腎機能が低下し慢性腎不全の状態になると、患者さんは腎代替療法を行う必要がある。腎移植は人工透析と並ぶ同療法のひとつだ。田邉院長は冒頭、透析医療や腎移植の現状を紹介した。慢性透析患者数は年々増加し30 万人を超えており、透析導入の平均年齢は68 歳(2014年12 月時点)と高齢化が進展していることを指摘。「透析導入の主要原疾患は、30 年ほど前は慢性糸球体腎炎が最多でしたが、治療法が進歩して減少、その後は糖尿病性腎症が最も多くなっています。さらに近年は徐々に腎硬化症も増えています。一方、生体腎移植と献腎移植(心停止・脳死)を合わせた腎移植件数は諸外国と比べ伸びておらず、年間約1600件というのが現状です」東京女子医大病院の腎移植の成績にも言及。移植から10 年経過後のレシピエント(臓器受給者)の生存率は生体腎移植で95 %、献腎移植は90 %となっており、「生存率、生着率(移植した腎臓が機能している割合)ともに以前と比べ飛躍的に向上しました」と話す。成績向上の要因として、免疫抑制剤の進歩、拒絶反応の克服、感染症の克服、内科合併症の管理技術の向上、IgA 腎症など再発性疾患の予防・治療――を挙げた。続いて田邉院長は、ドナー(臓器提供者)とレシピエントの双方に行っている検査や面談など腎移植実施のための準備や術式に加え、膀ぼう胱こう欠損に対する膀胱拡大術を移植前に実施した困難症例などを紹介。「人工透析を受けていた女性でしたが、膀胱拡大術と腎移植を行った後、結婚・出産するなど、患者さん本人にとってのQOL(生活の質)が大きく改善しました」と症例を振り返った。また、ドナーとレシピエントのABO血液型の適合群と不適合群で治療成績を比較した研究成果をふまえ、「血液型が異なっていても、適合群と遜そん色しょくない成績を得ています」と解説。高齢者の腎移植にも触れ、「高齢のレシピエントも腎移植を受けたほうが生存率はよく、期待予後が1・8年以上ある場合は腎移植を受けることが望ましいと考えます」とまとめた。この後、話題をAIに移し、医療分野での応用例として①画像分類、②トリアージ(治療優先順位決定)、③医療機器データの解析と制御、④がんの個別化医療への応用、⑤患者分類(患者さんの状態の逐次的な変化の予測など)、⑥医療行為の分類(治療法・処置の選択など)――などを列挙。田邉院長によると、米国FDA(食品医薬品局)はすでに皮膚画像からのメラノーマ(悪性黒色腫)の診断、脳CT(コンピュータ断層撮影)画像からの脳梗塞の診断、手首のX線透視画像からの骨折の診断、糖尿病性網膜症の診断に関し、医師の介入なしにAIによるスクリーニング診断を認可しているという。田邉院長は、産学官が連携し今後、“AIホスピタル”のモデル病院を目指すことを明かした。腎移植患者さんの診断や治療にもAIを積極的に活用する計画だ。「複雑な診断、治療過程をAIにより解析し、ビッグデータを用いることで、最も適切な診断と治療法を提供することができます」と期待をあらわにした。同大学の医師や看護師などが日本で研修を受ける一方、徳洲会と東京女子医大のスタッフが、手術室やICU(集中治療室)の準備、患者選定に必要な検査の指導などのため数回にわたって現地を訪れた。1例目の実施に向け17 年7月に移植候補の選定を開始。最終的に1組のドナー(臓器提供者)とレシピエント(臓器受給者)の候補が残り、1例目の患者さんが決定した。倫理的な問題がないことや、移植後に拒絶反応が起こらないことを調べるためのリンパ球クロスマッチ検査などで陰性を確認し、タンザニアの保健省職員や弁護士などで構成する委員会から移植実施の許可を得て、3月22 日に手術を実施。タンザニアの医療者が取り組んだ初の腎移植となった。湘南鎌倉総合病院(神奈川県)腎移植内科の日髙寿美部長は「タンザニアにおける腎移植」をテーマに講演した。これまで徳洲会グループは、透析機器を寄贈したり現地医療者を日本に招いて研修を行ったりし、アフリカ各国で透析センターの開設・運営をサポートしてきた。2016年にはタンザニアで、現地医療者による腎移植実施の支援プロジェクトをスタート。腎移植の実績が豊富な東京女子医科大学の協力を得ながら推進し、タンザニアの首都にあるベンジャミン・ムカパ病院で、今年3月に1例目、8月に2〜4例目の腎移植を実施した。日髙部長は腎移植内科医として同プロジェクトを支えてきた。日髙部長は「徳洲会はこれまでアフリカ15 カ国に対し161台の透析機器を寄贈し、19 カ国・23 チームの透析研修を受け入れてきました。また当院スタッフが指導に訪問したのは9カ国に上ります」などとアフリカへの透析支援の概要を紹介。続いて、タンザニアでの腎移植プロジェクトの経過に言及。ドドマ大学からの要請を引き受け、腎移植プロジェクトを開始したのが16 年。その後、レシピエントは50 歳代男性で、その40 歳代の妹がドナー。