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1. イントロダクション:メソアメリカにおける聖動物の表象 杉山三郎 1.イントロダクション 本研究ワークショップでは、人と動物がどのように関わってきたのかを長い人類史の視点から再 考することを目指した。古代人にとって動物は単なる食料源や運搬用具ではなく、多義にわたり深 淵な相互関係だったいう発想が出発点であり、今回は特に聖なる動物に焦点を当てた。古代社会が 捉えた動物像とその意義を、もう一度社会進化史のなかで見直そうという試みである。さらに動植 物を含めた地球環境と人類社会とのかかわり方は、21 世紀に入り大きな変換期を迎えており、改め て人の持つ特有な文化と環境全体との関係を、地球規模の歴史的コンテクストの中で再考する必要 性が問われている。それほど人類の創り出すモノが、自然環境に脅威を持つようになったからだ。 我々社会史の研究者も、地球環境との関わり方について人類にとってのプラス面のみでなく、外部 世界から見た人類史の実体を再構築すべきときであろう。そんな世相にも押されながらのワークシ ョップである。 人類は 650 万年ほど前、アフリカの自然環境の中で存続の道を探りながら、固有の進化の道を歩 み始めた。それ以来、生物群の中では肉体的に弱小な人集団は、直立歩行、道具や火の利用、言語 など複雑なコミュニケーション・システム、社会組織の拡大といった人特有な行動様式を創り出し ながら、絶えず変化する環境に適応する狩猟採集の方策を発展させてきた。恐らく最後には、より 博識で賢い知能を持つようになったホモ・サピエンスの集団が、技術の改善と組織化された頭脳プ レーによって自然界に生き残り、世界に拡散したと思われる。人類は様々な地域環境に適応するた めの、人だけが持つ「文化」という手法を発展させ、より安定した食料獲得手段を確立して、自然 界への影響力を増していったと考えられる。人はこの間、気の遠くなるほど長い狩猟採集生活を通 して自然への認知力を高め、動植物に関する知識を深めたのだろう。 さらに今から一万年ほど前からは地球上のあちこちで、人類はドメスティケーション、いわゆる 特定の動植物の家畜化・栽培化を始め、自然への積極的な介入をさらに推し進め始めている。人類 史にとって画期的な業績であるが、多様な動植物群の種目の選択と生物学的な変化を意味するドメ スティケーションは、歴史的事件というより数千年レベルの歳月をかけた試行錯誤のプロセスと理 解した方がいいだろう。本源的な食料源の安定した供給が徐々に可能となり、やがて人は国家とい う巨大な階級社会を創り、余剰生産をコントロールし、システム化した不平等分配体制が確立され ていく。それにより食料の直接の生産者と、余剰食糧の管理・再分配を統率するリーダー集団が分 離し、組織的な富の蓄積が古代社会で始まっている。それ以後選択された特定の自然資源への介入 は加速度的に増大し、古代文明が発展し、その延長にある現代文明はまさに地球を制覇したかに見 えるが、一方で温暖化や生物多様性の喪失、また自然と社会環境の持続性の問題などに直面してい る。地球上の生態系を根本的に変化させてきた人類の長期にわたる介入による結果と考えていいだ ろう。地質学で言う洪積世-沖積世に従い、約一万年前から現代までを人類世と呼ぶ研究者がいる ほど、つまり氷河期が地球の生態に及ぼした影響力に匹敵するほど、人類の介入は大きかったと言 える(Redman 1999)。動植物のドメスティケーションはこのように、人類にとって人口増大や文明 発展の重要な基盤となったが、同時に自然界の認知方法と関与の仕方が質量とも変化したときとも 言える。なかでも動物は、自然界で人が最も直接的に関わってきた重要な媒体であり、その相互関 係は様々な視点から再考されるべきであろう。 本研究ワークショップでは、ホモ・サピエンスの拡散期から研究対象とするが、1万年前、さら にそれ以前の社会進化についてのデータは断片的であり、慎重な理論形成が必要である。それに対 して、古代文明発祥後は文字や図像、象徴品、また実際の動物骨その他資料を通して、動物自体の 物質面だけでなく生息する自然環境、世界観、そして動物の機能や意味について古代人の考えも垣 間見ることができる。ワークショップでは、さらに伝統文化を伝承する民族史における動物の扱い アリゾナ州立大学人類学学科博士課程修了。ハーバード大学ダンバートン・オークス博物館フェローなどを務め、現在 愛知県立大学大学院特任教授、アリゾナ州立大学人類進化・社会変化学部研究教授(パートタイム)。専門:新大陸考古 学・人類学。テオティワカン「月のピラミッド」調査団共同団長。 - 5 -
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1. イントロダクション:メソアメリカにおける聖動物の表象db.csri.for.aichi-pu.ac.jp/journal/7-1.pdf · 2017-05-14 ·...

Jul 04, 2020

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1. イントロダクション:メソアメリカにおける聖動物の表象

