河川地形学的視点から見た玄倉川キャンプ水難事故

河川地形学的視点から見河川地形学的視点から見た玄倉川キャンプ水難事た玄倉川キャンプ水難事故故

－現地見学会報告と提言－－現地見学会報告と提言－

東京大学生産技術研究所 (IIS) 　第五部虫明・沖研

安形康 AGATA, Yasushi

[email protected]

　学芸大自然史ゼミ発表安形康

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事故の背景事故の背景 [1][1]

19991999 年年 88 月月 1313 日～日～ 1414 日　日　 (( お盆休お盆休みみ ))

多くの人がキャンプに多くの人がキャンプに「弱い熱帯低気圧」「弱い熱帯低気圧」 (( 当時の呼称当時の呼称 )) 通過通過関東地方に大雨関東地方に大雨


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事故の背景事故の背景 [2][2] 酒匂川水系・丹沢湖酒匂川水系・丹沢湖 (( 三保ダム三保ダム )) 周辺にも大勢周辺にも大勢

のキャンプ客のキャンプ客首都圏・横浜から近い首都圏・横浜から近い車で容易に来られる車で容易に来られる三保ダム流域内の玄倉三保ダム流域内の玄倉 (( クロクラクロクラ )) 川，ダム川，ダム

バックウォーターすぐ上の河川敷でもバックウォーターすぐ上の河川敷でも 2121 名名がキャンプがキャンプ

玄倉川には発電用の堰がある．最大玄倉川には発電用の堰がある．最大 22t/sect/sec 取取水して事故現場すぐ下流の発電所へ送水．水して事故現場すぐ下流の発電所へ送水．


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事故の概要事故の概要 [1][1]

88 月月 1313 日日 1515 時から降り始め時から降り始め 1313 日時より玄倉ダム放流開始→サイレ日時より玄倉ダム放流開始→サイレ

ン鳴動ン鳴動 2020 時にダム職員が警告→時にダム職員が警告→ 2121 名は残る名は残る雨は一度やむ．大して水位は上がらず雨は一度やむ．大して水位は上がらず 1414 日日 0202 時より降雨再開．時より降雨再開． 0606 時から強時から強

くなる．ダム職員再度警告→くなる．ダム職員再度警告→ 1818 名なお名なおも残るも残る


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事故の概要事故の概要 [2][2]

1414 日日 0707 時より降雨激しくなる時より降雨激しくなる(>20(>20mm/h)mm/h)

1414 日日 0808 時玄倉川ダム本格放流開始時玄倉川ダム本格放流開始警官が警告→無視警官が警告→無視キャンプ地の両側に激しい流れ→戻れなキャンプ地の両側に激しい流れ→戻れな

くなるくなる 08:3008:30 通報，レスキュー隊到着するも，通報，レスキュー隊到着するも，

手出し不可能手出し不可能


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事故の概要事故の概要 [3][3] 警察，玄倉川ダムに放流中止要請警察，玄倉川ダムに放流中止要請そんなことは不可能なダムであった→そんなことは不可能なダムであった→

1111 時に一度中止するも時に一度中止するも 55 分で再開分で再開 1111 時時 3838 分，分， 1818 名が流される→名が流される→ 11 名名

(( 赤ちゃん赤ちゃん )) はすぐ救助，はすぐ救助， 44 名は対岸の名は対岸の岩場にすがりつく→後に救助岩場にすがりつく→後に救助

1313 名は後日ダム湖で遺体発見名は後日ダム湖で遺体発見累計降雨は累計降雨は 349349mm(29mm(29 時間時間 ))


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位置位置 [1][1] 酒匂川水系酒匂川水系三保ダム三保ダム

流域：流域：流域面積流域面積158.5158.5kmkm22


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三保ダム三保ダム貯水容量約貯水容量約 4.4.

55 ＊＊ 101077mm33

酒匂川総合開酒匂川総合開発発

世附川・中川世附川・中川川・川・玄倉川玄倉川のの33 支流から水支流から水を集めるを集める


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位置位置 [2][2] 三保ダム流域三保ダム流域

玄倉川：玄倉川：流域面積＝流域面積＝ 337.57.5kmkm22

途中に途中に玄倉「ダム」玄倉「ダム」

ダム湖背水直ダム湖背水直上で事故発生上で事故発生

玄倉ダムは事故現場すぐ上流でないことに注意！ (誤報道あり )

