This document is posted to help you gain knowledge. Please leave a comment to let me know what you think about it! Share it to your friends and learn new things together.
Transcript
1990 年代における世界小売企業の国際化推進力
田 村 正 紀
Ⅰ 小売国際化の分析フレームⅡ 企業国際化のロジット・モデルⅢ 国際化進展の推進力
21世紀に入って,イオンやファーストリテイリングなど,わが国を代表する流通企
業が小売国際化を,今後のもっとも重要な成長戦略として位置づけ始めた。しかし世界
の代表的流通企業,とくにその売上高トップ 100についてみると,かなりの企業によっ
て小売国際化が基本戦略として明確に意識されたのは 1990年代のことである。そのき
っかけはソ連,東欧における共産圏の崩壊,アジア市場の急成長などがある。
そして 90年代後半には,小売国際化は地球規模で定着し始めた。ウォルマート,カ
ルフール,テスコ,メトロ,コストコなど世界トップ 10に入る企業が日本市場に相次
いで参入したこともその一環であった。しかし,90年代後半でも,トップ 100の小売
国際化の程度の分散はかなり大きく,国際化の進展は企業間で多様である。この点で,
この時期は企業レベルで見た小売国際化の推進要因の歴史的検討には好都合な期間であ
る。小論の目的は,この期間での世界の先端流通産業を構成した企業,つまり小売業の
売上高世界ランキング 100位に入る企業を対象にして,小売国際化を推進させた要因を
実証的に明らかにすることである。分析されるデータは,1996年から 1998年にかけて
のトップ 100のクロスセクション・データである。
Ⅰ 小売国際化の分析フレーム
従来の研究における問題
企業の小売国際化の推進力を巡っては多くの議論がある。小売国際化研究の創始者,
ホランダーはかって国内市場機会の消滅が,小売国際化の重要な推進力であることを強
調し1
た。その後,カッカ2
ーは,1970年代から 80年代にかけてのヨーロッパ小売業によ
るアメリカ小売業の買収事例についての観察に基づき,その本国市場の飽和が重要な推
────────────1 Hollander, S. C.,(1970)Multinational Retailing, MSU International Business and Economic Studies, MSU,
East Lasting.2 Kacker, M.,(1985),Transatlantic Movements in Retailing, Quorum.
( 317 )1
進力として作用していることを指摘した。
トレッドゴール3
ドも同じ考え方を共有し,持続的国内成長への機会制約が,多くの小
売商にとって国際化の推進力であったと述べている。さらに,国際化データに基づく,
国民市場国際化の推進力についての実証研4
究によれば,本国市場の飽和は,欧州企業だ
けでなく,他の地域でも現在作用している。
他方で,ウィリアムズとアレキサンダーは,すでに 90年代の初頭に英国小売商につ
いてのサーベイ調査の結果に基づき,市場飽和仮説を批判してい5
る。かれらの主張によ
れば,市場飽和は小売国際化の主要な推進力ではない。それよりももっと重要な推進力
は,第 1に,企業の成長指向,第 2に,進出市場の市場規模や成長性とニッチ型の市場
機会であり,第 3に,各企業が持つ小売フォーミュラの国際訴求力や,革新的な小売提
供物による競争優位性である。
同じような主張は,近年,ヴィダによっても行われている。彼女はアメリカ小売商の
サーベイに基づいて,小売国際化の推進力は,その小売商に特異な競争優位性,企業規
模と本国市場での拡張性,その企業とその戦略経営チームの国際市場指向などにあるこ
とを発見した。しかし,小売商の業務フォーマットも,また国内市場機会の欠如も,小
売国際化の推進力ではな6
い。
しかし,小売企業国際化のプッシュ要因(国内市場の飽和)とプル要因(進出市場の
成長や企業の成長指向)をめぐる従来の実証研究には,とくにデータ範囲にかんして,
2つの問題点がある。
まず,従来の研究におけるデータ範囲は,世界の特定国あるいは特定地域の企業デー
タに基づいている。この点で,データ範囲は地球全体から見れば,きわめてローカルで
ある。この種のデータによって,国際化推進力としてのプッシュ要因とプル要因の相対
的重要性を検討すると,問題の性格上,地域的な歪みが生じる危険がある。また,特定
国に限定されたデータでは,たとえ推進要因が発見されたとしても,その要因が他国に
も当てはまるかどうかはわからない。つまり,それが多くの国の国際化に当てはまる一
般的な要因であるのか,あるいはその国に特殊的な要因であるのかがわからない。
次に,多くの研究,特に事例研究は,国際化企業のみを観察対象にして,非国際化企
業を対象にしていない。国際化企業のデータだけでは,たとえ国際化企業に共通してい────────────3 Treadgold, A.,(1988),Retailing without Frontiers, Retail and Distribution Management, Vol.16, No 6, pp.8−
月。5 Alexander, N.,(1990),Retailers and International Markets : Motives for Expansion, International Marketing
Review, Vol.17, No.4, pp.75−85, Williams, D. E.,(1992),Motives for Retailer Internationalization : Their Im-pact, Structure and Implications, Journal of Marketing Management, Vol.8.
