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4 月 12 日に日立製作所の協力のもとで「コーポレートアクセラレーター セミナー:大企業×ベンチャーによるオ ープンイノベーション」が開催された。事業創造アクセラレーターである株式会社01Boosterの鈴木規文氏による「コ ーポレートアクセラレーターとは何か?」、合田ジョージ氏による「世界のコーポレートアクセラレーター実施事例」 にはじまり、博報堂 DY グループ・SEEDATA 宮井弘之氏からは「求心力を高める、イノベーションテーマの決め方」 と称し、コーポレートアクセラレーターの全体像を学べるセミナーとなった。 新規事業を立ち上げられない大手企業を救う 「コーポレートアクセラレーター」 最初に登壇したのは株式会社 01Booster の鈴木規文 氏。「コーポレートアクセラレーターとは何か?」と称し、 その概要についての講演を行った。 株式会社ゼロワンブースター代表 鈴木 規文 まず鈴木氏は、起業と企業内起業における成功確率に ついて言及。ある調査によれば、はじめて起業する人の 成功確率は「15 パーセント」であり、一度起業に失敗し た人の成功確率は「16 パーセント」との記録がある。そ の一方で企業内起業における成功確率はたったの「5 パ ーセント」。つまり企業内で新規事業を成功させるには、 100 の新規事業のうち、95 個の失敗を適正に行わなけ ればいけない。 しかしながら日本の大手企業は新規事業を立ち上げる “大企業×ベンチャー”による オープンイノベーション 「コーポレートアクセラレーター」とは?
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“大企業×ベンチャー”による オープンイノベーション ... · 2019-10-07 · ーセント」。つまり企業内で新規事業を成功させるには、 100

Jun 18, 2020

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Page 1: “大企業×ベンチャー”による オープンイノベーション ... · 2019-10-07 · ーセント」。つまり企業内で新規事業を成功させるには、 100

4 月 12 日に日立製作所の協力のもとで「コーポレートアクセラレーター セミナー:大企業×ベンチャーによるオ

ープンイノベーション」が開催された。事業創造アクセラレーターである株式会社 01Booster の鈴木規文氏による「コ

ーポレートアクセラレーターとは何か?」、合田ジョージ氏による「世界のコーポレートアクセラレーター実施事例」

にはじまり、博報堂 DY グループ・SEEDATA 宮井弘之氏からは「求心力を高める、イノベーションテーマの決め方」

と称し、コーポレートアクセラレーターの全体像を学べるセミナーとなった。

新規事業を立ち上げられない大手企業を救う

「コーポレートアクセラレーター」

最初に登壇したのは株式会社 01Booster の鈴木規文

氏。「コーポレートアクセラレーターとは何か?」と称し、

その概要についての講演を行った。

株式会社ゼロワンブースター代表 鈴木 規文 氏

まず鈴木氏は、起業と企業内起業における成功確率に

ついて言及。ある調査によれば、はじめて起業する人の

成功確率は「15 パーセント」であり、一度起業に失敗し

た人の成功確率は「16 パーセント」との記録がある。そ

の一方で企業内起業における成功確率はたったの「5 パ

ーセント」。つまり企業内で新規事業を成功させるには、

100 の新規事業のうち、95 個の失敗を適正に行わなけ

ればいけない。

しかしながら日本の大手企業は新規事業を立ち上げる

“大企業×ベンチャー”による

オープンイノベーション

「コーポレートアクセラレーター」とは?