55kmkm


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位置位置 [3][3] 事故現場事故現場

三保ダムバック三保ダムバックウォーターウォーター (( 背水背水 ))直上直上

すぐ下流に古い砂すぐ下流に古い砂防ダム「立間堰防ダム「立間堰堤」堤」 ((段差段差 77mm くくらいらい )) と水位観測と水位観測所所

右岸は急峻右岸は急峻な攻撃斜面な攻撃斜面

右岸上流で右岸上流で支流合流→支流合流→沖積錐形成沖積錐形成


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現地視察会現地視察会

河川環境管理財団のプロジェクト河川環境管理財団のプロジェクトhttp://www.kasen.or.jp/http://www.kasen.or.jp/

水文・砂防関係者約水文・砂防関係者約 2020 名集合名集合 20002000 年年 11 月月 22-2322-23 日日昼間視察・夜討論昼間視察・夜討論

水文学者・河川工学者・河川管理者として水文学者・河川工学者・河川管理者としてどのような河川「政策」をとれるか？どのような河川「政策」をとれるか？


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事故現場視察事故現場視察 [1][1] 現場＝砂防ダム現場＝砂防ダム

すぐ上の堆砂地．すぐ上の堆砂地．砂防ダムには水位砂防ダムには水位観測所が付属観測所が付属


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事故現場視察事故現場視察 [2][2]

キャンプ地は中央．両側より高い．砂が目立つキャンプ地は中央．両側より高い．砂が目立つ視察時の流れは左岸側視察時の流れは左岸側

((左岸から右岸を写左岸から右岸を写すす ))


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事故現場視察会事故現場視察会 [3][3]

現場入り口には現場入り口には増水注意を呼び増水注意を呼びかける看板があかける看板がある．る．


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右岸にも流れの跡→増水時には強い流れに右岸にも流れの跡→増水時には強い流れにはさまれる→中央は危険はさまれる→中央は危険

((右岸から左岸を写右岸から左岸を写すす ))


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最大粒径最大粒径 7070cmcm ( (ごく稀ごく稀 )) ，パッと見には，パッと見には 1515cmcm程度→流れが強そうには見えない程度→流れが強そうには見えない

危険をどうやって読むか？危険をどうやって読むか？

((左岸から右岸を写左岸から右岸を写すす ))


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どれくらいの雨だったかどれくらいの雨だったか

総雨量総雨量 349349mm(29mm(29 時間時間 )) 11 年に年に 1,21,2回おきる程度の「普通の」雨回おきる程度の「普通の」雨ただし初期報道では「未曾有の大雨」ただし初期報道では「未曾有の大雨」

「こんな雨は初めて」という証言があった「こんな雨は初めて」という証言があったらしい．らしい．

とりあえず報道は速報としてだけ見ようとりあえず報道は速報としてだけ見よう


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どれくらいの洪水だったかどれくらいの洪水だったか

最大洪水比流量最大洪水比流量 ((単位流域面積あたり単位流域面積あたりの流量の流量 )) はは 3.93.9mm33/s/km/s/km22 で，「よくあで，「よくある値」る値」

立間堰堤での最高水位は立間堰堤での最高水位は 1.951.95mm(( 普段は普段は 0.150.15mm 程度程度 ))

22mm は水が上がるとして，ではそれをは水が上がるとして，ではそれを示すような印は河床・側岸に見つかる示すような印は河床・側岸に見つかるか？か？


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事故現場視察事故現場視察 [6][6]谷壁の着色谷壁の着色 ((洪水洪水線線 )) や残存物を探索や残存物を探索→見つからず→見つからず

洪水の痕跡洪水の痕跡 (( 最高最高水位の指標水位の指標 )) は？は？

((右岸を写す右岸を写す ))


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3030mm ほど上流，右ほど上流，右岸支流の作る沖積岸支流の作る沖積錐の本流性侵食錐の本流性侵食

水位指標発見水位指標発見


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事故現場視察事故現場視察 [8][8]右岸にも強い流れ右岸にも強い流れ

が来ることが来ること水位がキャンプ地水位がキャンプ地

よりより 1.51.5mm は高くは高くなることなること

右岸沖積錐の侵食は右岸沖積錐の侵食は……

を示すを示す

地形屋なら間違いなく一目で分かる，が…地形屋なら間違いなく一目で分かる，が…


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上流の観察上流の観察 [1][1]

急峻な渓谷急峻な渓谷本来の粒径は本来の粒径は11mm 以上→キャンプ以上→キャンプ地は「人工」地形地は「人工」地形


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上流の観察上流の観察 [2][2]

急斜面に堆積した急斜面に堆積した大量の土砂大量の土砂(1972(1972 年災害のものかど年災害のものかどうかは不明うかは不明 ))

