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AlphaPolis - 第一話...5 追い出されたら、何かと上手くいきまして2 第一話 アレク、卵を見つける...

Dec 31, 2020

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dariahiddleston
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5 追い出されたら、何かと上手くいきまして2

第一話 アレク、卵を見つける

アレク・ムーンオルトは、十歳の時に英雄ムーンオルト家を、両親と兄サージュによって追い出

された。

誕生時の能力測定の値が低かったために「役立たず」「邪魔者」と罵

ののし

られ、さらには「髪と瞳の

色が気持ち悪い」と、ずっと疎う

まれていたのだ。

アレクは、どの種族にも現れない紫の髪と瞳をしており、そのために外出も制限されていた。

だが、そんなアレクの家族にも、優しい味方が二人いる。

それが、双子の兄と姉、ガディとエルルだった。

冒険者である二人はギルドランク『SSSランク』を取得しており、その美び

貌ぼう

も相まって、彼ら

の名を知らない人はいないと言われるほどの有名人である。

二人はギルドの仕事で一年間家にいなかったのだが、アレクが追放されたことを知り、急いで弟

を捜しに出た。

一方のアレクはリリーナとティールという二人の女性に助けられ、英雄学園に入学する。

後を追うようにガディとエルルも入学を果たし、アレクの学園生活は賑やかなものになった。

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入学してからしばらく経った頃、アレクの婚約者である、トリティカーナ王国第三王女のシル

ファがアンチホーンラビットの毒によって倒れる。

アレクは学園長とともにシルファを助けに向かい、見事解毒に成功した。

その後、アレクは国王にある事実を告げられた。

アレクの紫の髪と瞳は、かつて地上最大の危機を救った天使と同じ特徴であること、その力を利

用しようとする者から狙われるかもしれないことを。

幸い、天使の伝承を知っているのはそれぞれの種族の王族のみであるため、今のところアレクの

日々は穏やかである。

◆ 

◆ 

「みんな揃そ

ったー?」

初等部一年Aクラスの担任教師アリーシャの声に、生徒全員が返事をした。

今日は薬草採取の授業で森に来ており、薬草は持ち帰れるため、生徒は皆気合いが入っている。

薬草は道具屋などで高く売れるからだ。

「はーい、皆さん注目。私は薬草専門家のハンナ・ロングです。普段は保健室の先生をやっていま

す。よろしくお願いします」

ぺこりと一礼したのは深緑色の髪に、金き

縁ぶち

の眼鏡をしたハンナという女性だ。

「ここはちょっと前まで『暗闇の森』と呼ばれていたんですけど、今は呪いが解けて普通の森に

なっています。でも、一応魔物に気をつけてくださいね」

「「「わかりました!」」」

ハンナの説明を聞いて、生徒達は元気に返事する。

「では、各自薬草を採って、終わったら私に渡してください」

その言葉をきっかけに、わーっと生徒全員が散った。

アレクは同級生のライアン、シオンと一緒に薬草を探し始める。

「おー! 

これなんていいんじゃない?」

「これはどうかな?」

ライアンとシオンが持って来た薬草を、交互に見つめるアレク。

「う~ん……まずまず、かなぁ?」

「そっか、よし! 

もっと探すぞ!」

「うん!」

パタパタと二人は元気に去っていった。

二人がなぜそこまで真剣なのかといえば、同級生のユリーカが風邪で寝込んでしまったからだ。

アレク達は、ユリーカに早く良くなってもらうために、薬草を探していた。

以前にアレクが作ったカプセルを使う、という手段もあったが、あれはまだ販売が始まっていな

い。正式に売り出されるまでは、よほどのことがない限り使用は控えるようにと、学園長から注意

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を受けている。

「……植物の声、聞こえないなぁ」

アレクは薬草を探しながら、つんっと道端の草をつつく。

前に暗闇の森に来た時には聞こえたのだが、それは呪いに囚と

われていた聖霊クリアの苦しみを受

けて、森が悲鳴を上げていたからだった。

植物が話すことなんてないのか、とがっかりするアレク。

しかし、すぐに気を取り直して薬草探しを再開する。

「ん……? 

