2 変数関数の極限と連続性 黒田紘敏 理学研究院 数学部門 2020 年 6 月 29 日 黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 1 / 26
2変数関数の極限と連続性
黒田紘敏
理学研究院数学部門
2020年 6月 29日
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 1 / 26
目次
目的多変数関数の極限の定義を理解し,具体的な計算ができる.多変数関数の連続性の定義を理解し,具体的な関数の連続性が判定できる.
簡単のために 2変数関数 f (x, y)を中心に説明しますが,3変数以上(例えばf (x, y, z)の場合)でも議論や計算法は同様です. なお,教科書では 2変数関数でしか使わないうえに無駄に計算の多い面倒な解法が紹介されている(3変数以上でも同様と書いてあるが大変なので普通そうしない)ので,説明を一部変えていきます.WebWorKも教科書準拠の解法が指定されているのが困りものですが…
Contents1 座標平面の部分集合2 2変数関数のグラフ3 2変数関数の極限4 2変数関数の連続性5 補足:ユークリッド空間の位相
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 2 / 26
座標平面の部分集合
座標平面を R2 = {(x, y) | x, y ∈ R}のように表す.点 (x, y)と点 (a, b)との距離はもちろん √
(x − a)2 + (y − b)2
である.R2 を 2次元空間(2次元ユークリッド空間)という.
Definition (開集合)R2 の部分集合 Dが開集合であるとは,Dの任意の点 (a, b)に対して,適切に半径 r > 0を選べば
{(x, y) ∈ R2 | (x − a)2 + (y − b)2 < r2} ⊂ D
とできることである.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 3 / 26
座標平面の部分集合
教科書の領域の定義は一般的なものと異なっているので,通常使われている定義を紹介します.
Definition (領域)R2 の部分集合 Dが領域であるとは,Dは開集合であって,さらに D内の任意の 2点が D内の曲線で結べることをいう.
直観的には,領域とはつながっている開集合のことである.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 4 / 26
2変数関数
Definition (2変数関数)R2 の部分集合 Dに対して,写像 f : D −→ Rを 2変数関数という.このとき,Dを f (x, y)の定義域という.また,R3 の部分集合
{(x, y, z) | z = f (x, y), (x, y) ∈ D}
を関数 z = f (x, y)のグラフという.これを曲面 z = f (x, y)とも呼ぶ.
f の定義域を R2 全体,gの定義域を D = {(x, y) ∈ R2 | x2 + y2 ≦ 1}として
f (x, y) = x2 + y2, g(x, y) =√
1 − x2 − y2
は 2変数関数である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 5 / 26
平面の方程式
平面の方程式(a, b, c) , (0, 0, 0)とし,dを実数とする.座標空間において,方程式
ax + by + cz + d = 0
は n⃗ = (a, b, c)に垂直な平面の方程式を表す.
Proof.点 A(x0, y0, z0)を通りベクトル n⃗ = (a, b, c)に垂直な平面を Hとする.このとき,点 P(x, y, z)が平面 H上にあるための必要十分条件は
−−→AP · n⃗ = 0である.こ
れを成分計算すると−−→AP · n⃗ = (x − x0, y − y0, z − z0) · (a, b, c)
= (x − x0)a + (y − y0)b + (z − z0)c
= ax + by + cz − ax0 − by0 − cz0 = 0
そこで,d = −ax0 − by0 − cz0 とおけば,ax + by + cz + d = 0が成り立つ. □
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 6 / 26
2変数関数の極限
Definition (2変数関数の極限)関数 f (x, y)は R2 の開集合 Dで定義されていて,(a, b) ∈ Dとする.このとき,ある実数 αが存在して『任意の ε > 0に対して,ある δ(ε) > 0が存在し
0 <√
(x − a)2 + (y − b)2 < δ(ε) =⇒ | f (x, y) − α | < ε
となる』という条件をみたすとき,点 (a, b)で f (x, y)は αに収束するといい
lim(x,y)→(a,b)
f (x, y) = α または f (x, y) → α ((x, y) → (a, b))
のように表す.また,どのような実数にも収束しないとき発散するという.
この定義を大雑把に言い直すと『点 (x, y)が点 (a, b)と異なる値をとりながら(a, b)にどのように近づいても, f (x, y)がいつも同じ一定の値 αに近づく』ということである.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 7 / 26
2変数関数の極限の性質
2変数関数の極限についても,1変数関数の極限と類似の定理が成り立つ.
Theorem (2変数関数の極限の性質)極限が
lim(x,y)→(a,b)
f (x, y) = α, lim(x,y)→(a,b)
g(x, y) = β
と収束しているとき,次が成り立つ.