杉山三郎 *

1.イントロダクション

本研究ワークショップでは、人と動物がどのように関わってきたのかを長い人類史の視点から再

考することを目指した。古代人にとって動物は単なる食料源や運搬用具ではなく、多義にわたり深

淵な相互関係だったいう発想が出発点であり、今回は特に聖なる動物に焦点を当てた。古代社会が

捉えた動物像とその意義を、もう一度社会進化史のなかで見直そうという試みである。さらに動植

物を含めた地球環境と人類社会とのかかわり方は、21 世紀に入り大きな変換期を迎えており、改め

て人の持つ特有な文化と環境全体との関係を、地球規模の歴史的コンテクストの中で再考する必要

性が問われている。それほど人類の創り出すモノが、自然環境に脅威を持つようになったからだ。

我々社会史の研究者も、地球環境との関わり方について人類にとってのプラス面のみでなく、外部

世界から見た人類史の実体を再構築すべきときであろう。そんな世相にも押されながらのワークシ

ョップである。

人類は 650 万年ほど前、アフリカの自然環境の中で存続の道を探りながら、固有の進化の道を歩

み始めた。それ以来、生物群の中では肉体的に弱小な人集団は、直立歩行、道具や火の利用、言語

など複雑なコミュニケーション・システム、社会組織の拡大といった人特有な行動様式を創り出し

ながら、絶えず変化する環境に適応する狩猟採集の方策を発展させてきた。恐らく最後には、より

博識で賢い知能を持つようになったホモ・サピエンスの集団が、技術の改善と組織化された頭脳プ

レーによって自然界に生き残り、世界に拡散したと思われる。人類は様々な地域環境に適応するた

めの、人だけが持つ「文化」という手法を発展させ、より安定した食料獲得手段を確立して、自然

界への影響力を増していったと考えられる。人はこの間、気の遠くなるほど長い狩猟採集生活を通

して自然への認知力を高め、動植物に関する知識を深めたのだろう。

さらに今から一万年ほど前からは地球上のあちこちで、人類はドメスティケーション、いわゆる

特定の動植物の家畜化・栽培化を始め、自然への積極的な介入をさらに推し進め始めている。人類

史にとって画期的な業績であるが、多様な動植物群の種目の選択と生物学的な変化を意味するドメ

スティケーションは、歴史的事件というより数千年レベルの歳月をかけた試行錯誤のプロセスと理

解した方がいいだろう。本源的な食料源の安定した供給が徐々に可能となり、やがて人は国家とい

う巨大な階級社会を創り、余剰生産をコントロールし、システム化した不平等分配体制が確立され

ていく。それにより食料の直接の生産者と、余剰食糧の管理・再分配を統率するリーダー集団が分

離し、組織的な富の蓄積が古代社会で始まっている。それ以後選択された特定の自然資源への介入

は加速度的に増大し、古代文明が発展し、その延長にある現代文明はまさに地球を制覇したかに見

えるが、一方で温暖化や生物多様性の喪失、また自然と社会環境の持続性の問題などに直面してい

る。地球上の生態系を根本的に変化させてきた人類の長期にわたる介入による結果と考えていいだ

ろう。地質学で言う洪積世-沖積世に従い、約一万年前から現代までを人類世と呼ぶ研究者がいる

ほど、つまり氷河期が地球の生態に及ぼした影響力に匹敵するほど、人類の介入は大きかったと言

える(Redman 1999)。動植物のドメスティケーションはこのように、人類にとって人口増大や文明

発展の重要な基盤となったが、同時に自然界の認知方法と関与の仕方が質量とも変化したときとも

言える。なかでも動物は、自然界で人が最も直接的に関わってきた重要な媒体であり、その相互関

係は様々な視点から再考されるべきであろう。

本研究ワークショップでは、ホモ・サピエンスの拡散期から研究対象とするが、1万年前、さら

にそれ以前の社会進化についてのデータは断片的であり、慎重な理論形成が必要である。それに対

して、古代文明発祥後は文字や図像、象徴品、また実際の動物骨その他資料を通して、動物自体の

物質面だけでなく生息する自然環境、世界観、そして動物の機能や意味について古代人の考えも垣

間見ることができる。ワークショップでは、さらに伝統文化を伝承する民族史における動物の扱い

*アリゾナ州立大学人類学学科博士課程修了。ハーバード大学ダンバートン・オークス博物館フェローなどを務め、現在愛知県立大学大学院特任教授、アリゾナ州立大学人類進化・社会変化学部研究教授(パートタイム)。専門:新大陸考古学・人類学。テオティワカン「月のピラミッド」調査団共同団長。

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まで研究対象とした。人と動物がどのように関わってきたのか、特に聖動物、あるいは聖獣と言わ

