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201009 破壊と創造の人事Final

Jun 23, 2015

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Page 1: 201009 破壊と創造の人事Final

人材・組織システム研究所 TOP

特別対談

第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省す

ることに時間を使いますか?(前半)

第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使いますか?(前半)

島村 隆志氏株式会社ナイキジャパン 人事本部長

【ナビゲーター】

楠田祐 ( 戦略的人材マネジメント研究所 代表 )

島村 隆志(しまむら たかし)氏 プロフィール

1987 年大学卒業後、JFE 商事株式会社入社。鋼管部にて5年間

鉄鋼の営業を担当後、人事部へ異動。採用・研修に3年間従事した後、労政・海外人事・

給与厚生・総人件費担当。

Page 2: 201009 破壊と創造の人事Final

1996 年株式会社ジュピターテレコムへ入社し、経営企画室人事課長として会社の立ち上

げを組織人事面からサポート。

1999 年株式会社ユー・エス・ジェイ(ユニバーサルスタジオジャパン)へ入社し、人材

開発課長として主に採用・人材開発・外国人マネジメント面からテーマパークの立ち上げ

をサポート。

2002 年より人事部長。

2006 年株式会社ナイキジャパンへ入社し、人事本部長。

2009 年よりナイキ本社、タレントアクイジション(人材スカウト)部門アジア太平洋地

区統括本部長を兼務、現在に至る。

新しい価値を常に世の中に提供し続けているNIK E。その日本本社で、HRのトップを

務める島村氏。現在は人事本部のトップであるだけではなく、米国本社組織において、

アジア地域のタレントアクイジション(人材スカウト)部門の統括本部長も兼任してい

ます。NIKE Japan における組織開発や人材開発から、グローバル人材に必要な考え方

まで、豊富な経験に基づいた具体的なお話を伺いました。

HRも、Inspiring で Innovative であることが求められる。

【楠田】 

今日は、NIKE Japan の HR 部門のヘッドである島村さんに、NIKE における Human

Resource Management の考え方と実践について伺いたいと思います。最初に、NIKE

という会社について教えていただけますか?

【島村】

はい。まず、NIKE の Culture について簡単にご説明します。NIKE のミッションの核と

なるのは、Inspiration & Innovation です。この言葉はあらゆる場面で顔を出します。

世界のトップがリーダーシップやマネジメントの話をするときから、マネジャーが部下

にメールを出すときまで、”We are inspiring and innovative company”という趣旨の

一文が必ずといっていいほど入っています。

例えば、商品開発でも、Inspiring で Innovative なものをいかに世の中に提供してい

くかということが、コンセプトの中心になります。2006年に発表した NIKE+という

システムがあります。専用のセンサーをシューズに装着して走ると、ワイヤレスでその

情報が iPod Nano やスポーツバンドに転送され、ペース、距離、消費カロリーがわかり

Page 3: 201009 破壊と創造の人事Final

ます。そしてその情報は、コンピュータを通じて世界中のランナーと共有することがで

きる。どこにいても、誰とでもバーチャルに競争することができるというわけです。

また、テニスウエアやトレーニングウェアでも、アスリートのパフォーマンスを高める

ために、プレー中熱を発散させて体温調節を助けるというテクノロジーを開発しました。

しかも、見た目が魚のウロコにそっくりで、機能デザインとしても優れています。

ただ機能だけが優れているとか、見た目が格好いい・奇抜ということでは不十分で、ユ

ーザーの使用場面が総合的に考えられていて、しかもこれまでに見たことがないような

ものを提供し続ける。刺激的で革新的であることを常に求められているのです。

そして、もうひとつ。Maxim という、いわゆる社是・行動指針に、「NIKE is Growth

Company 」「We are on the offence always」というフレーズがあります。「ナイキ

は成長し続ける」「守りに入らない」ということです。成長がない、現状維持というこ

とは、結局は後退しているということだ、という認識がとても強い。アスリートの世界

がそうですよね。「ここまでできたから、まあこのあたりでいいか」などと考えてしま

ったら、必ず競争相手に負けてしまう。だから、Growth(成長)、Offense(攻撃)を

企業文化の中に組み込む努力をしています。

そして、皆さんがご存じの「Just do it」。簡潔に日本語にすれば「あれこれ難しく理屈

を考える前に動く」ということですよね。理論も大事だけれど、まずは Trial & Error で

やっていかないと前に進めないと。

こうした考え方の実践については、サポート部門、HR だからといって例外として扱われ

るわけではありません。我々も、Inspiring and Innovative であることを求められます

し、Growth や Offense を意識し続けなければならないし、あれこれ言っているばかり

でなく、まずは前進することを期待されています。

たとえ業績があまり振るわないときでも「世界の経済状況が悪いから仕方ないね」など

と足踏みしていることは絶対に許されません。Innovative に考えて offensive に Just do

it、と言われますね(笑)。

「人事制度」「研修制度」など、「制度」という言葉は敢えて使わない

【楠田】

そうした企業文化が、会社全体で徹底しているわけですね。そんな中で、NIKE の人事の

特徴はありますか?

Page 4: 201009 破壊と創造の人事Final

【島村】

そもそも NIKE Japan では、「人事制度」とか「研修制度」という言葉は一切使いません。

【楠田】

え、人事制度や研修制度がない、ということですか?

