炭素繊維製造エネルギー低減技術の 研究開発の概要について 平成21年11月19日 経済産業省製造産業局繊維課 東レ株式会社 第1回繊維分野における エネルギー使用合理化技術開発補助金 プロジェクト事後評価検討会 資料5-3-1
炭素繊維製造エネルギー低減技術の研究開発の概要について
平成21年11月19日
経済産業省製造産業局繊維課
東レ株式会社
第1回繊維分野におけるエネルギー使用合理化技術開発補助金
プロジェクト事後評価検討会資料5-3-1
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目 次
1.プロジェクトの概要
2.目的・政策的位置付け
3.目標
4.成果、目標の達成度
5.事業化、波及効果
6.研究開発マネジメント・体制等
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1.事業の概要
概 要
実施期間
予算総額
実 施 者
プロジェクト
リーダー
平成17年4月~平成20年3月 (3年間)
121.6百万円(平成17年度:31.2百万円 平成18年度:40.2百万円 平成19年度:50.2百万円)
東レ株式会社
東レ株式会社 北野彰彦(複合材料研究所長)
炭素繊維製造における製造エネルギーの低減技術確立のため、炭素繊維前駆体ポリマーから炭素繊維を製造するまでの収率を向上し、実施可能なプロセスを検討した。
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2.事業の目的・政策的位置付け本研究開発は、「エネルギーイノベーションプログラム」の「4-Ⅰ 総合エネルギー効率の向上/超燃焼システム技術」 に位置付けられている。「技術戦略マップ2009」では以下に含まれている。エネルギー分野:「運輸部門の燃料の多様化」寄与する「高性能航空機」の「炭素系複合材利用拡大による軽量化」ファイバー分野:「炭素繊維・複合材料(移動体)分野」における「革新炭素繊維の開発(低コスト炭素繊維)」
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3.目標
要素技術 目標・指標 妥当性・設定理由・根拠等
炭素繊維を製造する際の収率向上
耐炎化糸から炭素繊維を製造する際の収率を60%にする。
・現行の炭素繊維製造の理論収率は
68%である。
・現在の耐炎化工程で得られる耐炎化糸は非耐炎化構造部分が30%の
ため、耐炎構造比率の向上で炭化収
率も向上できると考えられる。
・PANよりも炭素比率の高い前駆体を混合することで炭化収率を向上できると判断した。
上記炭素繊維の物性・製造プロセスの確立
・強度目標は低強度炭素繊維同等・弾性率汎用炭素繊維の60%以上とする。
補強繊維として先行しているガラス繊維に対して優位性が維持できる物性とした。
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4.成果、目標の達成度
要素技術 目標・指標 成 果 達成度
耐炎化糸の耐炎化構造比率向上による炭化収率向上
炭化収率目標:
60%
・耐炎化促進剤添加による耐炎化糸の耐炎化構造比率向上は断念した。
未達成
・高炭化収率前駆体の添加による炭化収率向上については、高炭化収率前駆体としてカーボンブラックが有用であることを見出した。
・さらにカーボンブラックの表面改質、分散剤添加、混合手法の改良によってスケールアップ可能な炭素繊維製造手法とすることができた。この手法により炭化収率が55%まで向上した。
達成
上記炭素繊維の物性・製造プロセスの確立
・強度目標は低強度炭素繊維同等とする。
・弾性率目標は汎用炭素繊維の60%以上とする。
本研究開発により得られた炭素繊維の物性は以下のとおりとなった。
強度:目標に対し90%レベル
弾性率:目標達成
一部達成
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耐炎化 炭化 サイジング 炭素繊維
炭素繊維の製造工程
重合 紡糸 1次延伸水洗、油剤
乾燥 PAN繊維2次延伸
1.重合・製糸工程
2.焼成(耐炎化・炭化)工程
フィルター
アクリロニトリル溶媒触媒
PAN:ポリアクリロニトリル
凝固浴
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石油
プロピレン アクリロニトリル PAN(繊維)
重合・製糸
理論収率:68%(PANの炭素比率)
収率が低い主な要因・非耐炎構造の生成(炭化時に焼失)
炭素繊維製造に伴う構造変化
精製 反応
環化
酸化
40% 30% 20% 10%元素 C N H
% 68 26 6
元素 C N H
% >92 <7 <0.3
◆PANから炭素繊維
◆石油からPAN(ポリアクリロニトリル)
NH
N N
O
N N N N N
OHN N N N
N N N N
N N N N
N N N NN