れた動物(要素)が社会の形成・発展に果たした役割を探るため、環太平洋の考古学、社会史と図

像、民族史、宗教学等の専門家を招き、異なった視点から諸例を発表して頂いた。選ばれた動物種

が家畜化され異常に繁殖し社会発展を支えてきたが、一方で人社会により減少し、なかには滅亡の

道を辿った種もある。さらに動物の特性により特別な意味を持ち、象徴として人社会に寄与した動

物種が少なからず存在した。特に人の伴侶、また聖なる動物として崇められた種、あるいはその特

性から神格化した神獣は、社会進化の中で多義のシンボルとして重要な役割を果たしたと考えられ

る。しかしながらそれらの象徴的意義を人類史の中で正当に位置づけるため、十分な比較研究がな

されているとは言い難い。本ワークショップでは、それらの諸例を個別の文明形成史の中で明確化

し、さらに人と動物の相互関連のあり方に共通するパターン、認知形態の変化、その変化と社会進

化の間の相関関係などを探ることを念頭においた。

今回の小規模なワークショップでは、まず発表リスト(p.3)や本ジャーナルの掲載論文にみられる

ように、興味深い事例を多く報告して頂いた。しかしパターンの抽出には、人類進化に関わる理論

の構築と、さらに豊富な実例の記述が必要である。ここでは、世界考古学界や人類学で現在盛んに

議論されている認知科学の手法を念頭に置き、動物への認知力の進化という観点から社会発展のメ

カニズムについて、より説得力ある説明を試みる基盤としたい。

2.認知考古学から

認知考古学では、天体・地形・自然現象・生態系など外世界と我々自身を認知する心(脳)の社

会的機能を積極的に探求し、人類史・社会進化についてより実体に適合した解釈を目指す。人は様々

なモノ・現象を認知し、人類特有な意味づけを行ってきた。考古データが示唆するように、人の情

報蓄積・処理能力、価値判断、また個人・社会の行動を決定するプロセスはユニークであり、その

技術開発や伝播が有効であると脳が認識し、環境へ働きかけた結果として社会組織の複雑化と急激

な人口増加をもたらしたと考えられる。このように人類に特有な発展形態の主要原動力が人の認知

力であれば、その表現としてのイデオロギー(意味体系、世界観、宗教、論理、思想など)を形成

する心と、膨大な量の情報を処理する脳機能の進化が直接社会進化の要因として議論されるべきで

ある。

確かにホモ・サピエンスに入れ替わってから現れる明らかな宗教(儀礼・埋葬)やアートの痕跡、

また知識の集積と伝播、道具・技術の発展を物証する考古データは、特異な人類の認知能力の向上

を示している。現代の文化を理解するうえで本源的なテーマであるイデオロギー、言語、社会構造、

経済システムなども、人類特有の認知モジュールを介して解釈することが可能であり、その起源論、

形成過程の議論も必要である。認知考古学は、記号論や解釈人類学・象徴人類学(Geertz1973)、行

動人類学(Bourdieu 1978)等の理論をとり込んだポスト・プロセシュアル考古学(Hodder 1986)か

ら、近年の認知科学の方法論と成果を取り入れ発展させた理論であり、心(頭脳)の機能や具現化

されたイデオロギーを分析し、社会進化の解釈を試みている( Carruthers and Chamberlain

2000;Mithen 1990; 松本 2003; ミズン 1998)。600 万年前の猿人から一万年前に始まる農業革命ま

での人類進化のプロセスにおいて、頭脳の発達がどのように機能したか、特にホモ・サピエンスの

拡散と関連付けて議論されている。さらにその後の文明化や複合社会の形成プロセスにおいて、時

空間の広がりや外世界(天体、地形、生態系、自然現象など)を理解し意味づけする「進化する認

知力」の視点から社会発展を説明しようとする研究領域が広がっている(Morley and Renfrew 2010;

Renflew2007; Renfrewand Morley 2009; Renfrew and Zubrow 1994)。本ワークショップでは、動植

物のドメスティケーション以後、古代国家形成・発展過程を通して見られる人の認知力の向上が、

どのように社会変化に影響を与え、現代社会に見られる象徴体系の中に組み込まれ変容していった

か、などの課題を念頭においた。本研究が主に対象とする古代の動物表象は、人社会と自然界の関

係が根本的に変化し、社会形態も大きく変化し多様化する過程に出現した。古代における世界観、

また動物界のヘラルキーの中で特定の動物の表象が、どのように階層社会のシンボルとして機能し

たか、考察することができる。

本ワークショップでは、まず認知考古学理論について先導的立場にある松本氏・松木氏に紹介し

て頂き、心の先史学から動物表象の研究について様々な示唆を頂いた。その後発表された個々の動

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物表象についての議論は複雑かつ多様であり別の機会に譲るが、動物表象のバリエーションと古代

社会におけるその本源的な役割には驚かされる。旧大陸から新大陸へと人に伴って渡った犬を始め、

新大陸のジャガー、オオカミ、ガラガラ蛇、ワシ、タカや魚、さらに「羽毛の生えた蛇」などの創

造神、アジアの熊、龍、虎、朱雀、玄武など、実在する動物から聖獣まで、実に豊富な動物(とそ

の表象)が古代人の世界観から社会構造にまで深く組み込まれていたことがよくわかる。自然界の

メカニズムが認識され、動物界で最上位に位置する強い動物が、階級社会で統率者集団のシンボル

となったケースも多く報告された。さらに丸山氏の、日本では輸入された「聖獣」でなく「植物」

が、さらに「日(太陽)」が古来の王権のシンボルであったという指摘も興味深い。さらに生物界を

超えて火山活動が「生きている」自然のエネルギーとして認識され、聖なる山がモニュメントに象

徴されて王権のシンボルとなったというウルニュエラ氏・プランケット氏の報告があった。古代人

の動物認知が「生物(動物-植物)←→非生物界」という我々の自然認識とズレがあることを気づか

せてくれる。動物表象の研究は、自然を「生きた(変化する)総体」と認識する古代人の世界観を忘

れてはならない。

本論文では、メソアメリカの動物について、さらに古代都市テオティワカンにおける聖動物と創

造神についての一見解を、問題点など指摘しながら紹介する。

3.メソアメリカにおける文明形成と聖動物

今から一万四千年ほど前にアジアからアメリカ大陸へ初めて移住した狩猟採集民は、旧大陸文明

圏から少し遅れて 7~5 千年ほど前に特定な地域で動植物のドメスティケーションを始めている。旧

大陸とは異なった多様な植物の栽培化、また動物の家畜化の試行錯誤が、古代アンデスやメソアメ

リカを中心に数千年間続いている。トウモロコシ、カボチャ、トマト、ジャガイモなど多種類な食

物が栽培化され、南米ではリャマ・アルパカが運搬用、クイ(モルモット)が食用に、中米では七

面鳥と犬が主に食用として飼育された。後述するように、これらの家畜化した動物以外に、メソア

メリカでは変化の激しい地形を反映して多様な動植物群が生息し、栽培・家畜化されなくても、必

要に応じて獲得できる豊富な食料源が存在していた。それらを基盤として大宗教センターが勃興し、

やがて巨大な計画都市を創る高度な文明圏が生まれた。

さらにメソアメリカの古代社会では、動物は食料源のみでなく、他の重要な役割も果たしていた。

紀元前一千年期に階級社会が形成されるにつれて特定の動物が象徴として機能し始め、アニミズム

の世界から多種の神々が創造されたと考えられる。メソアメリカの世界観では天体に加えて、山、

川、湖、海、岩など景観の中にも多くの聖地を認識し、特定の動植物とともに、地震、火山活動、

洪水、雷、日食など自然現象や天地異変にも聖なるパワーを感じる多神教、日本のやおよろずの神

に似た概念があった。紀元後 1521年スペイン征服期のアステカ王国には、

多くの抽象的コンセプトを具現化した多様な神々のヘラルキーが存在し

ていた(Nicholson 1971)。恐らく動物界の中での相互関係も認知され、

個々の種の役割やランクも異なり意味づけられていたと思われる。表象と

しては、その中でも特有な性質を持つ猛獣など限られた種が選ばれている。

それも図像形成の初期から、自然体でない姿で表されることが多い(図 1)。

メソアメリカ文明の母体と言われるオルメカ文化の宗教センターや、それ

より古い初期公共建造物を持つパソ・デ・ラマダ遺跡の動物骨や遺物の図

像データによると、鹿、ウサギ、魚、水鳥など食用となった動物より、ジ

ャガー等獰猛な肉食哺乳類、猛禽類、爬虫類、両生類が土器や土偶、石彫

の表象に使われていた(Lesure 2000)。さらにオルメカ文化では、これら

自然界ヘラルキーの上位に位置する動物以外に、実在したと思われる人物

像、あるいは動物要素と混在した神話的人物像、もしくは創造神ともとれ

る表象が表れている。恐らく傑出した個人、貴族・軍人集団、人の容姿を

した神、もしくはナワル(特定の動物と絆を持つ個人)像とも考えられる。

これらがオルメカ・スタイルと言われる抽象化・標準化された図像・デザ

インとともに、形成期中期にはメソアメリカ広域に広まっており、オルメ図 1:ジャガーの顔を持つ人物像。オルメカ文化のサン・ロレンソ出土。

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カ世界観に政治的メッセージが組み込まれ、発信していたと考えられる。すでに特定の動物表象が、

