(第 3 種郵便物認可) ( 12 ) 2017 年(平成 29 年)7 月 1 8 日(火曜日) 1.商品内容の変遷家計地震保険制度は、新潟地震(1964年)を契機に創設された。当初は、保険制度として成り立つことが困難な地震リスクを保険商品化するために、損害区分(全損のみ担保)、付保割合(30 %)、引受限度額(建物90 万円、家財60 万円)など、多くの制約のもとで発足したが、大規模地震の被災経験や教訓、消費者の声などを踏まえ、現在の姿に至るまでに制度の見直しが重ねられ、多くの拡充が図られた(図表1)。主な改定としては、宮城県沖地震(1978年)を契機とした、半損の導入、付保割合の拡充(30 ~50 %)、引受限度額の引き上げ(建物1000万円、家財500万円)などの見直し(1980年)、千葉県東方沖地震(1987年)や伊豆半島東方沖群発地震(1989年)などを契機とした一部損の導入(1991年)などが挙げられる。さらに、783億円の保険金が支払われた阪神・淡路大震災(1995年)を契機に、家財・半損の保険金支払割合の引き上げ(10 %→50 %)、引受限度額の引き上げ(建物5000万円、家財1000万円)が行われた(1996年)。最近では、東日本大震災(2011年)を契機に制度の見直しが行われた。震災後約3か月間で1兆円を超える保険金が支払われ、地震保険の制度目的である「被災者の生活の安定に寄与する」という役割を果たすことができた一方で、巨額の保険金支払いにより準備金残高が大幅に減少する中、今後起こり得る首都直下地震や南海トラフ巨大地震等の大規模地震を想定した地震保険制度の信頼性・強靭性に対する懸念が生まれた。また、地震保険の商品性に関するさまざまな意見が寄せられた。そのような状況の中、財務省に地震保険制度に関するプロジェクトチーム(以下「財務省PT」という)が設置され(2012年4月)、「地震保険制度に関するプロジェクトチーム報告書」(2012年11 月30 日、以下「財務省PTの報告書」という)が取りまとめられた。この報告書では、地震保険制度の役割と官民負担の在り方が今日的観点からまとめられ、また、制度の強靭性については喫緊の課題とし、地震保険の商品性および地震保険料率については、震源モデルの改定と併せ、速やかに対応すべき課題とされた。商品性に関する課題は引き続き、財務省PTのフォローアップ会合(2013年11 月設置)において検討が行われ、方向性が取りまとめられた(2015年6月24 日)。地震保険の保険金額に対する保険金の支払割合は、査定の迅速性、公平性を確保するために、実際の損害額によらず、損害区分に応じて保険金を支払う仕組みであり、当時は全損(支払割合100%)、半損(同50 %)、一部損(同5%)の3区分であった。この点について、財務省PTの委員から、わずかな損害の差で一部損と半損の支払い保険金に大きな格差が生じることに対し、不満の声が寄せられているとの意見があった。そこで、損害区分の細分化について検討が行われ、従来の半損を大半損(支払割合60 %)と小半損(同30 %)に分割し、3区分から4区分に細分化する改定が行われた(2017年1月1日実施)。2.再保険スキームの変遷(官民責任割合・総支払限度額)地震リスクは、保険制度の前提である大数の法則が働きにくい。このため、地震保険は、将来の地震保険金の支払いに備え、政府が再保険を引き受け、その対価である再保険料を責任準備金として地震再保険特別会計に積み立てるとともに、民間保険会社も、他の保険の保険金支払いに支障を及ぼさない範囲内で再保険を一部引き受け、再保険料を積み立てることによって成り立っている。ただし、政府の負担力にも限界があることから、1地震当たりの支払保険金の上限(総支払限度額)があらかじめ定められている。制度創設当初3000億円であった総支払限度額は、制度拡充等による保有リスクの増大に伴い随時引き上げられてきたが、普及が急速に進んだ阪神・淡路大震災後に一つの転機を迎えた。阪神・淡路大震災の保険金支払いにより、民間の危険準備金が減少する一方で、総支払限度額の引き上げに伴う民間の保険責任額の増加により、危険準備金残高の不足が増大していくことになった。このような状況を踏まえ再保険スキームが見直され、民間の保険責任額は、危険準備金残高を基準に設定することとされた。その後、東日本大震災の発生により、再度大きな転機を迎えた。東日本大震災の保険金支払い等により、民間の危険準備金の積立不足額は7800億円までに拡大した。しかし、民間の保険責任額は、保険金の支払いに伴い危険準備金が減少しても、自動的に軽減されない仕組みになっており、震災直後に連続地震が発生した場合に、民間が巨額の損失を被るリスクが顕在化することになった。このような状況に対し、財務省PTの報告書において制度の強靭性に関する検討が喫緊の課題とされたことを踏まえ、2013年度の再保険スキーム見直しでは、1地震当たりの民間の保険責任額を危険準備金残高よりも低く設定し、巨大地震の発生により危険準備金が減少しても、次の巨大地震に対応できるよう保険金の支払能力に余力を持たせる制度が導入された。この見直しは、民間の危険準備金残高を超える保険責任の解消のみならず、連続地震発生時における過大な保険責任の負担を回避するものであり、制度の強靭性、信頼性に大きく寄与するものになった。