これは……」

目に留まったのは、夕焼け色に輝く花だった。確か、頭痛を治す効果があったはずだ。

美しい光を放ち、アレクの顔を照らす。

「……いただきます」

森への感謝を込めて、アレクは花を摘つ

み取った。

すると花はその瞬間に淡い光を放ち、しかしすぐに収まる。

「……何だろう?」

夕焼け色の花をまじまじと見て首を傾げるが、考えても仕方ないと、あまり気にしないことに

した。

「あ! 

これもいいかな」

点々と生えている薬草をしばらく摘み取り続け、気がつくと。

「……あれっ?」

周りに誰もいない。これは俗に言う、「迷子」というものではないだろうか。

アレクは猛烈に焦った。

「ど、どうしようっ……! 

あれ?」

その時、目の前に、薄暗い闇に閉ざされる洞窟を見つけた。

そして、アレクはその洞窟に引き寄せられるように近づいていった。

◆ 

◆ 

「ここ……広いなぁ」

ピチャン、と水が滴

したた

り落ちる音を聞きながら、アレクは洞窟に足を踏み入れた。

所々にコケが生えていて、水の匂いが漂う。ここは大分湿度が高いらしい。

じめじめとした空気を吸い込んで、アレクは苦い顔をする。

「うーん……普通の洞窟に見えるんだけど、何か違うような……」

むぅ、と唸う

りながら考えるアレクだったが、その足を止めることはなかった。

ズンズンとかなりのスピードで洞窟を進んでいき、十五分は経っただろうか。

アレクはふと、先生達に忘れられていないか不安になる。

「みんなに置いていかれるとマズいし、そろそろ戻ろうかな……」

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その時、チカリ、と青白い光が一瞬目に入った。

「わ……な、何だろう?」

光った場所に向かって、自然とアレクの足取りは速くなった。コツ、コツと足音が洞窟に響く。

「……何これ!?」

たどり着いた場所で目にしたのは――まるで草花に守られるように囲まれた、虹色の卵であった。

「……」

吸い寄せられるようにして、アレクは虹色の卵の前に立った。

触ろうと手を出しかけたが、草花の様子を見てふと思う。

これはひょっとして――触れてはいけないものではないだろうか?

「……やめとこうかな」

戻ろうと、くるりと体の向きを変えた瞬間だった。

ザザザッという音が響いて振り返ると、草花は卵を露出させるように動いている。

「……え?」

アレクは突然のことに呆然とした。まさか、草花が動くなんて――

「さ、触っていいのかな……?」

まるで頷くかのように草花がざわめいた。

ゴクッと生唾を呑み、そーっと慎重に卵に手を近づけ――ちょん、と指先で触れた。

「……温かい」

優しく卵を持ち上げて、まじまじと見る。

その卵は、アレクの顔を反射して映すほど綺麗だった。

「あっ、でもお母さんがいるよね。持ってっちゃ駄目だ」

そう考えて、元の場所に戻そうとしたのだが。

「えっ? 

な、何で!?」

草花が、卵を拒んでいる。ぐいぐいと押し込んでもびくともしない。

アレクに「持っていってほしい」と語りかけているようだ。

「……持っていっていいの?」

心なしか、草花がシュルンと緩んだ気がした。

アレクは戸惑いながらも――卵を持ち帰ることにしたのであった。

◆ 

◆ 

「全員揃いましたか~?」

ハンナの声に、ライアンが反応した。

「先生ー! 

アレクがいないです!」

「え? 

アレク君が? 

大丈夫かしら……魔物が出てたりして!」

突然慌て始めるハンナを、アリーシャは宥な

めた。

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「だ、大丈夫よ! 

アレク君、ああ見えて強いし……あ、ほら! 

帰ってきたわよ!」

森の奥から出てきたアレクを指差したアリーシャだったが、アレクの手にしているものを見て硬

直した。

「あの……遅くなってすみません」

しかし、アレクの言葉など二人とも聞いていない。その視線は――卵に釘付けだった。

「そ、そそ……それは……!!」

アリーシャとハンナが、虹色の卵を指差してプルプルと震えている。

アリーシャが悲鳴に近い勢いでアレクに質問した。

「どこで拾ってきたの!? 