6 Vida, I.,(2000),An Empirical Inquiry into International Expansion of US Retailers, International Marketing
Review, Vol, No.4/5, pp.454−475.
同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)2( 318 )
る推進要因を発見できたとしても,その要因が小売国際化の必要十分条件であるという
保証はない。たしかに,国際化企業に共通してみられる要因は国際化の必要条件であろ
う。しかし,この必要条件と同じような条件を備えていても,まったく国際化していな
い企業が存在するかもしれない。その際,その推進要因は小売国際化の必要条件であっ
ても,十分条件とは言えない。その条件が存在すれば必ず国際化するとはいえないから
である。
企業国際化の二つの段階
どのような要因が企業を小売国際化に走らせるのだろうか。その検討のためには,何
よりもまず,企業レベルでみた小売国際化の過程的特質を明確に理解しておく必要があ
る。企業レベルでの国際化の指標は,外国売上高,活動国数,および外国売上高依存率
である。外国売上高は,企業の国際活動の絶対的規模から見た国際化指標であり,活動
国数は国際化の地理空間的拡大の指標である。外国売上高依存率は,企業組織の活動自
体が相対的にどの程度国際化しているかを示す指標である。国際化するにつれて,これ
らの三種の指標の動きは次のようになる。
国際化をしていない企業では,活動国数は本国市場だけであるから 1であり,外国売
上高,海外売上高依存率はゼロである。小売商がその活動を本国市場だけでなく,外国
へ拡大するとき,企業レベルでの小売国際化が始まる。それにつれて,その小売商の活
動国数は 2以上になり,外国での売上高が計上され,外国売上高依存率がゼロでなくな
る。国際化に向かって一歩踏み出すと,活動国数,外国売上高,海外売上高依存率は,
企業によって異なる組み合わせパターンを描く。
国際化しているかしていないかの指標は単一である。しかし。国際化の進展の程度を
はかる指標は複合化する。これが三種の指標から見た,企業国際化の過程的特質であ
る。この過程的特質から見ると,小売企業の国際化過程には,明確に区別すべき二つの
段階がある。第一は,国際化するかしないかの段階であり,これを以下で始動段階とよ
ぼう。第二は,国際化を始動して後,それをさらに進展させていく段階で,これを進展
段階とよぼう。
国際化の推進力の分析は,これら二つの段階に分けて行う必要がある。小売商の活動
国数が 1(本国市場のみ)から 2に増えるということは,それが 2から 3へ,そしてさ
らに多くの国へ増えることとは,質的に異なる意味を持つ。小売国際化の推進力を検討
する際に,今ままでの諸研究が行ってきたように,国際化している企業だけに焦点を合
わせるだけでは不十分である。
国際化企業の特徴は,非国際化企業との比較でみた場合により鮮明になる。さらにこ
の比較研究の重要性は,小売業世界ランキング 100位という世界の先端流通産業をとっ
1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) ( 319 )3
10 20
活動国数30
10%
20%
30%
40%
パーセント
てみても,第 1図に示すように,全く国際化していない小売企業が半数近くいるという
事実にもある。小売国際化の推進力の検討の第 1歩は,国際化した企業と国際化してい
ない企業との,比較研究でなければならない。
国際化の始動を巡る仮説
企業が国際化しているかいないかを,第 1表に示す国際化ダミー変数 P によって表
すことにしよう。P は企業が本国のみで活動している(非国際化)場合にゼロという値
をとり,その他の場合,つまり活動国数が 2以上(国際化)の場合に 1という値をと
る。世界ランキング 100位内の企業について,この国際化ダミー変数の平均値は,国際
第 1図 世界小売トップ 100企業の活動国数 1998年
データ源:Chain Store Age, M+M Planet Retail, Euromonitor, PriceWater House などの源データによるデータベース
る。さらに,近年の英国や米国におけるように,流通業への独────────────9 田村正紀,『先端流通産業-日本と世界-』,千倉書房,2004年。10 Burt, S.(1986),The Carrefour Group - the First 25 Years, International Journal of Retailing, Vol.1, No.3,
pp.54−7811 Stone, K. E.,(1995),Competing with the Retail Giants, John Wiley and Sons, Quinn, B.,(1998),How Wal-
