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マ ル テ ン サ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 の析 出硬 化 に 関 す る研 究 1 1 8 3 マ ル テ ン サ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 の 析 出硬 化 に 関 す る研 究* 金尾 正 雄**・ 荒木 透***・ 中野 司 * * Study on Precipitation Hardening of Martensitic Fe-Ni-Si Alloys Masao KANAO,Toru ARAKI,and Keishi NAKAN Synopsis: Age hardening behaviours and precipitation process of martensitic Fe-Ni-Si alloys containing 10•`18 %Ni and 0•`5% Si were investigated. The results obtained are summarized as follows: 1) Fe-Ni-Si alloys having lath martensite structure were remarkably hardened by aging in the temperature range between 300 and 525•Ž after water quenched from austenite region. 2) When aged isothermally at 500•Ž or below, the age-hardening process of the Fe-Ni-Si alloys took place in two stages. 3) The first stage of hardening, which was accompanied by increment of electric resistivity and slight contraction of lattice parameter of martensite matrix, seems to be due to the formation of solute rich clusters (or zones) in the bcc matrix. In the electron diffraction patterns from thin foil specimen, there were faint super lattice spots suggesting the clusters are ordered (DO3 type) ones. 4) In the second stage of hardening, electric resistivity decreased and lattice parameter of marten- site increased. Observations by transmission electron microscopy indicated that the hardening of the second stage seems to be due to the precipitation of a transition phase on dislocations . (Received Sept. 3, 1970) 1. bcc時 効硬 化 型鉄 合 金 の 強化 にSiの 添加が有効であ るということは古 く1)か ら知 られてお り,ま たた とえば 2相 組織 を有 す るス テ ン レス 鋼V2B2)にNiやBeと ともに約3%のSiが 添加 され て い るな ど,商 用鋼にも 用い られ て きた.し か し,そ の 強化 の原 因 がSiに 関係 した金属 間化 合 物の 析 出 に よ る もの か,固 溶硬化による ものか,あ るい はベ リ リウ ム化 合 物 の析 出の 基 地 とな る フ ェライ トの 量 を増 加 させ るた め か(V2Bの 場 合)は, はつ き りとは認識 され て い なか つ た. 最近マルエージ鋼が開発されたのに伴い,マ ルテンサ イ ト系鉄 合金 の 析 出硬 化 現 象が 活 発 に研 究 され る よ うに なつた.そ の 結 果,NiとSiを と もに 含 む マル テン サ イ ト鋼 が析 出 硬化 す る こ とはFLOREEN3),田 中 ら4)によ つ てすで に報 告 され,ま た実 用 化 も検討5)6)され て い る. Siは安 価 な元 素 で あ り,今 後 と も析 出硬 化 型 の 鋼 の硬 化 要素として考慮 され ると考 えられ る.し か し,そ の析出 過 程や硬 化 機構 に関 して は ほ とん ど研 究 が 行 な わ れ てお らず,不 明 で あ る. 一方 ,著 者 ら は こ れ ま でFe-Ni-Al7)~9),Fe-Ni-Be10) 合 金 に つ い て そ の 析 出 挙 動 を 調 べ て き た が,こ の両系に おいては析出相が規則化体心立方構造である特徴があつ た.Fe-Ni-Si系 合金の析出相に つ い て は,い わゆるセ ン パ ー ム合 金(Ni14~18%,Si8~12% ,残 部Fe)に 関 連 して,岩 間 ら11)が 格 子 定 数6.148Aを 有する単純立 方 格 子 の σ相(Fe11Ni5Si4)で あ る こ とを 示 して お り, 前2系 と比 較 して析 出過 程を考え る こと は意味があろ う.そ こ で 著 者 ら はFe-Ni-Si3元 合金 の析 出硬 化 機構 について若干の検討を行なつたので報告する . 2. 供試材と実験方法 再 電 解 鉄,電 解Niお よ び 金 属Siを 原料とし数種の Fe-Ni-Si合 金 を溶 製 した .1150℃ に加熱し ,10mm φ丸 棒 に圧 延 して供 試 材 と した.化 学 成 分 をTable 1に 示 し た.電 気抵 抗 の 測 定 試 料 は,さ らに焼なましを加え * 昭 和43年9月 ,44年10月 本会講演大会にて発表 昭 和45年9月3日 受付 ** 金属材料技術研究所 *** 東京大学工学部 工博 8 5 ―
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論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