それ!!」

「洞窟の中です。何か、草花に守られてたんだけど、親も見当たらないし……持ってきちゃいま

した」

アレクは少し申し訳なさそうに、虹色の卵を撫でた。

二人の教師の顔は真っ青になる。

「ま、マズいわよハンナ……!」

「ですよね……!」

アレクに駆け寄るライアン達の後ろで、コソコソと話し始める二人。

「虹色の卵ってことは……絶対聖獣よ……!」

「本来なら、王族しか持ってはいけない存在……これが知られたら大変なことに……!」

深刻な話し合いをよそに、ライアンが卵をツンツンとつつき、シオンも恐る恐る撫な

でる。

「聖獣は卵から出た瞬間、目にした者を親と認識する……! 

これは急いで王宮に渡したほう

が……!」

アリーシャがそう言った直後、ピシッと卵に亀き

裂れつ

が入った。

「あ、割れそう」

「「ギャーーーーッ!!」」

二人の教師はそれを聞いて、絶叫しながら慌てて止めようとした。しかし――

パカッ。

「……ぴゅー?」

残念ながら、卵は割れてしまった。

「わあ……綺麗」

アレクはその聖獣をじっと見つめる。

それは、ユニコーンであった。美しい天使のような翼、真っ白な体、頭に生えた一本の小さな角。

吸い込まれそうなほど澄んだ青い宝石みたいな瞳は、まっすぐアレクを見つめていた。

『親……さま?』

「え?」

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『親さまーーーっ!』

すると突然、ユニコーンがアレクに頬ずりしてきた。

テレパシーのごとく頭に響く声に戸惑いながら、アレクはユニコーンを引き剥は

がす。

アリーシャは頭を抱え、ハンナは衝撃のあまりヘナヘナとその場に座り込んだ。

「親さまってことは……刷り込み完了しちゃったわけね……」

嬉しそうにアレクに頭をこすりつけるユニコーンを、諦めの目でアリーシャは見つめた。

◆ 

◆ 

薬草採取を終了し、アリーシャは急いでアレクとユニコーンを学園長のもとへ連れていった。

「へ? 

聖獣を?」

「そうなんです!」

鬼気迫る雰囲気で学園長に詰め寄るアリーシャ。

毎日容姿が変化する体質の学園長は現在少年の姿なので、アリーシャに迫力負けしている。

学園長はたじろぎながらも、アリーシャを宥な

めるように穏やかな声で言った。

「ま、まあいいんじゃない?」

「えぇ!?」

学園長は声の裏返ったアリーシャを落ち着かせるために、お茶を淹い

れて手渡した。

「はい。落ち着いて」

「あ、ありがとうございます……」

ズズズ、と音を立ててお茶を啜す

り、多少、冷静になったようだ。

「とりあえず……王宮に行かなきゃね」

「はい! 

今すぐお願いします!」

「アリーシャ先生……」

二人のやりとりを横で見ていたアレクには、アリーシャのいつもボサボサの金髪が、今日はさら

に乱れて見える。アレクの腕の中では、ユニコーンが眠たそうな顔をしていた。

「じゃあ、行きますか~」

うぅ、と小さく唸りながら学園長は立ち上がった。

そしてアレクのそばに行くと、瞬時にその場から消える。おそらく瞬間移動の魔法だろう。

残されたアリーシャは、心配と不安に押し潰つ

されそうだった。

◆ 

◆ 

学園長とアレクは、瞬間移動でトリティカーナ王国の城にある玉座の間に移動した。

突然現れた二人の姿に驚いて、メイドの一人が悲鳴を上げる。

そんなメイドを、片手を挙げて制する国王マストール。

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「おーい、マストール」

学園長は面倒くさそうに、玉座に深く腰をかける国王に声をかけた。

まるで珍しいものを見るような目で、国王は学園長を見る。

「お前がわざわざ王宮に出向くなんて……こりゃ槍でも降ってくるのか?」

「大事な用だしな……」

むすぅ、と頬を膨ふ

らませる学園長。

学園長と国王は仲が悪いらしいが、二人の間に何があったのかはアレクにはわからなかった。

しかし、今は学園長が少年の姿なので、むくれる様子は微笑ましく見える。

そこで国王が、アレクが抱えているものに気がついた。

「……それは?」

「ユ、ユニコーンです……」

アレクの腕に抱えられたユニコーンを、興味深く眺める国王。

「まさか、ユニコーンとはな……珍しい。私も初めて見たぞ」

すると声とともに、バタンッ! 