mart is destroying America(and the World)and What You Can Do about it , Ten Speed Press.
同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)6( 322 )
禁法規制の動きのある12
国では,本国市場占拠率は,それが地域空間独占と関連すると
き,公共規制と関連を持つことになる。
従って,以下の分析では本国市場占拠率を各企業が現実にあるいは潜在的にうける公
共規制の測度として用いることにしよう。本国市場占拠率における売上高数字には外国
売上高を含んでいるため,それは本来的な意味での市場占拠率ではない。従ってここで
は,それを市場占拠率の近似的な指標として利用している。かなりの数の企業について
外国売上高と本国売上高をデータ的に分離できないことがその理由である。
企業の戦略行動特性としても多様な要因が指摘されてきた。能動的推進力を最初に強
調したアレキサンダーやウィリアムズは,企業の成長動機,小売フォーマットの競争優
位性などを推進力と指摘してい13
る。また小売国際化過程の概念的研究でも,競争優位性
が小売国際化の重要な促進要因になると想定されている。その内容はユニークな商品,
品揃え,小売コンセプトや魅力的な市場イメージ,さらには価格訴求力などであ14
る。
以下の分析では,これらの要因に関わる変数として,企業の売上成長率を取り上げ
る。売上成長率の高い企業ほど,その成長指向も高いであろう。また,売上成長率の高
い企業ほど,革新的な小売フォーマットを持ち,競争優位性を持っているはずである。
このように,競争優位性そのものを測定する代わりに,売上成長率によって成果の観点
から競争優位性の程度を測定することにしよ15
う。
戦略行動特性として,もう一つの重要な要因は小売フォーマットのユニークさであ
る。この点について,特に専門店業態はユニークなフォーマット持ちやすい。ベネト
ン,ローラ・アッシュレイ,ボディショップ,タイラック・アンド・ソックショップ,
イケアなど,ユニークな専門店フォーマットを持つ企業は,フランチャイズ方式を採用
することによって歴史的に急速な国際展開を行ってき16
た。その小売ブランド・コンセプ
トが国際的な訴求力を持つかぎり,フランチャイズ方式はフランチャイザーにとっては
小さい資本投資と,人的資源に投資を必要としない。それによって投資危険をフランチ
────────────12 cf. Wrigley, N. and M. Lowe,(2002),Reding Retail : A Geographical Perspectives on Retailing and Con-
sumption Spaces, Arnold.13 Alexander, N.,(1990),op. cit. , Williams, D. E.,(1992),op. cit. , Williams, D. E.,(1992),Retailer Interna-
tionalization : An Empirical Inquiry, European Journal of Marketing, Vol.26, No.8/9, pp.8−24.14 Simpson, E. M. and D. I. Thorpe,(1995),A Conceptual Model of Strategic Considerations for International
Retail Expansion, The Service Industries Jouranal, Vol.15, No.4, pp.16−24, Vida, I. and A. Fairfurst,(1998),International Expansion of Retail Firms : A Theoretical Approach for Future Investigations, Journal of
Retailing and Consumer Services, Vol.5, No.3, pp.143−151.15 競争優位性が本国市場にとどまるものか,外国市場にも移転できるものであるかは重要な問題である(cf. Brown, S. and S. Burt,(1992),Conclution-Retail Internationalization : Past Imperfect, Future Impera-tive, European Journal of Marketing, Vol.26, No.8/9, pp.80−84)。おそらくそれは,競争優位性の基盤に依存している。
16 Treadgold, A. D.,(1990),The Developing Internationalization of Retailing, International Journal of Retail &
Distribution Management, Vol.18, No.2, pp.4−11.