首長国レベルの複合階級社会において権力や軍事力の誇示に使われた可能性が高い。

4.テオティワカンの聖動物と神の創造

テオティワカンは、前述のオルメカを始め、形成期文化の影響を受けながらも独自の都市構造、

建築・アート・スタイルを持つ、新大陸で最大規模の計画都市である。10 万人以上の人口を抱える

国家レベルの宗教・政治センターが、かなり急速に勃興したと考えられるが、その発祥の要因や形

成過程など不明な点が多い。ここではこの都市の勃興と関連し、国家権力の象徴となったと考えら

れる「羽毛の生えた蛇神」を中心的に取り上げる。テオティワカンの動物図像を通して、どのよう

に自然界を認識し、また古代都市の社会構造のなかに動物がどう組み込まれ、新しい神々の表象が

創造されていったのかを考察し、考古学データによりそれらを検証する。本論では、斬新な世界観

を具現化した計画都市において、聖なる動物の表象から、天体や自然界における他の特性を取り込

んだ新しい創造神の表象が、どのように権力の象徴としてモニュメントに組み込まれたか、図像分

析により考えてみたい。自然崇拝から「神々」の創造に導く宗教力が、母体となる社会集団の政治

力と直接的な相互関係にあることを示すためである。

テオティワカンの位置するメキシコ中央高原は、3千~4千メートル級の山々と海抜2千メート

ルほどの盆地群からなる。湖を含む多様な生態系の中、紀元前1千年頃からクイクイルコなど古代

宗教センターがモニュメントを中心に形成されていった。テオティワカンはそのようなセンターが

すでにいくつか存在するなか紀元前後頃勃興し、3-5 世紀には最盛期を迎え、6 世紀には衰退に向

っている。当時の世界観を具現化したこの古代計画都市の権力者集団は、メキシコ中央高原一帯を

広域にわたりコントロールしていたと考えられる。テオティワカンの影響力の強さは、トラロック

神、金星のシンボリズムなど特徴的なイデオロギー要素が遠くガテマラ、ユカタン低地のマヤ王権

の象徴体系にも表れているほどである。しかし文字による記録が解読されておらず、その宗教や社

会・政治体制、特に統率者集団の実体について、考古資料だけではまだ推察の域を出ない。次に述

べる図像に関しても、マヤのような歴史的記述を含む写実的な場面というより、神話的描写、また

は幾何学文様を含んだ象徴的表現が多く、非史実的内容が主テーマと考えられており、未解明な部

分が多い社会である。本小論文では、先行研究、ま

た筆者による考古学・図像学研究により復元した社

会史をベースとし、本題の動物表象について議論を

進める。(Berlo 1991; Cowgill 1992; Millon 1981;

杉山 1988、2004、2005)

テオティワカン盆地周辺は多様な生態系を反映

し、動物資源は豊富だった。前述のように家畜化さ

れた動物は限られ、運搬用に使える大型動物は存在

せず、植物に較べて動物ドメスティケーションの発

展は乏しいという印象を受けるが、豊富で多様な動

物・小動物・昆虫類が周辺の自然界に生息し、必要

に応じて組織的に狩猟採集して動物性蛋白質を補っ

ていたと考えられる。テオティワカンの動物資源と

しては家畜の犬・七面鳥より、より多くの野生種、

たとえば鹿、ウサギ、ネズミ・リスなどのげっ歯類、

湖近辺に生息する水鳥類、魚類が考古学的に検出さ

れており、民族史資料からはトカゲ類、ヘビ、バッ

タ・さなぎ・ハチ・蟻など小動物も多く利用されて

いたと指摘できる。このような自然環境を利用した

生業システムは、アステカ王国時代まで続き、多様

な動植物が市場に出回っていたという(図 2)。これ

らの野生・半野生的動物が、栽培植物とともに人口

緻密な古代都市を支えていたのだろう。 図 2:アステカ時代のトラテロルコ市場風景の復元(国立人類学博物館)。鹿、ウサギ、おおとかげ、カメ、小げっ歯類、犬などが売られていた。

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しかしながら、周りに存在する多彩な動物種に対し、図像に表された

動物は非常に限られたバリエーションを示している。それも写実的な動

物の自然体は少なく、人の装飾品を付けたり、人と融合した創造物、ま

た神と思われる図像の要素として描かれるケースがほとんどである。こ

こでは主テーマとして描かれた動物例を暫定的に、Ⓐネコ科、Ⓑイヌ科、

Ⓒ鳥類、Ⓓ蝶、Ⓔ蛇類、Ⓕそれらの動物諸要素が混在した図像、に分け

る。さらにこれらの主モチーフとしての動物カテゴリーに収まらない小

動物も、極小ながら周辺部に描かれている。ちなみにテオティワカンの

図像は、動物以外、植物、人物像、「神」と思われる複合体、幾何学文

様、繰り返しのパターン図柄など、変化に富んだ特有なアート・スタイ

ルを持ち、その意味について様々な分析手法による解釈が提唱されてい

る(Berlo 1983; Caso1667, Langley 1986; Millon 1973; Pasztory 1997;