Dec 02, 2021

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Page 1: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

マル テ ン サ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 の析 出硬 化 に 関 す る研 究 1 1 8 3

論 文

マル テ ンサ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 の 析 出硬 化 に 関 す る研 究*

金 尾 正 雄**・ 荒 木 透***・ 中 野 恵 司 * *

Study on Precipitation Hardening of Martensitic Fe-Ni-Si Alloys

Masao KANAO, Toru ARAKI, and Keishi NAKAN

Synopsis:

Age hardening behaviours and precipitation process of martensitic Fe-Ni-Si alloys containing 10•`18

%Ni and 0•`5% Si were investigated. The results obtained are summarized as follows:

1) Fe-Ni-Si alloys having lath martensite structure were remarkably hardened by aging in the

temperature range between 300 and 525•Ž after water quenched from austenite region.

2) When aged isothermally at 500•Ž or below, the age-hardening process of the Fe-Ni-Si alloys

took place in two stages.

3) The first stage of hardening, which was accompanied by increment of electric resistivity and

slight contraction of lattice parameter of martensite matrix, seems to be due to the formation of

solute rich clusters (or zones) in the bcc matrix. In the electron diffraction patterns from thin foil

specimen, there were faint super lattice spots suggesting the clusters are ordered (DO3 type) ones.

4) In the second stage of hardening, electric resistivity decreased and lattice parameter of marten-

site increased. Observations by transmission electron microscopy indicated that the hardening of the

second stage seems to be due to the precipitation of a transition phase on dislocations .

(Received Sept. 3, 1970)

1. 緒 言

bcc時 効硬化型鉄合金の強化 にSiの 添加が有効 であ

るということは古 く1)か ら知 られてお り,ま たた とえば

2相組織を有するステン レス鋼V2B2)にNiやBeと

ともに約3%のSiが 添加 されてい るなど,商 用鋼にも

用いられてきた.し か し,そ の強化 の原因がSiに 関係

した金属間化合物の析出によるものか,固 溶硬化による

ものか,あ るいはベ リリウム化合物の析 出の基地 となる

フェライ トの量を増加させ るためか(V2Bの 場合)は,

はつきりとは認識 されていなかつた.

最近マルエージ鋼が開発されたのに伴い,マ ルテンサ

イ ト系鉄合金の析出硬化現象が活発に研究 され るように

なつた.そ の結果,NiとSiを ともに含 む マル テン サ

イ ト鋼が析出硬化す ることはFLOREEN3),田 中 ら4)によ

つてすでに報告され,ま た実用化 も検討5)6)されている.

Siは安価な元 素であ り,今 後 とも析出硬化型の鋼の硬化

要素として考慮 され ると考 えられ る.し か し,そ の析出

過程や硬化機構 に関 してはほとん ど研究が行なわれてお

らず,不 明である.

一 方,著 者 らは これ までFe-Ni-Al7)~9),Fe-Ni-Be10)

合 金 に つ い てそ の 析 出 挙動 を調 べ て きた が,こ の両 系 に

お い て は 析 出相 が 規 則 化体 心立 方 構 造 で あ る特徴 が あつ

た.Fe-Ni-Si系 合金 の 析 出相 に つ い ては,い わ ゆ る セ

ンパ ー ム合 金(Ni14~18%,Si8~12% ,残 部Fe)に

関 連 して,岩 間 ら11)が 格子 定 数6.148Aを 有 す る単 純立

方 格 子 の σ相(Fe11Ni5Si4)で あ る こ とを 示 して お り,

前2系 と比 較 して析 出過 程 を 考 え る こと は意 味 が あ ろ

う.そ こで著 者 らはFe-Ni-Si3元 合金 の析 出硬 化 機構

につ い て 若 干 の検 討 を行 な つ た の で 報告 す る.

