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1 日中関係学会若者シンポジウム第1テーマ 「日本の良さをいかに学ぶか」 <発表者・論文名> ●最優秀賞 王羽晴さん(中山大学外国語学院日本語学科4年) 「新たな時代の中国における日本文化の流行」 ●最優秀賞 李国輝さん(早稲田大学アジア太平洋研究科博士課程後期4年) 「国際緊急援助と災害外交--四川大震災後における日中の地震外交--」 ●優秀賞 張姝蕊さん(遼寧師範大学外国語学部日本語系研究生1年) 「日本の文化財保護に関する一考察及び中国への啓発」 ●優秀賞 李嫣然さん(南京大学外国語学部日本語科博士課程前期2年) 「中国の日本ブームにおけるセルフメディアの有様と役割~2014 年から 2017 年 にかけて」 ●優秀賞 山宮朋美さん(明治大学経営学部3年)、萩原菜都子さん(同)、中村悠河さん (同)、阿部アンドレさん(同)、黄嘉欣さん(同) 「アメーバ経営の中国導入の考察」 <司会>日中関係学会理事 林千野 受賞者による論文プレゼンテーションセッション 司会)では第1テーマ、「日本の良さをいかに学ぶか」につき、早速受賞者の皆さんからプ レゼンをお願いしたい。 ●王羽晴さん 「新たな時代の中国における日本文化の流行 ~時代・国家・企業・メディアと個人からの考察~」 受賞論文につき、先ずその問題意識から説明する。中国では日本文化が浸透し、日本ブーム が起きていると考える。一例として、国際交流基金の調査によれば、1979 年-2015 年の間、 日本語学習者は 30 倍となり、内、中国人が最多であり、高級学習人材は全体の 65.5%を占 めている。また、中国の消費調査によれば、2017 年、日本は初めて行きたい国の一位を獲 得している。 なぜ今、日本ブームが起きているのか。また、今後どのように変化していくのか、いくつか の角度から分析を試みた。 まず、中日は文化的に共通点が多く、日本の文化に親しみを感じやすい点がブームの基盤に なっていると言える。中国の高度経済成⾧に伴う他文化の受容性、そして、社会的なストレ
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May 08, 2020

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日中関係学会若者シンポジウム第1テーマ

「日本の良さをいかに学ぶか」 <発表者・論文名>

●最優秀賞 王羽晴さん(中山大学外国語学院日本語学科4年)

「新たな時代の中国における日本文化の流行」

●最優秀賞 李国輝さん(早稲田大学アジア太平洋研究科博士課程後期4年)

「国際緊急援助と災害外交--四川大震災後における日中の地震外交--」

●優秀賞 張姝蕊さん(遼寧師範大学外国語学部日本語系研究生1年)

「日本の文化財保護に関する一考察及び中国への啓発」

●優秀賞 李嫣然さん(南京大学外国語学部日本語科博士課程前期2年)

「中国の日本ブームにおけるセルフメディアの有様と役割~2014 年から 2017 年

にかけて」

●優秀賞 山宮朋美さん(明治大学経営学部3年)、萩原菜都子さん(同)、中村悠河さん

(同)、阿部アンドレさん(同)、黄嘉欣さん(同)

「アメーバ経営の中国導入の考察」

<司会>日中関係学会理事 林千野

⒈ 受賞者による論文プレゼンテーションセッション

司会)では第1テーマ、「日本の良さをいかに学ぶか」につき、早速受賞者の皆さんからプ

レゼンをお願いしたい。

●王羽晴さん

「新たな時代の中国における日本文化の流行

~時代・国家・企業・メディアと個人からの考察~」

受賞論文につき、先ずその問題意識から説明する。中国では日本文化が浸透し、日本ブーム

が起きていると考える。一例として、国際交流基金の調査によれば、1979 年-2015 年の間、

日本語学習者は 30 倍となり、内、中国人が最多であり、高級学習人材は全体の 65.5%を占

めている。また、中国の消費調査によれば、2017 年、日本は初めて行きたい国の一位を獲

得している。

なぜ今、日本ブームが起きているのか。また、今後どのように変化していくのか、いくつか

の角度から分析を試みた。

まず、中日は文化的に共通点が多く、日本の文化に親しみを感じやすい点がブームの基盤に

なっていると言える。中国の高度経済成⾧に伴う他文化の受容性、そして、社会的なストレ

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スの高まりにより、若者の間でやや消極的ともとれる日本文化が受け入れられていると思