Sugiyama 1992; Winning 1987)。しかし解読された文字による記述を

伴わないため、それぞれの場面の具体的なメッセージを読むことが難しく、本論においても個別の

図像の解釈は他論文に譲る(Fuente 1995; Sugiyama 2004)。ここではこれらの動物表象のうち、

特にⒺ蛇類の例に焦点を当て、その図像構成パターンの比較分析から、創造神「羽毛の生えた蛇」

が王権のシンボルとして機能していた可能性を追求し、さらに関係する考古学資料から解釈の妥当

性を検証する。まず聖なる動物グループを概観しよう。

Ⓐネコ科は、その体全体の容姿と足爪、特

に頭部の形と大きな牙を持つ口の特徴からジ

ャガーかピューマ(山ライオン)と同定し得

る(図 3,4)。自然体の写実的表現は少なく、

人の装飾品をつけた例、儀礼や行進など、明

らかに人の行動姿勢のもの、もしくは人に変

身・融合した姿、また人と動物が重複したよ

うに描かれるケースが多い。これらは特定の

人物かグループを表すか、もしくは個人が特

別な関係を持つ動物、つまりナワルを表す象

徴的表現と考えられる。網目型模様や、明ら

かにジャガーと同定できる黒斑点を体に持つ

描写が多い。恐らくオルメカ文明から継承したジャガー信仰の文化伝統で、テオティワカンで最も

多く表された聖動物のひとつだが、ジャガーは熱帯低地に生息するため、メキシコ中央高原では具

体的にピューマを表している場面が多いと考えられる。さらに近年の「月のピラミッド」発掘調査

でも、生贄にされた多くのネコ科動物が発見されたが、そのほとんどがピューマであることもこの

解釈をサポートしている。

図 3:テオティワカン「神話の動物達の壁画」に描かれたジャガー。

図 4:テオティワカン、テティトラに描かれたピューマの壁画。

図 6:鹿(中央)の心臓をえぐる 2匹のオオカミにより、生け贄儀礼を表すテオティワカン壁画(サンフランシスコ美術館蔵)。

図 5:テオティワカン、アテテルコの戦士の服装をしたオオカミの壁画線図。

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Ⓑイヌ科は、ネコ科と判別が難しいケースも稀にあるが、一貫

した特徴、たとえばネコ科より細長く裂けた口と、そこから覗か

せる臼歯、巻いた鼻先までの長い顔前部、さらに無数の線で描か

れた毛皮などによりイヌ科と判断できる例が多い(図 5,6)。オ

オカミ、コヨーテ、または犬と考えられるが、その区別は難しい。

近年のピラミッド内部から生け贄体と伴に発見された多数のイ

ヌ科動物の骨から、壁画などに描かれたイヌ科の例は今まで考え

られていたようにコヨーテではなく(Millon 1973)、オオカミ

であった可能性が高い。表現方法はネコ科同様、動物の自然体表

現というより、人の姿勢、人の装飾品着用例から特定のグループ

か人物を表すと考えられる。伴う文字列を持たないが、アイデン

ティティーを示すと思われる表象セットも、動物(人物?)像の

周辺の空間に認められる場合がある。特に槍の束や投げ槍器アトラトルも持っているオオカミの戦

士と描かれる場面も多く、または神官、王、王族メンバーの表象の可能性もある。

Ⓒ鳥類と認識できる図像グループは、鷲、フクロウ、ケッツアル鳥などと解釈されているが、上

記の例同様、正確な写実的表現でないため種の同定は難しい。「月のピラミッド」「太陽のピラミ

ッド」内部で発見された 30 匹以上に相当する鳥の生贄骨のほとんどが鷲であったことから、図像の

鳥も多くが鷲であった可能性が高い。イヌ科動物の表現同様、戦士として描かれるケースが多く、

槍と盾(もしくは円鏡)を持っており、前述の生贄骨出土例でも鏃や鏡のセットが同伴する例もあ

り、戦士の象徴の場合は鷲であった可能性が高い(本誌ジャーナル表紙写真)。アステカ社会では

明らかに鷲が戦士そして太陽の象徴と考えられており、その太陽-鷲-戦士のシンボル体系が、メ

キシコ中央高原の文化伝統として千年以上前、テオティワカン初期にまで遡る可能性が高い。

Ⓓ蝶は、壁画では構成要素のひとつとして稀に描かれる程度だが、「劇場タイプ」香炉台の表象

では鳥と組み合わさって主モチーフとして描かれる場合が多い。鏃、盾などと共に戦士のシンボル

と考えられるが、アステカ古文書で述べられる蝶のシンボリズムに関する記述が参照になる程度で、

その図像の構成要素からの意味論は憶測の域を出ない。

図 8:「羽毛の生えた蛇神」の壁画(サンフランシスコ美術館蔵)

図 7:テオティワカンで写実的な蛇が登場する唯一の壁画(Miller 1973: 73)

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Ⓔ蛇類に関する写実的図像は一例しかなく(図 7)、上記の動物