2. 供 試 材 と 実 験 方 法

再 電 解 鉄,電 解Niお よび 金属Siを 原 料 と し数 種 の

Fe-Ni-Si合 金 を溶 製 した .1150℃ に加 熱 し,10mm

φ丸 棒 に圧 延 して供 試 材 と した.化 学成 分 をTable 1に

示 した.電 気抵 抗 の 測 定 試 料 は,さ らに焼 な ま し を加 え

* 昭和43年9月,44年10月 本 会講演大会にて発表

昭和45年9月3日 受付** 金属材料技術研究所

*** 東京大学工学部 工博

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Page 2: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

1184 鉄 と 鋼  第 57 年 (1971) 第 7 号

Table 1. Chemical composition of alloys tested (wt%).

つ つ,冷 間 圧 延 と引 抜 きに よ り1mmφ ま で 落 した,溶

体 化 処 理 は1000℃ ×1hrWQし た の ち一 応 液体 窒 素 中

に7hrサ ブ ゼ ロ処 理 した.

お もに ビ ッカ ース 硬 さ測定 に よつ て 熱処 理 の効 果 を調

べ,マ ル テ ンサ イ トマ トリク スの 格 子 定数 測 定,レ プ リ

カお よ び薄 膜 試 料 の 電顕 観察 お よび 電子 回折,電 気 抵抗

測 定 な どを行 な つ て硬 化 機 構 を 調 べ たが,こ れ らの方 法

は す で に報 告7)~10)し た方 法 と同 じで あ る.ま た残 留 オ

ー ス テ ナ イ トの測 定 をX線 デ ィフ ラク トメ ー タで行 な つ

たが,オ ース テ ナ イ ト(γ)の111回 折 線,マ ル テ ン サ

イ ト(α')の110回 折 線(CrKα 線 使 用)の ピー クにつ

い てpoint by point法 で 測定 した.カ ー ボン マル テ ン

サ イ トの 場 合 と異 なつ て立 方 晶 マル テ ンサ イ トで あ る本

合 金 で は,こ の ふ た つ の ピー クは は つ き り と分 離 して お

り,最 大強 度 の ピ ー クを利 用 す る こ とが で きた.引 張試

験 は イ ンス トロン型 万 能 試 験 機 を 用 い,歪 速 度 約6×10-4

sec-1で 引 張 つ た.試 験 片 の 寸 法 は平 行 部 の 直 径4mm

φ,平 行 部 の長 さ28mmで あ っ た.

3.  実 験 結 果 と考 察

3.1  組成 と熱処理の影響

試料S0~S4を450℃ で恒温時効 した ときの,時効

時 間による常温硬 さの変化 をFig.1に 示 した.Fe-10%

Ni合 金にSiを3%ま で添加 した場合,固 溶硬化は著

しいが時効硬化 はごくわずかで,Ni量 を18%に 増加

す ると時効硬化 は著 しくなつた.し たがつて以後 の研究

は15%以 上のNiを 含む ものについて行なつた.

Fig.2はFe-18%Ni-3%Si合 金を400,450,500℃

で恒温時効 した ときの硬 さの変化であ る.時 効温度に よ

つて到達硬 さに著 しい差が あ り,400℃ における硬 さ増

加が約130VHNで あるの に対 し,500℃ では50VHN

に過 ぎなかつた.し か し,こ れ らの温度で硬度 曲線 はす

べて同 じ経過 をたどつていた.す なわ ち最初数分 間の時

効によつて全硬化量の50~70%に 相当す る急速 な硬化

があ り,つ いで しば らくゆるやかな上昇をみせ たの ち,

第2段 の急速 な硬化がみ られ る.Fe-18%Ni-3%Si合 金

において この2段 階の硬化は500℃ 以 下 で み られた

Fig. 1. Effect of Ni and Si content on aged hard-

ness of Fe-Ni-Si alloy as a function of

aging time.

Fig. 2. The changes in hardness of Fe-18%Ni-3%

Si alloy after aged at 400•Ž, 450•Ž and

500•Ž as afunction of aging time.