と勢いよく玉座の間の扉が開いた。

「父上ー! 

セバスチャンが口うるさくて……ん?」

そこに立っていたのは、茶髪に若草色の瞳をした、つり目の勝気そうな少年。アレクに気づき、

訝いぶか

しげに見ている。

「お待ちください! 

アマノス王子!」

続いて、執事とメイドがやってきた。

アレクは彼らの顔を見て、思わず泣きそうになる。そこには、懐かしい人達がいた。かつてムー

ンオルト家に仕えていた、執事長とメイド長だ。

アレクに気づいたメイド長は驚いた後、感極まって涙声で語りかける。

「アレク坊ちゃま……! 

お会いしたかったです!」

執事長とメイド長がアレクに駆け寄り、アレクは嬉しそうに二人を迎えた。

「二人とも……! 

元気そうでよかった! 

でも、どうしてここに?」

「いやあ、実は国王様にお声をかけていただきまして。私達はムーンオルト家を出て、ここで働か

せていただいているんです。他の使用人達も一緒ですよ」

「お元気そうで何よりです! 

アレク坊ちゃま!」

執事長とメイド長は目を潤う

ませ、その場が感動の雰囲気に包まれる。

しかし、その雰囲気をぶち壊しにする者がいた。

「セバスチャン! 

さっきも言ったが勉強なんかしないぞ! 

今日は鍛錬するんだ!」

大股で歩いてくる少年に、セバスチャン――執事長はため息をついた。

「アマノス王子……」

少年は、アマノス・ギルロ・トリティカーナという、この国の第二王子だ。彼は武道が得意で、

出会った人物に興味を持てば即座に勝負を申し込むことで有名である。

アマノスは執事長に言いたいことを言うと、今度はアレクをじっと見つめる。

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「コイツ……男か女かわかんないなぁ!」

「お、男だよっ!」

アレクはその言葉を聞いて悔しく思いながら言い返した。

メイド長はアマノスに、アレクを紹介する。

「アマノス王子。こちらは、アレク坊ちゃまです。元ムーンオルト家の一員であり、シルファ様の

婚約者。つまり、あなたの義理の弟となるお方です」

「弟だと~?」

アマノスにジロジロと見られ、アレクは気け

圧お

されて思わず身じろいだ。

すると、アレクの腕の中のユニコーンが不快そうな顔をして「ぴゅうっ!」と鳴いた。

アマノスは顔をしかめ、ぷいっとそっぽを向く。

「ふん! 

シルファの婚約者なんて断じて認めん! 

こんなひ弱そうな奴に妹は渡さんぞ!」

「う……」

「ひ弱」と言われて、アレクはさらに悔しさを募つ

らせた。

執事長が、今度はアレクにアマノスを紹介する。

「アレク坊ちゃま。こちらはアマノス・ギルロ・トリティカーナ王子。この国の第二王子です。お

話しした通り……将来、あなたの義理の兄となりますね」

「お、お義に

い兄様……か……」

ふと、アレクはガディのことを思い出した。

自分の兄であるガディと、義理の兄になるかもしれないアマノスの態度はあまりにも違う。

アマノスにはガディのような大人びた雰囲気はなく、悪ガキっぽい印象だ。

アマノスは「ふん!」と鼻息を荒くしながらアレクに向かって叫んだ。

「気に入らん! 

おい! 

アレクとかいったな!? 

お前、召喚獣はいるか!?」

「え? 

あ、はい……い、いますけど……」

「勝負だ!!」

「ええ!?」

戸惑うアレクにアマノスはビシッと人差し指を突きつけた。

「俺と勝負しろっ!! 

さもなくば――あいたっ!?」

「何をおっしゃるんですか」

執事長が、後ろからアマノスの頭を軽く叩いた。

それから呆気に取られるアレクを前にして、アマノスに諭さ

すように言う。

「いいですか? 