1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) ( 323 )7
ャイジーに転嫁することができるからである。この要因を表すために,専門店ダミー変
数を導入しよう。
小売国際化過程の研究では,さらに国際化のために必要な企業資源も重要な推進力で
あ17
る。その内容は財務資源や人的資源であるが,世界の代表的企業についてデータを入
手することは困難である。そこで企業の売上高規模を企業資源の代理的な指標として用
いよう。その際の想定は,企業規模が大きくなると,国際化のためにふり向けられる財
務的,人的資源がより多く蓄積されるということである。
Ⅱ 企業国際化のロジット・モデル
通常回帰分析に伴う問題
企業が国際化するかしないか。それを決める要因を実証するには,どのような手法が
適切だろうか。すぐに浮かぶのは,第 1表の国際化ダミー P を従属変数とし,市場飽
和要因と企業戦略要因に関連する 6つの変数を独立変数とする,式(1)に示すような
通常線形回帰モデルであろう。
( 1) P=a+b1D+b2C+b3M+b4G+b5F+b6S
ここで,a, b1~b6は,データから推定されるパラメータである。しかし,従属変数が 1
か 0の値しかとらない 2値変数の場合,このようなモデルは適切ではない。
まず,従属変数の値が 0と 1との下限と上限を持つことから生じる境界問題がある。
第 1に,従属変数の推定値が 1を超えたり,0を下まわったり可能性がある。これは P
を 0と 1の間の数値しかとらない確率とする解釈と矛盾する。第 2に,2値的な従属変
数は独立変数のすべての組み合わせについての加算性の想定を壊す。ある独立変数の値
が従属変数を 1近くに押し上げるほど強い場合に,他の変数は影響を及ぼすことができ
ないからである。このことは線形モデルが使えないことを意味している。2値的な従属
変数は,すべての独立変数の影響を本来的に非加算的で相互作用的にする。それぞれの
独立変数の影響は,他の変数の値に依存して変わるのである。
次に統計的推測の問題がある。第 1に,通常の線形回帰モデルは,その誤差項が正規
分布に従うことを前提にしているが,2値的な従属変数の場合,その誤差項は正規分布
に従わない。ある企業が独立変数についてとる特定の値,Di, Ci, Mi, Gi, Fi, Si につい
て,その予測値は ai+Di+Ci+Mi+Gi+Fi+Si である。予測値と観察値の残差は,観察
値が 1の時は(1-予測値)となり,観察値が 0の時には(0-予測値)という値しかと────────────17 Vida, I. and A. Fairfurst,(1998),op. cit.