われる。

時代的背景から分析すると、70~80 年代は中日関係のハネムーンとも呼ばれ、中国は日本

の技術を学ぶのみならず、日本の大衆文化に影響を受けた。又、この時期、日本製品に対す

る高品質イメージが形成された。このように、この時期の日本ブームの余熱と、クールジャ

パンと呼ばれる日本文化の海外発信が相乗効果を産み出しているだろう。

企業の角度から分析すると、2017 年、海外に進出した日本企業は約7万社、内、45%が中

国となっており、2 位のアメリカを大きく上回っている。日系コンビニは店舗数を増やすの

みならず、沿海部から内陸部へと拡大し、日本の食文化のみならず、企業理念など日本の企

業文化も発信している。また、中国で広く展開する無印良品は、シンプルで高級感のあるイ

メージを打ち出しており、これは禅のミニマリズムに通じていよう。

メディアと個人の角度から分析すれば、現在は 80 年代と異なり、下から上へと文化が受け

入れられている。日本文化を紹介する雑誌などにより、日本文化が広く紹介され、また、実

際に日本を訪問した際に醸成された日本への好印象につながっている。そして、日本政府に

よる留学生 30 万人計画により、日本に留学する中国人学生が増加したことより、今後、双

方の文化交流にも大きな影響をもたらすと考える。

●李国輝さん

「国際緊急援助と災害外交 --四川大震災後における日中の地震外交--」

本論文のテーマは、国際緊急援助と災害外交ついての考察である。まず、国際緊急援助だが、

被災地からの要請という原則に則り災害発生直後に派遣される緊急性を要する国際援助で

あり、人的支援、物資支援、資金援助の3つの部分からなる。

次に日本の国際援助であるが、日本は災害多発国として豊富な知識とノウハウを蓄積して

おり、1970 年代以降、日本政府は積極的に実施してきている。

資金援助については外務省が担当しており、国際機関を通じて、または外務省から直接被災

国に供与される。物資支援については主に JICA が担当しており、海外に設置する4つの倉

庫のうち、被災地に最も近い倉庫から迅速に供与される。人的支援については、被災国にて

要請があり、その必要性が認められる場合に、JICA から派遣される。

2008 年 5 月 12 日、四川大震災が発生。日本政府は翌日、5 億円相当の無償援助を決定、ま

た、発生3日目に中国政府の要請を受け、当日夜、第一陣の 32 名の救急支援隊が派遣され

た。これは中国にとって初めての外国緊急援助受け入れとなった。そして、第二陣は4日目

に到着している。

次に、政府と民間レベルからこの際の地震外交の実態を考察したい。日本の人的支援につい

ては、その献身的な様子や、遺体に敬意を表す態度など、中国の指導者、政府関係者のみな

らず、国民の間にもその善意を感じさせ、高い評価を得るに至った。同年の洞爺湖サミット

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では、胡錦濤国家主席が日本の救援隊に対して謝意を表し、また、震災発生4年後、救援隊

