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信頼性工学
千葉大学 工学部 都市環境システム学科岡野 創
http://okano-lab.tu.chiba-u.ac.jp/Shinraisei/
第10回2017.12.12
講義予定
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(1) 2017年10月 3日(火) 信頼性と信頼性工学(イントロダクション)Y(2) 2017年10月10日(火) 信頼性解析の基礎数理1(確率論の基礎)Y(3) 2017年10月17日(火) 信頼性解析の基礎数理2(信頼性の基本量)Y(4) 2017年10月24日(火) 信頼性解析の基礎数理3(故障率と確率分布)O(5) 2017年11月 7日(火) データの統計解析1(統計データ処理)Y(6) 2017年11月14日(火) データの統計解析2(最尤法と確率紙)Y(7) 2017年11月21日(火)データの統計解析3/システムの信頼性1 O(8) 2017年11月28日(火) 中間試験 Y(9) 2017年12月 5日(火) システムの信頼性2(一般システムと信頼性設計) O(10) 2017年12月12日(火) 故障モードの同定(FMEA, FTA, ETA) O(11) 2017年12月19日(火) 構造物の信頼性工学1(破壊確率と信頼性指標) O(12) 2018年 1月 9日(火) 構造物の信頼性工学2/ベイズの定理 O(13) 2018年 1月16日(火) ベイズ推定 O(14) 2018年 1月23日(火) モンテカルロ法 O(15) 2018年 1月30日(火) 期末試験 O
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5.故障(破損)モードの同定
5.1 FMEA/FMECA5.2 FTA/ETA
システム信頼性を評価するためには,カットセットに対応する故障(破損)モードを見つけ出す必要があるが,実際にどのような故障モードが起こり,どの故障モードが致命的であるかを知るのは容易ではない。
どのような故障モードが起こり,どの故障モードが致命的であるか,系統的に同定する方法が必要となる.
FMEA/FMECA と FTA/ETA
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頂上事象
基本事象
定量的定性的
FTA ETAFMEA/FMECA
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5.1 FMEA/FMECA
FMECA(故障モードと影響および致命度解析,failure mode, effect and criticality analysis)FMEA をさらに進めて,破損モードの起こり易さやその影響の度合いをより詳細に評価する方法.
(致命度の評価をFMEAに加えたもの)
FMEA(故障モードと影響解析,failure mode and effect analysis)サブシステムの破損モードの生起によって,システムに
どのような影響が現れるかを組織的に評価する方法.
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FMEA/FMECA の実施手順の例
1. システムの機能(達成すべき使命)を明らかにする.
2. 故障の定義を明らかにする.
3. システムの構造,すなわち,システムを構成するサブシステム,コンポーネント,パーツを明確にする.
4. 各構成要素の故障モードとその原因を列挙する.
5. 故障モードの生起によるシステムへの影響を吟味する.
6. 故障の生起確率や影響の度合いを検討する.
7. 故障防止,あるいは軽減対策を立てる.
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FMEA解析の例 大型舶用スターリングエンジン
エンジン全体を構成品に分割し,起こりうる故障とその原因を考える(表1:次頁).その故障が構成品およびエンジン全体へ与える影響を考え,影響度の点数(表2)を記入.発生頻度(表3)を考え,故障等級(=影響度×発生頻度)を計算.
このような方法で解析すると,故障等級が高い構成品(部品)ほど,信頼性が低いことを表している。例えば,故障等級30以上を「要注意(再設計)」とすれば,影響度を減らすか,あるいは発生頻度を減らすような設計が必要になることとなる。
表2 影響度の評価点数
表3 発生頻度の評価点数
http://www.nmri.go.jp/eng/khirata/design/ch10/ch10_01.html
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表1 FMEA解析シートの例 大型舶用スターリングエンジン
故障等級(=影響度×発生頻度)
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FMECAの実施例(航空機の部品)
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FMECAの各項目の記入方法(1)
1. 部品名,部品の機能:対象システム名,部品名,部品の機能を記入する.
