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衣服について 消費者が購買したくなる性質。人の心理的要因が強く影響する。 着心地。人の生理的要因と外部環境条件の影響を受ける。 購入時の品質が簡単な手入れで維持される品質。洗濯や保管による品質 変化の程度が重要となる。 脱着のしやすさ。衣服の基本構成と人体寸法、体形、動作が関与する。 衣服に求められる品質 耐久性、 メンテナンス性 着やすさ 快適性 アピール性 どの品質が重視されるかは時代によって異なる。現在は快適性が重視される傾向。 皮膚から発生する液体状の水。蒸発する際に皮膚表面から熱を奪い、体温を下げ る。熱放散が血流だけではまかないきれない時に発生。 皮膚表面 温度 快適状態では33~34℃。暑熱時には熱放散を多くするために皮膚への血流量が 増加する(寒冷時には血管が収縮)。 不感蒸泄 身体から絶え間なく蒸発している気体状水分。 一日約850g発生しているが、自覚されない。 人体 環境 衣服 衣服の各季節での主な役割 ・夏場: ・冬場: 深部体温 頭部や内臓など体中心部の体温。暑くても寒くてもほぼ一定(約37℃)に保たれる。 衣服と繊維 ・衣服:大部分は布(織物、編物)からなる。 ・織物:縦糸と横糸が交錯したもの ・編物:糸がループ状に連結したもの ・繊維:布の構成単位(繊維→糸→布) 繊維の集合体である布の特徴 ・身体の動きに追随して適度に変形する。 ・適度な透湿性がある(蒸れにくい)。 ・繊維の隙間に空気を含み、保温性がある。 ・実用的な耐久性がある(何度も洗濯できる)。 → 金属、紙、フィルムなど他の材料では 実現不可 代表的な繊維材料の分類 石綿(アスベスト) レーヨンなど 繊維 Fiber 天然繊維 Natural Fiber 植物繊維 Vegetable Fiber 動物繊維 Animal Fiber 合成繊維 再生繊維 Regenerated Fiber 化学繊維 Chemical Fiber or Man-made Fiber Mineral Fiber 鉱物繊維 Synthetic Fiber 綿繊維の断面 綿(もめん、コットン、cotton)について 1.構造 ・わたの種子のまわりについた繊維を収穫する ・インダス文明には高度な綿織物技術があった C C C C C O O HO H H H OH CH2 OH H n H 綿繊維の側面 ・主成分はセルロース ・側面:扁平でねじれている ・断面:中空構造 天然繊維(1) ・伸びにくく丈夫である ・吸湿性がある ・肌触りがよい ・しわになりやすい 2.特徴 3.用途 ・下着、Tシャツ、ジーンズ、タオルなど 31 麻について ・主成分はセルロース ・綿より硬く、ひんやりとした感触がある ・しわになりやすい ・亜麻(リネン、linen)などの茎を水中に浸し、不要部分を除去して繊維質を取り出す ・エジプト文明では麻の技術があった。中世までは重要な繊維材料であったが、現在では使用量は少ない 天然繊維(2) ・ハンカチ、テーブルクロス、椅子カバー、シーツ、枕カバーなど O-H H 外力で変形 セルロース分子 -O-H -O-H -O-H HO- HO- -OH -OH O- H- O- H- O- H- -O-H -O-H -O-H HO- HO- -OH -OH O- H- O- H- O- H- アイロンがけ 変形を戻そうと 加熱した金属面 を押しつける -O-H -O-H -O-H HO- HO- -OH -OH O- H- O- H- O- H- O-H H O-H H スチーム アイロン 綿製品のしわの発生と解消
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衣服について OH 31 H CH C H OHO C C C H OH H n

Dec 30, 2021

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Page 1: 衣服について OH 31 H CH C H OHO C C C H OH H n