体に較べても、その自然体から大きくかけ離れた創造神の描写と

いえる (図 8、9)。ここで扱う「羽毛の生えた蛇神」グループは、

図像から後古典期の同名の神に相当することは明白だが、その他

にも羽毛のない「蛇モンスター」とも呼べる聖獣が少量だが描か

れている(図 10)。「羽毛の生えた蛇神」は蛇行する体が羽毛で被

われ、下部は水などのシンボルセットが付いていることが多い。

ワニの裂けた口と牙の列、そこから垂れる二分した舌、イヌ・ネ

コ科動物に特徴的な「カール鼻」と「鳥目」、顎から延びた「羽

毛カール耳」、そしてガラガラヘビのガラガラ尻尾から「羽毛の

生えた蛇神」と同定可能である。蛇、ワニ、イヌ・ネコ科動物、

鳥の要素を兼ね備えた創造神といえる。「蛇モンスター」グルー

プは蛇の体を持つが体に羽毛はなく、顔にはさらにイヌ・ネコ科

の要素、そして胴部に鳥の表象を加えたものなど、

その構成がまちまちである 1。時代的には「羽毛の

生えた蛇神」グループが最も古く、後述するように

紀元後 200 年頃の「羽毛の生えた蛇神殿」の建立時

から突然記念碑として現れており、「蛇モンスター」

表象はその後の 3~5 世紀の繁栄期に住居空間の壁

画・土器などに表されている。「羽毛の生えた蛇神」

は、その頭とガラガラの尻尾部分が頻繁に石彫のモ

チーフとしても表され、都市中心部の建造物に組み

込まれていた。「羽毛の生えた蛇神」「蛇モンスタ

ー」とも、壁画の枠部分や階段の「欄干」など、場

面の骨組みを構成する周辺部に置かれることが多い

が、これは後に述べるように、現世を創造した「時

(暦)」の神である特性から、創り上げた現世(空

間)を形作る輪郭の位置に描かれたと推定できる。

しかし「羽毛の生えた蛇神殿」は特例で、「羽毛の

生えた蛇神」が場面の中心モチーフであり、それも大石彫の3Dで強調されていることから、国家事

業としての重要性が推測できる。

メソアメリカの蛇に関しては、オルメカやマヤ地域に髪飾りを付けた蛇神の図像などがあるこ

とから、テオティワカン時代以前から神聖視されていたことは明白であり、「羽毛の生えた蛇神」

の前身ともいえ、後述するようすでに権力の象徴として機能していた可能性もある。しかし考古学

資料と照らし合わせてみた場合、テオティワカンの「羽毛の生えた蛇神」は、モニュメント建立と

セットで表明された、メソアメリカで最初のケースと言える。筆者はこの「羽毛の生えた蛇神」が、

ユニークな計画都市を創立した王の政治権力を正当化するための表象ではないかと考えている。400

年以上におよぶ専業・多様化した都市生活を送るなか、住民の聖なるモノ・自然に対する認識力も

変化し、さらに神官層による宗教イデオロギーの発展と、儀礼に携わる政治的な組織化が反映した

創造的な表象の出現は推測可能である。後に表れる「蛇モンスター」グループの図像構成も、異な

った動物から認知した特性を掛け合わせる融通性と想像力により、さらに動物の分類枠を超えて統

合した創造神と理解できる。それらを人物像と補完的に関係づけることにより政治的メッセージを

組み込ませた、国家宗教の産物と言える。それら個別の壁画の意味を理解することは難儀だが、次

項では「羽毛の生えた蛇神殿」に含まれた図像を、その構成パターンと要素の比較から解釈する。

さらに同ピラミッドにおける近年の考古学データにより、「羽毛の生えた蛇神殿」は政治的権威を

公然と誇示する記念建造物であったことを提示し、国家宗教による認知力の変化を考察してみたい。

1カール・タウベがマヤの図像と関連づけ、以下に述べる「シパクトリ神」を含めて「戦いの蛇神」と呼ぶグループである(Taube 1992)。

図 9:「神話の動物たち」壁画で表される「羽毛の生えた蛇神」(Fuente 1995: 100-101)。

図 10:「蛇モンスター」壁画の例。

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Ⓕ動物諸要素が混在した図像は、さ

らに様々な動物がセットで混在する場面

を描いており、当時の新大陸最大の都市

で機能していた重層な神官層によるシン

ボル体系の発展を示している。「羽毛の

生えた蛇神」以外の諸動物の融合、人物

と動物の混在・トランスフォーメーショ

ン、あるいは神々の複合体も、4 世紀以上

にわたり複数の民族が出入りした大宗教

センターで進行した意識革命を反映する

と想定できる(図 11)。

5.「羽毛の生えた蛇神殿」の図像と考古

資料

テオティワカンの「羽毛の生えた蛇神殿」

は、紀元後 3 世紀初期に建立された、都市最大の儀式場「城壁」の中心ピラミッドである(図 12)。

現在見られる都市計画の建設が完了した時でもあり、膨大な労働力を集約できる強力なリーダーの

存在を思わせる。中心神殿の壁面にはめ込まれた 2 種類の大石彫はマニュエル・ガミオにより 1917

年に発見され(Gamio 1922)、一方は「羽毛の生えた蛇神」と同定されたが、他方は「トラロック

神」や「戦いの蛇神」など、様々な解釈が提唱されてきた。全体として、突出した 2 つの石彫から、

二元性を表す二つの神の神話場面

と解釈されてきた。筆者はアルフ

レッド・ロペスやレオナルド・ロ

ペスとともに、この2番目の石彫

を暦の始まりを表す「シパクトリ」、

もしくは「大地モンスター」と解

している(López, et al. 1992)。

紙面の都合からその図像の詳細な

解釈は他論文に譲り、以下に主旨

を要約する(Sugiyama 2005)。な

お、解釈には時代が下ったアステ

カ社会の古文書が語る世界観も、

有効であると考える範囲において

加えている。

神殿ピラミッドは4面とも全て

石彫で覆われ、同様な図像セット

が繰り返されている。モチーフは、テオティワカンの建築様式であるタルー(下部の傾斜した壁)

部分とタブレロ(上部の垂直壁)部分に二分できる。全体としてピラミッドは聖なる蛇の山(コア

テペック)を象徴している。山(ピラミッド)は洞窟を通して、人やトウモロコシが生まれ、死と

ともに戻る「闇と水の地下界」に繋がると考えられていた。「羽毛の生えた蛇神殿」はこの聖なる

コアテペックを具現化し、下部のタルーは「羽毛の生えた蛇神」が、貝で表された水の地下界を漂

っている姿を表す。上部のタブレロ

で繰り返されるモチーフセット(図

13)は、「羽毛の生えた蛇神」が王

権のシンボルセット(図の白い切り

抜きと青の部分)を地下界から現世

に持ってきている図と解釈できる。

王権のシンボルは髪飾りと鼻飾り

(図 13 の青の部分)から成る。メソ

図 11:テオティワカン、アテテルコの壁画。

様々な動植物で構成されている(Fuente 1995: 240)

図 13:「羽毛の生えた蛇神殿」の繰り返されたモチーフセット。

使われいる色は実際のオリジナルのものとは異なる。

図 12:「羽毛の生えた蛇神殿」正面。

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アメリカの古代国家、

特にテオティワカン

では、髪飾りと鼻飾り

により王権を象徴し

ていた。

石彫を持つモニュ

メントに類似した図

像はないが、材質の違

いを分類基準としな

ければ、モチーフと構

成が酷似した壁画の例がいくつかあり、製作者の意図を類推することができる。例えば図 14 の壁画

は、「羽毛の生えた蛇神」の胴体の部分に重ねられた頭飾りの図と認識可能で、蛇神が王権のシン

ボル、または特定グループのアイデンティティーである髪飾りを持ってきていると解釈できる。「羽

毛の生えた蛇神殿」の構図も同様に、蛇神がその胴体部分に頭飾りを持っている図と理解できる。

つまり、二つの石彫は特定なメッセージを伝えるための、全く異なったカテゴリー(神と頭飾り)