同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)8( 324 )
らないからである。
第 2に,通常の回帰モデルは誤差項の分散が独立変数の各値について同じであるとい
う分散一様性の前提をおいている。2値的な従属変数はこの前提をも満たさない。ある
独立変数と従属変数の推定された関係が右上がりの直線によって表されるとしよう。こ
のさい,誤差はこの直線が 1か 0に近づくとき小さくなり,その中間にあるとき大きく
なる。いずれにしても,従属変数が 2値変数の場合,誤差は独立変数の値に依存して変
化してしまう。
ロジット・モデルの特徴
これらの 2値変数に伴う問題を処理する方法は,統計学ではよく知られてい18
る。それ
は 2値的な従属変数を対数ロジットに変換することである。特定企業 i の国際化確率
を Pi によって表そう。1-Pi は非国際化確率である。対数ロジット変換を行うには,
まず 1-Pi に対する Pi の比率をとる。この比率はオッズと呼ばれる。オッズは非国際
化尤度に対する国際化尤度の比率である。オッズ比は非国際化確率に対して国際化確率
が何倍になっているかを示す。オッズは確率と同じように下限値としてゼロを持つが,
確率と異なり上限値がない。
次に下限値の制約を除去するために,オッズの自然対数をとる。ロジット Li は次式
で定義される。
( 2) Li=ln[Pi/(1-Pi)]
自然対数をとることによって,オッズが 0と 1に間の時には対数オッズは負の値にな
り,オッズが 1の時には対数オッズはゼロになり,オッズが 1を超える場合には対数オ
ッズは正の値になる。
ロジットは確率とは異なり,上限値あるいは下限値の境界を持たない。それは確率の
中点 0.5の周りで対称的である。さらに,確率値が上限あるいは下限に近づくにつれ
て,ロジットはますます大きい値をとる。ロジットのこのような性質によって,ロジッ
トへの独立変数の影響を線形回帰分析によって推定することができるようになる。つま
り,
( 3) ln(Pi /1-Pi)=a+b1Di+b2Ci+b3Mi+b4Gi+b5Fi+b6Si
従属変数のロジット変換による回帰モデルは,ロジスティック回帰モデルあるいはロジ────────────18 cf. Pampel, F. C.,(2000),Logistic Regression, Sage Publications.
IKEA AB 89.3 Marks & Spencer PLC 36 Royal Ahold 26283
Delhaize“Lelion”Group 77.5 IKEA AB 29 Metro AG 18239
Royal Ahold 70.9 Toys“R”Us Inc 26 Carrefour SA 15705
Otto Versand Gmbh & Co 49.2 Quelle Aktlengesellschaft 26Tengelmann Warenhandels-gesell chaft
15194
Tengelmann Warenhandels-gesel lschaft
49 IGA Inc 23 Promodes Group 13794
Carrefour SA 43.6 Carrefour SA 20 Wal-Mart Stores Inc 12269
Kingfisher PLC 40 Metro AG 20 Delhaizer“Lelion”Group 11118
Promodes Group 38.1 Pinault-Printemps-Redoute SA 20 Otto Versand Gmbh & Co 9685
Auchan Groups 38.1 Otto Versand Gmbh & Co 19 Auchan Groupe 9558
Metro AG 35 Itd−Yokado Co Ltd 19 Aldi Group 8932
The Office Depot 19
1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) ( 335 )19
再尺度化された距離によるクラスター結合
グループA: Carrefour SA Tengelman Walenhandelsgesellschaft Promodes Group Metro AG Royal AholdグループB: ITM Enterprises SA Ito-Yokado Kingsfisher PLC IKEA AB Rewe-GruppeグループC: Auchan Groupe Otto Versand Gmbh&Co Aldi Group Wal-mart Store Delhaize "Lelion" GroupグループD: その他の企業
ケース 0 5 10 15 20 25