2. 故障または誤操作モード:考えられるハードウエアの故障モードおよび誤操作のモードを別々に記入する.
3. 原因:各モードについて考えられる原因を列挙する.
4. 運用状態:システムがどのような運用状態の場合に当該故障が起こり得るかを記入する.
5. システムへの影響:各故障によって生じる影響を詳細に記入する.
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FMECAの各項目の記入方法(2)
6. 致命度:各故障の致命度を分類記号によって記入する.クラス1:安全(safe) – 当該故障がシステムの主要機能を低下させたり,人命に影
響を及ぼすには至らない.
クラス2:限界(marginal) – 当該故障がシステム機能の低下をもたらすが,重大な損害または人体への損傷に結びつくことなくコントロールすることが可能である.
クラス3:致命(critical) – システムに重大な損害もしくは人命への危険につながるので直ちに処置が必要である.
クラス4:破局(catastrophic) – システム機能の停止もしくは人命の損失を伴う.
7. 発進の可否:当該故障が発生した場合,そのままの状態でシステム(この例の場合は航空機)が発進可能か否かをYes, No で記入する.
8. 識別およぶ処置:故障の表示や処置に関して表題部に書かれた各事項について記入する.
9.故障の波及:故障が更に他の故障に波及するおそれがないかを記入する. 12
FTA(故障の木解析,fault tree analysis) 故障(破損)のメカニズムを階層的に表現する方法.
対象とするシステムの破損を頂上事象として,それに関する下位事象を“AND” あるいは“OR” の論理で結合して
いく.(トップダウン解析手法 )
下位事象について同様な操作を繰り返し,それ以上展開することができない基本事象に到るまで続けていく.
基本事象の確率値を定めると,頂上事象の確率が求まる.
5.2 FTA/ETA
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例1) 電気回路のFT top event
basic event
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FTAに用いられる記号
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FTAとシステム構造関数要素の状態指標変数ai
要素状態ベクトル
システムの状態指標変数
システム構造関数
FTAでは故障確率を計算するので,基本事象は故障となる.
が発生していない 基本事象
が発生している 基本事象
ii
ai 01
Tnaaa ),,,( 21 a
)(aSa (4.13)
(4.12)
いない 頂上事象が発生して
いる 頂上事象が発生して
01
Sa
指標変数aiを0または1の値をとる確率変数Aiで表すと
要素の不信頼度は
システムの不信頼度は
1ii APF 1SS APF
(4.19’)
(4.20’)
OR
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FTAとシステム構造関数(2)システム構造関数はシステムの内部構造を表す.
ANDゲート(並列システム) ORゲート(直列システム)
)(AEFS )(AEFS(4.14’)(4.16’)
T
AND
A1 A2 An. . . A1 A2 An
. . .
T
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電池
- +
スイッチ電球
電線
スイッチ電球 電池 電線
電球が点灯しない
電球切れ
電流が流れない
断線電池切れ
スイッチ開放
直列ブロック図とFT図の関係信頼度
不信頼度
0.9 0.95 0.8 0.99
0.1 0.05 0.2 0.01
0.010.2 0.05
0.1
構造関数を用いたORゲートの不信頼度:
Fs1=0.2476
Fs=信頼度は Rs= 1- Fs=
0.323
OR
OR
直列システムとして解析すると
SR
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並列ブロック図とFT図の関係
0.050.05
0.1
ANDゲートの不信頼度:
Fs1=
0.0025
信頼度は Rs= 1- Fs=
電池1
- +
電球
- +
電池2
電線は正常信頼度
不信頼度
0.9
0.95
0.1
0.05電球
電池1
電池2
電球が点灯しない
電球切れ
電池切れ
電池1切れ
電池2切れ
AND
OR
ORゲートの不信頼度:
Fs=
0.898
0.95
0.05
直・並列システムとして解析すると
SR
セミナー開催不能となるFTA
19http://www.geocities.jp/takaro_u/fta.html1日/年間稼働日数=1日/260日=4×10-3 20
ETA(事象の木解析,event tree analysis)損失の発端となる事象(初期事象)を出発点として,それが拡大していく過程を様々な現象の発生有無によって枝分かれしたイベントツリー(ET)を作成して解析するもの
FTA: 頂上事象(結果)複数の基本事象(原因)ETA: 1つの基本事象(原因) 頂上事象(結果)
低頻度高インパクトの事故について,シナリオ分析する場合に用いる.