Page 2: “大企業×ベンチャー”による オープンイノベーション ... · 2019-10-07 · ーセント」。つまり企業内で新規事業を成功させるには、 100

ことすら難しい。その理由をいくつか記しておく。

1.イノベーションのサイクルが「高速回転」しており、

そこに大手企業はついていけなくなっている

2.イノベーションとオペレーションの両方は、ある同

一人格に内在できないのに「兼務社員」で新規事業を

担当している

3.売り上げが、本業のある「一定数割合を超えないと

実施できないルール」が存在する

4.自社の「既存事業とのカニバリゼーション」に対し

て寛容性が低い

5.新規事業を行うにあたり「撤退基準がない」ため、

新規事業を立ち上げるハードルが高くなってしまう

大手企業はこのような問題を抱えているため、最適な

リソースを社内と社外の壁を取り払って調達し、新規事

業を立ち上げなければいけないのだ。

そこで、大手企業はアイデアソンやハッカソンを主催

することが多い。しかし、そこから事業化に至るケース

は日本ではほとんど存在しない。その解決策として注目

されているのが、大手企業とベンチャー企業が、共同で

新規事業創造やイノベーションを目指す方法論「コーポ

レートアクセラレータープログラム」である。

コーポレートアクセラレーターの中でもとりわけ有名

な事例は、TechStars が手掛ける「ディズニー・アクセ

ラレーター」だ。 ディズニー・アクセラレーターは、ウ

ォルト・ディズニーが 10 社のベンチャー企業に対して

13 週間かけて 12 万ドルを出資し、メンタリングを中心

に徹底的に支援するプログラム。ディズニーが持つ様々

なキャラクターやコンテンツを、ベンチャー企業が使う

ことができるのも魅力のひとつ。ボブ・アイガーCEO を

はじめ、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルム、ESPN

などのウォルト・ディズニーグループの専門家 143 人が

メンターとして参加した。

プログラム期間中の 3 ヶ月半でサービスを 10 個つく

る規模とスピード感は、ディズニーといえどなかなか難

しい。そのため、コーポレートアクセラレーターを活用

することによって自社だけで行うよりも何倍も速いスピ

ードで新規事業を興すことができる。こうした環境づく

りはウォルト・ディズニー単体では難しく、そこにコー

ディネーターとしての TechStars が必要不可欠である。

つまり、コーポレートアクセラレータープログラムと

は、大手企業が社内リソースのみでは生み出せないよう

な事業の立ち上げを、本体から切り離した“出島環境”で、

ベンチャー企業の新規性・実行力・執念や覚悟を活用

し、リスクを外部化し、スピード感を持って数多くトラ

イできる事業開発方法のひとつである。

フィンランドが起業大国になった理由

続いて登壇したのは株式会社 01Booster の合田ジョ

ージ氏。「世界のコーポレートアクセラレーター実施事例」

と称し、国内外のコーポレートアクセラレーターにまつ

わる先端トレンドについての講演を行った。

株式会社ゼロワンブースター共同代表 合田 ジョージ氏

まず合田氏が紹介したのが NOKIA の起業促進プロジ

ェクト「NOKIA Bridge Incubator Program」。大手企

業による起業家支援という視点から読み解いていくと、

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コーポレートアクセラレーターとの共通点が浮かび上が

ってくる。

“スマートフォンの登場以降、フィンランドを代表する

企業のNOKIAは売上不振に陥りました。そんなNOKIA

はリストラを行う際に、退職希望者に対して、起業をサ

ポートするプログラムを提供したんです。このプログラ

ムによって元NOKIA社員が起業した会社は 1000社に

のぼり、フィンランドが起業大国化していきました。

(01Booster の合田ジョージ氏)“

NOKIA が Apple に敗北した理由として挙げられるの

が、Apple が携帯端末の製造だけではなく、開発者やミ

ュージシャンを巻き込みエコシステムをつくり出したこ

とに対し、NOKIA は携帯端末しかつくれなかったことだ。

そんな NOKIA がフィンランドで起業のエコシステムを

