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2009 年度朝食会 B-LIFE21 ©B-LIFE21, 2009. All rights reserved. 未許可での理由、複製の作成又は開示を禁じております。 お問合せ先:環境を考える経済人の会 21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/ 1 / 24 環境を考える経済人の会 21 2009 年度第 2 回朝食会 「日本再生の新シナリオ グリーン・リカバリー」 三橋規宏氏(B-LIFE21 事務局長) 2009.6.25 三橋規宏 皆さん、おはようございます。今日は「グリーン・リカバリー」の話を始 める前に、一言お願いしたいことがあります。例年環境寄附講座をやってきました。 昨年第 10 回をお茶の水女子大で開講しました。ちょうど 10 年目の節目が終わったと いうことで、今年は寄附講座を休校させていただきたいと思います。日頃会員の皆さ んには講師として教壇に立っていただき、感謝の念に耐えません。今年は、100 年に一 度の世界不況に巻き込まれ、経済が低迷し、企業経営は大変厳しい状況に陥っており ます。一部会員の休会ということもあり、体制を整えるという意味もあり、例年秋に 開講してきた環境寄附講座は今年度は休会ということで宜しくお願いします。また来 年度には再開させたいと思っています。そういう事情なのでご理解いただきたいと思 います。 早速ですが、「日本再生の新シナリオ グリーン・リカバリー」という本を書いた機 会に、基本的な考え方を私のほうから問題提起をさせていただいて、その後皆さんと 率直な意見交換をさせていただければありがたいと思っています。 100 年に一度の大津波 ご承知のように、昨年 9 15 日のリーマン・ブラザーズの経営破綻から始まった、 アメリカ発の金融危機は世界同時不況というかたちで、瞬く間に世界中に広がり 100 年に 1 度の大津波と言われるような大激震をもたらしました。IMF の世界経済見通し によると、2008 年の経済成長は世界全体で 3.2%増、先進国は 0.9%増とかろうじてプ ラス成長を維持しましたが、今年(2009 年)は最も危機の影響が深刻に顕われ、世界 全体で経済成長率は 1.3%のマイナス成長、特に先進国の打撃は大きく全体で 3.8%減、 中でも日本の状態は深刻で、経済成長率は 6.2 %のマイナスということです。アメリカ、 ユーロ圏も全滅です。2010 年については、中国などが先導して世界経済はプラス成長 に転じる見通しですが、先進国に限ってみれば、プラス、マイナスゼロという感じで はないかと思っています。今回の不況から立ち直るためには、かなりの時間がかかる のではないかと懸念しています。 今度の不況がなぜ急激に、かつドラスティックなかたちで、世界中に広がっていっ たのでしょうか。不況の性格がこれまでのような単なる循環型不況ではなく、20 世紀 の繁栄を支えてきたシステムが構造的に行き詰まってしまった結果、起こってきた不 況ではないかと考えています。 リーマンショックが引き金になった今回の世界同時不況は、現象的にはアメリカの 金融危機が原因ですが、その本質は 20 世紀を支えた石油文明の崩壊に尽きると思いま す。石油を湯水のごとくジャブジャブ使って、大量生産、大量消費によって物的豊か さを求める経済発展の時代が終わったということです。したがって、今度の世界同時
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2009 年度朝食会 B-LIFE21 · 2011. 1. 12. · 三橋規宏氏(b-life21 事務局長) 2009.6.25 三橋規宏 皆さん、おはようございます。...

Oct 17, 2020

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Page 1: 2009 年度朝食会 B-LIFE21 · 2011. 1. 12. · 三橋規宏氏(b-life21 事務局長) 2009.6.25 三橋規宏 皆さん、おはようございます。 今日は「グリーン・リカバリー」の話を始

2009 年度朝食会

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環境を考える経済人の会 21 2009 年度第 2 回朝食会

「日本再生の新シナリオ グリーン・リカバリー」

三橋規宏氏(B-LIFE21 事務局長) 2009.6.25

三橋規宏 皆さん、おはようございます。今日は「グリーン・リカバリー」の話を始

める前に、一言お願いしたいことがあります。例年環境寄附講座をやってきました。

昨年第 10 回をお茶の水女子大で開講しました。ちょうど 10 年目の節目が終わったと

いうことで、今年は寄附講座を休校させていただきたいと思います。日頃会員の皆さ

んには講師として教壇に立っていただき、感謝の念に耐えません。今年は、100 年に一

度の世界不況に巻き込まれ、経済が低迷し、企業経営は大変厳しい状況に陥っており

ます。一部会員の休会ということもあり、体制を整えるという意味もあり、例年秋に

開講してきた環境寄附講座は今年度は休会ということで宜しくお願いします。また来

年度には再開させたいと思っています。そういう事情なのでご理解いただきたいと思

います。

早速ですが、「日本再生の新シナリオ グリーン・リカバリー」という本を書いた機

会に、基本的な考え方を私のほうから問題提起をさせていただいて、その後皆さんと

率直な意見交換をさせていただければありがたいと思っています。

100 年に一度の大津波

ご承知のように、昨年 9 月 15 日のリーマン・ブラザーズの経営破綻から始まった、

アメリカ発の金融危機は世界同時不況というかたちで、瞬く間に世界中に広がり 100

年に 1 度の大津波と言われるような大激震をもたらしました。IMF の世界経済見通し

によると、2008 年の経済成長は世界全体で 3.2%増、先進国は 0.9%増とかろうじてプ

ラス成長を維持しましたが、今年(2009 年)は最も危機の影響が深刻に顕われ、世界

全体で経済成長率は 1.3%のマイナス成長、特に先進国の打撃は大きく全体で 3.8%減、

中でも日本の状態は深刻で、経済成長率は 6.2%のマイナスということです。アメリカ、

ユーロ圏も全滅です。2010 年については、中国などが先導して世界経済はプラス成長

に転じる見通しですが、先進国に限ってみれば、プラス、マイナスゼロという感じで

はないかと思っています。今回の不況から立ち直るためには、かなりの時間がかかる

のではないかと懸念しています。

今度の不況がなぜ急激に、かつドラスティックなかたちで、世界中に広がっていっ

たのでしょうか。不況の性格がこれまでのような単なる循環型不況ではなく、20 世紀

の繁栄を支えてきたシステムが構造的に行き詰まってしまった結果、起こってきた不

況ではないかと考えています。

リーマンショックが引き金になった今回の世界同時不況は、現象的にはアメリカの

金融危機が原因ですが、その本質は 20 世紀を支えた石油文明の崩壊に尽きると思いま

す。石油を湯水のごとくジャブジャブ使って、大量生産、大量消費によって物的豊か

さを求める経済発展の時代が終わったということです。したがって、今度の世界同時

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不況がいつ頃からまた正常な状態に戻るかについては、いろいろ見方がありますが、