は四川省の被災地を再訪している。

次にメディアの影響と援助受け入れに至る政策決定のプロセスを見てみる。メディアは相

互理解のために最も重要な役割の一つを果たすが、中国においては日本の国際援助は大々

的に発信され、報道内容も客観的で中立であった。政策決定については、震災直後、被災地

域へのアクセスは封鎖されており、国際緊急援助隊の被災地へのアクセスが困難であるこ

とや、受け入れのための法的不整備もあり、中国政府は当初、受け入れには慎重であった。

しかし、国際的善意をむげに断ることは協調性に欠けるとみなされる可能性もあったこと

から、当時の指導部が対日重視の姿勢を示し、決定したと思われる。結果的に、日本の人的

支援は高い評価を得たことから、日本の地震外交は大きな成功を収めたといえるだろう。

国際緊急援助隊を通じ両国間でいかに友好が促進できるか、今後の重要課題と言えよう。

●張姝蕊さん

「日本の文化財保護に関する一考察及び中国への啓発」

本論文は主に4つの部分からなる。

まず第一章だが、なぜこのテーマを選んだか、その理由である。「中国から盗んだ日本の都

京都が、今でも保存されている」というネットの記事を見て、京都は西安などの中国の古都

を模して造られたことを知った。私は洛陽の出身だが、古都洛陽はあまりよく保存されてい

ないのに比較し、京都は 1000 年経過した今でもきれいに保存されている。その違いは何

か?なぜ中国から伝わったのに、中国ではあまりよく保存されていないのに対し、日本では

きれいに保存されているのか?これらの原因を究明したいと思った。

第二章は日本における文化財保護の概況と特徴である。日本における文化財保護には、健全

な法律、合理的な行政管理、完備された財政制度に支えられている。

第三章は日本の特徴ある文化財保護についてであるが、ここでは奈良市、京都市、旧万世橋

駅の3つの代表的ケースを挙げた。第一に地域の特性に合わせて保護を行っている点であ

る。例えば東大寺、法隆寺、春日大社が所在する広範な地域には春日原始林が広がっている

が、文化遺産を含み「春日原始林」全体が保護の対象になっている。第二に、建物の高さ制

限である。経済発展が進む中で、古都の景観を保存することは容易ではない。中国でも高さ

制限はあるものの、日本ほど厳しく実施されていない。第三に、歴史的建造物の活用につい

てである。旧万世橋駅は東京で最も古い鉄道駅の一つであるが、現在「マーチエキュート神

田万世橋」という商業施設に改造され、活用されており、レンガ造りでアーチ構造を持つ駅

舎には店や飲食店などが入居しており、商業空間として使用されている。これらの例はいず

れも中国にとって参考価値があると言える。

第四章はこれらの例から導き出される啓発についてである。中国の文化財保護に関する法

律は 1982 年の「文物保護法」しか無い。先ず、法律が不備な状況を変えていく必要がある。

又、日本の文化財保護は政府、民間団体、個人による保護など多様であるが、中国では政府

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と専門家によって推進されており、国民の参加は少ない。今後、どのように民衆の積極性を