アレク坊ちゃまは、大事な用があって王宮に来たのです。決して遊ぶためではあ

りません」

「む、ううう……」

「召喚獣を、決してそんなお遊びに使いなさるな」

わかったか、と言わんばかりにギロリと睨に

まれて、アマノスは縮こまった。

「……わかった」

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21 20追い出されたら、何かと上手くいきまして2

ふてくされたように俯

うつむ

くアマノスを見ながら、国王は執事長に礼を言う。

「すまんな、セバスチャン。助かったよ」

「……いえ。これも、アマノス王子の教育係たる私の仕事です」

その言葉を聞いて、アレクは驚いた。

執事長はアマノスの教育係らしい。ムーンオルト家にいた時は、誰の教育係にもなっていなかっ

たため、執事長がアマノスに色々教えている光景を想像しようとしても難しかった。

執事長はくるりと振り向いて、アレクに深々と頭を下げる。

「すみません。アマノス王子はもう十五歳だというのに、このように子供でして……」

「何だとっ!?」

突っかかってきたアマノスに、執事長は大きくため息をつき、再び静かに声をかける。

「アマノス王子、大人になってください」

「はぁ!?」

「アレク様は、十一歳になられたばかりですよ」

「シルファより年下じゃん!!」

「ええ。年下なのに、大人びていますね」

「うぐっ」

アマノスは口でも執事長に勝てないと悟り、ブツブツと文句を言いながら引き下がる。

「……さて、フィース。本題に移ろうか」

国王の声で、しばらく成り行きを見守っていた学園長は玉座へ向き直った。

「ユニコーンは強大な力を持つ聖獣だ。一般人が飼育するのは、少々荷が重いと思うが……」

「アレク君はお前の息子になるんだぞ? 

つまり王族だ。だから大丈夫だろ」

学園長に発言を真っ向から否定されたが、国王は負けじと首を振る。

「いや、ユニコーンを金銭目当ての輩

やから

に攫さ

われたら……」

「だとしても、ユニコーンは強いし大丈夫だ。それに……もう刷り込み完了してるぞ?」

一番の問題はそれだった。ユニコーンは刷り込みが完了すると、親と認識した者と離れるのを嫌

がる。たとえ離したとしても、他者の言うことは全く聞かない。

国王と学園長のやりとりを聞いていたアマノスが、アレクが抱くユニコーンに近づいた。

「こんなもの、無理やり引き離せばよかろう!」

「あ、アマノス王子!」

ユニコーンに手を伸ばすアマノスを、メイド長が慌てて止めようとした。

しかし、時すでに遅し。

ガブリッ!

「いたぁーーー!?」

「ぴゅーっ!!」

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ユニコーンはアマノスの指に、歯を突き立てた。

アマノスが痛がってブンブンと手を振るが、しっかり噛みついて放そうとしない。

「やめて! 

ユニコーン!」

『親さま……』

アレクが制すると、ユニコーンはおとなしく指を噛むのをやめた。

アマノスは荒い息をしながら、ユニコーンを思い切り睨みつける。

「何て凶暴な奴だ!」

その言葉が気に入らなかったのか、ユニコーンは角をアマノスに向けて低い声で威い

嚇かく

する。

『うるさい……!! 

親さまとぼくを離ればなれにさせるなんて、許さない……!!』

アレクに止められなければ、お前なんてミンチにしてやる、と言わんばかりの表情である。

国王はユニコーンの態度を見て、大きくため息をついた。

「アレク君。ひとまず、ユニコーンを預かっておいてくれないか? 

ユニコーンは気き

性しょう

が荒い。下

手に近づけばただでは済まないだろう。アマノスのようにな」

その言葉を待っていたとばかりに、学園長が国王に言う。

「わかった。じゃあ、そういうことで」

「アレク君、シルファに会っていかな……」

「さよなら」

アレクが答える暇すら与えず、学園長は凄まじいスピードで瞬間移動で去っていった。

国王は盛大にため息をついた。学園長と良好な関係を結ぶのは難しそうである。

執事長とメイド長は、どうして二人がそこまで仲が悪いのかと疑問に思いつつ、その場を後に

した。

◆ 

◆ 

アレクは学園に戻った後、召喚獣達の部屋にユニコーンを置いてくるよう学園長に言われて、そ

の教室に来ていた。

アレクが来たことに気がついて、聖霊のクリアとフェンリルのリルが近づいてくる。

「珍しい子を連れているわね、どうしたの?」

「そいつは誰だ?」

『親さまっ、この人達は?』

「……えーっと」

三者から質問され、アレクはまず誰から紹介すればいいのかと迷った。

リルはユニコーンの発した言葉に引っかかりを覚えたらしい。

「『親さま』とはアレクのことか? 