いずれにせよ、正常に戻った後の経済の姿は、リーマンショック以前と比べて様変わ

りの経済になっているだろう、社会も質的に大きく変化しているだろうと考えられま

す。

すでに先進国の間では、節約型のライフスタイルが定着しつつあります。成熟社会

に入って、モノよりも心の豊かさ、精神的な落ち着きを人々が求めてきています。化

石燃料依存社会から低炭素社会へ向けた意識変革も進んでいます。環境破壊、資源枯

渇化の危機意識も強まってきています。このようなかたちで世の中も相当変わってい

く。首をすくめて今度の世界同時不況をやり過ごせば、また以前のような、石油に依

存した大量生産、大量消費型の経済がやってくる、と期待するなら間違いなく裏切ら

れることになると思います。当然、今回の大不況を乗り切るための政策も、これまで

のような道路づくりのための公共事業を増やすとか、減税をするといったやり方では

乗り切ることができません。太陽光や風力を利用した新エネルギーの活用、省エネ技

術の開発、資源循環、低炭素社会の構築など、これからの時代が必要とするグリーン

(環境)に根ざす新しい需要、投資を顕在化、爆発させ、それらの需要を総動員させ

ることで、これまでとは違う新しい発展を目指していかなければなりません。

デカップリング政策の推進

本書、「グリーン・リカバリー」は、このような問題意識でまとめました。本書でも

指摘しているように、自然環境破壊、資源収奪型の経済発展は、終焉を向かえました。

これから目指すべき方向は、環境保全、生態系の維持、資源循環を基調とした低炭素

社会の実現です。そのために環境保全型の公共投資、農林水産業の再生と復活、省エ

ネ、新エネ、省資源、リサイクル分野のイノベーション(技術革新)の推進を通して、

環境とビジネスを両立させるための新しい仕組みをつくることです。それが実現しな

ければ経済の回復は難しいだろうと考えています。

これからお話しする内容は、主として日本が中心です。途上国の場合は、その取り

組みも尐し違うと思いますが、それはまた後ほどディスカッションの場で、必要なら

ば議論させていただきたいと思います。これからのお話は、日本を中心としたリカバ

リーということでお考え下さい。

日本がグリーン・リカバリーによる経済再生を目指す場合のキーワードは「デカッ

プリング(decoupling)」です。デカップリングとは、密接な関係にある二つの要素を

引き離すことです。具体的には適正な経済成長率を維持しながら、一方で温室効果ガ

スの排出量を削減する経済政策を強力に推進することです。これを「デカップリング」

という言い方をしています。環境と経済、環境とビジネスの両立を目指すためには「デ

カップリング」に本格的に取り組んでいかなければ達成は不可能です。

そのためには、これまでの経済発展モデルを転換させなければなりません。過去 100

年間の化石燃料依存型の経済発展は、経済成長を実現するためには化石燃料の消費が

必要です。高い経済成長を実現するためには、石油を大量に使わなければなりません。

逆に言えば、石油をじゃぶじゃぶ使わなければ、高い経済成長を達成することはでき

ませんでした。過去 100 年の 20 世紀が石油文明の時代といわれるのは、石油なくして

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達成できなかった豊かさだったか

らです。しかし、この発展モデル

は地球温暖化などを含めた地球の

限界に突き当たることによって破

綻してしまいました。図①が化石

燃料依存型の経済発展です。経済

成長と化石燃料の消費が同じ方向

(右肩上がり)で表示されていま

す。この発展パターンが破綻して

しまったわけです。その場合の選

択の仕方は二つあります。化石燃料の消費を抑え、経済成長もマイナスにする縮小経

済の選択です。図②です。図②の選択は、理屈の上では可能です。しかし、図②の世

界を選択すれば、経済活動が縮小し、失業者が急増し、社会不安や混乱が発生する可

能性が大きく、現実的に不可能です。

そこで、第三の選択として、図③の低炭素社会を目指すための発展モデルの選択が

現実的だということになります。図③の低炭素経済型の発展モデルの特徴は、化石燃

料の消費を削減させながら、一方でプラスの経済成長率を実現させることです。別の

言い方をすれば、CO2 の排出量を削減させながら、プラスの成長を達成する 21 世紀型

の新しい発展モデルを作り上げることです。図で説明すると、図①から図③への転換

です。図①では、すでに指摘したように、経済成長と化石燃料の矢印が同じ方向に向

かっていますが、図③では、緑色の経済成長の矢印が右肩上がりなのに対し、化石燃

料というオレンジで書いてある部分の矢印が右下がりになっており、矢印の方向が右

上がりと右下がりに分かれていることが分かります。時間の経過とともに、両矢印の

乖離幅が拡大してきます。この乖離幅が拡大すればするほど、デカップリング政策は

成功したことになります。ここが図①と一番大きな違いです。図③で示したような新

しい経済発展を目指していかない限り、今度の不況を乗り切ることは無理だと思いま

す。化石燃料依存型社会から低炭素社会にいくためには、化石燃料の消費をマイナス

に転じ、一方で経済成長率をプラスに維持する政策が必要であり、そのための手段が

デカップリング政策だということになり

ます。

スウェーデンで成功した

デカップリング政策

これはよく私がお見せする図です。ス

ウェーデンではすでにデカップリング政

策が成功しています。1990 年から 2006

年までの 16 年間にスウェーデンでは

GDP が 44%増加しています。それに対し

て温室効果ガスは 8.7%減になっていま

す。まさに温室効果ガスを削減させなが

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ら経済成長率を高めることに成功したわけです。この成功のために、スウェーデン政

府は、いろいろな対策を実施してきましたが、それは後ほどお話します。

同じ期間、日本はどうだったかというと、16 年間で GDP はわずか 19.3%しか増えて

いません。スウェーデンの GDP 成長率の半分です。16 年間でわずか 19.3%。年率で言

えば 1%台の低成長です。

逆に温暖化ガスの排出量は同じ期間に 6.3%も増えています。1%程度の低成長をする

ためにも温室効果ガスは増加しています。日本の場合、経済成長と化石燃料の結びつ

きがいかに強いかが分かります。

スウェーデンと日本の違いから、何が読み取れるでしょうか。大きく二つあります。

一つはこの 16 年間にスウェーデンはデカップリングのためにさまざまな政策を展開し

ています。日本は 1990 年から今日までほとんど政策らしい政策は展開していません。

政府は日本経団連を中心とした自主行動計画による CO2 の排出削減に全面的に依存し

ていますが、その効果は全く上がらないまま今日に至っています。ですから、16 年間

にデカップリング政策に積極的に取り組んできた国とほとんど何もしなかった国とで

は、16 年間という歳月でみると大きな違いがでてくることが分かります。

もう一つの違いは、先進国の場合には化石燃料依存型で高い経済成長を実現するこ

とがもはや許されなくなってきたということです。化石燃料を使って経済成長を高め

るということができないのは、先進国に共通した現象です。もちろん量的 CO2 規制が

ない中国やインドなどの発展途上国では引き続き化石燃料をどんどん使って高い経済

成長を実現することはできます。しかし、日本を含めた先進国の場合には CO2 の排出

規制が厳しいため、化石燃料を使っている限り高い成長は実現できなくなります。

ですから、日本がこれから高い成長といっても 2%程度の成長ができれば良いのです

が、それを実現するためにも温室効果ガスの排出量をマイナスに転じさせなければな

りません。そのマイナスに転じさせるデカップリング政策が生み出す新規需要を爆発

的に顕在化させ、その総和として新しい経済成長を実現させる政策しかありません。

経済人の多くは、依然、化石燃料を使うことによってしか経済成長を実現できないと

考えていますが、それは過去の成功に引きずられた錯覚に過ぎません。経済成長と化

石燃料の密接な関係を引き剥がすことでしか、今回の不況からの脱出は不可能です。

下図は、ウェーデンのデカップリングの効果を時系列で示したものです。1990 年を

基準にしています。上のほうに伸びている薄い黄色の線が GDP の増加です。右下がり

になっているのが温室効果ガスです。

一つの政策を実施すると、その効果が

でるまでにどうしてもタイムラグが生

じます。スウェーデンでは 1990 年から

炭素税の導入等いろいろな対策を講じ

てきたのですが、効果が出るまでには

数年かかりました。スウェーデンの場

合、その効果が実際に目に見えるかた

ちで現われるようになるには、5 年以

上の歳月がかかっています。この図か

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らも明らかなように、95 年頃までは、経済成長と温室効果ガスの動きには大きな変化

がありません。しかし、97 年頃になると、両者に開きが出てきます。GDP は右肩上が

りの動きを強める半面、温室効果ガスの排出量はマイナスに転じ、右下がりの動きを

見せ始めます。あとは時間の経過と共に順調に GDP が増えていき、CO2 の排出量は減

っていくというデカップリングの関係が目立つようになります。

左図はスウェーデンのベクショー市

が暖房用・給湯用のエネルギー源を石

油から木質バイオマスに 20 年かけて

転換させたケースです。 79 年には

100%石油に依存していましたが、2000

年には石油の依存度は 5%以下になり、

燃料の大半はバイオマスに転換しまし

た。図はそのことを示した図です。ス

ウェーデンでは、石油からバイオマス

にエネルギー転換する場合に、第一段

階として、80 年代の 10 年間は主とし

てそれまでの石油ストーブを薪ストー

ブに転換するための補助金を支給しま

した。補助金支給によって、各家庭にある石油ストーブから薪ストーブへの転換を推

進しました。第二段階は環境税の導入です。90 年以降になると、今度は環境税の導入

によって、エネルギー源に価格差をつけました。この過程を経て、約 20 年かけて石油

からバイオマスにエネルギー転換することに成功した。

この図は 90 年以降実施して

きた環境税の実施です(右図)。

単位がオーレ(öre)になって

います。1kW/h の電気をつく

るためのエネルギーの費用が

どのくらいかということを示

しています。1オーレは 0.1 円

くらいです。バイオマスです

と、1kW/h の電気を作るため

の費用は約 10 オーレです。こ

れには環境税は一切かかっていません。それに対して石油(Oil)の場合には赤い部分

がエネルギー税です。ブルーの部分が炭素税、黄色い部分が硫黄税というかたちで環

境税がかけられています。税金がかからない場合の石油価格は、約 15 オーレですが、

課税によって実際には 40 オーレに跳ね上がります。ですから、1kW/h あたり 10 オー

レで燃料を買えるのと、40 オーレとでは価格に 4 倍の違いがあります。これだけの価

格差があれば、石油からバイオマスへの転換が急速に進むのもうなずけます。環境税

によって化石燃料の消費を抑制するということは、非常に大きな効果があることが分

かります。

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これは、先ほど示した低

炭素社会を実現していく

ためのデカップリング政

策の図です。経済成長は

高める。しかし、化石燃

料、CO2 は減らしていく。

これがデカップリング政

策です。具体的な対策は、

ここに書いてあります。

省エネ技術、新エネ技術、

バイオマス、ヒートポン

プ、電気自動車等いろい

ろ書いてあります。この他に新制度設計、自然再生などというキーワードもあります。

イノベーション、制度設計、自然再生の三つの分野で重点的に推進

デカップリング政策は大きく三つの分野で重点的に推進することで効果が期待でき

ます。第一が、イノベーション、第二が制度設計、第三が自然再生です。最も効果の

大きいイノベーションについては後ほど説明します。

その前に第二の制度設計と第三の自然再生について簡単に説明したいと思います。

まず制度設計ですが、現在のエネルギー関係の法律、制度は、化石燃料を利用しやす

いような設計になっています。したがって、この制度を変えなければ新エネルギーを

普及させることはできません。エネルギーの競争力で比較すると、太陽光発電や風力

発電、バイオマス発電のような新エネルギーが石油に太刀打ちできる要素は何ひとつ

ありません。使い勝手は悪いし、エネルギー効率は悪い。天候に左右されやすいし、

安定供給が難しいなどなど。その点石油は、豊富に存在しており、使い勝手も良い、

価格も安く持ち運びも便利です。ただひとつ、CO2 を大量に排出するという欠点を除

けば、石油にかなう新エネルギーなど存在しません。石油に代えて新エネルギーを普

及促進させるためには、安くて使い勝手のよい石油を使い勝手が悪く、価格も割高に

なるような政策を人為的に導入する以外方法がありません。ゴルフでいえば、シング

ルプレーヤーにかなり大きなハンディキャップを付けるようなものです。市場メカニ

ズムに委ねるだけでは、新エネルギーが石油に勝てるはずがないのです。新エネルギ

ーを普及、促進させるためには、化石燃料の使い勝手が悪くなるように、たとえば環

境税の導入など価格を引き上げるなどの新しい制度の導入が必要になります。現在の

ような化石燃料中心のエネルギー構成比を転換させるためには、新しい制度設計が非

常に重要な役割を果たします。

次に自然再生です。日本の場合には工業製品の開発、輸出重視で高度成長を実現し

てきましたが、その過程で農業、林業、水産業の持続可能な開発を怠ってきました。

その結果、今度の不況では先進国の中で最も影響を強く受けています。日本は自然環

境の維持、国土の保全のために必要な第一次産業、すなわち農業、林業、水産業を犠

牲にして輸出依存型の発展を遂げてきました。これからは内需依存型の発展が必要で

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す。日本には農産物をつくる土地も豊富にありますし、国土の 70%弱が森林です。日