その後、政府の地震調査研究推進本部による確率論的地震動予測地図の見直しや、地震保険の普及拡大を踏まえた総支払限度額の見直しが行われ、現在では11 兆3000億円(2016年4月以降)となっている。3.加入状況の変遷(付帯率・世帯加入率)地震保険は、制度創設当初、逆選択性を排除するために住宅総合保険などの火災保険に自動付帯されたが、半損導入などの補償充実による保険料負担の増大を踏まえ、契約者に特別の事情のある場合には付帯しないことができる、いわゆる原則自動付帯となった(1980年)。その後、世帯加入率は伸び悩んだが、阪神・淡路大震災を契機に普及拡大の必要性が唱えられ、地震保険の危険準備金運用益を活用した広報活動や2006年度税制改正における地震保険料控除制度の導入など、一層の普及促進に向けた取り組みが進められた。財務省PTフォローアップ会合では、東日本大震災で問題となった二重ローン問題への対策という観点での加入促進や、加入率が低いマンション共用部分や家財の補償の加入促進の必要性が指摘されており、業界では、住宅ローン債務者やマンションの管理組合・居住者に対する地震保険の必要性の訴求や、家財の付保の推奨などに取り組んでいる。そして、制度創設(1966年)から50 年を迎えた2016年には、地震保険制度のこれまでの歩みを振り返り、補償の必要性を再確認した「50 周年記念フォーラム」を開催、この他、代理店向けのセミナー開催や地震保険特設サイトを通じた情報発信(文末URL参照)により、地震リスクの意識向上や補償の必要性の訴求に取り組んだ。直近では、世帯加入率は約3割、付帯率は約6割に達している(図表2)。地震国である日本は、全国どこでも地震によって大きな被害が発生する可能性がある。巨大・広範囲の被害が予想される首都直下地震や南海トラフ巨大地震の発生が懸念される中、日本損害保険協会は、国民の安心・安全に寄与するため、地震保険の一層の普及促進により、被災者の生活再建に貢献していく所存である。(つづく)◇▽地震保険特設サイト:http://www.jishin-hoken.jp/▽市区別の地震保険付帯率・都道府県別の住宅に関する統計データ等:http://www.jishin-hoken.jp/reference.html#/3【文責:日本損害保険協会】本特集では、日本損害保険協会が創立100周年にあたり刊行した「日本損害保険協会百年史」をもとに、同協会の歩みを紹介している。前回の第8回では、損害保険業界の巨大な地震災害への対応として、迅速かつ適正な保険金支払いのための取り組みを振り返った。第9回の今回は、家計地震保険制度が、創設以来どのような変遷をたどり拡充されてきたのか、「商品内容」「再保険スキーム」「加入状況」の3つの観点から概観する。損保協会作成の記念ロゴ 特集損保協会~100年のあゆみ~巨大な地震災害への対応②―大規模地震の被災経験と地震保険制度の拡充―【第9回】 図表1 地震保険制度の変遷 図表2 地震保険の普及推移 (万件) 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 (%) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (年度) 14 68 70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 02 04 06 08 10 12 2000 1966 1966 年 6月1日 1980 年 7月1日 1991 年 4月1日 1996 年 1月1日 2017 年 1月1日 地震保険に関する法律の施行 付保割合 :30% 引受限度額:建物 90 万円、家財60 万円 損害区分 :全損のみ(支払割合100%) 付保割合 :30 ~ 50% 引受限度額:建物 1,000 万円、家財500 万円 損害区分 :全損(100%)、半損(建物50%、家財10%) 付保割合 :30 ~ 50% 引受限度額:建物 1,000 万円、家財500 万円 損害区分 :全損(100%)、 半損(建物50%、家財10%)、一部損(5%) 付保割合 :30 ~ 50% 引受限度額:建物 5,000 万円、家財1,000 万円 損害区分 :全損(100%)、半損(50%)、一部損(5%) 付保割合 :30 ~ 50% 引受限度額:建物 5,000 万円、家財1,000 万円 損害区分 :全損(100%)、大半損(60%)、小半損(30%)、一部損(5%) 1964 年 新潟地震 (注)下線部は改定内容を示す。 (注1)世帯加入率とは、当該年度末の地震保険の契約件数を当該年度末の住民基本台帳に基づく世帯数で除 した数値をいう。ただし、2013年度以降は、当該年度末の地震保険契約件数を翌年1月1日時点の住民 基本台帳に基づく世帯数で除した数値をいう。なお、2012年度以降の世帯数には、2012年 7月9日から 住民基本台帳の適用対象となった外国人を含む。 (注2)付帯率とは、当該年度中に契約された火災保険契約(住宅物件)に地震保険が付帯されている割合を いう。 出典:損害保険料率算出機構資料 1978 年 宮城県沖地震 1995 年 阪神・淡路大震災 2011 年 東日本大震災 1987 年 千葉県東方沖地震 1989 年 伊豆半島東方沖群発地震 証券件数世帯加入率・付帯率証券件数 世帯加入率 付帯率