセブタ 黒鉛サセプタ

(a)一方向凝固法 (b)単結晶鋳造法

図6 一方向凝固材,単結晶材の鋳造方法

cc材の鋳造では, 鋳型を製作する際に初層スラリー中

に酸化コバルト,アル ミン酸コバルト等のコバルト系酸化

物を添加し,結晶粒を微細化することで,疲労特性の向上

を図っている.その外に結晶粒微細化する方法として,低

温鋳込みゃllL機械的振動を与える KM法等もある 12)

一方,鋳造プロセスの面から材料特性の向上を図ったも

のとして,凝固組織を制御した DS材,及びSC材がある.

図6にDS材, SC材の鋳造方法の概略を示す 13) この方

法は,鋳型引出し式一方向凝固法と呼ばれるもので, DS

材, SC材のほとんどはこの方法で鋳造されている.最初

に鋳型を加熱炉内にセット後,合金の融点+150-200K

の温度に鋳型を加熱する.加熱後,加熱炉を高温に保った

まま,鋳型を下方に引き出し,下端から上方に一方向凝固

させる方法である.

DS材, SC材とも基本的には同じ鋳造プロセスであるが,

SC材の鋳造では,鋳型の途中にセレクタ部を設けること,

より大きい温度勾配を得るために鋳型の加熱温度を DS材

の鋳造温度よりやや高くする こと,及び加熱温度,鋳型引

出し速度等プロセス管理をより精密に行うことが必要にな

る.航空機用ジェットエンジンでは, DS, SCの動静翼が

1980年代より多用されており 10,一方向凝固法は一般的

な技術となっている.近年,熱効率向上のため発電用ガス

タービンの動静翼を単結品化する研究も行われており 15)16¥

一部のガスタービンで実用化されている. しかし発電用ガ

スタービンでは,翼が大きく形状も複雑であるため,単結

晶化が難しく工業化の段階まで至っていない.

4. 適用例

(1) 航空機用ジェットエンジン

ニッケル基超合金が最も多く使われているのがこの分野

であり,エンジン開発と平行して各種合金,及び製造プロ

セスの開発が行われてきた.図7に航空機用ジェットエン

ジンの構造を,表3に主要部品の材質を示す.航宜機用ジェッ

トエンジンでは軽量化のため,ファン,圧縮機等には比強、

度の高いチタン合金が多く 使用されている.ニッケル基超

合金の精密鋳造材は,タービン部の動翼,静翼に数多く使

Page 4: Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

ニッケJレ基超合金鋳物の特徴とその適用例 837

図7 ジェットエンジンの構造(JT9D)

表3 ジェ γ トエンジン主要部品の材質

部位 部品 材料/材質ケシング AI合金鍛造材、 Ti合金鍛造材

フレーム Ti合金鋳造材ファン ディスク Ti合金鍛造材

動翼 Ti合金精密鍛造材

静翼 AI合金精密鍛造材、 Ti合金精密鍛造材ケーシング Ti合金鍛造材、 Ni基耐熱合金鍛造材ディスク Ti合金鍛造材、 Ni基耐熱合金鍛造材

圧縮機 動翼 Ti合金精密鍛金造精材密鍛造材Ni基耐熱合

静翼TNii合基金耐精熱密合鍛金造精材密鍛造材

ケーシング Ni基耐熱合金鍛造材、鋳造材燃焼器 ライナー

NCio基基耐耐熱熱合合金金板板材材

ケーシング Ni基耐熱合金鍛造材、鋳造材ディスク Ni基耐熱合金鍛造材動翼 Ni基耐熱合金精密鋳造材

タービン 静翼 Co基耐熱合金精密鋳造材Ni基耐熱合金精密鋳造材

シャフト 耐熱特殊鋼鍛造材Ni茶耐熱合令鍛造材

用されている.図 8 に タ ービン動翼(l ~3 段)の例を示す.

軽量化と冷却のため翼内部は,空洞になっており,それら

はセラミック中子で形成されている. これらの翼はロスト

ワックス法で鋳造され,温度及び応力に応じて, cc翼,

DS翼, SC翼がそれぞれ使い分けられている.特に SC翼

はクリープ強度に優れ,また耐熱疲労特性に優れているこ

とから,高温高圧部の最も過酷な部分に使用されている.

(2) 発電用ガスタービン

発電用ガスタービンには大きく分けて 2つの種類があ

り, 1つは航空機用ジェ ットエンジンを転用して発電用と

したものであり, 1つはランド用と呼ばれる重構造のもの

である.ここでは発電用ガスタービンとして主流であるラ

ンド用ガスタービンへの適用例を示す.

図9に発電用ガスタ』ビンの構造を,表4に主要部品の

材質を示す.発電ガスタービンでは軽量化の必要がないた

め,低コストでかつ信頼性の高い材料が使用されている.

ニッケル基超合金の精密鋳造材は,タービン部の動翼,静

翼に数多く使用されてい る. 図 10 にタービン動翼(l ~3

図8 ジェットエンジン用タービン動翼

Eヨヨザユフイ

47

気HHn

翼動段

図9 発電ガスタービンの構造

表 4 発電ガスタービン主要部品の材質

部位 材料/材質ねずみ鋳鉄/ダクタイ7じ藤京高温高圧用鋳鋼NiCrMoV鋼鍛造材CrMoV鋼鍛造材12Crステンレス鋼精密鍛造材Ni基耐熱合金精密鍛造材

静翼 1l2Crステンレス鋼精密鍛造材トランジッションIco基耐熱合金板材

INi基耐熱合金板材燃焼器!ー・、 p'l I ti'; IIU~~且 A A ._. •

部品ケシヲア

ケーシンク@

.テ'ィスク

タービンl動翼静翼

スタッキング

互主と

段)の例を示す.これらもロストワックス法で鋳造されて

いる. SC翼が適用された発電用ガスタービンは,極一部

の機種に限られており,ほとんどの翼は,CC翼,及び DS

Page 5: Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

838 鋳造工学 第 73巻 (2001)第 12号

図 10 発電ガスタービン用タービン動翼

(a)中子形状 (b)冷却構造 2巴?図 11 タービン動翼の内部冷却構造

翼であり,温度及び応力に応じてそれぞれ使い分けられて

いる.温度の高い 1段, 2段動翼は内部冷却されており,

最も温度の高い初段動翼は,複雑なリターンフロー冷却が

採用されている.図 11に内部冷却構造の例を示す. これ

らの冷却孔はセラミック中子で形成するため,鋳造をより

難しくしている.