衣服について

消費者が購買したくなる性質。人の心理的要因が強く影響する。

着心地。人の生理的要因と外部環境条件の影響を受ける。

購入時の品質が簡単な手入れで維持される品質。洗濯や保管による品質変化の程度が重要となる。

脱着のしやすさ。衣服の基本構成と人体寸法、体形、動作が関与する。

衣服に求められる品質

耐久性、メンテナンス性

着やすさ

快適性

アピール性

どの品質が重視されるかは時代によって異なる。現在は快適性が重視される傾向。

皮膚から発生する液体状の水。蒸発する際に皮膚表面から熱を奪い、体温を下げる。熱放散が血流だけではまかないきれない時に発生。

皮膚表面温度

快適状態では33~34℃。暑熱時には熱放散を多くするために皮膚への血流量が増加する(寒冷時には血管が収縮)。

不感蒸泄身体から絶え間なく蒸発している気体状水分。一日約850g発生しているが、自覚されない。

人体

環境

衣服

衣服の各季節での主な役割・夏場:・冬場:

深部体温 頭部や内臓など体中心部の体温。暑くても寒くてもほぼ一定(約37℃)に保たれる。

衣服と繊維・衣服:大部分は布(織物、編物)からなる。・織物:縦糸と横糸が交錯したもの・編物:糸がループ状に連結したもの

・繊維:布の構成単位(繊維→糸→布)

繊維の集合体である布の特徴

・身体の動きに追随して適度に変形する。

・適度な透湿性がある(蒸れにくい)。

・繊維の隙間に空気を含み、保温性がある。

・実用的な耐久性がある(何度も洗濯できる)。

→ 金属、紙、フィルムなど他の材料では実現不可

代表的な繊維材料の分類

石綿(アスベスト)

レーヨンなど

繊維

Fiber

天然繊維

Natural Fiber

植物繊維

Vegetable Fiber

動物繊維Animal Fiber

合成繊維

再生繊維Regenerated Fiber

化学繊維

Chemical Fiberor

Man-made Fiber

Mineral Fiber

鉱物繊維

Synthetic Fiber

綿繊維の断面

綿(もめん、コットン、cotton)について

1.構造

・わたの種子のまわりについた繊維を収穫する・インダス文明には高度な綿織物技術があった

C

C C C

CO

OHO

H

H

H

OH

CH2OH

H n

H

綿繊維の側面

・主成分はセルロース・側面:扁平でねじれている・断面:中空構造

天然繊維(1)

・伸びにくく丈夫である・吸湿性がある・肌触りがよい・しわになりやすい

2.特徴

3.用途

・下着、Tシャツ、ジーンズ、タオルなど

31

麻について

・主成分はセルロース・綿より硬く、ひんやりとした感触がある・しわになりやすい

・亜麻(リネン、linen)などの茎を水中に浸し、不要部分を除去して繊維質を取り出す・エジプト文明では麻の技術があった。中世までは重要な繊維材料であったが、現在では使用量は少ない

天然繊維(2)

・ハンカチ、テーブルクロス、椅子カバー、シーツ、枕カバーなど

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外力で変形

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綿製品のしわの発生と解消

Page 2: 衣服について OH 31 H CH C H OHO C C C H OH H n

1.構造

・羊毛ではメリノ種が細く、捲縮が多く、衣料用に最適・中央アジアが起源(バビロニアは「羊の国」の意味)

・ケラチン(タンパク質)からなる・表面:キューティクルが存在・内部:2成分が接合している → 縮れの発現

天然繊維(3)

毛(羊毛、ウール、wool)について

パラコルテックス(低吸水)

オルトコルテックス(高吸水)

(-C-C-N-)nO H

H

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キューティクル

(R:多くの種類)

・熱を伝えにくい(空気含有率大)・吸湿性に優れる・しわになりにくい ・虫に食われやすい

2.特徴

3.用途・コート、セーター、カーペットなど

ケラチン分子鎖

変形

回復

架橋結合(シスチン)