本列島は長く、その周辺には豊かな漁場がたくさんあります。日本の再生のためには、

農林水産業を再生、復活させることが必要です。食料、木材、魚介類の国内自給率を

高めることを目標にした総合的な一次産業再生のための計画を作成し、実施すること

が求められます。

イノベーションを推進するための制度設計と税制の導入が急務

デカップリング政策の推進役の中で、最も期待されているのがイノベーション(技

術革新)です。石油に代わる新エネルギーの開発と普及、省エネ技術の開発と普及は

急務です。これから期待される新エネルギーとしては、太陽光、風力、バイオマス、

ヒートポンプ、地熱、波力、水素などといろいろあります。走行中 CO2 を排出しない

電気自動車、燃料電池自動車への期待も強まっています。省エネ、省資源、リサイク

ル関連のさまざまな技術革新も必要ですが、日本はこれらの分野の多くで、世界的に

優位な立場を維持しています。これらの分野に、ヒト、モノ、カネを集中的に投入す

ることで、時代の変化を先取りしていくことが求められます。新しいイノベーション

が起こる過程で、既存の産業構造も大きく変わってくると思います。よく指摘されて

いるように、今のガソリン自動車をつくる場合に、そこで使われている部品の数は平

均 3 万個くらいあります。3 万部品を組み立ててガソリン自動車をつくっています。3

万部品の中で約 2 万部品はエンジンに関わる部品だそうです。このため、モーターで

走る電気自動車の時代になると 2 万部品がいらなくなってしまいます。エンジン関連

の部品をつくってきた部品メーカーは、転業を余儀なくされるようになるかもしれま

せん。一方、1 万部品で電気自動車ができるようになれば、他業界からの新規参入がし

やすくなります。機械や家電などの業界が電気自動車をつくるようになるかもしれま

せん。電気自動車には、高性能の蓄電池が必要です。高性能の蓄電池が開発されるよ

うになれば、サハラ砂漠のような場所で、太陽光発電でつくった電気を送電線を使わ

ずに運ぶことが可能になります。新エネ技術や省エネ技術の開発とその普及に伴って

既存の産業構造は相当大きな変化を遂げていくことになります。

新しい技術革新が促す変化を的確に見通すく能力がないと、方向を誤る恐れがあり

ます。

今ハイブリッド車は、トヨタ、ホンダを中心に生産されており、世界優位を保って

います。しかしハイブリッド車の時代が長く続くかといえば、必ずしも、そうはいえ

ない状況が生れています。今度の世界同時不況の中で、アメリカ、ヨーロッパの自動

車メーカーは大打撃を受けました。そこで各国政府は自国の自動車産業擁護のために、

さまざまな政府支援を打ち出しています。それにあたっても口実が必要です。単に自

国の自動車産業を保護するために他の国の自動車と差をつけるようなかたちでお金を

付ければ、それは保護主義というかたちになってしまう。もちろん貿易の自由化を推

進している WTO(世界貿易機関)違反になります。従って名目が必要になってきます。

その名目は環境配慮車である電気自動車の開発支援ということです。

電気自動車の開発のためにアメリカ政府は、アメリカのビッグスリーにお金を出し

ますとか、ドイツもダイムラーにお金を出しますとか、そういうかたちになると、単

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なる保護主義というよりも「環境に配慮した CO2 を出さない車の開発にお金を出すの

だから、それは保護主義ではない」という言い方ができます。今度の不況が発生する

前には、ハイブリッド車の時代がわりと長く続くのではないかと思われてきました。

しかしながら、深刻な不況に見舞われている現在、ハイブリッド車の時代は長く続か

ないのではないかとの見方が強まっています。例えば、ハイブリッド車の時代は 2015

年くらいをピークにして電気自動車が急速に追い上げてくるのではないか、2020 年く

らいになるとハイブリッド車と電気自動車が頭を並べ、それ以降は電気自動車の時代

になるのではないかといった観測です。ハイブリッド車は、半分はガソリンエンジン

を使っているので、CO2 を排出します。その点電気自動車は、製造過程は別として走

行過程では 100%CO2 を排出しないので、そちらのほうに急速にシフトしていくかもし

れません。

自動車産業は、先ほど申し上げたように 3 万部品を使う大産業ですので、あらゆる

産業を巻き込むわけで、発展途上国が経済を発展させるために自動車産業を誘致する

というのはまさにそういうことだったのです。そういう時代も過去のものになる可能

性があるのです。

リサイクル関連産業も発展のためには様々な法律上の壁があります。日本の廃棄物

処理法は都道府県単位で知事の認可が必要ということです。全国ベースではありませ

ん。そうすると、有能な廃棄物処理業者が経営を拡大しようと思っても、営業範囲が

都道府県どまりになってしまいます。アメリカやヨーロッパでは廃棄物処理業者の大

手は 1 兆円規模の売り上げがあると言われています。それに対して、日本の場合には

非常に成功している廃棄物処理業者、例えば私の大学がある市川市には市川環境エン

ジニアリングという非常に優れた経営者の下で廃棄物処理をやっている業者がいます

が、そこの売り上げが、年間 100 億円を超えられないのです。それは千葉県という枞

の中で閉じ込められているからです。廃棄物処理などの静脈産業が動脈産業と匹敵す

るようなかたちで大きくなっていくためには、都道府県ベースではなく、全国ベース

で事業が展開できるように廃棄物処理法の改正が必要になってきます。大きなイノベ

ーションの余地があるにもかかわらず、制度設計が遅れているためになかなか産業と

して大きくなることができないという深刻な問題が起こっています。

先ほど尐し触れましたが制度設計とは、具体的には法律や税制などの制度を時代の

要請に見合うように変更し、積極的に活用していくことです。制度設計の中で、特に

大きな役割を占めるのが税制です。今の先進工業国では税制を変更することで産業構

造を変えることもできますし、エネルギー構成比を変えることもできます。時代が必

要とするいろいろな新しい産業を興すこともできます。ですから税制活用こそ、グリ

ーン・リカバリーのためには避けて通ることはできません。わが国では、温暖化対策

など環境改善のために税制を積極的に活用してきませんでした。しかしこれからは、

避けるべきではありません。バッズ課税、グッズ減税、炭素税などの環境税、新エネ、

省エネ技術を推進するためのインセンティブ税制などの導入が急務です。

新エネへの補助、地方分権化による農林水産業の活性化

新エネや省エネ技術などの開発、普及促進のための補助金も効果的です。補助金と

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いうのは初期需要を拡大させるためにはもちろん避けて通れませんが、日本の場合に