売上依存率と活動国数の .509,そして外国売上高と活動国数の .315である。いずれも
5%水準で有意になるから,相関がゼロであるとはいえない。
統計的には,これら 3つの指標を主成分分析などによって,一つの総合指標に要約す
ることは可能である。しかし,その際,もとの 3つの指標が持つ情報の幾分かが失われ
るだけでなく,指標によっては総合指標に十分に要約されない指標が出てくる。実際に
主成分分析を行ってみると,総合因子によって要約される比率は 67%であり,33%の
情報が失われる。特に問題は活動国数の共通性が 0.499となり,その分散の半分しか総
合指標に要約されないことである。
外国売上高依存率,外国売上高,活動国数は,国際化の進展という部分的な共通軸を
持つにもかかわらず,その実体的内容は質的に異なっている。したがって,それぞれの
指標を推進する要因は異なってくる可能性がある。
これらの点を考慮して,企業の国際化は,外国売上高依存率,外国売上高,活動国数
という,部分的に相互関連した 3つの軸に規定される空間を場として進展すると考えよ
う。各企業の国際化はこの空間である位置を占めている。この位置間の距離を測定し
て,各企業の国際化の進展が,その類似性(位置間の近接性)の点から,どのようなグ
ループにまとめられるかを階層的クラスター分析によって検討してみよう。
第 3図は,国際化の進展度プロフィールの近接性から,各企業が階層的にグループに
まとめられていく様子を示している。この分析結果からみると,国際化の進展は A か
ら D までの,4つのグループに分けるのが適切である。各グループの国際化進展度の
第 3図 階層的クラスター分析:グループ間平均リンケージを利用したデンドローム
同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)20( 336 )
平均的なプロフィールは,第 6表に要約されている。
グループ A は,進展度の 3つの指標のいずれについても,もっとも高い。このグル
ープは国際化が十分に進展している進展企業からなり,いわゆる世界小売業である。グ
ループ B と C は,小売国際化の進展途上企業である。両者の外国売上高依存率はほぼ
同じであるが,相違点は国際化の進展に際して,活動国を増やすことによる市場拡張型
か,それとも進出国市場を深耕的に開拓することによって,まず外国売上高を増加させ
ることを重視するかである。
市場拡張型のグループ B の活動国数はグループ A とほぼ同じであるが,その外国売
上高は 3分の 1程度である。市場深耕型グループ C の外国売上高はグループ A と B
の中間に位置している。グループ D は,国際化進展どのいずれの指標についてももっ
とも低い位置にある。従ってこのグループに属する企業は,国際化したとはいえ,その
進展度が低い未進展企業である。しかし,活動国数については,市場深耕型進展途上企
業との差異は小さい。
以上のクラスター分析の結果は,国際化を行った企業が,その後国際化をさらに進展
させて,世界小売業になるまでにたどる二種の経路があることを示している。一つは,
まず活動国数を増やし,その後各市場を深耕することによって外国売上高を増やしてい
く市場拡張先行経路と,もう一つは,まず活動国数を絞り,それらの市場を深耕するこ
とによって外国売上高を増やした上で,その後に活動国数を増やすという市場深耕先行
経路である。
小売国際化過程は,企業の内的な意思決定過程として,あるいはその市場過程として
見ることができる。市場過程としてみた場合,小売国際化過程は,国際化の未進展企業
から進展企業に至る経路である。その経路には市場拡張先行経路と,市場深耕先行経路
の二種がある。国際化進展度の推進力の検討に際しては,この二種の経路の存在を念頭
に置く必要がある。
さらに,推進力の検討におけるもう一つの留意点は,進展企業(A グループ)はす
べてヨーロッパ系企業でしめられ,また市場拡張型(B グループ)と市場深耕型(C グ
第 6表 各グループの国際化進展度の特徴
グ ル ー プ平 均 値
活動国数 外国売上高(US 百万ドル,1998年)
外国売上高依存率%
グループ A:進展企業 16.6 17843 47.3
グループ B:市場拡張先行型の進展途上企業 15.4 6597 39.3
グループ C:市場深耕先行型の進展途上企業 11.4 10312 41
グループ D:未進展企業 9 1579 13.1
1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) ( 337 )21
ループ)のいずれでもその大半はヨーロッパ系企業によって占められているという点で
ある。小売国際化の進展度からみると,ヨーロッパ系企業は明らかにその先導者であ
る。分析に際してはこの地域性を考慮する必要がある。
以上の点を念頭に置いて,進展度からみた小売国際化の推進力を検討してみよう。進