架橋結合が分子鎖がすべるのを防ぐ

外力が除かれると元の形状に回復

しわになりにくい

羊毛のしわ抑制のメカニズム

1.構造

・フィブロイン(タンパク質)からなる・繭糸:セリシンに覆われた状態・絹糸:セリシンを除去した後の糸

→ 断面が三角形

天然繊維(4)

絹(シルク、silk)について

他の天然繊維より細いが極めて長い(1000m程度)

2.特徴・独特の光沢がある

(三角形断面によるプリズム効果)

・柔らかくて腰がある(着崩れしにくい)・染め上がりが美しい ・虫に食われやすい

3.用途

・着物、ネクタイなど

1920~40年代 絹の輸出は最大の輸出産業だった

1951年 日本国内でナイロンの生産開始「戦後強くなったのは女性と靴下」との言葉が流行

1920年代 アメリカ:女性の社会への進出→ スカート丈が短くなり、ストッキングが

ファッションの重要なポイントに→ 絹製品の需要拡大

1938年 デユポンがナイロンを工業化

→ 戦後ナイロン製ストッキングは飛ぶように売れ、日本の絹産業に大打撃を与えた

ナイロン誕生前後の世の中の流れ

・蚕(かいこ)の繭(まゆ)をほぐして作られる・古代中国が起源(製法は極秘にされ、製品のみ流通)

1.構造

・デュポンのカローザスが開発した人類初の合成繊維・他の合成繊維と同様に主原料は石油

・ナイロン6とナイロン66の2種がある(性質はほとんど同じ)

合成繊維(1)

ナイロン(nylon)について

[-(CH2)5-C-N-]n

O H[-C-(CH2)4-C-N-(CH2)6-N-]n

O HO H

・引っ張り強度が大きく、すり切れにくい・柔らかい・合成繊維の中では吸湿率が高い

2.特徴

3.用途

・靴下、ストッキング類、雨傘など

1.構造

・カローザスが脂肪族で検討したが低融点で開発中断

合成繊維(2)

ポリエステル(polyester)について

(-CH2-CH2-O-C- n-C-O-)OO

・1947年 ICI(英)が工業化・1957年 ICIから技術ライセンスを得た帝人、東レが

量産開始。商品名「テトロン」

・1941年 小企業(英)がベンゼン環導入で高融点化

・水をほとんど吸わない→すぐ乾く(Wash&Wear)・硬くて丈夫(すり切れにくい)・しわになりにくい

2.特徴

3.用途

・ズボン、ブラウス、シャツ、スポーツウエアなど

32

1.構造

合成繊維(3)

アクリルについて

(-CH2-CH-)n

C N

・柔らかくて暖かく、羊毛に 似た風合い・かさ高い繊維が作りやすい・耐光性が良好

2.特徴

3.用途・セーター、カーテンなど

繊維化の方法 紡糸(spinning)

溶融紡糸

加熱によって高分子材料を溶融し、口金から吐出する。冷却、固化し繊維が得られる。

湿式紡糸

高分子溶液を溶剤のみ溶解する液体で満たされた槽(凝固浴)に吐出する。溶剤がしみ出し、繊維状の高分子材料が析出する。

アクリルポリエステル、ナイロン

(湿式紡糸)

凝固浴

口金

冷風

冷風

(溶融紡糸)

口金(加熱)

加熱すると溶融前に分解が始まる

円形断面

三角断面

溶融紡糸では口金の形状を工夫することによって様々な断面の繊維を得ることができる。

(極細繊維の製法)・異なる成分を複合的に溶融紡糸・海成分を除去し、島成分のみ残留→ 約4gで月まで届く繊維も実現

極細繊維

Page 3: 衣服について OH 31 H CH C H OHO C C C H OH H n

0.4%ポリエステル

2%アクリル

4%ナイロン

7%綿

9%絹

16%羊毛

水分率繊維の種類

絹:

ポリエステル:

天然繊維と合成繊維の比較

世界の繊維生産量

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世界の合成繊維生産量

1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04

33

主要国の化学繊維生産量

韓国

台湾インドアメリカ西欧

東欧

その他

1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04

Page 4: 衣服について OH 31 H CH C H OHO C C C H OH H n

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腺を

取っ

てし

まっ

たの

。中

西部

の風

習な

んで

す。

それ

が,

鬱の

もと

もと

の原

因じ

ゃな

いか

って

,死

んだ

主人

は言

って

いま

した

」ポ

ーラ

さん

は言

う。

「静か

に部

屋に

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てき

て静

かに

座っ

てい

る。

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ろい

の背

広姿

でね

。人

嫌い

とい

うの

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ない

のだ

けれ

ど,

いつ

もぎ

こち

なか

った

わ」

カロ

ザー

スの

伝記

を書

いた

マシ

ュー

・ハー

ミー

ズさ

ん(6

2)は

,ア

ルコ

ール

の問

題を

指摘

する

。「鬱

から

逃れ

よう

と酒

を飲

む。

悪循

環で

す。

禁酒

法が

終わ

るま

で密

売人

から

酒を

買っ

てい

まし

た」

ハー

ミー

ズさ

んは

,7

9年

まで

デュ

ポン

の研

究者

だっ

た。

しか

し社

内で

カロ

ザー

スの

話を

聞い

たこ

とが

ほと

んど

ない

とい

う。

「彼が

死ん

だ当

時,

会社

は罪

悪感

を持

った

かも

しれ

ませ

ん。

自殺

を巡

って

いろ

いろ

な憶

測が

流れ

まし

た。

会社

が彼

を追

いつ

めた

,と

いう

見方

まで

あっ

たの

です

」ア

メリ

カの

女性

は,

スト

ッキ

ング

のこ

とを

「ナ

イロ

ン」と

呼ぶ

。シ

ャツ

やワ

ンピ

ース

は後

発の

ポリ

エス

テル

にと

って

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られ

たが

,ス

トッ

キン

グは

今も

ナイ

ロン

の独

壇場

だ。

「ピー

チ色

のパ

ンス

ト。

1日

中探

して

るん

だけ

ど,

あり

ます

か」

聞か

れて

リッ

ク・ブ

ラウ

ンさ

ん(3

8)は

,店

の奥

の大

きな

段ボ

ール

箱を

かき

回し

,淡

いオ

レン

ジ色

を取

り出

した

。黙

って

客に

差し

出す

。ち

ょっ

と誇

らし

げだ

。フ

ィラ

デル

フィ

アの

目抜

き通

りに

ある

靴下

問屋

。小

売り

もす

るし

,古

い在

庫を

染め

て売

るこ

とも

ある

。「ピ

ーチ

色」くら

い何

のこ

とは

ない

。4

0年

前の

スト

ッキ

ング

だっ

てあ

るの

だか

ら。

後ろ

に縫

い目

のあ

って

,ふ

くら

はぎ

がき

れい

にカ

ーブ

した

やつ

だ。

義父

が仕

入れ

たの

がず

っと

残っ

てい

る。

セク

シー

好み

の客

が買

わな

いと

も限

らな

い。

「楽

じゃ

ない

よ。

今は

だれ

もス

トッ

キン

グな

んか

はか

なくな

って

しま

った

」「角

の銀

行の

女の

子を

見な

よ。

昔は

みん

なス

カー

トだ

った

。今

じゃ

ジー

ンズ

にス

ニー

カー

ばっ

かり

だ」

かつ

てな

い好

景気

も,

ナイ

ロン

には

無縁

らし

い。

デュ

ポン

社は

一昨

年,

ナイ

ロン

生産

の合

理化

を発

表し

た。

シー

フォ

ード

にあ

る世

界で

最初

のナ

イロ

ン工

場で

,衣

類用

の生

産を

20

00

年に

中止

する

,と

いう

もの

だ。

12

50

人い

る工

場従

業員

は半

分に

なる

とい

う。

1998.7

.12(日

) 朝日

新聞

10

0人

の2

0世

紀「ウ

ォー

レス

・カロ

ザー

ス」よ