(Fig.3).こ の2段 に分 かれ た硬化現 象は等時時効硬度

曲線(Fig.4)に も影響 して,時 効時 間が3hrの 場合

375℃ と450℃ を中心 としたふたつの ピークが見られ

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Page 3: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

マル テ ンサ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 の 析 出硬 化 に 関 す る研 究 1 1 8 5

Fig. 3. Effect of aging temperature on hardness of

Fe-18%Ni-3%Si alloy as a function of

aging time.

Fig. 4. The change in hardness and austenite

content of Fe-18%Ni-3%Si alloy as a

function of aging temperature.

た.高 温の ピークの硬 さが低いのは時効時間が短いのと

時効温度が高 くなると到達硬 さが急速に低下す るか らで

あろう.500℃ 付近か らの急速な軟化 は γの再形成(re-

version)も 関係 してい る.3hr時 効後室温 に水冷 した

試料に存在す る γ量 をX線 法 で測定 したが,Fig.4に 示

され るように500℃ 付 近か ら現われ,600℃ で最高の

約10%を 示 したが,650℃ ではほ とん ど存在 しな くな

つた.硬 さもいつたん約300VHNと 下がつたの ち,ほ

ぼ溶体化処理状態にまで戻つた.時 効中生 じた γが増加

するに従い,γ 中のオーステナイ ト安定化元 素濃度が減

少するが,は じめの うちはそのMs温 度を室温以上 にあ

げるにいたらない.し か し,つ いには多量に生 じた γが

Fig. 5. The changes in tensile properties of Fe-18

%Ni-3%Si alloy as a function of agingtemperature.

Fig. 6. The stress-strain curves of Fe-18%Ni-3%

Si alloy aged at various temperatures for

3hr.

化学的に均一 にな り,γ 安定化元 素の濃度が 平均成 分に

近づ くのでMs温 度が上が り,残 留 γはつい には減少す

るのであ ろう.な お,Fe-18%Ni-3%Si合 金を2.5℃/

minの 速度で加熱 した ときの γへの変態 は540~700℃

で生 じ,Ms点 は170℃,Mf点 は100℃ で あつた.

このよ うな2段 階の硬化 に対応す る機械的性 質の変化を

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Page 4: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

1186 鉄 と 鋼  第 57 年 (1971) 第 7 号

Photo. 1. Microstructures of Fe-18%Ni-3%Si alloy

solution treated at 1000•Ž and aged for

(a) 5hr, (b) 100hr at 500•Ž, and (c) 3hr

at 575•Ž.

見 るために引張性質を調べた.

Fig.5は 横軸の各温度 にそれぞれ3hr時 効 した試料

の引張試験結果であ る.引 張強 さは硬 さにほぼ比例 し,

やは りふたつの ピークが生 じた.伸 び,絞 りは強度の変

化が比較的少ないの にしてかな りの変化を示 し,こ とに

第1の ピー クに相 当す る条件で,延 性が低下す るのは当

然であ るが,こ とに絞 りがほ とんど見 られなかつた.第

2の ピー クは さほど 引張強さが 増加 しない せ いもある

が,延 性の低下 は比較的少なかつた.過 時効 で著 しく伸

びが増加 した.Fig.6は それ らの応力-歪 曲線であって,

大 きな変化が認 められ る.た とえば溶体化処理状態の も

の と過時効 した試料はほぼ同 じ引張強 さにもかかわ らず

伸 びが著 しく異 なつたが,局 部伸びには大差 がなく,一

様伸びが異なつてい た.

3.2  組 織

Fe-18%Ni-3%Si合 金を1000℃ 溶体化処理後500

℃ で恒温時効 した ときの,時 効時間による レプ リカ組

織の変化を観察 した.代 表例 をPhoto.1に 示 した.

溶体化処理水冷の試料は直線的な粒界を示 し,透 過電

顕法で観察す るとラス(マ ッシブ)マ ルテンサイ トであ

った.0.025,0.1hr時 効では変化は認 め ること はでき

ず,第2段 の硬化が始 まる直前の1hr時 効試料の組織

では,粒 内は全面的 に腐食 されやす く荒れてお り,粒 界

にはわず かに γ相が生 じていた.硬 化の ピークをわずか

に過 ぎた5hr時 効試料では粒界の γ相 は成長 し,亜 粒

界に も生ず る とともに,粒 内に微細 な析 出物が多数観察

された(Photo.1a).過 時 効の100hr時 効試料(Photo.