は新しい技術や産業を興す場合、必ず補助金による支援が実施されます。補助金で初

期需要がある程度付いた段階で、今度は市場メカニズムを活用させて一段と普及を図

る対策が必要なのですが、そのための制度設計が非常に下手です。

太陽光発電や風力発電の普及に当たって、ドイツでは固定価格買取制度を導入して

成功しています。日本では同じような目的で RPS 法(電気事業者による新エネルギー

等の利用に関する特別措置法)をつくりましたが、ドイツのように効果があがってい

ません。それどころか、新エネルギーの普及の足かせになってしまっているような好

ましくない制度設計になってしまっています。RPS 法は、電気事業者に電力供給の一

定割合を新エネルギーで賄うことを義務付けています。しかし一定割合が、電力供給

の 1%台と尐なく、新エネルギーの買い取り価格も安いため、太陽光発電や風力発電に

挑戦する企業家にとって魅力的な法律になっていません。どうしてそういうことにな

ってしまっているかというと、電力会社が新エネルギー発電が供給する電力を割高の

価格で購入しても、割高で購入した分を末端の電力価格に反映させるようなことがで

きないからです。経済産業省は電気代の値上げというと国民の反発を受けるので、電

力会社には経営努力で吸収するように指導してきました。電力会社が新エネルギー分

を割高な価格で買い続ければ、経営悪化を招きます。経済産業省が高い値段で購入す

るように電力会社を指導する場合、高く購入した分を末端の電気代に加えることをみ

とめなければなりません。ドイツでは、末端価格への転嫁を認めています。そういう

ところまでしっかりと設計することによって初めて新エネルギーは普及していくわけ

です。

キャップ&トレードによる CO2 の排出量取引も非常に効果があると思います。法律

による規制としては、自動車の排ガス規制や、あるいは家電のトップランナー方式な

どが成功した事例として挙げられます。

環境に配慮した良い制度設計が実施されれば、多様なイノベーションを誘発し、技

術を通して低炭素社会に向けて進んでいくことができると思います。

これもすでに指摘しましたが、自然再生。農林水産業の復活もグリーン・リカバリ

ーの重要な柱です。自給率で言うと現在食料の自給率はカロリーベースで 40%です。

先進国の中で最低です。木材全体で言えば 20%。パルプなどは 90%以上が輸入です。

製材の場合は 40%くらいです。

実際に農地がない、あるいは森がない、漁場がないのであれば仕方がないのですが、

農地もあり、森もあり、日本列島の周辺には非常に魚がたくさん捕れるような漁場が

ある。したがってそういうものを活用することが必要です。そのためには、社会主義

的な農水省の行政指導を廃止して、地方分権化、地方主権化を推進して、農林水産業

者の自発性を尊重するかたちで地域の活性化を図ると共に農林水産業をビジネスとし

て成立するようなことを支援する制度設計が当然必要になってきます。この分野でも

新しいいろいろな動きが出てきています。

次に、デカップリング政策への理論的なアプローチについて説明します。一つは、

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経済学者の J.A.シュンペーター氏(Joseph Alois Schumpeter:1883.2.8-1950.1.8)。1930

年代のアメリカ発の大恐慌を目撃した偉大な経済学者は 2 人います。1 人はご承知のよ

うにケインズ、もう 1 人がシュンペーターという学者です。ケインズのほうはあまり

に有名ですね。大不況に陥った経済を立て直すためには有効需要政策を活用して需要

をどんどん拡大させることによって不況からの立ち直りが図れるという提案です。そ

れに対してシュンペーターは、大不況から経済を立て直すためには企業家によるイノ

ベーションが必要だと主張しました。過去の大不況を観察すると、いわゆるブレイク

スルー(現状打破)を伴うような技術革新が不況の時に生まれて、それがビジネスと

して実用化される課程で、ブームが起こり、不況が克服されると主張しました。

そのためにシュンペーターは 50 年周期の「コンドラチェフの波」を評価しました。

50 年周期の大きな景気波動はロシアの統計学者のコンドラチェフ(Nikolai Dmitriyevich

Kondratiev)が発見したもので、シュンペーターはこれを評価しました。そして彼の名

前を取り「コンドラチェフの波」と名づけました。コンドラチェフの波は、技術革新

を中心として起こる波であることを彼は強調しています。今度のような大きな不況に

直面した場合には、やはりブレイクスルーを誘発するようなイノベーションこそ必要

なのだということになります。

先ほどの省エネ、新エネ技術はまさに不況期の今、大きく育ってきています。これ

らの技術がビジネスとして成り立つようになった時に、経済は回復に向かうことにな

ります。

「環境規制が企業の国際競争力を強化させる」というポーター仮説

もう一つは、米ハーバード大教授が提起したポーター仮説です。

その内容は「適正に設計された環境規制は企業の国際競争力を強化させる」という

考え方です。適正に設計された環境規制とは、地球環境の破壊や環境負荷を拡大させ

るような行為を抑制するための規制であり、同時に企業のイノベーションを誘発する

ように工夫された規制のことです。例えば自動車の排ガス規制がそうです。この規制

は日米欧では今でもどんどん強化されています。このように将来いずれにしても実施

されるような環境規制が予想されれば、規制されてから慌てて対応するのではなく、

自発的に先取りしてできるだけ早く対応したほうが、その国の企業の国際競争力を強

化させるという考え方です。マイケル・ポーターはもともと企業の経営戦略の専門家

です。企業がブレイクスルーを伴うような技術革新を起こすためには三つの条件があ

ると指摘しています。第一は強力なライバルが現れてきた時です。企業は競争に勝ち、

生き残るためにブレイクスルーを伴うようなイノベーションを起こすきっかけになり

ます。第二は顧客、ユーザーからの厳しい注文、苦情です。製品に欠陥があったり、

労働環境が非常に厳しく子供を長時間働かせるというような企業の行為に、厳しい批

判や苦情が寄せられた場合です。苦情や批判を無視ですれば、不買運動に発展しかね

ません。企業は必死で対応策に踏み出し、その過程でブレイクスルーを伴うようなイ

ノベーションを引き起こすことができます。

第三は、原材料などの価格の急騰です。価格が急騰するとある段階までは耐えられ

ますが、それ以上急騰してきた場合には、それに代替するような原材料が必要になっ

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てきます。その過程で、ブレイクスルーを伴うような技術革新が生まれてきます。

ポーターは、以上の三条件に加えて、四つ目の条件があると指摘しています。

環境イノベーションが、企業の競争力を強化させるステップを説明するため、ポー

ターは「イノベーション・オフセット」という言葉を使っています。皆さんは「カー

ボン・オフセット」という言葉をご存知だと思いますが、「イノベーション・オフセッ

ト」という言葉は今日、初めて聞いた言葉かもしれません。環境投資は初期投資の段

階では、企業にとってコスト負担になるのは確かです。したがって投資した 1 年目は

赤字になるかもしれません。しかし、2 年、3 年と時間の経過と共に環境投資が新しい

技術革新を招いて、何年か後には初期投資をオフセット(相殺)して、さらに時間が

経てば利益をもたらします。そういうステップを踏んで、マイケル・ポーターは適正

に設計された環境規制はイノベーションを起こすことをいくつもの企業事例をあげて

紹介しています。シュンペーターもマイケル・ポーターも企業のイノベーションが今

度のような深刻な不況対策としては大きな効果を持つと指摘している点で共通点があ

ると思います。

日本の GDP の規模は、2030 年頃をピークに縮小に向かう

日本の将来を展望する際にもう一つ、考えておかなければいけないことは、2050 年

に向けた日本経済がどのような姿になるかということです。将来の日本は、人口減尐

が、特に 2030 年以降は年率で 1%減尐すると見られています。それに伴い GDP の規模

も 2020 年から 2030 年頃、おそらく 2030 年くらいをピークにして縮小に向かい 2050

年頃には 2030 年頃よりも縮小していくと思います。2050 年の日本の人口は 9,500 万人

程度。今は 1 億 2,800 万人程度ですので、今と比べ 3,300 万人程度の人口が減尐するこ

とになります。その減

り方が 2030 年以降、

急速に大きくなって

いきます。経済成長率

というのは、人口増加

率と 1 人あたり GDP

の増加率の和として

定義できます。1%人

口が減尐すると、それ

だけで経済成長率は

1%減ってしまいます。

ここに書いてあるの

は、グリーン・リカバ

リーが成功したケースです。ここでは 2010 年から 2015 年くらいまでは年率 2%くらい

の成長をして欲しいと思っています。それが達成できないと大変なことになります。

2015 年から 2020 年くらいになると人口の減尐率が拡大してくるので、1%くらいの成

長ができればまずまずです。2020 年以降は、ゼロ成長が 2030 年くらいまで続くケース

や 2030 年頃まで 0.5%成長が可能なケースなどが考えられます。しかし、それ以降は

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人口減尐率が効いてきて成長率はマイナスに転じ、GDP の規模そのものが減尐してい

かざるを得ません。

2010 年現在の日本の実質 GDP は 550 兆円くらいと見込んでいます。20 年に向けて、

図に書いてあるように経済成長率が上昇に向かうことを期待していますが、政府の場

当たり的、バラまき的な政策を見ると、現実は、2010 年の水準で 2020 年まで横這い状

態を続けるか、マイナス成長に陥る可能性が今の日本経済の現状では一番ありうる姿

だと思います。

いずれにせよ、日本の経済成長が今後も永久に続くと考えることはできません。で

すからこれからの日本は、1 人あたり GDP、つまり生活の質的向上の維持、向上を国

家目標に掲げ、仮に経済成長率がゼロ、あるいはマイナスに陥っても、1 人あたり GDP

をプラスに維持できれば良しとする考え方に転換していかなくてはなりません。この

目標は十分達成可能です。しかし、それはともかく、後ほどグリーン・リカバリーの

ところで説明しますが、2015 年くらいまでの 5 年間は 2%くらいの成長を実現しない

と、財政赤字が深刻化して、身動きが取れなくなってしまいます。しかし、政府のバ

ラまき的な財政出動では、これから 2020 年までの 10 年間ほとんどゼロ成長で推移す

る可能性はかなり濃厚です。それを避けるためには、以下に述べるグリーン・リカバ

リーが必要なのです。

緊急対策期間の 5 年間は、新エネ投資に 5 兆円、内需転換に 5 兆円

本書では、今度の不況から日本経済が立ち直るには全治 10 年と診断しています。全

治 10 年というのは 2010 年から 2020 までの 10 年間です。特に前半の 2010 年から 2015

年までは緊急対策期間で、回復のためにデカップリング政策を総動員することが必要

です。そのために、年間 10 兆円くらいの財政支出が必要です。このうちの 5 兆円は新

エネルギーなどの開発、普及、残りの 5 兆円は内需依存型経済への転換に振り向けま

す。新エネルギーなどの開発、普及に 5 兆円というのは、例のスターン報告を参考に

しています。今から GDP の 1%くらいを気候変動対策に振り向けることができれば、

何とか温暖化の危機を防止できる、放っておくと将来、最大 GDP の 20%くらいを被害

対策として計上しなければならなくなるという報告書です。日本の場合 GDP の 1%は、

約 5 兆円になります。

残りの 5 兆円は今までの輸出依存型産業を内需依存型に転換させていくために必要

です。合わせて、年間 10 兆円、GDP の約 2%です。この年間 10 兆円の財政支出によ

って、なんとか 2%くらいの経済成長を達成していこうという政策です。2015 年以降、

2020 年までの後半の 5 年間はリハビリ期間です。このリハビリ期間というのは、新し

い時代への対応です。質の高い新しい経済に対応していくための企業の対応、消費者

の購買姿勢、さらに新しい時代に適応していくための人々の精神構造の転換のための

時間です。

家計部門の金融資産を活用した永久国債を財源に

具体的な対策は、本書に書いてあります。たとえば環境保全型の公共投資としては、

産業道路の建設ではなく、歩道や自転車道の整備・拡充、電気、ガス、水道、通信な

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どのライフラインを共同管理するための共同溝の建設などがあります。農林水産業の