「現地の外科医が血管の吻ふんごう合を行うなど実際の移植術を経験できたことは大きな自信につながったと思います」と日髙部長は意義を強調する。それから約5カ月後の8月28 日に2例目、29 日に3、4例目を実施。「当初は1〜2例を想定していましたが、今回を逃すと数カ月待たなければならなくなるため、ドドマ大学のスタッフは3例目の実施を強く望んでいました。3例とも検査で問題がないことを確認できましたので、免疫抑制剤を投与し、それぞれ手術を行いました」と日髙部長。いずれの患者さんも腎機能を示すクレアチニン値が安定して推移するなど経過は順調だ。名古屋徳洲会総合病院の 前田徹院長と村松世規事務 長は、新築移転から4年半 が経過した自院の現状につ いて報告した。村松事務長 は新築移転前に比べ1日当 たりの平均外来患者数(単 月)、1日当たりの平均入院患 者数(同)、救急搬送件数 (同)などが軒並み伸びている状況を説明、順調な推移を強調した。 前田院長も整形外科領域の手術件数が増えている状況を明かし、4 分の1を占める脊 せきつい 椎手術について解説した。 急患や医師・看護師確保の具体的な取り組みにも触れ、救急を 断らないために、医師が受け入れを拒否した場合、院長が最終判 断を下していることや、救急隊と密に連携を図っていることなどを 列挙。院長自ら研修医向けの説明会に積極的に参加したり、教育 システムのアピール、ケーキバイキングや球技大会などを設け看護 師の離職防止に努めたりしていることも紹介した。マーケティング 活動では医師が事務職員と同行し医療機関や消防署、企業などを 訪問。年1回、大規模セミナー開催やホームページの工夫、イベン トを通じて治療後の患者さんとも関係を築いていることも披露した。 最後に課題として①消化器内科医や神経内科医の確保、②療養 病棟の機能転換、④医療機器の充実――などを提示。前田院長は 今後も自由と積極性を重んじながら、職員の意欲とともに提供する サービスの質を高めることを誓った。 「腎移植の成績は飛躍的 に向上」と田邉院長 自院の状況と取り組みを説明する前田院長(左) と村松事務長 新築移転から4年半 経営の堅調アピール 名古屋徳洲会総合病院 東京女子医科大学病院の田邉一成・院長兼泌尿器科主任教授は9月度の徳洲会医療経営戦略セミナーで「腎移植の最前線とAIホスピタル」をテーマに講演を行った。同院は年間約230件の腎移植を行う日本で最も症例数の多い施設で、田邉院長自身、これまで多数の腎移植術を手がけてきた。腎移植の実際や成績向上の要因などに加え、同院が医療へのAI(人工知能)活用を推進する方針であることから、AI医療の展望なども語った。QOLが大幅改善田邉・東京女子医大病院院長兼主任教授診療にAI活用計画腎移植 タンザニア 「現地医療者の自信につ ながったと思います」と 日髙部長 化学療法や放射線治療と組み合わせて施行し、実際に改善した症例を提示。がんの種類により差があるものの、さまざまなタイプのがんで効果があると説いた。最後に「温熱療法を既存のがん治療に加えることで、“懐ふところの深い治療”ができる」とし、治療の手立てがなく行き場に困っている患者さんを救える可能性を示唆。「より広く知ってもらえる努力を地道に継続したい」と締めくくった。感効果を得られると強調した。こうした根拠を示すものとして、ハイパーサーミアの生物学的理論を示すさまざまな論文や、エビデンスレベルIの臨床研究の結果を提示。ハイパーサーミアの単独治療では、頭頚けい部がんのリンパ節転移や乳がんの局所再発など表在性腫瘍に効果があり、放射線治療では、とくに照射直後の加温に増感作用があるとアピールした。が、正常な組織は血管が拡張し血流量が増して熱を逃がすため、加温されにくいことなどを説明した。これらの特性をふまえ、ハイパーサーミアには直接的な殺細胞効果のほか、腫瘍内の温度を高温にできれば放射線治療との併用効果を得ることができ、腫瘍内が38 〜41 ℃程度になることで、薬剤の細胞内への取り込みを増加させ、同時に熱により、細胞の修復機能が阻害され、抗がん剤の増がん治療を展開。ハイパーサーミアの生物学的根拠や作用するメカニズムについて、がん細胞は42 ・5℃以上になると、細胞膜の損傷やタンパク質の変性により、生存率が急速に低下する福岡徳洲会病院がん集学的治療センターの成定宏之センター長は「福岡徳洲会がん集学的治療センターでのがん治療」と題し講演した。まず自院の状況について説明。4月に開始したがん細胞を高周波で温め死滅させるハイパーサーミア(温熱療法)に、従前の高気圧酸素治療、化学療法、放射線治療を組み合わせ、がん治療への温熱療法 や高気圧酸素治療の併 用を説く成定センター長 成定・福岡徳洲会病院センター長メリット解説温熱療法を併用が ん 日髙・湘南鎌倉総合病院部長現地医療者を支援腎移植の経過報告徳 洲 新 聞 生 い の ち 命だけは平等だ ❸ 平成 30 年 10 月 8 日 月曜日│No. 1154