展経路に二種の経路があるために,進展度の推進力を明らかにするには,進展度の三つ
指標のそれぞれについてその規定因を検討する必要がある。規定因の内容としては,国
際化するかしないかの分析と同じように,本国市場の飽和要因と企業略行動要因であ
る。しかし,二つの重要な相違がある。
第 1に,小売販売額シェア(企業売上高/本国小売販売額)のかわりに,本国市場占
拠率(企業本国売上高/本国小売販売額)を用いる。小売販売額シェアと本国市場占拠
率は密接に関連しているが,後者の方が分子に外国売上高を含んでいないので,小売市
場シェアのより適切な測度である。第 2に,階層的クラスター分析の結果をふまえて,
ヨーロッパ・ダミー変数を追加する。この変数は,その企業がヨーロッパ地域の国を本
国市場とする場合には 1という値をとり,その他の地域の場合には 0という値をとる変
数である。
まず外国売上高に対して,これら 7つの要因はどのような影響を与えているだろう
か。外国売上高は左方にきわめて歪み,右裾の長い分布をしている。そのため,外国売
上高の自然対数変換をした上で,7つの変数を独立変数とする線型モデルによって回帰
分析を行った。その結果(第 7表)をみるとモデルの全体的適合度はかなり良く,調整
済み決定係数でみた説明力は 49.1%である。
独立変数の中では,4つの変数が有意になる。従属変数に対して,世界ランク 100位
内企業占拠率,企業成長率,企業売上高は,正の影響を与え,本国市場占拠率は負の影
第 7表 外国売上高(自然対数変換)の規定因 N=47
回帰係数 有意確率 標準回帰係数
(定数) 5.684 0.000
本国市場小売販売額成長率 0.022 0.810 0.033
世界ランク 100位内企業占拠率 0.022 0.065 0.322
本国市場占拠率 −0.078 0.008 −0.315
企業売上成長率 0.031 0.017 0.283
専門店ダミー −0.212 0.668 −0.059
企業売上高(US 億ドル) 0.003 0.001 0.461
ヨーロッパ・ダミー 0.366 0.555 0.113
調整済み決定係数 0.491
F 値 7.204 0.000
同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)22( 338 )
響を与えている。外国売上高の増加を通じての小売国際化の進展は,市場深耕先行型の
国際化進展経路である。
回帰分析の結果は,このような経路をたどる企業のプロフィールを示唆している。そ
れは企業成長率が高いためにある程度の企業規模に達しているが,本国市場占拠率はそ
れほど高くなく,また本国市場で大手企業間の競争に直面している企業である。いわ
ば,市場深耕先行型国際化の途は,本国市場で激しい競争に直面している新興の成長企
業がたどる国際化への途であるといえよう。
つぎに,活動国数も外国売上高と同じような分布をしているので,自然対数変換をし
た上で,回帰分析を行うと,第 8表のような結果が得られる。残念なことに,市場要因
も,企業戦略要因も,また地域性(ヨーロッパ・ダミー)も,従属変数に影響を与え
ず,モデルの説明力はまったくない。このことは国際化進展の地理空間的側面は,この
研究で考慮した要因とはまったく異なる要因によって動いているということを示唆して
いる。
その要因とは,企業が国際化を進めるに際して,どのような国をどのような順序で進
出先として選択していくのかなどに関わる要因である。近年,この点を説明するコンセ
プトとして,心理距離や事業距離が注目されてい27
る。心理距離とは,本国市場と外国市
場との類似性あるいは相違の程度である。それは事業距離と文化距離を主要構成要素に
し,言語,事業慣習,政治経済システム,教育,経済発展,マーケティング・インフ
ラ,産業構造,文化など多様な要因の差異によって生じる。
────────────27 Dupuis, M. and N. Prime,(1996), Business Distance and Global Retailing : a Model for Analysis of Key
Succss/Failure Factors, International Journal of Retail & Distribution Management, Vol.24, No.11, pp.30−38,Evans, J., A. Treadgold, F. T. Mavondo,(2000),Psychic Distance and the Performance of International Retail-ers : A Suggested Theoreical Framework”,International Marketing Review, Vol.17, No.4/5, pp.373−391