【島村】

というよりは考え方の問題で、「制度」と言った瞬間に、仕組みが固定されてしまうイ

メージを嫌っている、ということになるでしょうか。特にサポート部門では、制度がで

きた時点ですべてが完成したように思ってしまう傾向があります。制度はあくまで箱で

あって、それができたことはあくまでスタート。その中身を運用しながらブラッシュア

ップしていき、どのようにビジネスや社員個人の成長を助けるように影響させるかが本

来の目的であることを忘れないために、敢えて「制度」という言葉を使わないように意

識しているのです。

【楠田】

それは米国企業特有の考え方?

【島村】

そんなことはないと思いますね。私は、日本企業、日本と米国の合併企業、そして米国の

企業を経験していますが、NIKE 的な考え方だと思います。

自分の経験を通じて強く感じるのですが、「制度」を作るということにフォーカスして

しまうと、実際にビジネスや社員個人の成長に貢献しないようなものを作り込んでいっ

てしまいがちです。ですから、人事制度とか研修制度という言葉・枠組みにとらわれな

いで、その中身は何か、目的は何なのか、という意識を常に持ち続けるように心がけて

います。

NIKE も含め、米国の企業では、Organizational Development(OD:組織開発)とか、

Organizational Effectiveness(OE:組織効果)といった言葉が使われますが、これも

言葉だけに引きずられてしまって、変化していくものとして中身を捉えなくなったら同

じことだと思います。ともすると、わかった気になって OD、OE と簡単に使ってしまい

ますが、実は、人や企業によってイメージが異なっていることが少なくなく、定義が難

しい言葉・概念です。これらを固定的に考えてしまうと、「制度」と同じく、ビジネス

への貢献から離れていってしまう危険性があると思います。

Page 5: 201009 破壊と創造の人事Final

【楠田】

島村さんが考える、OD、OE というのは?

【島村】

OD というのは、基本的に、組織のビジネスに対する影響力(OE)を増やす活動です。

ただし、その範囲についてはいろいろな考え方があって、例えば、Leadership

Development といった、人材の要素を初めから狭義の OD の概念の中に入れて考える人

もいるようです。ただ、私はそこまで拡げずに、まずは「ビジネスに良いインパクトを

与えるために組織がどのように効果的に働くか」を実現していく活動と捉えるようにし

ています。そのために組織をどうデザインしていくか、その組織をどう運用していくか、

組織にいる Talent をどう生かしていくのか、チームの組合せはどういうときに効果が上

がるか、組織の Culture をいかに築いていくか。そういったことを考え実行していくの

が OD であり、その結果として OE を上げていくことができると考えています。

そうしたことがうまく回るようになれば、Organizational Capability(組織の能力)は

上がり、その結果としてリアルで良質な Leadership を開発できる環境が形成される。そ

こで育成された Leadership が OD を活性化させて OE を押し上げていく。こうした好循

環が、Spiral Up していく状況を作っていくことが、広義の OD なんだろうと思いますね。

重要なのは、OD とか OE、Leadership といったものが単体で存在するわけではなく、

それぞれが有機的に関係し合ってビジネスのプロセスに影響を与え、結果にインパクト

を与えていくということを認識、理解すること。その中で、何故HR という組織が存在し、

どのように関わっていくべきかと考えていくことが大事だろうと思います。

中長期目標達成のための最初のステップは、そのEnablerとしての「人と組織」の開発

【島村】

また、NIKE Japan の特徴としては、「人と組織」がビジネス目標達成のなかの重要な

要素として組み込まれているということではないかと思います。

どの企業でも、中期経営計画、長期経営計画というものがあると思いますが、NIKE

Japan の場合、最初の項目に人と組織に関する項目が出てきます。例えば、「いついつま

でに売り上げをこのレベルまで持っていく」という目標があったとします。それを達成

するための最初のステップは、多様性のあるリーダーと組織を創造・開発することです。

Marketing や Sales の前に、「人と組織」が出てくるのです。何をするにしても、

Page 6: 201009 破壊と創造の人事Final

Foundation(基礎・基盤)としての人や組織がなければ、実際には実行に移せないでし

ょう?と考えるからです。

【楠田】

マーケティングやセールスではなく、人と組織が先にくるのですか。日本企業で「人と

組織」を戦略マップ上そこまで明確に、高い位置付けにしているケースは少ないですよ

ね。

【島村】

他の企業について詳しく知っているわけではありませんが、人事部門の目標が中長期計

画の一番末尾にくっついている、というパターンは多いように思いますね。でも、そう

だとしたら、人と組織がビジネスの最大の「Enabler」だ、という位置づけになっていな

いということですよね。

【楠田】

「Enabler」とは?

【島村】

ビジネスを遂行することを可能にする機能・要素、ということになるでしょうか。人や

組織を、ビジネス中でそのように位置づけていないと、例えば Talent Management や

人事異動と言っても、単に個人レベルの話で終わってしまう可能性が非常に高くなると

思います。「○○さんは、何年入社だけれど飛び級して一番の出世頭だ」とか、「○○さ

んは栄転で、あの部署に抜擢された」とか。そこには、「それが具体的にビジネスとそ

のタレントの成長にどういうインパクトがあるのか」という発想が入っていないですよ

ね。

【楠田】

それは、グローバルで統一された考え方ですか?