まだ幼

おさな

子ご

のせいか、念話なのだな」

リルはユニコーンを見つめて、ふむふむと頷いた。

ユニコーンは興味深そうに、尻尾をパタパタと左右に動かす。

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25 24追い出されたら、何かと上手くいきまして2

「ふぅん、聖獣か……久しぶりに見たわ」

クリアはふわふわと浮かびながら、ユニコーンに手を伸ばした。

頭をそっと撫でると、ユニコーンはくすぐったそうに目を細める。

クリアを見ていて、アレクはふと出会った時のことを思い出す。クリアは「二百年待っていた」

と言っていたが、それほど長生きしていたということだろうか。

そんな長い間、闇に囚われながらどうやって生きていたのかと考えたところで、横からユニコー

ンがアレクの服の裾す

を引っ張った。

『親さま! 

この人達、誰? 

早く教えて!』

「ごめん……紹介がまだだったね」

すると、リルがユニコーンに向き直り自己紹介を始める。

「はじめまして、ユニコーン。私はリル。見ての通りフェンリルだ」

『リル、小さい?』

「……今はわ・ざ・と! 

小さくなっているだけだ」

リルは若干ムッとしたのか、「わざと」を強調して答えた。

召喚獣の部屋は広いが、小さい姿のほうが過ごしやすいので小さくなっている。

クリアはストンと地面に降り立って、ユニコーンに向かって軽く礼をした。

「はじめまして、私はクリア。氷の聖霊ね」

『よろしく!』

翼を軽くはためかせながら、ユニコーンは嬉しそうに返事をした。

リルが前足でアレクをつついて聞く。

「なあ、アレク。ユニコーンとは、まだ契約していないのか?」

「……あ」

すっかり忘れていた。召喚獣とするならば、名前を与えて契約しなければならない。

学園長には「アレク君の好きにしてもらって構わない」と言われたので、契約しても問題はない

はずだけど、とアレクはユニコーンに目を向けた。

「……ぴゅう?」

吸い込まれそうな青い瞳は、今もアレクにまっすぐ向いている。

小首を傾げるその姿は、愛らしい以外の何物でもなかった。

「名前……」

アレクは困って、じっとユニコーンを見つめる。

(……目、宝石みたいだ。まるで、サファイアのような……あ!)

アレクはその瞳を見て、パッと思いついた名前を口にした。

「君はサファ! 

これからよろしくね!」

『……サファ!』

自分の名前を呼び、ユニコーン――サファは嬉しそうに笑った。

ズズッと、リルやクリアの時と同じく大量の魔力がアレクから抜け出し、サファに吸い込まれる。

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27 26追い出されたら、何かと上手くいきまして2

これで契約完了だ。

『親さま、よろしく~!』

サファは元気にヒヒィンと鳴いて、翼をはためかせた。

第二話 双子、危機に遭遇する

ミーンミンミンミンミン……

「……ふぅ。街はやっぱり暑いね」

まだ朝であるにもかかわらず、容よ

赦しゃ

なく照りつける太陽に目をくらませながら、女性は微笑んだ。

闇色の髪と瞳をしており、頭部には猫耳が生えている。

「……あのバカ弟子どもが。何やってんだい」

フゥゥ~……と大きな息を吐く女性。

汗をタオルで拭ぬ

い、果物を出してかぶりついた。

「さて。久しぶりにバカ弟子どもに会いに行くとするか」

◆ 

◆ 

春から夏に季節が移り変わった影響で、学園の購買には冷たいものが増えた。

相変わらず賑やかなそこには、学園に通う銀髪の双子――ガディとエルルの姿もある。

ガディとエルルは、二人の友人とともに購買に並んでいた。

一人はアトラスという、ブラウンの髪に眼鏡をかけた少年。ガディとエルルがアレクの授業参観

を覗の

きに行った時、迎えに来た人物だ。

もう一人はマイナルという少女で、青い髪と瞳をした、英雄学園では珍しい平民の生徒である。

当然、マイナルには貴族にありがちな嫌味や権力意識などなく、そんな自然体な彼女と双子は馬

が合い、自然と行動をともにするようになった。

「エルル! 