1b)で は γが粒界,亜 粒界に 層状 に析出 してお り,粒

内の析出物も成長 した.な おPhoto.1cに 示すよ うにγ

が約10%存 在す る575℃ ×3hr時 効試料では,は っ

き りと層 状に γが析出 してい るが,γ 相 中には析出物は

見 られなかつた.ま た以上の写真 でもわか るようにFe-

Ni-AlやFe-Ni-Be系 で見 られた 粒 界 反応 は観察 され

なかつた.

つ ぎに透過電顕 に よる観察結果を示す,Photo.2は

Fe-18%Ni-3%Si合 金の第1の 硬化段階の組織 で450℃

×0.5hr時 効 した ものであ る.組 織 は溶体化処理状態 と

ほ とん ど変わ らず,典 型的な ラスマルテンサ イ ト組織で

あ る.回 折像 に ついて はあ とで考察 す る.Photo.3は

Fe-18%Ni-3%Si合 金を450℃ ×8hr時 効 した試料で

第2の 硬化段階 のもの であ る.多 数 の微細 な第2相 が観

察 された.回 折像 にはbcc以 外にかな り多数のはつきり

した斑点が現われ ていたが,bcc以 外の斑 点を用いて暗

視野像を調べたと ころ,析 出物の コン トラス トが反転し

Photo. 2. Transmission electron micrograph of Fe-

18%Ni-3%Si alloy aged for 0.5hr at

450•Ž.

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Page 5: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

マ ル テ ン サ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 の析 出硬 化 に 関 す る研 究 1187

Photo. 3. Transmission electron micrographs of Fe-

18%Ni-3%Si alloy aged for 8hr at 450

•Ž. (a) Bright field, (b) Dark field mi-

crograph.

Photo. 4. Transmission electron micrograph of Fe-

18%Ni-3%Si alloy aged for 8hr at 450

•Ž.

よ りはつ き りと析 出物 が み られ た(Photo.3b).Photo.

4で わ か る よ うに粒 状 の 析 出物 が お もに転 位 上 に析 出 し

て い る.回 折像 よ り読 み とっ た面 間 隔 の1例 をTable 2

に示 した が,既 知 の も の と一 致 しな か つた.

Table 2. d values determined by electron diffraction

of thin foil specimen of Fe-18%Ni-3%Si

alloy aged 8hr at 450•Ž.

Photo. 5. Transmission electron micrograph of Fe-

18%Ni-3%Si alloy aged for 200hr at

450•Ž.

Photo. 6. Electron micrograph of Fe-18%Ni-3%Si

alloy aged for 100hr at 500•Ž.

(Extraction replica)

Photo.5は 同じ試料を450℃ ×200hr時 効 した組 織

で,マ トリクスお よび ラス境 界に多数の析出物がみられ

た.形 状はい くらか角ばつた こめ粒状で あつた.回 折像

にはきわめて多数の斑点が存在 していたが解析で きなか

つた.抽 出レプ リカでも比較的容易 に析出物が抽出で き

たが(Photo.6)回 折線 は既知の相 と一致 しなかつた.

FLOREEN8)も 抽 出レプ リカの電子回折 で480℃ ×72hr時

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Page 6: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

1188 鉄 と 鋼  第 57 年 (1971) 第 7 号

Fig. 7. Changes of hardness, lattice parameter and

electric resistance of Fe-18%Ni-3%Si alloy

as a function of aging time at 450•Ž.

効 したFe-18%Ni-3%Si合 金で 同様 に既知の相 と一致

しない結果を得 ているが,こ れ とも一致せず,今 後 の研

究 課題 として残 され た.

3.3  析出過程

Fig.7はFe-18%Ni-3%Si合 金 を450℃ で恒温時効

した後 の ビッカース硬 さ,電 気抵抗,格 子定 数の時効時

間 による変化 を示 した ものである.す でに述べ たよ うに

初期の数分の時効に よつて全硬化量の約50%硬 化 し,

その後2~20hrに かけて第2の 急速な硬化が見 られた.