再生・復活、エコ住宅の推進なども必要です。こういう分野に財政支出を集中するこ

とで、なんとか 2010 年から 2015 年の 5 年間に年率 2%くらいの成長をなんとか実現さ

せたいということです。

次にグリーン・リカバリーの財源をどうするかということです。2009 年度の一般会

計当初予算は 88.5 兆円です。同じレベルでいうと、特別会計の予算規模は 2009 年度

355 兆円。重複部分を除くと 169 兆円になります。この特別会計というのが官僚の天下

り、あるいは無駄遣いの源泉になっています。一般会計予算 88.5 兆円については国会

でも十分議論されますが、特別会計予算は各省庁に帰属して各省庁の既得権益化して

いる予算です。この額が重複部分を除いただけでも一般会計予算の 2 倍程度あります。

重複部分を入れると 4 倍くらいの規模になります。現在特別会計は 21 ありますが、特

別会計から特別会計にお金が流れるなど非常に複雑な流れになっているので、なかな

か特別会計を正確に把握することがむずかしくなっています。巨額のお金が集中して

いるにもかかわらず、国会であまり真剣に議論されていないということで、まさに官

僚の牙城になっている予算です。特別会計には準備金、積立金、剰余金、繰越金、予

備費などのかたちで、お金が蓄積されています。いわゆる埋蔵金と言われているもの

ですが、推定で 50 兆円近くあるとの説もあります。そこで、この際、隠れ資金といわ

れる埋蔵金をグリーン・リカバリーの財源に充て、この機会に特別会計の管理を一元

化して、会計の透明度を高め、一般会計と同じように国会でその中身を議論できるよ

うなかたちに変えていくチャンスにすべきです。

もう一つは永久国債です。グリーン・リカバリー国債という名前を付けてもいいの

ではないか。永久国債はイギリスのコンソル公債などのケースがあります。永久国債

は基本的には発行した国債を償還しません。金利だけを払うということで、イギリス

では 200 年くらいの歴史があります。日本の場合には、家計部門の金融資産は最近目

減りしていますが、それでも 1,500 兆円くらいあります。そのうち、預金だけでも巨額

の比重を占めています。そこで、国家存亡の危機であることを国民に率直に話し、納

得して永久国債を買ってもらう。ただし、永久国債はどうしても必要だという場合に

はもちろん現金化する道を残すなどの工夫は必要です。現在の日本の財政赤字は相当

絶望的な状況になっているので、それとは別枞で永久国債を発行して、その永久国債

は家計部門の金融資産の一部で賄うというかたちにすれば、国民の帰属意識も高まる

のではないかと思います。低炭素社会に移行していくために、今、仮死状態にある金

融資産を使う。もちろん、そのための利子は定期預金などよりも若干有利なかたちで

設定することは可能だと思います。

温暖化防止対策を世論調査等で判断するのは政治のリーダーシップの放棄

グリーン・リカバリーを成功させるためには、政治家の強いリーダーシップが必要

です。使命感を持った政治家が今こそ必要です。時代が大きな転換期を迎えている時

には、大衆迎合的な衆愚政治は道を誤りかねません。最近この思いを強く感じたこと

があります。温暖化対策の中期目標、2020 年の温室効果ガスの削減目標の設定にあた

って、政府はパブリックコメントや国民の意識調査を重視しました。特にパブリック

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コメントについては 1 万人以上の応募があり、その 7 割が「2005 年比 4%削減」(90

年比 4%増)を支持しました。このパブリックコメントを皆さんどう思いますか。産業

界は 20 年の目標設定に当たって、大幅削減反対のキャンペーンを全国紙を使って積極

的に展開してきました。その一つとして、パブリックコメントとして、大幅削減反対

の意思表示として、05 年比 4%削減をするように参加の企業人に要請しました。その

結果が、このような数字になっているわけです。

私は、温暖化対策としてどの程度の温室効果ガスの削減が必要かを判断する際、パ

ブリックコメントや世論調査をあまり重視すべきではないと思っています。温暖化対

策のように高度な科学的知見が必要な問題を世論調査などで判断するのは、政治のリ

ーダーシップの放棄といっても過言ではありません。温暖化が気候変動に与えるメカ

ニズムなどはきわめて複雑で、難しく、一般国民の判断能力を超える問題です。科学

者の知見を最大限尊重するということと、さらに温暖化対策は国際協力が必要なので、

国際的な世論の動向、この二つが判断基準にならなければいけないにもかかわらず、

パブリックコメントや世論調査で何%削減を国民が望んでいるなどということを堂々

と首相が言及して、それを新聞が批判しないのも不思議な感じがします。

科学的知見を参考に大幅な削減が必要となり、それが国民生活に負担となる場合に

は、負担軽減策を積極的に講ずるのが政治の役割です。

企業家精神に溢れた経営者いでよ

グリーン・リカバリーを成功させるためには、企業家精神に富んだ経営者の誕生が

必要です。現状打破を伴うようなイノベーションを引き起こすためには、企業家の創

造的破壊が不可欠です。今日の成功を明日は否定するような、旺盛な企業家精神に富

んだ経営者が多数輩出してくることが望まれます。いま、そうした経営者が極端に減

ってきています。私が今参加している中央環境審議会と経産省の産業構造審議会の合

同会合には、業界代表者が多数参加しています。業界代表者は口を合わせたように「環

境税反対」「キャップ&トレード方式による排出量取引制度の導入反対」と堂々と審議

会の場で主張します。彼らはシュンペーターの言う企業家ではなく、管理者です。管

理者は現状維持に汲々として、現状変革の担い手にはなれません。管理者が多くなる

と、長い目でみると変革が遅れ、日本の産業をつぶしてしまうような気が私はします。

今必要なのは、企業家精神に富んだ経営者。現状の維持ではなく、現状を打破する経

営者が出てこなければいけません。

グリーン・コンシューマー、グリーン・インベスターの担い手としての国民の登場

も必要です。グリーン・リカバリーを成功させるためには、政治の強力なリーダーシ

ップ、企業家精神に満ちた企業人、そしてグリーン・コンシューマーとしての国民が

一体となって変革のために結束することです。

GM やクライスラーの倒産から私たちは学ばなければいけません。政府の温室効果

ガスの中期目標、2020 年で 2005 年比で 15%減。1990 年比で 8%減。この目標は現状

維持が前提になっています。既存の産業構造やエネルギー構成比はあまり変えない。

環境税の導入もしない。こういうことが前提となっています。この程度の制約ですと、

企業は、ブレイクスルーを誘発させるようなイノベーションを起こすことができませ

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ん。それどころか、日本の産業を殺してしまうのではないかと、私は懸念しています。