今日は冷たーいものを食べようよ!」

「わかってないわね、マイナル。夏だからこそ汗を流すんでしょ? 

冷たいものはデザートだ

けよ」

そんな会話をしていたエルルは、突然寒気に襲われた。

「ッ!?」

「? 

どうしたの?」

急に顔色が悪くなったエルルを見て、不思議そうな顔をするマイナル。

「!?」

「え? 

ガディも?」

見れば、ガディも青ざめている。

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29 28追い出されたら、何かと上手くいきまして2

冷や汗をかき始める双子を見て、マイナルとアトラスは戸惑いを隠せない。

「いや……なぜかいきなり胃が痛くなっただけだ」

「気のせいかしら……異様に喉が渇か

くわ」

二人はそれぞれ違和感を覚える部位を押さえ、顔をしかめた。一方のアトラスは目を丸くして

いる。

「驚いた……まさか君らが、体の不調を訴えるなんて」

「アトラスは俺らを何だと思ってるんだ」

ガディはそう言うが、普段の様子から考えれば、アトラスの言葉はもっともだといえた。

マイナルが二人を心配して声をかける。

「どうする? 

胃が痛いのならお昼ご飯を食べるのやめたら? 

それか、せめて消化にいいもの

を……」

「いや、問題ない」

ガディとエルルは自動販売機に学生証を押し当てた。

自動販売機が淡く光った後、ボスンッという音とともに料理が落ちてくる。

この自動販売機は、学生証についているコードをかざすことで、物が買えるシステムになってい

る。金のチャージはそれ専用の機械で行うことができるという、今のところ英雄学園にしかない便

利な魔道具であった。学園長が開発したものらしい。

商品を注文し終わり、四人全員が自分達の座れる席を探す。

キョロキョロと辺りを見回すと、ガディとエルルはとある人物を見つけた。

「あれ? 

兄様、姉様?」

「「アレク!」」

二人はアレクを見つけて目を輝かせた。

豹ひょう

変へん

した双子を見て、アトラスとマイナルはいつものことながらやはり驚く。

「二人があんな態度になるなんて……!!」

「本当、溺で

愛あい

って凄いよね……」

一方、購買のカウンターでは、一人の女性が注文していた。

「あのー、草く

餅もち

一つ」

「お客さん……生徒じゃないなら、あっちじゃないと頼めませんぜ」

英雄学園の食堂や購買は一般にも開放されているが、部外者は専用カウンターに行く必要がある。

「ああ。悪い」

女性は冒険者風のボロボロの服を着ていて食堂ではやや浮いていたが、とにかく目を引くのはそ

の耳だ。猫耳だろうか、三角の耳がピコピコと動いている。

「? 

何だ? 

あの人……」

アレクと一緒に食堂に来ていたライアンが女性を見つけて、目をしばたたかせた。

――同じくその女性を見つけた双子は、猛烈な冷や汗をかいている。

だが、アレクは嬉しそうな顔をしていた。

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「た、体調不良の理由はこれだったのか……!!」

「に、逃げる、わよ……!!」

双子はこっそりその場を後にしようとした。が――

「おっと。逃げるなんていい度胸じゃないか」

まるでそこにいるのを最初からわかっていたかのごとく、ガシッと双子の襟え

首くび

を掴つ

む猫耳女性。

二人は悲痛な叫び声を上げた。

「「ギャアアアアアアッ!!」」

「出会い頭

がしら

に悲鳴なんて……師匠は寂さ

しいなぁ」

「し、師匠?」

戸惑うアトラス達に、女性は微笑んだ。

「はじめまして! 

私はこのバカ弟子達の師匠のクーヴェルだ!」

「ご、ごめんなさい師匠……その、逃げようとなんてしてないわよ?」

「ようエルル。相変わらず嘘が下手くそだな。せめて笑い方は気をつけようぜ?」

クーヴェルと名乗った女性に指摘され、焦るエルル。どうやら頬が引きつっていたらしい。

すると、アレクが嬉しそうにクーヴェルに抱きついた。

「お師匠様!! 

会いたかった!!」

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