引き出していくか、政府としても考える必要があるだろう。

尚、文化財保護の過程をつきつめて考えれば、価値観の問題にたどり着く。中国において最

も必要なのは、文化遺産を正しく位置づけ、社会と経済発展に対する戦略的意義を明確にし、

持続可能な文化遺産の概念を確立することである。

●李嫣然さん

「中国の日本ブームにおけるセルフメディアの有様と役割

~2014 年から 2017 年にかけて~」

論文は5章からなる。先ず、第一章の研究の動機であるが、現在、日中関係は良い局面にあ

り、中国では日本ブームが起きているが、近年来、伝統的なメディアに代わり、新興のセル

フメディアが情報発信の主役になりつつある。セルフメディアがどのよう情報伝達の主役

になっているのか、そして、日本ブームにおいてどのような効果があるのかにつき、私は深

い興味を抱いたことがこの論文を執筆した動機である。

第二章では、情報伝達の主役であるセルフメディアとは何かについて論じた。「セルフメデ

ィア」とは、ウェブソーシャルを利用して、自らが情報を発信することである。中国では主

に3つのセルフメディアのアプリがある。「微博」(ウェイボ)と呼ばれる中国版ツイッタ

ー、微信(WeChat)というメッセンジャー、そして「知乎」(ジ・フ)と呼ばれる Q&A サイ

トである。

第三章では、中国の日本ブームにおけるセルフメディア活用の現状と効果について、公式と

個人の二つの面から分析した。公式での活用例では、朝日新聞や共同通信が微博を活用して

いる。個人では、微博の「日本超話」(日本のスーパーな話題)や、知乎の「日本はどれほ

ど発展しているのか」、そして WeChat の公衆アカウントなどである。活用の効果として

は、中国人に対して「多様な日本」と「真実の日本」を見せる効果や、日本の本当の魅力を

感じさせ、中国における日本の魅力を⾧引かせる効果があると考えられる。

第四章は、伝統的メディアと比較したセルフメディアのメリットについてである。セルフメ

ディアには客観性と信憑性、影響力、即時性、多様な機能、内容・表現の自由度など、伝統

的メディアに比べて大きなメリットがある。しかし、虚偽の発信については、取締りを行う

必要があるだろう。

最終章では、われわれ中国人への示唆につき、提起した。先ず、セルフメディアに対しては

自分の判断力を保つことが必要であること、そして発信者は情報を客観的に発信する必要

がある点である。

個人的な提案だが、中国において大きな役割を果たしているセルフメディアを、日本でも活

用してみては如何だろうか?

●明治大学経営学部(郭ゼミナール) 山宮朋美さん、中村悠河さん、黄嘉欣さん他

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「アメーバ経営の中国導入の現状と考察」(発表者は中村悠河さん)

先ず、なぜこのテーマを選んだかだが、世界金融危機発生後、外部環境の悪化により、中国

企業の業界内部競争が激化し、その際、中国で話題になったのがアメーバ経営だったため、

このテーマを選んだ。

2009 年、中国語に翻訳された「アメーバ経営」は、発行部数 70 万部と大きな注目を集め

た。アメーバ経営の基本とは、組織を小集団に分け、市場に直結した独立採算制により運営

し、経営者意識を持ったリーダーを社内に育成すると同時に、全従業員が経営に参画する

「全員参加経営」を実現するプロセスである。つまり、一人ひとりの社員が主役となる経営

手法と言える。

アメーバ経営の目的を簡潔に述べるなら、全員参加経営の実現、経営者意識を持った人材の

育成、マーケットに直結した部門別採算制度の確立であり、私たちは内発的意識付けが最大

の目的であると考えた。

そして、日中の労働関係を、各種書物・資料から比較考察した結果、労働環境が全く異なる

中国で、果たしてアメーバ経営が受け入れられるのか?と考え、「中国企業でのアメーバ経

営導入は困難であり、導入しても、成功する企業は少ない」との仮説を立てた。

その後、中国を 2 度訪問し、全 13 社の企業訪問を行った。その結果、代表的3社(中国民

営企業 1 社、日系企業1社、中国外資系企業1社)を選択し、「企業理念の浸透」、「部門

別採算制度」、「経営意識を持った人材育成」「情報の共有」から分析した。

結果として、「アメーバ経営を完全に中国企業に移入することは難しい」という結論に至っ

た。しかし、 4つの要素を企業の状況によって部分的に導入することで、アメーバ経営の

有効性を企業に反映させることはできることから、企業にあったアメーバ経営を生み出し、

取り入れていくことで、中国企業においても、持続的発展が可能となるだろう。

2.討議セッション

●司会)では、早速討議に移りたい。本日の討議ポイントとして、①中国における日本ブー

ムを検証する、②日本の何が中国人を惹きつけるのか?③日本の関連情報の中国での伝播

手段、④中国での日本ブームは続くのか?の4つのポイントをメインに討議したい。

先ず、世界の中で見る日中関係の視点から見ると、BBC2017 年の調査「世界に良い影響を

与える国ランキング」で、日本はカナダ、ドイツに次ぎ、第3位にランクインしている。国

別の日本好感度を見た場合、中国は、日本が「良い影響」を与えるは22%、「悪い影響」

を与えるは75%と、他国の中で、唯一中国のみ「悪い影響」が「良い影響」を上回ると回

答している。又、言論 NPO の調査で見ても、日本に良くない印象を持つ中国人のほうが、

(その差は僅差に迫ってきているとは言え)日本に良い印象を持っているとする中国人よ

りも依然として多い。

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では、皆さんに質問したいのは、本当に中国で日本ブームが起きていると言えるのか?とい

う点。王さんのご意見は?

