130(296)がん分子標的治療 Vol.13 No.2 本試験に至る背景 本試験の登録が開始となった2011年は,上皮成長因子 受容体(EGFR)遺伝子変異陽性の進行肺腺がんに対する EGFR- チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が標準治療として の立ち位置を固めつつあった時期である(WJTOG3405試 験,NEJ002試験ともに2010年に論文化)。当時,これらを 凌駕しうる候補として第 2 世代EGFR-TKIが注目されて いたが,第 1 世代EGFR-TKIについては併用という治療 戦略が注目されだしていた。殺細胞性抗がん剤との併用 が 1 つのコンセプトであり,本試験のように血管新生阻 害薬などの分子標的薬との併用がもう 1 つの戦略であっ た。 後者については BeTa 試験という先行試験が存在して おり 1) ,こちらについてまず述べる。BeTa試験は,プ ラチナ製剤併用療法後に増悪した非小細胞肺がんに対し てエルロチニブ+ベバシズマブとエルロチニブ単独を比 較した第Ⅲ相臨床試験である。無増悪生存期間(PFS)は エルロチニブ+ベバシズマブ群で有意に優っていたが (3.4ヵ月 vs. 1.7ヵ月,ハザード比(HR) 0.62),実数にす ると 2 ヵ月弱にすぎなかった。また,主要評価項目で ある全生存期間(OS)は同等であったため,negative trial と結論づけられた。しかし,図1に示すように,そのサ ブグループ解析で EGFR 遺伝子変異陽性例においてベ バシズマブの上乗せ効果がより顕著な可能性が示唆され た。これは,全体の5 %という小さいサブセットであり, HR も有意ではない。しかしながら forest plot ではほか のサブグループと比較して明らかに違う方向が示されて おり,ここに何らかのシグナルが存在す る可能性があった。 本試験の詳細 このような背景のもとで検討されたの が JO25567試験である。化学療法未治療 のEGFR遺伝子変異陽性の非扁平上皮 非小細胞肺がんを対象に,エルロチニブ +ベバシズマブとエルロチニブ単独が比 較された 2) (図2)。主要評価項目はPFSで,併用療法の単 独療法に対する HR を0.7, αエラー・βエラーをそれぞれ 0.2として予定登録数は150人であった。 結果,エルロチニブ+ベバシズマブ群における PFS 中 央値が16.0ヵ月と,エルロチニブ単独群の9.7ヵ月に比して 倍近い結果が示された(図3)。懸念されていた毒性につい ては,ベバシズマブ関連の高血圧・蛋白尿の増強が主体で, エルロチニブ関連の有害事象については大きな差異を認め なかった。 図1 BeTa 試験におけるバイオマーカー別の forest plot 破線は全患者のHRを示す(HR 0.97)。 IHC:免疫組織化学 (文献1)より改変・引用) エルロチニブ+ ベバシズマブ群で良好 0.2 0.5 1 2 5 EGFR遺伝子変異 変異型 野生型 EGFR FISH 陽性 陰性 EGFR IHC 陽性 陰性 Kras遺伝子変異 変異型 野生型 エルロチニブ単独群 で良好 12 173 33 69 135 49 48 142 エルロチニブ+ ベバシズマブ群 患者数 エルロチニブ単独群 患者数 18 152 43 59 119 42 38 140 図2 JO25567試験のシェーマ ・化学療法未治療 ・進行・再発の 非扁平上皮非小細胞肺がん ・EGFR遺伝子変異陽性 ・PS 0/1 ・脳転移なし エルロチニブ 150mg1日1回 ベバシズマブ 15mg/kg, 3週ごと エルロチニブ 150mg1日1回 1:1 ランダム化JO25567試験 JO25567 trial 赤松 弘朗 1 /山本 信之 2 Hiroaki Akamatsu Nobuyuki Yamamoto 和歌山県立医科大学医学部内科学第三講座助教 1 /教授 2 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.