1 λ, µ ∈ Rに対して, lim(x,y)→(a,b)
{λ f (x, y) + µg(x, y)} = λα + µβ
2 lim(x,y)→(a,b)
f (x, y)g(x, y) = αβ
3 β , 0ならば, lim(x,y)→(a,b)
f (x, y)g(x, y)
=α
β
4 lim(x,y)→(a,b)
| f (x, y)| = |α|
三角不等式を用いることで,1変数関数の場合と同様に証明できる.はさみうちの定理なども同様に成り立つ.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 8 / 26
2変数関数の極限の計算法
2変数関数の極限を調べる際には,収束と発散で全く解答の方針が異なる.以下では主に (x, y) → (0, 0)の場合の極限の例を挙げる.
収束する場合どのような近づき方でも同じ値に収束することを示す.そのためにr =√
x2 + y2 とおけば,(x, y) → (0, 0)のとき r → +0となる.そこで
|x| ≦ r, |y| ≦ r
などを利用して| f (x, y) − α | ≦ g(r), lim
r→+0g(r) = 0
となる rの関数 g(r)を見つければ, lim(x,y)→(0,0)
f (x, y) = αが成り立つ.
発散する場合『ある 2通りの異なる近づき方で異なる値に収束する』または『ある近づき方で発散する』ことを示せばよい.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 9 / 26
2変数関数の極限の計算例
例題
lim(x,y)→(0,0)
x2 − y2
x2 + y2
解答(i) x軸に沿って原点に近づくときは,x(t) = t, y(t) = 0として t → 0とすれば
limt→0
t2 − 0t2 + 0
= limt→0
1 = 1
(ii) y軸に沿って原点に近づくときは,x(t) = 0, y(t) = t として t → 0とすれば
limt→0
0 − t2
0 + t2= lim
t→0(−1) = −1
ゆえに,原点への近づき方を変えると極限値が変わるので, lim(x,y)→(0,0)
x2 − y2
x2 + y2は
存在しない.黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 10 / 26
2変数関数の極限の計算例
例題
lim(x,y)→(0,0)
2x3 − y3 + x2 + y2
x2 + y2
解答
r =√
x2 + y2 とおくと,|x| ≦ r, |y| ≦ rである.よって,(x, y) , (0, 0)に対して∣∣∣∣∣∣∣ 2x3 − y3 + x2 + y2
x2 + y2− 1
∣∣∣∣∣∣∣=
∣∣∣∣∣∣∣2x3 − y3
x2 + y2
∣∣∣∣∣∣∣ = |2x3 − y3|r2
≦|2x3| + |y3|
r2=
2|x|3 + |y|3
r2≦
2r3 + r3
r2= 3r
−→ 0 (r → +0)
となる.ゆえに, lim(x,y)→(0,0)
2x3 − y3 + x2 + y2
x2 + y2= 1である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 11 / 26
2変数関数の極限の計算例
例題
lim(x,y)→(0,0)
xy + y3
x2 + y2
解答(i) x軸に沿って原点に近づくときは,x(t) = t, y(t) = 0として t → 0とすれば
limt→0
0 + 0t2 + 0
= limt→0
0 = 0
(ii) y = xに沿って原点に近づくときは,x(t) = t, y(t) = t として t → 0とすれば
limt→0
t2 + t3
t2 + t2= lim
t→0
1 + t2=
12
ゆえに,原点への近づき方を変えると極限値が変わるので, lim(x,y)→(0,0)
xy + y3
x2 + y2は
存在しない.黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 12 / 26
2変数関数の極限の計算例
例題
lim(x,y)→(0,0)
x3y sin y
(x2 + y2)2
解答
r =√
x2 + y2 とおくと,|x| ≦ r, |y| ≦ rである.さらに
| sin y| ≦ |y| ≦ r
であるから,(x, y) , (0, 0)に対して∣∣∣∣∣∣∣ x3y sin y
(x2 + y2)2− 0
∣∣∣∣∣∣∣ = |x3y sin y|
r4=|x|3|y| | sin y|
r4≦
r3 · r · rr4
= r −→ 0 (r → +0)
となる.ゆえに, lim(x,y)→(0,0)
x3y sin y
(x2 + y2)2= 0である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 13 / 26
2変数関数の極限のまとめ
2変数関数の極限lim
(x,y)→(0,0)f (x, y)
を調べる際には,各項のおおよその次数から挙動を予想する必要がある.なぜならば,説明した例題からわかるように
収束を示すためには,極限値 αを予測し,r =√
x2 + y2 とおき,
| f (x, y) − α | ≦ g(r), limr→+0
g(r) = 0
となる rの関数 g(r)を見つけるのが基本的なアイデア
発散を示すためには,原点への近づき方を変えると極限値が変わる(またはある近づき方で発散する)ことを具体的に示す
と解法の方針が全く異なるからである.