【島村】

「人と組織」を意識的に重要視しているのは、日本で決めたことです。ただ、具体的な表

現方法は異なっても、「人と組織」がビジネスの Enabler であり、非常に重要だという

認識は世界で共通しています。例えば、Vice President レベルから中堅の Manager ま

で、目標管理システムの中に必ず人と組織に関する項目が入っています。つまり、売り

上げ目標などの、他の目標を結果として達成することばかりが大切なのではなく、人と

組織についてのマネジメントも同様に成果をあげていることが評価される、というメッ

セージが、ゴール(目標)設定や評価に組み込まれているということです。

Page 7: 201009 破壊と創造の人事Final

【楠田】

それは徹底していますね。

【島村】

はい。そこはトップがコミットして決めていますから。そういう意味では、人事が戦略

的に動きやすい環境だと思います。

【楠田】

確かに、人事の目標が計画の一番下に書いてあったら動きにくいですよね。

【島村】

ええ。そうだとしたら、人や組織の課題がどうしても日々の多忙な業務の中で埋もれて

しまい、優先順位が下がってしまうと思いますよ。人事が何か人や組織、ひいてはビジ

ネスにとって効果やバリューのあることをしようとしても、「面倒」とか「ただでさえ

忙しいのに、また時間の取られるプロセスをつくって」とかね(笑)。確かに面倒なこ

とも多いかもしれないし、きれいなプロセスばかりで内容が伴っていないものには本当

に気をつけないといけないけれど、優先順位が上の方にありますから、効果のあるもの

については、面倒だとか時間がないという理由で嫌とは言えない。これは、以前日本企

業で働いていた経験と比較すると本当に違うところの一つだと思います。

もちろん、ここで我々人事が、「制度=箱」を作るのではなくて「中身」を提供してい

く、それらをビジネスにインパクトを与えるという発想で運用していく、という意識を

持ち続けることが大前提だと思います。そうしないと人事が単なる権威主義に陥って、

ビジネスの最前線のラインが無駄なことに時間をかけることになってしまいますから。

難しいところもありますが、今はその2つがうまくかみ合っているのではないかと思い

ますね。

Talent Management には、「統合」という考え方が重要

【楠田】

さきほど、Talent Management という言葉が出てきました。最近、日本でも Talent

Management という言葉が使われるようになりましたが、NIKE における Talent 

Management の特徴はありますか?

【島村】

Talent Management とは、人材のポテンシャルを高めて、その持てる力を十分に活用

Page 8: 201009 破壊と創造の人事Final

していくことだと思いますが、NIKE の中では、Integrated Talent

Management(ITM)という考え方を持っています。これには2つの意味があります。

まず、一定の Job Band(職位等級)以上の人は、グローバル共通の人材として扱われ、

所属している国や地域に関係なく、統一したかたちで Talent Management が行われま

す。これが一つ目の「Integration」(統合)。

その職位等級に達するまでに国や地域内で行われる Talent Management も含め、教育、

コーチング、ローテーションといった、教育・育成に関わるそれぞれのファンクション

をバラバラに行うのではなく、ひとつのプログラムとして統合しておこなっていく、と

いうこと。これが二つ目の「Integration」です。

例えば人事異動では、事業部長が「○○さん、そろそろ違う種類の仕事にチャレンジし

た方がいいよね」と言っていて、それとはまったく関係ないところで、人材開発部が

「この研修に○○さんに出てもらおうか」と相談している、そして直属の上司は、「最

近どう?将来どんな仕事に就きたいと思っているの?」といった面談を行っている。そ

して、それらの情報がほとんどリンクしていない。結構ありがちではないですか?人事

制度を運用している部署と、教育研修の部署が別々という会社も少なくないですからね。

でも、これでは一人のポテンシャルを総合的に引き上げていくことは難しいと思います。

少なくとも、非常に非効率的です。

ただ、我々が行っている ITM は新しい考え方ではないと思います。多分、日本の大企業

でも、高度成長期あたりでは、こういうことが自然にできていたんだと思います。ただ、

意識しないでできてしまっていたから、何かひとつの歯車が狂ったときに、~それが内

容を理解しない形だけの「成果主義」の導入だったのかもしれませんが~、うまく修正

できなかったということなのだろうと思います。

日本を「輸出」し、海外を日本に「輸入」する試みを

【楠田】

NIKE Japan における「人と組織」に対する考え方がわかりました。次に、グローバル企

業の中の日本という視点でお話を伺いたいと思います。

【島村】

はい。グロ―バルという視点で見たとき、外資系であれ日本の企業であれ、HR としての

課題は、日本の人材をいかに国際化・グローバル化していくか、ということだと思いま

す。NIKE JapanのHRの課題も同じです。

Page 9: 201009 破壊と創造の人事Final

【楠田】

外資系でもまだまだ国際化・グローバル化していない?

【島村】

残念ながらまだ十分には。日本は、まだまだ「Super Unique Country」ということで下

駄を履かせてもらっているところがどこかあります。「日本はユニークだ」ということ

で、長い間、贔屓されてきてしまった。「日本はあまりに違うので、わからない。わか

らないから、わかっている日本人に任せておくしかない」といった感じでしょうか。

ただ、2008年秋のリーマンショック以降、そうした考え方が急速に変化しているの

を感じています。中国のプレゼンスが益々大きくなってきていますし、アセアンの国々

も成長してきています。また、消費者の感覚もボーダレスになってきている。日本がそ

の独自性を売りにすることがしづらい状況になってきているのです。組織構造上も、グ

ローバル組織の一部としてマネジメントから直接見られる位置づけに変わってきていま

す。そこで、日本の人と組織の Globalization ということが大きな課題になってきました。

具体的には、グローバル人材の開発、日本からの「輸出」と日本への「輸入」を強化する

必要があると思っています。日本の Talent がグロ―バルで通用しないと、もはや総合的

な Talent Planning もできないし、そうなるとビジネスの目標を実現していく基盤や

Enabler が機能していけない状況にまでなってしまいます。

【楠田】

そうしたことは、2008年くらいから?