つくり出すことに成功したのは皮肉なことである。

「破壊的イノベーション」に晒される業界にこそ、

コーポレートアクセラレーターは必要

続いて、国内外のコーポレートアクセラレーターの事

例を見ていく。例として取り上げるのは出版業界だ。イ

ンターネットの登場以降、じりじりと撤退を余儀なくさ

れてきた出版業界もただ黙ってそれを眺めているだけで

はない。日本には 01Booster が手掛けた「学研アクセラ

レーター」が、国外ではオランダの出版協会が手掛けた

というコーポレートアクセラレータープログラムが存在

し、出版業界を盛り上げている。

一方で、IT 企業によるジャーナリズム支援の動きから

も目が離せない。Google による欧州のデジタルジャー

ナリズム分野に約 200 億円を支援するプロジェクト

「Digital News Initiative」や、Amazon 創業者のジェ

フ・ベゾスによる「ワシントン・ポスト」の買収も記憶

に新しい。このように大きな変革が起きている業界では、

コーポレートアクセラレーターの取り組みも進みつつあ

るのだ。

出版業界の他に、自動車、通信、電気、音楽、食品な

ど、その業界のトッププレイヤーたちがコーポレートア

クセラレータープログラムに取り組みはじめていること

だけは明記しておこう。

ベンチャー企業をプログラムに公募する際に、

どのようにテーマを決めるのか?

続いて登壇したのは株式会社SEEDATAのCEO宮井弘

之氏だ。コーポレートアクセラレータープログラムにお

いて、ベンチャー企業を公募する際にどのようなテーマ

設定を行えばいいのかを講演した。

株式会社 SEEDATA CEO 宮井 弘之

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コーポレートアクセラレーターを実行する際に大手企

業がまず考えるべきことは、自社の上位概念のビジョン

である。「どのようなイノベーションを起こしたいのか」

「世の中をどのように変えていきたいのか」を明確にし、

ベンチャー企業にアピールしていくことが必要不可欠と

なる。

練り上げた一つのテーマを掲げることで、それに共

感・共鳴してくれるベンチャー企業を集めることができ

る。コーポレートアクセラレーターの主役はあくまでベ

ンチャー企業であり、彼らを集めるための入り口になる

のがこの選抜である。

さて、テーマ決定において重要な視点は大きく 3 つ存

在する。

1 つ目は、経営戦略の視点。自社がどういった経営戦

略を描いているのか最初に確認しておく。

2 つ目は、技術シーズの視点。自社にどういった技術

があるのかを明確にしておく。

3 つ目は、市場ニーズの視点。世の中がこれからどう

変化するのかについて視点を持つのはとても重要である。

では、具体的にどのようなテーマ設定がベンチャー企

業にとって魅力的に映るのだろうか。ホテル業界を例に

挙げて考えてみよう。コーポレートアクセラレーターを

開催するにあたり、大手企業は「ホテル業界のイノベー

ション」というようなテーマを設定しがちだが、このよ

うなテーマ設定では多くのベンチャー企業を集めること

はできない。なぜなら「世の中はこう変化していくので

はないか」という社会潮流の視点がテーマに含まれてい

ないからである。

以上の点を踏まえ、テーマ設定の一例を挙げると、「ホ

テル業界に破壊と創造を! ~シェアエコノミーの時代を

切り拓く~」といったものになる。このテーマ文にはコ

ーポレートアクセラレータープログラムをより魅力的に

見せるための 3つのポイントが含まれている。

1. 求゙心力を生むための、業界全体を変えていくという

「志」

2.「自社カテゴリ」を明記し、どのようなネットワーク・

知見・メンターを提供できるかをベンチャー企業に伝

わりやすいようにすること

3.自分たちはどのようなトレンドの見方をしているのか

を示すことで、視点を共有できるベンチャーの参加を

促す「世界観」を構築する

コーポレートアクセラレータープログラムは

3 年スパンでの取り組み

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最後に、セミナー中に行われた来場者と講師との質疑

応答をいくつか紹介する。

来場者 A:

ベンチャー企業は自分たちで事業を起こしたいと思い、

独立した人が多い。大手企業と提携することに抵抗はな

いのだろうか?