GM やクライスラーが倒産したのは、現状維持に固執し、新しい変化に積極的に対応

しなかったからです。自動車の排ガス規制について、日本の自動車メーカーは 10 分の

1 という厳しい有害物質の規制をクリアしていく課程で、自動車の性能を高めていった

のですが、GM、クライスラーのようなビッグスリーの場合には、排ガス規制の実施時

期を先へ延長させて、技術革新を怠ってしまったのです。

自動車を売るにあたっても、ハンドルの右左の位置も変えず、アメリカで売れてい

る車はどこの国でも同じように売れなければいけないという論理で、新しい変化に対

応せず、輸出先の車の規格に見合うような改善も怠ってきたため、結局倒産に追い込

まれてしまったわけです。企業トップが現状維持を打ち出す時、その企業は斜陽化の

道を進むシグナルになります。大きな時代の変化に背を向け、環境税反対、キャップ

&トレード方式による排出量取引反対などと言っている産業界のリーダーは、すでに

自分たちはイノベーターになれないことを自覚し、身を引く覚悟が必要です。そうな

れば、日本の産業に再び活気が戻ってくると思います。教育ママ的な中途半端な温暖

化対策は、長い目で見て日本の企業を弱体化させ、国際競争力を奪ってしまうのでは

ないかと心配しています。

結論として、これからの日本はデカップリング政策をてこにして、新エネルギー、

省エネルギー、さらに環境重視の公共投資、農林漁業などの内需関連部門でブレイク

スルーを伴う技術革新の波を引き起こして、100 年に一度の大不況を先頭に立って乗り

切っていくべきであるということで、この本を執筆したということです。

ご清聴ありがとうございます。

福井光彦(損保ジャパン環境財団専務理事) 損保ジャパン環境財団の福井です。15

年くらい前になると思いますが、三橋さんの「森と CO2 研究会」に参加させていただ

きました。その頃は森林の保全と、国産材の適切かつ有効な活用というのは非常に重

要な政策であるということで、具体的に「こういうことをやるべし」という三橋さん

のご提言を記憶しています。15 年経っても林業の世界ではあまり変わっていない。農

林漁業の政策は全く変わらないように思うのですが、何が阻害要因だと思われますか。

また、それにどういう手を打てばいいのか。先ほど尐し新しい例が出てきているとい

うお話がありましたが、どういう動きが出てきているのか、コメントいただければと

思います。宜しくお願い致します。

三橋 おっしゃるように、日本の農林水産業の政策がなかなか変わらないというのは、

危機感があまりなかったからだと思います。今度は外需依存型の経済がこれだけ打撃

を受けているということで、変わる一つの転機にきているのではないかという感じを

持ちます。そのためにはなんといっても農水省が箸の上げ下ろしまで介入する政策を

やめるということだと思います。米の価格を維持するために減反政策を取るというの

は、まさに市場経済と反する考え方です。ですから、減反政策を止めて農民の自由に

任せる。その結果、米の価格が一部下落するかもしれない。しかし、下落する中でや

っていけるところ、やっていけないところが出てくる。やっていけないところに対す

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る補償の仕方は考えなければいけないと思いますが、早く米価なども市場経済にゆだ

ねたほうがいいと思います。その結果、そういう工夫に富む農民の場合には、必ず新

しい道を見つけてくると思います。例えば、新潟のコシヒカリは、元気のいい中国に

持っていくと国内価格の 10 倍程度で売れます。したがって、そういうところに積極的

に売り込みを図っていく。なぜ農林水産業が衰退してしまったかというと、価格の問

題です。価格が日本の場合には、輸入品に対して高くなり過ぎるということですが、

しかし減反政策をやめてできるだけ市場にゆだねるようなかたちの価格設定をする。

その代わり、そのお米を必要としている中国や中東などにどんどん出していく。そう

いうことも自由にさせるということができれば十分やっていけるのではないかと思い

ます。

また今世紀は食料危機がどんどん起こってくると思いますので、自給率を高めるた

めの補助金のようなものは必要だと思います。価格を維持するためのということでは

なく、自給率を高めるための補助金です。それは EU などもやっていることですし、そ

れはベースとなる食料供給。例えば自給率 80%くらいを維持する。農水省の行政指導

がなくなるだけで相当変わってくると思います。木材についても、京都か三重の林業

家では、製材価格については、伐採の仕方や日本の傾斜地に合うような伐採機、運搬

機などをつくることによって、価格面でも十分対抗できるような林業者が育ってきて

います。そういう工夫を認めることで相当程度自活できるような状況があると思いま

す。そのためには農水省が介入しないということが必要です。「ああしろ、こうしろ」

ということを依然と言っていますが、この辺はやはり思い切って地方分権化、あるい

は主権化で対応していく。私は、農水省の役人にも農水省がなくなったほうが、日本

の農林水産業の発展のためになるのではないかと言います。その辺は枝廣さんは若干

取材しているのではないですか。

枝廣淳子(JFS 共同代表) 林業でも農業でも、非常に地域で一生懸命がんばっている

人はいるのですが、先ほど三橋さんがおっしゃった三重の速水林業さんなど、それな

りに工夫してやっていらしても、やはり今の価格などいろいろな縛りがあり、経営的

にはかなり苦しいところが多いです。かなり昔からやっていらっしゃる林業家の方は

時間軸が長いので、数年のことでジタバタしないという度量があるので、何とか今は

やっているのだと思います。

農業の法人化が進められたりといった動きがどうなっていくのかということと、全

ての話に通じると思いますが、日本をどういう国にしたいのかという、例えば食料自

給率にしても、モノの移動にしても、エネルギーの供給源にしても、30 年後、50 年後

に日本をどういう国にしたいのかというビジョンがないので、各地でやっていらっし

ゃる方もどこを目指してやっていいかわからない。自分たちは遠い未来を、あるべき

姿を目指してやったとしても、それの動きを支えてくれる法制度がない。もしくは逆

行するような動きしかないという、非常に閉塞感がどこの地域に行ってもある。それ

はもしかすると一次産業だけではなく、製造業やサービス業も同じではないかと、今

三橋さんのお話をお聞きしながら思っていました。

それに重ねて私から三橋さんへの質問になるのですが、例えば政治の強いリーダー

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シップ、使命感を持った政治家や、企業家精神に富んだ経営者など、「いでよ」と言っ

ても、特に政治の部分はなかなか変わっていくのが遅いように思います。そうした時

にどこから働きかけて変えていくことができるのだろう?と。あちこちのレベルで働

きかけができると思うのですが、三橋さんからご覧になっていて、具体的にどこにど

のように働きかけをすることが、今の動かない構造を動かす近道、もしくはレバレッ

ジ・ポイントと感じていらっしゃるか、その辺り教えていただければと思います。

三橋 一番難しい点です。ただ、今のままで政治家が何もしなければ、日本はジリ貧

でどんどん衰退していってしまう。そこに対して時代の変化というものが政治家に対

する一つのインパクトになると思うので、そういう情報をどんどん入れていくことは

必要だと思うのですが、もしかすると今までそういうことをやってきたということな

のですが、伝わっていないという点があります。私は中央環境審議会に出ていて思う

のですが、中央環境審議会でのいろいろな議論というものが、例えば枝廣さんが入っ

ている総理の温暖化懇談会になかなか反映されないのです。

今度の中期目標の議長は福井俊彦さんが全体のとりまとめをやっていたのですが、

その福井さんはエコノミストとしては日銀総裁もやった人ですが、環境問題に対して

はそれまでほとんど経験がなかったような人が全体の長に就く。そういう点で言うと、

私は環境省の役人によく言うのですが、いろいろやった研究成果を官邸に反映させる

ルートが今、途絶えています。また官邸も、各省庁のいろいろな提案を聞かないので

す。そこに何とか突破口を開かなければいけないという感じは持っています。ですか

ら、今の危機を救うのは、ここでは企業家精神を持った経営者の存在や、あるいはグ

リーン・コンシューマー的な要素を持つ消費者、国民というのですが、一つ挙げると

すると、政治家のリーダーシップに尽きるような気がします。こうすべきであるとい

うことを言いさえすれば、それに応じて時代を変えていくことができるのですが、外

国の人たちと議論すると、そういうリーダーシップを持てる政治家がなぜいないのか

ということをよく言われます。なぜいないのかと言われても困ってしまいます。

谷口正次(資源・環境戦略設計事務所代表) ほとんどの人が政治家が悪い、官僚が

悪い、財界も創造性がないといった批判を共有していると思います。それを嘆いても

仕方がない。何が問題か。三橋先生のお話の最初にもありましたように、20 世紀を支

えた石油依存文明は崩壊した。それでは 21 世紀の文明はどうするのかという議論が必

要なのです。その一つがこのグリーン・リカバリーですが、文明というのは機能概念

です。文化は価値概念です。価値概念の議論ももう尐ししなければいけない。

なぜこのように 21 世紀の文明を新しくつくらなければいけないかというと、価値観

があまりにも川下の、便利さと快適さを追求していくこと、そして欲望を満足させる

ことに行き過ぎている。川下の末端に価値観が行っている。しかし、本来の人間とし

ての価値は川上にあります。それをすっかり忘れて、日本はフードマイレージ世界最

大、ティンバーマイレージ最大、水も大量に輸入する、資源も大量に輸入する。こう

いう状態にもかかわらず、それを輸入する元、産出国で何が起こっているかというこ

とについて、消費者は何も知らされていない。知ろうともしない。教育もされていな

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い。ですから、消費者がバカなのです。そういうふうに躾けられてしまった。今こそ