N
耐炎構造 非耐炎構造耐炎化糸
炭素繊維
炭化
耐炎化
出典:CARBON FIBER AND THEIR COMPOSITES
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検討内容(目的:炭化収率の向上)と結果
◆耐炎化糸の耐炎化構造比率の向上(非耐炎化構造を耐炎化構造に誘導)
◆高炭化収率前駆体の添加
炭化収率の高い化合物をPANに添加した後耐炎化、炭化
薬剤添加により、耐炎化構造に誘導
炭化収率が高く、PANとの親和性の高い化合物の発見PANとの均一分散手法確立
課題 :
検討結果:炭化収率向上確認できず →
検討結果:カーボンブラックの添加によって炭化収率向上
NH
N N
O
N N N N N
OH
耐炎構造 非耐炎構造
検討中断3年の検討期間考慮し、高炭化収率前駆体添加検討に集中
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4.開発したプロセス
PAN重合原料アクリロニトリル重合開始剤溶媒
高炭化収率原料(カーボンブラック)
混合・重合
製糸
高炭化収率前駆体混合繊維
耐炎化、炭化
1.ポリアクリロニトリルと高炭化収率前駆体(カーボンブラック)を混合し、均一化2.カーボンブラック混合PANを製糸した後に耐炎化、炭化。
均一化
ポリマー原液
炭素繊維
(単糸) (単糸)(繊維束)
分散剤
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1.高炭化収率前駆体の選択・分散性(親和性)向上
目標:PANに均一分散すること
◆高炭化収率前駆体としてカーボンブラックを選択◆特定のカーボンブラックを使用◆分散剤を併用
・炭素比率が高く、PANと親和性の高い素材(カーボンブラック)を見出した
2.高炭化収率前駆体の微細化
目標:ポリマー平均粒径<100nm繊維中に粗大粒子が見られない
走査電子顕微鏡によるカーボンブラック混合PAN原糸表面の観察
微細化前 微細化後
繊維側面
・微細化しないと炭素繊維の品位が低下・最適処理条件により<100nm達成
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紡糸連続運転でフィルター圧上昇1%未満達成
延伸所定倍率で糸切れすることなく連続運転達成
3.製糸工程
フィルター
ポリアクリロニトリル/カーボンブラック混合溶液
カーボンブラック混合PAN繊維
4.カーボンブラック混合PANの耐炎化・炭化
炭素繊維
炭化糸切れを起こすことなく連続運転達成
耐炎化糸切れを起こすことなく連続運転達成
カーボンブラック混合PAN繊維
耐炎化 炭化
2005~2010 2010~2015 2015~2020
研究開発
設備建設
市場規模
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5.事業化、波及効果
補助金による研究開発
焼成技術の開発
低コスト、大型機の開発
技術の海外展開検討
【残された課題】
国内設備1千t/年
1.炭化収率のさらなる向上2.カーボンブラック混合炭素繊維の物性向上
[技術的な課題]・耐炎化構造比率向上による炭化収率向上・カーボンブラック混合PAN繊維の耐炎化、炭化条件の最適化・スケールアップ技術の開発
2020年合計2千t
【事業化の見通し】・第一ステップとして風車、自動車用部材など一般産業用を想定
スケールアップ技術の開発
国内設備1千t/年
2015年1千t
(1)事業化
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A.技術改良によって目標収率が60%に向上できた場合、以下の前提をおくと標準規模の炭素繊維製造ラインで製造した時の費用削減効果は約70百万円見積もられる。
現在炭素繊維を製造するのに要するエネルギー:約286MJ/kg原油の発熱量 :39MJ/L、1バレル :159L原油価格 :9千円/バレル
B.本研究開発の成果によって炭素繊維の製造コストが下がれば、炭素繊維の市場が拡大し、さらなる費用効果が期待される。
(2)波及効果
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6.研究開発マネジメント・体制等
経済産業省繊維課
提案者:東レ(株)
助成金 成果報告
プロジェクトリーダー研究員
(1)体制:
年度 H17 H18 H19 合計
(1)耐炎化促進剤添加による耐炎化糸の耐炎化構造比率向上
(2)高炭化収率前駆体の添加による炭化収率向上
21.7 6.0 13.5 41.2
(3)製糸技術 9.5 32.4 6.8 48.7
(4)焼成技術 0 1.8 29.9 31.7
合計 31.2 40.2 50.2 121.6
(2)資金発生:
(うち補助金総額76.4百万円)
本研究開発は経済産業省からの補助金(補助率2/3)を受けて実施した。