疑問収束を示すときに,rや三角不等式などを使わずに直線 y = mxに沿って原点に近づく場合(と y軸に沿う場合)を調べて,それが mによらない値になることを示せばよいのでは?
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 14 / 26
2変数関数の極限の計算例
例題
lim(x,y)→(0,0)
x2y
x4 + y2
x軸に沿って原点に近づくときは,x(t) = t, y(t) = 0として t → 0とすれば
limt→0
t2 · 0t4 + 0
= limt→0
0 = 0
y軸に沿って原点に近づくときは,x(t) = 0, y(t) = t として t → 0とすれば
limt→0
0 · t0 + t2
= limt→0
0 = 0
直線 y = mx (m , 0)に沿って原点に近づくときは,x(t) = t, y(t) = mt としてt → 0とすれば
limt→0
mt3
t4 + m2 t2= lim
t→0
mtt2 + m2
= 0
360度すべての直線に沿っても同じだから,どうやら極限値は 0っぽい…?黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 15 / 26
2変数関数の極限の計算例
例題
lim(x,y)→(0,0)
x2y
x4 + y2
解答(i) x軸に沿って原点に近づくときは,x(t) = t, y(t) = 0として t → 0とすれば
limt→0
0t4 + 0
= limt→0
0 = 0
(ii)曲線 y = x2 に沿って原点に近づくときは,x(t) = t, y(t) = t2 として t → 0とすれば
limt→0
t2 · t2
t4 + t4= lim
t→0
12=
12
ゆえに,原点への近づき方を変えると極限値が変わるので, lim(x,y)→(0,0)
x2y
x4 + y2は
存在しない.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 16 / 26
2変数関数の極限のまとめ
疑問収束を示すときに,rや三角不等式などを使わずに直線 y = mxに沿って原点に近づく場合(と y軸に沿う場合)を調べて,それが mによらない値になることを示せばよいのでは?
解答直線以外に曲線に沿って近づくと極限値が変わることもある.つまり,直線に沿って近づく場合のみを考えても,極限の定義における『点 (x, y)が点 (a, b)と異なる値をとりながら (a, b)にどのように近づいても』の部分をカバーできていない.そのため,議論として全く誤りとなる.
単に『原点に近づく』と言っても座標平面の場合,その近づき方が無数にある.数直線の場合,右から(右極限)と左から(左極限)の 2パターンで OK
2変数関数の場合には 1変数関数のように特定の近づき方を調べるだけでは計算できない.そのため,収束を示す場合には rのみの式で抑え込むのが基本となる.
なお,ロピタルの定理のような本質を外れた抜け道も存在しない.しっかり例題と解説を読み込んで問題練習に取り組むこと.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 17 / 26
2変数関数の連続性 (1/2)
Definition (2変数関数の各点での連続性)f (x, y)を R2 の開集合 D上で定義された関数とする.点 (a, b) ∈ Dに対して
lim(x,y)→(a,b)
f (x, y) = f (a, b)
をみたすとき, f (x, y)は点 (a, b)で連続であるという.
イプシロン・デルタ論法で述べれば『任意の ε > 0に対して,ある δ(ε) > 0が存在し,
√(x − a)2 + (y − b)2 < δ(ε)をみたす任意の (x, y)について
| f (x, y) − f (a, b)| < ε
となる』という条件をみたすことである.
1変数関数の場合と同様に,点 (a, b)で連続とは (x, y) → (a, b)の極限をとることと (x, y) = (a, b)を代入することが等しくなることを表している. 1変数関数 y = f (x)の場合と異なり,正確なグラフを描いて連続性を判定することはまず不可能である.必ず数式で用いて議論できるようにしておくこと.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 18 / 26
2変数関数の連続性 (2/2)
Definition (2変数の連続関数)f (x, y)が R2 の開集合 Dのすべての点 (a, b)で連続であるとき, f (x, y)は Dで連続であるという.このとき, f (x, y)は D上の連続関数であるともいう.
Theorem (2変数連続関数の性質)関数 f (x, y), g(x, y)が Dで連続であるとすると,λ, µ ∈ Rに対して
λ f (x, y) + µg(x, y), f (x, y)g(x, y),f (x, y)g(x, y)
(g(x, y) , 0), | f (x, y)|
も Dで連続である.
