平成23年度後学期 生徒指導論(教育学部) 05 不適応といじめ 富田英司 愛媛大学教育学部 1
平成23年度後学期生徒指導論(教育学部)
05不適応といじめ
富田英司
愛媛大学教育学部
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スケジュールについて
• 第5回 キャリア教育,不適応といじめ
• 第6回 不登校,ワークショップ型授業の導入
• 第7回 ワークショップ型授業
• 第8回 ワークショップ型授業
• 第9回 ワークショップ型授業(年内最後)
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不適応• 反社会的行動
–社会のルールを破る行動
–他者に損害や危害を与える行動
•例)いじめ,脅し,たかり,暴行,誘拐,器物損壊,未成年飲酒/喫煙,不純異性交遊,薬物乱用
• 非社会的行動
–社会との関わりを回避しようとする行動
•例)ひきこもり,不登校,対人不安,対人拒否
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いじめの定義
• 従来の文部科学省による定義– 「いじめ」とは、「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」
• H19年1月19日からの文部科学省の見解– 「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」
文科省定義におけるいじめの様態• 以前
・言葉での脅し ・冷やかし、からかい ・持ち物隠し
・仲間はずれ ・集団による無視 ・暴力を振るう
・たかり ・お節介、親切の押し付け ・その他
• 現在– 冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、イヤなことを言われる。
– 仲間はずれ、集団による無視をされる。
– 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする。
– 酷くぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりする。
– 金品をたかられる。
– 金品を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたりする。
– 嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする。
– パソコンや携帯電話で、誹謗中傷やイヤなことをされる。 ・その他
ネットいじめ予防の指導(文科省,2008)
① 掲示板等に誹謗・中傷の書き込みを行うことは、いじめであり、決して許される行為ではないこと。
② 掲示板等への書き込みは、匿名で行うことができるが、書き込みを行った個人が特定されること。特に、書き込みが悪質な場合などは、犯罪となり、警察に検挙される場合もあること。また、掲示板等への書き込みが原因で、傷害や殺人などの重大犯罪につながる場合もあること。
③ 掲示板等を含めインターネットを利用する際にも、利用のマナーがあり、それらをしっかりと守ることにより、インターネットのリスクを回避することにつながった事例もあったこと。
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ネットいじめ対応手続き(文部科学省,2008)
1.保護者等からいじめ事象の報告を受ける
2.報告のあった事実を複数名で確認する
– URL保存,画面のプリントアウト,写真
3.掲示板管理者に削除依頼
4.プロバイダやサーバー管理者に削除依頼
– 利用規約を読んでおくこと
5.警察や地方法務局に相談
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いじめの統計(法務省)平成18-22年
8http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03_00014.html
どの学年にいじめは多いか
いじめの起き易い学校はあるか(教育政策研究所, 2009)
→頻繁にいじめの発生傾向は入れ替わる10
学年による差はあるか (教育政策研究所, 2009)
→学年内でも変動が極めて大きい 11
いじめのピーク(2006年)はあったか(教育政策研究所,
2009)
→マスコミでの盛り上がりは実態を反映したものでない
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決まった人がいじめられるか(教育政策研究所, 2009)
→いじめの被害者はどんどん入れ替わる13
いじめへの対応• 組織的対応• いじめの発見
– チェックシートやアンケートの活用• アンケートによるいじめの発見は30%を占める
• 教師の態度– 教師もいじめを生み出した集団の一人である
• 被害者の保護– 被害者ケアが最初のステップ
• 加害者への指導– 家庭の問題や心の問題があることが多い
• 学級経営上の工夫– 特に傍観者への指導(傍観者はいじめを持続させる)
• いじめの予防– 情動制御,言語的文化の醸成,家庭環境,ネット環境
いじめ集団の構造(森田・清永(1986)を再構成)
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傍観者
暗黙的支持
観衆
積極的是認
加害者
いじめている
被害者いじめられている
心理学的アプローチによるいじめ対応• 予防のためのプログラム例
– アンガー・マネジメント
•怒りのメカニズムの理解,怒りを静める技法,適切な表現方法
•本田(2002) 『キレやすい子の理解と対応:学校でのアンガーマネージメント・プログラム』(ほんの森出版)
– 共感性トレーニング• 特に道具的攻撃を行う者に対して• 自他の感情の認識,他者の視点理解,共感的関わり方例)セカンド・ステップ(Committee for Children)
• 起こってしまったいじめへの対応例– 支援グループ・アプローチ(Sue Young)・・・ソリューション・フォーカスト・アプローチを応用した手法
支援グループ・アプローチスー・ヤング(Sue Young)
• 考え方・・・『解決志向』
– いじめを止めさせるより,望ましい行為を援助• 協同作業により友情,共感,チームワークを促進
– 加害者や被害者として扱わない
– 原因に言及しない(解決志向)
• 被害者に尋ねること
– いまつきあいにくい人は誰ですか
– 他に誰が近くにいますか
– 学校での友達は誰ですか
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支援グループ・アプローチの手順1. 被害者への面接
2. 支援グループへの集団面接
– 協力を依頼し,支援目標を設定
– 「対象児が困っている。みんななら助けられる」
– 具体的援助案と発案者を板書して整理
3. 被害者への面接
– 学校生活がどう良くなったか尋ねる
– 状況の好転に自分はどう貢献できるか尋ねる
4. 支援グループへの集団面接
– 支援目標が果たせたかどうかは聞かない
– 問題についての報告は求めない
(問題解決まで反復:通常3週間程度)
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1週間の間隔
怒りのメカニズムなぜ怒りをぶちまけるのか?
• キレやすい人に共通する重要な特徴–自動思考
•ある出来事Aが起こると,次にBが来ると思いこみ,それに対応した反応を即座に行ってしまう
–感情を思考の対象にできていない•自分の感情の理由を説明できない
•適切なラベルになるような感情の言葉をしらない
–感情の幅や種類が豊かでない•キレやすい人は「快」「不快」の区別が中心
–密かに不安なことを抱えている•自分の不安を周囲の出来事や人に投影してしまう
ワーク「感情のことばをふやそう」(本田,2002)
言葉をふやすためのワーク
1. 子どもに選択肢の中から答えを選ばせる
2. それぞれの回答について話し合う
3. そのシーンを演じて,みんなでその台詞を言う
4. 学んだことを振りかえる
課題カード(本田,2002)
当番の子が押していた給食のワゴンがあなたの足に当たってしまいました。あなたはどうしますか?
A) 「なにすんだよー。痛いじゃないか」とワゴンを蹴る。
B) 「ワゴンがぶつかって足が痛いよ。今度から気をつけてね」と言う。
C) 何も言わないで保健室へ行く。
表現方法を知るためのワーク
いじめへの別のアプローチ
• 社会学者による提言– 学級制度自体をなくすべき(内藤,2009)
• 閉鎖空間では,誰もがおかしくなりうる• 「いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか」講談社
• 評価観点の多様性を高める– 学校が特定の絶対的価値観を持たない– 多様な観点で人が評価される学校作り
• いじめに関する心理教育– 子どもにいじめのメカニズムを教える
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次回
• 課題
–配布プリントを読み,いじめに関連した事象の区分とそれぞれの対応法について,自身の考えを述べてください.
–締切:来週の水曜日
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