電気抵抗は最初約4%増 加 し,つ い で第2段 階の硬化が

始 まる頃か ら次第 に減少 し,100hr付 近でほぼ一定 の値

になつてい る.α 固溶体中において固溶Siの 減少によ

り,bcc格 子の格子定数が増加する ことはすでに確 かめ

られ ている12).マ トリクスの格子定数 の変化は短時間時

効でい くらか縮小 し,つ いで2hr付 近か ら増加 しは じ

め時効硬化の ピークをある程度過 ぎた100hr付 近か ら

ほぼ―定 になつてい る.こ の ようにこの合金系 にお ける

ふたつの硬化段階では対称的 な性質の変化がみられた.

時効 初期にお ける透過電顕像 には特別な変化を認 める

ことはできなかつたが,Photo.7に 示 した ように回折像

には変化が生 じた.Photo.7は110面 が ピー ムに直角

の回折図形であ り,DO3型 規則格子位 置に弱いdiffuse

した斑点が生 じた.FeとSiはSi約5%以 上 でFe3Si

型規則格子を作 ることは よく知られ た事実であ る.し た

がつて,こ の禁制反射 はマ トリクスの規則化 によつて生

ず るのではないか とい う疑問 も一応は考 えなければな ら

ない.す なわち第1段 階の硬化は,マ ト リクスの規則-

Photo. 7. Electron diffraction pattern of Fe-18%Ni-

5%Si alloy aged for 0.1hr at 450•Ž.

Showing several super-lattice spots.

不 規 則 反応 に よ る もの か,析 出 の 前 段階 の ク ラス タ リン

グ に よ るか いず れ か が 考 え られ る.後 者 の 場合 溶 質元素

が 母 格 子 上 に 凝集 して ク ラ ス タ ーを 作 つ た とき に,規 則

化 され た 状態 で存 在 して い るの で あ ろ う.

この 疑 問 の解 決 の一 助 と して,Fe-15%Ni合 金 にSiを

0~6%添 加 した 試料,Siを 約6%に 一 定 に し,Niを

0~6%添 加 した 試料 を 溶製 し,組 織 と硬 化 の関 係 を調

べ た.Table3に 供 試材 の化 学 成 分 を 示 した が,不 純 物

はC 0.002, Co 0.016, Al 0.001, Mn Trace, P 0.005,

S 0.001, Cu 0.001, Σ N0.0026%程 度 で あ つ た.10

mmφ 丸 棒 に圧 延 後,1050℃ ×1hr溶 体 化 処 理 し,水

冷 した の ち475℃ で 恒 温 時 効 した.Fig.8はFe-6%Si

合 金 お よび それ に少 量 のNiを 添 加 した 試料 が規 則 化に

伴 つ て 硬 化 が い く らか で も生 ず るか い な か を 見 た もので

あ るが,硬 化 は ほ とん ど生 じな か つ た.Fig.9はFe-15

%Ni-Si合 金 の475℃ に お け る恒 温 時 効 曲 線 で あ る.

Siが1%ま で は 硬 化 しな い が,1.5%を 超 え る と硬化

が生 じて お り,ま たFe-15%Ni合 金 を 基 準 として見 る

と よ り明 りよ うで あ るが,い ず れ も2段 階 の硬 化 を示 し

て い る.

Table 3. Chemical composition of alloys tested (wt%).

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Page 7: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

マ ル テ ンサ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 の析 出硬 化 に 関 す る研 究 1 1 8 9

Fig. 8. The hardness changes of Fe-6%Si-0•`6%Ni alloys as

a function of aging time at 475•Ž.