賢い消費者を育てるのが一番近道だと思います。消費者が「買わない」と言ったらメ

ーカーはつくれないのです。ですから、最上流と最下流が連携をとって川上に攻め上

れば、世の中は変わります。こんな想像力を失ったリーダーたちばかりいるところで

は、国民が賢くなるしかありません。そうすればリーダーはそれに従わざるを得ない

でしょう。

メーカーも同じです。消費者の要求は拒絶できない。しかし、私は先日ある日本の

有名企業のステイクホルダー・ダイアログで論議したのですが、ものづくりのパラダ

イムが、まだ 20 世紀型から変わっていないのです。延長線上なのです。そして相変わ

らず便利な生活、豊かな生活、快適な生活を提供するというのが戦略なのです。それ

に消費者は乗っているだけです。ですから、若者が携帯電話を取り上げたら生きてい

けない状態です。それに価値観があるのです。携帯電話が神様になっているのです。

川上の価値観を取り戻す。それが森林であり、森であり、生態系であり、生物多様性

であり、固有の文化であり、伝統であり、これをみんな抹殺して、今生きている人の

ニーズ、豊かさの追求のためにどんどん破壊していっている。それが消費者にはまっ

たく見せられていない。議論が全て日本の国内だけの仲良しごっこ、優しさごっこ。

ですから、私はその部分を皆さんにお知らせするのです。環境を語る方はたくさんい

ます。ジャーナリストもたくさんいますが、その川上を語るジャーナリストがほしい

のです。それを今新しいジャンルを「資源・環境ジャーナリズム」として、日本で築

こうかと思って、孤軍奮闘しています。新しいジャーナリズムを、今やっとメディア

が認知してくれているので、三橋先生のお陰でそうなってきたのです。メディアに認

知されてきたので、大変うれしく思っています。要するに、価値観を川下から川上へ、

下から上に行くブームメントが絶対に必要だと思います。

桝本晃章(東京電力顧問) 谷口さんの価値観のお話。これは根本的な、しかも一番

重要なところだと思うだけに非常に共感します。ただ、「価値観」という場合、お金を

どう考えるかというところを是非今のお話と同時に考えて頂きたい。サブプライムロ

ーンからこういう問題になり、三橋さんの冒頭のお話にあったわけですが、お金の世

界では金融工学でノーベル賞をもらったような人が、お金がお金を生むという仕組み

を生み出して、大変なお金を生産性高く儲ける仕組みをつくった。それをさらにてこ

の原理で人のお金を集めて、それを何十倍にもする。これがいまだに良いことだとさ

れているのです。社会的にお金を儲けるのが良い人だ、良いことだ。立派な家をつく

る。立派な車も買える。それが社会的に受け入れられてみんながうらやましく思う。

今、久しぶりに三橋さんの素晴らしい体系だったお話を聴きましたが、こういう構想

はある部分でしか過ぎない。ですから、どうしてもお金の問題をどう考えるかをきち

んと考えたい。しかし、お金の問題は、昭和 46 年(1971 年)8 月のニクソン・ショッ

クで金兌換をやめたところからアメリカはいくらでもグリーンバックを刷れるという

ことになってしまったわけで、この問題はそう簡単なことではないのです。

一方、昨年、一昨年の混乱を受けてヨーロッパの経営者、首脳は非常にいらいらし

て、国連に経済監視委員会をつくろうなどというガバナンスの問題にまで発展してい

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る。ここをまずどう考えるか。私は、やはり実体経済の動きとお金というものを連動

させるのであれば、それは別な仕組みが必要だろうし、お金というものの一人歩きを

残したままいくのであれば、「金持ちはあまり大したことはない。」あるいは、「手にま

めをつくり、額に汗して努力して稼いだ人ならば、それは素晴らしい。」「デリバティ

ブやレバレッジなどを使って、一夜のうちに何倍ものお金を儲ける人たちは変だ。」と

いう一種の価値観のようなものが、私はほしいと思います。ものづくり業界から言え

ば、時価会計も変です。今の東証のやり方は、翌年の収支見通しを出せと言う。とう

とう四半期の収支状況まで報告するという仕組みになって、ものづくり業界の企業経

営のスパンが非常に短くなってきています。これは私に言わせれば、企業を買収する

金持ちが変なものを掴まされると困るので、腐ったリンゴがないように、的確に判断

できる材料を仕組みで集めているというようにしか見えない。私は一つここに問題が

あると思います。

本題に戻って、三橋さんの今日のお話は一部を除いてまったく賛成です。ただ、お

願いは、この三橋さんの素晴らしい考えをもう尐し地球規模で見ていただくというこ

とで考えていただきたい。例えば、日本の資源の生産性やいろいろな効率は非常に高

い。気候変動問題は「地球」という冠がついています。これはどういうことかという

と、地球規模でも人的資源、お金の資源というものを効率的に使うという必要があり

ます。ですから、京都でも柔軟性措置という格好で認められた。私は国境というもの

を取り外せば、お金の使い方はもっと違う使い方もあると思いますし、二酸化炭素の

排出の削減を効率的に大量にやる仕組みも見つかります。しかし、どういうわけか各

国は自分の国で一生懸命やろうとしている。私はそれは悪くないと思います。必要だ

と思います。しかし、一方で飢饉、飢餓で子供が生まれてすぐに死ぬ、病気が蔓延す

るという地球上の実態もあるわけで、やはり人的資源やお金の資源を地球規模で有効

に使うという考えも重要だと思います。そういう意味で、グリーン・リカバリーの考

えを、地球規模でもう一度三橋さんに広げていただくとどのような絵ができるかと、

期待を込めて申し上げたいと思います。

最後に、6 月1日から 12 日までボンで気候変動の作業部会の会議がありました。こ

れには南北問題があらためて出ています。これは京都で南北問題の清算をしなかった。

産業革命以降、大気中の CO2 濃度を 100ppm(280→380ppm)増やした人たちはどうい

う責任を取るのですかということを、「共通だが差異のある責任」などという抽象的な

言葉でごまかしてしまった。私はこれでは済まないと思います。やはり何らかの清算

のための大きな基金をグローバルにつくって、貧しい国や発展途上国の発展を支援す

るという仕組みが必要だと思うので、スティングリッツ教授や宇沢弘文先生がおっし

ゃっているようなかたちに次第になっていくと期待しています。

そして、これは三橋さんにどう考えるか伺いたいところですが、例えば経団連、私

のところにもイギリスからも、デンマークのヘデゴー(Connie Hedegaard)気候エネ

ルギー大臣も来て、「日本は ambitious なターゲットをつくりなさい」と言う。私の理

解では、この気候変動問題では、皮膚の色が違い、文化が違い、歴史が違うという多

様性を認めるということが非常に重要で、違いを認め合いながら同じ船に乗って、同

じ方向で取り組む。私は、アメリカの今度の政権の人たちを見ていると、そういう方

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向に動くように思います。今のヨーロッパのやり方だけが必ずしも正解ではない。こ

のところもきちんと考えたほうがいいのではないか。

多様性について三橋さんはどうお考えになるか。もしご意見があれば教えていただ

きたいと思います。このご主張と本は素晴らしいと思います。

三橋 先ほどのマネーの信仰。これは私は今度の不況から脱出した後は尐し違ってく

るのではないかと思っています。デリバティブ規制なども、今までこのような暴れ方

をすることを予期できなかったために規制しなかったのですが、そうとうこれからは

規制されていくと思います。

確かに何でもお金で換算するアメリカと、今力をつけている中国もお金万能のよう

なかたちなので、また元に戻ってしまうかもしれませんが、尐なくともこの 10 年とい

う展望で見る場合には、お金の暴れ方はそうとう規制されるような感じがします。

多様性について。尐しわき道に入るかもしれませんが、私は桝本さんがおっしゃっ

たように多様性は非常に重要だと思いますし、ノーベル物理学賞をとった小柴昌俊さ

んの話には非常に考えさせられたことがあります。小柴さんは、「宇宙広しと言えども、

多様な元素。90 いくつも元素があるような星は地球しかない」と言うのです。例えば、

宇宙全体ですとほとんどが水素とヘリウム。月でも元素の数は 10 種類もない。そうい

う中で地球だけに多様な元素が存在している。その元素がさまざまなかたちで組み合

わさって生物の多様性をつくっています。そういう星は地球しかないというのです。

その多様性が存在することによって豊かな地球が構成されている。しかし、その多様

性というのはいろいろな元素が組み合わさってつくっているだけに、外からの衝撃に

弱いということです。ですから、非常にもろい存在だということです。

豊かな地球を構成しているのは、多様な元素によってつくられている。生物多様性

もその上にできている。しかし、そういう地球の上に存在する素晴らしい多様性は外

からの衝撃に対して非常に弱い。したがって、いかに衝撃を防いでいくかということ

が必要だというようなことをおっしゃっていました。それは地球ほど多様な元素を持

っている天体はない。そこから多様性というのは全て出発しているのではないかと私

は最近理解しています。

桝本 農業、林業は、私はそろそろ変わりつつあると思います。レスター・ブラウン

が、日本の農業分野の世界への貢献は非常に大きいと言っています。それは品種改良

です。この品種改良分野での日本の力をもっと世界へ、あるいは日本国内にも知らし

める必要がある。そして、サントリー、協和発酵などいくつかの企業が始められてい

ますが、植生、花も含めて、こういう分野に企業のやり方を導入し始めた。それでず

いぶん生産性が上がってきている。間伐材も、なかなか経済性を維持するという意味

で距離の問題が大きいのですが、小さな優秀なストーブがあれば、あるいはボイラー

があれば、そこで産地発電、産地エネルギー供給という可能性が出てきている。電力

会社ですら木質ペレットを火力発電で焚くということを始めつつあります。ところが、

見ているとこれはほとんど輸入です。これは輸入ではないやり方ができるはずです。

そのできることを妨げるのは、まだそこまでのシステムができていない。あるいはど

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こかで間伐材ができて、燃すまでに距離がある。そこで輸送費がかかる。そういう問