●王羽晴さん)ブームと言えると思う。BBC の調査対象となった年齢層を調べてみたが、

見つからなかった。おそらく対象は 50-60 代で、歴史と政治の面において日本に対する消

極的なイメージを持つ人々が主体だと思われる。また、「日本が世界に与える好感度」につ

いても、その質問の仕方によって回答は大きく異なってくると思われる。

経済・文化面からは、人々が日本製品への受け入れ度が高まり、日本企業の進出と日本文化

の浸透との相乗効果が見られること、そして世代別にみると、若い世代だけではなく、20 歳

~39 歳の世代層において、今後行きたい国・地域という質問に対し、日本と回答した人の

比率は一位を占めてる。言論 NPO の調査では、日本に対して 2013 年から 2018 年にかけ

て、日本に対してよい印象を持っていると回答した中国人は顕著に増加している。

●司会)張姝蕊さんのご意見は?

●張姝蕊)「ブーム」とは言えないと思う。日本に興味を持っているのは、主に自分の周り

では日本に関心を抱いている人であり、日本語学習者として日本文化の雰囲気に馴染んで

いる人や、日本語の先生、日本語専攻生など日本に関わりのある人々に限定されている気が

する。よって、全体的に考察すると、日本に良くない印象を持つ中国人が依然として多いこ

とからも判る通り、中国全体で日本ブームが起きているとは言えないと思う。

●司会)では次の討議ポイント、「日本の何が中国人を惹きつけるのか?」に移りたい。同

じく言論 NPO の世論調査だが、「日本の良い印象」を与える点について、2018 年に最も

高い比率を占めたの項目は、「日本は経済発展を遂げ、国民の生活水準も高いから」、次い

で、「日本人は礼儀があり、マナーを重んじ、民度が高いから」。一方、「日本の悪い印象」

としては、「中国を侵略した歴史についてきちんと謝罪し反省していないから」、「日本が

魚釣島(尖閣諸島)を国有化し、対立を引き起こしたから」が1、2位を占めており、これ

らは先ほどの王さんの発言につながる素地にもつながっていると思われる。

それでは、これらの調査結果も踏まえ、「日本の何が中国人を惹きつけるのか?」について、

皆さんからの意見を聞いていきたい。李国輝さんは日本に留学されており、中国をある程度

外側から眺めることができると思う。客観的な立場でコメントをお願いしたい。

●李国輝)日本に留学して 5 年、それほど日本に詳しいとは言えないかもしれないが、日本

の自然環境のすばらしさや、公共交通機関なども整っており、生活しやすいと感じる。文化

的にも共通点が多く、他国の留学生に比較して、中国人留学生にとってより馴染みやすいの

ではないか。

●司会)王さんの論文に、現在、中国の若者の間で「喪文化」という、消極的で、自虐ネタ

を含む文化が流行っており、王さんは日本の「侘び・寂び」文化との類似点を指摘していて、

興味深かった。王さん、この点について説明していただきたい。

●王羽晴)中国の「喪文化」と日本の「侘び・寂び」はかなり違ってはいるが、「喪文化」

は、今までの「頑張れ」といった前向きな文化とは違い、「私はこれ以上できません」と消

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極的。人生の挫折・困難をそのまま受け入れ、ちょっとした点から人生の奥深いものを見出