ツリーに初期事象の発生頻度と事象の分岐確率を与えることにより,中間あるいは末端に現われる種々の損失事象がどの程度の頻度で起こりうるかを算出.
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電気回路のETと生起確率
電池
- +
スイッチ電球
電球をつけようとする
正常
故障
電球
電池
正常
故障
正常
故障
正常
故障
正常
故障
正常
故障
正常
故障
スイッチ 結果(点灯するか)
0.9
0.95
0.85 P=0.9x0.95x0.85=0.727
N段階の分岐に対し,2N通りの経路がある
確率は簡単に積事象で計算できる※電線は正常とする
直列システムとして解析すると
0.85
0.950.9
RP
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電気回路のETと生起確率(2)
電池
- +
スイッチ1
電球
※電線は正常とする
電球をつけようとする
正常
故障
電球
電池
正常
故障
正常
故障
正常
スイッチ1結果(点灯するか)
0.9
0.95
P=0.9x0.95x0.85x0.85スイッチ2
故障
スイッチ2
0.85
正常
故障0.85
正常
故障0.85
正常
故障0.85
(以下割愛)
正常
故障
0.85
0.01
0.15 P=0.9x0.95x0.85x0.15
P=0.9x0.95x0.15x0.85
ΣP=0.836
スイッチを並列にしたら?
並・直システムとして解析すると
R
23http://www.tg-inet.co.jp/financial/products/opr.htm
=0.0036
=0.004
=0.04
ガス漏れの
発生確率p
ガス爆発の発生確率= =0.0476p
ガス爆発事故のETの一例
換気不十分ガス漏れ
事故発生せず
事故発生せず
事故発生せず
事故発生せず
事故発生せず異臭を検出
ガス供給停止成功
ガス爆発p1=0.1x0.5x0.9x0.1x0.8
ガス爆発p2=0.1x0.5x0.1x0.8
ガス爆発p3=
不注意で再度ガス供給
着火源が存在
yes
no
0.1
0.9
0.1
0.9
0.5
0.8
0.5
0.8
0.8
0.2
0.2
0.2
0.9
0.1
着火源が存在
着火源が存在
結果
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新型インフルエンザの感染シナリオ
東田ほか,2010地域安全学会論文集
3020.0150
45.0015.0150
045.00015.0150 60100004.0000,1500
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タイタニック号事故の概要
https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj1965/56/2/56_174/_pdf26
タイタニック号は1912年4月10日 予定より約1ヶ月遅れて処女航海に向けて多数の著名人を乗せて出航した。1ヶ月前の3月中旬に出航していれば、流氷の量は少なく氷山との衝突事故の発生確率は少であったと言われている。次に、出航日においても予定より出航時刻が1時間遅れた。もし出来事の発生が全て1時間早まっていたならば、衝突後救難無線を発した時刻が夜中の12時前になり、すみやかに周辺に存在していた船舶が救助に駆けつけることができたと言われている。
出航後、流氷原が行く手の海域に存在するという警告を他船から無線で受信していたが、船長はそれほど深刻には受け止めていなかった。航海中も流氷原があるという警告を更に受けるが、速力を減速することなく高速(20.5ノット)で航行を続けた。
やがて午後11:40に氷山に衝突するが、氷山発見は衝突の約450m手前であった。この夜は月齢26.1の新月に近い暗闇であった事と、珍しいほどの無風で鏡の様な海面で氷山の周囲に白波が全く立っていなかったことも発見が遅れた要因であった。更に、見張り員が双眼鏡無しで見張り台に立っていた。ただし、この夜の条件では双眼鏡があったとしても、より早期の氷山の発見は無理であったとの意見もある。