題があります。しかし、農業、森林業でも尐しずつ動きが出てきていると思います。

そういう意味では日本の住宅メーカーは素晴らしい試みを始めていると思います。

枝廣 今、桝本さんがおっしゃったことで、日本の中でも例えば中部電力さんが発電

の中の、ある材料の割合を一部木材チップにするという話を聞きました。私はそれを

聞いた時に「それはいいな」と思ったのですが、詳しく新聞記事を読んで驚いたのは、

その木材チップは輸入するということです。先日スウェーデンに行ってその辺りの話

を聞いていて、スウェーデンも木質バイオマスに切り替えていった時に、「発電所から

半径○km 以内の森林でとれた材を使う」ということが決まりとして入っているのです。

ですから、木材のほうが安くなったからといって、「では安いところから持ってきまし

ょう」ではなく、地域の山を守るという、やはりルールづくりといいますか、そうい

った時に、単に木材を使うだけではなく、地域の振興につながるような仕組みをつく

っているからこそなのだと思いました。

一つ、多様性の話の感想ですが、「キリスト教に改宗しろ」と言われているようだと

いうご意見があるのはわかる気がします。多様性が重要だといった時に、あなたたち

はキリスト教かもしれないけれど、私たちには神道、もしくは仏教があります。お互

いの目標としているものは、世界の平和なり、自分の幸福で、それに至る道はいろい

ろで、目標は一つなので同じですねという話ができると思うのですが、例えば温暖化

で言えば温暖化を止めたいというのが共通の目標で、そのために温室効果ガスを減ら

すこと、それも共通です。そこに至る価値観や方法は多様でいいというのはその通り

だと思います。ただ、今のところ、桝本さんの先ほどのお話にあったように、デカッ

プリングができているのはヨーロッパであって、例えば「ヨーロッパのやり方がいや

だから日本は乗らない」と言っているのではなく、「では日本は日本式でこういうやり

方で別の道を行って、それが同じように効果を出しています。ですから、押し付ける

のではなく、それぞれの道を行きましょう」という話ができればいいと思います。今

のところはヨーロッパが先に行っているので、それがルールになって、それに従うか、

従わないかという話になってしまう。そうではなく、ヨーロッパはヨーロッパでお金

を使うやり方がありますし、でも日本やアジアはこういう自分たちのやり方で進んで

いますということが、実績を伴って言えれば、多様性の話になると思うのです。

桝本 これは産業界でも大変な議論や激しいやり取りもあります。まず、ヨーロッパ

は上昇範囲を 2℃。450ppm、人によってはもっと低い数字を言われます。これが科学

的な根拠に基づく気候変動の上限だと言うのです。そして、今おっしゃったとおり、

そのためにはいつまでにという目標の設定をする。私はこれではないやり方もあって

いいと思います。2℃400 何 ppm というのはわかりません。科学的に正しいと言う人も

いますが、そうではないと言う人もいます。今度アメリカはその選択をしないとトー

ト・スターンは明確に否定しました(その後、イタリアでのサミットで 2℃の範囲に気

温上昇をおさめようという認識になりましたが)。私は、日本でもいろいろ意見が分か

れてもいいけれども、中期の目標設定ということが全ての象徴的なものであると考え

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なくてもいいのではないかと思います。そこに行くまでのいろいろな道はある。その

いろいろな道の取り組みの状況をよく MRV で見て、モニターもして、そのように 10

年、20 年やってみてもいいではないか。こう言うと、ヨーロッパは時間がないと言い

ます。それは、私はそうではないと思います。ですから、目標設定で非常に厳しいタ

ーゲットをつくって、それをやるというやり方だけではない。別のやり方もあるとい

うことを認め合うべきだと思います。あるところで、アメリカのライス前国務長官が

この質問を受けて見事な答をしました。「それは歴史がそのうちに証明する」と言いま

した。私はもう尐し長く見ていいのではないかと思います。仕組みとしては、みんな

が喜んでいろいろな多様な試みをやるという仕組みがいい。私は、今日本はそうなり

つつあると思います。夜の電灯を消そうということを含めていろいろな試みが進んで

いるので、私はもっとそれを称揚していくことが非常に重要だと思います。ただ、産

業は先ほど三橋さんが言われるように、非常に大きな飛躍につながる技術の革新を考

えなければいけないと思います。

谷口 ヨーロッパのお話が出たので、多様性という意味で是非言いたいことがありま

す。来年 COP10 で生物多様性のことが語られ、議長国が日本です。私は東南アジアな

どに取材で行くと、大変感じることがあります。今生物多様性が最も豊かなところは

赤道をはさんで北緯 45 度、南緯 40 度くらいの間です。そこがきわめて豊かです。そ

れはアフリカであり、東南アジアであり、南太平洋であり、中米、南米です。そこの

生態系、生物多様性がどんどん破壊されている。地球温暖化は間接的な生物多様性に

対する大きな脅威ですが、直接的な破壊がどんどん進んでいる。そこで誰がそれをや

っているかというと、ヨーロッパの多国籍企業。これに中国も参入してきて、行って

みると 21 世紀の今こんなことが起きているのかと、こんなことが許されていいのかと

いうことを平気でやっています。これはアングロサクソンが一番多いです。彼らには

欺瞞を感じるのです。二枚舌と言いますか、ダブルスタンダードです。中国はシング

ルスタンダードです。それは自分の国で平気でやっているひどいことを他国でもやっ

ているからです。ですから、来年 COP10 で環境先進国ヨーロッパ、われわれに見習え

という姿勢は、私は我慢ならないので、議長国として何か情報発信しなければと思っ

ています。あちこちと取材して回ると、それがよくわかります。

桝本 今、谷口さんがお話になったことは、まったくそうだと思います。これ 500 年

のタームで見ると、ヨーロッパの一種の身勝手さがもっとはっきりする。南米でも、

アフリカでも 50、60 の国がかつてみんな植民地でした。その植民地は、南アフリカが

代表ですが、ヨーロッパの植民地でした。私に言わせれば、そこで人を育てていない

のです。かつて植民地だった多くの国々の足元には大変な貧困がある。それがアフリ

カや南米の状況です。200~300 年の植民地政策の中で、収奪はしたけれども、人を育

てる、その土地の文化を育てるということはしていなかったと思います。このことは

日本にも若干当てはまるのかもしれませんが、私はもっと 500 年オーダーで見て、正

確な評価をすべきだと思います。

そういう意味で、今おっしゃったのは、私はまったくその通りだと思います。日本

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も気をつけなければいけないと思います。そのヨーロッパのダブルスタンダードは、

これは会議に参加して議論していると痛切に感じます。例えば、ヨーロッパの人も多

様性を認めようと言うと、「そうだ」と言います。いろいろなところで議論していると、

最後に出てくるドラフトは、多様性などという言葉はなく、「こういう仕組みがいい。

世界はワンワールドだ」と言います。統治と交渉の見事さがヨーロッパの中に非常に

あるということは、その裏返しでもあります。今の話をなるほどとお伺いしました。

三橋 ヨーロッパがそうとうの悪であることは承知している人間は多いと思いますが、

温暖化の問題などをヨーロッパ対日本というかたちで議論しないほうがいいと、私は

思います。

時間が来ましたが、最新の情報と言いますか、ドイツでやっていた中期目標の設定

について、日本では地球環境審議官の竹本和彦氏が行っていて、それを私が彼にただ

してよくわからなかった問題が一つあります。麻生首相が中期目標を発表する時に「真

水」(森林による吸収や途上国の排出削減協力分の加算を考えないの意)の話をしまし

た。日本は 1990 年比 8%削減は真水の部分だ。国内努力でやるのだ。ヨーロッパは大

変な真水以外のものを持っているような感じがしたので、そのパーセンテージはどの

くらいなのかと聞くと、わからないと言うのです。ですから、ヨーロッパが目標とし

ている 20%削減のうち、真水の部分がどのくらいかというのは、実は言葉だけが躍り

出ていて、何%というのは出てきていないようです。

もう一つ、ヨーロッパは真水の部分がかなりあるという発言をしたことに対して、

イギリス政府はイギリス大使館を通して日本政府に抗議をしたそうです。イギリスの

場合には 2005 年比で、日本が 15%と言った部分が 22%削減。そしてその中では真水

部分は含まれていませんということで、麻生さんの言い方には誤解を与えるという抗

議をしたそうです。ですから、国際会議で当事者も真水という言葉を正確に理解しな

いで、首相が真水という言葉を使うのはいかがなものかと思いました。

京都議定書の日本の真水というのは、0.6%です。3.8%が森林で、1.6%が京都メカニ

ズムによる海外依存ということで、日本の場合にはそういう議論をしてしまうと、ほ

とんど 1990 年比で削減ゼロに近いような数字です。ですから、そういう真水などとい

う言葉はあまり使わないほうがいいのではないかと思いました。

枝廣 今の真水に関して、スウェーデンは 2005 年比の目標が 40%削減ですが、そのう

ち 3 分の 1 は CDM でということを言っています。ですから、ヨーロッパ全体での割合

はわからないというのは他の人から私も聞いたことがありますが、ある%入っている

のだろうと思います。

もう一つ、内外で議論していて思うのは、真水に関する捉え方も違うということで

す。日本で真水というと、他の人に頼らずにお金で買ってくるのではなく、自助努力。

それは素晴らしい、と考えている。ですから、日本が真水で出したということは、日

本は自分たちでこれだけやるということなので、それは誇らしげに麻生さんも発表さ

れたと思うのですが、世界の他の国から見ると、CDM なり、森林ということを海外含

めて入れるとすると、それは先ほどお話に出ていた南北問題に絡んで、どうやって途

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上国にお金を持っていくかという枞組みで考えることになります。ですから、日本が

今回、真水でしか出さなかったというのは、「途上国にお金を回さない気か」という受

け取り方も一部されているわけです。私たちは日本にいると、自分たちでできるだけ

減らすという自助努力が美しいと捉えるけれども、先ほどグローバルな規模でと桝本

さんがおっしゃっていたことも含めて、日本のお金をどこに持っていくか。それによ

って世界全体の減らすということを含めて、自助努力を進めつつも、途上国への資金

の移動をきちんとしたかたちでできるような意味での真水以外の部分という捉え方も

しておかなければいけないのではないかと思います。