(3) ターボチャージャ

ターボチャージャは 70数年前に実用化され,主に軍用

飛行機エンジン,船舶用エンジンの高出力化の手段として

実用化されてきた.圏内では 1979年に乗用車に採用され,

その後急速に普及してきた.圏内の生産量は年約 200万

台,全世界では約 800万台と推定されている.大きさは

外径 100mm以下が自動車用,外径 100mm以上が船舶

用,その他である.

図 12にターボチャージャの構造,図 13にタービンの形

状を示す.ターボチャージャには,低速域での加速性能向

図 12 ターボチャージャの構造

図 13 ターボチャージャ用タービン

上が求められており,その対策として軽量材料を適用し,

慣性モーメントを低減することで過渡レスポンス特性を向

上される検討が行われてきた.その代表的なものがセラミッ

クタービン17)18)であるが, コスト及び材料が脆いという

欠点のため適用は減少している.現在,セラミックタービ

ンに変わるものとしてチタンアルミ (TiAl)が注目されて

いる.チタンアルミは,鋳造で製造できること,及び比重

が約4とニッケル基超合金の約半分であり,比強度,比

クリープ強度はほぼ閉じであることから,コスト面,過渡

レスポンス特性の面で魅力的な材料であり一部実用化され

ている. しかし,ニッケル基超合金よりコストが数倍高く,

延性も低い等の問題もあり,現在はコスト及び信頼性の面

からニッケル基超合金の GMR235等が使われている.

(4) マイクロガスタービン

最近,分散電源としてマイクロガスタービンが注目を浴

びている.マイクロガスタービンの定義は明確ではないが,

数 kW-100kW程度のものが相当すると考えられている.

表5に代表的な各社のマイクロガスタービンの主仕様を示

す.運転条件としては, 5万-10万rpmで回転し, 自動

車の数倍長い 4-8万時間(自動車が時速 100km/hで 20

万 km走行する場合,運転時間は約 2000時間)が設定さ

れている.圧力比3-4は, トラ ックや船舶用ディーゼJレ

のターボチャージャに相当し,ガス温度は乗用車用ガソリ

ンエンジンのターボチャージャに相当している.

Page 6: Application and Properties of Ni-based Superalloy Castings

ニッケル基超合金鋳物の特徴とその適用例 839

表5 代表的なマイクロタービンの仕様

メーカ名 キャプストン ノ、ネウエノレ NREC ボウマンシスアムの呼称 Model330 Parallon75 PowerWorks TG45 定格発電出力(kW) 28 75 70 45 発電効率(LHV)(%) 26.0 28.5 33.0 22.5 設定寿命(h) 40,000 40,000 80,000 圧縮機圧力比 3.2 3.7 3.3 4.3 タービン回転数(rpm) 96,000 65,000 8,000 99,750 ヲーピン入口温度(K) 1,113 1,203 1,143 1,173 排ガス温度(K) 543 523 473 548

図14に米国特許で公開されたハネウエル社のマクロガ

スタービンの構造を示す19) 吸込まれた空気は圧縮機で圧

力比3.7まで圧縮されたあと燃焼器に入り,燃料(一般に

はガスが多い)の燃焼に供され,高温高圧ガスがタービン

を回し発電する.

マイクロガスタービンの基本構造は自動車のターボチャー

ジャと同じであるが,ターボチャージャが車の補機である

のに対し,マイクロガスタービンは発電機,燃焼器,その

他多くの部品を持つ独立した発電設備であり,高い信頼性

が求められている.タービンの形式はラジアルタイプであ

り,大きさ,形状とも船舶用のターボチャージャとほとん

ど同じである.使用材料は公表されていないが,自動車の

ターボチャージャより強度の優れた, Inco713CやMarM

247等が使用されていると思われる.タービンは普通鋳造

材であり, DS化や SC化によるクリープ強度特性の向上

はタービン形状から困難である. CC合金のクリープ強度

がほぼ飽和状態にあるいま,高温化による発電効率向上の

ためには,よりクリープ強度の高い材料の開発が課題であ

る.

5. まとめ

ニッケル基超合金の鋳物は,航空機用ジェットエンジン

や,発電用ガスタービン等社会生活に極めて重要な機器の

最も重要な部分に使用されているにもかかわらず,一般に

はなじみの薄い材料である.これらの新合金,新プロセス

は常に米国の軍需産業,特に戦闘機用ジェットエンジンの

開発と表裏一体となって開発されてきた.現在でもその流

れは変わらず日本の技術は米国と大きな差があるのも事実

である. しかしながら,地球温暖化等の問題を考えた場合,

火力発電プラントに代表される各種高温機器には,炭酸ガ

ス排出削減のための熱効率向上が求められており,更なる

ブレークスルーが必要である.そのためには耐熱材料とプ

ロセス技術が一体となった開発が重要であり,多くの方々

の研究に期待するところである.

図14 マイクロガスタービンの構造例

文献

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