していこうとするところや、無理やり頑張るのではなく、自然に委ねる点などが似ているの

ではないかと考えた。

●司会)日本の「ぐでたま」というやる気がなくてゆるーいキャラクターのコンセプトが、

「喪文化」層に受けるのか、中国の若者の間でスタンプとしても愛用されているという話を

王さんから聞き、面白いと感じた。

この他にも、日本と中国の文化の共通性という観点から、漢字が果たす役割は重要だと思う。

李嫣然さんの論文では、朝日新聞が 2012 年に中国のツイッターと呼ばれる「微博(ウェイ

ボ)で、「我們又双叒叕要換首相了」(日本はまた首相が変わるよ)とつぶやき、改めて中

国の若者に漢字の面白さを提起した、とあり、面白いと思った。

●李嫣然)「双叒叕」の後ろ2つの漢字はとても難しく、私も何と発音するのかわからない。

だが、「又」の字を 10 個使用することにより、日本の頻繁な首相交代の様子をよく表現し

ていると思う。「双叒叕」は、その年の流行語にも選ばれた。

●司会)王羽晴さんから「喪文化」の一例として、中国語の「起起落落」という「山あり、

谷あり」という言葉がネットでパロディ化され、「そもそも人生は起起落落落落落落落落」

といった表現で若者に面白がられているとの事例紹介があった。日本人はこれを見ただけ

で、「激しく急降下していく」という感覚を共有することができる。もちろん、漢字は中国

から伝わったものだが、漢字の持つイメージを自国以外にも共有できる相手先として、中国

にとっても日本は貴重なパートナーではないか、と感じた。

では、次に、「日本の何が中国人を惹きつけるのか」のもう一つの切り口として、「伝統文

化の尊重」という点から見ていきたい。

張姝蕊さんの論文冒頭に、ネットユーザーの言葉として、「洛陽を模して造られた京都は、

今なお完全に保存されている」のに対し、「あれは日本が中国から盗んだものだ」という意

見や、「中国のものはみんな無くなってしまったよ。どの駅で降りてもみんな同じ光景だ」、

「日本に感謝すべき。日本が保存してくれなかったら、我々の文化はみんななくなってしま

っただろう」などのやり取りがあったと紹介されていた。経済発展を遂げた今、中国の若者

を中心に、日本と比較して中国の伝統文化が適切に保存されていないのではないかと考え

る人たちが出てきたのではないか、と感じた。張さんに「中国人はなぜ自国の文化を積極的

に保存してこなかったのか」について、伺いたい。

●張姝蕊)この質問に関しては、やはり問題点は観念だと思う。日本は文化財の経済的効果

より文化的な価値を重視する。しかし中国は利益だけ重視する傾向があるだろう。「経済を

発展するためには、それも仕方ないね」との観点を持っている人は少なくない。国民の保護

意識も低い。

言うまでもないが、経済的効果のみを重視すると、つまり一方的に金銭収入を重視すれば、

文物自体の保護を無視することになってしまう。中国で最も必要なのは、文化遺産を正しく

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位置づけ、社会と経済発展に対する意義を明確にし、持続可能な文化遺産の概念を確立する

ことだと言えるだろう

●司会)では、今度は「日本人のマナー」という点から考えてみたい。2008 年、四川大震

災時、日本の災害救助隊が被災者の遺体に黙祷する姿が中国メディアで繰り返し伝えられ、

大きな感動を呼んだと記載されているが、中国の災害救助の場面ではこのようなことは一

般的ではないのだろうか。

●李国輝)中国でも被災者への救援に死力を尽くしている点は同じだと思うが、日本のよう

に、細やかな支援活動には力を入れていないというのが現状。災害のような状況では、被災

者の心境は非常に繊細になっているため、細やかな支援が不可欠だ。「日本タイプ」の入念

な救援の方法は被災者の心に寄り添うものだと思う。

●司会)では、次に「企業経営」の観点から考えてみたい。明治大学経営学部/郭ゼミナー

ルの中村さんたちは、中国におけるアメーバ経営導入について論文をまとめられている。先

般 NHK でも「改革開放を支えた日本人」というテレビ番組が報道されたが、多くの政治家、

官僚、企業家の人々が中国の改革開放を支援した。パナソニックの松下幸之助や、コマツな

ど、先進的な企業理念、企業管理方法が中国にもたらされ、中国も積極的にそれを取り入れ

た。一方、日本企業の大半が掲げる企業理念はあまりにも崇高で、漠然としすぎており、具

体性に欠けるとの意見も昨今よく耳にする。

現在、中国では強力な経営者のリーダーシップにより、世界で躍進を続ける中国企業が多数

出てきている時代において、日本式の企業理念は既に陳腐化しているは考えられるのでは

ないか?