【島村】

そうですね。組織構造やプロセスが変わり始めたのが2008年ですから、そのとき真

剣に考えました。「このことは、日本にとって何を意味するのだろうか」と。そこで出

た結論は、「日本はこのまま放っておいたら置いていかれる」ということでした。

そこで、まず、「Export」。とにかく日本人を外に出す、無理してでも海外で働く機会

を提供することにしています。

英語がある程度できたなら、あとは向こうで実践を通じて覚えればいい。要は中身だ、

と割り切って積極的に日本人を海外に出すようにしています。彼ら・彼女らには、こう

いって送り出すんです。「グローバルの世界では、日本人が Second Language として

英語を話していることは誰もが百も承知しているので、言葉で完璧であろうとする必要

Page 10: 201009 破壊と創造の人事Final

はない。ただし、中身をきっちり伝えるように強く意識して自信を持って臨んでほし

い」と。

私は、外国人が日本人はユニークだと思ってきたことには根拠があると思っています。

実際にグローバルで仕事をするなかで、我々が他の国の人たちにはない独自の視点を持

っていると感じることが少なくありません。ただ、多くの日本人はそれを自覚していな

いし、語学のコンプレックスが邪魔をして、きちっと伝えられていないことが多いので

す。

一方で、西欧の人の中にはプレゼンテーションの技術はあるけれど、内容は普通という

ことも少なくないんですよ。だから、自信をもって自分が持っているコンテンツを表現

してきてほしいと伝えています。コンテンツの質が良ければ、必ず respect されますか

ら。ただ、コミュニケーションのスタイルが違うので、日本人に伝える時に意識的に、

もしくは無意識に使ってしまっている前提を極力排して、詳細を事細かく説明する努力

をするようにアドバイスしています。そうすれば通用するからと。実際に海外で活躍す

る日本人が出てきてくれていますし、少なくとも、本社での日本人社員の Visibility(見

られる機会)が急速に上がってきていると思います。

【楠田】

ただ、海外で通用するような人材は国内でも活躍している可能性が高いと思うので、マ

ネジャーや組織のトップから、「今このタレントは出したくない」といった抵抗が出た

りしないですか?

【島村】

通常はそういったこともあるでしょうね。ただ、先ほど申し上げたように、彼ら・彼女

らのゴール(目標)の中に、「Succession Panning」(後継者育成)とか「Talent

Management」といった「人を育てる」いう要素が組み込まれていますから、そこは評

価に直結する仕組みで機能するようにしていますし、必ず同等以上のタレントを後任に

充てることによってタレントマネジメントの仕組みが機能するようにしています。確か

にそうしたことがセットになっていないと、社内政治に翻弄されて、本来目指すべきこ

とを実現するのは難しいかもしれませんね。

【楠田】

なるほど。一方で、「Import」というのは?

【島村】

Export だけですと、海外に行く機会を与えられる、限られた人しかグローバル化できま

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せん。多くの人は日本の組織で働いているわけで、その部分のグローバル化も考える必

要があります。そこで、「海外」を日本に「Import」しています。具体的には、米国本

社や西欧地域からだけでなく、中国や香港、その他のアジア諸国からも日本の組織に人

を送ってもらい、「国連化」を加速することにしました。

ただ、日々の業務をしながら、言葉も文化も違う人を受け入れるのは大変なことではあ

ります。また、費用増をどうするかといった問題から任用期間、雇用形態の問題等、実務

的に越えなくてはならないハードルもあります。

実は、これには、単に日本人社員のグローバル化だけではなく、ビジネスインパクトも

あると思っています。例えば、大手小売チェーン。彼らはどんどん中国や他のアジア諸

国に進出しています。そこでは、既に日本と現地の購買が連携していて、当然こちらも

日本と現地が連携したかたちでのビジネスをしていくことになる。そうなると、日本の

中に現地の消費センスを理解できる人がいる意味は大きいわけです。

後半に続く(後半は2010年11月11日公開予定です)

<後半の内容>

グローバル人材とは、多様な環境で確実にパフォーマンスを出せる人

「ベンチの厚さ」が、変化する環境に強い組織を作る

人の育成は、70・20・10の割合で

「明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使い

ますか?」

次世代リーダー候補に必須な、Learning Ability, Learning Agility

店舗のアルバイトが、商品開発のグローバルのヘッドに

役員・部長クラスの仕事からオペレーション実務の仕事、修羅場まで、様々な場面を無理

をしてでも経験せよ

(2010年8月/

Page 12: 201009 破壊と創造の人事Final

第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使いますか?(後半)

島村 隆志氏株式会社ナイキジャパン 人事本部長

【ナビゲーター】

楠田祐 ( 戦略的人材マネジメント研究所 代表 )

島村 隆志(しまむら たかし)氏 プロフィール

Page 13: 201009 破壊と創造の人事Final

1987 年大学卒業後、JFE 商事株式会社入社。鋼管部にて5年間

鉄鋼の営業を担当後、人事部へ異動。採用・研修に3年間従事した後、労政・海外人事・

給与厚生・総人件費担当。

1996 年株式会社ジュピターテレコムへ入社し、経営企画室人事課長として会社の立ち上

げを組織人事面からサポート。

1999 年株式会社ユー・エス・ジェイ(ユニバーサルスタジオジャパン)へ入社し、人材

開発課長として主に採用・人材開発・外国人マネジメント面からテーマパークの立ち上げ

をサポート。

2002 年より人事部長。

2006 年株式会社ナイキジャパンへ入社し、人事本部長。

2009 年よりナイキ本社、タレントアクイジション(人材スカウト)部門アジア太平洋地

区統括本部長を兼務、現在に至る。

新しい価値を常に世の中に提供し続けているNIK E。その日本本社で、HRのトップを

務める島村氏。現在は人事本部のトップであるだけではなく、米国本社組織において、

アジア地域のタレントアクイジション(人材スカウト)部門の統括本部長も兼任してい

ます。NIKE Japan における組織開発や人材開発から、グローバル人材に必要な考え方

まで、豊富な経験に基づいた具体的なお話を伺いました。

前回の対談内容はこちらから↓

第 4 回 明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間

を使いますか?(前半)

グローバル人材とは、多様な環境で確実にパフォーマンスを出せる人

【楠田】

島村さんが考えるグローバル人材とは?