土砂生産が多い川土砂生産が多い川下流部＝結晶片岩，下流部＝結晶片岩，

上流部＝花崗岩類上流部＝花崗岩類


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玄倉ダム玄倉ダム [1][1]

事故現場から事故現場から 44kmkm 上流上流幅幅 3030mm 弱のゴルジュを弱のゴルジュをせき止める堰せき止める堰


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玄倉ダム玄倉ダム [2][2] 発電用→洪水防御発電用→洪水防御機能なし機能なし (( 不可能不可能 ))

貯水容量貯水容量約約 42,00042,000mm33

→→ 当時の洪水なら，当時の洪水なら，

77 分で一杯分で一杯


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玄倉ダム玄倉ダム [3][3] ダム上流もゴルジュダム上流もゴルジュ

→流量調節能力小さ→流量調節能力小さいい


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教訓教訓 [1][1] 川のキャンプ＝車でアプローチ可能・礫が大き川のキャンプ＝車でアプローチ可能・礫が大き

くない・スペースが広いくない・スペースが広い etc.etc.→→砂防ダム上が砂防ダム上が選択されるのでは？選択されるのでは？　　　　　　　そういう場所では…　　　　　　　そういう場所では…

流路変更が盛んで，礫が小さい流路変更が盛んで，礫が小さい中州が中州に見えない中州が中州に見えない側壁に洪水痕跡が残りにくい側壁に洪水痕跡が残りにくいキャンプ指南書にある「危険の読み方」は無力キャンプ指南書にある「危険の読み方」は無力

新しい「危険の読み方」を提示せよ新しい「危険の読み方」を提示せよ


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可能性可能性

従来の指標＝「堆積性」従来の指標＝「堆積性」 ((溜まる・残る溜まる・残るetc.)etc.)

今回見出した指標＝「侵食性」今回見出した指標＝「侵食性」 ((削れる削れる ))→→今まで指摘なし．広める必要性今まで指摘なし．広める必要性

ただし沖積錐のような堆積地形がないとただし沖積錐のような堆積地形がないとアウト→玄倉川なら通用するが…アウト→玄倉川なら通用するが…

可能性：キャンプ適地→土砂流出大可能性：キャンプ適地→土砂流出大→侵食性指標多→侵食性指標多


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今後調べるべき事項今後調べるべき事項どのような河川がキャンパーに多く利用どのような河川がキャンパーに多く利用

されるか？されるか？ ((土砂生産・勾配土砂生産・勾配 etc.etc. のの河川地形の目から観察河川地形の目から観察 ))

実際の川では，どのような場所でキャン実際の川では，どのような場所でキャンプが行われているのか？プが行われているのか？

そのような場所－人工的かもしれない－そのような場所－人工的かもしれない－での危険の読み方は？での危険の読み方は？→多くの現地調査が必要→多くの現地調査が必要


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余談余談 [1][1] 　古水文学との関連　古水文学との関連古水文学古水文学 ((palaeohydrology)palaeohydrology) ：：過去の過去の

水文環境の復元水文環境の復元地形学は重要な手法地形学は重要な手法クラシックな手法→段丘の堆積クラシックな手法→段丘の堆積 // 侵食侵食

サイクルの解析［侵食地形の利用］サイクルの解析［侵食地形の利用］新しい手法→新しい手法→ SWDSWD など，側壁に残ったなど，側壁に残った堆積物の利用堆積物の利用 [[堆積地形の地用堆積地形の地用 ]]


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余談余談 [2][2] 一見の価値ある現象一見の価値ある現象

事故現場から事故現場から11kmkm 強上流強上流

結晶片岩の岩壁結晶片岩の岩壁何かおかしくな何かおかしくな

いか？いか？


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余談余談 [2][2] 岩壁の真中，結晶岩壁の真中，結晶片岩の割れ目から片岩の割れ目から大量に湧く水がある大量に湧く水がある

名水本には名水本には「ユーシン渓谷湧水」「ユーシン渓谷湧水」として紹介されるが，として紹介されるが，実際には小川谷入口に実際には小川谷入口にあるある


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余談余談 22 －続－続 3030l/secl/sec くらいくらい水温・水量の変動は水温・水量の変動は小さい小さい (( らしいらしい ))

もとの状態は？もとの状態は？


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余談余談 [3][3] 　土砂災害と樹木　土砂災害と樹木 19721972 年の豪雨災害年の豪雨災害「土砂崩れ」が巨樹「土砂崩れ」が巨樹

「箒杉」で止まった「箒杉」で止まったというという

河川地形学的視点から見た玄倉川キャンプ水難事故

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