Theorem (2変数連続関数の合成関数の連続性)関数 u = f (x, y), v = g(x, y)は Dで連続とし,関数 h(u, v)もその定義域で連続で合成関数 h( f (x, y), g(x, y))が定まるならば,合成関数 h( f (x, y), g(x, y))も Dで連続である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 19 / 26
2変数関数の連続性の判定例
例題次の R2 上の関数 f (x, y)の連続性を調べよ.
f (x, y) =
x4 − 3x2y2
2x2 + y2((x, y) , (0, 0))
0 ((x, y) = (0, 0))
解答 (Step 1)xや yは R2 で連続なので,これらの和や積で表される多項式も R2 で連続である.よって,x4 − 3x2y2 と 2x2 + y2 は R2 で連続である.ゆえに,(x, y) , (0, 0)
では連続関数の商である f (x, y) =x4 − 3x2y2
2x2 + y2は分母が 0にならないので,
f (x, y)は (x, y) , (0, 0)で連続とわかる.
初等関数などの連続関数を四則演算や合成などで組み合わせた関数は連続となる.そのため,Step 1は「(x, y) , (0, 0)では明らかに連続」と済ませることも多い.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 20 / 26
2変数関数の連続性の判定例
解答 (Step2)
次に (x, y) = (0, 0)で連続かどうか考える.r =√
x2 + y2 とおくと
2x2 + y2 ≧ x2 + y2 = r2
である.さらに,|x| ≦ r, |y| ≦ rであるから,(x, y) , (0, 0)に対して
| f (x, y) − f (0, 0)| =∣∣∣∣∣∣∣ x4 − 3x2y2
2x2 + y2− 0
∣∣∣∣∣∣∣≦|x4 − 3x2y2|
r2≦|x|4 + 3|x|2|y|2
r2≦
r4 + 3r2 · r2
r2= 4r2 −→ 0 (r → +0)
となる.ゆえに,lim
(x,y)→(0,0)f (x, y) = f (0, 0)
であるから, f (x, y)は (x, y) = (0, 0)で連続である.
従って, f (x, y)は R2 上の連続関数である.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 21 / 26
補足:ユークリッド空間の位相
点 (a, b)を中心とする半径 rの円の内側を B((a, b), r)で表す.Definition (有界集合)R2 の空でない部分集合 Aが,ある R > 0に対して
A ⊂ B((0, 0), R) = {(x, y) | x2 + y2 < R2}
となるとき,Aは有界であるという.
0
y
xR
R
A
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 22 / 26
補足:ユークリッド空間の位相
点 (a, b)を中心とする半径 rの円の内側を B((a, b), r)で表す.Definition (開集合)Aを R2 の空でない部分集合とする.
1 点 (a, b) ∈ Aに対して,ある δ > 0が存在して
B((a, b), δ) ⊂ A
が成り立つとき,(a, b)は Aの内点という.2 Aの内点全体の集合を Int Aで表し,Aの内部という.3 Aのすべての点が Aの内点であるとき,つまり A = Int Aが成り立つとき,
Aは開集合であるという.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 23 / 26
補足:ユークリッド空間の位相
点 (a, b)を中心とする半径 rの円の内側を B((a, b), r)で表す.Definition (閉集合)Aを R2 の空でない部分集合とする.
1 点 (x, y) ∈ R2 が任意の ε > 0に対して
B((x, y), ε) ∩ A , ∅, B((x, y), ε) ∩ Ac , ∅
が成り立つとき(Ac は Aの補集合),(x, y)は Aの境界点という.また,Aの境界点全体の集合を ∂Aで表し,Aの境界という.
2 Aの内点または境界点全体の集合を A (= A∪ ∂A)とおき,Aの閉包という.3 A = Aが成り立つとき,Aは閉集合であるという.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 24 / 26
補足:ユークリッド空間の位相
Definition (有界閉集合)Aを R2 の空でない部分集合が有界かつ閉集合であるとき,Aは有界閉集合またはコンパクトであるという.
1変数関数 f (x)は有界閉区間 I上で連続ならば最大値と最小値をもつ.この定理の多変数関数版は次のようになる.
Theorem (最大値・最小値の定理)有界閉集合(コンパクト集合)上で連続な関数は最大値と最小値をもつ.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 25 / 26
まとめ
今日の目標2変数関数の極限の定義を理解し,正しく計算できる.
2変数関数の連続性が判定できる.
次回:第 9章「1. 偏微分の定義と計算」
2変数関数については本格的に始めて扱うため,慣れるまでが大変だと思います.教科書の図を見てもわかる通り,与えられた関数から正確なグラフを描くことはほとんどの場合困難です(そもそも 3変数以上になると軸が足りないので正確に描けない).そのため,視覚に基づく直感的理解のみに頼ることはできず,すべて数式に基づいた精密な議論をするしかなくなります(今回以降最後まで).
ラフな図によるイメージは理解を助けたり議論の方針を定めるのにもちろん有効ですが,それだけでは不十分です.すべて数式を用いた論述をできるようにしておいてください.
黒田紘敏 (数学部門) 微分積分学 I 2020 年 6 月 29 日 26 / 26