Page 14: 201009 破壊と創造の人事Final

【島村】

グローバル人材というのは、結局のところ、Diverse(多様)な環境で確実にパフォーマ

ンスを出せる人、ということだと考えています。

もちろん、基本的な英語力は大事なのですが、そもそも日本人はコミュニケーションの

スタイルが異なるということに自覚的であることがもっと重要だと思います。日本人は

同質性の高いコミュニティの中で、暗黙の前提でコミュニケーションすることに慣れて

しまっています。その感覚でいると、バックグラウンドの異なる人と話しても肝心なこ

とが全く通じないということが起きます。ですから、先ほど申し上げたように、「何で

ここまで説明しなければならないの?」というくらいまできっちりと説明していく癖を

つけるといいと思いますね。そして、臆することなく自分なりの視点で意見を言ってい

く。そうすれば、Diverse な環境でも受け入れられていくと思います。

また、気になるのは、グローバル人材といったとき、今だに「アメリカ化」「西欧化」

だと勘違いしている人が多いということです。もう少し具体的に言うと、欧米的なロジ

カル思考を持っている人がグローバルに通用する人で、その他は通用しない、逆にそれ

さえあればグローバルに通用すると思い込んでいる人が少なくない、ということです。

それは、実は20年前の姿だと思っています。

今、人材の強みを見る際に、Strategy(戦略立案)に強いか、Engagement(チームの

人たちや周囲の巻き込み)に強いかという見方をすることが多いのですが、従来の欧米

的なロジックだけで考えると、Strategy に強い人がグローバル人材の要件として適性が

あると考えがちです。逆に、Engagement を重視するのは、達成志向・結果志向のプロ

意識に反していてグローバル化にとってはマイナスではないか、と。

しかし、実際にグローバルで活躍している人、つまり Diverse な環境でパフォーマンス

を出している人を見ると、両方のバランスが取れているんですね。逆に、Diverse なチ

ームの中で脱落していくのは、実は、Strategy「だけ」の人なんです。

怖いなと思うのは、外資系企業に長くいることで、グローバル化を理解していると考え

ている人も少なくないということです。西欧的なロジックで仕事をしていることをアイ

デンティティにして表層的な個人主義を崇拝し、チームに対する貢献や巻き込みを軽視

するといった態度を取っている人もまだまだ見受けられます。そうした人たちは、次々

に欧米系企業に転職していくので、ますますその発想から抜け出せなくなる。個人的に

は「外資系メリーゴーラウンド」と呼んでいるのですが・・・。そういった発想は、か

えってこれからのグローバル化を阻害することになっていくと思いますね。

Page 15: 201009 破壊と創造の人事Final

「ベンチの厚さ」が、変化する環境に強い組織を作る

【楠田】

さて、次に、Succession Planning(後継者育成)について伺いたいと思います。今、

日本企業では次世代リーダー育成に悩んでいるところが多いように感じています。その

あたり、どのように考えられているのか教えていただけますか?

【島村】

Succession Planning の話で必ず出てくるのが、「ベンチの厚さ」を形成するというこ

とです。チームスポーツの世界で、試合に出ていない選手層が厚いチームが強い、と言

われることと同様です。野球なら9人、サッカーなら11人のレギュラーメンバー以外

に、どれだけの選手を揃えることができるのか。その厚みがあるチームは、様々な状況

や変化へ対応することができるため、強いチームとなっていく。その考え方を組織に当

てはめています。

具体的に言えば、ひとつのポジションに対して、後継者候補を2名作っていくことを目

指しています。そして、その後継者候補一人一人に対して、その後継者候補を2名作って

いく・・・と考えていきます。2名というのには意味があって、一人は Strategy に強い、

もう一人は Engagement が高いといったように、異なるタイプを育てていくことで、変

化に対する柔軟性を担保していく。これも「厚さ」形成の戦略のひとつです。

たとえば役員が15名いるとします。今、そのレベルに行ける人、次世代リーダー候補

を30名作る、その下にまた High Potential(ポテンシャル人材) な人のグループを6

0名作るというぐあいに 。そして、役員の15名と次世代リーダー候補の30名は、・・・グローバルタレントとして、常に誰かが「Export」されている状態を作るといったメカ

ニズムを作るということです。

人の育成は、70・20・10の割合で

【楠田】

後継者を作っていく、ということですが、そこでの教育・研修についてはどのような考

え方を持っていらっしゃるのですか?

【島村】

人が学習・成長をするときのリソースは、70・20・10と言われていて、我々もそれ

に沿って育成を考えています。

Page 16: 201009 破壊と創造の人事Final

【楠田】

70・20・10とは?