に属する要素であり、突出させる石彫技法は重要な二要素を強調するためのもので、並列関係や二

元性を示すものではない。

では頭飾りは、何を表すか。明らかに自然界に存在する動物図像ではなく、「大地モンスター」

とよぶ創造神の顔を持つと考えている。それもウロコのような皮膚で覆われた顔面部(図 15:II)

と、上部の頭飾り(I)に分けられ(髪飾りの中の小髪飾り)、II はアステカ古文書資料の形状から

「シパクトリ神」、もしくは「大地モンスター」を表し、宗教暦の第一目の日付記号であることか

ら、周期・時代の始まり、または暦(時)の創始も意味していたと思われる。小髪飾りも「(年月

の)結び」、つまり暦の大周期を表している。

メソアメリカでは暦の表象が、「時(現世)」

をコントロールする権力を象徴することから、

「羽毛の生えた蛇神殿」の頭飾りも、国家権

力を表すと考えられる。つまり、同神殿の図

像は、この世を創造した「羽毛の生えた蛇神」

が権威の象徴である頭飾りを持ってきている

図であり、その建立を命じた王が自らの権力

を神から授かるという戴冠式の図像を描かせ

た、聖なる権力を正当化する行為と解釈する

のが妥当であろう。類似した戴冠式の図は、

メソアメリカでモニュメントや石碑、壁画に

多く描かれており、王権のシンボルである髪

飾りを他の神、前代の王、またはその妻(自

身の母)から授与される例もある。「羽毛の

生えた蛇神殿」の石彫は、聖なる権力の授与

という宣言であり、「羽毛の生えた蛇神」は

その権力を正当化する最高神として、聖なる

動物の要素から国家により作られた創造神で

あったと考えられる。

モニュメントでの発掘調査結果は、上記の

図像から考察できる「羽毛の生えた蛇神殿」

の国家宗教としての特異性を傍証する。1980

年代に「羽毛の生えた蛇神殿」の内部で発見

された 137 体以上の生贄戦士軍団の存在は、

それまでのアステカ神話に基づいた平和的な

神権政治のテオティワカン像を変え、軍事的

図 14: テオティワカン、サクアラの壁画の復元図。(Fuente 1995:335)

図 15:羽毛の生えたヘビ神殿の石彫。シパクトリ神をかたどった髪飾りを表す。その下に鼻飾りが見える。

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国家の特質をメソアメリカ史の中で位置づけた(Cabrera et al. 1991)。生贄体や大量の副葬品の

分析から、神殿の建立がユニークな世界観を具現化するための国家事業として行われたこと、また

テオティワカンが強力な軍事力に基盤を置いた覇権国家であった可能性、さらに「羽毛の生えた蛇

神殿」がその王権の象徴として建立されたことが指摘された(Sugiyama 2005)。さらに都市計画や

建築・図像データから、「城壁」が金星の運行に関わって建設され、「羽毛の生えた蛇神」が金星

さらに「戦い」のシンボルであり、アステカ時代にまでその属性は引き継がれたことが提唱されて

いる(Carlson 1991; Sugiyama 2010)。200 体以上の聖なる戦士軍団が、「羽毛の生えた蛇神殿」の

建立に供犠として生贄にされ、その伝統が戦士のシンボルである「劇場タイプの香炉台」の大量生

産へと繋がっていったと考古資料は物証している(Múnera 1985)。

さらに近年行われている発掘調査は、「羽毛の生えた蛇神殿」が実際に王墓をその地下深くに含

んでいた可能性を追求している。1980 年代初頭に「城壁」の中央広場で発見され「大井戸」の跡と

解釈された巨大な縦穴が、実は広場から 14 メートルほどの深さに作られた古代トンネルへの入り口

だったことが 2009 年に確認された。その後続く調査では、古代トンネルが「羽毛の生えた蛇神殿」

の真下まで水平に続くこと、さらにそのトンネル内部の埋土の中から大量の副葬品が発見されてい

ることから、トンネル最奥部には王墓があった可能性が指摘されている(Gómez 2011)。調査は現

在も続いており、またトンネル内部で確認された攪乱層の存在から盗掘されている可能性もあるが、

現在まで発見されている遺物の質量から王の遺体か王権のシンボルがかつて大量に納められていた

ことは間違いない。もし王自体が神殿直下に埋葬されていたなら、「羽毛の生えた蛇神殿」はまさ

に王権の象徴として公然と認識されていただろう。さらに神殿内部に埋葬された戦士の生贄軍団も、

地下界へ葬られた王へ捧げられた集団殉死埋葬墓とも解釈でき、戦士軍団に象徴される軍事的覇権

国家の王権にタイトルを与える神だったと類推可能である。このような国家先導の大事業であるモ

ニュメント建設と大量生贄儀礼を通して、「羽毛の生えた蛇神」は王位を授与する最高位の神とし

て大衆に認知されたと言える。

本稿では省くが、「月のピラミ

ッド」内部で発見された生け贄

墓内部でも、「羽毛の生えた蛇

神」を模った黒曜石製品などの

象徴品や、出土した大量のガラ

ガラヘビ骨の空間分析で、国家

宗教のなかで同神の特異な位置

づ け は 傍 証 可 能 で あ る

(Sugiyama and Cabrera 2007;