●中村悠河)私たちが考える日本の企業理念の神髄は、従業員を大切にするところ。実際に

中国に行ってみて驚いたのは、従業員の生活や、福利厚生などがよく考えられていた点。こ

のような背景があってこそ、中国において日本式の経営理念が受け入れられるのだと思う。

アリババや華為などはスピード感のある経営で成功している。しかし、まだ成功していない

多くの企業にとって、従業員を大切にするという点は非常に大切であり、今後とも受け入れ

られていくと思う。

●司会)では、次の討議ポイントである「日本文化の中国での伝播方法」に移りたいと思う

が、時間の関係もあり、ここでは会場からの質問、コメントを受けたいと思う。

先ほど李さんから、「日本でもセルフメディアを活用したら?」との提言があったが、日本

における活用例の紹介や、もしくはそれ以外でも、任意に質問・コメントを受け付けたいと

思う。

●会場から(学生):李さんに質問したい。中国でのセルフメディアでは、日本のどのよう

な情報が発信されているのか?

●李嫣然)観光や文化、若者の日常生活など多岐に亘っている。中国版ツイッター「微博」

では主に観光と文化。最大の Q&A サイト「知乎」では、もっと細かい質問、例えば、「日

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本人女性と恋愛するってどんな感じ?」とか、「味わいのある俳句にはどんなものがある?」

など。

●会場から:ではもう一つ質問。日本に関する質問は、日本の悪い点が多いか、良い点が多

いか?

●李嫣然)私が見る限り、圧倒的に良い点に関する質問が多い。しかし、2018 年ごろから、

日本の悪い点を知りたいとの質問も若干増えてきているように感じる。

●会場から(大学教授):日中の若者が相互理解を深めるためにどのような教育が必要だと

思うか?

●張姝蕊)文化財保護の見地からは、ここ数年、中国において「国学」教育に注力している。

これにより、文化財保護の知識と認識が高まっている。社会人になると、積極的に文化財保

護の活動に参加するようになる。

●李嫣然)日中関係は歴史問題など政治的な要素があり、メディアの面から言えば、伝統的

なメディアの報道はある面制約を受ける可能性がある。そういった面で、私たちネットユー

ザーが情報発信者として、相手国の良い面を積極的に発信していくことが大切だと思う。

●王羽晴)中国の学生を日本企業に連れて行ったら効果的だと思う。例えばコンビニで、2

時間毎に賞味期限を管理している点など、中国人には理解できない。日本企業も可能ならば

中国の企業を訪問し、アイデアが出てからそれを実行するまでのスピードがどれくらい速

いのか体感してもらい、中国企業の発展ぶりを直に感じていただければ相互理解が深まる

と思う。

●李国輝)最近日本に留学する中国人留学生は増えているが、中国に留学する日本人留学生

は少ない。留学生同士がお互いに交流すれば理解が深まる。

●中村悠河)私たちの大学では実際に外国に行けるゼミがあり、私たちが在籍する郭ゼミナ

ールでも中国を実際に訪問した。訪問後、中国の学生を通じていろいろと紹介してもらい、

現地の状況がとてもよく理解できたので、その手法を教育に取り入れればよいと思う。書物

で読むことと実際に現地を訪問した実体験は本当に違うので、現地に行くことも大切。

●黄嘉欣(明治大学・郭ゼミナール))やはり「百聞は一見に如かず」であり、私も現地を

実際に訪問することはとても大切だと思う

●会場から(商社 OB):中国では日本ブームが起きているというが、これとは対照的に日

本では中国ブームは起こっていない。その原因の一つとして、日本の公式メディアが中国の

真の姿をあまりつたえていないことにあると思う。よって、提案だが、中国の人々がセルフ

メディアを使って、日本に向けて中国の良さをどんどん発信していってほしい。

●司会)時間の関係で、本日はここで終了させていただく。討議ポイントとして冒頭にあげ

た点すべてを討議することができずに残念。

今の日中の若い世代は、我々のような 50 代、60 代と違い、フレキシブルであり、偏見無し

に相互の利点を取り入れていく素地ができているように思う。本日の第一テーマである「日

本の良さをいかに学ぶか」であるが、昨今の日本企業におけるデータ改ざんなどの数多くの

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不祥事を目にするたびに、かつて日本の美徳とされていたものが、失われつつあることに気

付く。本テーマを担当し、中国人のみならず、日本人も謙虚に日本の良さを学ぶべきである

と感じた。この点を強調し、本テーマのまとめとさせていただきたい。

以 上