氷山の発見後、回避行動をとるが船腹をなでる様に氷山をかすめて通り、そのため却って船体の多数区画の損傷によって多量の浸水をもたらし沈没に至ってしまった。
氷山との衝突の後、速やかには救難無線を出さず午前0時14分になって初めて救難無線を発している。しかし、タイタニック号から19海里の距離にいたカリフォルニア号の無線は午前零時を過ぎたその時には切られていた。58海里の距離にいたカルパチア号が救難無線を受信し救助に駆けつけた。
午前零時44分には信号灯を打ち上げ、カリフォルニア号の乗組員がこの信号灯を視認したと言われているが、信号灯の意味するところを理解せず救助には向かわなかった。
午前2時20分についにタイタニック号は沈没してしまった。最初の救助船であるカルパチア号が到着したのは午前4時10分頃であった。
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タイタニック号事故のイベントツリー
28図8:解析結果
設定したイベント・ツリーの各分岐確率を用いて各シーケンスの発生頻度の点推定値が得られる。発生したタイタニック号事故とまったく同一経過をたどるシーケンスの発生頻度は1.07×10-8/航海と得られた。
しかし、異なった経過をたどっても結果的に多数の死者の出るシーケンスは多数存在する。それらを集計した結果を図8に示す。遭難者数と累積発生確率の関係から タイタニック号事故と同程度(死者1490人)あるいはそれ以上の事故が発生する確率は2.05×10-2/航海となっている。
ETA解析による遭難者数と累積発生確率
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2017年中間試験 成績
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0%
20%
40%
60%
80%
100%
120%
0
2
4
6
8
10
120
1-9
10-1
920
-29
30-3
940
-49
50-5
960
-69
70-7
980
-89
90-9
910
0次
の級
頻度
点数区間
2017年度 中間試験ヒストグラム
頻度
受験者 最低点 最高点 平均点
中間 39 23 100 66 .74
40点未満 40点台
60点以下
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自主課題中間試験があまり芳しくなかったと思われる人は,自主的に以下の課題のレポート
(3-4枚程度)を提出することにより,配慮します.以下のいずれかの課題を選択し,回答しなさい.提出期限: 2018年1月16日(火)
(1)HPに掲載したExcelシートは,「気象庁ホームページ」→「気象統計情報」 →「過去の気象データ検索」から作成した東京都心における1876年から2015年までの月間降水量データである. http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
まず,6月,9月,および年間の降水量の年変化の様子をグラフで示し,平均値,標準偏差を計算しなさい.これより,どのような傾向が読み取れるか考察しなさい.次に,Excelの「データ分析」の「ヒストグラム」機能を用いて,年間降水量の140個のデータのヒストグラムを作成せよ.またこの分布が正規分布で表現できるかどうかについて,カイ自乗検定を行いなさい.
参考: Excelによるヒストグラム作成とカイ自乗検定のやり方は,「環境プラニング演習II」講義ノート(http://ares.tu.chiba-u.jp/~lecturenote/index.htm)のLecture 10,11に掲載.
(2)最近,注目を集めた事故(トラブル)について,ETAまたはFTAを用いて,原因となる要因と結果の関係を構造的に示しなさい.さらに,分岐または基本事象の確率を適宜与えて,事故(トラブル)の発生確率を試算しなさい.
対象とするテーマの例:•福島第一原発事故,巨大地震の発生見逃がし,タイ洪水による製造業への影響•JR西福知山線脱線事故,2012中央道トンネル崩落,高齢者による交通事故多発•その他,火災,医療事故,航空事故,交通事故,食の安全など