同じ試料を475℃ ×500hr時 効 したと きの レプ リカ

写真をPhoto.8に 示 した.亜 境 界などに大き く析 出し

ているのは γ相である.Siが1%ま での試料には析出

相は存在せず,硬 化が生ずる成分範囲 と析出が生ず る成

分範囲と一致 してお り,こ の3元 合金の時効硬化は析出

現象に伴 うもの といえよう.鉄 と強い規則格子 を作 る傾

向のあるM獄,Co,Alな どをFe-Ni2元 系に対 し添

加した場合 に,規則格子を作るよ うにな らず,2相 分離を

保進す る場合があるといわれ てお り13),Siも 同 じく鉄 と

強い規則格子を作 る元素であつて,同 様な関係 にあ るこ

とは十分に考え られ る.さ らにFig.10は,Ni量 がほ

ぼ一定(15~18%)でSi量 が2~6%の い くつかの試

料を450℃ または475℃ で恒温時効 したときの時効時

間による格子定数の変化 を示 した ものである.い ずれ の

試料も前 に述べ たFe-18%Ni-3%Si合 金 と同形であつ

て,研 究した範囲の成分 では合金量 にかかわ らず同一硬

化機構 と考え られ る.

前述のように,第1の 硬化段階においては電気抵抗は

Fig. 9. Effect of Si content on hardness of Fe-15

%Ni-Si alloy as a function of aging time

at 475•Ž.

増加 し,格 子定数はわずかに収縮 した.短 範囲

規則度 の存在時や,規 則化核 の大 きさが伝導電

子 の平均 自由行程 と同程度 にな り,電 子の散乱

に有効 な寄与をおよぼす ときなどで電気抵抗が

増加す る例があ るが,一 般 に規則格子生成 によ

つ て電気抵抗 がか な り減少す ることはよ く知ら

れてい る14).そ して電気抵抗 の増加 は通常GP

ゾーン形成 に際 し観察 されてい る.

このよ うに考えて くると,時 効初期 に得 られ

た規則格子反射はマ トリクスの規則化 によるも

の でな く,析 出過程の変化に伴 うもの と思われ

る.そ こで著者 ら憲o)がすでにFe-Ni-Be合 金 で述べた

と同 じく,母 格子上に溶質元素に富んだ クラス ター(あ

るいは ゾーン)が 形成 され ることによつて硬化 し,ま た

クラス ターが規則 化され てい る ため全 体 として規則 化

Fig. 10. The changes in lattice parameter of various

Fe-15•`18%Ni-Si alloys as a function of

aging time.

Fig. 11. The change in hardness and austenite con-

tent of Fe-18%Ni-3%Si alloy as a func-

tion of aging time (Aged at 500•Ž).

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1190 鉄 と 鋼  第 57 年 (1971) 第 7 号

Photo. 8. Microstructures of Fe-15%Ni-Si alloys aged for 500hr at 475•Ž. (a) 0.005%Si, (b) 0.45%

Si, (c) 0.94%Si, (d) 1.45%Si, (e) 1.99%Si, (f) 2.93%Si.

bccの 回折斑点が得 られた と考え ることが できよう.

格子定数が時効初期 においてやや収縮す ることはFe-

Ni-Be合 金10)においても観察 された.Fig.8に 示 した

よ うにFe-Ni2元 合金 においても焼 もどしに よつて格

子 定数は収縮する傾向が得 られたが,こ れですべ ての収

縮 を説明する ことはで きないよ うである.お そ らくクラ

ス ターにおける規則化 の効 果も幾分かは寄与して いるの

ではなかろ うか.

第2の 硬化段階にお いては電気抵抗 は低下 し,格 子定

数 は膨張 してお り,ま た組織観察において も析出相が認

め られた.微 細 な析 出相がお もに転位上 に析出す ること

によって硬化が生 じた と考 え られ る.電 子回析図形が過

時 効試料 のそれ と異な るので,遷 移析出相 と思われ る.

電気抵抗お よび格子定数の変化か ら,450℃ 時効では

約100hr付 近 でほぼ析出が終了 して過時効状態にはい

っ た こ とを示 した.ま た γ相 が 最 高 硬 さを示 す頃 か ら現

わ れ(Fig.11)軟 化 傾 向 を促 進 し て い る のが 認 め ら れ

た.平 衡析 出相 につ い て は,GREINER15)の600℃ にお

け る3元 状 態 図 に よれ ば 格 子定 数 が約6.13Aで あ る立

方 晶 の え相 と考 え られ る.ま た 岩 間 ら11)は セ ンパ ー ム合

金 に つ い て析 出相 は 格 子定 数6.148Aの 単 純 立 方格 子

σ相(Fe11Ni5Si4)で あ る と述 べ て お り,ほ ぼ 一 致 して

い る.