Sugiyama and López 2007)(図 16)。

6.まとめ

ここまで「羽毛の生えた蛇神」に焦点をあて図像解釈を試み、考古資料からも復元可能な国家宗

教形成の背景について考察した。この蛇神からは、様々な聖動物の属性が認知され、それらを組み

入れることによって超自然力を得て、王権の表象となったと考えられる。「羽毛の生えた蛇神」は、

ジャガー・ピューマなどネコ科動物、オオカミなどイヌ科動物、ワシ、ガラガラヘビ、ワニの諸要

素を組み合わせた複合体で表されており、自然界のパワーを統合した新しいイデオロギーの象徴と

して権力と結びついていたのだろう。王権のシンボルとしての「羽毛の生えた蛇神」は、モニュメ

ント建立と集団生贄儀礼を通して具現化され、その宗教力を社会に浸透させたと言える。その具現

化のために造られた建造物は、テオティワカンで最大規模の労働エネルギーを集約して完成したモ

ニュメントであり、その建設の初期から計画された大量の象徴品の製作や、埋葬墓の準備、人身御

供の執行は、「羽毛の生えた蛇神」の計り知れない社会的・政治的インパクトを与えたと想像でき

る。さらに国家の最大儀式場「城壁」の建設が終了後も、国家行事や生贄儀礼はその境内で数世紀

の間繰り返されたと思われるが、「羽毛の生えた蛇神」は、かつて捧げられた戦士軍団とともに再

認識されながら、国家権力の象徴として機能し続けたと思われる。

さらに国家宗教の体系を発展させたテオティワカンでは、蛇神以外にも様々な創造神が創り出さ

図 16:黒曜石で作られた「羽毛の生えた蛇」像。「月のピラミッド」内部で発見された埋葬墓6内出土。

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れている。メキシコ中央高原で伝統的に崇められていたトラロック神(雨をもたらす稲妻の神)(図

17)、地上を流れる水の女神チャルチュウトリクエ(図 18)、また火山活動とも関係づけられる老

人の神(火・台所の神)(図 19)なども、儀式空間、住居内部の壁画や石製・土製の儀式用品など

に表されている。これらの神々も、図像の構成要素は聖なる動物の特性と関係するが、自然景観や

天体とも関連付けて認知されていたと考えられ、世界観を構成する国家権力との相互関係をも考慮

し解釈すべき課題である。このように、自然と聖なる動物の崇拝から、創造神、さらにそれを創り

上げた王と新しい宗教イデオロギーが、テオティワカン古代国家では社会階層化や国家形態の形

成・変容に関わっていたと指摘できる。

人は自然界のパワーを理解する媒体として動物を認識し、ある特定の獰猛な動物が、社会階層の

権力の象徴として機能していた。さらに、特定の動物の要素を組み合わせた神の創造は、飛躍的な

認知力のステップ・アップであり、その表象の具現化(モニュメント建築、彫刻、壁画、象徴品制

作など)は社会・政治構造にも反映したと思われる。人は特定の動物を我々に近い存在であると認

識し、その特性を組み合わせることにより神を創造し、絶大なパワーを抱く自然界をコントロール

する一歩と成した。特にそれぞれの地域を代表する獰猛な動物の特徴を含む神の創造は、階級社会

での政治権威の象徴として大きなインパクトがあり、権力保持と聖なる政治力の行使に機能したと

推測できる。

特に階級社会の構成メンバーと支配層の精神構造まで研究領域とした場合、その秩序・階層を認

識させ納得させる世界観(時と空間の概念)、神々の体系(自然ー超自然力)、オナー・システム

(特権、威厳、名声、勲章などの概念)を形成するうえで、特定の動物が果たした象徴の役割は計

り知れない。次に続く研究報告は、そのような動物たちと関わってきた人類史のキーとなる断片を

語ってくれる。

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図 17:トラロックの壁画。 図 18:「月の広場」で発見された水の神、チャルチウトリクエ石彫。

図 19:火の神、ウェウェテオトルの火鉢。

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1.Introduction: Sacred Animals and Ancient Rulership in Mesoamerica

Saburo SUGIYAMA * Animals have been an immediate resource of the nature that humans long explored as food, materials for production, tools for transportation, companions, or symbols. Ancient Mesoamerican people paid special attentions to certain kinds of animals, particularly powerful carnivores, raptors, or poisonous animals, and incorporated them in social systems as symbols of power. I examined representations of sacred animals from the point of view of Cognitive Archaeology, particularly those of the feathered serpents, in relation to the social and political formation process of the Teotihuacan state. It may be argued, with iconographic studies and archaeological researches, that the feathered serpent was created, or upgraded as a supreme deity to proclaim the rulership. This was done through the erection of the monument called the “Feathered Serpent Pyramid” and rituals of mass-human sacrifice in Teotihuacan, although its ancestral creature may have already been functioning during earlier periods in Mesoamerica. The Classic Teotihuacan state developed around the first century AD in an ecologically rich basin where a large variety of plants and animals were available in addition to domesticated species like dogs and turkeys. However, the representations in the Teotihuacan murals, ceramics, and stone objects show only a select animal group such as carnivores (felines and canines), birds (raptors), butterfly, snake, and enigmatic creatures composed with animal parts of different kinds. The representations of the snake group actually consisted of feathered serpents and serpent-creatures, and only one example of realistic serpent image. A feathered serpent comprised features of jaguar (or puma), wolf, alligator, bird, and rattle-snake that would have provided cosmic power transforming into a super-natural creature or god. Iconographic studies and archaeological researches demonstrate that the Feathered Serpent Pyramid in the Citadel was erected to proclaim the rulership in the form of a symbol set, headdress and nose-pendant of special forms, in order to govern the present world. The excavations in 1980’s demonstrated that more than 200 warriors-priests were sacrificed and dedicated to the erection of the Feathered Serpent Pyramid, and the recent discovery of a possible royal tomb, about 14 meters below the pyramid, also seem to support the idea that the feathered serpent symbolized sacred rulership for the people who were buried under the monument when the construction of the planed city was concluded in the early third century AD.

* Ph.D. obtained from Arizona State University, currently Professor of the Graduate School of International Cultural Studies at Aichi Prefectural University and Associate Research Professor in the School of Human Evolution and Social Change, Arizona State University (part-time). His major research focuses on the Mesoamerican social histories, particularly of Teotihuacan, ancient urbanism, iconography, and symbolism. He has been the co-director of the Moon Pyramid Project and is currently working as an Invited Professor for the Mexican National Institute project at the Sun Pyramid in Teotihuacan and at the Templo Mayor in Mexico City.

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