合田氏:

抵抗はあるかもしれないが、立ち上がったばかりのベ

ンチャー企業にはリソースがないため、彼らは頼れるも

のがあったら頼りたいと思っています。募集する際に注

意したいのが、大手企業とベンチャー企業が共同で何か

新しいことに取り組もうとすると、大手企業側がコント

ロールしたがることです。しかし、コーポレートアクセ

ラレータープログラムの主役はあくまでベンチャー企業。

敬意を持ちながら対等な関係を築くことが求められます。

来場者 B:

日本企業がコーポレートアクセラレータープログラム

を通じて、世界のベンチャー企業を募集することは可能

か?

合田氏:

コーポレートアクセラレータープログラムは 3 年スパ

ンでの取り組みだと考えていただきたい。1 年目が国内

での開催、2 年目が海外企業も含めた開催、そして 3 年

目ではじめてグローバルでのプログラムを開催すること

ができるのです。

なぜ徐々にその範囲を広げていくかというと、コーポ

レートアクセラレータープログラムにおいて難しいのは

「大手企業がベンチャー企業と付き合うこと」「海外企業

との、言語や宗教などのカルチャーギャップを乗り越え

ること」です。その 2 つの変数をいきなり両方扱おうと

するのは難しいため、3 年スパンで徐々に乗り越えてい

くほうがスムーズにプログラムを運営できます。

<了>

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PROFILE

合田 ジョージ(ごうだ・じょーじ)

株式会社ゼロワンブースター共同代表。MBA、理工学修士。東芝の重電系研

究所・設計を経て、同社で Sweden の家電大手とのアライアンス、中国や

タイなどでのオフショア製造による白物家電の商品企画を実施。村田製作所

にて、北米向け技術営業、Motorola の全世界通信デバイス技術営業を実施、

その後、同社の通信分野のコーポレートマーケティングにて全社戦略に携わ

る。スマートフォン広告の Nobot 社に参画、同社 Marketing Director とし

て主に海外展開、イベント、マーケティングを指揮、KDDI グループによる

バイアウト後には、M&A の調整を行い、海外戦略部部長として KDDI グル

ープ子会社の海外展開計画を策定、2012 年 3 月末にて退社。01Booster に

て事業創造アクセラレーターを運用すると共にアジアにおけるグローバル

アクセラレーションプラットフォーム構築を目指す。

鈴木 規文(すずき・のりふみ)

株式会社ゼロワンブースター代表。MBA。カルチュアコンビニエンスクラ

ブで経営企画室を経て、コーポレート管理室長(兼)財務グループ IR チー

ムリーダー(兼)人事グループ人事リーダー。その後、次世代型アフタース

クール『キッズベースキャンプ』を創業し、東京急行電鉄に事業売却。同

社取締役を退任後、株式会社ネクストマーケットを設立、代表取締役就任。

さらに 2012 年 3 月、01Booster を運営する株式会社ゼロワンブースター

共同創業、代表取締役就任。

宮井弘之(みやい・ひろゆき)

株式会社 SEEDATA CEO / 博士(経営学)。1979 年埼玉県さいたま市生

まれ。慶応大学商学部卒業後、2002 年博報堂入社。情報システム部門を

経て、博報堂ブランドイノベーションデザイン局へ参画。新商品・新サー

ビス・新事業の開発支援に従事。幅広い業界のリーディングカンパニーと

300 を超えるプロジェクトを経験。得意分野は、消費者調査(定性・定量)・

成長戦略立案・ファシリテーション・コミュニティデザイン・イノベーシ

ョン共創支援。研究の専門分野は消費者行動。博士(経営学)(筑波大学)。

著書『だから最強チームは「キャンプ」を使う。 ──「創造性」と「働

きがい」を生み出すビジネス合宿術──』(2010)共著、インプレス。

『書くスキル UP すぐできる! 企画書の書き方・つくり方 相手を動かす

企画書をつくる 6 つのステップ』(2013)単著、日本能率協会マネジ

メントセンター。『2回以上、起業して成功している人たちのセオリー』(2

013)単著、アスキー・メディアワークス。