【島村】

これは、研修や書籍から学べることは10、コーチングや他人の行動から学べるのは2

0、残りの70は自らの経験から学ぶ、という考え方です。ただ、実は、これは日本人

にとって新しくも珍しいものでもなくて、内容的にはそれぞれ、研修、OJT、ローテーシ

ョンに当てはまるんですよ。ただ、それを、70・20・10とわかりやすく説明して、

受けている本人が今何をしているのかを明確に意識できるようにした、という点が異な

るということです。また、これに明確な Operating Mechanism(運用の仕組み)を組

み込むことが成否を分けるポイントでしょう。

【楠田】

具体的に Operating Mechanism とは?

【島村】

例えば、「20」のコーチングについて言えば、上司は1週間に一回、もしくは二週間に

一回、必ず一対一のミーティングを部下と行うことがどの部署でも行われているような

仕組みやリズムが組織に埋め込まれているような状態のことです。それも、単に業務進

捗報告を受けるという漠然としたものではなく、「今、何がキツイのか」「どうやった

ら成功をサポートできるのか」「どのボタンを押したらやりやすくなるのか」など、次

の行動につながる具体的な話し合いをすることが必要です。このような各論での行動の

基準を持っているかどうかが、大きな差になってくると思います。

これを、「OJT で育成していく」といった漠然とした話で終わらせてしまうと、新卒の期

間だけの話と解釈されたり、人によっては「彼女はもう一人前だから、あとは一人で頑

張らせれば大丈夫」といった何となくの解釈をしてしまって、実質機能が止まってしま

う危険性があると思います。

こうして上司と部下の間で、具体的な話を定期的に一対一で必ず実施するということが全

社的に行われるようになると、それが組織のカルチャーになっていきます。そうなると、

決められた期間以外でも、必要に応じてそうしたコミュニケーションが取られるように

なり、組織運営の面でも持続的な強さが出てくると思います。

【楠田】

確かに、昔の日本企業ではそうしたことが自然に行われていたように思いますね。

Page 17: 201009 破壊と創造の人事Final

【島村】

そうですね。OJT と言ったらフォーマルな感じで腹を割って話がしにくい。だからとい

って、飲み会だとカジュアルすぎて真剣な話がしづらい。だから、喫煙ルームでこそ、

本当の話が聞ける、なんて言われていましたよね。そんななかで、ちゃんとした上司は

うまく部下の本音を聞き出していたんでしょうけれど、今の若い人はお酒もあまり飲ま

ないし、煙草も吸わない。いろいろなことで接触機会が減っていくなかで、人工的にそ

の世界を作っていかなくてはならないというのが現状で、それが今我々がやっているこ

とだと思っています。

【楠田】

島村さんご自身も上司と定期的な個別ミーティングをしているんですか?

【島村】

はい。私には2人の上司がいますが、日本の上司とは通常の業務に関するミーティング

以外に、週一回必ず一対一で、そして、米国本社にいる上司とは、週に一回電話でミーテ

ィングをしています。このコーチングカルチャーが定着していくと、実は、パフォーマ

ンス評価に時間がかからないというメリットもあります。通常の査定というのは、中間

評価とか期末評価というのがあって、そのたびに社内が大騒ぎするようなところがあり

ますよね。一旦つけられた評価を、部門調整にかけ、本部長調整、役員調整を通して、社

長決裁まで上げていくと、2、3カ月くらいかかったりもする。それに対して、NIKE

Japan の場合は、すべてが2週間くらいで終わってしまいます。

「明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使いますか?」

【楠田】

パフォーマンス評価にあまり重きを置いていない?

【島村】

そんなことはありません。しかし、毎週毎週、上司と部下は具体的な仕事や課題の話、個

人の成長に関することまで話をしているわけですから、査定だからといって、いきなり

半期の業績の棚卸をする必要はないんです。もちろん、配下の組織の評価点のバランス

は確認しますが、実際にほとんど大きなぶれは見られません。

パフォーマンスを正しく評価することは大事だと思いますが、たとえば「売り上げが上

位目標に5万円足りないから評点は○○だ」といった具合に、近視眼的な正確さに多大な

時間と工数をかけすぎるのはナンセンスだとは思っています。なぜならば、パフォーマ

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ンスはあくまでも過去のことだからです。未来のことを語るベースとなるのは、一人ひ

とりのポテンシャルです。そちらに時間を使う方が建設的だと思いませんか?つまり、

「明日の試合のために時間を使いますか。昨日の試合を正確に反省することに時間を使い

ますか」ということです。

ですから、私が Talent Management の分野で使っている時間を考えると、8:2でポ

テンシャルに関する仕事ですね。Talent Management をちゃんとやっていこうと思っ

たら、こうした発想が必要だと思います。

【楠田】

Succession Plan での具体的な育成例を伺えますか?

【島村】

実は NIKE では、生え抜きの社員がトップマネジメントに上がっていくというケースが少

なくありません。現在の CEO であるマーク・パーカーは、もともとフットウェアのデザ

イナーでした。決して最初から経営のプロとして採用されたわけではありません。また、

現在のリテール部門のヘッドは、スポーツインストラクターからスタートしています。

彼らは、ある時期にポテンシャル人材として認められ、Succession Plan に乗って、今

の地位まで上がっていっています。

彼らのように一旦ポテンシャルを認められた人材に対しては、一人一人に対して長期的

なプランを作成するんです。これは、例えば、「5年後にこの人はどこにいてどんな貢

献をしていてもらわなければいけないの?」という問いから発して、達成目標を決め、

それを達成するために必要な経験を具体的なポジションレベルに落とし込んでいくもの

です。それが、先ほどの話でいくと、70の「経験」の部分。それに合わせて、20の

「コーチング」、10の「研修・学習」のプランを立てていきます。

【楠田】

これはまったく一人一人に対して個別の作業なんですか?パターンなどはない?