4.  総 括

以 上 の結 果 を要 約 す る と次 の とお りで あ る.

1)マ ル テ ンサ イ ト系Fe-Ni-Si合 金 は,γ 中で溶 体

化 処 理 した の ち,300~525℃ で 時 効 す る と著 しく硬化

した.そ し て500℃ 以 下 の 温 度 で は2段 時 効 を示 した.

2) Fe-15%Ni-Si合 金 のSi量 を 変 え て 組 織 と 時効

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Page 9: 論 文 マルテンサイト系Fe-Ni-Si合 金の析出硬化に関する研究*

マル テ ソサ イ ト系Fe-Ni-Si合 金の 析 出硬 化 に 関 す る研 究 1 1 9 1

硬化 との関係 を調べた結果,硬 化が生 じた成分範囲 と析

出が認められ た範囲が一致 し,こ の合金系の時効硬化 は

析出現象に伴 うものであつた.

3) 第1段 階の硬化域では電気抵抗の増加 とわずか な

格子定数の収縮が生 じ,ま た薄膜試料の電顕像観察 では

変化は認め られなかつたが,回 折像にはDO3型 の規則

格子反射が存在 した.こ れ よ りこの段階の硬化は,規 則

化 された,溶 質元素に富む クラス ターが母格子上に形成

され るため と考え られ る.

4) 第2段 階の硬化域 では電気抵抗の減少,絡 子定数

の増大が見 られ,電 顕直接観察の結 果こめ粒状の遷移析

出物が,転 位上 に微細 に析出 し,硬 化 し た と考 えら れ

る.

5) 過時効軟化は安定析出相 の析出 と,γ の再形成に

よる.な お,Fe-Ni-Al,Fe-Ni-Be合 金な どで見 られた

粒界反応型析出は認め られなかった.

6) とくに第1段 階の硬化 による延性の低下 は著 しか

つた.最 後 にこの実験の一部を担 当され た金 材技研沼田

英夫技官,東 大大学院和田 仁氏 に厚 く感 謝の意 を表す

る.

文 献

1) R. WASMUHT: Precipitation from Solid Solution

(1959), p.248 [ASM]

2) N.F. MOTT: Iron Age, 171 (1953), June 18,

p.149•`153

3) S. FLOREEN: Trans. Amer. Soc. Metals, 57

(1964), p.39•`46

4) 田 中, 漆 原, 鈴木, 山 本: 日本 金 属学 会 講 演 概 要

1964年10月, p.89

5) 日下, 佐 々木, 荒 木: 鉄 と鋼, 53 (1967) 10, p.

S432

6) 大 田: 鉄 と鋼, 54 (1968) 3, S221

7) 金尾, 青 木: 鉄 と鋼, 51 (1965) 5, p.1097~

1100

8) 金 尾, 青 木, 荒 木: 鉄 と鋼, 52 (1966) 4, p.610

~613

9) 金 尾, 荒 木, 沼 田, 青 木: 鉄 と鋼, 54 (1968) 8,

p.967~977

10) 金 尾, 荒 木, 沼 田, 中 野: 鉄 と鋼, 55 (1969) 1,

p.48~58

11) 岩 間, 武 田: 日本 金 属 学 会 誌, 24 (1960), p.538

~540

12) た とえ ば大 沢, 村 田: 日本 金属 学 会 誌, 4 (1940) 8,

p.228

13) 田 村: 鉄 鋼 材 料 強 度 学, (1969), p.33 [日 刊 工 業

新 聞社]

14) 平 林, 岩 崎: 規 則 格子 と規則-不 規 則 変 態,

(1967), p.78, 79, 121 [日 本 金 属 学 会]

15) E.S. GREINER and E.R. JETTE: Trans. Met.

Soc. AIME, 152 (1943), p.48•`64

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