【島村】

まったく、個別です。マネジメントグループと HR で決めていきます。

【楠田】

マネジメントグループと HR が、テーラーメイドで決めていく、と。

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【島村】

はい、まさにテーラーメイドで。先ほど、「ベンチの厚さ」のお話をしたときに、たと

えとして、役員レベルに上がる可能性のある次世代リーダー候補を30人作るという話

をしましたね。このたとえでは、30通りのテーラーメイドのキャリアプランを作って

いくということになります。これはまさに、ポテンシャルをどんどん引き出して更に上

げていく作業。8割の時間が必要だという理由をご理解いただけると思います。

【楠田】

それが NIKE の強さの根源なんですね。しかし、例えば5年というのは、今のビジネスの

スピード感からいくとずいぶん先のこと、という感じがあります。おそらく誰も5年先

のことなど確約できないのではないかと思いますが・・・。

【島村】

おっしゃる通りだと思います。これは会社として5年先を約束する、ということではあ

りません。5年後に、会社が期待する成長と、本人が目指したいことをすり合わせて、

明文化し、実行に移していくということです。実際に、毎年毎年見直します。一回決めた

ら固定されるものではないのです。

【楠田】

毎年見直しが入るわけですね。それで理解できました。

【島村】

ただし、テーラーメイドのディベロップメントプランを立てる中で、勤務地(国)が変

わるような場合には、いつ戻ってくるかという点については契約できちんと決めるよう

にしています。「Repatriate(本国への帰任)がない、Expatriate(海外赴任)はな

い」というのが原則です。つまり、Expatriate(海外赴任)は、Repatriate(帰任)後

に会社が本人にどのような期待をするか、それに対するディベロッププランとして海外

でどのような経験を積む必要があるのか、という位置づけにしているということです。

逆に、帰任後に向けてのディベロップメントと位置づけない海外勤務もあり、その場合

は 海外への人事異動 ということで「「 」 Expatriate(海外赴任)」とは区別して、勤務地

(国)のローカル社員として位置づけられます。

【楠田】

日本の企業を見ていると、そこがあいまいなケースが多いですよね。海外に駐在員とし

て赴任したはいいけれど、戻ってきたときにポジションがなかったという話を、残念な

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がらよく聞きます。NIKIE ではそのあたりの仕組みがきちっとできているから、総合的

な Talent Management ができるのでしょうね。

【島村】

勤務地(国)の問題を除けば、毎年見直しが入るわけですが、それは個々人のキャリア

プランだけではありません。5 year aimed role & Development Plan の対象となりう

るポテンシャル人材であるか、Talent Pool自体にも見直しがかかります。

【楠田】

「ベンチ」の入替があるわけですね。

【島村】

はい。ビジネスの状況とその変化に応じた組織力・リーダーシップを先行確保するため

に、そのあたりは、かなりシビアに見ています。

次世代リーダー候補に必須な、Learning Ability, Learning Agility

【楠田】

ただ、そもそも誰に高いリーダーシップポテンシャルがあるのかを判断することは難し

くはありませんか?

【島村】

おっしゃる通りです。言葉として条件を上げていくと、多分どこの企業でも当てはまる

リーダーシップ像になってしまうと思います。ですから、そうした項目をチェックリス

ト的に使って、一番チェックの多い人をピックアップするという方法は取りません。現

実的ではないですからね。実際には各部門と人事でポテンシャルを見る視点やレベル感

を合わせながら、最終的には高いレベルでポテンシャルに対する信頼性を得られている

候補を常にリストアップしています。

ただし、必ずチェックをするのが、Learning Ability, Learning Agility(学習能力・学

習機敏性)です。学習能力が高い人は、リーダーシップに必要な要素を後からでも吸収し

ていけるんですよね。ですから、最終的に選抜する際には、その人の Learning Ability,

Learning Agility のレベルを必ずしっかりと確認します。また、「この人は、Job

Description(決められた職務記述書)の内容の範囲で仕事をしたい人なのか、それを自

分から越境していきたい人なのか」を確認します。自ら越境していきたい人でないと、

新しいことを学習しようなんて思わないですからね。

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また、少し違った観点からポテンシャル人材を考えてみると、そこにもヒントがありま

す。Leader として期待されていた人物が脱落してしまう時というのは、High

Performer がそのまま Leader になろうとしているケースが多いんですね。そういう人

は、自分がずっと High Performance を達成してきたからか、他人に求めるレベルの高

さが程度を超えて上がっている場合や、どのように仕事を進めていくかとか、遂行して

いくかという「How」ばかりに気を取られすぎて、どうやってチームメンバーを

engage させて、drive し、チームとして結果を出させていくかという視点を持てない場

合が多いんです。どうしても、how から what という発想に行けない。ポテンシャル人

材を考えたときには、こうした点も重要な要素になってくると思います。

店舗のアルバイトが、商品開発のグローバルのヘッドに

【楠田】

ここで日本での採用についてお伺いしたいのですが、NIKE Japan では、新卒4月1日正

社員採用は実施しているんですか?

【島村】

現在、基本的には、新卒4月1日入社のための採用は行っていません。ただ、「結果新

卒」というのはあります。

【楠田】

結果新卒?

【島村】

NIKE Japan では直営の小売店を持っているので、そこで働いている学生アルバイトも少

なくありません。そのなかで、たまたま大学3年の終わりを迎えた学生で、実績を上げ

ているし、将来のポテンシャルも見えるという人がいた場合は、彼ら・彼女らが大学を

卒業するのを待って正式採用ということもあります。これが「結果新卒」ですね。

例えば、現在、あるスポーツカテゴリーのフットウェアの商品開発のグローバルのヘッ

ドは日本人なのですが、彼は、国内のある店舗のアルバイトからスタートしたのです。

彼はとにかくシューズが好きで、店でも頭角を現して、先ほどいった「結果新卒」とし

て NIKE Japan に入社しました。その後、Job Posting(社内公募)で、Sample

Coordinator という仕事に自ら手を上げて、その店舗から日本の本社に異動しました。

Sample Coordinator というのは、商品開発を行うときのテストに使われるサンプルを

準備する役割で、コアの仕事ではありませんが、靴の開発の近くにいることができるポ

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ジションです。彼はその中で学んだことを基に、新商品に対する自分の意見を表明する

ようになり、そのクリエイティブなアイデアが認められて、まず、狭いラインの商品開

発のマネジャーに抜擢されます。その後、ポテンシャル人材として長期のキャリアプラ

ンを与えられ、様々な経験を経て、2年前に米国本社の今のポジションに就いたのです。

【楠田】

総合的な Talent Management が実際に機能して、ポテンシャル人材を花開かせている

んですね。すばらしい。

それにしても、これまでの島村さんの発言を伺っていると、単に「人事部長」というよ

りは、完全にビジネスパートナーとして発想していますよね。それはどういうところか

らきているんでしょう?

【島村】

まずは最初にお話した NIKE の文化の影響が大きいと思います。それに加えて、個人的に

私がもともと商社の営業からキャリアをスタートさせたから、ということも影響してい

るかもしれませんね。5年間、鉄鋼部門で国内外の単位の大きい取引に携わっていまし

た。その商社でその後、海外人事および労務担当に異動しました。そこでは全社にまた

がる大きな経営課題との接点も多かったことも、今の視点を持つきっかけになっている

のかもしれません。

【楠田】

ここで、島村さんご自身が日常どんな風に海外の上司・同僚と仕事をしているのか、お

聞きしたいと思います。

【島村】

私の同僚になるのは、中国やヨーロッパなど各地域の HR のヘッドと、各 Function、マ

ーケティングやリテール部門などの HR のトップです。このグループは、Quarter に一

回本社に集まってグローバルHRリーダーシップミーティングを持ちます。そのほか、

このグループでは、2週間に一回テレコンファレンスを行っています。

【楠田】

そこではどんな話をするのですか?

【島村】

多岐に渡りますね。Talent Management の話もありますし、具体的な組織の話がでる

こともあります。

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詳細にはお話できませんが、例えば、ある function の組織が成長戦略に対して十分

Effectiveじゃないのでは?という問題提起がされて、それについて話し合うといった感

じです。どこがボトルネックになっていて、どのようにそれを解消できて、何が変化の

レバーになるのかなど、具体的に問題点をさぐり、解決策を考えていくこともあります。

また、ある国での Compensation(報酬)レベルが十分競争力を持っているのかという

課題が上がったこともあります。今よりかなり多く報酬を払わないと優秀な人材が流出

してしまう恐れがあると。ではどのレベルだったら流出しないのか。そもそも本当に報

酬レベルの問題なのか。など、様々なバックグラウンドと経験を持つ専門家が意見を出

し合います。

私は、現在 NIKE Japan の HR のヘッドの他に、Talent Acquisition(人材スカウト)部

門のアジアチームのヘッドも兼任しているのですが、こちらも2週間に1回、同様のテ

レコンファレンスを行っています。

それから、先ほど申し上げたように、アメリカの上司と、週に一回のミーティングを、

これも電話で行っています。

役員・部長クラスの仕事からオペレーション実務の仕事、修羅場まで、様々な場面を無理をしても経験せよ

【楠田】

思った以上に海外の同僚たちと頻繁にコミュニケーションを取っているのですね。では

最後に、島村さんから、20代、30代のビジネスパーソンにメッセージがあればお願

いします。

【島村】

20代、30代ということでしたら、無理をしてでも役員・部長クラスの仕事からオペ

レーション実務の仕事まで、多岐にわたった業務を経験した方がいいと思います。

役員・部長クラスの仕事というのは、ビジネスにインパクトを与えるような、全社的な

プロジェクトといったイメージです。同時に、オペレーション実務、例えば人事業務で

言うならば、ペイロールのような仕事も経験しておいた方がいいと思っています。役

員・部長クラスの仕事を経験すると、「そんなルーティン業務はやりたくない」と考え

てしまう人もいるようですが、プロになっていきたいなら、あらゆる仕事を無理にでも

経験するくらいの気持ちが大事だと思います。

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というのは、そうした経験を積んでいると、実際に役員・部長クラスのポジションに就

いてから問題に直面したときに、どこが本当に現実的に解決できるポイントかが見える

んです。それが見えないと全体をダイナミックにドライブできないし、そうしないとビ

ジネスにインパクトがある仕事ができないと思います。ですから、えり好みせずに、と

にかく広く経験することを意識した方がいいいと思います。

また、あるときブレイクスルーした人を見ていると、必ず Tough Experience、修羅

場を乗り越えていますよね。海外駐在をして誰にも助けてもらえない状態で新しい拠点

を作ったとか、関係会社を閉めにいったとか。そういう状況を、歯を食いしばって乗り

越えてみると、気がつかないうちに成長しているものです。是非できるだけ若いうちに、

そうした経験ができる機会を、無理をしても取りにいってほしいですね。

【楠田】

本日はどうもありがとうございました。

(2010年8月/構成・文:インフォテクノスコンサルティング株式会社 大島由起

子)